本部

漂流地点、0日目

布川

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/06/21 14:04

掲示板

オープニング

●何もない
気が付いてみれば、見渡す限りの、海、海、海。

ここはどこだろう。
エージェントたちは、自分たちが見知らぬ島に流れ着いていたことを知る。
持ち物を確認してみるが、役に立つようなものはほとんどない。

どこまでも続きそうな海。

同じように流れ着いたものたちと言葉を交わし、エージェントたちは少しばかり島を散策してみた。
自然豊かな、人の手の入らない世界。
ほとんど時間もたたないうちに、エージェントたちは確信する。
すなわち、ここは誰も住んでいない島、無人島であると。

どうしてこんなことになってしまったのか。

ざっぱーん。
海岸で、波が砕けて散った。

あふれる自然の豊かさ以外、その島にはなにもない。

とりあえず、当面の生き延びるすべを探さなくてはならないだろう。
そして、脱出する方法も考えなくてはならない。

果たして、助けは来るのだろうか?
それとも、ずっとこんなところで暮らすのか?

エージェントたちは思い思いに、行動を開始することにした。

解説

●目標
生き延びて、脱出する。
(自力で脱出するのでも、なんとかして助けを呼ぶのでも構わない)。

●状況
ひょんなことから無人島に漂流してしまったエージェントたち。
(船が転覆したとか、泳いでいたら流されたとか、理由は様々ですが、遭難しているという点では一致しています)。

●無人島
とある太平洋にぽっかりと浮かぶ南の島。
気候は温暖で、時に激しいスコールが降り注ぐ。
広さは海岸を歩いて、半日で一周できるくらい。

・小屋
以前に誰かが使っていたような、ほんの小さな小屋。
壁には正の字が刻まれている。

・ジャングル
深く生い茂ったジャングル。食料は豊富だが、危険な生物が多数生息しているようだ。
狂暴そうな獣の遠吠えが聞こえる。

・遺跡
かつての島民がのこしたのであろうか、島の最深部には何かをまつるような遺跡がある。

・浜辺
いろいろなものが漂着している。
運が良ければ、エージェントたちの荷物もあるかもしれない。

●注意
荷物には直接的に即脱出できそうなボートなどは含まれないが、その他のアイテムは持っていてよい。
ライヴス通信機などの機械は、島の中だけであればなんとか通じるかもしれないが、外部からの助けは呼べない。

リプレイ


●流れ着いた先は
「あった、よかった……!」
 御代 つくし(aa0657)は半分砂に埋もれかけたフラメアを見つけてほっとする。彼女にとって、このフラメアはお守りのようなものだ。
 所持品をかき集め、それなりにもちものがあることに安堵する。
【ぁ、これ……】
 カスカ(aa0657hero002)探し当てたのはスマートフォンだ。起動できるのには安心したが、やはり圏外である。
 カスカはどうしてこうなったのか、思い出してみる。
 それは、もう一人の英雄、メグルらと三人でクルージングをしていたときのことだった。
 急な悪天候が船を襲い、船が大きく揺れた拍子に、つくしとカスカは船から投げ出されてしまい、そして、現在に至る。
「……ここ、どこだろ……」
 首尾よく合流できたは良いものの、これからどうするのかという不安もある。
【ぅ……、……だいじょうぶ。……絶対、気付いてくれる…って、思ったりする……から】
「そう……うん、そうだね!」
 カスカの励ましに、つくしは元気を取り戻す。
(メグルが無事ならGPSなどで探してくれるよね)
 とにかく、生き残ることを考えようと思った。
「ここでぼんやりしてても始まらないよね! とにかく行ってみよう、カスカ!」
【ぅ……ん、ぼくに、できること…頑張ったりしたり、する、よ……!】
 しばらく歩いていると、カスカが人の足跡に気が付いた。二人は顔を見合わせる。
【もしかすると……ほかに誰、か、いちゃったりなんだり、して……】

『……それで、遭難、したんだね……』
 無音 秋(aa4229)と要(aa4229hero001)は、つくしたち二人の話を聞きながら頷いてみせる。
「こっちも同じような感じだ。知り合いがいたのは不幸中の幸いだな」
「ほんとによかった!」
【ぅん、心強い……かも……】
『……そうだね。何とか、出る方法を見つけないと……』
「ほかにも誰かいるかもしれない。探してみるか」

 そのころ、同じ島の少し離れた場所に、壊れたボートの横で大海原を眺める二人がいた。
「とある海域で従魔討伐の任についていたボク達は、ずばっと勝利したものの! ついうっかりとボートのエンジンを壊してしまい、この島に漂着したのであった! てへぺろ☆」
「説明台詞、ありがと……」
「いえいえー」
 こんなときでもストゥルトゥス(aa1428hero001)はいつもの調子である。ニウェウス・アーラ(aa1428)はツッコミを放棄した。
 ボートはなかなか動きそうにはない。
「ところで、なんか他にも漂着者がいるみたいヨ?」
「……あれ、ほんとだ」
 おーい、と手を振るストゥルトゥス。その人影が返事したのが海のほうからであったのは、驚くべきなのかどうなのか。溺れかけているのでは、と思ったのもつかの間。相手もまた手を振り返し、こちらへと向かってきた。

「いやはや、まさか泳ぎの修行をしていたら迷ってここまで来てしまうとは、拙者もまだまだでござるな」
『だから言ったじゃない、遠くまで泳ぎに行くのやめようって……』
 稲穂(aa0213hero001)呆れるが、小鉄(aa0213)はあくまでも前向きに物事をとらえる。
「ともあれこれもまた修行みたいなものでござるな!」
『修行じゃなくて遭難してるのよ!?』
「お、誰かいるみたいでござるな」
『さすがにこんなところに……あれ、本当だ』
 小鉄も手を振り返し、もうひと泳ぎと気合を入れた。

「……飛んで帰れると思う? Alice」
 極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』の背を指先でなぞる少女アリス(aa1651)は、峰から振り返り、自身とそっくりな少女、Alice(aa1651hero001)と顔を見合わせる。依頼帰りのアクシデントで、彼女らも同じようにここへやってきた。
 魔法のほうき――マジックブルームで、水平線へと向かって飛んでいく姿を思い浮かべるが、さすがに遠すぎる。
『無理だろうね』
「だよね。じゃあ仕方ないね」
『仕方ない』
 二人の少女は、ほとんど同じタイミングでふわりと立ち上がった。
『幻想蝶に入れてたのも殆ど依頼用だったけど、まぁ何とかなるんじゃない』
「そうだねね、Alice」
『あっちが騒がしいね』
 二人は手を取り合い、仲間たちのもとへと駆けていった。

「まさか・・・沈没するとは・・・思いませんでしたね」
『そうだな・・・しかし・・・よく・・・持っていたな・・・ビーコンなんて』
「友人と・・・山等に・・・行くのですが・・・前に・・・遭難しかけまして・・・」
 秋姫・フローズン(aa0501)は、取り出したビーコンを発信に切り替える。これで、救助する側も遭難者を探しやすくなるはずである。
 修羅姫(aa0501hero001)は秋姫の準備の良さに深く頷く。
 それは休暇での船旅でのこと。急な嵐によって、船は転覆。二人は非常用ボートに乗って島に流れ着いた。
 秋姫の所作がそうさせるのか、それとも修羅姫の凛とした、ともすれば冷酷さがそうさせるのか、非常事態でありながら、二人の船旅はどこか優雅だ。
『それ以来・・・それを・・・旅行等の時に・・・持参するようになった・・・と?』
「はい・・・その通り・・・です・・・」
 秋姫は口元に微苦笑を浮かべ、この緊急事態にも関わらず、慌てる様子はない。「絶対零度の氷の女王」と評される修羅姫も、秋姫にばかりは温かい表情を見せる。
「あちら・・・ほかの方が・・・います・・・」

「それなりに訓練はつんでるよ」
 藤林 栞(aa4548)は、エージェントたちの前に荷物を広げた。保存食の梅干しから、さらに、荷物の紐は、イモの蔓を味噌で煮込んだ物である。曰く、戦国時代の保存食だ。
 栞は歴史的な忍者だ。それゆえに、この状況にはうってつけの装備を備えていた。
 干し飯、古式の固焼き、兵糧丸。ゆうに一週間分の食料はあるだろうか。
「こんなのもありますよ!」
 陸上自衛隊普通科所属の築城水夏(aa5066)は、手際よく物資を並べる。充実した基本のサバイバルキットも心強いが、特筆すべきは充実した食料だろう。
 自衛隊のパック飯、SDFヌードル、三日分の米。とくに飯盒にはこだわりが見えた。「野外炊具二号」乗りで、飯炊きの鬼と呼ばれる彼女は、テントを設営する傍ら、飯盒のためのかまどを作成していた。
「こちらも貴重なたんぱく質になりますよ」
 竹田伸晃(aa5066hero001)は海岸に流れ着いたココナッツを拾い上げた。竹田は旧日本陸軍である。南方ではココナッツに宿るゾウムシ幼虫(サゴワーム)が重要なたんぱく質となった。
「しばらくは食事に・・・困ることも・・・なさそうですね・・・」
 秋姫もいくばくか非常食を持っていたる。
「あ、筆記用具があるのはありがたいな」
 なければないで、革はぎ、木や竹や泥から粘土板や羊皮紙など作ろうと思っていたが、とにかく記録は大切だ。
 栞は頷いた。
『これでだめなら、木でも火は起こせるでござる』
 藤林みほ(aa4548hero001)は「火口箱」火切金と火打石を取り出して見せた。
『いざとなれば、秘密兵器だってあるよ~!』
 ストゥルトゥスがにこにこと笑う。
 アリスたちもまた顔を見かわし、ふたりでそっと小さな麻袋オヴィンニクを確かめた。
『……蒼炎槍もある……火の番は必要かもしれないけど……』
「……」
『……?』
 無音はしげしげと要の表情を見た。命がかかわっているからなのか、今日はよく口を開く。この状況は決して手放しで喜べるものではないが、なんとなく珍しいこともあるものだ。
「拙者は、うむ、苦無だけでござるな……」
『こうなるとは思ってなかったものね、流石に』
 小鉄は楽しそうに同業者の一連の忍者道具や、仲間たちの物資を眺めていた。
「やっぱり私は諜報やサバイバルが主だからね」
 逆に言えば、ほとんど何も持たずにこんなところまで泳いでこれる実力はなかなかのものだろうか。
「あ、それと、軽く探索した際に、獲物を捕まえたでござるよ。鳥や獣などは生息しているようでござるな」
『途中、妙な遺跡があったわ』
「遺跡だって、Alice。面白そうだね」
『面白そうだね、アリス』
「それにしても小鉄さん、泳いできたなんてすごいですね」
「御代殿、為せば成る、なんとかなるでござるよ」
『迷ったじゃない』
「そうそう、なんとかなるってねー☆」
 ストゥルトゥスの軽い口調も、白白しくは響かなかった。きっとなんとかなる。そんな希望があたりにたちこめていた。

●ここをキャンプ地とする
『何か見えた、アリス』
「小さな島が見えるよ、Alice」
 アリスらは自分達の所持品をグリードに拾い集めると、双眼鏡で周囲に島などが無いかをゆるりと眺めていた。
「なるほどなるほど……」
 かめいかだなどの簡易船具を作成すれば、いけないこともなさそうだ。栞は思った。
「あっちは、良い感じに魚がとれそうっす」
 築城がじっと水面を眺める。

 海の向こうを眺める彼らの頭上を、ライヴスの鷹が飛んでいく。
「よし……」
 共鳴を解いた無音の瞳が赤から黒へと変化して、その姿は年相応に戻る。鷹の目を飛ばしたおかげで、島の地理がわかった。
『だいたいの……地形は、把握できた……と思う。遺跡の場所も……』
「探検にいけるでござるな!」
 小鉄が嬉しそうな声をあげる。

「サバイバルの基本は水、火、食料、シェルターっす」
 築城は上着などを簡易屋根とし、ひととおりの寝具を整えた。明日からは、もうすこしきちんととしたテントや家屋を作ることができるだろう。
『とりあえず、当面のところはなんとかなりそうですね』
 竹田は、ココヤシで簡易のロープを編んでいた。ココヤシの樹液は貴重な飲み水になるほか、シェルターやロープなどに用いることができる。また、成長点のところは食料に、カラは容器にもなるのである。
 さらに、きざんだ果肉で油をとれば、虫よけや日焼け止めにもなる。まさに捨てるところがない。
「問題は飲み水っす。こうやって、高潮時の水位より高いところを掘って、うまいこといけば……お、あったあった」
 海が近い島においては高潮時の水位より高いところを掘れば、ろ過された海水の上を五センチくらいの厚みで漂う真水が見つかることもあるのだ。
「あとは……そうっすね」
 築城は植物にビニール袋をかぶせ、水蒸気を集める準備をする。水を透明なペットボトルにいれ、日光にさらす。
 少し遠くでは、無音らが海水を火にかけ蒸発させ水として確保しているのが見えた。
『みなさんの水と合わせても足りるでしょう』
「人力運搬の容量は野外生活の要だね」
 藤林は、流れ着いた木材を組み立て、簡易の大八車を作っていた。
 一通りの作業が終わった築城と竹田は、木を組んだフォークフレームでリュックを作る。
「水は十分みたいだけど、淡水があればいいんだけど」
『そうでござるな』
 栞らの言葉に、テントの組み立てを手伝っていたアリスらがひょっこりと顔を出す。
『水の確保に泉があればいいね、アリス』
「きれいな泉があればいいね、Alice」
「……ジャングルがある、という事は」
 ニウェウスの言葉を、ストゥルトゥスがひきとる。
「熱帯雨林気候の可能性、あるねぇ。それなら、午後からスコールが降る可能性有りデスヨ」
「雨水……確保しないと、ね」
 空を見上げる。透き通るような青だ。

●小さな小屋
 仲間たちが拠点を整えている間に、無音は海岸沿いにあった小屋を調べていた。誰かが住んでいたらしい場所だ。
「これは釣り竿、か?」
『一応、まだ使えないこともない、かな』
 ほかに役に立ちそうなものといえば、木切れが燃料になりそうなことくらいか。
『船は通るのかもな……』
 壁に刻まれた正の字を見て、要はつぶやいた。これは助けが来たのか、タイムリミットか。

「隠れ家にはなるかな、Alice」
『ちょっとした隠れ家にはなるかな、アリス』
 アリスらは刻まれた文字を一瞥すると、とくに気にすることもなく小屋を調べていた。そのとき、テンペスタースネックレスがわずかに光ったように思われた。
「きっと雨が降るね、Alice」
 無音は少し髪の毛を気にしたが、顔には出さなかった。
「小屋の方でも雨風はしのげそうかな」
 あの場所に残ってたなら丈夫だろう。テントを少し緩く張り直し、水をためることにした。
「釣りでもしようか。釣れるといいけど……人数分は確保したいな」

●熱帯のジャングル
「脱出するにしろ、救助を待つにしろ。必要となるのはー?」
「水と、食料……」
 さあどうぞどうぞ、と回答を期待されるようなストゥルトゥスの視線をこらえきれず、ニウェリスは答える。
「おぅイエス! んじゃま、晴れている内にジャングルへ行こうか」
「なんで……?」
「手頃な木材が欲しいのデス。なんでかはCMの後で☆」
 ストゥルトゥスはカメラ目線を意識した方向にウィンクした。
「CMなんて、無いよ……」
 もちろんカメラなんてものもない。ニウェリスのジト目も気にせず、ストゥルトゥスはジャングルへと分け入っていく。

 ほかの仲間たちが狩りをする一方で、栞はジャングルでの採集に務めていた。栞の俸手裏剣が、毒々しい色の虫を払った。
『見たことのない虫でござるな』
 毒蛇、毒虫を避ける基礎知識はあるが、ここはずいぶん動植物が違う。
 それでも、役に立つ知識はある。
「のろしを上げるのに便利ですからね」
 狼煙は狼の糞というが、肉食動物の排泄物は未消化の骨などがリンとして煙が良く立つものである。

「お、いいもの発見。もらうっすよ」
 するりと木登りをしていた築城は、鳥の卵をポケットに入れる。ついでに、木に巻き付いた蛇も、難なく食料としてとらえる。
 少し高い木の上に登ってみると、仲間たちが狩りをしている様子が見える。
『心配はいらなそうですね』

 どう猛な狼のような獣数体が、アリスたちの前で唸り声をあげていた。一頭が唸り声をあげ、一頭が後ろに回り込もうとする。今までに人間を見たことがない動物だろうか。逃げようともしない獲物に、様子が違うことを感じ始めているようである。
『……食料』
 Aliceがつぶやく。
「能力者で良かったよね、本当」
 ライヴスが伴っていないのであれば、彼女たちに害をなすことはない。

「ごめんなさいだけど……火を起こしたりするのに必要だから……!」
【力仕事、なら、頑張れば出来たりしたり……だから……やる、よっ……】
 カスカと共鳴すると、す、と意識が研ぎ澄まされる。青みがかった黒髪に青い瞳と獣の耳を備えたつくしは、慣れた様子でフォーマルハウトソードをふるった。木々が音を立てて倒れ、遠くで鳥が羽ばたいていった。
 その音に反応し、唸り声をあげて走り去ろうとする猪の前に、共鳴した小鉄が立ちふさがる。
「いざ勝負でござる!」
『ごめんなさい、ご飯になって頂戴!』
 射貫くような金色の瞳に、獣は一瞬ひるんだ。小鉄はその瞬間を逃さなかった。クナイが、見事に猪にとどめを刺した。

 ジャングルを深く分け入った場所に、どう猛な角の生えた獣が姿を現した。この森林のボスともいえるような存在だろうか。
 サイのようだが、その体は大きい。獲物を追い詰めるように、秋姫にじりじりと距離を詰める。
「ふふ・・・食べるつもりですか・・・?」
『だが・・・残念だったな・・・』
 振り返った秋姫の右目は赤い。髪も、まるで夕焼けに染まるように紅に染まっていた。輝かしい白と、それと対になるかのような血のような赤で文様のような痣が、鈍く発光している。
 背中の2対の羽が揺れた。
「『私(妾)達が・・捕食者です(だ)!』」
 首を切り裂かれた獣が最後に見たのは、凍り付くような「優しい微笑」だった。
 氷の女王の微笑。
 自分が死んだことにも気が付かず、獣はその場に倒れた。

●無人島グルメ
 早めに採集から戻った築城は浜辺で集めた貝を煮詰め、カニの肺を捨てる。釣り針にエサをつけて投げ上げて捕まえた海鳥もいる。
「無人島環境で怖いのは腹痛」
「ですね」
 いざというときには栞は漢方薬「秘極の薬」を持っている。
 築城は蛇類も頭を落として焼く。それなりにおいしそうなにおいである。

「何作ってるの?」
「できてからのお楽しみっと」
 ストゥルトゥスは、なにやら漂流物と木材を駆使して箱を作っている。それから、手ごろな木材を探し、砕いてチップにした。
 そこまで見れば、はたから見ても燻製器だと理解できた。
「美味くする為の諸々は出来ないから、味は期待しないデネ。特に風味な!」
「塩で……味は、誤魔化せる、かな」
 荒く砕いた鍋代わりの岩を用意して、ニウェウスは尋ねた。
「ところで、口火は……?」
「じゃっじゃーん、メルトリッパァ~☆」
 これこそ秘密兵器である。
「……案外、便利、だよね。そのAGW」
 あっという間に塩ができた。

『だれか調味料に使えそうなのとか、持ってたりしない?』
「カレー粉なんてどうっすかね」
 ジャングルで獲物をしとめた面々が帰ってくると、食卓はよりいっそう賑わいを見せた。ちょうど釣りを終えた無音が狩りをしていた面々と合流し、力仕事を引き受けたようだ。
 秋姫のしとめた獲物はとても大きい。
『ダウジングでも持っていればよかったが……』
 要はつぶやく。
「動物が水を飲んでる場所を見つけた」
 無音はペットボトルに確保した飲み水を差し出す。

 アリスとAliceがグリードを逆さにし、中から薪を取り出した。小さな黒猫が、尻尾から火を灯す。
 日常とはまた違う味わいがある食事だ。
 とくに、飯盒で炊かれたご飯は、下手をすれば普段口にするよりもおいしいかもしれない。
「お肉・・・焼けましたよ・・・?」
 豪快にあぶられた肉から、肉汁が滴っている。
「こうしていると、遭難してるって気がしないでござるな」
(蛇……)
「罠に獲物がひっかかってたら、明日はもっと豪華になると思うっすよ」
「燻製、結構いけるね……」
「あ、ほんと? いやー、そう思ってたけどね!」
「おいしいね! なんて魚だろう。見たことない種類だけど」
「なんだろうな」
「いやはや、偶にはこういうのも不謹慎ではござるが楽しいものでござるな」
『皆リンカーだしねぇ…ここにちゃんとしたホテルとかあったら旅行みたいなものだったのだけど』

 エージェントたちの食事が終わったころ、スコールが降り出した。小屋に何人か、テントに何人か、さらに、秋姫が見つけた近場にあった小さな洞窟に数名。
 秋姫は剥いだ毛皮をしいて、洞窟から優雅に雨を眺めていた。
「どうした?」
『……いや』
 雨に濡れた要の赤い髪が、濡れた部分だけ白に染まっていた。秋は驚いたが、それ以上は何も言わなかった。
 秋は自分の髪の色が嫌いだ。
 スコールの音が響く。

 なんてこともないように、あっという間に晴れやかな空が覗いた。
「石鹸を作っておいたよ。基本衛生は、熱帯などの無人島の長期生活で大事だからね!」
 栞が動物の油脂に灰を加えた石鹸を手に、めいめいが木を削って洗濯板で洗濯をする。
 洗濯物を、ココヤシのロープや枝にひっかけて乾かすエージェントたちだった。
 夜が更けていく。
 アリスたちの持つ、忌避蟲殺之書から、ほんのわずか、明かりが揺れる。栞は空を見上げて、月と星を眺めた。
「ずいぶん遠いね」
 専門ではないが、大まかな位置はわかる。

●遺跡の調査
 数日が経過し、生活は安定してきた。もう一日の収穫が安定しなくても、食料の心配をすることもないだろう。
 脱出方法については、脱出よりも救助を優先して待つことになった。
「泳げばよいのではござらぬか?」
『どっちに泳ぐか分からないでしょ……』
 あっけからんという小鉄に、稲穂がつっこんだ。

 救難信号として開けた場所に、倒木を加工して作成した杭でSOSの文字を作った。
「あの木から・・・見渡してみましょうか・・・」
『だな・・・あれを足場にして・・飛び上がって見下ろしてみるのも・・良いかもな・・・』
 探索の途中、登れば一面を見渡せそうな巨木を見つけて、秋姫と修羅姫は登ってみる。並んで枝に腰かければ、 そこからは、彼女たちが作ったSOSの文字がよく見える。また、海岸のほうにも、ここからは小さく築城が作った文字が見えた。
 無音や御代らが作成した3本ののろしも、ここから見える。
「これで・・よし・・ですね・・・」
『うむ・・・バッチリだ・・・』
 すぐに降りることもできたが、二人はしばし、高みから島を見下ろしていた。

「面妖なものを見つけたでござるよー!」
 小鉄が木彫りの面と思しきものを持ち帰り自慢していた。
「こういうところにはお宝があるものでござるよ! オーパーツとか」
『まぁでも意味深よねこういうのって。つくしちゃん達もそう思わない?』
「遺跡……! わくわくしちゃいますね!」
 稲穂の言葉に、つくしは同意を見せた。
【ぇと、その……共鳴して、なら、大丈夫だったり……かな……?】
「何か発見があるかも!」
 こうして、希望者で遺跡を探索することになった。
「もし良かったら秋くんも一緒に! 皆で行ったら楽しいよね!」
 秋は要をちらりと気にして、「考えておく」と言った。

「こういう冒険、ワクワクしませんか」
「こんな状況で……?」
「こんな状況だからこそだよー。活力は、ポジティブさからしか生まれないんだぜ?」
 遺跡絵の道中、ニウェウェスはストゥルトゥスの言葉を考えてみる。
「そういうもの、なのかな……」
 ストゥルトゥスはまるで散歩でもするかのように遺跡への道を歩く。ニウェウスは、寄ってきた獣を追い払うにとどめた。食料は十分あるのだ。

「天気が悪くなったからな。釣りをやめてこっちに来た」
 そういって手に持った釣り竿をみせる無音ではあったが、釣り場からは少し距離がある。釣り場を変えてみたといえば納得できるが、要の様子を見に来たというのが妥当だろうか。
 何かあっても共鳴状態であれば安心だ。

 遺跡の内部には、ずいぶん昔には人が生活していたような痕跡があった。奇妙な模様や、壁画が飾られている。とはいっても特に危険はなく、ただただ滅びた文明が顔を覗かせているだけのようだ。
 Aliceは使えるものがないかどうか、陶器の破片などを検分している。アリスはぶつぶつと何事かつぶやいていた。
(小屋とは多分違う。それとは別に人がいたって事で……あの島みたいな……)
「祭祀?」
『祭祀かな……いやどうだろう』
「情報はあるに越した事は無いから」
 秋はスマートフォンで最深部を撮影する。
「ここがどこなのか分かれば良いけど」
「これは持って帰ってもいいでござろうか?」
 小鉄が小さな水晶玉と思しきものに近づくと、球が真っ二つに割れた。
「うお!」
 素早く身構えるが、一瞬眩しくなっただけだ。
「いま、ひ、光った?」
「んー、眩しい。きらっとしたね」
 水晶玉は、光を失って石ころのようになっていた。触ってみても変化はなく、とりたてて奇妙なことはない。
 遺跡を出るころには、スコールはすっかり止んでいた。

●救いの手
 のちにエージェントたちを救助しに来たヘリコプターの操縦士は、「一瞬だけ、進路が光って見えた」と証言をした。まるで、島が導いたようであったという。とはいえ、それがなかったところで、エージェントたちが見つかるのは時間の問題であっただろう。数時間早まったにすぎないが、それは、島へ敬意を払ったエージェントたちへの敬意の現れだったのかもしれない。

「お、来た来た」
 築城が素早くミラーと煙で信号を出した。ヘリコプターはしばらく島の上を巡回した後、ゆっくりと浜辺に降り立った。船で出ていた面々が、続いて遺跡にいた面々が呼ばれて引き上げられる。
 だんだんと小さくなっていく無人島を眺めながら、エージェントたちはそれぞれにこの島での不思議な思い出を振り返っていた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 誇り高きメイド
    秋姫・フローズンaa0501
    人間|17才|女性|命中
  • 触らぬ姫にたたりなし
    修羅姫aa0501hero001
    英雄|17才|女性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 想いの蕾は、やがて咲き誇る
    カスカaa0657hero002
    英雄|20才|女性|ドレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 名助手
    無音 秋aa4229
    人間|16才|男性|回避
  • 沈黙の守護者
    aa4229hero001
    英雄|23才|男性|シャド
  • サバイバルの達人
    藤林 栞aa4548
    人間|16才|女性|回避
  • エージェント
    藤林みほaa4548hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • サバイバルの達人
    築城水夏aa5066
    人間|22才|女性|命中
  • エージェント
    竹田伸晃aa5066hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
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