本部
銃身の少女
掲示板
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【相談】港町で蠢く闇を払い
最終発言2017/06/29 19:00:38 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/06/27 09:31:58 -
質問卓
最終発言2017/06/28 06:18:24
オープニング
● 人を買うということ。
町はずれの汚れた港区。よく見れば海の上には茶色かったり黄色かったりする泡のようなものが浮かんでいる。
ゴミも多い。そんな人間に侵されつくした病の端っこ。とある倉庫でとある取引がかわされようとしていた。
ハットをかぶった男が。明らかに穏やかではない人間達五人相手に訛りの強い英語で話をしている。
そのハットの男の隣には二人の少女が並んで立っていた。
片方は女性と少女の中間と言った趣、明らかな思春期。十六歳程度だろうか、褐色の肌と腰の両端にぶら下げた拳銃が特徴的だった。
切れ長の視線と短くそろえられた髪を揺らして、じっとやくざ風の男たちを睨みつけている。
対してもう片方の少女は、少女然としている。
ゴシックなどれす、白い肌。金色の髪の毛はくせっけで緩やかにカーブを描く。
一見上品そうな見た目だったが、その瞳が決定的に濁っていた。
どちらも人を殺す者の目だ。
命に価値など無いと信じている目をしている。
主の命があれば、目の前の男たちも殺すのだろう。
そんな雰囲気を醸し出している。
対してハットの男と言えば飄々として余裕を崩さない。
交渉もうまく言ったのか、上機嫌でトランクを持ち出し中身を見せた。
嫌に大きいトランクだった。大のとこでも担ぐのがやっと。
そんなトランクの中味は、金でも麻薬でもない。
男の子。
まだ十代にもなりきらない男の子。服装から言うと身分が高そうである。
さらわれて来たのだろう。
そんな彼は一瞬少女二人を見ると、助けてほしいとでも言いたげに目を見開いた。
ただしすぐにその視線は遮られることになる。
再び、トランクの蓋が占められてしまった。
こうして取引は成立、二つのグループはそれぞれ車に乗り、別々の方向へ去ろうとした。
しかし。
直後浴びせられるライト。
眩む視界に空を見上げて見れば。
建物の上に君たちが立っていた。
●抜き放たれる平気。
そんな君たちを見つめてハットの男は告げた。
「この取引がどうしてわかったのかな?」
だがその言葉をもらわぬうちに彼は吐き捨てるように言った。
「まぁ、それはどうでもいいことだが。それより私の行く手を阻む気しかないようだが、やるかね?」
告げると傍らの少女は二人とも銃を抜く。
「ディアナ。穴あきチーズにしてやれ」
「わかったわ、D」
「メルロー、けしクズにして構わん」
「楽しそうね。D」
二人の少女は頷いて、前に出た、とたんに響くアクセル音。ヤクザ達が乗った車だろう。
その撤退を支援するために少女たちは動くようだ。
「君たちの有用性を示しなさい」
その言葉に頷くと、感情の無い瞳でターゲットを見あげた。
● 状況説明
今回は港町での戦いとなります。
港には五メートル間隔で大型コンテナが並べられており見晴らしが悪いです。その外周を回るように移動して車が港から脱出しようとしているのでこれを抑える必要もあります。
さらわれた少年と、少女二人の無力化を目標に任務をこなしましょう。
少女二人についての情報をだします
二人とも遠距離攻撃主体です。
ディアナ
攻撃敵性 ジャックポット
褐色肌の少女。
装備している武器は見たことが無い長距離ライフルと、二丁拳銃。
どちらかというと中距離の二丁拳銃の方がダメージは出しやすいようだ。
どれくらいのレベルかは分からないが。フラッシュバンは使ってくるようだ。
意外と身軽に動き、高所に位置を取ろうとして来る。
メルローとは体内に移植した通信機で常に連絡を取ることができる。
違法改造のアイアンパンクなのかもしれない。
メルロー
攻撃敵性 カオティックブレイド
金糸の髪持つ少女。
火力重視の範囲攻撃型。
装備している武器は粗悪品のマグナム型AGWとフリーガーファウストG7。
俊敏性はないが、火力と制圧力に秀でる囮役、かき回し役である。
どれくらいの実力かは分からないが、ロストモーメントは使ってくるようである。
ディアナとは体内に移植した通信機で常に連絡を取ることができる。
違法改造のアイアンパンクなのかもしれない。
ヤクザ車両
荷台に別れて東西に走って逃げようとする、移動力は港に物が多くある、道が滑りやすい影響で移動力15程度しか出せないが、一般車道に出てしまうとリンカーでは追いつけないだろう。
ハットの男。
男は車をださずに戦闘風景を見守っている。
何か目的があるのか、それとも少女たちが無事に帰ってくるのを信じているのか佇んでいる。
上記の状況を踏まえた上での銃撃戦と救出戦を同時にこなしていただきたい。
解説
目標 ヤクザ車両から子供を取り返す。
ヴィランを無力化する。
今回は港町での戦闘です。状況が簡単で不意を突く要素が少ないので、戦闘訓練や、レベルの低い方に向いていると言えます。
ただ一つ注意してほしいのが下記PL情報です。
彼女たちには試薬が配られています。
リンクレートを上げる薬を作る際にできた副産物で、一定時間爆発的な身体能力強化。およびスキル使用回数を回復。
することができますが。
三本使うと死にますし、二本使っても障害が残るでしょう。
これをつかわせないように立ち回るか、使わせることを前提で戦略を組むのかはお任せします。
ここまでがPL情報ですが、異常を加味して戦略を立てて見て下さい
リプレイ
プロローグ
「……兄者、またブルってるのか」
『阪須賀 誄(aa4862hero001)』は重々しいため息を連発する『阪須賀 槇(aa4862)』へ声をかけた。
「うぅ…………嫌なんだお、妹者を撃つみたいで……」
「……ハァ、替わるか?」
「いや、良い」
「お?」
意外な返答に誄は首をかしげた。
「ここで引いたら……時に、あの少女らも死ぬかもしれない。お兄ちゃんとして、暁の隊員として、それは許されざるよ!」
「いい心がけだな!」
そう背後から膝で阪須賀兄弟を小突いたのは『ネイ=カースド(aa2271hero001)』が焼きイカをくわえてもごもごと何かを言っている。
「人身売買、ですか」
そんな男子たちを尻目に女子達はずんずん先を行く。『国塚 深散(aa4139)』はふむと考え込んで、そう呟いた。『九郎(aa4139hero001)』が肩に手をかける。
「ロクな目的でない事は確かだね。犯罪シンジケートによる組織的な動きなら他にも被害者がいる筈。どうにか手掛かりを掴めれば良いんだけど」
「……迷える子羊を助けられずして、何が騎士です。行きましょう、ラシル……そして、皆様」
そう『月鏡 由利菜(aa0873)』が冷えた眼差しで顔をあげた。
『リーヴスラシル(aa0873hero001)』が頷き。『鬼灯 佐千子(aa2526)』は懐の拳銃を指でなぞる。
「今回の目的は、誘拐された子供の救出。次いでヤクザ連中の捕縛に、場合によっては少女2人の救出」
『リタ(aa2526hero001)』がつぶやくと、佐千子は静かに盛りだくさんねと告げた。
「どう見ても、その筋じゃない少女を戦わせるあの男……」
『煤原 燃衣(aa2271)』は資料を思い出す、あのハットの男。きな臭い。何よりこの状況自体も。
「裏社会の生ゴミの臭いがプンプンするな」
ネイがホタテの炙りを平らげていく。ちなみに先ほどからネイが口にしている海産物は今回舞台となる港町の特産品である、調査という名目でネイに買わせた。
何が調査なのかよくわからなかったが、首を縦に振らざるおえなかった。
「……皆の手が空いてたのは行幸でした」
燃衣が立ち上がり全員に告げる。
「今回は手筈通り、適材適所で分担します、小隊【暁】……訓示!」
告げれば小隊暁に所属する者全員が声を上げ。胸に刻んだ合言葉を口にした。
━されば立ち上がって戦え、いかなる運命にも意志をもって━
「俺とスズは大将首を取りに行く。杏奈、槇…………少女は任せる。仁菜、フラン…………チンピラを黙らせろ。隊外メンバーも宜しく頼む」
ネイは隊長に代わって的確に指示を出していく。
「では各員……状況開始……ッ!」
(弱き人々を救う、それが……彼女との《約束》だから)
会議室をでて一行は護送車に乗り込んだ、一般向けにカモフラージュされているがAGWも防げる特別性。
「さて、俺らは影になって支援と行こうか」
『フラン・アイナット(aa4719)』の言葉に頷く『フルム・レベント(aa4719hero001)』
「今回は目立つほうじゃなくて目立たないように行動だね?」
「きっといつもの装備だと油断させることはできない……だから、今日はこの盾で」
『大門寺 杏奈(aa4314)』は数ある装備の中から最も作戦に適したものをチョイス『レミ=ウィンズ(aa4314hero002)』に手渡した。
「動く盾ですわね! 体が軽いですわ♪」
「うん。外側に受け流しするよ」
「了解ですわ。そのようであればわたくしにお任せを」
ヴィランに対応するため。ミラージュシールドを車内で抱きしめる杏奈。
みんなを自分が守るから、だから自分を守ってほしい。そう自分の一部ともいうべき盾たちに想いを託す
「さあ、行くわよ!」
そうして送り届けられたのが港町の真ん中。ここから情報を集めながらも徒歩で現場に向かう。
第一章 焼けつくような白光の先に。
バンッと照りつける白色光、目もくらむような強烈な灯りに組織の人間はパニックに陥った。唯一落ち着いているハットの男が不気味だが、一番警戒すべきは左右に立つ少女たちなのだろう。
「お前たちはすでに包囲されているのであります。抵抗は無駄なので直ちに投降するのであります」
『美空(aa4136)』はその手にメガホンを掲げ、キィンと声を割りながら、つらつらと敵に投降を促している。『ひばり(aa4136hero001)』は隣で後ろ手に汲んで堂々と立っていた。
見様によっては板面に思えるのだが。
餓鬼が遊びに来るとこじゃねぇぞ!
と引き金を引かれてメガホンを破壊される美空。
あまりの衝撃に床に手をつく美空。
「壊す必要なんてないじゃないですか!!」
そう美空はひばりと共鳴し盾を構えて突っ込んでいく。
「うわあああ、こっちきた」
お化けのような扱いを受ける美空。あわてて車に乗り込むヤクザ達。
だが一人不敵に微笑むハットの男。
「まずはあのクソガキを殺せ、それがお前たちの有用性だ」
「有用性、ね……彼女らは逃げる気が無いだけか逃げられないのかとか、ハットの存在だとか……」
――引っかかる点はいくつかあるけど
「……まぁ良いや」
「「やってしまいましょう。アリス」」
『アリス(aa1651)』と『Alice(aa1651hero001)』は声を重ね物陰が躍り出た。即座に銃を構えた少女二人に奇襲を仕掛け。その魔術で視界を覆う。
しかしハットの男は捕え損ねてしまった。
彼は車に腰掛けるとこちらの様子を眺めている。
不気味だ。しかし次いでメルローの銃口がアリスを向いたので、アルスマギカのページをめくり。
夜の闇から毒を生成、それをはりにして打ち出して、銃弾を叩き落とす。
次の瞬間メルローの前に由利菜が躍り出た。不意に現れた射程外から攻撃してくる敵。拳が触れ合うほどの距離はメルローにとってアウトレンジである。
そして繰り出された刃の連撃を、メルローは銃身でそらした。
「くっそ! なんなのよアンタたち! 私たちを殺しに来たの?」
「止めに来ました」
静かに由利菜は告げる。
「それは、死ぬことと同義よ!!」
直後、メルローは上空にマグナム銃を複数生成。そのまま自分を含めて由利菜に弾丸を放つ。
――……人格や行動規範の形成には、置かれた環境が大きな影響を与える。
リーヴスラシルは悲しそうに告げた。
「……誰かの野心の為に駒として扱われるだけの人生……そんなの、私は絶対嫌ですだから」
由利菜は膝や肘に弾丸を受けながらも立ち上がる、気合で剣を取り、メルローに食らいついた。
少女の顔が恐怖で染まる。
――人生は一度しかない。貴重な青春期を無駄にするな!
「貴女の主へ逆らう勇気がないのなら……私達が救いの手を差し伸べます!」
「救いなんてない! まがい物はもう十分なのよ!!」
「強いわ」
――強いわね
アリスたちはそうつぶやいた。メルローは由利菜を捌きつつもこちらを常に気にしている。決して油断できない相手だ熟練者のアリスですらそう思う。
であれば、ヤクザ達の車に気を回している暇などなさそうだ。
でもそれでいい、美空もアリスも由利菜も囮役だ。
話の本題は拉致されたトランクの中の少年を救うこと。そしてそのための戦力もきちんと向かわせている。
たとえばフラン。
フランもすでに共鳴済み、夜の闇に潜んで走る。車はやはり速度が出ていない。
無数のコンテナを避けながら進まないといけないのだから当然だろう。
だから二人のスナイパーからすると狙い撃つのはたやすかった。
――風速……弾速に影響が出るほどではないな。
「斜角計算は終えてる」
――なら、狙い撃て。
トリガを絞る佐千子。その銃口から放たれた弾丸は見事、ヤクザ車両に突き刺さりタイヤをパンクさせた。さらに逆方向に逃走した車両にも一発。
だがそれでも無理やり走ろうとする、二両の車両。
「タイヤの形を変形させるほどじゃないとダメか」
空薬莢をはじいて佐千子は次弾を装填。
だがこれで速度は上がらず、レーダーに手の補足も完璧、これで取り逃がすことは万が一にも亡くなっただろう。
「阪須賀さん達はどう?」
「こちら阪須賀兄弟。目標視認、狙撃に入る、オーヴァー」
そう無線に言葉を返すと阪須賀は寝そべった姿勢からそのスコープでディアナを捉える。
「しかし弟者よ、少女の背後を取るなんて興奮するな!」
――……OK、シリアスさん死亡確認。
闇にまぎれ敵を狙う狙撃兵はわりかし陽気であった。
「兄者よ、砂に見付かったら後が面倒くさいぞっと」
「OK弟者、それはFPSプレイヤーに言うセリフじゃない……なっと!」
そしてトリガを絞る阪須賀。その弾丸はディアナへ迫り。そして。
第二章 トランクの中味
「フルム、準備はいいか?」
――もちろんだよ、お兄。私たちの力見せつけようね」
フランはコンテナの背後から躍り出ると火花を散らしながら走行する車両に狙いを定めた。
その真正面から最大加速し突っ込んでくる。『藤咲 仁菜(aa3237)』ゲシュペンストを用いた暗闇からの完全奇襲。
全力でエンジンを吹かせる車を真っ向から止めた。
「はあああああああああ」
「なんだこいつら! 化け物か!」
車内でヤクザが騒いでいるのが聞こえる。
だがそれも仁菜の狙いの一つである。
――素手で止めることで敵に敵わないと思わせる……か。
『リオン クロフォード(aa3237hero001)』は思わず苦笑いを浮かべた。
確かに女の子が両手で車を止めていたらもう戦う気も起きなくなる気がするが。本人はそれでいいのだろうか。
「あああああああ!」
それなりに気合がいるのか演技なのか仁菜は両足で大地を掴むと前輪を浮かせるためにバンパーを釣り上げた。キュラキュラと無力に回転する前輪。
しかいこの車は4WD。
「つぶれやがれええええ!」
勢いは止まらない、むしろ車体の重さも仁菜の負担となってのしかかる。しめたとおもったことだろう。だがしかし。
――お兄、今だよ。
「ああ、一発お見舞いしてやるぜ」
頑丈な車体の横っ面に突き刺さったのが。オホトニク、狩猟ライフルの弾丸の嵐。
単発でも防火扉を打ち抜く威力があるそれだが、群で車両を襲ったとなると衝撃で回転するのも頷ける。
コンテナに激突し煙を上げる車両。
「さて、お遊びの時間は終わりだぜ」
――私たちの攻撃受けてみろ!
その車両へ追撃とばかりに攻撃を浴びせるフランである。
「わかった! わかったから! 鬼かテメェら!!」
そう涙目になりながら割れたガラスの向こうから白旗を上げるヤクザ達。
――悪い子は寝る時間だぞ?
その扉を開けてのこのこと這い出てきたヤクザ達には仁菜がセーフティーガスを浴びせた。
しかし、最後まで車の中に隠れていた一人が。ガスマスクを投げ捨てつつ。仁菜にドスを向けてきた。
だが一般人の動きなどリンカーには遅るるに足らない。
その手首をからめ捕るようにひねってドスをはじき落とさせると膝を蹴ってその場に座らせた。
そして転がるヤクザへ、彼が落したドスを突きつける。
リオンが口を開いた。
――気絶してた方が楽だったのにな? HOPEって基本悪い奴でも殺さないけど、民間人に命の危険がある時は許可されてるんだよねー。
例えば人質の命が危ない時とか。俺が一人じゃないってわかってるよね?
選んでいいよ? ここで気絶するか、狙撃手に頭を打ち抜かれるか」
(リオンも脅しがうまくなって来てる……!)
その言葉を背中に受けながらフランは車のトランクを開けた。
「はずれだったね」
そう舌を出して仁菜に手を振るフラン。それを見てフランは溜息を突き。ヤクザの首元に一撃加えた。
* *
対して逆方向に逃走した車両へは深散が向かっていた。
コンテナの上を素早く走る深散。
鷹の目でその進行ルートは確認済み。
であれば。あとはいつ襲うかを決めるだけ。
獲物を狙う肉食獣のごとく夜を走る深散、運転を誤っても危険が少なそうな場所を襲撃ポイントに選択し。
そして仁菜とタイミングを合わせ、コンテナを飛び越えて襲いかかった
着地予想地点は車両ボンネット。誤差なく見事に着地した深散はその手の刃を。
「えい」
力強く突き立てた。驚いたのはヤクザ達である。何せドライバーから見ればハンドルと自分の顔の間にいきなり刃が生えてきたのだ。それは運転もミスするというもの。
ハンドルは左右に切られ、混乱したヤクザ達は銃口を天井に向けた。放たれる弾丸を引き抜いた影渡りではじきつつ、コンテナに突っ込んでいく車から降車した。
鳴り響くクラクション。クッションに顔をうずめながら悶えるヤクザ達に、深散は悠々と歩み寄り。そして。
「大人しくしていただけますよね?」
そう刃を突きつけて全員を下ろした。
一人で数人の大人を拘束するのはとても骨が折れたが、全ての作業が完了して、やっと深散は車のボンネットに向き直る。
その手の刀は一般車両の装甲などわけもなく切り割ける。マスターキーとなったその刃を閃かせて深散は車も、トランクのロックも解除してしまう。
中には男の子が入っていた。
よかった、そう深散は胸をなでおろす。深散がため息をついているその声が耳に触ったのか、瞼をゆっくりとあける幼年。
「もう大丈夫ですよ」
そう深散は少年に微笑みかけると、全員に連絡を飛ばした。
「国塚です。男の子を保護しました。支援願います」
第三章 その男『D』
その男は葉巻に火をともしながらその戦いを見守っていた。
少女とリンカーたちのバトル。
そんじょそこらではお目にかかれないエンターテイメントに男は満足そうにため息を漏らすと、煙を吸った。
「……ずいぶん、不用心ですね」
すぐ背後から声がする。燃衣が車に背を預ける形で立っていた。
「センサーの類も、周囲に人影もなし。あなたはリンカーですか。でないなら愚神だ」
「それを俺に聞くかい?」
素直に答えるとでも思っているのか? 言葉の裏に隠された意味をかみ砕き咀嚼する。
そして燃衣は思った。
自分も甘くなったものだと。
「……テメェ、外道が、その首ねじ切る。ちょっと待ってろ」
直後さく裂するように燃衣は動いた。その手を車の下に滑り込ませると、AGWの力も使って車体を上空に放り投げる。これで遮蔽物は無くなった。
「……行きます」
その腕を伸ばし。そしてチョークスラムの要領で頭掴み……、勢いに任せて強烈に地面へ叩き付けた。
「……潰れて砕けろ……《朱天腕・改》ッッ!」
次いで響く轟音。コンクリートが蜘蛛の巣のようにひび割れて。鉄の塊ですら砕ける威力で男の頭が地面に叩きつけられた。
脳漿が周囲に散らばって、血の香りが鼻を突く。
「クソ外道相手なら…………躊躇は要らない……と思いましたがやりすぎましたかね」
そう燃衣は立ち上がってあたりを見渡す。
あっけなさすぎる。
だが目の前の男は確実に死んでいる。
どうするべきか。ここは仲間に意見を仰ぐべきだ。そうインカムに声を通そうとした瞬間。
「いや、血の気の多い若者は好きだがね」
車の後部座席、その扉を開いて男が身を盛り出した。
先ほど燃衣が頭を潰した男とまるで変わらない見た目をしている。
――ルネか?
その現象にデジャブを感じたネイ。
自分とそっくりな模造品。入れ替わり。暗躍。しかし結びつきかけた単語をその男はバッサリ切って捨てた。
「いや、あの愚神とは情報と技術のやり取りだけだ。子供を売る代わりにいろんなものを受け取った、例えば影武者」
「彼女たちはでは」
「あれは商品にしておくには惜しかったんでね、どちらにせよあの愚神と取引するにも、脳みそは中古でも新品でも高く売れる」
「……クソ外道が……ッ! この手で殺すッ!」
「お? いいのか殺しちまって。聞きたいこと、あるんじゃないか?」
「あなた、名前は」
「Dだよ。バイヤー『D』まぁDっていうのはチーム名みたいなものだけどな」
そう言ってDはハットを取ってお辞儀をした。
「愚神と人の中間にあるものだ。大好きな言葉は利益。よろしく」
燃衣はその憎たらしい顔に歯噛みする。だがこれは願ったりかなったりの状況でもある。
燃衣はあくまで冷静だ。この場から奴を逃がさないための挑発と威嚇行為。
すでに通話状態のスマートフォンから、味方へ情報が知れ渡っている。
アリスが戦場を抜けて迫っていた。
「愚神と人の中間?」
アリスはほっぺたに指を沿えて首をかしげる。
――それは存在的な意味合いかしら。
「それは立場的な意味合いかしら?」
アリスはそう告げると、コンテナの上から走りより、上空を捉えて幻影蝶を放つ。この効果次第で人間か愚神かがわかる。
さらに支配者の言葉も重ね掛けすれば、Dと名乗る人物の素性も分かってくるだろう。
だがそれはさすがに嫌ったのか。Dは告げた。
「いや、ここでとらえられるつもりはなくてね」
次いで爆発する車両。
霊力を纏った爆炎に二人は巻き込まれた。
第四章 心は鋼
ディアナとメルローは二人で一組のガンマンである、大抵の仕事は二人で乗り越えてきた、どんな大人数でも倒してきた。
大人でも子供でも殺してきた。
だがそれは相手が一般人だからだ。
組織だって、自分たちを狩るために派遣されてきたリンカーたち。
それを相手取るのは初めてで……。
まったく思うようにいかない。メルローはそう歯噛みして。あたりにフリーガーの射撃をばらまいた。
「こんんおおおおおお!」
逃走した車両をサポートしなければならない。なのに自分たちの動きは封殺されていて、ダメージすら思うように与えられない。このままではまずい。
焦りだけがつのる。
「さぁ。大人しく登校してくるであります」
「目障り、耳ざわり」
高説たれる美空に、イライラが募ったのかディアナは銃口を向けて。引き金を引いた。長距離ライフルの弾丸で頭を弾いているはずだった。だけど。
美空自慢の『バカには見えない盾』もとい『あなたの美しさは変わらない』によりはじかれる。透明盾による防御は種がわかっていれば何とも思わないが、何故はじかれたか分からない人間にとっては大混乱ものである。
「なんのトリックだ……」
苦虫をかみつぶしたように眉をひそめるディアナ。
その時である。
そのライフルを握る手が。真横にはねた。銃は衝撃で吹き飛ばされ、当たりに血が飛び散った。
佐千子による狙撃である。
だがさすがの狙撃主ディアナ。角度と一から狙撃位置を判定。
素早くメルローに反撃指示を出したのだ。空中を大きく飛び、あえて佐千子の目の前に現れるメルロー、衣装が風ではためいた。
――やらせませんわ。
そんなメルローの前に立ちはだかったのは杏奈。
反射的に放たれたマグナム弾を真っ向からはじくのではなくそらすように斜めに流した。
そして盾を横に構えると、メルローと視線を合わせる。
「受け流しを試みるのは2回目ですわね。……ご安心なさい、わたくしがおりますわ」
「――ええ、頼りにしているわ」
そのまま体をひねりメルローと盾越しに密着。
「くっそおおおお」
地面に彼女を叩きつけると素早く距離を取ってディアナを見た。
次いで、佐千子へと放たれた弾丸を杏奈が間に入り、そして。
「止められるかしら、この私を」
回転するように弾丸を弾いた。周囲に光の粒子が舞い散る。
「お、OK……こちら阪須賀! ポイント到着だお!」
その時杏奈のインカムを阪須賀兄弟の声が震わせた。
――よし、兄者。外すなよ~?
「ぷぷ、プレッシャーかけるのはヤメタマヘ…………よーし、やるぞやるぞ……っ」
さっきのふざけた調子もどこへやら。その視線が鋭さを帯びる。
「「バルス」」
合言葉と共に放たれたのがフラッシュバン。二人の少女は夜になれた瞳に強烈な光を浴びることになる。
千載一遇の好機。美空は位置を調整しカチューシャを展開。ディアナの視界をふさぐように発射する。
「ディアナ!!」
「運命の女神の名を冠せし時計よ、我が時を早めよ!」
その斬撃を何とか銃身で受け止めるメルローだったが、その手の銃に大きな傷がつく。
「メルロー、もうあれを使うしかない」
「ディアナ……わかった、私たちの未来のために」
二人は素早く距離を取ると、懐から注射器を取り出した、カバーを弾くと、その試薬を腕に。
「あれは……だめですよっと」
槇が少女二人の試薬を弾き飛ばそうと銃弾を高速で放つが、それは少女たちの腕をかすめるだけで試薬を打ち飛ばすには至らなかった。
「あれが、噂の薬……」
佐千子は試薬をスコープで視認。これ以上は使わせない、そう戦闘プランを組み立て直す。
「ここからが正念場だよ」
リオンが噛みしめるようにつぶやくと戦場に合流した仁菜が祈る様に両手を組む。そして、夜の闇を照らしだすような光が周囲に放たれた。
仲間たちの傷がみるみる塞がっていく。
第二回戦である。
「こちらに来なさい、ディアナさん」
佐千子が祈る様につぶやくと、二人は散開しディアナは相変らず佐千子を狙うように立ち振る舞う。
ここで会えて佐千子は自分の居場所を変えるということをしなかった。真っ直ぐディアナだけを見つめて、射撃線にうつる。
移動しながら佐千子を狙うディアナと佐千子の狙撃戦。
二人は相手の嫌がる行動を知っているが故に、弾丸を思うように当てていくことができない。
痺れを切らしたディアナは他のリンカーの包囲網を強引にぬけて佐千子の元へ。
薬の力で地力が上がっているのだ、できない話ではない。
その接近スピードは予想以上に早い。
だから佐千子は後退しようと後ろを振り返って再び前を向く。
すると。
「こんにちわ。お姉さん」
ディアナがいた。空を飛ぶような驚異的な脚力で、一瞬にして距離を詰めたのだ。
歯噛みする佐千子。だがそれは演技である。
背中に手を回して素早く空中にフラッシュバンを放る。
だが予想外だったのは、それに相手も行動を合わせてきたこと。
空中で二つのフラッシュバンが衝突、カンッと小さな音を鳴らしてそれらがさく裂した。
「くっ」
「んっ」
視界を光に閉ざされる二人、しかし音はする。お互いに射程距離の範疇。
佐千子は銃を抜いた。腰にぶら下げていた二挺拳銃。
耳を頼りに二人は銃口を向け合って撃った。
弾丸が耳を掠める、腕をかすめる。感覚が研ぎ澄まされる、相手の息遣いさえ聞こえる。
その佐千子の耳に衣擦れの音が聞こえた。ポケットから何かを取り出す音。
まずい。そう思った時である。
「だめだって言ってるのがわかりませんか!」
美空が叫んで、その手を売った手がはじかれて試薬が粉砕される。驚きでディアナの動きが止まった。
その背後から槇が迫った。
「時に少女を殴るのは俺も嫌だけど……対テロの基本は対象の完全沈黙。すまん、ね!」
そう槇は拳銃のハンマー部分で後頭部を殴った。
ディアナはその体をふらつかせ、前のめりに倒れる。
それを佐千子は抱き留める。
「これで一件落着ね」
佐千子は素早く、ディアナのポケットの中味を探り、試薬や武装の類を全て床に放った。そのまま少女を横たえて拘束。
抵抗しようとする少女を優しくなでた。
「あまり暴れないで。直ぐに止血するわ」
「ディアナ! そんな!」
その光景を見てメルローが絶望的な声をあげた。
「よそ見が好きなんですね」
そう挑発し懐に潜り込む由利菜。
「くそ!」
そんな由利菜の斬撃を受け。メルローはフリーガーを緊急複製。自分がまきこまれることも構わずにそれをうち放った。
だが……
――予想通り、反撃を仕込んでいたか……。
「……ですが、中途半端に傷を与えるべきではありませんでしたね」
その爆炎をものともせずに、由利菜は剣を構える。
「ラシル、今です! 聖剣ナンナ、レーギャルン、ミラージュソードの力を一つに!」
――了解。誓約術、リミッター解除!
「「ミラージュ・ストーム!!」」
目にも留まらぬ斬撃の嵐が、メルローを襲う。
その手の銃を砕いて、四肢に傷を刻み、衝撃でふきとばされたメルローはコンテナに衝突して跳ね返る。
「まだ! まだだ!」
そう薬を取り出すメルロー。同時に周囲にフリーガーを複製し始める。
だが。そんなことはさせない。杏奈がすかさず距離を詰める。
「盾がじっと構えてるだけだと思ったら大間違いよ!」
反射的に放たれた砲撃。それを盾で切り裂くように前へ。爆炎をドレスのように纏う輝きの乙女は。その強い視線をメルローに注ぐ。
対して年も違わない少女。何が自分と彼女の運命を分けたのか。
メルローはいたたまれない気持ちと共に、荒みきった心を拳に乗せて前に突き出す。
だがそれすらも……。
「私は、こんなこと、したくなった」
「うん」
「私は、普通の女の子でいたかった」
「うん」
「銃になんてなりたく……」
杏奈はウヴィーツァをメルローの手のひらに当てていた。薄くメルローの手のひらから血がにじんでいるが、これは攻撃の意図があってではではなく、試薬を弾くため。
杏奈はもう片方の手で、メルローの手首を抑え。そして爆炎が晴れたのち。メルローは自分が包囲されていることに気が付く。
「なりたくなかった」
そのまま意識を失って倒れ込む少女。その体を杏奈は抱き留めた。
エピローグ
「お前たちには黙秘権はない。外せる四肢は外してしまえ」
そう仁王立ちで言い放つ美空。ただその言葉に迫力はなく、ただ言いたいだけであることがわかる。
事件はハットの男の逃走と、少女の鎮圧によって終幕を迎えた。
アリスはその手で試薬を弄びながら告げる。
「懐柔?」
「誘導?」
「私は何でも良いけど……」
そんな二人の少女は事の顛末を見届ける。例えばヤクザ達。
「さあ、お前ら警察行きだ。覚悟しろ」
フランは大きな体で見降ろし、逃げるそぶりを見せようものなら足蹴りを放ち、パトカーへ誘導する。
「逃げようとしたらどうなるかわかってるんだろうな?」
そうソルディアを突きつけて脅した。
「これにて任務完了っと」
「お疲れ様だね」
そうフランにフルムが微笑みかける。
対して少女たちはH.O.P.E.側に連行されるようだった。
「お願いします、これ以上ひどい目に合わないように。体も普通のアイアンパンクにしてあげて」
そう仁菜が頭を下げると職員はその言葉に頷いた。
そして対応に困らせられているのがトランクの中の少年であった。
「怖かったですね。もう大丈夫ですよ」
そう深散は少年を抱きしめ頭を撫でる。
「メシェド」
「はい?」
唐突につぶやいた少年の言葉、それをうまく聞き取れずに深散は聞き返す。
すると少年は同じ言葉を繰り返した。
「メシェド、僕の名前」
「いい名前ですね……」
深散はゆっくりと少年と話を始める。
拉致された状況と時期、身元の確認。同じ境遇の子供に会ったり話したりしなかったか。監禁されていた場所があるなら周囲に目立つ特徴がなかったか。
ただ少年はその言葉にうまくこらえられず、口ごもるばかり。
少し落ち着かせる必要がありそうだった。
「誘拐された男の子……彼らにとって重要な存在なのでしょうか?」
「……まだ相手の組織の底が見えない。決して侮るな』『背後に大きな組織がいるかもしれんしな……」
九郎が告げる。
その時である。燃衣が事情聴取を終えて戻ってきた。
「みなさんは先に帰っていてください、僕は少し確認したいことがあります」
そう告げた燃衣の背中が普段とは別人に見えて、暁のメンバーは息を飲んだ。
誰も声がかけられず、その背を見送ることしかできない。
――スズよ、考えはまとまったか?
ネイが共鳴状態を解かずに告げる、頭の中で話をするためだ。
「いいえ、全く。結局僕たちだけでは分からないんだと思います」
燃衣は車両が爆破する寸前。後部座席から舞い上がった紙束のいくつかを掴んでいた。
やはりそれもほとんど燃えてしまっていたが、気になる単語がいくつかあった。
「愚神を捕食し事故強化する愚神の開発。他者の技術を盗んで事故強化する愚神の開発。愚神の自我の改変。そしてリンカーから霊力を奪い事故進化する愚神の実験」
――奴らがそれを知っている可能性は。
奴らとは、ヤクザ達の事だが。
「可能性は低いと思います。けれどやってみないことには……」
そう眉をひそめて燃衣は歩き出す。両手の関節をパキパキと鳴らした。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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