本部

肉との死闘

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/06/28 21:37

掲示板

オープニング

●危機の訪れ
「大変です!」
 はっぴ姿にバンダナを頭に巻いたスタッフが、血相を変えて飛んできた。
 明日は支部でイベントをやることになっていて、彼はその責任者だったはずなのだが……。
「丸焼きにする予定の牛が、従魔になりました!」
 一瞬、その場にいた全員が己の耳を疑った。
 イベントでは、とある町のお祭りをぱくり……もといリスペクトして、大きな牛肉の塊を中庭で丸焼きにし、それをお客さんに食べてもらうことにしていたのだ。牛肉は、事前に協力してくれる畜産農家を探して交渉し、用意してもらっていたのだが。
「保管庫に入れておいたら、気づいたら従魔になっていたそうです」
 どんだけ気づくの遅いんだ、というツッコミがどこかから上がったが、今更いってもしかたがない。
「日数を考えて、それほど従魔化は進んでないと思われます。デクリオ級といったところでしょう。攻撃手段は見当もつきませんが、頭も手足もないですから、ぶつかるとか押しつぶすとかそんな感じでしょうか」
 エージェント達は百戦錬磨も多いが、さすがに肉塊と戦った経験がある者はそうはいない。これは臨機応変にいくしかないだろう。
「問題は、従魔を倒したあと。イベントのために肉を焼かなければなりません。代わりの肉を手配するのは難しいです。何しろ大きな塊ですから」
 元々のその町で焼かれる牛肉は三頭分、実に三六〇〇人前といわれる。今回のイベントではそこまでの規模ではないが、それでもだいたい一〇〇人前にはなるだろうという概算だ。
 それだけの肉を丸焼きにするのだから、当然時間がかかる。五時間から六時間、条件によってはもっとかかるかもしれない。『丸焼き』が見せ所だから、切って調理することはできない。つまり、早く倒せれば倒せるほどイベント的には助かるということだ。
「不確定要素が多いし、時間制限もありますが、よろしくお願いします。今夕方の六時ですから、イベント開始の朝九時にはもう半分くらい焼けていなければならないので……肉を焼くのに必要な時間をおおむね六時間と見積もると、午前三時までには倒して、肉を持ち帰り、焼き始めなければならなくなります。あと当然、大幅な欠損は困ります。肉従魔は現在、農家さんの近所を浮遊しているそうです。車で三〇分ほどかかりますね。それから、こういう事情ですので、できれば肉を持ち帰ったあとのイベントの手伝い……むしろ肉を焼くのを手伝っていただければ有り難いです。もちろん肉も食べていいですので!」
 尚、従魔が意外に食べられるというのはそこそこ世に知られてきている事実ではあるが、気味悪がる人がいるのもまた現実だ。その辺りは、あらかじめご了承くださいという旨の事情を説明する看板を出すことにした。緊急事態なので、こういう大急ぎの対応でも致し方ないと思ってくれればいいが。
「それでは、怪我に気をつけて、行ってきてください」
 肉との死闘は、こうして火ぶたが切って落とされた。

解説

●目的
 従魔になった牛肉の塊を倒し、持ち帰って焼きます。

●状況
 従魔は恐らくデクリオ級。攻撃手段は不明。倒す際は、イベントのことも考えて大きく損害を及ぼすような攻撃はなるべくしないように。短期決戦が望ましい。倒したあとは丸焼きにし、翌日の午前九時のイベント開始時には大方焼き上がってお客さんに見てもらえるようにする。戦闘可能な時間の上限は、およそ九時間。ただし、現場と支部間の移動の時間を引くと八時間。

リプレイ

●肉、襲来
「……ここら辺か」
 染井 桜花(aa0386)は、敵進行方向を予想した。常に最適な狙撃地点に移動し、味方の援護をするのが目的だ。狙撃地点はリンクスの最大射程の地点を優先に選択する。
『ええ、良いポジションだと思うわよ?』
 共鳴しているマリー・B・ランディーネ(aa0386hero002)の思念が、頭の中に聞こえる。リンクスを持ち替えて、待機姿勢に入る。狙撃は敵の間合いの外から攻撃し、味方を援護するためにある。こうして待つ間が既に狙撃手にとっての戦いといってもいいだろう。
 特に、今回の敵は得体が知れない。なにしろ、肉の塊なのだから。牛肉の。
「ボク、牛の丸焼きなんて初めて見るよ。楽しみだな♪」
 アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は、うきうきしながら肉の目撃された現場周辺にさしかかる。
「楽しみにするのはいいが、先ずは従魔化した肉を元に戻さないといけないぞ」
 そう言うマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)には「わかってるよ」とだけ返した。
「オ肉〜〜〜!」
 シルミルテ(aa0340hero001)は肉食系女子である。文字通りの意味において。テンションが相当高い。佐倉 樹(aa0340)は「……程々にね」ととりあえず窘めてみたが、効果はなかった。樹は特にそこまで肉好きというわけではないので、テンションはいつも通りだ。
「今日のご飯はお肉だね」
「献立を考えなくて良い手軽さだね、なんだか泣けてくるのは気のせいかな」
 餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)は、従魔化した何かを食べてきたベテラン(?)だが、さすがに肉の塊と戦うのは初めての経験だ。今までの応用で何とかするしかない。
「傷つけるのは良くないけど、モツは抜いてるんでしょ? そこを狙えば良いよね」
 強さとしては倒せないレベルではないにしても、相手の攻撃手段や特徴がほとんどわからないというのは厄介だ。
「散々よくわからないモノは見てきたが、こいつは別格だな……」
「えーと、どこが頭でどこからが胴体で……?」
「あまり深く考えるな。見た目通りそういうモノなんだろう……おそらく」
 九字原 昂(aa0919)とベルフ(aa0919hero001)も戸惑っているようだ。
 様々な反応で肉が現れるのを待ち構える中、共鳴しつつ大変なことになっているコンビがいた。
 通称、食よk……《殺意の魔人》ネイ=カースド(aa2271hero001)。彼女は今、純然たる食よk……《殺意》を滾らせ、従魔と相対していた。心の中で。
「クソ忌々しい従魔が……人々の平穏をかき回すテメェの存在はこの俺が許さん。……一撃だ。一撃で、仕留め、屠る………覚悟は良いか……ッ」
 その一方でさめざめとしつつ肉体を明け渡してる煤原 燃衣(aa2271)。
「…………」
 煤原は見逃していなかった、彼女、いや共鳴中は彼だが……劫火の如き殺気を体現した表情、その口元から滴る、涎。
『BBQソース、和風醤油、ニンニク、豆板醤、切り分けて野菜に挟んでもよし、そのまま塩胡椒で被り付いてもよし。いいか良く聞け潔癖症ども、従魔の取り付いた肉ってのはな……変質するのだ、ライヴスを経た肉は熟成も、旨みも、数段は上がるのだ。絶対に、ヤツは此処で仕留める……肉片を粉砕する事なく、だ……!いいか、絶対に、だ…!』
 ……心の声が涎を通して聞こえてくる。煤原は溜息をついた。
 そんなことをしている間に、肉が現れる。
 ごろんごろんと転がったり、どうやっているのかはわからないが跳躍したり、その動きは実に変則的だ。
 蠢く肉塊が気色悪い……と、煤原は思った。
 共鳴した望月が、サンタ捕縛用ネットを放つ。浮遊する謎存在を捕まえる為だけに作られたネットで、見事に肉を捕らえる。
「後は縛り上げるだけで、そのまま焼ければそれに越したことはないけど」
『それだと丸焼き見物の皆さんが驚くんじゃない?』
「だよね」
 丸焼きじゃなくてボンレスハムなのか、といらぬ混乱を招いてしまう。打撃や、腹の内側への攻撃のダメージで、動きを止めさせてもらうことにした。
「……まずは一発」
 桜花が狙撃を開始する。何しろ時間が無制限ではないので、短期決戦の構えだ。コアと思われる部分を一撃で撃ち抜くつもりでいる。
『……ふふ くふふふ。ドンピシャねえ』
 相手急所狙撃時、快感に身悶えするのはマリーだ。
「……トリプルキル」
『!!!! ゾクッと来たわねえ……。たまらないわ』
 三回撃ったので、通常の三倍物凄く妖艶で色っぽい微笑と吐息を漏らす。
 共鳴している桜花の部分は、対照的にクールだ。
「……後ろと死角に注意……どんな時も」
 前情報だと敵は一体だけのはずだが、イレギュラーケースはどんな時でも存在する可能性を忘れてはいけない。
 急所を撃ち抜かれた肉だが、まだその動きが鈍る様子はない。望月がライヴスバットでぼこぼこに殴る。本気を出せば打ち出せるのだが、それをやると肉が台無しになる恐れがあるので加減が必要だった。
「今日もH.O.P.E.は打ち勝ちます、ホームランです」
 その時、肉の背後から昂が現れ、女郎蜘蛛を使用して移動を阻害する。潜伏を使い、気づかれないように接近していたのだ。さらに動き回ろうとする肉に縫止をかける。そこにまたハングドマンの鋼線も絡めて、身動きが取れない状態を作り出すという徹底ぶりだった。
 その状態を保ったまま、武器を振るう。峰内で斬撃にならない様にしつつ、時折刺突で敵の核等を狙って最小限の損傷を心がけた。なるべく原形を保たなければならないのが難しい。ついでに斬撃筋がある場所を狙い、下拵えの筋切りになる様にするという計画性も発揮する。下拵えは大事だ。
「頭が無いなぁ。脳味噌をフライにすると美味しいのに」
 ぼやくアンジェリカ。これを言うと日本ではドン引きされるのは何故だろう? と彼女は思っている。食べ物は文化であり、異国ではわかり合えないことも多々あるものだ。ともあれ早速マルコリンクし武器を取り出す。刃物だとお肉を傷つけてしまいそうなので、ターキーハンマーを使う。適度な弾力があるから痛めすぎないだろう。それに、調理の前に肉を叩いて柔らかくしておくと食べる時にもいいのだ。
 微妙にいい匂いがしてきて、何人か胃袋を刺激された様子だ。アンジェリカはびしっと肉をハンマーで指し、
「その食欲はあれを丸焼きにするまで取っておくんだよ!」
 言い放つやいなや、さらにばしばしと肉を叩きにかかった。
 回避予測で動きを予測し、モアキーンで命中精度を高め、電光石火で素早く攻撃を仕掛け、さらに疾風怒濤で息もつかせぬ連続攻撃を繰り出す。
『ターキー対ビーフか。なかなかシュールな戦いだな』
 と可笑しそうに言うマルコには
「そこ、真面目にやる!」
 と突っ込み、へヴィアタックで強力な一撃をかまして牛肉を屈服させる。
『丸焼キにすルナら、ツマりは打撃! 樹! 杖! 杖!!』
「ヘカテーさんも己を冠した杖で肉を殴られるとは思ってなかろうさ……」
 肉食系女子のテンションはゲージを振り切る勢いだ。仲間に重圧空間使用する旨の声をかけたあとウィザードセンス発動。重圧空間を使用する。
「観念した方がいい『逃がサナいヨ!』」
 今回の共鳴状態は、いつもの共鳴姿に白うさ耳が生える程度にはややシルミルテの主張が強めだ。肉が彼女を突き動かすのだ。
『スズ、俺たちエージェントは無闇な破壊を起こしてはならん……』
「そーですねー」
『人々の生活を守る為、必要最小限の力を振るう事を心掛けろ……ッ!』
「そーですねー」
 ここにもまた、肉に心臓を捧げた者が一人。破損を抑える為に「一撃必殺、少ない手数での撃破」を試みる。命中力と武術の力を活かし、基本は掌打、衝撃で内部にインパクトを与える。まず適当に叩いてダメージを確認してからの本格攻撃だ。
 すべては、肉のために。
 ネイは、持てる力を最大限に発揮していた。打撃による足止めと「弱点」のサーチと「筋を狙う」攻撃、ライヴスゴーグルで流れを追い「核」の様な部分が無いか探す。そしてメーレーブロウで筋を叩き柔らかくする。下拵えこそ料理の善し悪しを左右する。他のメンバーと協力して、まんべんなく肉を叩く。ひたすら叩く。もはや戦闘じゃなくてただの料理だ。H.O.P.E.三分クッキング。テーマ曲がほしいくらいだ。
 必殺はトップギアからの疾風怒涛、三点連続して同じ箇所へ正確無比なテンポの正拳を打ち込む事で、表面ではなく内部でダメージを爆発させるいわゆる《裏当て》。まさに達人の技。その技名は――。
「《貫通練拳・肉》ッ!!」
「奥義まで煩悩が漏れてるーーー!?」
 煤原の声なき絶叫と共に、なし崩しのうちに戦闘は終了していた。あとに残ったのは、充分軟らかくなった肉の塊一つ。
 死して屍拾うものはないかもしれないが、肉を拾う者達は大勢集まる現場であった。

●本当の戦いはこれからだ!
 肉が従魔化していた旨は急いで作った看板やちらしに記され、来場者に告知されることとなったが、危惧していたような大きな混乱は起きず、無事イベント開催・進行となった。
 メインは、肉の塊をぐるぐる火の上で回転させながら丸焼きにするものだが、それだけでは舌が飽きてしまうので、他にも牛肉の味付けを変えるなどの料理が提供される。戦闘終了から直接肉をここまで搬送したエージェント達も、料理とイベント進行を手伝いつつ肉を相伴することになった。
「これで安心してお肉を食べられるね♪」
 アンジェリカは、焼いた肉にかけるソースを作っている。マルコには、肉を焼く方を担当してもらった。何しろものが大きいので、力仕事のできる人にやってもらわないと駄目なのだ。
 ソースの一つは母国イタリアの定番、オリーブオイルやイタリアンパセリ等を使ったサルサ・ヴェルデ。レモンがきいてさっぱりしているので、肉料理にはぴったりだ。魚料理にも合う。もう一つは丸焼きからしたたる肉汁を少し拝借して、赤ワインとチョコレート等混ぜ込んだチョコレートソース。甘味と苦みが絶妙に肉と調和するのだ。にんにくも入っているのでうまみとこく、味のアクセントが効いている。
「仕事の後の一杯は格別だな」
 交替してきたマルコも、ビールをがぶ飲みしながら肉を堪能している。
 樹は、肉焼きの手伝いなどをしている。口が脂っこくなったときのために多少用意されているサラダ類をつまみつつ、肉はシルミルテが持ってきてくれるのを食べているくらいだ。薄味が好きなので、塩胡椒程度の味付けでも充分らしい。
 反対に、シルミルテはがっつり肉を食べている。樹とは反対に、肉野菜肉肉肉! くらいの勢いだ。常にほっぺたが膨らんでいる。肉で。味付けは、濃いのも薄いのも美味といういける口だ。
「ハい! アーん♪」
 焼いてばかりの樹に差し入れして肉を食べさせる光景は、微笑ましくもワイルドであった。
 自分で食べたりするだけではなく、ややあざとらしくかわいらしさを押し出した感じに焼くのを手伝うシルミルテ。
「ヨーいしょ! ぐーるぐルー♪」
 そして焼けたお肉をお客さんに配る。
「美味シク焼けタヨ〜♪ ハイ、どーゾ♪」
 しかし、従魔になったことで受け取りを躊躇う人もいる。そんな人には無理強いしない。しないが……。
「従魔モ気にナッちゃうクラい美味しイお肉ヨ! ……食べナイなラ、ワタシがモラッちゃっテイい……?」
 チラッチラッと上目遣いするという小技を使ったりする。さらにイチャモンをつける人がいたら、
「ミンナが美味しク食べラレるヨウニ、ワタシがんバッタのニ……」
 ヨヨヨ……と泣き真似をする。これは絵柄的にイチャモンつけた人の方が悪者だ。クレームというのはたとえ無関係でも見ていて気持ちのいいものではないので、問答無用で収めることも時には必要なのだ。
 結果的に、最初は躊躇っていた人もシルミルテに押されて肉を食べてしまう展開になったとかなんとか。おいしかったそうである。
「……マリー……手伝って……味噌塗るの」
 桜花は、丸焼きではなく調理肉コーナーを手伝っている。丸焼きでも小さめの肉を焼くようにして、味付けは味噌。これでもかというくらい贅沢に味噌を塗り込んで焼くのだ。胃袋直撃必至である。
「ええ、いいわよ」
「……ありがとう」
「肴にも良さそうだしねえ」
「……飲むのか」
「ええ♪ 楽しみだわ~。これ、手に入れるの凄く苦労したのよ」
 持参の赤ワインを取り出すマリー。年代物のかなり高そうな代物だった。
 肉を焼いているうち、香ばしい味噌の匂いに食欲を刺激されたお客さんが集まってきた。焼けたところから手際よく紙皿に載せ、配っていく桜花。マリーも手伝いながらも、ちゃっかり自分の分は確保して赤ワインと共に堪能していた。戦闘後のおいしい料理とおいしい酒は最高である。桜花も忙しいながらもちゃんと食べられたのだが、諸事情によりワインは遠慮した。酒は飲んでも呑まれるな。
「やったー、お肉ー」
 百薬と望月は、もちろんお肉をお相伴している。塩胡椒味も、アンジェリカのソースも、味噌焼きも一通り味わった。
「例によって複雑な気分だけど、美味しくいただけるなら問題なし。食材に感謝して、いただきます」
 味付け次第でケバブっぽく柔らかいパンを巻いて食べるか、白ご飯に乗せて食べる。レタスで巻いたりするのも捨てがたい。お勧めの食べ方があればそれも試す。
「味噌焼きはご飯に合うね!」
「レタスで巻いてもさっぱりして美味しい。ソースをつけたのは、やっぱりパンかな。そのままでも充分だけど……」
 わやわやと盛り上がりながらいろいろ試していたら、周囲でそれを聞いていたお客さん達もそれぞれ独自に美味しい食べ方を追求し始めた。何しろ、肉はまだまだある。お腹の余裕さえあれば大丈夫だ、問題ない。
「お仕事の後のご飯はおいしいよ」
「サラメシならぬリンカーメシか」
 孤独ではないグルメである。
「あ、あそこの二人は焼いてばっかりで食べてなさそう。差し入れしようか」
「うん!」
 一息ついて、望月と百薬が肉や野菜を持って行ったのは、昂とベルフのところだ。二人とも肉を回して焼くのと、それに塩胡椒をふるのを担当しているのだが、望月達が見守っていた限りではほとんど食べていない。せっかく美味しいお肉なのだし、戦闘終了後もずっと何やかにやで動いているので、お腹が空いているだろう。
 せっかくだからと、アンジェリカ達や樹とシルミルテ、桜花達のところを周り、ソースや味付け肉を分けてもらう。
「オいしいヨ! ドウぞ!」
「よければこのワインもね」
 という温かいお裾分けで、最終的に昂達のところへ運んだときはかなり豪華なことになった。お礼を言う二人と交替して、望月と百薬で肉の世話と味付け・配膳をしていく。
 しかし、そんな和やかな会場の一角で、とんでもない魔人が誕生しようとしていた。というか、ずっと前からしていた。
 その名も、食欲魔人。
 肉という煩悩に支配されたネイは、会場にある肉という肉を食い尽くすことに全力を注いでいた。他の人の皿に手をつけないのは、最後の理性か。
 だが、肉が誰かの手に渡るまでが遠足……ではなく、勝負である。受け取っていない以上、その肉の権利はネイにもある。
 というわけで、平たく言えば取り合いをしていた。そしてスタッフさんに怒られたりしつつ、ひたすら肉を食べる。生姜醤油が好みだ。
 世の中には、悲劇が二つある。一つは肉を食べられない悲劇。もう一つは、肉を食べ過ぎてこれ以上食べられなくなる悲劇である。運命は残酷だ。
 しかし、可能な限り抗おう。それが肉を食べる者の宿命なのだから。
 この胃袋は今、宇宙だ。
「……」
 煤原は、そんな相方に呆れて完全に傍観していた。肉がうまい。平穏に肉を食べられる。こんなに嬉しいことはない。
 運命は残酷だ。しかし、恐れることはない。なぜなら、肉は戦う者には微笑んでくれるのだから。
 人々の幸せそうな声が、肉を焼く煙と共に空へと昇っていく。
 饗宴は、まだ終わらない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • ー桜乃戦姫ー
    染井 桜花aa0386
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    マリー・B・ランディーネaa0386hero002
    英雄|18才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
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