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喫茶店でアルバイト
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いらっしゃいませ~【相談卓】
最終発言2017/08/03 22:13:39 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/08/04 07:30:10
オープニング
商店街にある喫茶店の扉にアルバイト募集中の張り紙がされていた。
店の入り口には喫茶『ノワール』と書かれており、見た目は昔ながらの古い喫茶店だ。
コーヒーの香りが立ち込める店内にはカウンター席とテーブル席があり、カウンターから見える位置には古ぼけたテレビが置いてある。
店主が趣味で楽器を初めようと思って買ったギターは今や使われず単なる店の飾りとして扱われており埃を被っていた。
普段は店主一人で店を回していたが、その店主が事故で脚を怪我した為に急遽バイトを雇うことになったのだった。
「仕事内容はそう難しくないさ。コーヒー出したり簡単な料理するだけだ。ああ、料理が得意なら新しいメニューを増やしたって構わないぞ」
そう語るのはあまり愛想が良いとは言えない店主の藤堂 拓磨だ。
普段からこの店はあまり盛況とは言えず、来るのは近所に住む常連や、静かな店内で勉強をする学生が大半であった。
メニューはあまり多くなく、コーヒーやジュース、お茶等の飲み物以外はカレーやオムライスにハンバーグ、デザートにパフェとケーキくらいしかない。
「分からないことがあれば教えるから気軽にやってくれりゃいいさ」
店内での簡単な面接を終えると、怪我した脚を引きずりながら二階の事務所へと戻って行く拓磨。
数日後、若いアルバイトを雇ったことが近所で話題になり客足が急に増えることをこの時の彼はまだ知る由もなかった。
解説
●目的
アルバイトとして働くor客として来店する。
●人物
藤堂 拓磨
喫茶『ノワール』の店主で年齢は30過ぎの一般人。
得意料理はカレー。
現在は事故で右腕を負傷している為、指示を出す以外のことは出来ない。
●補足
アルバイトとして働く場合の服装は黒いエプロン姿となります。
また新メニューを作る場合、あまり高すぎる高級食材の使用は認められません。
あくまで安くて美味しいがモットーです。
ドリンクメニューも自由に増やせますがアルコールの提供は出来ません。
お客として来店する場合はたまたま通りかかったや、友人がアルバイトとして働いているから様子を見に来た等、理由は問いません。
報酬はアルバイトとして参加した場合少額発生しますがお客として来店した場合は発生しません。
また常識の範囲内の飲食であれば金額がマイナスになることはありません。
リプレイ
●喫茶店で働こう
喫茶ノワールの前を偶然通り過ぎた皆月 若葉(aa0778)と英雄のピピ・ストレッロ(aa0778hero002)の二人、真っ先にアルバイト募集の張り紙に興味を持ったのはピピの方だった。
「ボクらもお手伝いしようよ!」
若葉は手帳を開きスケジュールを確認したが残念ながら予定はしばらく埋まっていた。
「うーん、その日は用事があるし難しいかな」
「そっか……分かった! じゃあ、ボク一人で行ってくるね!」
それじゃかえって迷惑になるのではと言いかけたが無邪気なピピの笑顔がそれをさせなかった。
かといってそのまま行かせるのも不安だった若葉は友人に連絡を取りピピの面倒を見てもらうことにしたのだった。
「……って事で、悪いけどピピの面倒お願いできないかな?」
若葉から連絡を受けた荒木 拓海(aa1049)と英雄のメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は若葉の頼みを二つ返事で承諾した。
「ああ、そういうことなら任せてくれ。若葉にお仕事してるよーって見せるようにお兄ちゃん達と頑張ろうな」
「よろしくね。ピピちゃん」
「うん! 一緒にがんばるー♪」
これなら若葉も一安心、早速面接を受けたピピと拓海とメリッサの三人は無事面接に合格したのだった。
「バイト? お前がか? 熱でもあるんじゃねぇか?」
ヴィーヴィル(aa4895)は英雄のカルディア(aa4895hero001)の口から出てきた思わぬ単語に驚いていた。
「平熱です。喫茶店のバイト募集がありましたので社会勉強にもなり、何らか得られるモノが在りましたらばと思いまして」
「然しバイトか。接客は向いてないんじゃねーかと思うんだが」
ヴィーヴィルの言葉にカルディアはしばし沈黙していたが決心は変わらないようだった。
「……確かにそうですね……まあ、何とかしますし、なるでしょう。そして接客で言えば、私よりマスターの方が問題がありそうです」
「お前よりはマシな気がするが、ま、どんぐりの背比べってトコかねェ」
その後ヴィーヴィルを説得(?)したカルディアも喫茶ノワールで働くことになった。
「アンジェリカはんに社会勉強してもらおう思うて応募させてもらいました。よろしゅうお願いしますえ」
「ボクが来たからには売り上げ倍増間違いなしだよ!」
アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)と英雄の八十島 文菜(aa0121hero002)もアルバイトをする為に面接を受けていた。
「その自信はどっから来るんだい嬢ちゃん」
「まぁ仕事はしっかりやるから安心してよ!」
無い胸を反らして自信満々のアンジェリカと礼儀正しくお辞儀をしている文菜の二人は実に対照的だ。
「ま、その嬢ちゃんの面倒はあんたに任せるよ」
「それってつまり」
「ああ、合格だ」
喜ぶアンジェリカと文菜に藤堂は早速翌日から来てくれと告げるのだった。
「たまには働いてみるのも良いものよ」
「マァ……いいか」
英雄の碑鏡御前(aa4684hero001)に引っ張られる形ではあるものの、長田・E・勇太(aa4684)も喫茶店でのバイトには興味があるのか早速店内へと入って行く。
「悪くない雰囲気じゃのう」
「なかなかに古いネ」
「古くて悪かったな」
松葉杖をつきながら店の奥の事務所から出てきた藤堂に御前と勇太は早速自己紹介をし始めた。
「我は碑鏡御前、親しい者は御前と呼ぶのじゃ」
「ミーは長田・E・勇太、この店で働きに来たヨ」
「つまりはバイト希望か……けどあんたら接客なんて出来るのか?」
「俺らにゃCheap sweetsもいいトコだナ」
「然り。家人の真似事なぞ、見慣れておる。頭を垂れ、注文を聞き、無礼の無き仕草にて注文を客に渡す。楽じゃの」
自信満々の二人に対して藤堂の表情は少し不安そうだった。
「そうさ。ヒカガミ。俺らが一端のサーバントだってことを証明してやロウゼ?」
「主人よ。まぁ見ておれ。我らが存分にもてなしてやろうぞ。其方は茶を入れることに専念するとよいぞ」
「茶じゃなくて珈琲なんだけどよ。まあいいか、人手は多い方がいい」
こうして勇太と御前の二人もバイトとして働くことが決まったのだった。
●新メニューを考えよう
最終的にアルバイトに採用されたのは能力者と英雄合わせて十二名になった。
「えーそれじゃ皆宜しく頼む。シフトは時間で交代制にするから頑張って働いてくれ。とりあえず今日一日店の方は休みにしとくからレシピとかは各自で確認しといてくれ」
そう言って藤堂は全員に制服のエプロンを配り始めた。
「私は料理するからキャスは接客な。服の露出は控えめでよろ」
「カシコマリーマスター!」
鴉守 暁(aa0306)はキャス・ライジングサン(aa0306hero001)にそう指示を出すとメニューのアレンジを考え始めた。
「まずは藤堂氏のレシピをアレンジしてみようか」
「店長はんはカレーがお得意やそうどすな。そんならその味を活かして、タンドリーチキンをメニューに加えるのはどうどすやろ?」
文菜も料理が得意らしく色々と意見を出し始めた。
「オレも考えてきたぜ」
レイ(aa0632)の英雄であるカール シェーンハイド(aa0632hero001)は自作メニューのレシピを書いたメモを取り出した。
夏野菜のキッシュはドライトマトとベーコン、法蓮草をメインに、更に色々な夏野菜を使用した一品で、ドリンクメニューにも新しく自作のミント液を様々な飲み物で割った爽やかなジュースを考えていた。
「ボクはデザート。ボクの出身地のクレモナにトッローネってお菓子があるんだ♪」
デザートメニューが少ないと思っていたのはアンジェリカだけではなかったようで。
「夏に食べたいもの、んー……あ! この前お祭りで食べたかき氷おいしかったよ! あとね、友達がね……えと、凍った果物をスル(?)と美味しいって言ってた!」
ピピの意見を元に拓海が新メニューを考え始めた。
「凍った果物を摩り下ろして、冷果ソース&ヨーグルト+アイス乗せカキ氷って感じでどうかな」
「うわぁ、アイスにかき氷……全部食べられるの? タクミすごーい!!」
提案したピピも満足そうだ。
「後は皆の案を纏めてお品書きとポップも作らないとだね」
拓海は簡素なメニューの表記も変えようと考えた案を書き出していく。
ピピはその間にクレヨンでカラフルな料理の絵を描き始めた。
既に作りたい物が決まっているアンジェリカは一足先に材料を用意し試作品を作り始めた。
「材料は蜂蜜、砂糖、水飴、水、卵白。それにアーモンドなんかのナッツ類を入れる事が多いね」
手際良く試作品を完成させるとそれを店主である藤堂に見てもらうことにしたのだった。
「そんなに高い材料は無い筈だけど、割と作るのに手間がかかるんだよね。ヌガーの一種だけどそれ程固くないから食べやすいと思うよ」
「味は悪くないな。作り方を知ってるのが嬢ちゃんだけってのと手間がかかるのがネックだが……まあ一日の個数を限定すればそこは問題ねえだろう」
「じゃあ新メニューに入れても良い?」
「ああ、構わねえよ」
その言葉を聞いたアンジェリカは張り切ってポップを作り始めた。
そしてそれを皮切りに藤堂の元に次々と試作品の料理が持ち込まれ始めたのだった。
「あー……全部見てやるからちょっと待ってろ」
そんな中、既存メニューのアレンジに取り組んでいた暁は試作品の味見をしていた。
「カレーにはおろしニンニクと珈琲牛乳入れてみるかー。オムライスのケチャップは自作して、オムライスができるならピラフもできるよねー」
「珈琲は店のを使いな。俺も普段からそうしてる」
「なるほどなー」
暁は早速試作したカレーとオムライスとエビピラフをキャスに試食させてみた。
「これオイシーネーマスター!」
キャスの反応を見て味見をした藤堂はアレンジメニューと新作のエビピラフもメニューに加えることを了承したのだった。
作業の途中で拓海は藤堂に声をかけた。
「店長、拓磨さんと呼ばせて貰って良いですか?」
「どうした急に、まあ別に構わねえが」
「珈琲の淹れ方、教えて貰えませんか」
藤堂は拓海にネルドリップでの珈琲の淹れ方を教えることにした。
「ネルは一度お湯に通してだな……ああ、粉は中挽きだ」
拓海は藤堂の指示に従い珈琲を淹れる練習を繰り返し行った。
「ふむ……良いんじゃねえか」
そして藤堂から合格点を貰う程珈琲の淹れ方が上達したのだった
お品書き作成の方も順調でピピが描いた絵をメリッサがパソコンに取り込みレイアウト作業を始めていた。
「ピピちゃんの描いてくれたの美味しそうよ」
手書きの料理名と絵で親しみやすいというのがテーマのようだ。
「リサが作ったメニューかわいいね♪」
完成したお品書きの出来栄えに絵を担当したピピも満足そうだ。
その後印刷したお品書きはメリッサがラミネート加工を施し各席に一つずつ配置した。
拓海は手作りの看板に完成したお品書きとポップを貼り付け店外に小物と一緒に飾っていく。
百均で買った蔦も拓海の手にかかればお洒落な飾りに早変わりだ。
店の前を偶然通りがかった人への宣伝も忘れない。
「おはようございます♪ 新作メニュー、是非食べに来てくださいね」
この宣伝のおかげか、翌日には近所の主婦達の間で喫茶ノワールにイケメン店員が居ると話題になっていた。
一方レイはメニューだけではなく内装も変化させるべきだと考えていた。
テーブルとカウンターには揃いの柄のテーブルクロスとランチョンマットを敷き、その傍らには一輪挿しの花も置いて見事な癒し空間を演出した。
店内でのBGMも静かで落ち着いた曲調のものを自らの耳で選別してゆく。
さらに喫煙者と非喫煙者どちらも快適に過ごせるよう分煙も考慮し観葉植物で席を分けていた。
「随分華やかになったもんだな。なんかテーマでもあるのか?」
「誰もが優劣なく寛げる……そんな空間になれば、な……」
「なるほどねぇ」
藤堂は止めるでもなく手伝うでもなく変わりゆく店の様子を眺めていた。
「まぁ、悪くねえな」
そう呟くと藤堂は事務所へと引き上げたのだった
●いよいよオープン
その日の天気は快晴でアルバイトの噂を聞きつけた近隣住民が朝から来店していた。
「いらっしゃいませ! お席にご案内する……です!」
「あらあ可愛い店員さんねえ」
杖をついた老人夫婦の手を引いてピピは席まで案内した。
水をこぼさないようトレーに載せゆっくりと運んで行く。
「お水をどーぞ♪」
「ありがとねぇ、それじゃ珈琲を二人分もらおうかしら」
「かしこまりました!」
ピピの元気の良い接客は客からの評判も良く特に老人達はまるで孫に接するかのようにピピとの会話を楽しんでいた。
一方その頃、レイは宣伝の為に楽器と黒板を持って近くの通りに向かっていた。
黒板には店までの簡易地図と新メニューの告知が記載されている。
「さて、はじめるか……」
黒板を見えやすい位置に置くとレイは演奏を始めた。
その見た目も相まって演奏をするレイはすっかり通行人の注目の的だ。
一曲終わる度に店の宣伝も忘れない。
「お兄さん凄いねえ。あれ、こっちの看板は?」
「俺の働いてる店だ。この先にある」
「あら、あんな所に喫茶店なんてあったのねえ。行ってみようかしら」
「どうも……」
「あんちゃん上手いねえ。チップはどこに入れるんだい?」
「それならあそこの喫茶で珈琲でも頼んでくれ。今回はあくまで客引きなんでな……」
あくまで宣伝第一、そんなレイの努力もありお店に来店する客は徐々に増えるのだった。
「露出少ない服装……こんなモンデス?」
キャスはぶかぶかのシャツにショートパンツ、バンダナで決めていた。
露出は少なめと言っているがスラリと長い脚は非常にセクシーだ。
「拓さんが新しい店員を雇ったって聞いて早速来てみたがどうやら本当だったんだな」
「ハーイウェールカーム! こちらにドウゾー!」
「噂には聞いてたがすっげえ美人なねえちゃんだな」
キャスに案内されたその客は上機嫌のままカウンター席に座った。
「おうあんたか、今日は何にする?」
藤堂と親しげに話すその客はどうやら常連らしく、しばらく新しいお品書きとにらめっこしていたがやがてそれを置いてこう言った。
「そうさなあ、なんかオススメあるかい?」
「これなんかオススメデスヨー!」
キャスがオススメしたのは暁がアレンジしたカレーとカールの作った新作ドリンクだ。
「じゃあカレーとこのアイスティーフレってのを頼むよ」
「毎度アリー!」
オーダーが入ると早速厨房で調理が始まる。
「ほう、なかなか手際が良いな」
「オレらの料理でさ、皆が笑顔になってくれれば最高じゃん?」
藤堂が見守るなかカールは用意しておいたミント液を手際良くアイスティーで割るとカレーと一緒にトレーに載せカウンターへと運んでゆく。
「お待ちどうさま!」
「いつものカレーと違うのか?」
「ちょっとアレンジしてあるぜ。あとこっちのドリンクはオレの考案だぜ!」
男性客はカレーを一口食べると早速違いに気付いたようで。
「ほほう、こりゃ美味い。このドリンクも後味が爽やかで実に美味い」
あっという間にカレーを食べ終えるとデザートに新作のかき氷を注文した。
「これまた豪華だなぁ」
「上のシャーベットは凍らした果物をすりおろした物なんですよ」
と、オーダーを運んできたついでに説明する拓海。
常連客はデザートも食べ終えると食後に珈琲を注文した。
「今日は拓さんは淹れないのかい?」
「ああ、代わりも居るしな」
「拓磨さんが治ったら、もっと旨いのが飲めますから我慢してください」
そう言うと拓海は練習通りに珈琲を淹れ始めた。
「いやいや、なかなかのもんだ」
「ありがとうございます」
珈琲を飲みながらしばらく藤堂と雑談した後、その客は満足そうに帰っていったのだった。
飲食店が最も混み始めるお昼時、休憩に入るキャス達と交代で勇太と御前もホールを回し始めた。
「なかなかに忙しいのう」
「これくらい余裕だナ」
勇太は効率を重視し機敏に動いていた。
客が食事を終えた食器はすぐさま片付け、素早く掃除をするとすぐさま次の客を案内する。
その動きには一切無駄なところがなかった。
「いらっしゃいませなのじゃ」
一方で御前は一人一人丁寧な接客を心がけていた。
特に男性客からの受けは良く長々とした世間話にも嫌な顔一つせず対応する御前はたちまち客から気に入られたのだった。
「御前ちゃんこっちも注文お願いね!」
「はーい、すぐ向かうゆえ少し待つのじゃ」
活き活きと働く御前の姿を見て勇太も負けじと奮闘するのであった。
「ようこそおこしやす」
文菜とアンジェリカも新メニューの売り込みは忘れない。
文菜は特に男性客からの受けが良く、文菜が笑顔でオススメすればその笑顔に惹かれた男性客は次々と新メニュー注文するのだった。
「文菜さん俺はカレー!」
「こっちは新作のパスタだ!」
「じ、じゃあ俺はタンドリーチキンのサンドイッチ下さい!」
一方アンジェリカは女性客をターゲットに自分が考案したデザートを売り込んでいた。
「これ、イタリアのお菓子なの。とっても美味しいんだよ。日本ではあまり知られてないからお友達に自慢できるよ」
「ほんと、これ凄く美味しそうねー」
「そっちのお兄さんも彼女や娘さんのお土産にどう?」
「じゃあ一つ貰おうかな」
アンジェリカの宣伝のかいもあり新作デザートであるトッローネは次々と注文が入りあっという間にその日の分を売り切ったのだった。
店内が一段と慌ただしくなってきた頃、カルディアは一人の男性客を接客していた。
「……いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか」
「それじゃ珈琲と……この新メニューのエビピラフってのは美味しいの?」
「美味しい……と、思います」
「おいおい新人さん、表情が硬いよ。もっと笑顔にならなきゃ」
「……笑顔、ですか……こんな感じでどうでしょうか」
本人は笑っているつもりであるものの、表情は依然として無表情のままであった。
「あーダメダメそんなんじゃ。全然笑えてないよ。まあいいやこのエビピラフってのも頂戴」
「かしこまりました……」
厨房にオーダーを通すとカルディアはそのまま奥に引っ込んでしまった。
客の望む笑顔が出来ない、ゆえに接客は向いてない思ってしまったのだろう。
休憩時間になるとカルディアは藤堂に珈琲を差し入れに向かった。
「お加減はいかがですか」
「問題ねえよ。どうかしたのか?」
「いえ……お店の様子を伝えようかと思いまして……」
「店じゃなくてお前さんのことだよ」
「……」
客に笑顔について指摘されたこと、そして笑おうとしても上手く笑えなかったことをカルディアは藤堂に伝えた。
「笑顔ってのはなあ、自然になるもんであって無理やりするもんじゃねえんだ」
「けれどそれでは仕事に支障が……」
「そんなもん気にすんな。もともと売り上げなんて気にしてねえ趣味で始めた店なんだからよ」
「……そう、ですか」
「もっと気楽にやりな。ああそれと裏に引きこもるのも無しだ。うちの常連の爺さんなんかは若い子と喋れるだけで満足だろうしな」
それは不器用な藤堂なりの彼女に対する気遣いだったのかもしれない。
その言葉を聞いたカルディアは休憩を終えると再び接客を始めたのだった。
「バイトを雇った宣伝効果か、お客さん増えてきたみたいだなー」
厨房に入った暁は早速溜まっていたオーダーを捌き始めた。
「急くな。客は待たせろ。空腹は最高のスパイスだろー? 催促しても料理はできん」
独自の理論で速さより質を意識して調理していく暁。
「マイペースマイペース。一気に作れるならそうするけどなー」
自分がアレンジしたメニューもそうでないメニューも当然手は抜かない。
「しばし休憩するかの」
「はぁ、ミーも少し休むかナ」
「ああ、そうだ。食事休憩は宣伝になるから表でしてね。美味しく食べてる姿と声が、俺も私もという声に繋がるのさ」
「要するにサクラだナ」
暁に言われた通り勇太はがっつりと大盛りのカレー、御前は涼しげなかき氷を注文。
「ニンニクが効いてていくらでも食べられるネ」
「冷たくて美味しいのう」
二人の食べっぷりは実に見事で宣伝効果も抜群だ。
「あのカレー美味そうだなぁ……俺も頼んでみるか」
「店員さーん、私達もかき氷くださーい」
暁の狙い通り二人が食べる姿を見た客から新メニューの注文が殺到する。
「計画通りだなー」
ニヤリと笑む暁、ここが腕の見せ所とばかりに料理を作り続けた。
「用も済んだし様子見に行こうかな」
用事を終えた若葉はその足で喫茶ノワールへと向かった。
「こんにちはー」
「あ、若葉さんいらっしゃいませ」
メリッサに出迎えられた若葉はそのまま窓際の席へ案内されたのだった。
「これ皆で考えた新作メニューなのよ」
「へぇー……それじゃこのパスタと珈琲、あとデザートにかき氷をもらおうかな」
「あ、ワカバいらっしゃーい!」
元気よく働くピピに笑顔で手を振る若葉、程なくして注文した料理が運ばれてきた。
「そのパスタは拓海が考えたのよ。デザートはピピちゃん考案ね」
「うん、パスタは酸味でさっぱりしてて夏らしいし……このアイスも美味しいよ」
「でしょ♪ 皆が考えた他のも美味しいんだよ!」
「へぇ……そうだ、ピピも食べる?」
そう言うと若葉はアイスを一口スプーンですくってピピに差し出した。
「いいの? あ、でもいい! お仕事中だもん!」
「ふふ、そっか」
「ピピちゃん優秀よ。ほら素敵な看板娘してるでしょ」
「そうみたいだね、二人に任せて良かったよ。ありがとう」
仕事に戻るピピを見て優しく微笑む若葉。
食後は参考書を広げピピの仕事が終わるのを勉強しながら待つのだった。
夕方、店もすっかり落ち着き空席が目立ち始めた頃ヴィーヴィルはカルディアの様子を見に喫茶ノワールへと立ち寄った。
「マスター……いらっしゃいませ」
「おう、首尾は如何だ?」
「中々に難しい面もあります。客の一人に表情に問題があると指摘されました」
「だろうな」
「ですがオーナーは気にするなとも……」
「そうか」
カルディアに喫煙席へと案内されたヴィーヴィルは座席に着くと店内を観察するように見回した。
(客層のターゲットは広い方が良いだろうな。ま、当然だが)
「内装を弄ればマシになるだろうな」
「インテリアで変わりそうな雰囲気の店ではあります」
皆の工夫で店内の雰囲気はだいぶ変わりはしたもののまだまだ工夫出来る部分はありそうではある。
「所でマスター、ご注文は」
「……意外と確り定員として染まってンな」
カルディアに急かされひとまず珈琲とオムライスを注文することにしたヴィーヴィル。
「ふむ、味はまあまあだな」
「味に関しては皆さん頑張ってましたから」
「なるほどな……悪くない」
ヴィーヴィルはオムライスを完食すると灰皿を借り食後の一服、その間カルディアは何やらメモを書いていた。
「何書いてるンだ?」
「折角ですので、今日の統括を。今後の店の方針等にお役に立てればと」
新メニューに対する反応や接客中に聞いた客の声を纏めていた。
それは様々体験をさせてもらったこの店と藤堂に対する彼女なりの恩返しだったのかもしれない。
夜になり閉店が迫り客足も途切れだした頃、外で宣伝を行っていたレイも切り上げて店内へと戻ってきた。
「お疲れさん。外でずっと宣伝してくれてたんだってな」
「大したことじゃない……」
休憩するレイと藤堂、そこにカールが差し入れの珈琲を持ってやって来た。
「な、あのギターさ~アンタが弾くの?」
「ああ、あれか。以前興味本位で買ったんだがな、何度か触ってそれっきりだ」
藤堂がこの店を開いた時に記念に買ったギターだったが結局続いたのは店の方だけのようだった。
「レイは音楽やってンだ。オレも最近ベース習ってるんだケド」
「優しく変わりなく。此処を続けてたアンタ……そんなアンタといつか音楽も共に出来たら面白いかも、な……」
「それもありかもしれねえな……」
藤堂はそう呟きながら開店当時の新鮮な気持ちを少しだけ思い出していたのだった。
閉店後皆が帰宅する中、店に残り皆のレシピを纏めて藤堂に差し出した暁はある疑問を投げかけた。
「こう客に噂になると、復帰してからもバイトを雇う必要あるよねー?」
メニューも増え来客数も増えた現状、仮に怪我が治っても藤堂一人で店を回すことは実際問題困難になっていた。
「各々本業があるだろうし無理は言えないけどな。まあ働いてくれるってんなら拒む理由はねえが」
翌日もそのまた翌日も喫茶ノワールは大いに繁盛していた。
それは一人一人が頑張って働いた努力の結果に他ならない。
そして数日後、藤堂は怪我が完治し無事に復帰を果たすことが出来た。
皆が考えた新メニューの一部は日替わりメニューとしてその後も正式に採用されたのだった。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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