本部

【屍国】連動シナリオ

【屍国】廃仏毀釈

影絵 企我

形態
イベントショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
6日
完成日
2017/08/03 18:58

掲示板

オープニング

 時が訪れた。仏を廃し、釈迦を毀す時が。

 黄泉への道を開いた神門に、黄泉への道を閉ざした空海。
 二人の戦は昼夜を隔てず、長きに渡り続いた。
 果てに空海は己の身を削りながら、神門をその手で封じた。
 空海は御仏の教えに身を委ね、四国の守りの礎となった。

 それから1000年を超す時を隔て、神門は帰って来た。
 己を敗北せしめた空海と、再び相まみえる事を望んだ。
 しかし空海は既に亡く、残るは仏の教えのみ。

 故に神門は望むのだ。
 空海が守り抜いたこの四国を毀す事を。
 空海が抱いた仏の教えを廃する事を。



 鬼が猛り吼える。その手に握りしめた槌を振るい、目に付いた家を薙ぎ倒していく。彼らの腐り黄ばんだ瞳が見据えるは結界の要、善通寺。朱天王が最後の戦の為に望んだ戦場だ。既に寺の東では火の手が上がり、夜更けの街の空を紅に染めようとしている。
 全身を貫く触手を血管のように脈打たせ、鬼は突き崩した瓦礫の中を憤然と進む。あの世に行き損なった怒りを、その振り下ろす槌に込め、行く手を阻むコンクリートの塀を粉砕した。彼らが目指すは善通寺。この地を守るエージェント達の砦だ。
 鬼の名はサイノカワラ。夜愛が神門の肉を受けるに相応しい器を選び出し、芽衣沙が器の肉に己の力を縫い込み生まれた黄泉の化け物。腐った皮膚は裂け、中から肥大化した肉が覗いている。どんな矢傷刀傷もたちどころに埋め合わせる肉だ。神門の肉の力である。そんな鬼が、北からも南からも、次々に街並みを薙ぎ倒して善通寺に迫っていた。
 エージェント達は善通寺を飛び出し、鬼達の前に姿を現した。朱天王が戦場を駆け巡る今、この鬼に手を煩わせているわけにはいかない。前にも一度相対し倒した怪物。すぐさま倒してみせるとばかりに、めいめい武器を構える。鬼もまたエージェントの姿を目に捉えると、息を荒げ、肩を怒らせ槌を振り上げた。唇が削げ露わになっている歯の隙から、だらりと血が零れる。

「――俺はヨモツシコメ三姉妹の長女、名は朱天王! ここで諸共に灰燼に帰すまで、存分に闘おう!」

 朱天王の声が朗々と夜の街に響き渡る。勇猛果敢たるその声色に、南北八体の鬼は色めきたった。槌をさらに高く振り上げ、木々を萎らす悍ましい鬨の声を上げながら、エージェントに向かって突撃していく。

 後に”善通寺の戦い”として知られる戦いの火蓋が、切って落とされた。

解説

メイン サイノカワラの討伐
サブ 善通寺にサイノカワラを侵入させない

エネミー
サイノカワラ×4
夜愛が企て、芽衣沙が創り、朱天王が率いる冥河の鬼軍団。一度憤激すれば、全てが灰塵に帰す。
●脅威度
ケントゥリオ級
●ステータス
物攻D 物防A 魔攻E 魔防B
命中C 回避D 生命A
イニE 抵抗A 移動力4
身長2.5m 体重300kg 知能 獣級
●スキル
・石崩
 夜愛が組み込んだ神門の因子により得た能力。どんな傷もたちどころに癒す。[パッシブ。毎CFに生命力を20回復。また、シナリオ中一回のみ、最大生命力を半減させ生命力を100回復出来る。]
・憤激
 芽衣沙が神門に分け与えられた力により創りあげた、傷つけられるたび強化される肉体。[パッシブ。石崩後半の能力を発動した時に同時に発動。物攻をAまで引き上げ、移動力を倍にする。]
・執念
 朱天王の敵愾心に影響されて発生した、己の任を果さんとする強靭な意思。[パッシブ。精神系BS無効。]
●武器
・大槌…夜愛が持たせたAGWの巨大な槌。前方1sq全て対象。建築物に強烈なダメージ。

大まかなフィールドと敵配置
□□□◆□□□ □□□▲□□□
□□□□□■□ ■■■☆■■■
■■■☆■■■ □□□□□□□
■■■□□□□ ■■■□□□□
■■★□□□□ ■■★□□□□
(左:1マス15×15sq前後 右:1マス5×5sq前後)
□…平地 ■…建築物(移動力にマイナス修正)
▲…南大門 ◆…本堂 ☆…エージェント配置地点
★…サイノカワラ配置地点

Tips
・時刻は夜明け前。最も暗い時間帯。
・撃破のために立てた作戦は北側で戦うNPCにも反映される。綿密に練れば成功度が向上する。
・サイノカワラは常に本堂を目指して移動し続ける。挑発には左右されない。
・障害物を予め設置する事も可能。

リプレイ

――行こう。
――はい。生きて……勝利を。



 三途の川の鬼が迫る。道路に並べられたコンテナや車両を大槌で砕き、潰し、南大門に四体の鬼が押し寄せる。投光器の激しい光、東の方に上がる火の手に照らされ、鬼は赤々とその腐肉を晒していた。エージェント達は南大門の屋根に立ち、鬼どもをじっと見下ろしていた。
「ここは通さへんで……救助隊改め“義”の弁慶とはうちの事どす」
『その守りで、か?』
 得意げに呟く弥刀 一二三(aa1048)を、相方のキリル ブラックモア(aa1048hero001)はすかさず茶化す。
「ほな、牛若丸にしときますわ。弁慶は拓海に譲ったるで」
「最期は立ったまま戦死じゃないか。縁起でもないぞ」
 それを聞いた荒木 拓海(aa1049)がわざとらしく引いてみせる。一二三は意地になって言い返した。
「現代の弁慶は死なんのや! 同じ事繰り返すほど弁慶は阿呆ちゃうやろ」
「……そうだな。オレは死なないし、誰一人死なせない」
 炎を受けてぎらつく魔剣を握りしめ、車両を文字通りスクラップにして乗り越えてきた鬼を見据える。唇の剥がれた口から、血をぼたぼたと垂らしていた。メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は拓海の中から静かに囁く。
『(報告書は確認してたわね。……どこを狙えばいいかもわかるわよね)』
「うん。……彼らは人だったんだ。あんな姿に変えられて、今も苦しんでる」
『(……そうね。皆の手で、眠らせてあげましょう)』
 拓海は頷くと、ふと笑みを浮かべて迫間 央(aa1445)に目を向ける。
「央、最後まで任せる事になるが、行けるよな。……嫁が三人も居るし」
「それは関係ないだろ」
 央はぴしゃりと言う。手の内で刀を弄び、彼はいつもの通り強気に従魔を睨みつけていた。
「ま、俺が崩す、お前らが決める。いつもの事だ」
「さっすが素戔嗚央。頼りになりますなぁ」
 一二三は気楽におどけてみせる。四体のケントゥリオ級を前にしても、彼らの士気は高かった。それを横目に見つめていた灰堂 焦一郎(aa0212)は、全身を取り巻くシステムのアイドリングを始める。
「では行きましょう。自分はこの地より全力で支援致します」

『驚異的な再生力を持つ鬼、か。……ふははっ、いいぞ! 何度でも全力で斬れるからな!』
「ふぇにや、彼の敵は痛みを怨念として強くなる……忘れるなかれ」
フェニヤ(aa5018hero001)は目の前の鬼から伝わる闘気に喜び、声を震わせる。艶やかな色合いの衣に身を包んだ御剣 華鈴(aa5018)は、刀の柄に手を掛け静かにフェニヤを諭していく。この戦いは、与えられた使命。生きて果たさねばならぬのだ。
「我らは御嬢様の下へ、笑顔で帰らねばならぬ。……分かるな?」
『……いいだろう。ただしそれは、あのデカブツ共を全て討ち滅ぼしてからだ!』

「いよいよクライマックスね! あたいは成り立てだからよくわからないけど!」
『それ自慢するところじゃないでしょ……とはいえやるべきことは一つね!』
 雪室 チルル(aa5177)とスネグラチカ(aa5177hero001)は、悍ましい鬼を前としても恐れる事を知らない。さいきょーを目指す彼女達が、ただの四国の一角で怖気を震うわけが無いのである。ロングコートの内から長剣を抜き放つと、鬼に向かって真っすぐ構えた。
「あたい達も、ベストを尽くすよ!」

『よし、みんな準備は出来てるね。愛の天使も頑張るよ』
 百薬(aa0843hero001)は周囲を見渡しガッツポーズを決める。強い絆で結ばれあった仲間達。誰も肩に力は入っていない。恐れを知らず、只管に勝利を信じていた。それを確かめた餅 望月(aa0843)は穂先に火炎を纏わせ槍をバトンの様にくるくると回す。
「それっ! 作戦開始だよ!」
 翼が広がり、光を纏った羽毛が跳ねる。その光を受けた13の瞳が、獅子や猛虎のようにギラリと輝いた。
「行くぞ!」
 誰からともなく上がる鬨の声。各々武器を構え、六人の戦士が鬼に向かって飛び出した。
 鬨を聞いた鬼は槌を両手に構え、一層強い足取りで善通寺を目指そうとする。その時、コンテナや車の影を縫うようにして張られていたワイヤーが不意に動き、中央左の一体が握りしめる大槌に纏わりつく。
「悪いが……此処から先は立ち入り禁止だ!」
 ワイヤーから眩い光が放たれる。手元で爆撃を貰った鬼は、思わず大槌を取り落とす。素早く拾い上げる鬼だが、そこへ桜小路 國光(aa4046)が駆け込み、鬼の手の内に双剣を差し込む。
「行くぞ、メテオ!」
『はい!』
 息を合わせて振り抜いた双剣は、大槌を高々と撥ね上げた。

『サイノカワラ……前と同じね。いよいよ戦力が尽きてきたのかしら』
「何が来ようと斃すだけだ」
 マイヤ サーア(aa1445hero001)のクールな囁きに、央は淡々と応える。既にその目は四体の鬼を真っ直ぐに捉えていた。
「来い鬼ども! 格の違いを見せてやる!」
 握りしめた拳を、頭上越しに思い切り振り抜く。投げ放たれた目にも映らぬワイヤーは、それでも確かに三体の鬼を捉えた。動きを妨げられた鬼は吼えながらワイヤーを引きちぎろうともがく。そんな仲間を尻目に、網を逃れた一体の鬼は構わず先へと突き進む。懐から一本の針を取り出しながら、央はインカムに向かって叫ぶ。
「灰堂! 頼んだ!」

「了解。皆さん、支援射撃を開始します。射線にご注意を」
《目標確認。戦闘システム起動》
 ストレイド(aa0212hero001)が言い放つと同時に、深紅のモノアイが煌々たる闇夜にぼんやりと浮かぶ。銃身長いライフルを構え、焦一郎は車を大槌で叩き潰す鬼の脚に狙いを定める。迷いなく放たれた一発は、音もなく飛び鬼の脚を穿つ。
 鬼は吼え、その場に崩れた。腐った肉はもぞもぞと動くばかりで血の溢れる孔を一向に塞ごうとしない。央の放った針が首筋に突き刺さり、ライヴスの供給を妨げているのだ。焦一郎は素早く周囲を見渡し、網から抜け出した鬼が狙い通り彷徨い始めるのを見て取る。
《目標は予測ルートを進攻中》
「観測を続けます。攻撃は手筈通りに」

「りょーかーい! 華鈴、息を合わせて一緒に行くよ!」
「承知!」
 新進気鋭のエージェント二人は果敢に突っ込んでいく。華鈴が手始めに、紫に彩られた大剣を一息で振り抜く。鬼は咄嗟に大槌を合わせてその一撃を受け止めるが、その隙をチルルは見逃さない。
「出し惜しみはしないよ! あたいのとってもつよーい一撃、食らっちゃえ!」
 脇構えから、白銀のライヴスを纏った長剣をチルルは真一文字に振り薙ぐ。腹に刻まれた裂け目から、血がたらりと溢れる。そのまま武器を構え直しながら、チルルは振り返って叫ぶ。
「華鈴!」
「錬招来……己が意志、刃として研ぎ澄ませよ」
 祈るように剣を立て、華鈴は静かに唱えていた。全身にライヴスは既に満ち、戦衣が力強く揺らめく。
 鬼が体勢を立て直そうとしたところ、華鈴は一直線に斬りかかった。
『喰らいやがれ! トリプル・ソード!』
 袈裟、唐竹、一文字薙ぎ。澱み無き三連撃が鬼の身体を切り裂く。裂けた腐肉は、やはり埋まる気配を見せない。苦しみ唸りながらも、大槌を振り回し、車を叩き潰しながら前進を続けようとする鬼。そこへ畳みかけるように、弁慶と牛若が迫った。
「斬り伏せる!」
 霞の構えで突っ込んだ拓海は、焦一郎が空けた脚の穴にそのままの勢いで魔剣を突き立て、すり抜けざまに一気に振り抜く。丸太の様に太い脚が裂け、腐った肉の隙間から、黄ばんだ骨が露わになる。
「行けよ、ヒフミ!」
「任しとき! いっちょかましたるわ!」
 闇が造り上げた刀身を、一二三は鋭く鬼の脚へと振り下ろす。渾身の一撃に千切れかけた脚は堪えきれず、呆気無く断ち切られて鬼はその場に崩れ落ちた。一二三は再び高々と刀を振り上げる。狙いは胸で蠢く心臓。
「あんたも人やってん辛かったろうな。これで楽にしたる」
 ライヴスに巻かれた刃が、炎の輝きを浴びて歪に輝いた。



「一体目は瀕死の様相を呈しております。今しばらく足止めをお願いします」
 無線から焦一郎の声が飛んでくる。盾を構えた望月は、破れた網を被ったまま突っ込んでくる鬼を迎え撃つ。目の前に立ち塞がる煉瓦模様の壁を鬱陶しがり、鬼は唸って大槌を振り抜いた。望月と百薬を襲う、全身痺れるような衝撃。しかしそれで道を譲る気はさらさらなかった。
「そんな攻撃では怯みません!」
 全体重を盾に乗せ、望月は一気に飛び出す。盾の重みを乗せた体当たりが、鬼の歩みを止めた。きっと望月は鬼を見据え、百薬が強気に叫んだ。
『厄除けの名所は、ワタシ達が護る!』

「崩す!」
 すれ違うように鬼の横へ付き、國光は逆手に持ち替えた双剣を膝裏に突き刺す。突然の一撃に膝は折れ、鬼はぐらりとよろめきたたらを踏む。苛立ちに唸る鬼は、國光に向かって大きく腕を振り抜いた。國光は咄嗟にもう一方の剣を振り上げ、その一撃をどうにか受け流す。
『(サクラコ、三体はしっかりと足止めできているのです)』
「ああ、餅さんに迫間さんが当たっているんだ。心配するまでも無かったかもしれないな」
 周囲を探るメテオバイザー(aa4046hero001)の報告に、國光はちらりと口端に笑みを浮かべて頷いた。再び國光は鬼の眼前へと回り込み、鬼の太腿に双刃を突き立てる。
「オレ達もコイツをしっかり留めないとな」

 鬼は吼え、目の前に置かれたトラックに思い切り大槌を叩きつける。運転席が一撃で拉げ、派手に吹き飛び障害物の列を潰していく。高く跳び上がってその一撃を躱した央は、やれやれと溜め息こぼす。
「人間の作戦なんて鬼にはお構いなしってか?」
「仕方ありません。逐一障害物を破壊して進軍している分、一応の足止めにはなっているようです」
 焦一郎の分析に央は深々と頷き、懐から一本の苦無を取り出す。
「まあ、どちらにせよ俺達のやる事は変わらんな」
 歩みを続ける鬼の前に立ちはだかり、苦無を弄びながら央は鬼を挑発する。
「どうした? 邪魔なら叩き潰せばいいだろ?」
 鬼は太い声で吼え、大槌を両手で持ち高々と振り上げた。熱を持った槌が威圧的に煙を吐き出す。
 絶叫と共に振り下ろされる一撃。刹那、央の姿が“ブレた”。衝撃で砕け飛び散るコンクリート。央の姿はそこになく、ライヴスに満ち満ちた苦無だけが槌の柄に深々突き刺さっていた。



「コワス……コワス!」
 孔の開いた心臓を触手で突き動かし、鬼は吼える。切り落とされた脚は生えてきた触手が補い、腐肉を紅く染め上げた鬼はエージェントを突き飛ばしながら善通寺へ突き進む。しかしすぐに態勢を立て直した拓海が、魔剣を構えて鬼に真正面からぶつかる。
「そう簡単に通しはしない!」
「ああ、他で戦っとる仲間の為にも通す訳にはいかんな!」
 隣に一二三も並び立ち、盾を構えた体当たりで鬼を抑え込んだ。それでも、全身に触手を纏わりつかせた鬼は力任せに二人を押し退けようとする。
「華鈴さん、雪室さん! 今の内に!」
「おっけー!」
『そんな丸出しの弱点、狙わないわけにいかないよね!』
 再び刃に白いライヴスを纏わせ、剣を肩に担いで道路に転がる瓦礫を踏み越え高々跳び上がった。投光器の光を浴びてちらつくダイヤモンドダスト。鬼は思わずその姿を目で追ってしまう。
『間抜けが! 戦場で余所見は命取りと知れ!』
 すかさずフェニヤが叫ぶ。神斬を上段に構え、華鈴は目を見開く。
「神斬りの剣に、鬼が斬れぬ道理は無し!」
 続けざまに三度振り抜かれた刃は、闇夜に舞う太刀風を生んで鬼の心臓を引き裂く。黒ずんだ血が噴き出し、鬼は天を仰いで叫ぶ。既にチルルが、長剣の切っ先を真下に降ってくるところだった。
「これでとどめだーっ!」
 全体重を乗せ、チルルは鬼の心臓に向かって襲い掛かる。傷を埋め合わせようと肉が蠢くがもう遅い。巨大な心臓に刻まれた傷に刃が刺さり、そのまま串刺しとなる。

 轟く断末魔。鬼はぐらりと揺らぎ、その場に崩れ落ちた。



 盾を構えて立ち塞がる望月に、何度目かも数えられなくなってきた一撃が襲い掛かる。器用に盾を振って受け流すが、既に鉄壁を誇った盾が悲鳴を上げていた。表面に罅が入り、薄らと煙が立ち始めている。
「ちょっと、まずいですね」
『これ以上使うと壊れちゃうよ。一旦態勢を整えないと――』
「先行した鬼は撃破されました。攻撃役の皆さんには直ちに餅様の方へ向かって頂きます」
 そこに飛んでくる焦一郎からの連絡。望月は安堵したように溜め息を零した。
「わかりました。それならワタシも何とかなりそうです」
 壊れかけた盾を脇に放ると、槍を片手に賢者の欠片を取り出す。盾を構えようと、槍を構えようと、構わず鬼は大槌を振り上げてきた。
「一旦態勢を立て直します。支援お願いしますね」

「了解しました。では――」
「すまん灰堂。一回こいつらを崩してくれ。もう一発“女郎蜘蛛”を叩き込む」
 銃を構えた瞬間に央の要請が届く。確かに國光の抑える鬼と央の抑える鬼がじりじりとその位置を近づけている。上手く転ばせれば纏めて網に取れそうだ。
「なるほど。やってみましょう」
 ライフルを構え、焦一郎は三体の鬼の足下にぴたりと狙いを定める。
「進路及び射線クリア。ストレイド!」
《照準固定。AGW・最大出力》

 次々と放たれる銃弾。三発は全て鬼の脚を撃ち抜き、その場でつんのめらせた。間髪入れず、央は橙の夜空に高く跳び上がった。
「もう一発これをくれてやる!」
 投げ放たれた蜘蛛の網。二体の鬼を巻き込み、その全身を絡め取った。赤黒く染まった皮を引き裂き、鬼を着実に痛めつけていく。
「鮮やかなお手並み、お見事です」
「ま、これくらいはな」
 央と國光は肩を並べて鬼と向かい合った。鬼は肉に網が食い込むのも構わず強引に網を引きちぎり、手ぶらの拳を構えて二人へと殴りかかっていく。央はそれを横っ飛びでさらりと躱し、國光は両の刃で器用に受け流す。
『鬼さんを怒らせないように、ですね』
『ええ。じっくり付き合ってあげましょう』

「来たぞ、モチさん!」
 影から素早く飛び出し、剣を担いで思い切り袈裟に振り抜く。渾身の一撃は大槌を撥ね返し、鬼をぐらりとよろめかせる。その隙に華鈴が素早く車両の上に飛び出し、神斬を思い切り振り抜いた。
『ハザマの策、借りるぞ!』
 衝撃波が飛び、大槌を握る鬼の指を切り裂く。握力が緩み、手元から大槌が剥がれる。待ってましたとばかり、チルルが大槌に飛びつきその手からもぎ取った。
「武器を捕るのはじょーとーしゅだん!」
「ええ連携やで若い衆!」
 後から悠々と駆けつけた一二三、肉を削ぎ落すように剣を振るいながらにっと白い歯を見せる。年寄り臭い言い方に、キリルは呆れたようなツッコミを入れる。
『そんな事言える歳では無かろうが』
「ええやろ! 少しくらい先輩風吹かしたって! おう、頼んだで灰堂はん!」

「お任せください」

 間を置かずに南大門から放たれた一発が、鬼の右眼を撃ち抜いた。コールタールのように黒ずんだ血をぼたぼたと垂らしながら、鬼は呻く。その隙に四人の攻撃部隊が望月の前に並び立つ。
「おお、皆さん頼もしいです……!」
『一気に押し込むよ! 愛の天使の加護、受け取ってね!』
 百薬の鼓舞と共に彼女のライヴスが周囲を包み込み、再び戦士達の眼に闇を見透かす力を授ける。
「さあて、今度はうちらで決めよか、拓海」
「ああ。出し惜しみはしない!」
 一二三が漆黒の刃を振り抜くと、闇の波動が鬼の胸で弾ける。その衝撃で胸の肉は削げ、肋骨が砕けて巨大な心臓がはっきりと露わになった。全身に張り巡らされた触手が蠢き、心臓へと伸びていく。そこへ一気に踏み込んだ拓海は、魔剣を天から地へと振り下ろす。
「このまま仕留める!」
 真っ二つに心臓が裂けるが、その傷はすぐさま触手が縫い合わせ、大量の血を溢れさせながら心臓は強引に拍動を始める。同時にその肌は紅くなっていき、右腕で触手が硬質化して巨大な棘と化す。鬼は潰れた目を見開き絶叫した。見るも悍ましいその姿に、望月は目を白黒させる。
「うわわわわ。怒ってますよ」
「大丈夫! このまま押し切るぞ。……央!」

「人遣いの荒い奴だな、全く!」

 軽口を叩きつつ、どこからともなく央が跳んでくる。音もなく戦場へ紛れ込んだ彼は、突進してくる鬼の顔面に、叢雲の切っ先を突き付けた。鬼は咄嗟に仰け反り、その足を止めてしまう。びくびくと跳ねる心臓が、光の下に晒される。
 素早く切り込んだ拓海が、鋭い二連撃で動脈に触手を切り裂く。
「もう十分苦しんだやろ!」
「……眠ってくれ!」
 最後の一撃に息を合わせ、一二三と拓海が次々に袈裟と逆袈裟を叩き込む。四つに叩き斬られた心臓は、突如どろどろに溶けて地面へ流れ落ちた。同時に鬼の身体も見る見るうちに歪み、ただの哀れな亡骸となってその場に倒れ込んだ。
「おし! 次行くで! 急がな門が破られるわ!」


『(サクラコ、少し息が上がってきているのです)』
「確かに少し苦しくはなってきたな。……でもまだ音を上げるには早い!」
 全身を固め、骨の棘が飛び出した肩から突っ込んでくる鬼。右の剣でそれを軽く受け流し、切り返すように左の剣で鬼の胸元を切り裂く。鬼は軽く呻いて後退りした。全身に食い込んだ央のワイヤーは、盛り上がる肉を常に切り裂き続けている。所詮は神門の劣化コピー、國光に刻まれた傷までも埋め合わせている余力までは無かった。
「國光! 助けに来たぞ!」
 チルルが真っ先に駆け付け、鬼に向かって素早く斬りかかる。鬼は左腕を差し出しその剣を受け止めるが、ガラ空きになった脇腹に向かって華鈴がインサニアを突き出す。
『茨付きの狂剣、その身で何度でも味わえ!』
 肋骨の間を貫いた刃。その傷口から血が溢れる。顎が外れんばかりにして叫ぶ鬼に迫り、一二三と拓海はその両足の甲に刃を突き立てる。
「どや! 前に進みたかったら進んでみぃ!」
 仲間の鮮やかな連携は頼もしい限りだ。國光が安堵した想いでいると、望月が駆け寄り腫れた彼の腕や足に治癒の光を当てる。
『足止めお疲れ。もうひと踏ん張りだよ』
「ありがとうございます。確かにここからが正念場ですね……」
 國光はレーギャルンに双剣を収め、鎖を留め直す。エージェントから畳みかけるような攻撃を喰らった鬼は、既に冷たい心臓を触手で動かそうとしていた。
「そうはさせない!」
 國光は咄嗟に居合の様に剣を抜き放った。同時に放たれた衝撃波が、心臓に向かって伸びる。すぱりすぱりと切り裂かれた触手は、行き場を失いだらりと垂れる。心臓が止まったままでは回復もままならず、鬼は俄かに苦しみ唸り始めた。
『狙い通りなのです! 今の内に止めを!』
「任せてくれ!」
 メテオの号令に合わせて、咄嗟に拓海が動いた。冷たいままの心臓に向かって、息も継がずに三度連続の突きを見舞う。傷を癒せずに只管苦しんでいた鬼は身さえ守れず心臓を貫かれ、その場に傾いで斃れた。この鬼もまた、ラガーマンじみた男の亡骸へと変わっていく。

「……なるほどな。触手を使って無理矢理心臓を動かさないと、こいつはキレられないってわけだ。それならもう話は早いな」
 一人で一体の鬼と相対し続けていた央は、三体目の鬼が倒れる様を見て納得したように頷く。武器を構え、一気に懐へと潜り込んだ。次の瞬間には、鬼を取り巻く触手が幾つも寸断されていく。鬼は苦しみに呻き、威嚇するように唸るが、ライヴスの針で縛られたその身は回復も出来ないままだ。縮みゆくワイヤーが、いよいよ鬼の肉を寸断しようとする。
「待たせたなあ、央」
「聞くまでも無く大丈夫そうだな」
 拓海と一二三が真っ先に央の両脇を固める。央は頷くと、剣を手の内でくるりと回す。
「当たり前だろ。さぁ、とっとと止めを刺そう――」

 闇に向かって立ち昇る煙の向こう側、乾いた爆発音が二発立て続けに響いた。

「爆発!?」
 神門側が何度も繰り広げた爆破の攻勢が嫌でも脳裏に過ぎる。しかしエージェント達の集中は削がれなかった。
「問題ありません。善通寺に被害は無いようです。我々は我々の仕事を果たしましょう」
 焦一郎の冷静な通信。戦士達はその言葉に頷き、鬼と真っ直ぐに対峙する。
「アアアアア……」
 しかしその鬼の様子がおかしい。天を仰ぎ、鬼は何処か呆然としていた。
『……何か、あやしい』
 百薬は訝しげに呟き、望月は素早く槍を天へ掲げ、エージェント達に治癒の雨を降らす。
「アアア」

 エージェント達は知る由も無かったが、鬼は気づいていた。己が戴く将が、今まさにこの世から消えた事を。朱天王の名に相応しく、朱の爆炎に華々しく散った事を。

 取り残された鬼は目を剥いた。腐って潰れかけたその目に宿る感情は怒りか悲しみか。鬼は咄嗟に左腕を己の心臓へと伸ばした。
 指を心筋に突き立て、強引に動かした。全身に穢れた血が巡り、肉が湧き寸断されていた触手がやにわに蠢き始める。一二三は目を見開き、思わず叫んだ。
「おい! そんなん反則ちゃうか!?」
『ハハハッ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ――』
 フェニヤの快哉が途切れた。鬼が槍の様に固くなった触手で一気に周囲を薙ぎ払い、エージェント達は纏めて地面に転がされる。唯一バック宙で躱した央は、心臓を揉みながら全力疾走を始めた鬼の後を必死に追う。
「灰堂! 頼む!」
「ええ。……これ以上進ませる訳にはいきません」
 ライフルを傍に置き、焦一郎は手に取ったワイヤーを鬼に向かって投げつけた。駆ける鬼の脚にワイヤーが絡まり、爆発を起こして腐肉を削ぎ落とす。鬼は構わずに善通寺を目指して走り続けた。だがその脚は確実に遅くなっている。
「オレにだって、意地も矜持もある!」
 傷を作りつつも、どうにか追い縋った國光は鬼の前に立ちはだかる。全身で鬼の突進を受け止め、押し退けられそうになりつつどうにか堪える。
『あたし達もやるよ!』
 盾を構えたチルルが駆けつけ、國光の隣で鬼を抑え込みにかかる。それでも鬼は喚き、強引に二人を押し切ろうとする。
「我らは伊予之二名島の防人なり! 善通寺の領域を侵す事罷り成らぬ!」
 トラックの屋根から高く跳び上がった華鈴が、触手の蠢く鬼の背中に飛びつき、首筋にしがみつきながらその脳天をインサニアの柄で殴りつける。触手に絡まれ四肢を締め上げられるが、彼女はそのまま耐えて叫んだ。
「戦神よ。戦神の風よ! 我らに力を!」

「決めるで皆! この牛若に続け!」
『結局それでいくのか……』
 剣を高々掲げてライヴスを周囲に放ちながら、一二三が先陣を切って一気に駆ける。
『あと一息のところで破られるなんて、格好悪いなんて話じゃ済まないわね』
「ああ! だからここで倒しきる!」
 拓海の握りしめる魔剣が、彼の気合に呼応して光を帯びた。
「ワタシもここは攻撃ですね!」
『ちょっと珍しい瞬間よ!』
 望月の振り回す槍が炎を纏う。
「行きますよ、ストレイド」
《ストライクショット、装填完了》
 暁の光に照らされ、スコープが輝く。その銃口はぴたりと心臓を狙っていた。
「喰らえッ! こいつで終わりだ!」
 駆け抜けた央は南大門の壁を蹴って跳び出した。草薙の剣が鋭い光を帯びる。

 取り押さえていた三人が離れた瞬間、央の刃は深々鬼の心臓に突き刺さった。

 走り抜けた一二三と拓海の突き出した剣が、両の脇腹から鬼を襲う。

 跳び上がった望月が、肩口に深々槍の穂先を突き立てる。

 國光、チルル、華鈴が息を揃えて鬼を切り裂く。

 焦一郎の放った弾丸が、鋭く鬼を貫いた。



 一瞬の静寂。南大門にその触手を突き立てようと腕を振るった鬼は、断末魔の叫びも無くその場に崩れ落ちた。その身体は闇に包まれ、徐々に死へ呪われる前の姿へと還っていく。

 勝ったのだ。

「報告します!」
 エージェント達が息つく間もなく、北で戦っていた戦友達から連絡が飛んでくる。
「こちら、最後の従魔を撃破しました! 善通寺は無事です!」

「報告……朱天王、神宮寺共に討伐完了。現在従魔の掃討戦だ」
 東で激しい戦いを繰り広げていた仲間達からも朗報が舞い込んでくる。

「……何とか、勝利できたようですね」
 屋根から飛び降り、焦一郎はようやく安堵した様子だ。拓海は微笑み、その肩を叩く。
「お疲れさま。灰堂さんが指示を出してくれたお陰で助かったよ」
 焦一郎は遠慮して静かに首を振る。
「皆さんが事前に定めた役割を果たしきっただけです。自分は特に何も」
《神門が死ねば、この戦場も消えるか。次は何処に戦禍の火が上がるか……》
「上がらないのが最善ですがね」
 冗談交じりのやり取りに、ふっと笑みが洩れる。だがすぐに戦意がそれを塗り潰した。
「神門……」

 東雲の光が空を染める。彼らはその光に希望を抱き、勝利を信じるのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046

重体一覧

参加者

  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
    機械|27才|男性|命中
  • 不射の射
    ストレイドaa0212hero001
    英雄|32才|?|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 我ら闇濃き刻を越え
    御剣 華鈴aa5018
    人間|18才|女性|命中
  • 東雲の中に戦友と立つ
    フェニヤaa5018hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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