本部

飽食する槍術士

長男

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/08/25 19:52

掲示板

オープニング

●当然の結論
「なぜ殺すか、だと。食事だからだ。お前たちも牛や鶏を食べるだろう」
 愚神は命乞いをする男を感慨なく見つめていた。彼の足下には男の友人が血を流して倒れていた。
 返事を待つことなく、愚神の槍が男を突き刺した。素早く引き抜き、直ちに失血させる。肉を貫く手応えに愉悦はなく、悲観もなく、彼は淡々と槍についた血を払った。
「じゃあ頂くとするか」
 動かなくなった男のそばに愚神はしゃがみ込んだ。死にゆく獲物が新鮮な内に、愚神は目的の仕事を始めた。

●電柱と快活の密林
 コンクリートジャングルは理想の狩場だ。
 下水、路地裏、高架下、隠れる場所はいくらでもある。面倒が少なさそうな人間は、だいたいにおいて無軌道で、浅はかで、しかも若い命に漲っている。挑発し、目立たない場所へ連れ込み、ライヴスを得て殺す。衣類や金銭をはぎ取れば人間になりすまして束の間の宿を得ることさえできる。繁華街は縄張りであり、非常に効率的な餌場だ。
 最初に殺した人間のことは今でも覚えている。あれは最後まで彼を愚神と気づかず、恐怖に怯えて言ったのだ。食うわけでもなし、殺すことないだろ。愚神はその言い回しが気に入っていた。以来、彼はファストフード店に入る客のような気軽さで殺している。ハンバーガーを食べたことはないが、気分は同じだろう。
「腹が減ったな……何か食いに行くか」
 愚神は立ち上がり、細長いビニール袋を掴んだ。中身は傘でもポスターでもないのだが、今まで怪しまれたことはなかった。
 表通りへ出ると、街の賑やかさに目が眩んだ。愚神は人混みに紛れて夕食を探した。

●すれちがう悪鬼
「愚神のものと思われる連続殺人事件が起きています。現地へ赴いて調査し、それが愚神のものであるなら撃破してください」
 手渡された資料に書かれた土地は有名な繁華街だ。主に路地裏など人目につかない場所で、争った形跡なく深い大きな刺し傷を残して死亡した若者が散発的に発見されている。近頃ではニュースでも話題となりつつある。
「あまりに一方的に殺害されているので、愚神や従魔の犯行である疑いがあるそうです。犯行には長く尖った棒状のものが使われているとのことです、犯人を捜す際の参考にしてください」
 物陰へ連れ出し、杭のようなもので一撃。恐ろしく手際のよい手口で有名だ。目撃情報は一切なく、犯人の特徴はまったく不明だという。
「被害者は若い男性が多く、その、喧嘩の強そうな人ばかりです。金品を盗まれている人もいます。目撃者のいないことから移動力や隠密能力に優れている可能性があります。万が一戦闘になった場合は、なるべく周囲に被害がないようにお願いします」
 繁華街を縄張りに辻斬りしているのだ、戦場は野次馬であふれることになる。一般人を巻き込まないためには工夫が必要だろう。
「調査の方法はお任せしますが……遊びすぎてはダメですよ?」
 職員は釘を刺した。飲食物から贅沢品まで、その街にはなんでもそろっている。刹那的な欲求に完璧な答えをくれるこの街は、事件の相次ぐ今でも賑やかなのだ。エージェントはともに楽しむことは元より、それを守る為に行くのだから。

解説

●目的
 愚神の討伐。

●場所
 大通りに面して屋台や個人店の並ぶ繁華街。路地裏に至る脇道も多く、それぞれの道は複雑に絡み合っている。
 マンホールなど地下への道もあるが、シナリオ開始時の愚神は地上を移動している。

●愚神
 完全な人型の愚神。デクリオ級。
 射程の長い槍状の武器を使用する。命中、回避、魔法防御が高い。
 喧嘩を装い路地裏など人気のない場所へ犠牲者を誘い出して殺害しライヴスを奪う手口を好む。標的は短気で屈強な若い男性が多く、その際に小グループやカップルなどもまとめて被害にあっている。標的が能力者の前例はないが、勝てると判断したら積極的に戦いを挑むだろう。
 ・伸縮突き
  単体物理攻撃。射程は武器に依存。対象にBS:翻弄を与える。
 ・刺突魔術
  単体魔法攻撃。射程は武器に依存。対象にBS:狼狽を与える。
 ・突き返し
  ラウンド中に1回使用できる。
  物理攻撃の回避に成功したとき、攻撃側が自身の武器の射程内にいるなら、その相手に武器による物理攻撃を行う。

リプレイ

●包囲
「しょうゆラーメン2つ。片方トッピング全部乗せね」
 カウンター席しかない露天のラーメン屋台に逢見仙也(aa4472)とディオハルク(aa4472hero001)は腰を下ろした。仙也は注文を終えると繁華街の地図を取り出して広げた。マンホール、高架下、路地裏の入口出口、あらゆる逃げ道に印のついた地図だ。
「あいよ。お兄さんたち、今日は買い物かい?」
 年老いた店主が茹でる麺の香りが鼻をくすぐる。仙也は実際のところ飽きるほど見て覚えた地図から顔を上げた。
「ああ、まあ、そんなとこ。何でもあるね、ここは」
「そうだろう。けど近頃じゃ物騒になっちまった。あんたニュースは見たかい?」
 店主はここ最近街で起こった通り魔事件について話し始めた。長く鋭いもので体を刺して殺害し、まれに現金を奪って姿を消すその手口を。彼とその仲間たちが今日に至るまでとことん調べ上げた一連の話を仙也は黙って聞いていた。
「杭みたいなもんで刺してるのに辻斬りか」
『気にするのは其処か?』
「被害者はちょうどお兄さんたちくらいの歳だっていうじゃないか。あんたたちも気をつけなよ」
「どーも」
 仙也は差し出された丼を受け取り、筒に詰められた割り箸へ手を伸ばした。仲間たちは囮だか誘い込みだかの作戦を実行しているころだろうか? 彼らは時が来るまで待つつもりであった。戦闘が始まるまでにラーメン一杯くらい食べる時間はあるだろう。

「あー、そこのお兄さんちょっと持ち物見せてくれる-?」
 警察官を伴い職務質問をする鴉守 暁(aa0306)は、その男性が携えた筒の中身が単なるポスターと知ると彼を解放した。彼女は街中を歩き回っては、HOPEに協力し今やあちこちで見張っている警察に声をかけ、ときにこうして彼らの仕事に混ざって検閲した。
「やあ、協力どうも。お兄さん若いね、新人さん?」
 その警官は十代後半くらいに思われた。容姿は彼より幼くとも、暁にしてみればはるかに子どもだ。
「はい、今年で二年目になります」
「そうかい。今日の話はどこまで聞いたかな? 調査エリアを設定、周辺地域を警戒。動きがあれば一般市民を通りから逃す事。閃光と銃声、悲鳴をよく聞くべし。慌てるなよー君達も市民を守る立役者なのだー」
「は。本官はこれが業務でありますので」
 暁は彼の実直な返答を気に入り、頬を緩めて笑みを作った。
「そう、お仕事。仕事をこなせばお金が貰える。お金があれば飯が食える。私ら傭兵。食べる為に愚神を狩る者なれば」
 警官に背を向けて暁は歩き出した。幻想蝶の中からキャス・ライジングサン(aa0306hero001)が話しかける。
『アカツキ、お金持ちじゃナカッタデスカ?』
「お金はいくらあってもいいものなのだよー。それに――自分で働いたお金で飯が食えるってとても気分がいいと思わない?」
『他人のカネでメシ食べるのもオイシイデスネー!』
「それなーわかるー」
 高級腕時計の店を通りかかり、暁は横目に時刻を見た。買ってすぐ身につけられるようにと腕時計はみな同じ時間を示していた。
 潜伏するべく作戦の位置へ向かいながら、仲間たちの作戦を思い出し、暁はおかしさにほくそ笑んだ。諸君、うまく化けろよ。

●演目
 あらゆる若者と富裕層の需要に応える脂ぎったネオン街において、気弱でまじめそうな童顔の少年は場違いのようにすら見えた。黒金 蛍丸(aa2951)が店の売り子や行きずりの派手な少女たちにからかわれるのを後ろで見ていた子龍(aa2951hero002)は笑った。
「さ、さーて、折角の観光だ、最新のカメラ回して楽しもうじゃないか弟よ」
『ダイコン過ぎだろ、兄者』
 阪須賀 槇(aa4862)の見え透いた自作自演に阪須賀 誄(aa4862hero001)は小声で指摘した。誄は口元を隠しながら、兄と同じ自分の帽子をさらに目深に被った。
 それが仲間への合図であった。
 黒金ができる限りさりげなく槇にぶつかり、槇はカメラを地面に落とした。
「イテッ……って、あぁああああ! 10万のカメラがぁああ!」
『……これはこれは。あーあレンズにヒビ入ったよ』
 情けない悲鳴は群衆の注目を集めた。蛍丸はおろおろと首を振るふりをして、野次馬の中に度を超えて関心を寄せている人物がいないか探し出す。
「ど、どど、どうしてくれんだ! モテそうな顔しやがって!」
『いやそれ関係な』
「弁・償! して貰おうかぁぁあ!?」
「そ、そんな! そんなお金持っていません!」
 ぷるぷる震える蛍丸へ額を寄せる槇の顔にぬっと影がかかった。蛍丸は槇の肩越しに、危機を察知した顔で(いい演技だ)一足先に退避している誄の姿が見えた。
「おう、うちのに何してくれてんだ?」
「ぁんだァんだぁ~? どぉ~したよショーネン~?」
「あー? おめー何ガン飛ばしたよ? あぁ? やんのか? あ?」
 蛍丸の後ろから、ミーシャ(aa1690hero001)を連れた久兼 征人(aa1690)と、人造天使壱拾壱号(aa5095hero001)を伴う火蛾魅 塵(aa5095)、そして予め白虎丸(aa0123hero001)と共鳴を果たした虎噛 千颯(aa0123)が現れた。彼らは柄の悪い服装に身を包み、恐ろしい目つきと大股の歩調で槇を威嚇した。
「弁償……だったかァ? カネの話なら俺ちゃんが聞こぉかぁ? ん~?」
 低音の凄みと共に塵が胸座を掴むと槇はかなり本気で――演技でなく――怯えた。征人は生唾を飲みそうになるのをこらえた。みんな迫真の演技だな……演技だよな?
「ひ、ひぇ……あの……ささ、サーセンでしたぁあ!」
「オイコラウルッセーゾコラー! アーン?」
 彼らは一斉に振り返った。ギャング崩れのごろつき集団が食物の屋台からぞろぞろ現れた。彼らは縄張りでやかましくする槇たちに短絡的な怒りを募らせたようだ。
「テメェ……後悔すんじゃねェぞ? オイ……」
「こっちのセリフだぜ。調子に乗って騒ぎやがって、何様のつもりだよ、エェッ?」
「上等だ……ッつワケでそっちの裏手、行こうぜ、オイ」
「あ? 逃げてんなよ、やるならココだろ、アァン?」
 誘導に応じる気配がない。塵は舌打ちし、ごろつきの髪をわしづかみにして引き千切った。染めた金髪がひと束ほど禿げ、それを宣戦布告と受け取ったごろつきどもは彼らに殴りかかろうとした。一人はその前に征人に手首を捻られ、残りは千颯と塵に適当な当て身で返り討ちにあった。
「雑魚がシャシャリ出てんじゃねーよ」
 腹を押さえてうずくまるごろつきに顔を近づけて千颯は警告した。征人が拘束する手を離すと、残ったごろつきは仲間を捨てて逃げ出した。
「ハァ、くだらねェ邪魔が入りやがった。よォ兄ちゃん、さっきの続き……ん?」
 ごろつきどもをしばき倒すのを見届けた槇は、塵が向き直ると一目散に逃げた。
「オイオイオイ、そこで逃げちまったら話が続かないじゃんかよォ!」
 演技を保ちつつ塵は少し本気で笑った。ざわめく野次馬へ彼らが睨みを利かせる中、何者かが千颯の後ろから声をかけた。
「なあ、あんたら。喧嘩が強そうじゃないか。ちょっと相手してくれよ」
 千颯は振り向き、その場にいた全員がその男に注目した。ぼろぼろの上着に身を包み、ビニール袋でくるまれた身の丈以上の棒状の物体を片手に背負ったその男を。
「なんだおめーはぁ!」
 千颯は咆哮し、不注意な男の手首へ掴みかかった。男は半身になってこれをかわし、半歩退いて両手を挙げた。
「そっちの裏手まで行ってやるよ。だから一発殴らせてくれよな」

●殲滅
 喧噪の熱や照明から隔絶された路地裏も空気は粘ついていた。阪須賀兄弟は決められた場所から見えづらく離れすぎない程度の場所で息を潜めていた。
『さて兄者、用意は良いか?』
「うぅぅ、チンピラ怖い、怖い……」
『……OK、代われ兄者』
 誄は槇をなだめすかすのに少々の時間を要した。彼らは弟を主体に共鳴し、誄はイメージプロジェクターで闇に紛れる黒いスーツを纏った。
『時に塵さん黒金さん。一眼二足三胆四力って剣道の言葉。俺、あれ凄い気に入ってまして。だって人間、目を潰して足を挫けばほぼ戦闘不能ですし』
 膝立ちになり、誄はライフルの照準を覗いた。10m以内の距離に、一人の怪しい男に背後から睨みつける塵の姿が見える。あれが愚神とわかったら戦闘開始だ。
『さて、バニシュはいつでも。完璧に、合わせてみせます』
 トリガーの腹を指でなぞって、誄はその瞬間に向けて待ち構えた。

 十中八九こいつだ。誰もがそう思った。しかし確認が必要だ。目立ちたがりの模倣犯だったとしたら剣を抜くわけにはいかない。
 まず千颯や征人らが先頭になって目的の路地裏へ案内し、塵は油断なく男の背後からついて行った。蛍丸は騒ぎから難を逃れたふりをして他の仲間へ連絡し、今はどこかの物陰に隠れているはずだ。
「よし、このへんでいいだろう」
 千颯が足を止めた。男は辺りを見回し、人気がなく殺風景で閉鎖的な条件に満足したようだ。
「そうだな、いい感じだ。悪くない」
「クク、てめー俺等にケンカ売って五体満足で帰れると思ってんじゃねーぜ? 指の一本、いや二本……」
 塵はさりげなく相手の手首を取ろうとした。背中に目があるかのように、男は後ろ手に棒を振り回し正確に塵の左胸を突いた。金属音が響き、隠密を破って塵をかばった蛍丸が攻撃を防いだ長大な槍を構え直した。彼はすでに共鳴していた。
「ほう。少年、いい動きだな。よく鍛えている。槍もいい」
 棒を包むビニール袋が破られた。暗い色合いでわかりにくいが、それは確かに刃のついた槍、杭などよりはるかに鮮明で強烈な武器であった。
 蛍丸は唇を引き締めた。言葉以上に彼はその発言に自分が喜びや誇りを見出さなかったことに驚いた。褒められたのでも煽られたのでもなく、それが淡々とした評価であるためか。
「クク、噂通りだぜ。裏通りでブスり、だってよトオイ~」
 塵にトオイと呼ばれたその英雄は震えていた。塵は鼻で笑った。
「オイオイ、震えてんじゃねーゼェ、今回狙われんのぁテメーじゃね~よ。屈強な男を狙う、たぁちったぁホネがあるじゃねーか。ま……だがヒトぶっ殺してんだ。クク……生皮剥いで殺さなきゃなぁ?トオイよぉ~……クク」
「おしゃべりなやつだな」
 男は槍をくるむビニールを毟った。それは持ち手までも光を食らう漆黒の槍だ。
「皮まで剥いだ覚えはないぞ?」
 突然、男の背後から閃光が叩き付けた。千颯のバニッシュメントだ。直撃にもかかわらず男はあまり堪えていないようであった。
 そして千颯は魔法の手応えに男の本性を見た。
『やはり愚神にござったか! 槍術使いならば俺の方が相性がいいでござる!』
 共鳴の主導権が切り替わり、千颯はみるみるうちに目つきの鋭い銀髪で壮年の男性に変わった。今や白虎丸となった彼も幻想蝶から槍を取り出し、その切っ先を突きつけていた。
『同じ槍術使いとしてお相手仕るでござる! いざ尋常に勝負でござる!』
 正体が暴かれたことで、征人と塵も即座に共鳴を果たした。愚神の男は英雄に囲まれてなお特に感慨のない口調で白虎丸に話しかけた。
「もう一人の、あー、歳経た槍使いよ。誤解を招くのも気味が悪いから先に断っておく」
 塵がうずうずと攻撃したがっているのを白虎丸の後ろで征人がかすかな首の動きで制した。愚神は話し続けた。
「これは狩りで、食事だ。お前たちが稲を摘み、魚を捕まえて食べるのと同じだ。求道とか戦功とか、そういう大儀なものじゃない。食わないと死ぬのはお互い様だろう。それがたまたま人間だっただけだ。つまり」
 銃声が会話を遮った。誄のものではない。愚神は煩わしそうに外套でこれを遮り、攻撃された方向へ槍を突くと、魔術的な半透明の刃が飛んだ。白虎丸が弾道に被らぬよう低い姿勢からこれに立ち塞がり、身代わりとなって攻撃を防いだ。
「貴様の事情など知ったことではない。共存の余地は皆無なのだから」
 姿を現したのは黛 香月(aa0790)と清姫(0790hero002)だ。彼女たちは蛍丸に連絡を受けたときから、ずっとここに身を隠して待っていたのだ。二人は美しい女性だったが、豪奢な打掛のように憤怒を纏っていた。
「貴様は人間を生きる糧にしていると言ったな? ならば私は貴様らのおかげでアイデンティティが蝕まれている。私が私であるために、何としても貴様らには消えてもらわねばならん!」
『貴公らは己が永遠の強者たり得ると思っておるな? 悲しいかなこの世には永遠の弱者も居らねば、ましてや永遠の強者も居らん。その有様では一生生存競争になど勝てぬぞ!』
 香月と清姫が気を吐いても愚神は肩をすくめるばかり。これに感情を差し向けるのは湖に火を放つようなものであった。
「まあ、好きにするといい。食われるのが嫌なら抵抗するというのもまた権利だ。命がけの狩りなどしたことはなかったが、たまには自慢できるものを食うとしよう」
 愚神の身勝手に香月の怒りは頂点に達した。彼女はその激情が静かに猛る面構えで清姫と共鳴し、小銃の代わりに刀を手に取った。
「いいだろう、死にたがり屋はさっさと引導を渡すまでだ」
 彼らは三方向から壁を背にした愚神に迫った。敵はすぐに襲いかかっては来なかった、慎重に出方を窺い反撃や受け流しをもって優位を取るつもりのようだ。
 それは彼らの作戦の前には悠長であった。
 彼らと愚神の間にフラッシュバンが立て続けに放り込まれ、世界のすべては光になった。最初に音が取り戻され、異なる方向から槇と暁の銃弾が降り注いだ。
「まず一眼ってか。じゃあ俺ちゃん二足、だな」
 塵のリーサルダーク。呪術が命中するも気絶には至らない。敵の反撃より香月の攻撃が速く、カオティックソウルとエクストラパージによる剣の嵐が愚神の足を狙う。愚神は脛に傷を負い、返し手に放たれた槍を白虎丸がかばった。
 攻防のさなか、敵のおおよその攻撃範囲が知れると、征人は槍の当たらない距離へ下がった。背後で話し声がする。数人の一般人が路地裏へカメラのレンズを向けていた。
「これから起こることは見ない方がいい。まだ死にたくないだろ?」
 征人は真剣な睨みで一般人を遠ざけ、それらが周囲を固める警察官に保護されるのを見届けた。征人は再び戦場を見据え、積極的な防御で傷を負いがちな白虎丸や蛍丸にケアレイをかけた。足も手元も達者な相手だが、一撃の威力はそう高くない。彼らは着実に愚神を追い詰めていた。
「テメーは殺すぜ。テメーから……こいつを殺してくれっつー怨念が聞こえんだよナァ?」
 ブルームフレアが愚神のいた道路を焼き、愚神は驚くべき敏捷性で火炎から身をかわした。足下はだいぶ傷ついていたが、槍の取り回しと、急所をずらす足捌きの技術によって、重要な筋肉の腱はまだ生きていた。
「やれやれ、誰も彼も信心深いことだ。感傷というのか、そういう人間的な気持ちはよくわからん」
 構えを正して愚神は戦士たちの顔を順に目でなぞった。順番に……5人分。
「悪く思うなよ」
 愚神は後ずさりし、彼らに背を向けた。走り出してすぐ、無数の斬撃が飛んできて愚神は押し返された。
「てめぇのせいでスープが飲みきれなかったじゃねぇか。食い足りねぇ、さっさと終わらせるぞ」
 路地の出口で仙也が鞘に剣を収めていた。すかさず蛍丸が退路に立ち塞がり、ライヴスブローでたたみかけ、愚神を押し戻した。
「お前は逃がさない。邪道は断ちます」
 突き返す槍を蛍丸の盾が受け流す。愚神が前のめりによろけた。完全な後方から脚をめがけて放たれた銃弾がアキレス腱を挫いた。暁の歓声が聞こえ、誄の得意げな顔が浮かぶようであった。愚神は槍を支えに器用に立っていたが、振り返るころには最後の攻撃が成されていた。
「……三胆、行くぜ……死面蝶」
 塵が唱えた幻影蝶が愚神めがけて羽ばたいた。苦悶に悶える人間の顔が叫ぶ死の翼が愚神に取りつき、それは嘆くような音で燃えた。
「死ぬがよい。覚悟はできているな!」
 香月の刀が前からも執拗に脚を切り裂き、愚神は仰向けに倒れた。横ばいになった腹の上を仙也の刃が遠くから通り過ぎ、愚神の血が、赤い血が撒き散らされた。

●閉幕
「はぁ……参ったね。負けたぜ」
 大の字に寝転がって愚神は呟いた。それはもはや戦える状態になく、反撃する気力もなかった。
「どーよ! 自分が殺してきた奴らに食われる気分はよォ!?」
 上から覗き込む塵は歯を見せて笑った。仲間たちも辺りに集合し、武器を握って緊張感を保ったまま愚神と相対していた。
「どうもこうもない。狩れると思った相手を見誤った。戦うべきでない戦いに挑んだ。つまり、当たり前に負けて、死ぬ。それだけだ。思うところはない」
 愚神は目の動きだけで塵を、香月を、白虎丸を、蛍丸を見た。
「しかしお前たちは、憎んだり恨んだり、誇りかけてみたり勇気出してみたり、忙しいことだな」
「何とでも言え。この世に愚神ある限り、私は貴様らを許さぬ」
「そう、そこだよ。さっきも言ったが……生きる為に食い、食うために戦う。理由なんてそれでいいだろう。食われるほうは生き残る為に必死で戦うだろうが、どうもお前たちはそれだけじゃない。違うか?」
 愚神は血の咳を吐いた。
「教えてくれ……食うでも生きるでもなく戦う……どんな気分だ?」
 その問いに答えるものはいなかった。愚神の胸に生々しい穴が空き、それは苦悶に目を見開いて息をしなくなった。
「はいはい、おしゃべりは終わり。仕事はまだ残ってるよー?」
 暁の銃口から煙が上がっていた。彼らはこれから警察とHOPEに事後報告し、後始末を委ねることになるだろう。
「オレはただ戦うってのがいいなー。哲学だの信念はメンド臭い。シンプルイズベスト」
『トッピング山盛り頼むやつが言うな』
 戦いを終えた彼らは共鳴を解いた。仙也はもう次のラーメンのことを考え始めていた。
「なあなあ、演技する俺ちゃんどうだった? ワイルド系俺ちゃんだぜ!」
『うむ、全く似合わないでござるな』
「なになに~普段の俺ちゃんの方が格好良いって~もー白虎ちゃんは素直なんだから~」
『そんな事は一言も言っていないでござる。その格好で話すと普段に輪をかけて間抜けに見えるでござるよ』
「え? 何? そのマジトーン……ちょっとへこむんだけど……」
 談笑する千颯と白虎丸は、演技していたときとはまったく別人だ。本来の彼のようにお茶目な青年も、演技中の彼のような血気盛んの若者も、これからは命の心配をせずに街へ戻ってくるはずだ。
「さてー報告書作りにもう一仕事しますか」
『ジャンクフードでも買いに行くデース』
 路地裏の壁が点滅する赤い光に照らされている。暁の報告を受けた警察らが早くも到着したのだ。最後の仕事を終えるべく暁は照明の下へ歩いた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123

重体一覧

参加者

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 反抗する音色
    清姫aa0790hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690
    人間|25才|男性|回避
  • 癒すための手
    ミーシャaa1690hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 美味刺身
    子龍aa2951hero002
    英雄|35才|男性|ブレ
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • 悪性敵性者
    火蛾魅 塵aa5095
    人間|22才|男性|命中
  • 怨嗟連ねる失楽天使
    人造天使壱拾壱号aa5095hero001
    英雄|11才|?|ソフィ
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