本部

【屍国】連動シナリオ

【屍国】よみからのうた

影絵 企我

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/07/02 16:39

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掲示板

オープニング

――芽衣沙の居場所を特定――
――森の中の空き家に――
――積極的な活動は見られず――
――先の戦いで戦力を失った影響が――
――ヒロと名乗る感染者を連れて――
――プリセンサーから情報が――
――どうやら、自分で作った従魔を食べて――

 三人の観測官が次々に押し寄せ報告を繰り返す。指揮官の男は顔を顰め、簡素な机に拳を振り下ろした。鈍い音が、観測官達を黙らせる。
「俺は聖徳太子か何かか? 落ち着け。一個ずつ話せ」
「すみません」
 観測官は肩を縮め、己の持つ情報を一つ一つ語っていく。メモ用紙を受け取りじっと眺めていた指揮官は、やがてそのメモ用紙を一本の煙草に持ち替え火を点ける。浮かぶ紫煙が一筋揺れる。重たい沈黙。彼の放つ威圧感に堪えかねた一人が、男に向かって尋ねる。
「……如何、致しますか」
「如何?」
 男は横目で若い観測官を一瞥する。殆ど吸いもしなかった煙草を灰皿に押し付け、男はぐるりと三人を見渡した。
「決まっているだろうが。悪趣味なママゴトには飽き飽きだ。エージェントを掻き集めろ」

「――仕留めるぞ、此処で」



 緊急招集に従いすっ飛んできた君達は、深藪と太い木々が生え連なる森の中の道を進んでいた。この森の先の、小さな霊園に芽衣沙が潜んでいる。そう思えば、自然と足取りは速くなる。放っておけば、またいつ動き出すかわからない。厄介者の少女は、此処で仕留めなければならないのだ。

 森に鴉の忌々しい歌が響く。この先に待ち受ける憎悪を叫ぶ。

 森に蛇の這いずる音が響く。この先に待ち受ける狡知を報せる。

 森に獣の低い唸り声が響く。この先に待ち受ける悲劇を伝える。


   黄泉の鬼の咆哮が、轟く。


 森の陰から一斉に燃え盛る猪が突っ込んできた。触手で結ばれた肉の裂け目から、紅い鬼火が噴き出しているのだ。それは神をも殺す火だ。君達は咄嗟に茂みへ飛び込みこれを躱す。間髪入れず、背後に気配を感じて跳び上がる。八つ首の大蛇が、一斉に君達の首を食い取り呑み込もうとしていたのだ。喰いそこなった蛇は、全身を包む腐った骨をかたかた鳴らして威嚇する。
 芽衣沙の作った屍獣だ。
 何メートルあるかもわからない巨大な蛇の尾がエージェント達を囲う。道を塞がれた。思う間も無く、空から二匹の鴉が突っ込んで来た。鋭い爪で武器を捉え、一気に飛び上がろうとする。どうにか振り払ったところへ、さらに大砲のような咆哮が響く。ライヴスによって増幅された巨大な音が君達の心臓を締め上げる。現れたのは、全身の至る所が血に濡れ、毛皮も剥がれた三頭の熊。爛れた口から血を滴らせ、君達を睨んでいる。
 君達が方陣を組んで身を寄せ合ったところへ、一体の屍鬼がやってくる。筋骨隆々の肉体を継ぎ合わせた巨躯。太く短い棍棒を両手に、突っ込んでくる。それはあまりに奇怪だった。その身の至る所を貫く触手は、まるで血管のように脈打っている。腐り黄ばんだ目をぎらつかせ、鬼は棍棒を振り上げる。
 負けてられるか。
 君達のうちの一人が飛び出し、擦れ違いざまに剣を振り抜く。刃は肩を切り裂き、どす黒い血が噴き出す。しかしその傷は一拍の後に盛り上がった肉で埋め合わされる。

 厄介な化物だ。相手していれば必ずや芽衣沙を取り逃がす。感じた君達は、誰からともなく動き出した。八人のエージェントを残して、残りは八岐大蛇の囲いを飛び越え路の先へと駆け抜ける。

 ここは任せて先に行け。そう言い放った君達は、化け物達と対峙する。屍は首を揃えて唄い出す。黄泉から引き摺り出された恨みを唄う。あの世から響く歌は、この世の者の心を腐らせる。ともすれば萎えそうな闘志を君達は互いに鼓舞し、化物に向かって力強く踏み出した。


 ここは葦原の中つ国。黄泉の歌など似合わない。

解説

目標 見敵必殺

殲滅対象(言及無しの能力は全てC以下)
サイノカワラ×1
ケントゥリオ級従魔(生命A、物・魔防B)
石崩…毎ターン生命力20回復。また、シナリオ中1回のみ、最大生命力を半減させ生命力を100回復する。賽の河原の石崩し。
憤怒…石崩の二つ目の効果使用後、物攻A。(PL情報)

ヤマタノオロチ×1
ケントゥリオ級従魔(生命S、物防B)
大水…単体物理、命中時抵抗判定、失敗時減退(1)を付与。この攻撃は1Rに八回まで行う事が出来る。頭が八つ。牙は無数。
大蛇…森林による補正を受けない。

ヤタガラス×2
デクリオ級従魔(イニS、回避A)
鉄爪…単体物理、敵の回避失敗時、装備中の武器を奪取。翌ラウンドのCPに放棄。狡猾に武器を掠め取る。
強蹴…アクティブ。使用した次のCPに発動。物攻+200。枝を折りながら突っ込む。

クマ×3
デクリオ級従魔(魔攻B)
咆哮…全体魔法、敵の防御失敗時に狼狽付与。木々さえ揺らす咆哮。

アカイノシシ×10
ミーレス級従魔(生命A)
炎熱…単体物理、生命力を最大値の10%消費して発動。命中時減退(2)を付与。森は燃やさず、魂だけを燃やす。

戦場
森林。命中-50、回避+50。遠距離武器…さらに命中-50。120cm以上の近接武器…ファンブルで1R使用不能。
夜。エージェントの命中、回避に-50。(プレイングで回避可能)
八岐の尾。戦闘区域から離脱する場合、移動力判定を行う。1D10+移動力が10を上回らなければ離脱に失敗する。

マップ
□□□■□□□
□◆◆■◆◆□
□◆◆■◆◆□
◆◆◆☆◆◆◆
□◆◆■◆◆□
□◆◆■◆◆□
□□□■□□□
1マス4×4sq
☆…開始地点
■…幅2sqの林道が通った森。森林ペナルティ無し。
◆…森。森林ペナルティ有。
□…戦闘区域外。ここへ入るためには八岐の尾の判定が必要。

リプレイ

●神代の問わず語り
「ん、ここはワタシ達に任せろーって……所謂死亡フラグ?」
『冗談を言っている場合では無いだろう?』
 舌をバタバタと鳴らし、八岐大蛇がその巨大な口蓋をこじ開けエミル・ハイドレンジア(aa0425)へと迫る。ギール・ガングリフ(aa0425hero001)は素早く飛び退き牙を躱す。一片の油断も許されない。燃え盛る大剣をギールが構えると、エミルは静かに底へと潜る。
「……ん。ギール、後はよろしく……」
『任されよう。久々の闘争、滾るというものだ……!』
 切っ先が指すは肉が腐り削げ落ちた一頭の熊。全身を震わせたかと思うと、空っぽの骨をがたがたと鳴らしながら、木々を揺るがす絶叫を放った。その衝撃はエージェント達の心身を蝕んでいく。しかしその中で、水瀬 雨月(aa0801)はそよ風にでも吹かれたかのように涼しい顔をしている。
「……熊に鴉、猪に蛇……摩訶不思議な動物園もあったものね」
『(奴が煩くてかなわんぞ。さっさと黙らせろ)』
 アムブロシア(aa0801hero001)は安眠を妨害されて怒り気味だ。肩を竦めると、彼女は素早くネクロノミコンを取り出した。本を開くと、ページからやにわに燐光が溢れ出す。
「ええ。わかっているわよ」
 熊が後足で立ち上がり巨体を晒すも、放たれた光の触手に全身を絡め取られ、思い切り砂利の上に叩きつけられた。砂利に擦られた肉が削げ落ち、骨が砕ける。熊は呻いた。その呻きに呼応するかのように、八咫烏が木々の裂け目をすり抜け突っ込んできた。
『(鴉だ)』
「はいはい……」
 雨月は魔導書を抱え込む。容赦無く迫る刃のように鋭い爪が、月光の下に照らされ――

「させませんよ」

 音も無く飛んだ一発の弾丸が、翼の肉を括る触手を断ち切る。腐った血が迸り、鴉は叫びながら空へと逃れていく。闇夜に紛れ込んだ銃口は、味方でさえ捉えきれない。
「(狙撃兵の神髄は――)」
『(自らの影を消せ!)』
 枝の付け根に足を掛けたキース=ロロッカ(aa3593)は、匂坂 紙姫(aa3593hero001)と共に心奥でひっそりと唱える。身に纏う衣は闇で染め上げたかのように黒い。色素の薄い白肌も漆黒の面布で覆い隠し、完全に闇へと融け込み彼は銃を構えていた。
「こちらキース、可能ならば状況について報告をお願いします」

『こちらレミア。うねうねと触手の気持ち悪い鬼はわたし達が押さえ込んでおくわ。その間に他の獣達の排除をよろしく頼むわね』
 レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)はヒールを突き刺すように足底を見舞う。触手の脈打つ鬼は、為す術も無く吹っ飛び蛇の胴体に叩きつけられた。しかし、ヒールの刺さった穴は見る間に塞がり、起き上がって彼女に向かって棍棒を振り上げる。レミアは動じることなく、大剣を担いだままその攻撃を肩に受ける。
『さて、どうかしら緋十郎?』
「レミアの鞭に比べれば、はたきで撫でられたも同然……!」
 しかしびくともしない。仲間の為、友の為という大義を抱いた狒村 緋十郎(aa3678)を傷つけられる敵など、この地に存在するはずがないのだ。
『だ、そうよ』
 細腕に籠る膂力を解き放ち、レミアは大剣を鬼に叩きつけた。

『やってるやってる……深散、君も負けてられないね?』
「もちろん、ですよ!」
 レミアの戦いをちらりと見遣り、九郎(aa4139hero001)は鈴を鳴らして国塚 深散(aa4139)を唆す。彼女の周囲は、己の腐った肉を薪代わりにして燃え盛る猪が取り囲んでいた。雪の紋様の刻まれた太刀を抜き放つと、木々を飛び移りながらそんな猪を斬りつける。縫い目が裂け、開けた肉から炎が噴き出す。
「さあ、こっちですよ!」
 高く跳び上がる。ただでさえ小さいのにさらに腐りきった脳みそで何も考えぬまま突っ込んできた猪は、互いに衝突して弾ける。そこへ、カルカ(aa4363hero001)と共鳴したユーガ・アストレア(aa4363)が大量の弾丸を叩き込んだ。一発の弾丸が深散の義足を掠めるが、気にせず深散は枝を蹴って宙を舞う。
『深散、ちょっと無茶し過ぎじゃない?』
「仲間のフォローを信じていればこそです!」
『そう言うだろうと思った――』
 闇夜に跳び回る烏天狗に向かって、八咫烏は空中から一直線に突っ込んでいく。しかし、九郎も深散もそんな烏には目もくれない。気づいているにしてもだ。
『なら背中は任せて暴れよう』
 その爪が深散の背中を突き刺し赤く染めるかと見えた刹那、闇から飛んだ一矢が翼を撃ち抜き、鴉を空中でよろめかせた。その隙に深散は鴉の爪を逃れ、再び猪の群れに突っ込んでいった。その背中を見つめていた弓手は、困ったように呟く。
『無茶しますね……外したら如何するんですか』
 ブラッドリー・クォーツ(aa2346hero001)はそう言いながら、今度は小銃を取って熊の足に向かって一発見舞う。位置を悟られぬよう、木々を飛び交う。彼を包むマントがふわりと揺れた。花邑 咲(aa2346)は暴れ回るおどろおどろしい怪物をクォーツと共に見つめ、思いを強める。
「(苦しんでいます……早く安らかな眠りにつかせてあげないと……)」
『わかっていますよ、サキ。オレも同じ思いでいます』
 ふわりと夜風が吹き抜け、クォーツの髪を揺らす。その夜風は質量を持っていた。クォーツの背後に忍び寄っていた大蛇の鼻先を鋭く切り裂き、横っ面を蹴っ飛ばす。腐った骨はさっくりと割れ、喉をがたがたと鳴らしてその頭は仰け反った。その目は、ほんの一瞬だけ、夜風の正体を捉える。
「芽衣沙に向かった奴等に、横槍は入れさせん……」
 迫間 央(aa1445)は目を見開き、木の幹を蹴りつけ大蛇の首に再び迫る。振るう刃は天叢雲剣。八岐大蛇を屠った天羽々斬に勝る神剣だ。
 刃は固い鱗を剥がし、肉を切り裂く。喉元から血を滴らせた蛇は唸り、鞭のように首を撓らせ央に迫る。しかし央はその脳天を蹴りつけ、突進をひらりと躱してしまう。
『今の私達は素戔嗚尊』
 マイヤ サーア(aa1445hero001)は央の口を借りて静かに啖呵を切る。その瞬間央の黒髪が蒼を帯びる。龍紋の刻まれた忍刀も抜き放ち、二刀を構えて蛇の頭へと突っ込む。
「お前も八岐大蛇なら、俺の刃に酔って――」

「あの世に帰りな」

●建速須佐之男命
 深散は木々を跳び越え熊の背に降り立つ。嫌がり熊が立ち上がった瞬間に彼女は闇となって消え去る。熊は周囲を見渡す間もなく、懐に潜り込んできた本物の彼女に首を切り裂かれた。
「これで、どうです!」
 そのまま顎を蹴っ飛ばし、彼女は木々の枝に飛び移る。その後を追っていた燃え盛る猪は、勢い余って熊に突っ込んだ。全身を包む肉に炎は燃え移り、爛れて血が溢れ出す。苦痛に震える熊は、片眼が飛び出て落ちるほどに目を見開き、咆哮した。木々の葉が舞い散り、細枝は折れて砕ける。耳を塞いでも、咆哮はその身に染み渡り粟立つような感覚に駆られる。
『喚くなよ、獣風情が……』
 目の前がぐらりと歪むが、ギールは手の平を耳から放し、無理矢理武器を構え直す。
「阿呆、阿呆」
 動きの鈍い彼に向かって八咫烏が迫るが、次々放たれた弾丸がその身を撃ち抜く。鴉は降り立ち忌々し気に周囲を見渡すが、明々と照るランタンの橙光が際立たせる闇がキースとクォーツの姿を完全に覆い隠していた。
 その隙にギールが、業炎に焼かれて虫の息の熊へと迫る。イヤシロチを伝ったライヴスが、炎剣を白熱させた。
「叫ぶなら、断末魔でも上げるのだな……!」
 一閃。灼熱は熊の肉を溶かし、バターでも切り分けるかのように熊の首を斬り飛ばした。
 それを目の当たりにした二羽の鴉は阿呆阿呆と挑発的に叫ぶが、絶え間なく飛んでくる弾丸が彼らの動きを妨げる。
『(キース君大丈夫?)』
「(一応。それよりも今は、あのカラスを撃つ事を最優先に考えなければ……)」
 賢者の欠片を噛み砕き、キースは再びアサルトライフルを構え直す。枝を叩き折りながら飛び回る鴉には一発を当てるのも難しい。僅かな隙を捉まえ、確実に仕留めるしかなかった。
「(狙うのは、やはり地上に降ってくる瞬間しか……)」
 キースは照準器を覗き込む。照準器の先に映るは雨月。

「そろそろ貴方も土へと還ってもらえないかしら?」
 雨月は空に向かって燐光の奔流を解き放つ。小さな鳥型の結晶が、その流れに飲み込まれそうになりながら飛んでいく。鴉は光を躱そうと宙返りするが、その瞬間に結晶体は爆ぜ、奔流は嵐となって鴉に襲い掛かった。白熱する星屑の輝きが、鴉の全身を脅かしていく。

「ゲェッ、ゲェッ」
 翼を焦がされながら、八咫烏は雨月目掛けて突っ込んでいく。復讐だ。黄泉帰りの苦しみに塩を塗り込むエージェントに復讐するのだ。しかし腐った脳は学ばない。もう出来ない。それをこそ待ち構える狙撃手が、闇の中ずっと潜んでいる事を。
 八咫烏は魔導書を守る雨月の肩に飛びつき、その爪を突き立てた。うっすらと血が溢れ、顔に苦悶の色を浮かべながらも、雨月は魔導書を奪われないよう踏ん張る。翼をはばたかせてそんな彼女から力づくで魔導書をもぎ取ろうとする鴉。

 刹那、一発の銃声と共に鴉の両目が弾けて吹き飛んだ。

 脳天を貫かれた鴉はその場にひっくり返る。雨月はダメ押しの一発を叩き込み、鴉を念入りに殺した。肩の傷に霊符を張りつけながら、雨月は通信機を取る。
「やってくれたのは貴方かしら、キース」
「その通りです。囮にするような真似をしてすみませんでした」
「気にしないわよ。多少なりと無茶をしないとこの場は凌げないわ」
 雨月はさらりと応える。キースは闇の中で一人頷くと、弓を取って次なる獲物を探る。
「……ですね。クォーツさん、もう一体の方は――」
 木々を叩き折りながら、蛇の巨大な首が彼を狙って迫る。キースは顔を顰めた。

『キースさん!?』
 突如通信が途切れ、クォーツは思わず叫ぶ。その叫びで勘付いたか、空を舞う鴉がクォーツにむけぴたりと狙いを定めた。
「こちらは大丈夫です。もう一体の方を!」
 何かが唸るようなノイズと共に、キースの声が通信機から飛んでくる。クォーツはさっと上空の鴉へ狙いを定めた。その目は狩人のそれへと変わる。
『サキ、少し痛いかもしれませんが……一人でこの急場を乗り切れるほどオレも強くありません。覚悟して頂けますか』
「ええ。堪えてみせるわ」
 一条の矢のように、夜闇から一直線に鴉はクォーツへと突っ込む。枝葉を薙ぎ倒しながら、汚らしい叫び声と共にその爪を突き立てる。勢いそのままに、鴉はクォーツを地面に叩きつけようと三つ脚でクォーツを捉えた。
『これで、止め!』
 銀色が鴉の開いた口に押し込まれる。鴉は翼をバタバタ言わせるがもう遅い。引き金が引かれ、銃の持てる衝撃全てを叩き込まれた鴉の脳天は弾け飛んだ。地面にクォーツが倒れ込むと同時に、鴉はそばに墜ちる。
「……何とか、やりましたね」
『ええ。このまま出来る限り、早くに片を付けてしまいたいですが――』
 闇を彷徨う大蛇の目が、倒れるクォーツの姿を捉える。まずい。クォーツは身構えるが、そこへ素早く深散が切り込んでいく。
「貴方の相手はこの私が致します!」
 ふわりと跳びあがり、深散は大蛇の鼻先目掛けて刀を振るう。大蛇は口蓋を全開にしてそれを迎え撃った。しかし深散は素早くその顎を蹴りつけ、横に跳んでその勝負を捨てる。
『その口には、猪くらいが御似合いだよ』
 深散に煽られその背中を追いかけていた猪が、大蛇の口に向かって突っ込む。口を開きすぎて前が疎かになっていた蛇は、うっかりその猪を喰らってしまう。
「????」
 猪が中で燃え上がり、蛇の鼻から炎が噴き出す。蛇は狂ったようにのたうち回り、空中で身動きの取れない深散を横腹から殴りつけた。吹っ飛ばされて地面を転がる深散だったが、その口元には満足げな色がある。素早く体勢を立て直し、蛇の方に向き直る。
「とりあえず上手く行きましたね……」

「レミア、確認できる限り、クマとイノシシ、そしてヤタガラスは排除が完了しました。ここからは蛇狩りです。残りは5つですので、もう少し耐えてください」
 キースから通信が飛んでくる。レミアは片手を伸ばして鬼の突進を受け止め、空いた方の手で無線を取っていた。余裕綽々である。
『任せなさい。なんだったらわたし達だけで殺してしまってもいいのよ』
 地面に突き立てていた大剣を片手で振るい、鬼を地面に押し倒す。完全に弄んでいた。
「頼もしいですね。ですが待ってください。再生する敵はやはり一手で仕留めるべきです」
『それなら、もう少しだけ待たせてもらおうかしら』
 通信を切った瞬間、彼女の背後に蛇の首が迫る。ちらりと振り返ったレミアは、ふと右手を蛇に向かって差し出す。反射的に蛇はその腕に噛みついた。
『……緋十郎、この一撃は?』
「いかんな。蚊に刺された程度にも感じない。レミアに噛まれる方がよほど痛い」
『残念ね。八岐大蛇の名を冠する割には、その程度だなんて……!』
 レミアは爪を大蛇の上顎に突き立て、内側から頭蓋を捻り潰しにかかる。堪らず蛇はレミアから離れようとするが、彼女がそれを許すわけも無い。
『死せる者でありながら、このわたしに歯向かうなんて不遜の極み。思い知りなさい』
 大剣を振り下ろす。大蛇の顎は縦横四つに割れ、その場にぐったりと崩れ落ちた。

「さあ来い! お前が守っていた叢雲はここだ!」
 央は縦横無尽に森を飛び回る。それを狙って、次々に大蛇の首が襲い掛かる。地から、天から、彼を一呑みにせんと迫っていく。央は怯むことなく、力強く刃を振り抜いた。闇の中から舞い上がった蒼薔薇の花弁が、旋風に巻かれて蛇に襲い掛かる。身体に纏わりつく花弁を振り払った頃には、既に央の姿はどこにもない。ちょろちょろと小賢しく動き回る素戔嗚を、蛇は鎌首をもたげて探す。どの頭も隙だらけだ。
『屍もここまでくると、不快を通り越して感心だな……!』
 蛇の頭上から迫ったギールは、炎剣の一撃を叩きつける。鱗が裂けて肉が割れ、蛇は口蓋をかっと開いて悶え苦しむ。しかし悪魔は容赦をしない。振り上げた剣の切っ先を、ひらけた傷口に突き立てる。
「塵芥へ、還るがよい!」
 首に突き立てた剣を両腕で握りしめると、小柄なエミルの全体重を使って薙ぎ払う。骨が砕け、焼けた肉はあっという間に裂ける。文字通り首の皮一枚が繋がっただけのその頭は、血を撒き散らしながら無様にびちびちと跳ねるしかない。
『さて、こちらも負けていられませんね……』
 ギールの豪快な三連撃を横目に、クォーツは蛇に向かって三点バーストを撃ち込む。その一撃は固い鱗に阻まれるが、その頭はいよいよ困惑したように首を振り回す。
「迫間さん、一緒に決めましょう」
「ああ。そのお手並み、拝見させてもらおうじゃないか」
 深散は蛇の死角に潜り込み、その手に苦無を構える。やや遅れて彼女の動きに気付いた蛇は、咄嗟に噛みつこうと口を開く。
「喰らいたいならこれでも喰らっていてください」
 投げ込まれた苦無は口の中で弾けた。外身がいくら堅い骨や鱗で守られていようと、口の中はただの軟らかい腐肉だ。牙がいくつも吹き飛び、血をだらだらと垂らしながら蛇は首を震わせる。
「もう一度こいつを呑み込んでみろ」
 そこへ突っ込んだ央は、天叢雲剣の切っ先を突き立てる。一撃で脳天を貫かれたその首は、見る見るうちにその目が腐っていく。
「紛い物じゃあ、堪えられないよな!」
 刃を引き抜くと、央は深散と並んで袈裟切りを放つ。夜に首が高々と舞った。

「これで残るは……」
『二つ!』
 銃を携え樹上に潜むキースに、その残った首が迫る。だが、それも今や織り込み済みだ。
「やはり獣は獣ですか」
 枝を薙ぎ払いながら、蛇はキースに向かって突っ込む。その牙がかかる刹那、キースは枝をバネ代わりにして高く跳び上がってこれを躱した。弦を大きく引き絞り、足元から追い縋ろうとする蛇に狙いを定める。
「そう何度も同じような攻撃は受けませんよ!」
 放たれた一矢は蛇の口内に突き刺さる。蛇は叫び、その場で仰け反る。その頭を、俄かに燐光が包んでいく。
「さようなら」
 触手が波打ち、蛇の口蓋をこじ開ける。蛇は必死に抵抗していたが、やがてその力も弱まり、首は真っ二つに引き裂かれた。

「お前が最後の首か!」
 央は一際大きな蛇の首と正面切って対峙する。彼の戦意の高まりに合わせて、その刀身の輝きは強まっていく。八岐大蛇の名を冠されたモノとしての意地なのか、蛇もまた全身を包む骨をバタバタ言わせて央を威嚇する。
「ハァッ!」
 央は勢いよく剣を振り抜く。大蛇は首を引いてその一撃を紙一重で躱し、逆に央の上半身へその鋭い牙を突き立てた。その身体はしかし、するりと闇へ融けていく。
「八岐大蛇ならば、叢雲を持つ俺には勝てない。……そういう道理になってるんだよ」
 何が起きたのかを腐った脳で理解する間もなく、央の冷徹な呟きと共に、蛇の首は天へ向かって跳ね上がる。首は空中でどろどろに溶け、跡形も無く消え失せた。

●黄泉へ/より帰る
「待たせたな、狒村、レミア」
『ええ。これ以上待たされたら流石に退屈するところだったわ』
 八岐大蛇を征したエージェント達は、林道の真ん中に立ちはだかる鬼と対峙する。折れた棍棒は既に投げ捨て、両の拳を打ち合わせ、目を血走らせて鬼はエージェントを睨みつける。キースは銀の弓を引きながら、周囲に指示を送った。
「まずはボク達で押し込んでいきます。レミアとギールはいつでも止めを刺せる準備をしていてください」
『任せなさい』
『ありがたくその任に就かせてもらおう』
 ギールは茂みに向かって駆けだし、レミアは最後尾で大剣を構える。エージェント達の腹積もりなど知らない。鬼はやり場の無い怒りを叫びに込めて、荒々しく地面を踏みしめ矢を番えるキースに向かって迫った。
「放て!」
 鏑矢代わりの一発をキースが鬼の頭目掛けて放つと同時に、クォーツとユーガ、雨月は次々に鬼へ集中砲火を浴びせる。
『これ以上苦しむ必要はありません。安らかにお眠りなさい』
「弔いの言葉くらいならかけてあげるわよ」
 重機関銃の弾丸雨霰に晒され、燐光の爆発に苛まれ、急所を狙った一発に貫かれる。鬼は呻き声を上げるが、その叫びに反してその身体の傷はみるみるうちに癒えていく。仮初の生は魂を地に縛り付けようとする。
『この世界はもう貴方がいるべき世界ではない。彼岸の彼方で眠るがいいわ』
 深化を解き、マイヤは鬼に向かって囁く。知った事かとばかりに鬼は丸太のように太い両腕を振り回すが、これを央は次々に捌いていく。
『深散、少し試してみるよ。縫止でライヴスを掻き乱せば、この再生能力を阻害できるかもしれない』
「この驚異的な再生能力、確かに封じられれば大きいですからね……」
 深散はライヴスの針を作り出し、脈打つ触手に向かって一発打ち込む。すると、ぶよぶよに殖えて傷を埋めていた肉が震え、爛れ始める。
「(効いている……?)」
 そう深散が思いかけた刹那、鬼は絶叫した。胸の肉が裂け、奥から巨大な心臓が露わになる。突如伸びた触手はその心臓を包み込み、強引に動かし始める。同時に全身の肉が激しく隆起し、傷口を無理矢理塞いでいく。湯気を漂わせながら、鬼は歯を剥き出しにして深散を鉄塊のような腕で殴りつけようとする――
『成程。随分と怒っているな』
 ふわりと舞い降りたギールが、その腕にしがみついた。狙いが狂った一撃は、深散にあっさりと躱されてしまう。今度は頭上に飛び乗ったギール、大剣を高々掲げる。
『怒りは判断を鈍らせる。……否、貴様らは判断さえ最早出来んか。喰らうがよい……!』
 軽く跳ねたギールは、燃え盛る大剣を鬼の脳天に叩きつけた。柘榴のように頭蓋が割れ、脳漿が飛び散る。鬼は呻き、振り返って殴ろうとするが既にギールの姿は無い。鬼は血を涙のように滴らせながら正面に向き直る。
『これでおしまいよ。ありがたく思いなさい……!』
 袈裟懸けに一閃、腰を砕く横薙ぎをお見舞い、止めに心臓へ剣を突き立て、ヒールで思い切り蹴り込む。触手に動かされ続けた心臓は、その一撃で風船のように弾けた。
「……」
 サイノカワラは倒れる。その姿はじっとりとした闇に包まれ――名も知れぬ男の亡骸へと変わっていった。

『……どうやら、死亡フラグなどというものは立っていなかったようだな』
「危ない場面もあったが、何とか、というところか」
 亡骸を見下ろすギールの呟きに央は小さく頷く。長々と深化を保ったせいで、身体が少々ガタついている。喉を鳴らし肩で息をする彼を見かね、レミアは懐から回復用の道具を取り出す。
『使っておきなさい。わたし達は問題ないから』
「すまん、助かる」
「先に行った方達は大丈夫かしら」
 霊符を当てたり賢者の欠片を呑み込んだりしている央を横に、雨月は林道の彼方を見つめる。静寂に包まれた森は時の感覚を失わせる。仲間と別れたのがもう遠い昔の事のようだ。キースは懐中時計を取り出し、小さく顔を曇らせた。
「既に戦闘を開始して10分近くは経っています。今からボク達が行って間に合うような状況ではないでしょうね」
『ここまで来たら、みんなを信じるしか――』
「待ってください。連絡が……」
 深散の通信機が不意に揺れる。そっと耳に押し当てた彼女は、信じがたい言葉に思わず目を見開く。
『……すみません。戦闘の続行が困難となりました。撤退を決断します』
「てったい……?」
 彼女は思わず通信機を取り落としそうになった。彼女の口から洩れた言葉に、エージェント達ははっと彼女に振り向く。ギールは仏頂面で呟いた。
『撤退……援護に向かうには……遅すぎるか』
「ボク達の負傷も無視できるものではないです。彼らが撤退に追い込まれるほどの状況となれば、今のボク達が追撃に向かっても状況は好転しないでしょう」
 キースは苦々しげに頷く。彼も含め、大小様々な傷を至る所に作っている。狒村組だけは無傷でぴんぴんしているが、彼ら一人を向かわせても勝てはしないだろう。
「それでも、やらなければならない事はありますね……」
『ええ。彼らが撤退すると決めたのなら、オレ達はそれをサポートしましょう。それだけなら、今の状況でも十分に出来ます』
 既にクォーツは銃を構え、動き出そうとしていた。雨月も頷き、魔導書にかかった血や埃を拭い取る。
「そうね。今は彼らを無事に離脱させれば僥倖という事にしておきましょう」
「キース、さっきの現況確認で俺達の状態は把握しているだろ。対応を練ってくれ」
「簡単に無茶言ってくれますね……」
『でもやるしかないよ! キース君!』
 キースは央の容赦ない要求にバツが悪そうな顔をするが、幻想蝶から響く紙姫の声を聞き、諦めて小さく頷いた。
「わかりました。では、レミアがまず先陣を切って進んでください。レガトゥス級に向かって突っ込むというわけではないんです。何が来ても対応できるでしょう」
『任せておきなさい』
 レミアは不敵に微笑むと、早速林道を駆けだす。その後を追って走り出しながら、キースは央と深散に指示を送る。
「迫間と深散は側面に注意をお願いします。まだこの森にはあんな奴らが潜んでいるかもしれません。シャドウルーカーのお二人なら、その影を見逃しはしないはずです」
「ああ。信頼してくれ」
『だってさ。プレッシャーだねぇ』
「九郎の心配には及びませんよ。何とでもこなしてみせます」
 二人は頷くと、茂みへとその身を隠す。それを見送ったキースは、背後を駆けるギールの方をちらりと振り向く。
「ギールさんはその位置のままでお願いします。敵が現れたら一気に攻勢を仕掛けてください」
『了解だ。主の身体をおいそれと傷つけるわけにはいかないからな。助かるぞ』
 ギールは口端に笑みを浮かべ、エミルの身体を指で差す。従者として、主の身の安全は第一であった。キースは銃を構えると、クォーツ達を見渡す。
「そしてボク達は中央でバックアップに回ります。いつでも攻撃を開始できるようにしておいてください」
『わかりました。可能な限りサポートしましょう』
「任せておきなさい。雑魚のゾンビ程度ならどうとでもなるでしょう」
「任せてくれ! 正義は仲間を見捨てない!」
 士気の高い三人の姿を見渡し、キースは口端に僅かな笑みを浮かべた。彼らの力があれば、万に一つもこの戦いに失敗は無い。
「さあ、もうひと踏ん張りです」

 八人のエージェントは林道を駆け抜けた。合流後は撤退する仲間の背後に留まってゾンビの攻撃を凌ぎ続け、誰一人欠けることなく撤退戦を完了してみせたのである。メイサは討たれなかった。しかし彼らの戦いは成功したと言えるだろう――

 Fin

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678

重体一覧

参加者

  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
    人間|20才|女性|命中
  • 守るのは手の中の宝石
    ブラッドリー・クォーツaa2346hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • 絶狂正義
    ユーガ・アストレアaa4363
    獣人|16才|女性|攻撃
  • カタストロフィリア
    カルカaa4363hero001
    英雄|22才|女性|カオ
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