本部

夏だ!海だ!クラゲ狩りだ!

大江 幸平

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/07/29 19:51

掲示板

オープニング

●腫れドキドキくらげ
 雲一つない晴天の空。真っ白に輝く太陽。吹き抜ける潮風。
 辺りには一面の砂浜が広がり、規則的な波のリズムが心地よく響いている。
 夏だ。夏だった。これでもかといわんばかりに理想的な夏だった。

 ここは茨城県内にある小さな海水浴場。
 毎年、海開きに合わせて近隣各地から大勢の利用客が訪れる穴場的スポットである。
 しかし、そんな平和な海水浴場に、今年は――ある異変が起きていた。

「こ、こりゃあ……いったい……!?」

 声をあげて驚いたのは、近所に住む町内会の長老的存在、磯辺守蔵さん(83歳)だ。
 彼の目の前に広がっていた光景。それは。
 遠浅の海に浮かぶ、数えきれないほどの――奇妙なクラゲ。
 突如として出現した気味の悪いぶよぶよたち。一体どこから湧いてきたというのだろうか。
 それは彼が長年に渡って見守ってきた愛する海の姿を、すっかり不気味な影に覆い隠してしまっていた。

「ええい! なんじゃこいつら! ワシが追い払ってくれるわい!」

 怒りを露わにして波打ち際へ駆け寄る磯辺さん。が、そこへ勢い良くクラゲの触手が伸びる。

「な、なにをする! やめ、やめろ……なぁっ!? だ、だめじゃ……そ、そんなところに、触手を……って、あぎゃああああああああ!!」

 ……。
 …………。
 ………………。

「というわけだ」

 どういうわけだ。
 ブリーフィングルームに集められた"あなた"たちは訝しげな目線を職員に向ける。

「あー、つまりだな。君たちには、この危険なクラゲの一斉駆除を頼みたいってわけよ」

 今回の任務は、突如として現れたクラゲ型従魔たちの『調査』と『駆除』である。
 例年通り、この海岸を海水浴場として開放するためにも、可及的速やかに安全性を確保してほしい。
 そのためにも、クラゲを一匹も残さずに駆除するのはもちろんだが、できればクラゲが大量発生した理由も突き止めてもらえると助かる。

「たしかに数は多いんだが、奴らに触られてもちょいとシビれる程度らしいから問題ないとは思うがな。ま、気楽に行ってくれや。みんなより一足先に海水浴場を貸し切りで楽しめるって考えりゃ、そう悪いもんでもねえだろ? 肝心の海を綺麗にしなくちゃどうにもならんけどよ。おぉ、そうだ。砂浜には海の家もあるみてえだから、自由に使っていいってよ。つっても、長いこと放置してたんだろうから軽い掃除くらいはしなきゃなんねえだろうけどな」

 ところで。職員は真顔で続ける。

「お前さんたち、水着は用意してあるんだろうな? なんだったら支給品で貸し出すぜ。もちろん、チョイスは俺の好みだがな!」

 一人で勝手に盛り上がる職員を"あなた"たちは呆れた顔で眺めるのだった。

解説

●目標

・海に浮かぶ『クラゲ型従魔』の調査および全個体の駆除。
・従魔が大量発生した理由を突き止める。

●状況

・場所は茨城県内にある海水浴場。現在は一般人の立ち入りが禁止されている。
・H.O.P.E.が用意できそうなものであれば『支給品の申請』は可能。現場には車で移動するので『車に積める程度』までなら可とする。
・時間制限は辺りが暗くなる『夜』まで。砂浜にある『海の家』は自由に使用して良い。

●登場

・クラゲ型従魔
 全長50cmほどのクラゲ。
 透明のぶよぶよとした生き物。所々に赤っぽい斑点が浮かび上がっている。そこそこ気持ち悪い。
 基本的には大人しいものの、ひとたび獲物が近づくと触手を伸ばして絡めとり、電流にも似たシビレを発生させる。

・磯辺守蔵
 海を愛する老人。一度はクラゲに刺されるも、夕方には復活したらしい。
 数日前に海岸の東側にある波打ち際で大きな謎の影を見たとのこと。ちなみに一週間前には山の方でUFOを見たらしい。……事の真偽は不明である。

リプレイ

●いざ海へ!
 爽やかな潮風が吹き抜けた。
 澄み渡った空には、燦々と太陽が輝いている。
 絶好の海水浴日和。天候だけを見れば、そう言って差し支えないだろう。
 しかし、現場に到着したリンカーたちを待ち受けていたのは、見渡す限りに広がる人気のない閑散とした砂浜。
 そして――美しい海に漂う大量のぶよぶよとした異物だった。
『青い空、照り付ける日差し、何処までも続く水平線、夥しい数の海月。最後の一つで折角のロケーションが台無しだね。早々に駆除して景観を取り戻すとしようか』
「その為に来たんだろうが、言うまでもねぇ」
 腰に手を当てながら異様な海を睥睨するディア(aa3292hero002)の言葉に、ガラナ=スネイク(aa3292)は気怠そうに答えた。
 黒のオーソドックスなトランクスタイプの水着を履いたガラナに対して、ディアは褐色の肌によく映える赤いフリルのついたビキニを着ている。
『ところでガラナ君、一つ聞きたい事があるのだけれど、職員さんから好みのチョイスとしてこれを渡されたのだけれど僕は一体どういう反応をするのが正しかったと思うかな?』
 そう言ってディアが取り出したのは、真っ白なスクール水着。
 ガラナはなんとも言えない表情を浮かべた。
「俺が知るか」
 同じように海を眺めながら、金色の縦ロールをぴょこぴょこと揺らしていたのは、メアリー・ノマム(aa4999hero001)だ。
『これが海ですのね! 凄いですわぁ、あぁ、欲しいですわぁっ♪』
 幼い見た目からは想像もできない豊かな胸が、マイクロビキニ越しに弾む。実に犯罪臭漂う光景である。しかも、その隣では、
「やぁ、そこの可愛らしい二人。この後、我と付き合わないか?」
 黒髪を頭の後ろで結い上げた美女――葛城 零華(aa4999)が、いたいけな少年少女をナンパしている。
 大胆に背中を露出させ、大きな胸や尻を強調するような黒のモノキニ姿は、犯罪度をさらに加速させる光景である。
「ふぇ? え、あの、お姉さん、何を……ふわわわわわわ!?」
 零華に密着された狼谷・優牙(aa0131)が顔を真っ赤にして慌てる。
 その反応は可愛らしく、学校指定の男子用水着を履いていなければ、多くの人が女の子と見間違えてしまうだろう。
『あらあら、モテモテですね~』
 その様子を楽しそうにデジカメで撮影しているのは、小野寺・愛(aa0131hero002)だ。腰にパレオを巻いたピンク色のツーピースタイプビキニがよく似合っている。
「そ、そんな……急に……いけませんわ……」
 豊満すぎる身体にアンバランスなスクール水着。
 戸惑い気味ながらもほんのりと頬を染めた廿小路 沙織(aa0017)の耳をオルトレーヴェ・メーベルナッハ(aa0017hero002)はかぷりと甘噛する。
『ぐるる……ばいんばいん、美味しそうだ』
「あぁん!? だ、だめですわ……オルテ様ぁ!」
「いいなそれっ! 我も我も!」
『ずるいですわぁ! わたくしもわたくしもっ!』
『ぐる、零華も、メアリーも、美味しそうだ』
「はわ、はわわ……」
「優牙君は見ちゃいけませんよ~」
 と、そんな風にして全年齢向けコンテンツから逸脱し始めた面々だったが、本来の目的を忘れてはいけない。
 今回の任務における最優先事項は、海の平和を脅かすクラゲたちの駆除である。また同時にクラゲが大量発生した原因の調査も求められている。
 というわけで、リンカーたちは話し合いの末、海に入ってクラゲを駆除しながら現地調査を行う班と、海の家を拠点にして分析を行う班に一旦分かれることにしたのだった。

「だりい。海っつーからもっと華やいだ光景を期待してたってのに。いざ来てみりゃ、これただのゴミ掃除じゃねえか」
 やる気なさげに三閃 影志(aa4964)が呟いた。
 わざわざ持ち込んだパラソルを広げ、設置したベンチにぐったりと寝転がっている。
『もう、トリシュってば。わかってはいたけど……サボる気満々じゃない』
 運んできた機材や飲食物などをよいせと下ろし、マギア(aa4964hero001)は呆れたようにため息を吐いた。
「マギア。あとは頼んだ」
『……はぁ。まったく、仕方ないわね。とにかく、海の家を片付けないと……』
 浜辺にぽつんと佇んだ海の家。古びた木材で建てられたその中を覗いてみると、砂や埃が散っていて少し汚れている様子だった。しばらく放置していたのだろう。
 しかし、広さは十分すぎる上に、簡単な調理器具も清潔な状態で保管してあるようだ。
「仮拠点としては悪くなさそうですね」
 荷物を抱えながらやって来た蝶埜 歴史(aa5258)の言葉に、血濡姫(aa5258hero001)が頷く。
『うむ。この程度の汚れならば特に問題なかろう』
 ところで。血濡姫が自分たちの格好を見下ろしながら、不満気に言う。
『なあ歴史や……なぜ妾達は水着を着ぬのじゃ?』
「仕事に必要無いですから。水上移動用の装備は有りますし、リンクすれば溺れる事も無いし……必要有りません」
『詰まらぬのお……フォロワー共が言うには"すくみず"なる王者に相応しいゴージャスな水着が有るとか?』
 歴史は無言のまま、即座に検索したスクール水着の画像を見せると、唇を尖らせていた血濡姫が「え?」という顔になる。
 当然それは血濡姫が想像していたものとは、かけ離れていたからだ。
『う……し、しかしよく見ればこの虚飾の無いデザインもこれはこれで妾の美を素直に引立てるのやも知れぬ。何より胸の所に歌の短冊が付いておるのがよいでは無いか? ……横向きじゃが』
 何か哀れみのこもった目を向ける歴史。
「無理に庇わなくても良いんですよ……どうせ厨二ロリコンの集団なんだし」
『わ、妾の臣民を悪く言うなあ! ……うう、やっぱり歴史は悪の枢機卿じゃ』
「……」
 そんな二人と、早くも居眠りを始めたパートナーを横目で眺めながら、マギアが頭を抱えた。
『うう……なんでもいいから誰か手伝って……』

●ぶよぶよとぬたぬた
 ざざん、ざざん。
 波打ち際。氷鏡 六花(aa4969)とアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は、青い海を前にして静かに気合を入れていた。
『この暑さにはげんなりだけど……しっかりと務めを果たしましょう』
「ん……頑張ろう……ね」
 二人が幻想蝶の光に包まれたかと思うと、六花の髪は白雪色へと変わり、天女のような蒼色の羽衣をまとった姿へと変化した。
「よーし! 海のお掃除、始めるよ!」
 共鳴前とは打って変わって、六花は軽やかに駆け出したかと思うと、そのままクラゲの漂う水中へと飛び込んだ。
 ペンギンのワイルドブラッドである六花にとって海は自分の庭である。獣人化こそ出来ないものの、もともと泳ぐことに関しては絶対の自信があった。
「……んー?」
 クラゲたちが突然とやって来た侵入者を警戒するように、ぶよぶよとした身体を寄せあい、小さな群れを作り始めている。
「ふぅん。こっちには気付いてるんだ。近付かなければ大人しいみたいだけど、逃げられても厄介だしね……一気に凍らせちゃおうかな」
 次の瞬間。
 六花の頭上に翼のように氷柱が展開し、魔法陣が浮かび上がる。
 『終焉之書絶零断章』。
 それは絶対零度のライヴスを放ち、六花の周囲に広がった海の一部を切り取るように――凍結させた。
「はぁ~……涼しい~……」
 真夏の海に突如として出現した氷の世界の中を、六花はまた気持ちよさそうに泳ぎ始めた。

「えいっ! はっ! やぁ!」
『ぐる、まずは触手。なんか痺れるけど』
「たあ! えい! えいっ!」
『ぐるぅ、なんか水っぽい。水分、搾ったほうがいい?』
「はぁっ……はぁ……このクラゲ……意外に硬いですわ……」
 必死にナイフでクラゲと格闘する沙織。その横ではオルテが捕まえたクラゲを齧ったり絞ったりして、なんとか食べようとしている。
『えい。また仕留めました~』
 一方、共鳴した優牙と愛は順調にクラゲを駆除し続けていた。
 手にしているのは、純白と漆黒の双槍だ。それをモリのように使って、次々と笑顔でクラゲを串刺しにしていく。
『あぁ、あぁ、欲しいですわぁ! このクラゲもお持ち帰りしたいですわぁっ♪』
 そこへ突撃してきたのはメアリーだ。爛々と目が輝いている。
「え?」
『ぐる?』
『あら~?』
 高いテンションそのままにメアリーが水中に飛び込むと、ざっぱーんと勢い良く水が跳ねて、数体のクラゲが宙を舞った。
『お持ち帰りぃいいいですわっ!』
 驚いたのは、沙織たちだけではない。空中から急襲を受けたクラゲたちが興奮から一斉に触手を伸ばす。
「ひぁんっ!? 脚に絡まって……ゃ、そこだめですぅ!?」
 まず犠牲になったのは沙織だった。むっちりとした太ももに、ぬるりとクラゲの触手が絡みつく。
「ぅあ、か、身体が痺れ……んぁぁ!? は、入ってこないで……きゃふぅぅ♪ そ、そこだめですぅぅぅ♪」
 非常に危険な状態である。色々な意味で。
 しかし無情にもクラゲの魔の手は被害を拡大させていく。続けて声をあげたのは、突撃をかました張本人であるメアリーだった。
『やぁんっ! このにゅるにゅるぅ、凄いんですのぉっ!』
 はち切れんばかりのバストに巻き付いた触手は、絞め上げるようにメアリーの身体を拘束している。
『ぐるる……クラゲ、飽きた。やっぱり、沙織、一番美味しい』
「ゃ、お、オルテ様ぁぁ♪ 今はダメですぅぅぅ♪」
 なんという恐ろしい攻撃だろうか。これ以上は危険だ。色々な意味で。
 だがその光景を眺めながら、零華は鼻息を荒くしていた。
「これは素晴らしいなっ! カメラを持ってこなかったのが残念だ」
『あ、あらあら~』
 ――それから色々あって。
 結局、興奮したクラゲたちは共鳴したリンカーたちに一掃された。
「お、恐ろしい……敵でした……」
 クラゲとオルテに全身をぬたぬたにされた沙織がぐったりと呟いた。

 その頃。ガラナとディアは颯爽と海上を駆けていた。
「ちっ。わらわらとうざってえな」
 ALブーツ『セイレーン』を装着したガラナが海の上で立ち止まり、行く手を遮るように移動し始めたクラゲたちを睨みつける。
 ガラナの目的は大量発生の原因を突き止めることだ。そうなると、やはり海を調べるのが手っ取り早い。
 ということで触手を伸ばしてくるクラゲたちを無視しながら海上を突っ切っていた、のだが。
『ふむ。海月たちに意思や知能があるようには見受けられないが、その行動には何らかの意味がありそうだね。僕らを足止めするような動きは本能的に何かを守ろうとしてのことだとすれば……』
 考えこむディアとは対照的に面倒だと言わんばかりにガラナは武装を展開する。
「仕方ねえ。道を開くか。それにとりあえず吹き飛ばしときゃ何かしら反応あるだろうよ」
 構えたのは『ヴァンピール』。撃ちこむ対象を考えるとやや大袈裟にも思えるそれを見て、ディアは諦めたように鼻を鳴らす。
『さて、多数相手の殲滅戦は此方の本領でね、遠慮なく行かせて貰おうか、しかしこれは環境破壊にならないか少し心配な所が……』
「いいからとっととやるぞ」
 そう言って、ガラナが戦闘態勢へと転じた瞬間――
『来んじゃねぇぇぇえええ小娘ぇぇぇえええ!!』
 海を割るような水飛沫。遠くから何かが向かってくる。
「あ? なんだぁ?」
 視線の先。全力で泳ぎまくる金髪の女。
 そして、それを追いかけながら釣り竿を振り回す、謎の生物。
「いっただっきまーーーっす♪」
『ふざけるなぁあああ!! 私は、私は餌では無い! こら近寄るなぁ!!』
 ピピ・浦島・インベイド(aa3862)と龍寓(近衛師団長)の塚井さん(aa3862hero002)である。
『はっ! 気付けば周りがクラゲだらけではないか! というかなんかこいつら近付いてきてるぞ!? まさか……まさかよもやこいつら……肉食系じゃないだろうな!? ぬわああああんもうやだああああ!』
「あはははは! 捕食捕食ーーーっ!」
 次々とクラゲを食べ始めるピピ。
 意味不明の状況に唖然とするガラナ。その存在に気付いた塚井さんが助けを求める。
『お、おい! そこの貴様、助けてくれえ! なにぃ!? クラゲ従魔の駆除? そんな事より後ろの魔物の駆除を頼む! ……ってひゃああっ!? いたいっ! しびれるっ! いたいっ!』
「がじがじ」
 クラゲにまとわりつかれ、ピピに捕食される塚井さん。
『奇怪な光景……というよりは愉快な光景だね。救出しようにもどれが能力者でどれが従魔なのか傍目から見るとさっぱりだ。同じ英雄として同情を禁じ得ないが、あの渦中に飛び込むのは正直遠慮したいところだね』
「んみゃああああーーーい!!」
『ひいいいいいっ!?』
 ため息を一つ。
「ま、よくわかんねえけど」
 ガラナは改めて『ヴァンピール』を構えると、
「まとめて吹っ飛ばせばいいだろ」
 爽やかな青空に、爆発音と悲鳴が轟いた。

●謎の影
 すっかり片付けられた海の家。
 十畳ほどのスペースに設置された机の上には、地図やら機材やら飲み物やらが所狭しと並べられている。
『お、かなり綺麗になったのう』
 調査から帰ってきた血濡姫が片付いたスペースを見て感心したように言う。
『とりあえずって感じだけどね』
『なぁに、十分じゃろ』
 血濡姫とマギアのやり取りに、先程から顕微鏡で何やら観察していた歴史が顔を上げた。
「山の方はどうでしたか」
『異常なし、かの。特に痕跡らしきモノも見当たらんかった。そっちはどうじゃ?』
「群体付近の海水を浚って調べてみましたが、幼体は確認できませんね。証言を元にして考える限り、何者かが幼体を放流したのではないかと思ったんですけど……」
『そもそもさ、お爺さんの証言自体が怪しくない? こう言っちゃうと悪いけど……お歳もお歳みたいだし……』
「つまり磯辺氏がボケてて適当な証言をした可能性があると?」
『うん……まぁ、そういうこと?』
『人間誰しも老いには勝てぬからのう』
 見た目幼女な血濡姫がそんなことを言いながらうむうむと頷く。
 歴史は少し考えこむようにして、
「山で目撃されたUFOの方はともかく、東側の海岸で目撃された謎の影が気になりますね。事実として大量に従魔が発生している以上、考えられるのは数日前に何者かが意図的に従魔を大量にばら撒いた……或いは今も従魔を大量に発生させている何者かが、海に存在している」
『ふむ……』
 そこへだらだらと身体を引きずるようにやって来たのは、三閃だった。
「だりい。あちい」
『あれ? 起きたの?』
「クソ暑くて眠れねえ」
『そうだ、トリシュ。ねえ、海の方で何か見たりしなかった?』
「あ? クラゲが浮いてたな」
『それは知ってるわよ!』
「んなことより。マギア、腹減ったしなんか食わせろ」
『え~? もう、なんもしてないくせに……偉そうなんだから」
 ぶつぶつと言いながらも、三閃のために働き出したマギアを見て、血濡姫が小さく笑った。
『持つべきものはパートナーじゃのう?』
「……何が言いたいんですかね」
 何かを期待するような血濡姫の視線に、おもわず歴史は目を逸らした。

 一方、駆除班の方も順調にクラゲを片っ端から倒していた。
 クラゲたちの抵抗はささやか――物理ダメージ的な意味では――だったので、特に問題が起きることもなく着実に海はどんどんと元の姿を取り戻そうとしていた。
 そして、かなりの数を減らすことに成功した頃。単独で海岸東側に向かった六花はある推測を元に波打ち際近辺の調査を行っていた。
「ん……大きな影……明らかに怪しい。ボスみたいなクラゲ……いるかも」
 もしクラゲたちを統率するようなボス個体がいるとすれば、大量発生の原因はその個体にあるのではないか。六花はそう考えたのだ。
『何か反応がある』
 数分ほどモスケールでライヴスの多寡を探っていると、アルヴィナが声をあげた。
 ごつごつとした岩場で形成された潮溜まりのようになった場所に大量のクラゲが浮いている。
「下のほう……何かいる……?」
 六花は目をわずかに見開いた。
 水面の底から、ぽこりと新たなクラゲが浮かび上がってきたのだ。
 覗き込むとそこには――赤黒い斑点を持つ、巨大なクラゲ。
「……ん。見つけた。皆に……連絡……」

 六花の連絡を受けて、数分後にはリンカーたちが集結していた。
「他のクラゲと比べると、明らかに大きいですね……」
『ぐる、他のより、美味い?』
 オルテに賛同するようにピピが叫ぶ。
「んみゃい? んみゃい? 食べよーーーっ! がじがじ!」
『ぎゃあああっ! 小娘、なぜ私を食べるっ!?』
 ガラナが眉をしかめた。
「なんでもいいからとっとと仕留めちまおうぜ」
『もったいないですわぁっ! あんなに変なクラゲですのにっ!』
「メアリー。流石にアレを持ち帰るのはやめてくれ」
 興味深そうに巨大クラゲを眺めながら、歴史が言う。
「本当にこの個体が大量発生の原因なのか確かめてから駆除するべきでは?」
『確かめるって、どうするつもり?』
 マギアが小首を傾げる。
「出来れば捕獲して観察したいですね」
「ほ、捕獲するんですか? 危ないんじゃ?」
「ふふ……安心しろ。優牙はお姉さんが守ってやるぞ?」
「は、はわ……」
 零華に頭を撫でられて赤くなる優牙に、歴史が淡々と返す。
「戦闘能力を失うまで弱体化させるか……或いは単純に行動を阻害出来れば良いんですが……」
『つまりは全員でぼっこぼこにすると。歴史らしい発想じゃの』
「……」
 血濡姫にジト目を向ける歴史の裾がくいっと引っ張られる。
「……ん。凍らせれば……いいの」
「凍らせる……なるほど。お願い出来ますか?」
「……ん」
 頷いた六花は手早く共鳴を済ませると、周囲を瞬く間に氷漬けにした。
 それから氷の槍でざくざくと氷を切り取ると、ボスクラゲが凍結した部分だけを持ち上げる。
 すると、六花の手の中でぶるぶると小刻みに氷塊が揺れる。
「……?」
『お、おいっ! そいつまだ動いてないかっ!?』
 近くにいた塚井さんが叫ぶと同時、氷塊を突き破り――長い触手が六花の身体に巻き付いた。
「え、やだ、触手が……んっ……あっ、あ……ん、変な、ところ、に……あんっ」
 ぬるりと伸ばされた触手が六花の足首を締め上げて、上へ上へと伸びていく。
『ちょ、ちょっと、六花、大丈夫……!? た、大変っ、早く、触手を抜いて、脚を、閉じなさい……っ』
「おおおっ!? いいぞ! お約束の展開ではないか!」
『いやいや! 言ってる場合じゃないでしょ!』
 興奮する零華を余所に全員が戦闘態勢に入る。
 しかし、その前に六花の全身から凄まじいまでの冷気が発せられた。
「たあーーーっ!」
 海の彼方へボスクラゲが全力投球され、
「サンダーランスッ!」
 轟音と共に一直線に放たれた雷の槍が、それを貫いた。
「……」
『……』
 呆然とする一同。
「……えっと……手加減……したよ?」
 念のため回収に向かったところ、ボスクラゲは瀕死の状態でぷかぷかと浮かんでいたそうな。

●束の間のバカンス
 その後、一同総出で取り掛かったこともあり、殲滅作業はすぐに終わった。
 無事にクラゲが一掃され、海は本来の美しさを取り戻したのだ。
 ということで、完全にお遊びモードに切り替わったリンカーたちは、それぞれが平和な時間を過ごしていた。

「んみゃあああああーーーい!! クラゲさんも美味しかったけどやっぱりお魚さんが一番おいしーー!!」
 はぐはぐと皿にかぶりつきながらピピが叫ぶ。
 ピピのリクエストで特別に用意されたのは、沖合で捕獲してきた魚を使った刺身だ。その新鮮さは言うまでもないだろう。
『ええっと、飲み物は十分あるでしょ……あとは定番で焼きそばとか……そうだ、かき氷もあったわね』
 忙しく働いているのはマギアだ。生真面目な性格故なのか、今ではまるで海の家の従業員のようになっていた。
「あーだりぃ……おい、マギア。なんか疲れたしオレにも飲み物くれ」
『アンタは何もしてないでしょうが!』
 一方、隅っこでうずくまりながら塚井さんは一人泣いていた。
『くうぅ……私の気苦労を知らずにのうのうと……』
「んみゃんみゃ」
『絶対に許さないぞ小娘ぇ……!!』
 歴史が浅く息を吐いて、顔を上げる。
「……どうやらこの個体は身の危険を感じると身体の一部を分裂させて成体を生み出す機能を持っているようですね。もともと何処から来たのかは不明ですが、恐らく海を漂っているときに魚にでも襲われて一気に分裂したのが大量発生の原因ではないかと」
 瀕死のボスクラゲを観察した結果、やはり大量発生の原因はこのボスクラゲにあることが判明した。なんと六花のサンダーランスによってダメージを受けたボスクラゲが次々と分裂したのだ。
「気にかかることはまだ有りますけど……これ以上の調査には時間も必要ですね」
 歴史の言うように全ての謎が解けたわけではないが、少なくともこれでまたクラゲが大量発生するような事態にはならないだろう。
『何れにせよ、妾達の任務は終わったということじゃの』
 畳に足を投げ出して、血濡姫が首元を仰ぐ。特にやることもないのか、退屈そうだ。
 そんな血濡姫の様子をしばらく黙って見ていた歴史だったが、仕方ないとばかりに用意していたある物を取り出した。
「はい」
『……お?』
 それは職員が支給品として押し付けてきた水着の一つだった。もちろんスクール水着ではないが、比較的に布面積の多い大人しめのやつである。
「泳いできても良いですよ。……ま、今日はちゃんと我慢してましたからね」
『おお! 些かゴージャスさには欠けるが良しとするぞ! 歴史よ、褒めて遣わす!』
 さっそく水着を受け取って、うきうきと駆けていった血濡姫を見送りながら、歴史はごろりと横になった。
「……やれやれ」

 その頃、波打ち際では。
 六花がほんのりと頬を赤くしてもじもじとしていた。
「……ん。涼しいけど……恥ずかしい……です」
 それもそのはず。六花が身に纏っているのは、強引に職員から手渡されたという水着――というよりも、紐だった。
 隠すべき部分こそ隠せてはいるものの、その露出度は一般的なビキニの比ではない。
『恥ずかしいって? なんで?』
 アルヴィナが小首を傾げる。
 肌を晒すことに何の抵抗もない女神からすると、六花の反応は理解できないものだったらしい。
「……なんか、すーすー……して」
『よくわかんないけど早く泳ぎましょう! 暑いのイヤ!』
「……あ、だめ……走ると、取れる……」
 そもそも別の水着に着替えればいいだけなのだが、純粋な六花は最後までそれに気付かなかったのだった。

「あ、や……零華様……あまりはしゃぐと危ないですよ?」
「ふふ……心配なら安心して身を委ねていいのだぞ。ほら、優牙もこっちに来て我と一緒に泳ごうじゃないか」
 沙織の手を取って、すいすいと零華が泳ぎ回っていた。ちなみにメアリーは砂浜で貝やら何やらを上機嫌で拾っている。
「はふ、このまま海の家でゆっくりしてた……かったんだけどな!?」
 海の家でのんびりしていたところを強引に連れてこられた優牙が愛と共におずおずと海へ入ってきた、かと思うと。ぐいっと零華に引っ張られ、沙織と共に抱きしめられる。
「おっと! 手が滑ったぁ!」
「うひゃあ! れ、零華さん……!」
「うぅ……いけません……いけませんわ……」
「うむうむ。両手に花とはこの事か」
「な、何か違和感が……はわ!? あ、あれ、僕の水着!?」
 いつの間にか優牙の水着をがじがじと咥えているオルテ。
『ぐるる……この布、ざらざら……』
『あらあら~』
「ふはははは! このまま何処までも泳ぐぞ!」
「あぁんっ! 水着が……水着が引っ張られて……!」
「ちょ、ま……待って! 待ってえええ!」

 浮き輪に座りながらぷかぷかと浮いているディア。
 それを見て、ガラナが微妙な表情になる。
「楽しいのかそれ」
『特別に楽しいかと訊かれれば首を傾げざるを得ないけれどね。僕は泳げないのだから仕方ないだろう? ま、彼女たちのように自由に泳げればさぞかし気持ち良いだろうなとは思うさ。こうしているのも悪くはない気分だけどね』
「ふぅん」
 ガラナは少し考えこむような素振りを見せて、
「何だったらよ、泳ぎ……教えてやってもいいぜ」
 意外な言葉にディアは目を丸くする。
『おや、ガラナ君にしては珍しい気遣いだね。雨でも降ってくるのかな? 折角の海水浴日和なのに残念……待った待った、無言で浮き輪に手をかけるのはやめてくれないかな? 僕泳げないって言ったよね!? ちょ、僕が悪かったからやめ……!?』
 どっぱーん!
 盛大に水飛沫が上がり、青空には虹が架かった。

 こうして――
 束の間のバカンスは、実に平和に過ぎていくのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 胸囲は凶器
    廿小路 沙織aa0017
    人間|18才|女性|生命
  • エージェント
    オルトレーヴェ・メーベルナッハaa0017hero002
    英雄|12才|女性|ドレ
  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    小野寺・愛aa0131hero002
    英雄|20才|女性|カオ
  • 海上戦士
    ガラナ=スネイクaa3292
    機械|25才|男性|攻撃
  • エージェント
    ディアaa3292hero002
    英雄|9才|女性|カオ
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