本部

ハイドレンスユートピア

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/08/11 22:37

掲示板

オープニング

● 天空の城
 空に浮かぶ丹生雲。夏の象徴のような光景を、今年も少年少女たちが見上げている。
 夜は夏休み。昼間は宿題で頭を悩ませ。お昼時を過ぎれば遊びに出る健全な少年少女たち、その全員が同時刻空を見上げた。
 空が迫っていることにきがついたからだ。
 雲が大きく広がり影を落とす。影は濃く。雲が近いことがうかがい知れる。
 きっと雨が降る。家に帰ろうかそんな話をしていた矢先のこと。
 信じられない光景が眼前を覆うことになる。
 入道雲を切り裂いて、巨大な城が姿を現したのだ。
 まるで天空の城。その幻想的な光景に息を飲んだのもつかの間。その異常性にH.O.P.E.が動き出すのにそう時間はかからなかった。
 指令官アンドレイは告げる。
「あれは全て霊力で構成されているな」
 霊力、つまり、ドロップゾーンか、愚神か。
 どちらにせよ人類に対する脅威でしかないのだが、その判断がつかないということは近くに愚神らしい影が見られないということである。
「対処に関してはこの城の核となる部分を破壊すること。これで全てが霊力に戻るはずだ」
 核は遺跡の最奥にあるそうだが、この天空の建造物自体が一つの町ほどの大きさがあるので最奥にたどり着くのも容易ではないだろう。
「核の位置はこちらである程度はあくしているため、その情報を元に探してもらうことになるが、妨害が無いとも限らない。戦闘の準備をしていくように」
 さらに今回は翼が支給されるとアンドレイは告げた。
 遺跡の探索に役立ててほしいとのことだ。

● 遺跡内部について。
 今回探索していただく遺跡ですが、敵は全く出てきません。
 ただし、天上が崩れたり、トラップが作動したりする可能性が高いので、対処できるような装備で望んでください。
 さらに道が途切れていたり、竪穴になっていたりするので、歩いて踏破することが困難です。そのため翼を貸し出します。
 今回は戦闘が想定されていないのでスタンダードな天翔機一択ですが。慣れない人は飛行プレイイングに注意してください。
 さらにこの遺跡はエリアによってトラップの種類が変わってくるので紹介しましょう。

・地獄エリア
 気温が四十度を超える灼熱のエリアです。マグマ湖や熱せられた鉄の柱。石の神殿などが点在しています。生命体はいないようです。
 世界自体が不安定で、攻撃を加えると思わぬ場所からマグマが噴出しそうです。
 扉は岩盤や鉄の柱、マグマの海の中に隠されていますが、いずれも扉をふさぐ岩等々を破壊しないと通れなさそうです。

・楽園エリア
 緑と光に包まれた世界です。一般的な動物たちが多くいますが、ホログラムのように透けてしまいます。
 襲ってくる動物もいますが皆さんには触れられないようです。
 通路は大きい動物の口の中にあったりと、ファンタジーな世界でもあります。 

・奈落エリア
 暗闇が世界をしはいしており、灯りは紫色に燃える松明だけ。
 亡者や悪魔が闊歩していますが、彼らはこちらに触れることはできないようです。
 ただ世界は我々の世界に酷似していて、コンクリートの建物などあり。
 扉は人の悪が集う場所、にあるようです。亡霊たちが指示します。

・水辺エリア。
 少し寒い透き通った世界です。ガラスや氷で作られた神殿と言った世界で、不意に足元が水に代わるので、飛んでいないと落ちます。
 落ちると水で一気に体温が奪われて寒いです。
 水の中には沢山の人魚が住んでいて、とても楽しそうです。礼によってこちら側には触れることができないようです。

・最後に
 さらに最奥への道はたいてい隠されているので、水の中や溶岩の中を探さないといけないです。
 即死とはならないと思いますが、ダメージを受けると思いますので避けられるように対策を立てましょう。
 他にも、内部は入り組んでいて分かれ道や隠し通路は普通にあるので、マッピングと手分けが重要になるでしょうか。


解説

目標 遺跡の攻略
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~下記PL情報~~~~~~~~~
 
 今回確かに戦闘はありませんが、遺跡のコアを破壊しても瞬時には遺跡は消えませんし。飛行能力を失って落下をはじめます。
 このままでは町一つ分の質量をもつ遺跡が落下すると大参事につながるので。皆さん打ち落としてください。
 幸い、半霊力化しているので、かなり脆く範囲攻撃で簡単にバラバラにできることでしょう。
 バラバラにした破片は落下するタイミングが異なってくると思うので、チームで手分けして対処をかえるといいでしょう。

~~~~~~~~~~~~~~~~上記PL情報~~~~~~~~~~~~

リプレイ

プロローグ

――おおー、ホントに城が浮いてる! ゲームみたいだな!!
「あまりはしゃぎ過ぎて落っこちないでよ?」
『世良 霧人(aa3803)』はその背の翼を大きく広げて空を待っていた。
 眼前にそびえたつのは天空の城。
 町に大きく影を落とす通り、その姿は巨大の一言。霧人の英雄『エリック(aa3803hero002)』は早速それをスケッチブックに書き写したいと告げたが、今は一刻を争う事態である。泣く泣く諦めたエリックだった。
「そう言えばスウィフトのラピュタでは住民は全員常に夢想に浸っていたようです……もちろんそれでは生活出来ませんから彼らは叩き役と呼ばれる人々を雇って時々叩いて貰って正気に戻ったそうです」
『石井 菊次郎(aa0866)』は天空城に足をかけて、歩みを進みながら『テミス(aa0866hero001)』に話して聞かせる。
――なるほど主よ……我らがこの城の叩き役と言いたい訳か。
「まあ、物語の叩き役は革の風船で目や頭を刺激するだけなのですが」
――我らはそんなものは持っておらぬな。我らが持っておるのは……。
 因縁のあの愚神だけ。
 そう言外に示すと、早々と庭園を横切る。
「これが愚神の類の関係ない自然発生的なものだったなら……きれいとかすごいとか思えたのかな?」
 その庭園に降り立つと花びらを舞わせながら『イリス・レイバルド(aa0124)』が告げた。
――さてね、少なくとも愚神の影がちらついただけで輝きが色褪せて見える。観光地なんてそんなものなのかもしれないね。
『アイリス(aa0124hero001)』はその花弁を見て、霊力によるものだとすぐさま判断する、やはりここは霊力で作られた領域なのだ。
「世知辛いね」
――まぁ、私たちは評価がどうとか以前にぶち壊しに行くのだがね。
「もっと世知辛いね」
「凄い大きい!あたいこんな城に住んでみたい!」
――探検、探検、楽しみねぇ。
「シーエ、遊びに来たんじゃないんだから」
 そんなイリスや菊次郎を皮切りに続々とリンカーたちが天空城に侵入を始めた。『雪室 チルル(aa5177)』や『エスト レミプリク(aa5116)』と『シーエ テルミドール(aa5116hero001)』それに『フィアナ(aa4210)』
――でも空中に浮いていると宅配便とか来てくれないよ?
『スネグラチカ(aa5177hero001)』のそんな言葉にチルルは苦笑いを返しながら城内部への道を見据える。
「うっ…………でも良い眺めなんだけどなー…………」
――将来さいきょーになったらこんな城を買えばいいじゃん。
「…………それもそうね!」
 そしてエストがマッピングシートを機動。これで準備は万端である。
「ふむ、結構便利かも」
――いかにも探検って感じで素敵ねぇ♪
 三者三様の想いを胸に、遺跡の探索が始まった。

第一章 庭園

「ロボットの兵士が降下してきたりしないよね」
 暗闇の中に声が響いた。
――…………滅びの呪文を唱える必要もないから大丈夫だ。
「それなら問題なしっと」
 そう安堵のため息を漏らし、光のたもとに顔を出したのは『九字原 昂(aa0919)』である。
 まぁ光のたもとにと言っても、僅かばかりの紫色の炎だが。
――これは……。
 さすがの『ベルフ(aa0919hero001)』も息をのむ、そうここは奈落エリア。
 闇がひしめき、闇が支配する霊域である。
「気を付けてください、この建物自体強固ではありません、崩落や崩壊、暗いのでトラップの見落としなど」
 そう注意を促す『構築の魔女(aa0281hero001)』
 彼女はすでに『辺是 落児(aa0281)』と共鳴済みである。
「ええ、と言っても、暗くてほとんど何もわかりませんが」
 昂がじっと目を凝らしながら魔女の言葉に答える。
「内部と外部で大きさが違うかも知れませんがより多く歩いて調べましょう」
 マッピングを開始する構築の魔女である。
 そんな二人を背後から撮影するのが霧人の役目である。
「よりにもよってココ!? 何でこんな怖いエリアにしたのさ!」
 そんな霧人は激しくビビっていた。何せ足元や暗がりから半透明の物がふわり、ふわりとあたりを漂うのだ。
 幽霊苦手な霧人にとってこれは耐え難い。
――大丈夫だよ。オバケは攻撃してこないし、なによりホラ、体をすり抜けちまうだろ? 何も怖い事無いって!
単純に撮影係というわけではなくVR-RPGデータリンクに変わった情報が映らないかも確認しながら進む。
――おっ何かあの幽霊オレらに手招きしてないか? 行ってみようぜ!
「ええ!」
 怖いものが平気なエリックは霧人へ積極的に幽霊たちと関わることを進める。
「恨めしそうにこちらを見るだけですね」
 そう昂はマップを確認しながら先を急ぐ。
 亡者たちは最初は三人の姿を見て襲いかかってくることもあったのだが、触れられないと知ると、三人をただただ睨むだけになった。
「雰囲気的に精神的に驚くような罠とかありそうですが……どうなのでしょうね」
 構築の魔女の言葉に頷きながら、昂は目の前にぶら下がっていた紫の松明を手に取った。
 その瞬間。
「わ!」
 暗闇の中から骨のような手が伸び。あわてて距離を取った昂は松明を投げ捨ててしまった。
 灯りが消える。一段と暗さが増す。
「大丈夫ですか?」
 構築の魔女が怖くて震えている霧人を引っ張りながら昂に歩み寄る。
「松明はとられたくないみたいですね」
 そう昂が告げると、構築の魔女が遥か先の緩やかに坂になっている向こう側を指さした。
「先へと進む道。彼らが死んだ場所……とかでしょうか? いえ、そもそも彼らとこの場所の関係は……?」
 その先に亡者が集まりつつある。三人はそちらの方角へと先を急ぐことを決める。
――そういやさアニキ、前にこんな風にビデオカメラで撮影しながら進む脱出ゲームやってたじゃん。アレどうしたの?
 その道中エリックが霧人に問いかけた。
「…………あまりに怖くてグロくてリタイアしたよ。あんな正気度が減るゲーム、もうやりたくない……。」
――あー、主人公が指切断されたもんな。やりたくないって気持ちも分かるぜ。
 そんな一行がたどり着いたのは大きな扉の前である。ただしその裏面には何もない。
「誰かの居城であれば何かしらの特徴はありそうですが……」
 どこに続くか分からない扉がただひっそりと立っている。
 その丘では暗黒が渦巻いていた。亡者たちはその扉の周りに集まり動こうとしない。
「ふむ、生きた存在を確認できませんが……元々は何を目的に作られた場所なのでしょう?」
 構築の魔女はそう一人ごちる、分からなかった、この扉を開くための鍵が。
「扉は中世ヨーロッパ風。町の建物……なんてほとんどありませんでしたが、その残骸を確認してもそうですね。現代から数百年前の建造物というところ」
 構築の魔女は暗視装置でさらに詳しく扉を分析した。
「この場所が中枢ですか……ならここを作った存在に近しい場所であるはずですよね」
 三人は考える。亡者が崇めるその扉の真意を探るために。
 
第二章 淡水マーメード

 涼やかな風が吹くと、その風より早く駆けだしたのはエストであった。
「ちょ、ちょっとシーエ!?」
――人魚さんよぉ♪ 人魚さんだわぁ♪
 正確にはシーエだろうか。エストの体の主導権を握って。凍った水のその向こうに住まう人魚へと駆け寄った。
「人魚! すなわちマーメイド!」
 わっと驚いた『木霊・C・リュカ(aa0068)』である。
――凄いな、この服装だと緊迫感の欠片も無い。
 そうため息をつくリュカだったが女性陣の興奮は止められない。
「お城なんてすごいのです!」
 ガラスのお城、氷の張られた湖、空が光に当てられてキラキラと、まるで夢の世界である。『紫 征四郎(aa0076)』が感嘆の声をあげた。
――しかしまぁ、一体何故こんなものを…………。
「夏休みの絵日記宿題にぴったりなのです。頑張って踏破しましょう」
――遊園地では無いのであるがな…………怪我をせぬよう、重々気をつけるであるぞ。征四郎。
 そんな征四郎も当初の目的を思いだしオリヴィエに向き直る、征四郎は高らかに告げる。
「オリヴィエ、どっちが先にコアに着くか勝負なのです!」
――いいか木霊。手が空いた時はとりあえずオリヴィエの写真を撮っておくのだぞ。
『ユエリャン・李(aa0076hero002)』も便乗して告げる。
――はじめましてぇ♪ 私はシーエ、遊びましょう人魚さん♪
 そう水辺に駆け寄ったエストに向かって、人魚たちが集まってくる。
 敵意は伝わってこない、純粋な好奇心だけが感じられた。
――歌は私も大好きよぉ♪ ding-dong-ding、鐘がなる……♪
 そのシーエの歌声に人魚たちはくすくす笑うと、次の瞬間ふっと氷が消えた。
 エストは体制を立て直す暇もなく水の中に落ちてしまう。
 その水の中で歌が聞えた。人魚たちは触れられないが、一様にエストを心配している様子だ。
 だが手を貸してくれないのなら結局自分で自ら浮かぶしかないので、エストはあわてて水の上へと上がる。
「ぷは! うわ! 寒い」
――わぁ、一緒に歌ってくれてるわぁ、踊ってくれてるわぁ♪
 震えるエストなどなんのその、シーエは変わらず人魚に夢中である。
 そんなシーエの目の前を滑っていくのはリュカ。
 そう、氷の上を滑っていく、その雄々しき姿はまるで空を羽ばたく鳥、水の中を泳ぐペンギン。
 鳥類の着ぐるみを来たリュカはお腹で氷を捉え猛スピードで氷の上を疾走していた。
「いいね、まるでピーターパンにでもなった気分だ」
 風を楽しむリュカに扉を探す『オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)』
――人魚の入り江、か……。
 オリヴィエは終止リュカを無視である。当然だ。
 キグルミはかっこよくない。それで腹すべりなど言語道断である。
――まんぞくしたろう? そろそろそれを脱いではどうだ。
「ねーねーそこの可愛こちゃん達ー!」
 そうオリヴィエが控えめに告げた言葉さえも、今のリュカの耳には届かぬ。
 そして扉よりも先に氷の上で休む人魚を見つけてしまったものだから始末がわるい。
 器用に足で方向転換してリュカは、人魚姫たちの方に向けて疾走するが。
「寒くないの? お名前は? 趣味は? 君可愛いね!」
 だが残念ながら人魚は人の言葉を話せないし、理解できない。
 なので拒絶するようにリュカの目の前の氷に穴が開き。スポーンとリュカは、水の中に投げ出された。
「フィアナもルーも、なんとなくお城に似合う感じ、ですね」
 そんな光景を苦笑いと共に見送った征四郎は気を取り直してフィアナにそう声をかける。
「助けなくていいの?」
 助けたくはあるが、大人の本気のはしゃぎように、どうテンションを合わせたらいいか分からない征四郎である。
――君はお転婆という感じではないが、道中は気をつけてな。フィアナ。
 それはユエリャンも同じようで、どんどん沈んでいくリュカを眺めていた。
 そんな二人の気持ちもわかるが、助けないと大参事につながりかねないので、フィアナは靴を脱ぎつつ氷の上を歩く。
「人魚がいるのよね? 兄さん」
――いたね、人魚。
「……ふむ」
 人魚はこちらには触れないという、ならばひとまず大丈夫だろう。
 そうフィアナは水の中に飛び込んだ。
 そしてリュカを助けると、リュカを岸に送り届けて再び水の中に舞い戻った。
「あんまり、いたずらをしてはだめよ」
 そうフィアナは人魚姫の頬をつついて見せる。
 その仕草が気に入ったのか、触れられないくせに人魚姫たちもフィアナの頬をつつこうとする。
 その手から逃れたり、また近づいたりしているうちにフィアナは一つ夢を思い出す。
――二人が手を振ってるよ。
『ルー(aa4210hero001)』が告げるとフィアナは水中で半回転。空を見上げた。
 そこにはガラス越しに手を振る征四郎とリュカの姿。
 その二人に手を振りかえして、水の中でも関わらず、フィアナは大きな声を出して叫んだ。
「ふふ、まさか現実でもこうして人魚と踊れる日が来るなんて!」
――馴染んでるなぁ。
 そのままフィアナはさらに水の底の底まで進んでいく。
 楽しく優雅な、人魚との一時。
 だがそのひと時もそろそろ終わりにしなければならない。
「ほら、お願いシーエ」
 エストがシーエにそう言葉を促すと、しぶしぶシーエは本題にうつった。
――もー良い所だったのにぃ……ねえねえ人魚さん?
 扉の場所は人魚たちに聞くとあっさり教えてもらえた。
 それは入り江の奥深くにあるらしかった。
 改めて湖を潜る一行。扉はすでに開いていた。
 ただ、盲点だったのが、扉の向こうには水はなかったこと。
 つまり、一行は洗い流されるように楽園エリアへ。
「うわああああああ」
 変声期前だろうか。エストの悲鳴が甲高く響くが、今の自分たちには翼があるんだと思い直し、火を入れる。
 四人は新たに招待されたエリアの上空でその美しさに見入った。
「あ! あの動物さんはなんでしょうか!」
 征四郎が真っ先に大地に降り立った。
 豊かな緑、心地よい風、輝く太陽。ここは楽園エリアである。
――ほう、ほう。よく出来ておるなぁ! 美しいであるなぁ…………あ、なんだ、触れぬのか。 
 ユエリャンがそう感心の声を漏らす。
「動物さんたち、いっぱいいますが…………どれもホログラフなのでしょうか」
 そう征四郎をすり抜けて走り去ってしまう、小型の牛のような動物。
 そんな征四郎があたりを見渡していると先にやってきていた菊次郎を発見した。
「扉がどこにあるか教えてくださいませんか?」
 そう動物に語りかける菊次郎は、一見ファンシーだが、それは支配者の言葉が聞くかどうか試しているだけで、結論としては効かなかった。
「扉見つかりましたか?」
 上空からリュカがそう菊次郎に問いかけると、菊次郎はむなしく首を振る。
 とりあえず地上にはなさそうだ。
 ライブススラスターをふかす勢いで空に上がり他のものと同じように俯瞰で辺りを見つめる菊次郎。
 同じように空に舞い上がる征四郎。
――ギミックとなるものが見つからない、となると。
 ユエリャンが思考のために口を閉ざす。
「そうですね。いるのは動物だけなのです」
 ただ遠くの空に、鯨のような巨大な動物を見つけた。
 そう、空にである。空を飛んでいる何か巨大な生物。
 それを見ただけでユエリャンはぴんっと閃いた。
――征四郎よ、あの動物に興味はないか?
「うわあ。おっきい鯨? さんです。近くで見てみたいです」
――許可しよう。
「本当ですか?」
 一層目を輝かせて加速の姿勢に入る征四郎。
「ユエちゃんの興奮具合やばくない? 食べられに行ってない?」
 そうリュカは茫然とつぶやく。だがその言葉にオリヴィエは茫然と何も言えずその風景を見ていることしかできない。
「征四郎、危ないよ」
 そんなフィアナの制止も振り切って、征四郎が鯨に近づくと。
 案外空飛ぶ鯨は俊敏で。その大きな口で征四郎を捉えてしまった。
「えええええええ!」
 驚くリュカ、しかし。インカム越しにユエリャンの声が聞えた。
――扉を発見したである。口の中に飛び込むがいい。
 その言葉に半信半疑のまま一行は鯨の口の中にダイブした。すると喉が扉となっており、あっさりと。
 この天空城の中心部にたどり着いた。
 その奥の一室は不思議な部屋で。円形の広い空間なのだが、扉が壁に無数に張り付けてあった。
 そして部屋の中央には大きな光り輝く宝玉。そして。先に遺跡を踏破してきた構築の魔女、霧人。昂がいた。
「無事だったんだね」
 そうフィアナはじょうずにホバリングして構築の魔女の隣に立った。
 構築の魔女は頷く。
「奈落エリアはどうでした?」
 征四郎が興奮を抑えきれず問いかけた、すると構築の魔女が告げる。
「意地の悪い世界でしたよ。扉が松明で燃やさないと開かなかったり」
「へぇ、あとはどんなものを見たのですか?」
 そう、自分たちがわたってきた世界の話に花を咲かせている一行を眺めながらフィアナはそこに座った。
 コア破壊は全員がこの場にそろってからだ。
 だが、この世界を破壊するには少し思い入れができてしまって辛い。
 動物たちや人魚たち、少しの間だが心を通わせた。
 だが、この建造物がある限り皆安心して眠れないだろう。
 だから。フィアナは精神統一を始める。
 その背後でまた別の扉が開いた。




第三章 地獄とは。
 
 地獄エリアとは、肌を約摂氏四十度の世界である。
 その灼熱の谷を、黄金の少女は行く。
 イリスである。
 見れば彼女は汗ひとつ書いていない、彼女からすれば気温四十度逆に言えばたかが四十度なのだ。
 灼熱の炎さえも減衰し防ぐエイジスの護りの前には悪環境すらも適温に均して行動可能。
更にティタンの護りで多少の高温環境でも問題ないほど体が頑丈になる。
 だから普段からエアコン等文明の利器には頼らない。とてもエコな姉妹なのである。
「エイジスとティタンってトコトン便利だよね」
――そりゃあ、あらゆる事に対応するために創り上げたのだからね。
 だがそんな風に器用に対応できない少女もいる。
――何せ結界なのだしただの鎧と違ってドレスコードでも問題なく使用可能だよ。
 たとえばイリスの後ろで今にもとろけそうになっているチルル等である。
――暑いんだけど…………むしろ熱いね。
 スネグラチカが告げるとチルルは苦笑いを浮かべた。
「そりゃ溶岩が溢れているエリアだしね。長期間過ごすのはあたいだって嫌よ」
――そのためにわざわざ水筒に冷やした飲み物を持ってきたわけね。
 その言葉を示すようにチルルは水筒の中味をごくごくと美味しそうに飲む。
「中身も大容量だし、これである程度熱に対しては対抗できるってわけよ」
 そして最後に頭にかけた。犬のように水滴を顔からはじくが。
 すぐにまた熱くなる。
――でも溶岩だらけだから歩くのは難しそうだね。
 ぐつぐつと煮えたぎる溶岩を横目に、一瞬嫌そうな顔をするチルルである。
 しかし、チルルは溶岩の上を移動できる秘策を用意している。
 またにひひと笑った。
「フフフ…………そう思って今回は新兵器ことアサルトユニットを持ってきたよ! これなら海上…………もとい溶岩の上をスイスイ移動できるわけよ!」
――…………でもこれ飛行できる翼貰っているんだから、それ使えば良いんじゃない?
 背中で存在を主張するようにウィンウィン唸る翼。
「…………あっあくまで奥の手なんだから! 通常時は飛行しながら安全を確保しつつ行動するよ!」
 そうマグマの上にダイブしてアサルトユニットを展開。溶岩上を滑るように移動しながら扉を探した。
 そして溶岩が流れ出す、柱というか。建造物っぽいものはどんどんロケットランチャーで破壊していく。
 扉はどこかに隠されているはず。とりあえず早く探したいのだ。
 そんなチルルを一別し。イリスはぽつりとつぶやいた。
「元気そうだね、大丈夫だね」
 そして内部をスマホで撮影し始めるイリス。
――殺気を感じない……というよりは生き物の気配を感じないね。
「普通なら苛酷な環境だからね。普通なら水分だって手放せないよね」
――ある意味環境に適応しているだけだよ。何も悪くない。
「で、環境に適応できた生物がここにはいないってことなのかな」
――そうなると危険なのはマグマか……噴出すマグマに押し出された岩石くらいは飛んでくるかもね。
 マグマのしぶきを浴びて熱そうに飛び跳ねているチルルを一別するイリス。
「この環境そのものが罠って感じかなー」
 やがて帽子についてしまった火を払い落として、涙目のチルルは気分を代えようとスネグラチカに話しかけた。
――冗談はさておき。
「別に冗談でやったわけじゃないもん」
――……。とりあえずこの城の何処かにあるコアを目指していかないとね。
 哀愁背負うチルル、だがこの話題に触れては蒸し返すばかり、スネグラチカは別の話題に切り替える。
「うん。基本的には数人に分かれてそれぞれのエリアの捜索に向かう感じね。それぞれのルートからコアへの道のりを目指して、コアへのルートを発見したら全員に連絡してコアに突っ込む形ね」
 そうなのだ、実は調査をしながら核心へと迫る調査形態なのだ。話し合いの結果そのように決まった。
――コアを破壊後は速やかに脱出する感じかな?
「基本的にはそうなるわね。」
――それは良いんだけど…………この施設ってコアを壊せば全部消滅するのかな?
「念のためにコアを破壊する前に建物の一部を壊して消滅するのかどうかを試してみてるよ、消えないね。ある程度細かくすると消えるみたいだけどね」
 その時である。マグマの中から人影が現れた。
 唐突にチルルの目の前に。
 思わず悲鳴を上げるチルル。
「きゃあああああああ! って、イリスちゃん」
 そう、マグマの中から現れたのはイリス。
 お得意の結界術で自分の身を守っている彼女はちょっとくらいマグマの中に潜っても平気である。
 その結果おかしな場所を発見した。
「煌翼刃ッ!!」
 光の剣圧による遠距離攻撃で邪魔なマグマを切り裂き、露出したオブジェは大盾で叩き砕く。
 一瞬のうちに扉が解放され、唖然とたたずむチルル。
 そんなチルルへ、イリスは告げる。
「行きましょうか、皆さん待ってるみたいです」
 そしてその扉の中に飛び込むイリス。
「思ったよりは楽だよね」
――だからといって大自然相手に油断は禁物だよ。
「その大自然の化身が味方なんだけどねー」

   *   *

「全員集まったみたいですね」
 イリスたちの到着を持って、昂はそう告げた。
 腰を上げ、目の前のコアを見据える。
「では、みなさん準備を」
 征四郎が打って変って声に冷たさをにじませ告げる。
 コアを破壊するために刃を抜いた。
「せーちゃん……」
 リュカが隣に立つ、心配そうな声。
 だが別に征四郎の事を心配しているわけではない。
 心配なのは、さっき友達になった人魚たち。
「これを破壊した後、崩壊するまでどれだけの猶予があるか分かりません」
 昂が告げる、その言葉に全員が頷いて。そして渾身の一撃をコアに集中させる。
 ものすごい音が響き渡った。まるでコアを削り殺そうとするような甲高い音、放たれる弾丸と落ちるから薬莢の音。まるでお寺の鐘をついたようなゴーンと言う深い音。
 そして直後、コアにひびが入って崩壊を始める。
 揺れる天空城、崩れる天上。
「みなさん、伏せて!」
 征四郎はカチューシャを展開、コアの周囲も吹き飛ばす。
「霊体化が始まった! 皆さん翼を」
 昂が叫ぶ。腕で瓦礫を払い、足元を見る。
 大きなひびが、亀裂が走った、そして。
「な……」
 全員が息をのむ、当然だろう。足元のひびの向こうに見えたのは地上の光景。
「ぱっくり割れたんですか?」
 構築の魔女はいち早くその亀裂から外に出る。
 落ちる破片を迎撃しながら。
 昂はその動きに合わせた。天使のラッパを装備。
 ここからが本当の戦いだと気を引き締め直す。

第四章 失楽園

 征四郎は翼で舞い上がると悲しそうにお別れを告げた。崩壊し行く世界に。
「楽しい場所でしたが、さようなら、ですよ」
「せーちゃん!」
 リュカの手を取って、自分たちの潜ったドアを潜って目指すは人魚の元。
 他のリンカーたちはいち早く瓦礫の破壊のため動いた。
 霧人がまずジェミニストライクで巨大な瓦礫を粉砕。細かく散った瓦礫を魔導機械『くまんてぃーぬ』 で砕いていく。
――直撃したらエストじゃ耐えられないかもぉ?
 シーエが悪戯っぽく告げるとエストは高らかに告げる。
「絶対動きは止めずに行くよ!」
 ツインセイバーが複製される。
「私たちにまかせて」
 そうフィアナは二人を送り出した。落下する重力に身を任せ武装をサルンガに持ち直す。
 光を束ねて放つ弓を狙い引き絞り、眼前へと降り注ぐ瓦礫を穿ち切り裂く。
「まだまだ」
 フィアナは天空城の隙間を堕ちていく。
 世界が見えた。例えば、動物たちが住まう楽園エリア。
 動物たちが空を飛んでいた。
 突然変わってしまった環境に悲鳴を上げていたけれど、どうすることもできない。
「ごめんなさい」
 フィアナは目を瞑って、そしてもう一度開く、そしてせめて動物たちに衝突しないようにと、矢を放ち続けた。
「煌翼刃・天輪ッ!」
 そんな楽園エリアに一際強くイリスの声が響き渡る。
 このまま落下を続けるなら、壁を壊して外に出た方が早い。そうイリスはその斬撃で楽園エリアの底を粉砕する。
 床に大きく、それこそ鯨が通れそうなほど大きな穴が開く。だが、それでも天空城の質量、その何百分の一に過ぎない。
「味方にあたらないように……爆ぜろ!」
 振り返りざまにイリスはライブスショットを放った。背後に迫る破片。直径100Mはある塊が爆散に砂埃に姿をかえた。
「狙い通り遺跡は崩れましたが、これは下がまずいですね!」
 構築の魔女はそう告げると空中で器用に狙いをつけて弾丸を放つ。早打ちで瞬間に三度放たれた弾丸は、見事リンカーたちを追い抜いて地面に迫ろうとしていた瓦礫を打ち崩す。
 自分の放った弾丸がジャストヒットしたのを耳で聞き、構築の魔女はさらに別の破片に照準を合わせる。
 遥か彼方を飛来する破片、だが生粋のスナイパーである構築の魔女の目からは逃れられない。
 放たれた弾丸は瓦礫の隙間を縫うように瓦礫へと追いすがり。瓦礫を見事に打ち砕いた。
「それにしても数が多いですね……」
 構築の魔女は視野を広く持つ。
 空には空中で回転する瓦礫が無数にあり、さらに亡者やら、動物やら人魚やらが空を飛んでいる。
 それはひどく幻想的で破滅的。
 その光景がやけに目に焼きついた。
 そんな人魚たちを見に飛んだリュカとオリヴィエだったが。
 水辺エリアは崩壊するのが遅いのか。人魚たちを守るように湖面に立ち瓦礫を破壊していた。
――試し撃ちには丁度良い的だな。
「ひゅうう! 爽快だねぇ」
――すまない、な。今度は、もっと広い海で会おう。
 オリヴィエは告げる。
 保護も考えた。しかし、触れられないものをどうやって保護すればいいのだろうか。
 人魚たちは湖面の向こうで笑っていた。
 首を振って何事かを告げようと歌を歌っていた。
 その気持ちはリュカや征四郎には痛いくらいに伝わる。
 早く逃げてと言っていた。
「ギリギリまでは!」
 リュカが声を張り上げる、バレットストーム。
 無数に放たれる弾丸が、無数に降り注ぐ瓦礫を吹き飛ばしていく。
 やがて、水辺エリアの底が抜ける。友達が大地へと飲まれていく。
 それをエストとシーエは見送った。
 落ちていく友達、響く歌。
 それも、ドップラー効果で引き伸ばされ歪んで聞える。
 空を泳いでいく人魚たち。
 しかし水の中を泳ぐような自由は彼女たちにはなく。
 ただただ地面に飲まれる時を待つばかり。
 エストは歯噛みしながら瓦礫を粉砕し続ける。
 自分がここでうかつに動けばどれだけの被害が出るだろう。
 密集した落下物に突撃、大ぶりな一撃で周囲の瓦礫を粉になるまで攻撃し。薙ぎ払った後に、手のひら大の欠片には銃弾を撃ち込んだ。
 リュカたちの無事を確認するといったん後退。
 地上を見ると、亡者が。動物たちが、人魚たちが、地面に吸い込まれていくのが見えた。
 シーエがショックを受けているのが、エストは言葉にならずともわかった。
「シーエ」
 そのまま刃を周囲に展開、全方向に向けて刃を撃ち放つ。
 瓦礫が砕けて、砂塵となってエストの姿を隠した。
 その砂塵の中からである。お城が、その塔の先端を地表に突き刺さんと降り注ぐ、その行く手を阻んだのは菊次郎。
 一筋縄ではいかない、そう判断した菊次郎はまずはゴーストウィンドウを展開。
 そして。
 ブルームフレアにて、その城を撃ち砕いた。
「失礼回線に負荷の掛かる呪文は禁止の方向で」
 バラバラに砕け散る白亜の城。
 その瓦礫を昂が天使のラッパで処理する。
 白煙が立ち上り眼前をおおうがしかし。
 もう一度ラッパを吹いて煙を晴らせば。目の前に広がっていたのはいつもと変わらない青空だった。
 防ぎ切った。
 全員が汗をぬぐって空を見上げ。最後に。
 護りきった小さな町をただただ見下ろした。

 エピローグ 

「戦う場所は選べない……か、もっと色んな状況に慣れていかなきゃ」
 エストは芝生に横になりながら隣に座るシーエに声をかける。
「なら、もっと変わった所にいっぱい行けるわねぇ」
 その丘に佇み、フィアナは空から姿を消した天空城を思う。
「主無き城?」
 その違和感を口にすると思考にふける。
 その点はイリス、アイリスも気になっていたようである。その細く繊細な神を風になびかせながら身を寄せ合ってそのことについて話しあっていた。
「結局何なんだろうねこのお城」
「言葉の響きだけなら実にファンタジーやメルヘンなのだがね」
 そうなのだ、フィアナも考えてた。
 捨てられた後もコアの力で存在し続けたのか、たまたま主がいないだけか……。
 雲に隠れてたとはいえ長い期間存在していたというのは些か不自然な気もしていた。
 各々の探索結果を集めれば見えてくるものもあるだろうか。
 そしてフィアナは遥かな空に背を向ける、空を飛ぶという夢は終わった。現実を考えなければならない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • フリーフォール
    エリックaa3803hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 決意を胸に
    エスト レミプリクaa5116
    人間|14才|男性|回避
  • 『星』を追う者
    シーエ テルミドールaa5116hero001
    英雄|15才|女性|カオ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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