本部

水中に潜むモノ

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/07/19 19:46

掲示板

オープニング

●早朝
 老人は、穏やかな川に釣竿を垂れていた。早朝から数時間、釣りをするのが老人の日課であった。
「おはよう」
 声をかけてきたのは、近所の川魚料理専門の料理屋の主人であった。
「ああ、おはよう」
 老人はのんびりと応えた。
「釣れる?」
「釣れないねぇ。いつものことだけどね」
「そうか……」
 主人の浮かない顔を見て、老人は「そっちはどう?」と水を向けた。
「さっき舟を出して網を打ったんだけど、全然とれなくてさ。実は、もう一週間連続で不漁なんだよ」
「おや、大変じゃない」
「まあ、生け簀の魚でどうにかやりくりしているけど、この先どうなることか……」
「なんでだろうね。異常気象のせいかな」
「わからない。じいさんは、毎日ここにいて何か変わったことはなかったかい?」
「特になにもなかったなぁ」
「そうか。何かあったら教えてよ。あっ、引いてるよ!」
 老人の釣竿の先で、浮きが激しく上下していた。老人は慌てて釣竿を握りしめた。
「うわっ! すごい引きだ! 手伝ってくれ!」
 老人と主人は二人がかりで竿をつかんだ。老人はリールを巻こうとしたが、できない。
「あっ!」
 釣竿は二人の手から飛び出し、水中へ引きずり込まれた。
 二人が呆然としていると、川の中央で何かが跳ねた。バッシャーンと水しぶきが上がり、何かは水中へ消えた。
 老人と主人は、顔を見合わせた。
「今のは……」
「桁外れの大きさだが……」
「「ウナギだ!!」」

●ウナギ退治
 H.O.P.E.敷地内のブリーフィングルームで、職員が説明を始めた。
「A川で巨大なウナギが目撃されました。ミーレス級従魔と思われます。最近、川で魚がとれなくなっているのですが、そのウナギが原因のようです。近所の川魚料理専門店から、早く従魔を討伐してほしいと要望が来ていますので、従魔の討伐をお願いします。放っておいて従魔が人間を襲い始めたら大変ですしね。あ、討伐後の従魔は食べてもいいそうですよ」

解説

●目標
 従魔の討伐

●登場
 ミーレス級従魔。
 巨大なウナギ型の従魔。
 体長約3m。胴回り約1m。
 噛みついたり、巻きついたりして攻撃する。
 素早い。ぬるぬるしている。

●状況
 晴天。午前6時半頃。
 A川の水が流れている部分の幅は100m、水深2m。
 A川周辺には、散歩をする一般人がちらほらいる。
 近くに船着き場があり、料理屋の主人のボートが停めてある。

●補足事項
 討伐後の従魔は食べてもよい。
 煮るなり焼くなりご自由にどうぞ。

リプレイ

●戦闘準備、OK?
『食べても構わない。という事は、斃しても消滅しないタイプかしらね』
 英雄のマイヤ サーア(aa1445hero001)は、呟いた。
「何かしら依代になった物があるのか? 国産鰻の絶滅回避の一手に……なったりはしないかな?」
 地方公務員である迫間 央(aa1445)としては、国産鰻の未来も少し気になるところではあったが、今は調理の準備に集中すべきときであった。何せ獲物のサイズがサイズである。熱湯でぬめりを剥がすにしてもお湯の用意だけで大仕事だ。
 ということで、迫間は地元の小学校の給食用の大鍋などを借りられるように手配した。更に調理する場所として近所のバーベキュー場を予約した。
 マイヤは何故かウェディングドレスを纏い迫間の前に現れた英雄であり、迫間とマイヤはお互いに依存しつつも距離をおいた関係であった。

「鰻とは楽しみじゃのう」
 天城 初春(aa5268)は言った。初春は、銀毛の狐の耳と尾を持つワイルドブラッドの少女である。腰まである銀髪を首の後ろで束ね、両目の下には三本ずつ紅色の横線がある。初春は、従魔討伐後の鰻料理を楽しみにしていた。
『ああ、ばっちり退治してやろうぜ!』
 英雄の天野 桜(aa5268hero001)は、笑顔で言った。桜は、元異界《旭光皇国》の武家の姫で、近衛衛士隊の3番隊の隊長を務めていた。上下ともに白の和装を着て、その上に籠手や胴、脛当を付け、白地に青で縁取られた、皇国の《炎を抱く黒龍》の紋が描かれた羽織を羽織っている。頭は、桜色の髪を後ろで束ね、額に鉢がねを巻いている。桜は、普段は元気いっぱいだが、公の場では礼儀正しい令嬢になるのは、元の世界で武家の姫だった名残だろう。
 初春は、戦闘予定区域を警察に連絡し、周囲一帯の封鎖を要請した。

「ウナギっ、ウナギっ」
 ピピ・浦島・インベイド(aa3862)は、はやる心を抑えきれない。ピピは鯱のワイルドブラッドなので、鰻は大好きである。ピピは子供であるものの力強さは大人顔負けで、特に顎の力は強力であった。ピピの口には、ギザギザの歯が並んでいる。
『ピピちゃん、嬉しそうだね』
 英雄の音姫(aa3862hero001)は、苦笑した。音姫は、元の世界では「龍寓王国」の第3王女であり、ピピとは仲のよい親友といった間柄である。

「……何……作ろう」
 染井 桜花(aa0386)は、退治した鰻でどんな料理を作ろうかと考えていた。桜花は、透き通るような白い肌と、赤水晶の様な赤い瞳の少女であり、“紅牙剣闘円舞術”という武術の使い手である。
『期待しているわよ~』
 英雄のマリー・B・ランディーネ(aa0386hero002)は言った。マリーは、元いた世界では「血塗れのマリー」の二つ名を持った、凄腕のバウンティーハンター(賞金稼ぎ)として活躍していた。マリーは、色気満載で、銃を撃つたびに「快感」を覚える癖のようなものを持っていた。
 マリーにとって桜花は妹のような存在であった。マリーも料理は得意で酒の肴を作ったり、桜花のために料理を作ったりするのだが、今回の料理は桜花に任せるつもりだった。

「川の魚を食べつくしちゃうなんて困った鰻だね」
 夜帳 滅美(aa5299)は呟いた。滅美は、庇護すべきと思った者への強い母性と、それに危害を加える者への凶暴な攻撃性を持ち、エージェントを天職と考えている少女である。
『そうですね。速やかに退治しましょう』
 英雄のオレスティア(aa5299hero001)は頷いて言った。オレスティアは、「因果応報」という言葉に強く拘り、「我は正しい応報を与える為の刃」と自負するカオティックブレイドである。

「鰻だって、Alice」
 アリス(aa1651)は、隣にいる英雄のAlice(aa1651hero001)に言った。
『そうだね、アリス』
 Aliceは応えた。
 アリスとAliceは、その色をのぞけば鏡に映したかのようにそっくりであった。アリスは黒髪に赤い瞳の少女、Aliceは赤い髪に黒い瞳の少女である。二人とも敵への興味はほぼ無く、オーダーだから戦うだけ、それ以上でもそれ以下でもなかった。
 アリスは、ライヴズジェットブーツを幻想蝶に収納した。可能性は低いと思ったが、川に引きずり込まれた時のための用心であった。

 エージェント達は、H.O.P.E.内で打ち合わせをした。
「鰻を食べるために、もとい、川に平和を取り戻すために頑張りましょう。現場に到着したら、通信機で連絡を取り合うほうがいいですね」
 迫間は、仲間に声をかけ、ライヴス通信機で連絡を取り合うことを確認した。
「そうですね、迫間さん。釣りしてる近くでは水しぶきで声が拾いにくいかもしれないので、みなさん、通信機使ってください」
 ピピが元気に言った。
 エージェント達は各自準備を整えて、現場に到着した。
 川は静かで、従魔が潜んでいるようには見えない。鰻はどこにいるのだろうか……。

●巨大鰻を退治しよう!
 迫間は、従魔を引き上げる岸をどちら側にするかを仲間と話し合った。川の右岸と左岸では、左岸のほうが広くて戦闘に向いていそうだったので、左岸に従魔を釣り上げることになった。
 初春と迫間は、手分けをして周囲を調べ、付近に一般人がいないか最終安全確認をした。初春が警察に依頼して現場を封鎖していたものの、数人の一般人が区域内に入り込んでいたので、戦闘に巻き込まれない場所へ避難してもらった。
 桜花は、足場と移動用に料理屋の主人からボートを借りた。滅美は、そのボートに乗せてもらって右岸に移動し、一般人が残っていないか確認した。確認が終わるとライヴス通信機で仲間に報告した。そして、そのまま右岸の川岸から少し離れた所で周囲を警戒した。
「う、う、ウナギさんだー――!! 美味しそー―――!!!」
 ピピが、川の真ん中の水面に鰻の背中を見つけて歓声を上げた。
『ピピちゃん、ウナギって生で食べると毒があってまたお腹壊しちゃうよ? だからちゃんと料理してから。それまで我慢。いい?』
 音姫は、ピピをたしなめた。
「え――――…………むぅ―――――」
 ピピは不満そうな顔をしながら、音姫と共鳴した。
 ピピは、アサルトユニット「ゲシュペンスト」を起動した。足下に波のようなエフェクトが出現した。ピピは、水上に移動し、浦島のつりざおを構えた。
 ピピの動きを見て迫間は釣り上げの意図を察知した。迫間はマイヤと共鳴してアサルトユニットを起動し、即水上戦に入れるよう準備をした。共鳴後の迫間は、力の開放感や普段貯めこんだストレスの影響か、気分が高揚、尊大な態度になり、自身の正義や信念に反するモノに対して高圧的、攻撃的な性格に変化した。
 桜花はマリーと共鳴した。桜花の髪が真っ赤な血の様な真紅に染まり、右目が青く輝いた。肌には、絡みつく茨と真紅の薔薇をモチーフとした、紋章痣が出現して発光した。
 桜花は、ボートの上から水面にSMGリアールを連射した。川に岩を投げ込んだり、岩場に岩をぶつけたりして魚をとる漁法をがっちん漁というが、桜花がやっているのは、岩の代わりに機関銃を利用したがっちん漁である。ダダダダッと発射音が響き、水煙が上がった。
(うふふ……うふふふふ……良いわあ、すごく良いわあ……)
「……何時もより……ご機嫌?」
(ふふ、ええ……。SMGは久々だから、たまらないわあ……)
 マリーは、連射による連続快感で悶えつつ妖艶な微笑を浮かべた。
「……そう」
(ええ。だから……もっと、もっと、もっと……撃ちまくりなさい!)
「……そうする」
 桜花は冷静に応えて、連射を続けた。
 突然、桜花の乗っているボートが激しく揺れた。鰻が水中からボートに体当たりしたのである。桜花は攻撃に備えて身構えたが、二回目の攻撃はなく水面は静かになった。
「……どこ?」
 桜花は呟いた。
「こっちに来たよ」
 右岸で周囲を警戒していた滅美が、鰻の影に気づいた。滅美はオレスティアと共鳴し、射的銃「ルフトシュトゥルム」で射程ギリギリから鰻を左岸に追い込むように射撃した。放たれた空気弾は小さな竜巻を起こし、川面に突き刺さった。
 鰻は水面に浮かび上がった。
「……目をつむれ!」
 桜花は仲間に警告すると、フラッシュバンを使用した。目がくらんだ鰻は、水中へと潜っていった。
 ジョーズの着ぐるみを着たピピは、鰻を追いかけて川に潜水した。
 川の水は濁っており視界はよくない。
 ピピは、きょろきょろと周りを見回した。
「うわ!」
 ピピのすぐ近くを鰻の巨大な頭が通り過ぎた。鰻がフラッシュバンによって衝撃を受けていなければ、ピピは噛みつかれていたことだろう。
 ピピは釣竿を振った。釣り糸はするすると伸びて、針が鰻の口に引っ掛かった。
「よし! 釣り上げるよ!」
 ピピは水上に浮かび上がり、竿を引いて鰻を水面下に引き寄せた。
「お、出てきたようじゃな。桜義姉様、行きますぞ!」
 初春は桜に呼びかけた。
『ああ、あたいらの活躍、魅せてやろうぜ!』
 桜は元気に応じ、二人の声が重なった。
「『リンク!』」
 桜と共鳴した初春は、外見は初春で、装備は桜の格好になった。周囲に桜色のライヴスの残滓を纏い、犬歯は伸びて牙となり、攻撃的性格に変化した。
「く、くかかかか、捌いて蒲焼にしてやるでござる!」
 初春は、ALブーツで水面を走った。
 ピピの釣竿の先で、鰻は激しく暴れ、水面に荒波が立った。
 迫間は、女郎蜘蛛を使用した。ライヴスのネットが鰻にからみつき、鰻の動きを抑えた。
 アリスはAliceと共鳴した。アリスとAliceが触れ合ったところから陽炎の様に姿が歪み始め、髪も瞳も炎の様に、血の様に紅い色をした少女が現れた。表にでる人格はどちらかではなく、どちらでもある。元より合わせ鏡だと自称する彼女達にとっては、どちらでも良いことであった。周りの人にとっては、その少女こそ「アリス」である。
 アリスは、霊力浸透を使用した。
「ここは通さないでござる!」
 初春は、川岸からの射程圏から逃がさないように、洋弓「アウクシリウ厶」で鰻を牽制した。
 迫間は、ハングドマンで鰻を拘束した。
「鰻の丸焼きになっちゃうかな」
 アリスはそう呟くと、アルス・ペンタクルを挟んである極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を開いて、岸から攻撃を行った。地獄の業火が鰻を襲った。
 迫間は、鰻の側面に回り込み英雄経巻を展開した。迫間の周囲を浮遊する経巻が、白く輝く光を放って鰻を攻撃し、鰻を岸のほうに追い立てた。川の水による物理攻撃の減衰を懸念しての魔法攻撃であった。
 桜花もまた、ボートで移動しながらSMGリアールを連射し、鰻を岸へと誘導した。
 鰻は長い体をくねらせて迫間に体当たりしようとした。迫間は鰻の攻撃を回避した。
「紅炎の刃をくらうでござる!」
 初春は、攻撃に失敗した鰻の隙に乗じて、武器を愛刀・紅炎に持ち替えて重い一撃を放った。
 ピピの釣り糸を斬らぬように気をつけながら、鰻を切り飛ばす一太刀を見舞うタイミングを図っていた迫間の目が光った。鰻が初春の攻撃を嫌がって水上に飛び上がった瞬間を好機と見て、天叢雲剣を振るった。迫間の周囲に雲のようなオーラが纏わりつき、白い刃が鰻の腹を引き裂いた。
「四国では八岐大蛇を切り飛ばした叢雲だ」
(鰻一匹捌く程度、容易いもの……)
 従魔や愚神には冷淡なマイヤが、クールに呟いた。
 ピピは仲間の支援を受けながら、退避と釣りを繰り返し、少しずつ鰻を川岸に引き寄せていった。
 アリスは、移動して鰻を陸に上げる時のスペースを作った。
 ピピは川面から岸に上がり、釣竿を引いた。鰻の頭が岸に乗り上げた。鰻は大きく口を開けた。鋭い歯がむき出しになる。鰻は、その鋭い歯でピピに噛みつこうとした。
「おっと、悪いが釣り人への直接攻撃はさせてやれんな」
 迫間はそう言うと、ターゲットドロウを使用して鰻の攻撃を自分に向けさせてその攻撃を回避した。
「えーい!」
 ピピは思いっきり釣竿を引いた。鰻の全身が水中から飛び出し、ドサッと地面に落ちた。
 対岸にいた滅美は、鰻が釣り上げられて陸地に引き出されたのを確認すると、アサルトユニットを起動し、一気に川を渡り仲間と合流した。そして、射程ギリギリのところから鰻を撃った。
 鰻は尾を振って、アリスを攻撃した。
 アリスは拒絶の風を使用して鰻の攻撃を回避した。鰻の動作は大きく、アリスは鰻の攻撃を見極めていた。
 鰻はぬるぬるした体をくねらせて川に滑り込んだ。
 滅美は、ウェポンディプロイでSHINGANN RODに持ち替えて覚醒し、鰻の位置気配を探ろうとした。
 エージェント達が息を潜めて川を注視していると、水面に鰻の泳いだ跡が見えた。
 アリスは、高速詠唱を使用して雷上動に切り替えた。
 ピピは、釣竿を投げた。釣り針は鰻の背中にひっかかった。ピピは、再び鰻を陸地に釣り上げた。
 アリスは、こちらを向いた鰻の口内を狙って雷上動で矢を射った。紫電の矢が鰻の口の中に刺さった。
 鰻は大きく身体をくねらせて、初春に巻きついた。初春は若干のダメージを負った。
 迫間は天叢雲剣で鰻に斬りつけた。
 ピピは縫止を使用し、ライヴスの針で鰻の行動を阻害した。
 初春は、飛び上がって鰻のぬるぬるした身体から逃れた。
 アリスは再び霊力浸透を使用した。
 桜花は、武器をソウドオフ・ダブルショットガンに持ち替えて散弾を放った。
(うふふ……SMGも良いけど、こっちも良いわあ)
 マリーは、妖艶な微笑を浮かべた。
 滅美は、仲間の後方から射的銃「ルフトシュトゥルム」で鰻を撃った。
 初春は、鰻の背後に回り込み、紅炎で鰻を斬りつけては退避する攻撃を繰り返した。初春は、身体は小さいが敏捷で、一撃離脱による乱撃を得意としていた。鰻にとっては、嫌な攻撃であった。
 鰻は桜花に噛みつこうとした。桜花はカウンターでショットガンを使って鰻を突き、銃が相手の体に触れた瞬間、ストライクを使用して射撃を鰻に叩き込んだ。
「……銃撃円舞・雀蜂」
 桜花は呟いた。その言葉通り、雀蜂のような強烈な攻撃であった。
 ピピは、毒刃を使用し、鰻の生命力をじわじわと削っていった。
 鰻の動きがだいぶ鈍くなってきた。
(後は倒せるように皆様と一緒に頑張りましょ)
 音姫は言ったが、ピピは聞いていなかった。
「う――――……もーしんぼーできな―――い!!!」
 ピピは叫ぶと、鰻にがぶりゅと咬みついた。鯱としての本能が抑えきれなくなってしまったのだ……。
(ぴ、ピピちゃん!!)
 音姫はピピを止めようとしたが、止められない。ピピは鰻の生身の身体に咬みつき肉を喰らった。
「ん――――、うみゃあーっい!!」
 もしゃもしゃと鋭い歯で咀嚼しながら、ピピは鰻を喰らって喰らって……。
「ピピを止めろ!」
 迫間は叫んで、ピピに駆け寄った。迫間は、後で食べる事まで考慮して汚くならないように鰻を捌いていたのに、これでは努力が水の泡である。
 他の仲間もピピに駆け寄り、どうにかピピを取り押さえることができた。
 息も絶え絶えになった鰻は水中に逃げようとして、滅美に体当たりした。
「さっさと決めるぞ」
 迫間はそう言って、仲間の顔を見回した。
 エージェント達は視線を交わし、暗黙のうちに鰻の頭を集中攻撃することで意見が一致した。
 迫間は、天叢雲剣で鰻の右目に斬りつけた。
 アリスが雷上動で放った矢が、鰻の左目に刺さった。
 桜花が撃った散弾が鰻の顎を砕いた。
 初春は、高く跳躍して紅炎を大きく振りかぶり、鰻の頭にその大太刀を振り下ろした。
 鰻の頭がドサッと地面に落ちた。
 ピピの身体を押さえていた滅美は、ふっと肩の力を抜いて言った。
「ピピ、食べちゃ駄目だよ」
「ふぁーい」
 ピピは、しょんぼりして言った。

●鰻料理をお楽しみください
 戦闘が終わり、エージェント達は共鳴を解いた。
 初春は、愛刀・紅炎を肩に担いで言った。
「やれやれ、愛刀や愛弓がデカいからやりづらい。もう少し大きくなりたいものじゃ」
『初春はそのままが一番かわいいんだぜ』
 桜は、初春の頭を撫でながら言った。初春の狐耳が嬉しそうにぴくぴく動いた。
 エージェント達は、鰻を持ち運びできる大きさに切り分け始めた。
『……相変わらず料理はさっぱりだけれど、捌く事については自信がついた気がするわ』
 マイヤは呟いた。
「そりゃ何よりだ。共同作業で飯が作れるね」
 迫間は微笑を浮かべて言った。
 仲間がいそいそと調理の準備をする傍らで、アリスは、H.O.P.E.に依頼完了の報告を入れた。
「お疲れ様でした! このあとは鰻パーティーですね? 楽しんできてください」
 H.O.P.E.の女性職員は、少し羨ましそうに言った。
 桜花は、借りていたボートを料理屋の主人に返却して、鰻退治が終了したことを伝えた。
「それはよかった! ありがとう!」
 主人は川に平和が戻ったことに大喜びして、桜花が鰻の下処理方法等を聞くと、丁寧に教えてくれた。
 エージェント達は、切り分けた鰻をバーベキュー場に運んだ。
 桜花は黒い着物にたすきがけをして鰻の調理を開始した。まずは、迫間が準備した大大鍋に湯を沸かして熱湯で鰻のぬめり取り。
 背の低い初春は、踏み台に乗ったり降りたり、ちょこまかと動きながら、桜花の調理を手伝った。
 滅美も調理を手伝った。滅美は、希望者を確認して必要な分だけ飯盒で米を炊いた。
 桜花が中心になって作ったメニューは、以下の通り。

――――
鰻のお握り茶漬け(そのまま食べてもおいしい)
ひつまぶし
鰻のオムレツ
鰻丼
鰻の白焼き丼(タレの代わりに、わさび醤油をかけた逸品)
鰻の太巻き
鰻の卵とじ丼

肝吸い
肝焼き
うまき(鰻巻き)
うざく(鰻とキュウリの酢の物)
――――

 できあがった料理は、料亭のような豪華さであった。
『沢山作るわねえ』
 マリーは、色っぽく言った。
 桜花は、ちらっとマリーの方を見て言った。
「……まだまた作る……マリーは」
『先にいただいてるわ~♪』
 マリーは、年代物の白ワインを飲みながら、鰻を満喫中であった。
「……だろうと思った……うざく……作りたて持って行くと良い」
『あら、ありがとう。頂くわ~』
 マリーは、妖艶に微笑みながら、うざくの載った皿を手に取った。
 木のテーブルに、ずらりと鰻料理が並んだ。見た目も美しい料理の数々。焼いた鰻の甘辛く香ばしい匂いが食欲をそそる。
 初春は、全メニューを制覇する勢いで食べ進んだ。白焼き丼は、ふっくらした鰻の身
にわさび醤油がよく合い、あっさりとしていて、いくらでも食べられそうである。肝吸いは少し大人の味だが、だしがきいていて滋味に富んでいる。
「やっぱり夏は鰻に限るのじゃ! うまうまなのじゃ!」
 初春は元気に言った。
『こんなにおいしいものが食べられるなんて、いい依頼だったぜ』
 桜も鰻料理を食べながら、満足気に言った。
「おいしいね、Alice」
『おいしいね、アリス』
 鰻のオムレツを一口食べたアリスとAliceは、顔を見合わせて言った。それから再び食事にとりかかる。二人は箸で鰻を口に運ぶタイミングまで、まったく同じだった。
 迫間は、鰻丼をぱくぱくと食べて、マイヤに言った。
「うまいな」
『巨大な鰻だったけれど、大味じゃなくてよかったわね』
 マイヤはうまきを口に運びながら、言った。うまきは、香ばしい鰻の蒲焼きがふんわりしたやさしい味の卵に包まれていて美味であった。
「おいしいね」
 滅美は、ひつまぶしを食べていた。ご飯にワサビや海苔の薬味を追加したり、だしをかけたり、味の変化がなんとも楽しい。
『鰻料理とは、こんなに種類があるものなのですね。知りませんでした』
 オレスティアは、いろいろな料理を少しずつ食べながら、その味に感動していた。
 鰻料理を堪能しているエージェント達から少し離れた場所にいるのは、ピピと音姫である。音姫は、基本的には何も出来ない子なので、皆が調理をしている間、大人しく待機していたのだが、ピピは……。
「あーうー……お腹痛いよぉ~…………」
 ピピは、お腹をおさえて呻いていた。
『もー、だから言ったじゃない。毒があるから生で食べちゃダメって……自業自得ってやつだよ』
「む――――、音姫の意地悪ぅ……うぁ―――」
 ピピは、芝生の上をゴロゴロと転がって悶えた。
『私が悪いんじゃなくてピピちゃんが悪いんだよ……みんなが頑張ってるのに先に食べるから……』
 音姫は、ピピの行動にあきれて溜息をついた。
 そんな音姫の肩を誰かがトントンと叩いた。音姫が振り向くと、桜花であった。
「……持って帰って……食べると良い」
 桜花はそう言うと、鰻料理を詰めた重箱を差し出した。
『あ、ありがとうございます』
 音姫は、桜花の赤い瞳にじっと見つめられて、少しドキドキしながら、重箱を受け取った。
『よかったね、ピピちゃん』
「ありがとう~」
 ピピは、ゴロゴロ転がりながら、桜花に礼を言った。
 桜花は、軽く頷くと、更なる美味の追究のために調理場所へと去っていった。

 鰻料理を思う存分味わったエージェント達は、滅美が中心になって後片付けをした。その頃にはピピの腹痛もおさまっていたので、ピピと音姫も後片付けに参加した。
 ピピと音姫は、家に帰ってから、桜花がくれた鰻料理を堪能した。
「うみゃい! 生もうまかったけど、この料理もうみゃーっい!」
『おいしいね。みんな優しい人達でよかったよ。今度からは、ちゃんと私の話をきいてね』
 音姫が言うと、ピピは元気に「はい!」と返事をした。
 素直な返事がかえってあやしい……と疑いの目で見る音姫であった。

 栄養満点の鰻を食べてパワーアップした彼らは、これからも従魔や愚神を倒しまくってくれるだろう。
 夏バテになんて負けないぞ!

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ー桜乃戦姫ー
    染井 桜花aa0386
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445

重体一覧

参加者

  • ー桜乃戦姫ー
    染井 桜花aa0386
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    マリー・B・ランディーネaa0386hero002
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • お魚ガブガブ噛みまくり
    ピピ・浦島・インベイドaa3862
    獣人|6才|女性|攻撃
  • エージェント
    音姫aa3862hero001
    英雄|6才|女性|シャド
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 笛舞の白武士っ娘
    天野 桜aa5268hero001
    英雄|12才|女性|ドレ
  • エージェント
     aa5299
    人間|18才|女性|命中
  • エージェント
     aa5299hero001
    英雄|21才|女性|カオ
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