本部

支配種の饗宴

長男

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2017/07/17 20:06

掲示板

オープニング

●竜の不遜も姫には甘く
 あるところに美しい娘がいた。娘は裕福な市長の家に産まれ、古き良き雰囲気を残す街とともに市長や住民の自慢のひとつであった。
 娘が屋敷の庭でお茶を楽しんでいると、庭先に男がやってきた。男は身の丈ほどの竜頭の杖をつき、夏にもかかわらず分厚いコートを着ていた。
 娘はその男を不思議に思ったが、上品な上着を纏い杖の他に何も持っていない男が強盗や浮浪者には見えなかった。それにもし彼が客人なら失礼があってはいけないと考え、娘は丁寧に挨拶した。
「ごきげんよう。どちらさまですか?」
 男はフードを目深に被ったまま、優しい物腰で娘に尋ねた。
「お嬢さん。領主……ああ、いや、市長は在宅かな? 私は、うむ、この街のことで話があるのだ」
 娘はその男に見覚えがなかったが、歴史ある街を誇りに思う父が冗談めかして領主を名乗っていることは知っていた。そして娘の父は覚えきれないほどの友人と親戚と仕事仲間がいた。
「お父様はお仕事に出られました。日をまたぐと仰っていましたし、帰りは遅いと思いますけれど……」
「ふむふむ。それは結構。私の仕事もやりやすいというものだ」
 男は杖をついて娘へ近寄った。頭巾に隠れた顔は若く、難しい話をするときの父よりも鋭い目がぎらついていた。
「ここはよい街だ。人は栄え、土地も豊かだ。私はここが気に入った」
 男が杖を掲げた。コートの袖がまくられ、筋張った若い腕に鱗のようなものが見えた。
「すべてもらう」
 男が本性を現した。暗い霧とともに、その背中や影から邪悪な獣が染み出してきて解き放たれた。トカゲやコウモリに似た怪物が唸り声を上げて庭中を飛び、走り回った。そこかしこで使用人たちの悲鳴が聞こえた。
「私はずっと探していたのだ。私の庭にふさわしい場所、私の餌食にふさわしい人間たちを。この街はすばらしい。今日から私のものだ。お前たちはその糧となるのだ。まずはお前とこの家の人間を頂き、そして街中の人間を追い立てる狩りを始めるとしよう」
 今や猛禽の鉤爪のように危険な男の指が娘の顔に迫った。
「まあ、もったいない!」
 娘は咄嗟に大声で叫んだ。男は手を止め、睨みつける娘の顔を覗き込んだ。
「あなたはたくさんの人間を食べたいのでしょう? それなのに今すぐにわたくしの街を食べてしまうつもりでいる。なんてもったいない!」
「何だと? それはどういうことだ」
「お父様はこの街に移民を考えています。何百人、何千人、もっと多くの人間たちを受け入れるつもりなのです。なのに、あなたがわたくしやこの家の者を食べ尽くし、街の人まで残らず食べてしまった。きっとお父様は人々を守ろうと危険な街から出て行ってしまうわ。数え切れない人間たちを連れて!」
 嘘だ。そんな話は誰も聞いていない。娘は少しでも時間を稼ぐために思いつく限りの作り話をした。身振りをつけて大げさに演技し、涙が出ないよう力を込めた顔から虚栄と恐怖を見抜かれてしまわないよう祈った。
 男は顎をさすってしばし考えていた。やがて意地悪で恐ろしい笑みを浮かべて、娘を指さして言った。
「いいだろう。お前の父親が戻って来るまで待つとしよう。それはいつになる予定か?」
「それは……たぶん、明日のお昼だわ。ひょっとしたら、話し合いが長くなってもっと遅いかもしれないけれど……」
「そうか。では明日の日暮れまで待ってやろう。それまでにお前の父親が戻らねばお前を食い、この街も食ってやろう。お前や街の人間が逃げたり、助けを呼んだり、嘘をついていたとわかったら、すぐに我が眷属を放ち、捕まえて、お前と街を食ってやろう」
 男は屋敷の中へ入って行った。玄関から一人のメイドが外に放り出され、たちまち無数の魔物が群がった。
 娘はへたり込んだ。悪鬼どもが娘のそばへ集まったが、襲いかかってはこなかった。見張られているのだ、あの男は自分で食べるつもりなのだ。娘は涙を流した。日常と平和は突然に破られた。男が異形とともに放った霧が屋敷の空を覆い尽くし、辺りは夜のように暗くなった。
 男は愚神だった。それが何者で、どれほど悪いもので、そして誰の力なら倒せるかも娘は知っていた。今はただ、あれと戦える勇者が街の異変に気づいてくれることを願うしかなかった。

●急くは英雄ばかりなり
「愚神が街を襲うという事件が予知されました。今回はその、少し危険な任務になります」
 あえてそう前置きをしてから職員はエージェントたちに話した。
「場所はヨーロッパです。古い街並みが保存されている都市部を愚神の率いる従魔の大群が攻撃しようとしています。愚神は従魔を呼び出す能力に長けています。現在市長の家を占領してドロップゾーンを展開し、一晩かけて従魔を増やして翌日の夕方に街へ繰り出すつもりのようです。皆さんは愚神が市長の家にいる間に強襲し、これを撃破してください」
 通常、こういった依頼は一般人を避難させる手順が予測される。だが今回は住民が避難を開始すると無数の従魔が放たれることまで予知が及んでいる。そのため今夜、住民の寝静まった夜間から夜明けにかけての作戦が提案されたのだ。
「市長の家についてですが、小高い丘の上に立っている広い屋敷になっています。敷地内へは愚神のドロップゾーンの影響によって正門以外からの侵入は困難です。そして明日には召喚された従魔すべてが街へ放たれることになります」
 職員は現地の地図などの資料を手渡した。上空から見た街の写真には大勢の人間が映っていた。
「屋敷の中に生存者がいれば可能な限り保護してあげてください。愚神が現れてまもない今なら生き残っているひとがいるかもしれません。ただ屋敷は従魔の巣と化しています。激しい戦闘に備えてください。また愚神は本体の階位も高いようです。従魔の召喚以外にも強力な力を秘めているかもしれません。厳しい戦いになると思われます。どうかお気をつけて」

解説

●目的
 愚神とすべての従魔の撃破。生存者の保護。

●現場
 小高い丘にある市長の家屋敷。丘の上から街が見渡せる。
 ドロップゾーンの影響により、塀を越えるなど正門以外の場所から敷地内へ移動することはできない。正門から屋敷までは広い庭になっていて、召喚された従魔が点在している。
 愚神、生存者である市長の娘と数人のメイドが、それぞれ屋敷のどこかにいる。屋敷の主な部屋は、居間、書斎、寝室、食堂、地下貯蔵庫、応接間である。

●愚神
 人型愚神。ケントゥリオ級。
 強い力を持ち、人間を捕食すること自体を楽しんでいる。美しい街に栄える人間を好み、従魔を放って人間を追い立て狩りをするような大量虐殺を目論んでいる。
 従魔の召喚を得意としている。本体の戦闘能力は高くないようだが……?
 ・従魔召喚
  トカゲ型従魔一体とコウモリ型従魔一体を召喚する。
 ・従魔強化
  自分を中心とした一定の範囲内に存在する従魔の攻撃力が上がる。
 ・攻撃魔法
  短射程単体魔法攻撃。命中した相手にBS:翻弄を付与する。
 ・ドラゴン変化
  シナリオ中に一回使用できる。
  全長約5mのドラゴンに変身する。物理攻撃、魔法攻撃、移動力、イニシアチブが上昇し、近接単体物理攻撃のドラゴンクロー、長射程範囲魔法攻撃のドラゴンブレス、飛行能力を得て、他のすべての能力を失う。

●従魔
 すべての従魔が噛みつきなどの基本的な近接単体物理攻撃を持つ。
・トカゲ型従魔
 ミーレス級。命中が高い。短射程単体魔法攻撃の炎を吐く。
 屋外に三体、室内に一体存在する。
・コウモリ型従魔
 ミーレス級。回避が高い。飛行能力を持つ。
 屋外に二体、室内に一体存在する。
・ウシ型従魔
 デクリオ級。生命力が高い。通常攻撃に軽度のBS:減退を付与する。
 屋外の正門と玄関前に入口を守るように一体ずつ存在する。

リプレイ

●門前に
『皆さん、屋敷の地図は持ちましたか?』
 構築の魔女(aa0281hero001)が地図の中身をざっと確認して顔を上げるころ、辺是 落児(aa0281)が最後の仲間に折りたたまれた紙を配り終えた。
「生存者がいるって? こりゃまた面倒そうな……」
『関係ないよ。敵がいれば壊すだけ』
 屋敷の内部は広い部屋の組み合わせで建てられ狒村 緋十た豪邸だ。エディス・ホワイトクイーン(aa3715hero002)が地図を覗き込むそばで一ノ瀬 春翔(aa3715)は頭をかいた。
「正門の他からは入れないのか。中から外へ出る場合も同様だろうか?」
『さあね。もっとも、飛ばれたって逃がすつもりないけど?』
 ノクトビジョンの調子を確かめる狒村 緋十郎(aa3678)の隣で、レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は門の壁に寄りかかってくつろいでいた。屋敷は暗い濃霧に覆われ、正門だけがわずかに芝へ埋もれた石畳を露わにしていた。
「今回の相手は随分と大胆だ」
『自信があるのでしょうが、助かりましたね』
「チャンスをくれたこと、後悔させてあげようか」
 志賀谷 京子(aa0150)とアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が少し離れた場所へと駐車した救護車両から戦士の集団に加わった。深夜の門前にいるのは集まった英雄たち、それに京子や魔女が手配したHOPEの医療班のみだ。
「メディックは今回リディスだけです。頼りにしていますよ」
『先生が、あたしに依頼を託してくれたんだ……やるしかないよね!』
 月鏡 由利菜(aa0873) のそばでウィリディス(aa0873hero002)が拳を握る。医療の備えは生存者のためのもので、突入後の生命線は彼女たちにかかっていると言ってよかった。
「問題です。創造と破壊、どっちが難しいでしょうか」
 キース=ロロッカ(aa3593)は匂坂 紙姫(aa3593hero001)に問答していた。紙姫はしばし悩み、答えた。
『ほえ……創るほう!』
「正解です。こんな美しい街と人を壊されてしまうのは忍びない」
 キースの眼鏡に移っている歴史的な街並みが紙姫にもわかった。紙姫が見上げたキースの横顔は何を思うのだろう。
『えへへー、おにーちゃんと一緒ー、がんばろーねー!』
「レティ、あまりベタベタしては仕事が出来ないですよ」
 静かな時間の中にЛетти-Ветер(aa4706hero001)が飛び込んだ。Гарсия-К-Вампир(aa4706)がキースに抱きつく相棒をたしなめ、一礼した。
「お嬢様、キース様。何卒ご無理の無いように……私達が全力を以てサポートいたします」
 主人は頭を下げたままのメイドに微笑み、小さな英雄たちの頭を撫でた。
「行きましょうか、紙姫。ガルシア」
 英雄たちは開かれた門の前に駆けつけた。暗雲に陰る扉を前にして、リィェン・ユー(aa0208)はイン・シェン(aa0208hero001)にぼやいた。
「いやはや……なんというかド定番のRPGゲームみたいな状況だな」
『まったくじゃな。街を襲う悪者が陣取る屋敷への襲撃。使われすぎた題目じゃ』
「とはいえ、これはリアルで、お仕事だ……人的犠牲が出る前に終わらせないとな」
『よういった。それでこそ妾の契約者じゃ』
 シェンは笑いながら言った。この男は物的被害のことを無視しているし、今まさに武器を抜いて血気盛んに門を砕きそうな戦士が視界に映ったためだ。
「どれ! しからば参ろうか!」
『あまり先行しすぎてはいけませんよぉ~。どんな罠があるとも限りませんからねぇ~』
 すぐにも走り出しそうな火乃元 篝(aa0437)が大剣を担いで屈伸している。宥めているのは相棒のディオ=カマル(aa0437hero001)だ。今や英雄たちは武器を構え並び立ち放たれたがっていた。
『従魔や愚神を退治して、生存者を助ける。いい?』
「了解つーちゃん! さあ、腕が鳴るよ!」
 伊集院 翼(aa3674hero001)が葉月 桜(aa3674)と共鳴して、紺色に染まった前髪を揺らして地面を蹴った。他の英雄たちも次々に共鳴し、力の波となってなだれ込んだ。

●集いし勇気
 門を潜ると角が白熱した牛が待ち構えていた。まず魔女の二丁拳銃が前足を撃ち抜き、春翔のライフルが火を噴いた。京子のダンシングバレットが反対の前足に穴を開け、キースの矢がロングショットの間合いで突き刺さった。由利菜とリィェンの剣が肉を裂き、桜が一気呵成で巨体を転ばせると、レミアが斬りつけた。ガルシアは後ろ足に氷のナイフを連ね、最後に篝が豪快に剣を叩き付けた。
 攻撃は完璧な手際だったが、それでも従魔の牛は生きていた。牛はよろめきながら、近くにいた桜を高熱の角で突いた。
「痛っ、熱い! このぉ!」
「大丈夫ですか? 傷を見せてください」
 桜の剣が反撃に振り下ろされ、ようやくそれは倒された。すぐに由利菜がクリアレイで桜を蝕む火傷の治療にかかった。
「頑丈ですね。もっと強い弾を使いますか」
「気をつけろ、前から来るぞ!」
 リィェンが警告するまでもなく、そこら中の茂みから蜥蜴や蝙蝠の従魔が唸りを上げて現れた。彼らはそれを牽制しつつなるべく相手にしなかった。先に倒すべき敵がいる。
 屋敷の玄関に門で倒したのと同じ牛がそびえていた。改めて近寄るとそれは異常な筋骨に歪んだ従魔に違いなかった。
『少しでも動きを止めれば……それで充分でしょう』
「愚直に進む生き物は単調で戦いやすい……それでしたらまだ熊の方が怖いですよ」
 最初に魔女が射程へ捉えて発砲し、それを合図に矢と弾とナイフの雨が降り注いだ。エディスと共鳴し白髪白衣となった春翔はレプリケイショットによる三段撃ちで従魔を蜂の巣にした。
「いけます! 剣でとどめを!」
 キースの号令を受けて剣士の英雄が突撃した。続けざまに接近しては斬りつけ、後ろの仲間に道を譲る。攻撃の途切れるわずかな相間に牛の角がレミアをひっかいたが、夜を纏う女王の護るべき矜持の前には問題ではなかった。
『邪魔、しないで頂戴!』
 お返しに振るった大剣は力任せに角をへし折った。獅子の如く篝が切り込み、桜がその後に追いついた。
「遊んでいるヒマはない。どけ!」
 二人分の大剣が叩き込まれ玄関の門番は庭先に倒れた。追いすがる従魔を魔女の銃が押し留める間に英雄たちは扉に集結し、地図やその他の道具を確かめた。
『外の敵は私が引き受けます。京子さん、手伝ってくださいますか?』
「もちろん。みんな、ここは私達に任せて」
 銃を構える魔女と京子の背後で蹴破る音がした。いくつもの返事や激励や、作戦の相談が混ざり合って、すべてを聞き取ることは出来なかった。
 忌まわしい使い魔どもが玄関へ殺到した。京子の弾が火吹き蜥蜴の口内に入り込むと、それは喉と腹を爆発させ無残な姿で息絶えた。特別な弾は使っていない。不思議なものだ、火炎袋でもあったのだろうか?
『屋敷内に行かれた方が戻ってくる前にここは確保しないといけませんね』
 魔女の声は銃声の中でもよく聞こえた。京子は戦友に向けて笑みを浮かべた。
「唯一の侵入口は唯一の脱出口。任された信頼に応えないとね」
『ええ、頼りにしてますよ』
 別の蜥蜴が火の玉を吐き出し、左右に散った二人が直前までいた場所を焦がした。申し合わせたような十字砲火が飛来する蝙蝠を引き裂いて撃ち落とした。

●探り出し
 書斎は無人だった。桜は一人でここを探っていた。他の仲間が隊になって動く中、彼女はあえて彼らが行かない場所を調査した。助けが必要なら連絡も来るだろう。
 机の上に地図を見つけた。それは街の地図で、矢印や何かを意味する無数の印が鉛筆で書かれていた。実際それが何かはわからなかったが、街を囲むように書き記された印に悪意あることだけは伝わった。
「……やらせないよ」
 桜は地図に呟き、次の部屋へ歩き出した。

「リィェン・ユーだ。地下室で生存者を発見した。ああ、ちょっと元気がないが、みんな無事だぜ」
 通信機に喋りつつリィェンは未だ狼狽しているメイドたちに視線を向けた。彼女たちは地下貯蔵庫の隅でかすかな明かりの下にうずくまり刑を待つ囚人のようであった。
「屋敷の外にスタッフが待っています。私についてきてください」
 春翔は衰弱の酷いメイドを担ぎ上げた。中には自力で歩けるものや、簡単な会話の出来るものもいた。彼女たちはお嬢様と呼ぶ人物をしきりに心配していた。ここにはメイドしかいなかった。
「お嬢さんは別の仲間が捜索しています。大丈夫、指示に従ってください」
「よし、何か手伝うか?」
「歩ける人の誘導を。外へ避難させましょう」
 貯蔵庫は食堂と近い位置にあり、比較的玄関の付近にあった。二人が注意深く表へ出ると、油断なく銃を構えた京子と魔女、それに従魔だった無数の残骸があった。
「ああ、みんな無事でよかった」
「全部倒したのか?」
『庭から出たものは。ですが充分に警戒してください。移動する間は援護します』
 動かなくなった従魔にさえもメイドは過剰な恐怖を露わにした。京子は見ていられなくなり、哀れなメイドたちを激励した。
「慌てずに、ね? あと少し、頑張って!」

 篝とレミアは応接間の扉を囲んでいた。そこはモスケールの反応がもっとも強い場所で、何らかの強力な存在がいるはずだ。
 篝は武器の先端で扉やドアノブを軽く叩いた。その部屋からは明かりが漏れ出ていて、それ自体か罠かもしれなかった。
「入りたまえ」
 部屋の中から声がした。若く力強い男性のようであった。二人は顔を見合わせて頷き、剣の柄で扉を打ち破った。
「乱暴だな。扉とはそのように開けるものか?」
 応接間は広く、長いテーブルに立派なソファーが並んでいた。部屋の奥の高級そうな机に置かれた大きなランプが、壁にかかった写真や賞状、そして優雅に椅子へ腰掛け竜頭の杖を携えて膝の上の蜥蜴を撫でる外套姿の愚神を照らしていた。
『あら、悪いわね。剣を握っておかないとマナー違反な気がしたのよ』
 まずレミアが、そして篝も部屋に足を踏み入れた。篝の頭の中でディオが囁く。
『(安易に突撃してはいけませんよぉ? 何か企んでいるかもしれません。それに避難が終わったという知らせもありませんしぃ、話をして時間を稼ぐといいですねぇ)』
「(わかっている)」
 愚神は机の上の瓶を取り、中身を杯へ注いで満たすと、それに口をつけた。持ち上がった袖から鱗のようなものに覆われた腕が覗いた。
「それで、昼と夜に服を着せたような女たちよ。私に何用かな?」
「ふん、おめでたいものよ。これだけのことをしておきながら、理由を求めるとは!」
『鱗状の肌……竜族の愚神……なのかしら?』
「いかにも、私は幻獣種の頂点支配者。お前はこれだけのことと言うが、私にとっては食事や享楽の延長にすぎないのだ」
「ふむ、ではこれはドラゴン退治か! だが、それほどの力を持ちながらなぜこんな屋敷でこんなことを?」
 愚神は手にした杯を弄んだ。それは言葉を探す黙考だった。
「夜の子、お前は言わなくてもわかるだろう。昼の子、これだけは覚えておけ。力とは世界だ。贅沢、救心、蹂躙、すべては力の元に許される。私は街がほしくなった。それを可能にする力があった。ついでに作業を楽しむこともできた。だからそうしたのだ。他に理由はない」
 愚神はうんとゆっくり杯を飲み干し、空の器を静かに机へ置いた。
「お前に王の心得があれば、この境地を少しはわかりあえたろうに」
 レミアは背後の気温が上昇するのを感じた。純心な篝の怒りと根深いディオの憎しみが景色を熱で揺らめかせた。
「よくわかった。能書きはもうよい。立て暴君。捻り潰してくれる」
 ため息とわかる深呼吸をして愚神は蜥蜴の頭を軽く叩いた。まどろむ従魔が目を覚まし、机の上に躍り出た。
「昼は炎、夜は灰と翼。お前たちの世界など矮小なものよ」
 愚神は杖を支えに立ち上がり、机の前まで自ら歩いた。王気の三人は互いに睨み合った。
「遊んでやろう。せいぜい私を楽しませろ」
 愚神の杖が床を叩くと、その背と足下から新たな蜥蜴と蝙蝠が生み出された。三匹となった従魔は狂喜して二人へ襲いかかった。
『ダンスの相手は、ご主人だけに願いたいわね!』
 レミアが愚神もろとも従魔どもを怒濤乱舞で斬り伏せるべく踏み出した。二匹の蜥蜴が剣線に飛びつき、蝙蝠と愚神をかばって細切れになった。
 刃の嵐の後ろでは篝のトップギアが紅炎に漲っていた。一気に攻め込む、沸いたものにいちいち気を向けてはいられない。
「私はお前を倒す。なぜなら私には力があり、私がそうしたいからだ。いざ……ドラゴンの首をこの手に!」
 愚神は夜の化身と太陽の拳を、そして生き残った蝙蝠を見て肩をすくめた。
「しようこともなし」
 杖が音を立て、次の従魔が現れた。

 扉を開けると、寝台の天蓋にぶら下がっていた蝙蝠がたちまち向かって来た。
「火力特化メイドが……まさか盾を使う日が来るとは……」
 ガルシアはインタラプトシールドで不潔な牙を防ぎ、盾の下から別の銃口と切っ先が伸びた。撃たれ、斬り伏せられた従魔は絨毯に転がって不快な染みになった。
「……彼女達の命を脅かす者達は、私が浄化します」
 由利菜は剣を収めた。他に従魔はいない。モスケールの反応はこの従魔と、一人の生存者のものだ。
 キースが蝙蝠のいたベッドに近づく。身をくるむシーツをきつく掴んで若い女性が震えていた。
「市長の娘さんですね? HOPEのものです。助けに来ました」
 もぞもぞと娘は起き上がり、三人の英雄を認めると顔を覆って泣き出した。由利菜が娘の涙を袖の中に受け止め、心地よい言葉を囁いて落ち着かせた。
「ああ、よかった……わたくし、殺されてしまうかと……もうダメかと思っていましたのに」
 娘は一切を話した。愚神の襲来、命を繋いだ偽り、監視され脅かされ動けずにいた悪夢のすべてを。娘は冷静で健康だった。おそらく愚神によるドロップゾーンの調整により例外的に理性と生命を保ったまま嗜虐的な恐怖に生かされていた。
「メイドさんたちは避難を開始しています。自力で歩けますか? 何か黒いものを身にまとって正門から逃げてください」
「メイドはみんな無事なの? よかった……けど、お待ちになって。あの男は、わたくしを特に目にかけていますわ。今もどこかでわたくしを見張っていて、わたくしが外へ出た途端に怒り狂って街へ飛び出すかも。市民にもしものことがあったら、わたくしは……」
「キース様、地下室はどうでしょう? 地上の戦闘に耐えられる強度だといいのですが」
「地下貯蔵庫? ええ、そこならきっと平気ですわ。災害時のシェルターをかねていますもの、象が踏んでも崩れませんわよ」
「では、そこまで送りましょう。ボクたちについてきてください」
「はい」
 娘は自分の力でベッドを降り、ふと立ち止まった。由利菜が心配して娘の顔を伺った。
「どうかしましたか?」
「あの……皆様がどのようにこの危機を察して駆けつけてくださったのかは存じ上げません。ですが、これだけは言わせてくださいまし」
 胸に手を当て、娘は背筋を伸ばした。涙の跡が残る表情は気高い祈りに満ちていた。
「助けてくださり、ありがとうございます。英雄の皆さま、いえ、勇者さま。そして、領主の娘として父に代わり改めてお願い申し上げます。どうか悪しきものを倒して、市民と街を護ってくださいませ」
 キースは頷いて、ガルシアは丁寧に頭を垂れた。由利菜はそっと娘の手を握り、瞳を見据えて胸の内を答えた。
「ここで人々の命を救えなかったら……私は一生後悔し続けるでしょう。約束します。私達は救える人達を誰一人犠牲にしません」
「……はい!」
「行きましょう。辛いでしょうが、もう少しだけ耐えてくださいね」
 由利菜が手を引くと娘はついてきた。ガルシアが奥ゆかしく寝室の扉を開けて、キースが先頭になって娘と仲間を導いた。

 二人が剣を振るう。蜥蜴だか蝙蝠が身代わりになる。生き残った一匹が一人に噛みつき、愚神が新たな蜥蜴と蝙蝠を呼ぶ。
 レミアと篝は打開できずにいた。弱小従魔一匹の攻撃などものの数ではないが、愚神もまた無傷だった。レミアの大技が一度きりと知ると、愚神はいやらしい消耗戦を好んだ。
「やれやれ。こんなものか。もう少し楽しいかと思ったぞ」
『あら、飽きちゃったかしら? それじゃ今度はあなたがお相手してくれる?』
「断る。召使いも満足させられぬものに興味はないよ」
 愚神は余裕だったが、レミアもまた確信をもって笑っていた。視界の隅で怒りに燃える篝が従魔を吹き飛ばすのが見えた。
 防御に無頓着な篝へ残された蝙蝠が迫った。だがそれは空中で両断され、篝に牙が届くことはなかった。レミアは笑みを大きくした。待ちわびた瞬間がやってきた。
「正義の味方、参上!」
 桜が剣の素振りで血を払った。ついに従魔が消え、召喚される敵より多くの仲間がそろった。
「おお、よいところに!」
『遅かったじゃない。そっちはもういいの?』
「大丈夫、他の部屋は全部見てきたし、メイドさんも娘さんも無事だよ!」
 一本増えた剣に愚神は笑って見せた。それは呆れて困ったときの失笑であった。
「残念なことだ。あれらは遊びたがっていたようだから、ゆっくりつきあってから楽しませてもらうつもりだったが」
『言っておくけど、わたしたちは誰に呼ばれたわけでもないわ。助けを求めていた子羊を疑うのは筋違いよ』
「ふん、娘の嘘など最初からお見通しさ。だが、これほどのごちそうがやってくるとは思わなかったぞ」
「ほう、呆れたものだ。人質も召使いもないのに勝てるとでも?」
「当然だ。私がこんなにも落ち着いているのは、お前たちを殺すことが呼吸ほどに造作もないからだよ」
 通信機から春翔の音声が会話に割り込んできた。
「春翔です。たった今、メイドさん全員の救出が完了しました」
 英雄たちが飛び出した。愚神の魔法が桜を攻撃したが、レミアと篝は止まらなかった。連続したストレートブロウが愚神を跳ね上げ、窓を破って外へ追い出した。
 三人の剣士は窓から庭へ降りた。愚神は窓の破片にまみれて、たちまちのうち庭に待機していた仲間に取り囲まれた。
「さて、次はこっちですね。これを倒して、全てを終わらせましょう」
 キースとガルシア、由利菜が遅れて包囲に加わり、ここに英雄は揃った。愚神はあくまで沈着な様子で、喉の奥で笑っていた。
「いいだろう。思い知らせてやる。我こそは力、我こそは捕食者」
 愚神は頭巾を外した。人間の頭には角が生えていた。愚神が杖を掲げると、何か広く大きなものが外套をはね除け、愚神を空へ運んだ。まだ人間だった愚神の声が言った。
「完成された支配種を篤と見よ」

●王の翼は
「おいおい……ドラゴンって……まじか」
 リィェンは唖然と見上げていた。屋敷の屋根に取り付いて猛るのは人間よりはるかに巨大なドラゴンだった。それは体に対して膨大な翼を広げ、実際の体長よりずっと圧倒的に見えた。
「竜? にしてはちょっと小さいんじゃない?」
「翼が大きいからよくわかりませんが、実際はそうかもしれませんね」
『頭を抑えられるのはよくないですね』
「遠距離支援だけですむといいですけど」
「翼もそうですが、爪や口も狙ってみますか?」
 銃や弓が傷つけるより早く、ドラゴンは射撃に備える英雄たちへ火を噴いた。灼熱と轟音が悲鳴を飲み込み、苦痛が全員を跪かせた。
「そ、そんな……皆さん、しっかり!」
 由利菜が大急ぎでケアレインをかけたが、傷を癒すにはまるで足りなかった。ばかげた火力!
「この……やってやろうじゃない!」
 京子が叫び、彼女たちは強弓火砲の奥義を尽くして反撃した。能力者の火線はドラゴンに血を流させたが、シャワーのような集中砲火もその翼を折り曲げるには足りなかった。
 ドラゴンは再び息を吸い込んだ。撃ち合うつもりだ。屋根から降りる気配すらない。
「それ以上はさせません」
 キースがフラッシュバンを放ち、世界は刹那の眩さになった。光が景色を取り戻すと、ドラゴンは頭を振って混乱していた。動きの鈍くなったドラゴンへとリィェンがライヴスの斬撃を飛ばし、ガルシアのポイズンスローが銃と違わぬ正確さで皮膚に刺さった。
「ふむ! ドラゴン! やることは変わらん。良きかな!」
『待ってなさい。そこから叩き落としてやるから』
 レミアはロケットアンカー砲を放って翼に鋼線を巻きつけた。鋼線を引き寄せ背中へ飛び乗れば剣が届く。
 その無謀な行動はドラゴンの注意を引いてしまった。視力を取り戻したドラゴンは屋根から飛翔すると、鋼線を掴み力任せにたぐり寄せた。レミアの体が宙に舞い、そこへ致命的な鉤爪が降りかかった。
 絶叫が重なった。何人かがインタラプトシールドをかけ、レミア自身も鉄壁の構えで応じたが、尊大な夜の支配者は死の爪に叩き付けられて倒れた。
 由利菜は背筋の寒気を振り払ってエマージェンシーケアを飛ばした。自信は持てなかった、立ち上がれるだろうか?
「でたらめな力ですね……やり方を変えなければ」
『でもこれでようやく飛んでくれましたね。遮るもののない上空に安全な場所などありませんよ?』
「魔女さん、やろう! 翼を撃って飛べなくして、屋内に引きこもってたほうがまだマシだったと思わせてやる」
 京子と魔女は即座に、綿密にタイミングを合わせて、テレポートショットでドラゴンの翼を根本から挟み撃ちにした。幾度も銃撃を浴びた翼は重い音を立てて軋み、ドラゴンは空中で目に見えて怯んだ。
「やっぱりよ、ドラゴン退治はまず飛ばさせないことだろ」
 体勢を立て直すより早くリィェンが剣を振り上げた。斬撃が登って痛んだ翼を打ち、とうとうドラゴンは金切り声をあげて墜落した。
「よーし、反撃だー!」
 逆襲のときは来た。地上で待っていた桜が起き上がるドラゴンを一気呵成で再び転倒させると、剣も銃も堰を切って翼を破りにかかった。春翔は武器を斧に持ち替え、トップギアで力を貯める篝とともに武器へライヴスをチャージして会心の一撃に備えた。
 だが蓄えた威力が放たれるより先に、ドラゴンは群がるものを散らして、なおも健在の翼を広げた。それが羽ばたく前に、その片翼に絡まったまま残っていた鋼線に篝が飛びついた。
「逃がすものか!」
 篝は背中へ捕まり、鋼線を力の限り握りしめて翼へ斬りつけようとした。ドラゴンは空中で激しくもがき、篝の手元は定まらず振り落とされかけていた。
 危険極まりない曲芸のさなか、ドラゴンの翼が不意に緊張した。ガルシアの放った氷のナイフが竜鱗を貫通し内側の神経を痺れさせた。篝は夢中で振り下ろした剣に手応えを感じた。墜落の衝撃から意識が戻る前に鉤爪が篝を引きはがし、無情な力で地面に放り投げた。
 ドラゴンは後ろ足で立ち上がり、だが今度こそ翼は不自然に歪み垂れ下がっていた。激情の炎が口内に燻り、次の瞬間にはブレスより速くキースがオプティカルサイト越しに放った狙撃が頭を仰け反らせた。
「貴方に、あの美しい街を見る資格なんてありません。苦しみの中で、眠りなさい」
 果てしない雄叫びが響いた。ドラゴンは片目を失っていた。その失われた視界のほうから、すでに一人が間合いに入っていた。
『気を失うなんていつ以来かしら。今からお礼をしてあげる。たっぷりとね』
 由利菜は篝を回復しながら顔を上げた。血まみれのレミアが意志を持った足取りで戦場へ戻って来た。
 彼女は復讐に飢えた剣を操り、疾風怒濤の斬撃でドラゴンを切り刻んだ。ドラゴンは痛ましく前のめりに倒れた。次はそれが死に瀕する番であった。
「ドラゴンも一種の神ならば、この神斬の銘に賭けて……斬り捨ててみせる」
 とどめを刺すべくリィェンはチャージラッシュの構えをとった。春翔は斧を、桜も剣を構え、必殺を遂行する準備を整えた。
「もはや有無を言わせません」
「ドラゴンスレイヤーが火を噴くよ!」
「鬼の一撃……喰らって逝けやあぁ!」
 破壊がもたらされた。レプリケイショットによる無数の殴打が頭蓋を砕き、大剣のオーガドライブが腹と首を貫いた。
 ドラゴンは鳴き声とともにのたうち、よろめきながら身を起こした。急速に失血する喉の奥に火が灯り、定かでない頭部が天を仰いでえづくと火の玉が吐き出された。死にゆくドラゴンが斃れるのと同時に空で火炎が弾け、炎の風と砂埃が辺りを苛み、それらすべては輝く朝日に抱きしめられた。ドロップゾーンは晴れ、外では夜が明けていた。

●明けの霜霧
 地下貯蔵庫の扉が開くと、娘は驚き、怯え、そして歓喜し臆面なく駆け出した。由利菜はウィリディスの前へ出て娘を抱き留めた。
「ああ、勇者さま! よかった……!」
『もう大丈夫。悪い夢は終わりだよ』
「さあ、太陽の下に戻りましょう」
 二人に連れられ娘は庭へと出た。霧がかった陽の光に照らされる街、力尽きて動かないドラゴン、そして戦いに焦げて削れた庭と、勝利の余韻に浸る英雄たちの姿があった。
「そういや……ドラゴンの肉ってうまいのかな」
『やめておけ、いろいろと保証できんぞ?』
「これでボクも竜殺しの大英雄だね!」
『まぁどちらかといえばあれは愚神とかの類だけどな』
 リィェンとシェンは竜の亡骸を吟味し、手柄にはしゃぐ桜を翼が宥めていた。
「しかし、思ったより面倒な相手だったな」
『いいじゃん。ちゃんと勝ったんだから』
『結局、あれにとってはこの街こそ金銀財宝だった~というわけですね~』
「ふむ! 良いではないか、ドラゴンは強かった! 私は満足だ!」
 春翔は離れたところで隣のエディスに煙のかからぬよう煙草を吸っていた、朝の香りのする紫煙は美味だった。篝は草の上に寝転がり、ディオは奇妙な格好で座っていた。
『あら、市長の娘さんですか? このたびは大変な思いをしましたね』
 魔女が娘に声をかけた。彼女は寡黙な落児を連れていて、彼女と話をしていた京子とアリッサも娘へ話しかけた。
『屋敷を潰されるかちょっと心配でしたが、無事にすんでよかったです』
「怖かったでしょう? でも冷静でいてくれて助かったわ、あなたは強い人なのね」
 娘は労いに微笑み、その場にいた英雄たちに挨拶をして回った。そして自宅の庭を見渡し、由利菜に尋ねた。
「あなたといっしょにわたくしを助けてくださった勇者さまはどちらに?」
 由利菜は門まで娘を連れて行った。塀に背をもたれ目を閉じて座る緋十郎、その横で激闘を終えた屋敷内を眺めるレミアと、門の出入り口で平和な朝を迎えた街を眺めるキースと紙姫、彼らに付き従うガルシアとレティがいた。
『あら、あなたが……正しい、領主の、娘ね。愚神を前にして、どうだったかしら?』
 見たところレミアの年齢は娘とそう変わらなかったが、血と闇を艶やかに着こなす少女が権威の熟達であることは伝わった。
「恐ろしい悪魔でしたわ。あなたもきっと強く身分ある方とお見受け致しますが、それでも目を見てお話できますもの。けれど、あれは……」
『まあ、そうね。実際あれはなかなか手強かったわ。さすがのわたしでも、仲間の助けがなければ不覚をとっていたかもしれないわね』
 レミアは犬歯を尖らせて笑った。さりげなく礼をしたのだと由利菜にはわかった。由利菜は娘の肩越しにレミアへ微笑んだ。
『それでも勝利したのは、戦うチャンスがあったからよ。娘、誇りなさい。貴女が時間を稼いでくれたおかげで、この街は守られたわ』
「……はい」
 娘は控えめに、誇り高く笑いかけた。景色を楽しんでいたキースたちが話し声に戻って来た。
「それにしても綺麗な景色です……西洋の街並みはコンパクトに収まっていて、日本とは違いますね」
『歴史とか、文化の違いなの?』
「そうです。培った歴史の違いです」
『……造った人たちに敬意を払わないとねっ!』
 紙姫はにこやかに娘を見た。父の、自分の街を褒められるのはいつも娘を温かい気分にさせた。
『むふふー、おにーちゃん、がんばってよかったね!』
「キース様、お嬢様、朝のお飲み物をご用意します。娘様もご一緒にどうですか?」
 娘は昨日から一番の笑顔で応えた。
「貯蔵庫におとっときのお茶の葉があるの。ぜひ勇者さまにごちそうさせてくださいな」
 陽が昇り、晴れかけた霧が七色の煌めきに染まった。日輪の紅玉が後光に、虹の膜が翼になって、祝福と感謝を唱える娘は土地の天使のようであった。
「ああ、すてきだわ、こんな冒険に出会えるなんて! 早く話してあげたいわ、お父様が帰られるのはいつかしら?」
 どこか遠くで朝食の匂いがした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
    人間|19才|女性|攻撃
  • エージェント
    ディオ=カマルaa0437hero001
    英雄|24才|男性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    伊集院 翼aa3674hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 希望の意義を守る者
    エディス・ホワイトクイーンaa3715hero002
    英雄|25才|女性|カオ
  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706
    獣人|19才|女性|回避
  • 抱擁する北風
    Летти-Ветерaa4706hero001
    英雄|6才|女性|カオ
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