本部

森の中のお留守番

落合 陽子

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/06/28 21:23

掲示板

オープニング

●お留守番できるかな
「いいですか? 私は明日早くに日本へ行きます。明後日の夕方まで帰れません」
 朽名袖乃はじゅんじゅんと自分の英雄、ほさぬに諭した。ほさぬは身長250cmの大柄な人狼だが、それより100cm近く小柄な袖乃の方が何故か大きく見える。
「あたしも行きたい」
「いいえ。いけません。これは私個人の話です。ほさぬと言えど同行することはできません」
ほさぬはわかりやすく肩を落とした。ほさぬは寂しがりの甘えん坊である。袖乃と離れるのを好まない。
「……」
「その代わり、いつもの呉服商さんが来ますよ。新しい浴衣ができたそうです」
ほさぬの顔が輝く。
「だから森から出てはいけま せんよ。連絡が着たら森の入口まで迎えに行ってあげなさいね。迷っては気の毒ですから」
「うん」
「いい子です。お土産は何がいい?」
 なんだかんだで甘やかす袖乃さんだった。

●密猟者に気をつけて
 ほさぬは家や幻想蝶の中でじっとしているタイプではない。袖乃を見送った後は新しい浴衣を持ってきてくれる呉服商とデザイナーをもてなすためにと木の実をとりに森へ出た。
(そうだ。多めにとって後で、袖乃に木の実入りパイかクッキーを焼いてもらおう)
 ほさぬは森に詳しい。すぐに内に袂いっぱい木の実をとった。ついでにハーブもとろう。呉服商とデザイナーにフレッシュハーブティーを淹れてあげよう。袖乃が帰ってきたら袖乃にも淹れてあげるんだ。パイやクッキーはまだ上手に焼けないけれどフレッシュハーブティーは得意だ。袖乃もほめてくれる。茂みをかき分け、一歩踏み出し、はっと固まった 。
「こりゃ、すげえ毛皮だ。高く売れる」
 男がにたにた笑いながら銃を構えている。ほさぬは銃を向けられた恐怖と毛皮扱いされた悲しさで棒立ちになった。もし、どこかで鳥がさえずらなかればそのまま撃たれれていたかもしれない。さえずりを聞いたほさぬは我に返って走り出した。男もほさぬを追って走り出す。ほさぬにとって幸運だったのは生い茂った木々が目くらましになっていたこと、なにより土地勘があったことだ。ほさぬは涙をこぼし、袂から木の実をばら撒きながら走り続けた。

●お得意さんと連絡が取れません
「出ないな。ほさぬちゃん」
 ほさぬのいる森近くの駐車場。呉服商は諦めてスマートフォンを切った。
「留守じゃないですか?」
「いや」
 デザイナーの言葉に呉服商は首を振った。
「前々からの約束だし、1時間前に電話した時は出たんだよ。私達に木の実をとってきてくれるって言ってた。その前の電話も出てくれたし」
「さっきの電話、仕事の電話じゃなかったんですか? その前の電話も? それでもう電話? 心配しすぎ。何回電話すれば気が済むんだよ」
 デザイナーは呆れた声を出した。
「まだ子供だよ。寂しがりだし。袖乃さんも連れて行けばいいのにな。明日の夕方まで帰って来れないんだ から」
「子供ったって……袖乃さんの英雄ですよ。ケータイ置いて森に出ちゃったんじゃないの」
「いや、帯に挟んでるはずなんだ。袖乃さんにうるさく言われてるから」
 呉服商は珍しく眉を寄せた。
「どうします? 待ってますか? それとも森に入る?」
「いや、通報する」
「へ!? ちょっとそれは」
 いくらなんでも大袈裟でしょと言いかけて口をつぐんだ。森から響く銃声によって。

解説

●目的
・英雄(後述)保護
・ヴィランの拘束

●敵情報(PL情報)
 ビリー・フィンチ(ヴィラン)
・イギリスで活動する密猟者。希少動物やワイルドブラッドを狩る。武器はスナイパーライフル「アルコンDC7」、九陽神弓、テルプシコラ。ほさぬは仕留められなかったが、命中率は高く、
移動も早い。密猟は面白半分でやっている。
 ほさぬ(後述)のことは英雄ではなく一般のワイルドブラッドだと思っている。

●保護対象
 ほさぬ
・朽名袖乃(後述)の英雄。まだ子供で本人曰く9歳。留守番中、フィンチに出くわし、混乱のあまり幻想蝶に戻ることも思いつかずに森を逃げ回る。袖乃がいないと戦えない。今は、森のどこかに身を潜め、泣いている。本来はよく遊び、よく笑う子。普段着は浴衣。

●その他登場人物
 呉服商/デザイナー
・ほさぬが贔屓にしている呉服屋の社長とデザイナー。ほさぬに注文の浴衣を届けに来た。ほさぬと連絡が取れず心配していたが、森から銃声が聞こえてきたため警察に連絡。

 朽名袖乃
・ほさぬと契約したリンカー。98歳のおばあちゃん。私用で日本にいる。次の日の夕方まで不在。

●場所
 イギリスにある深い森の中。朽名袖乃とほさぬの屋敷まで一本道があるのみ。木々が生い茂り、隠れる場所がたくさんある。

●備考
・通報を受けたのは警察だが、ここ数ヶ月で密猟が増えたこと、未遂とは言え能力者のワイルドブラッドの被害者も出ていたこと、ほさぬが英雄だったことなどからHOPEに話が回ってきた。
・余力がある場合は呉服商から浴衣を受けっとって欲しい(任意依頼)
・ほさぬが無事保護された場合は家に招待される。招待を受ければ木の実(ベリー等)やお茶、チーズとパンの昼食が出る。

リプレイ

●それぞれの思い
 今回の敵は密猟者の可能性が高いと聞いてジャック・ブギーマン(aa3355hero001)は心底楽しそうである。
「キヒヒ♪ 狩人気取りに狩られる側の恐怖って奴を刻み込んでやるぜ」
「ジャックちゃん、追われてるほさぬくんも保護しなきゃならないからね?」
 桃井 咲良(aa3355)が言ったところでそうかなんて言うはずもない。案の定返事は「あ? 知るか。そっちはお前がやれよ」
「すっごい投げやり! 知ってたけど!」
 肩を落とす咲良。ジャックは”狩り”のことで頭が一杯のようだが、他のエージェントはそうはいかない。
「俺の手が届く範囲でガキを狙うたぁ良い度胸じゃねぇか」
「……ん、オシオキが必要」
 子供には並々ならぬ優しさを注ぐ麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)
「ほさぬちゃんを助けなきゃ!」
「オーダー! 了解しました!」
 犬系(厳密にはハイエナ)ワイルドブラッドとして、毛皮狙いで追い掛け回される子供に同情するアード(aa5089)とドール(aa5089hero002)
「「ワイルドブラッドの皮を剥ごうとするヴィランに鉄槌を」」
 ワイルドブラッドのアナー(aa5188)とナテリー(aa5188hero001)
「森、は人が面白半分で荒らしちゃいけない、の。もし密猟、なら許さない。絶対絶対、守る、のっ」
 アイルランドの森の奥深育ちのフィアナ(aa4210)とルー(aa4210hero001)
「密猟って何だよ」
「ほさぬ大丈夫かな……心配だよ」
「うん、早く見つけてあげよう」
 知り合いが傷つけられたかもしれないと知り憤りを覚える皆月 若葉(aa0778)と心配の声をあげるピピ・ストレッロ(aa0778hero002)

 それぞれの思いを胸にエージェントたちは動き出す。

●森を探索せよ
「兄さんとかくれんぼ、いつもすぐ見つかってた」
「きみ、分かり易かったから」
「前のお家、近い?」
「んー、あんまり近くはないかな?」
 会話だけ切り取れば微笑 ましい兄妹の会話だ。だが、フィアナとルーは共鳴し、素早く周囲を見渡しながら、極力足音殺してほさぬの家に繋がる一本道を駆けている。一本道とほさぬの家の周辺はフィアナとルーの探索エリアである。深い森だ。それぞれ担当エリアを決めて探さなければ時間がかかってしまう。作戦会議の時の遊夜が最初に言った「固まるのは得策じゃないな」に誰も異を唱えなかった。ちなみに2人がこのエリアなのは「ほさぬさんお家戻ってる、かな……でも、普通に戻ると多分逆、に危ない……こんな、とこにお家って滅多にない、から」とフィアナが言ったからだ。
「足跡や人の通った痕跡はないね。撒かれた木の実も」
 通報してきた呉服商は音信不通になる前にほさぬから木の実を取るという電話を受けている。その後、密猟者に出くわして逃げているなら隠蔽する余裕もないはずだ。
「とにかく急いで探してあげないと」
 作戦が決まった後に出会った通報者の呉服 商とデザイナーを思い出す。デザイナーは真っ青だったし、呉服商も厳しい顔をしていた。浴衣を受け取ろうとしたが、呉服商は首を振った。ほさぬの無事を聞いてから渡したいと。
「大丈夫よ、任せて!」フィアナが微笑んで言うとようやく呉服商も「よろしく頼む」と笑ってくれたが……。
「密猟者さんより早く見つけてあげなくちゃ」
 フィアナはスピードをあげた。

 森の木々の間を共鳴中のナテリーとアナーが音もなく木々をすり抜けるようにして進んでいく。ただ進んでいるわけではない。人の気配や足跡などを見極めながら担当区域を縦横無尽に進んでいく。
「新情報です」
 警察から通信が入った。 警察は若葉の要請を受けて森周辺を捜査している。もし、密猟者が森付近に車など置いていれば逃走時そこに戻る可能性も高いと踏んだからだ。
「森の入口から300mほどの場所で不審車両を発見した。持ち主はビリー・フィンチ。HOPEに問い合わせたところ、リンカーだと判明。事件前後の行動から密猟者はビリー・フィンチであ
る可能性が高い」
 エージェントたちに緊張が走った。リンカーなら英雄であるほさぬに危害を加えることができる。残念ながら呉服商や地元警察の判断は間違っていなかった。
「わかりました」
 若葉が通信機から言う。
「そこに向かわせないように動きます」

 野外は獣の性質を強く残すアードとドールにとって得意フィールドだ。共鳴せずにすぐ傍を並走して、右側と左側を同時に認識、目と鼻と耳を左右それぞれに集中して索敵範囲を増やす。
「!」
 火薬の匂いに反応して2人は同時に止まった。匂いを頼りに辺りを調べると木に銃痕を発見。
「ここで撃ったんだ 」
 アードは銃痕をなでた。
「でも、当たってはない」
 血の匂いがない。
「ほさぬちゃんは無事だよ」

 遊夜は森を歩いている。周囲の反応を見つつ、足跡や草木の折れや乱れ、木の実等の痕跡を追って目標を探す。共鳴中の特徴である耳と尻尾を枝葉やプロジェクターで迷彩を纏って隠し、モスケールを担いでいるその姿は猟師そのものだ。
「!」
 遊夜が止まった。木の実が実った草木が目に入る。見ると近くに足跡。いくつか実が摘まれていた。まだ摘み口は青い。長くて数時間前に摘まれた物だ。
「麻生だ。ほさぬさんが通ったと思われる痕跡を発見した。大きな足跡といくつか摘まれた実。実は赤と青。特徴は―」
 通信機を使って些細なことでも情報共有していく。
「木の実や草を見つけたら教えてくれ」
 木の実や折れた草木を追って遊夜は再び歩き出した。その情報が功を奏したのはそれからわずか数分だった。
 
「大きな茂み発見! 赤い実と青い実いっぱい落ちてる」
 森に入って即共鳴し、単独行動で動き森の中を全力移動で駆け回ていた咲良から通信が入る。
「場所は一本道が右方向にうっすら見える。家は見えない。道の真ん中ぐらい。とにかく、確かめてみるね」
 咲良は茂みへと近づいた。
「ほさぬくん?」
 茂みをかき分けると浴衣を着た大柄な人狼がうずくまっていた。体を震わせて顔を上げる。間違いない。ほさぬだ。咲良は通信機でほさぬの無事を伝えると再びほさぬに向き合った。
「もう大丈夫だよー! 僕たちはHOPEで君を助けに来たからね! あ、何だったらほら、コレとか上げるよ!」
 友好的にニコニコと笑顔で話しかける。少しでも警戒が解けるようパンダのぬいぐるみやクッキーを取り出してみせるが。
「むしろ怪しい誘拐犯みてぇだな」
 余計な茶々を入れるジャック。ほさぬがぎょっとした顔をする。
「違うよ!? 違うからね!?」
 大慌てするからほさぬも慌てる。よくわからないが、悪い人ではなさそうだ。パンダもクッキーも欲しい。でも、知らないひとから者を貰ってはいけないと袖乃が言っていた。混乱しかけてほさぬの目に涙が盛り上がる。更に慌てる咲良。だが。
「ん、迎えに来たよ……もう大丈夫」
 ユフォアリーヤだ。咲良の情報とモスケールを頼りにやって来たのである。共鳴を解き、全て武装解除していた。
「誰?」
「ユフォアリーヤ。呉服商さんに、頼まれて来たの」
「ほさぬ! 大丈夫!?」
 通信機からピピの声が聞こえてきた。
「ピピ?」
 遊夜が通信機を差し出すとほさぬは茂みから出て来た。
「うん。ボクだよ!」
「ピピ、どこにいるの?」
「森にいるよ。悪い人を探してるんだ。若葉もいるよ」
「怪我してませんか? 怖かったですよね……でももう大丈夫」
 優しく声かける若葉。ほさぬの目に涙が光った。
「怪我してない」
「よかった。そこにいる人たちは皆、仲間です。心配しないで」
「うん」
 ほさぬは目を擦りながらうなずいた。
「擦ったら、だめ。ほら、女の子は綺麗に、ね」
 くすくすと優しく笑いながらタオルでほさぬの涙をふくユフォアリーヤ。
「ま、あとは任せてくれや」
 遊夜は水筒とトリュフを渡し、ほさぬの頭をなでた。咲良もクッキーを渡す。
「あ、落ち着いたら幻想蝶に戻った方が安全だよー?」
 パンダのぬいぐるみを抱っこさせながら咲良が言う。
「ありがとう。あ」
 ほさぬは照れたように笑った。
「幻想蝶のこと忘れてた」

「無事でよかったね」
 ピピが言うと若葉はうなずいた。
「後はフィンチを見つけるだけだね」
 アードが火薬を追って走っている先は若葉がこれから行こうとしているエリアだ。その先にはフィアナたちのいる屋敷周辺エリア。フィンチを近づけたくない。ほさぬの家を戦場にしたくない。
「ヴィランの匂いを捉えた。でも姿は見えない」
 ドールが通信機を通して報告する。
「了解」
 モスケールのレーダーで辺りを探る。相手は能力者だ。近くにいるなら必ず分かる。そして―。
「見つけた」
 あそこにいる。
「まずい」
 ほさぬの屋敷に近い。

 フィアナもまたビリー・フィンチを見つけていた。
「場所は屋敷近くの」
 なんと言えばいいのだろう。屋敷には近いが、一本道からはかなり外れている。森の中では通信機のみだと位置が伝わり辛い。正確に早くエージェントたちを集めるには。
「合図送るわ。3、2、1……」
 スクロール「ダイアモンドユーリス」の閃光がほとばしった。

●密猟者、ビリー・フィンチを拘束せよ
「なんだ!?」
 フィンチは光と別の方向へと走る。悪運の強いことに、攻撃を受けなかったのだ。
「よぅご同業、調子はどうだい?」
 声をかけられ咄嗟にライフルを向けた。
「おっと」
 声の主―リンクした遊夜は両手を挙げた。
「今の光はお前か?」
「光?」
 遊夜はそ知らぬ顔で言った。
「ああ、今のか。あんた、この森は初めてか? 俺らの同業だよ。リンカーのな。よくあるんだ。当たらなくてよかったな」
 エージェントたちはもうフィンチの近くにいるが、まだ包囲が終わっていない。包囲するまで時間を稼ぐ。
「俺の獲物がこっちに来たはずなんだが、見てないかね?」
「獲物?」
 熊の写真を見せる。密猟者を装い味方面して接近を試み、銃口を向けず獲物が違うと言う事実で警戒心を解く作戦だ。
「見てねえな」
 銃をおろして写真へ近づく。
「足跡だけでも見てないかね?」
 遊夜は食い下がる。まだ合図が出ていない。
「しつこいな。熊なんかメじゃねえよ。俺が探してるのは―」

 合図が―来た。

「ぐっ」
 夜遊から放たれたビーム用コンタクトの光線がフィンチの膝を貫き、膝をつかせる。
「騙して悪いが仕事なんでな、お縄について貰おう」
「……悪い子には、オシオキ……だよ?」
 迷彩を解除しながらフィンチに近づく。
「HOPEの奴らか。さっきの光も」
 フィンチは大きく飛び退いた。膝は回復している。ヒールアンプルを使ったのだ。飛び退きながら、遊夜へ九陽神弓の矢を射る。矢が遊夜に刺さる直前、若葉が矢と遊夜の間に滑り込んだ。盾が弾丸をはじく。
「助かった」
 武器をハウンドドッグに替える。そのわずかな時間にフィンチは逃げようとしたが。ザッハークの蛇がフィンチに絡みつき、一気に近くの樹へと引きずられた。その先には樹から大蛇のように頭からぬるりと降りてきたアナー。フィンチは弓を素早く離すとテルプシコラに持ち替え、後ろ手でアナーに突き刺そうとする。アナーはザッハークの蛇から手を離し、刃を避ける。ザッハークの蛇が緩んだ一瞬の隙をついて、抜け出した。テルプシコラをしまい、弓を拾い上げるとアナーへ矢を撃ち込む。アナーはそれをぬるりと回避。フィンチがアナーから離れるとアードが前へ躍り出た。中国武術のように両手の平を縦に、向かい合わせになるように上下に広げ、肉食獣の口をあけた姿で構える。
「犬科の群れの力をみせつけてやる!」
「1匹で何言ってる!」
 フィンチは弓を構え、トリプルショットで矢を射る。
「英雄化したときから、たとえ1人でも、ドールの群れ攻撃ができるんだ!」
 アードの声に呼応して人狼の爪牙が多数出現。一斉にフィンチへと襲いかかる。矢を撃ち落とし、フィンチに牙を向いた。フィンチはテルプシコラに持ち替え、次々打ち落とす。それでもいくつかは食らい、弓を拾って木々の中へ飛び込んだ。遊夜が膝を狙って弾丸を撃ち込むがこれは回避。舌打ちをしながらヒールアンプで回復する。完治までには至らなかったが戦うには十分だ。弓とテルプラシコラを仕舞い、ライフルを構えながら慎重に歩く。HOPEのエージェントが来たということは警察が動いている可能性が高い。車も押収されているはずだ。あの大きな屋敷に立てこもり、夜になるのを待った方がいい。フィンチは屋敷へと向かう。が。
「キヒヒ♪」
 どこからともなく飛んできたシャープエッジがフィンチの肩を掠めた。ジャックの笑い声が響く。
「教えてやるよ。狩人気取り」
 銃を構えて辺りを見回すがジャックどころか他のエージェントの姿も見えない
「狩るのはオレで、狩られるのは貴様だ……ってなあ? キヒヒヒ♪」

 ばさばさっ

 木々が揺れる。とっさにその方向へ弾丸を撃ち込んだ。飛び出してきたのは黒猫。若葉の黒猫の書から飛び出したタマさんだ。
「くそっ」
 タマさんに弾丸を撃ち込むが、タマさんはそれを回避。気がついた時にはウルスラグナ+SW片手にフィアナが間合いを詰めている。武器をテルプシコラに替え、刃を受け止めた。フィンチはなんとか間合いを取って逃げたいが、守るべき誓いを発動させたフィアナはそれを許さない。誓いの内容は密猟者の逃走阻止。
「好き勝手森を荒らされて……逃がすと思う?」
「黙れ!」
 何度目かの攻防の末、やっと間合いをあけ、逃げようとするも、遊夜のダンシングバレットがフィンチの膝を直撃。
「相手の気持ちはわかったかね?」
「……ん、絶対に逃がさない、よ?」
「ちっ」
 ヒールアンプルで回復し、奥へ走る。そこへ咲良が放ったシャープエッジが腕に刺さる。間髪入れずに若葉の白鷺が飛んで来てフィンチの服を貫き、樹に縫い付ける。シャープエッジと白鷺を引き抜き、再びヒールアンプルを使う。
(なんでこっちの位置が知られているんだ?)
 答えは簡単である。最初のアードのストームエッジに紛らせ咲良がフィンチにデスマークを付与、無線で居場所を皆に伝えていたからだ。
(でももうデスマークの効力は切れたんだよね)
 フィンチの場所は分からない。だから。
「もう終わりか? もっと追いつめられろよ」
 ジャックが言う。
「キヒヒ、追い詰めて追い詰めて仕留めるってのは、狩猟の基本だよなぁ? 頑張れよ」
 わざと一瞬だけ姿を見せる。
「このっ」
 咲良へと引き金を引くフィンチ。だが、咲良はエーマージェンシーを発動している。
「まんまと餌にひっかかって獲物が出てきやがったぜ」
 狙撃を回避し、シャープエッジを投げた。
「がっ」
 ライフルが落ちると同時、若葉が烏羽片手に迫る。落ちたライフルを遠くへ弾き、放たれた矢も退ける。その間にフィアナがウルスラグナ+SWと共に割り込み刃を振るう。弓が宙を飛んだ。テルプシコラで迎え撃とうとするが、遊夜の弾丸を膝に受け体勢を崩した。フィアナが剣を振う。フィンチが吹っ飛ぶ。立ち上がって逃げようとするがアードの人狼の爪牙に阻まれ樹の近くへ飛び退く。
「!?」
 フィンチの体に鈍い痛みが走る。アナーの毒刃使用のバグナクだ。フィンチの体にアナーが全身でまとわりつく。ゆっくり締め上げた。

 フィンチ自身の持ち物で解治療し、ザッハークの蛇で縛り上げると、若葉は顔近くに烏羽を突立た。
「次、同じ事したらどうなるか……分かりますよね?」
 冷徹な目に射抜かれ、フィンチはがくがくと肯きながら「はい」を繰り返した。
「半端な狩人擬きにはお似合いの末路だろうよ、キヒヒ♪」
「無事に解決したみたいで何よりだよね!」
 通信機を通じて皆の会話を聞いていた咲良とジャックが言う。この様子なら大丈夫だろう。若葉は一転、穏やかな笑顔になった。
「さ、これで解決ですね」
「こいつを引き渡してくる。先にほさぬちゃんのところへ行ってくれ」
 アナーが言う。
「大丈夫だと思うけどリンク状態の2人以上で連れて行った方がいいんじゃない?」
 フィアナが言うと通信機から咲良が「ボク達が行くよ。一本道で待ち合わせよう」と名乗り出た。場所的に咲良の方が一本道に近いのだ。

「ほさぬちゃん、終わったよ」
「もう平気だ」
 最初にたどり着いたアードとドールが呼びかけるとほさぬが姿を現した。
「無事でよかった!!」
 ピピがほさぬへと駆け寄った。
「ピピ、来てくれてありがと。みんなも、ありがと」
 ぺたんと座り込んでわんわん泣き出した。
「泣くなって。もう大丈夫だ」
 遊夜はタオルでほさぬの涙を拭く。
「悪い人は、もういない、ね?」
 ユフォアリーヤがほさぬの手を取ってあやすように言った。
「そうだよ」
 ルーが優しく微笑んだ。
「ほさぬを怖がらせるものは何もない。全部終わったんだ」

●最後の依頼を完遂せよ
「あと呉服商さん、に無事よーってお電話した方が良いと思う、わ。心配してた、もの」
フィアナが言うとほさぬは慌てて携帯電話を手に取った。
「もしもし。 うん。あたし。大丈夫よ。怪我してない。悪いひと捕まったって。あのねえ、みんながねえ、助けに来てくれたのよ。ぬいぐるみとお菓子くれたのよ。うん、ちゃんとお礼するよ」
 まだ涙声だが、尻尾は楽しげにふさふさ揺れている。もう大丈夫だろう。
「浴衣取りに行くから……え? サクラさんに渡したの? そっか。仕事頑張ってね」
 電話を切るとエージェントたちに向き直る。
「サクラさんたち、浴衣受け取ってあたしの家に向かってるって。あの、あのね、もうすぐお昼だしうちに来ない? お礼したいの。木の実とチーズとお茶があるの」
「行く行く!」
「そうだな」
「お家お邪魔する、ねー」
 口々に招待を受けるエージェントたち。ほさぬはぱっと笑顔になった。
「やった。大きな家なんだけど場所わかる?」
「一本道真っ直ぐですよね」
 ナテリーが遠慮がちに言う。
「うん。かぎ掛けてないからすぐ入れるの。待っててくれる? 木の実、とってくるから。すぐよ」
「森、一緒、行ってもいい?」
「僕も行きたいな」
 フィアナとルーが言えばアードとドールも行きたいと言う。
「うん、一緒に行こう」
「俺達は家にお邪魔させてもらうな。咲良たちが浴衣持って来たときに誰もいないのは困るだろ」
 遊夜が言う。
「お願いします。家にあるものは何でも使っていいよ。奥のソデノのお部屋以外は入っても大丈夫。あ、ソデノってあたしと契約結んでるひとね」
「俺達は桃井さんたちを迎え に行くよ。迷うことはないだろうけど、念のために」
 若葉の言葉を最後にエージェントたちは一度解散した。

「はい! ほさぬくんコレ! 社長さん達も心配してたし、無事で良かったね!」
 咲良が浴衣を渡す。
「ありがとう! それから、ようこそ我が家へ! 皆もゆっくりしていってね」
 森の中の昼食会が始まった。
「わー! すっごい美味しいね!」
 大きな木皿一杯の木の実と大きく切り分けられたチーズ。大きなガラスのティーポットに入ったフレッシュハーブティ。咲良は喜んでぱくぱくと食べる。
「ってジャックちゃん! 自分の分食べてよ!」
 時折、隣のジャックにとられているが。
「人の食ってるもんってやたら美味そうなんだよなー」
「これは美味いな」遊夜が舌鼓を打てば「……ん、美味しいねぇ」ユフォアリーヤが尻尾をふりふり。その隣ではアナーとナテリーが黙々とチーズや木の実を食べている。
「木の実たくさん! 魚捕まえられるし、ほさぬすごい♪」
 ピピもにこにこ笑いながら木の実に手を伸ばす。以前ほさぬと出会ったとき、ピピは魚の捕まえ方を教わったのだ。ほさぬは誉められてにこにこ。
「お茶どうぞ」
 ほさぬは新しい浴衣を着て忙しく給仕している。初めて自分で招いたお客さんなので張り切っているのだ。
「ありがとう。お茶も美味しい……ほっとするよ」
 一口飲んで若葉が言う。誉められてほさぬははにかんだ。
「それ、呉服商さんの浴衣? 綺麗な浴衣だね」
 若葉が言うとほさぬはうなずいた。
「毎年この時期に頼んでるの」
「皆で着てお祭りとか行きたい!」
「もう少し、したら夏祭りの時期、ね」
 ピピの言葉にユフォアリーヤが言えば「ああ」と遊夜が優しくうなずく。
「いい匂いがする」
「ミルクとベリーの匂い」
 アードとドールがくすんと鼻を動かした。
「あっ」
 キッチンへと走るほさぬ。
「元気だねえ」
 ルーが微笑んだ。
「はい! どうぞ」
 大きな皿を持ってほさぬが再登場。皿の上には焼き立てパン。
「ほさぬが焼いたのか」
「す、すごいですね」
 アナーとナテリーが言う。ほさぬは「フィアナさんと」とはにかむ。一緒に森を歩いた時「そうだ、木の実ある、なら私時々焼くフルーツ入りのパン、があるの」とルーに書いてもらったレシピをくれたのだが、「今作りたいって言ったら一緒に作ってくれた」のである。
「ほさぬちゃん、上手よ」
 フィアナもにこにこ。
「ジャックちゃんもう食べてる。って、僕の分はあげないからね!」
「キヒヒ!」

「さて、そろそろ戻ろうか」
 片付けも終わり、そろそろ夕方になろうという頃。遊夜が言った。
「そう、ね。夜になったら、危ない」
 ユフォアリーヤもうなずく。森は誰にでも優しいところではない。時に思わぬ牙をむく。
「そうだね。俺達は念のため森を見回って安全確認して戻ろう」
 若葉が立ち上がる。
「もし、ほさぬが心細ければ誰か1泊してもいいかもね」
「呉服商が仕事終え次第、こっちに来て泊まるそうだ」
 アナーが言う。
「じゃあ、大丈夫ですね」
「もし何かあったら連絡してね、飛んで来るからっ!」
 ピピはそう言って連絡先を教えるとほさぬはにっこり笑う。
「ありがとう。ピピはナイトね」

●エピローグ
 次の日、袖乃が帰宅した。扉を開けた瞬間、ほさぬがばたばたとやってくる。
「お帰り!」
 密猟者の話は既に聞いている。袖乃はほさぬを抱きしめた。
「ただいま。怖かったですね」
「怖かった。でも、大丈夫。もうお留守番もできるよ」
 ほさぬはにこっと笑った。
「パン焼いたの。お腹すいてるでしょ? 食べて」
「強くなりましたね。いい子。遠慮なくいただきます」
 袖乃は心からそう思った。思ったのだが、ほさぬの成長がほんの少し寂しい気もしたのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • Allayer
    桃井 咲良aa3355
    獣人|16才|?|回避
  • TRICKorTRICK
    ジャック・ブギーマンaa3355hero001
    英雄|15才|?|シャド
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • エージェント
    アードaa5089
    獣人|16才|女性|回避
  • エージェント
    ドールaa5089hero002
    英雄|17才|女性|カオ
  • エージェント
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