本部

従魔を売るものを討て

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~8人
英雄
3人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2015/10/30 22:53

掲示板

オープニング


 その場所は、本来ならば毎年恒例の地域イベントが開催されるはずだった。
 だが、イベントを運営していた業者が持ち込んだ従魔によって、会場となる筈だった場所は破壊され、更地と化した。
 かけつけた警察が住民達を避難誘導し、HOPEより派遣された能力者達の尽力により、一人の死傷者も出さず、近くの公民館も守られ、従魔は退治された。
 そしてイベントに使用されるはずだった資材も、大半は破壊されたが能力者の努力で守られた物も多く、次の開催はそう遠い未来の話ではないだろう。
 また、従魔を持ち込んだ業者は能力者達の手で確保された重要な『証拠』をもとに警察に検挙され、その様子はマスコミにも取り上げられた。
 現在も警察は裁判に向けて業者を追い詰めている。そして以前依頼を遂行してくれた能力者達からの助言を受け、同じように従魔を使用しかねない業者がいないか関係部署の協力も仰ぎ、調べ上げていた。
 主な対象としては、人を使い捨ての道具とみなす『黒い』会社などだ。
 その結果、遂に『似たような話を持ちかけられた』との通報が寄せられ、警察は動き出した。


 通報主は調査対象だった『黒い』会社のうちの一つに勤める社員だった。何でも、話を会社に持ちかけてきたのは、地方議員の紹介という触れ込みで来た派遣会社の者らしい。
 商談を受け持つ担当部署と重役達はかなり乗り気だったようだが、別の部に所属するこの社員は、書類の決裁をもらう為に重役室を訪れた際、偶然この話を耳にして驚愕し密かに警察へ通報したとの事だ。
 例え会社の評判が黒いものであっても、全員が黒いとは限らず、中には良識を持つ人間も存在する。今回はその良い例だ。
 通報を受けた警察の対応は素早かった。関係部署やHOPEに連絡し、協力体制を構築後、直ちに会社へ乗り込んだ。
 詳細は省くが、警察とHOPEは会社内外で話に乗った人物達に、拒否した場合の未来と協力した場合の未来の話など、緩急を織り交ぜて絞り上げた結果、会社と議員は屈服し従魔を売り込みに来た男について白状した。
 会社が会社の証言や男の残した名刺をもとに身元を調べたところ、全て架空のものだったがこれは想定内の話だ。
 次に警察とHOPEは会社へ、従魔を売り込みに来た男を会社へ呼び出し、取引を継続させる芝居を打つよう命じた。
 無論、周囲に人員を配置して、取引の話に乗ってやってくる男を確保するためだ。ただし従魔を従える以上、より上位の存在である愚神の可能性は高い。
 そこで警察は、HOPEに愚神と思われる男を討伐する依頼を出す事にした。先の従魔退治で、地域の平和を守る事に貢献した能力者達に敬意を表した形だ。
 だが事態は思わぬ方向に変わる。
 

 会社の呼び出しを受け、やってきた男に、周囲で待機していた警察官達が取り囲み、任意同行を求めた。能力者達が駆けつけてくるまで時間を稼ぐための手段も幾重にもわたり講じてある。
 しかし警察の予想に反し、あっさり男は任意同行に応じ、取り調べに対しても、先に検挙された業者へ従魔を売ったことをあっさり認めた。
 そして今、男は警察署内で特別に強化が施された広い一室の中に、拘束衣を纏って座っている。だが拘束効果はないと、警官達はどこかで確信していた。
「私を倒す依頼を出すのなら、私からも報酬を用意しよう。従魔を売って得たお金の一部だ。ただし条件がある」
 その内容に警察は困惑し、直ちにHOPEへと依頼の修正と男からの『条件』を連絡した。


「警察より改めて依頼がありました。内容は『警察署内にいる従魔を売った男との歓談と退治』です」
 連絡を受けたHOPEの担当官は、寄せられた情報に困惑を抑えつつも、内容を読み上げていく。
「当初の予定では、取引を続ける芝居を会社ぐるみで行い、会社へ呼び出した男が愚神と確認でき次第、予め出ていた依頼をもとに退治する予定でした。しかし当の本人があっさり警察の求めに応じて連行され、自供して捕まっています」
 そして手元の機械で現在男がいる警察署内の見取り図を映し出す。図によれば、場所は建物一階の片隅で、真下にはかつて対集団戦を想定して使用された演習室と呼ばれる大きな空間がある。
「この部屋はヴィランを逮捕した際に使う目的で特別強化された場所で、通常ならば安全と言えるでしょう。しかし仮に相手が愚神である場合はその限りではありません。ここで従魔を売った男は皆様へ伝言を頼んだようです。内容は、次の文章です」
 画面が男からの言葉に切り替わった。
『私の問いに答えたら、1人1回だけ、私への質問を許可し、答えられるものは答えよう。私から問うのは1つだけ。君達は何故自分以外の何かの為に、命をかけて戦う事ができるのかね? 金の為なら他人の命など簡単に捨てる人間ばかり目にしてきたが、君達は違うようだから気になってね。その問答をもって歓談としよう。戦闘中でも構わない』
 戦闘中でも歓談するというのは、よほど勝つ自信でもあるのか、あるいは別の何かか。
「報酬ですが、諸事情がより少し多くなっています。男の言動などから、愚神と判断して間違いありません。男自身から自分の能力について警察に話があり、その内容も伝言として届いておりますので、説明します。ただ信じるかどうかの判断は皆様にお任せします。愚神相手の危険な依頼ですが、どうか第2、第3の事件を起こさぬ為にも、よろしくお願いします」
 こうして能力者達の努力は、ついに従魔を売りこみに来た存在との戦いへと辿り着いた。

解説

●目標
 従魔を売った男(愚神)を退治せよ

●登場
 とある地域のイベント会場で暴れた従魔を売ったと自供した男。愚神の可能性が高い。
 当人の話では「成ったばかり」。恐らくデクリオ級。
 外見上は身長1.6mの中肉中背でこれといった特徴のない中年の男。

『歓談内容』
 男からの能力者への問いは、以下の1つのみ。
 『君達は何故自分以外の何かの為に、命をかけて戦う事ができるのかね?』
 男への質問は1人1つまでだが、するしないは個人の自由。戦闘中でも可能。
 男は自分の目的や所感などは話すが、指示した存在の有無など自分以外や不利になる事は答えないとの事。
 能力は自己申告だが以下の3つ。

・操鞭術
 黒い金属めいた鞭状の武器を操る。射程5

・『乱舞』
 鞭を周囲に旋回させ、範囲内を激しく鞭が乱打する。範囲(5) 

・巨大化結界
 周囲に要となるものを配した結界を構築し、巨大化する。本人の申告では自分の身体が倍になりタフになる。要となるものを全て破壊すれば結界は消えるとの事。

●状況
 男のいる部屋:警察署内にある、ヴィランを捕縛した際に使用される隔離部屋。縦20m、横20mの正方形。周囲の壁は強化されているとの事だが……。
 真下にある空間は、かつてここの警察が集団戦を想定した訓練を行っていた演習室で、縦50m、横50m、高さ10mの大きさ。
 男の話では『広い場所での戦いが望みなら床をぶち抜いてその場所へ案内しよう。床の残骸で障害物だらけになるだろうが』との事。
 現在警察は、署内に最低限の人員を残し、周囲の住民達への避難誘導や道路の封鎖に向かっている者以外の全員で周囲を包囲中。

リプレイ


 その部屋は、壁や天井、床や一つしかない扉に至るまですべて白色で統一され、中央には白い拘束衣を着せられた、どこにでもいそうな中年男がパイプ椅子に座っていた。
 だがその実態は、とある黒い会社へ従魔を売りつけたとされる存在だ。
 先日その会社が『購入した』従魔がイベント会場で暴れ出した事件が発生したが、その際依頼を受けたH.O.P.E.に所属するエージェント達が従魔達を討伐し、被害拡大を阻止する事に成功している。
 そしてH.O.P.E.は警察へ重要な『証拠』を送り、警察は証拠をもとに『購入した』会社を検挙した。
 以後H.O.P.E.と警察は協力体制を築いたうえで様々な手段を駆使して、売り込んだとされる存在のもとまでたどり着き、ついに逮捕した。
 そして警察とH.O.P.E.はその存在から従魔を売った事を認める供述を引き出し、現在警察署内にあるこの部屋にその存在を拘束している。
 警察は、警察署建物内ならば、討伐に至るまでの戦闘で、署内が破壊されても問題はないとする誓約書をH.O.P.E.に提出したうえで、現在警察署内にいるこの愚神を退治する依頼を出した。
 しかし愚神よりH.O.P.E.宛に、依頼報酬を上乗せする提示と、ある提案を行われたので、微妙に依頼内容が修正される。
『君達は何故自分以外の何かの為に、命をかけて戦う事ができるのかね?』
 それは愚神からH.O.P.E.に向けられた問いであり、答えた者には1人1つだけ自分への質問を許し、その後戦う事が愚神からの提案だった。
 そしてその提案に応える能力者と英雄達が、警察署に残った警官達の案内を受け、愚神のいる部屋へと到着した。
 まず扉を開けて部屋に飛び込んできたのは右腕と右目を黒色で固め、衣服に蜘蛛の巣の紋様を散りばめた姿のカグヤ・アトラクア(aa0535)と、頭に獣の耳を思わせる寝癖をつけたまま、眠そうな表情のクー・ナンナ(aa0535hero001)だった。
 部屋に入るなり目の前に問題の愚神がいることに気付くと、愚神に向け、カグヤは愚神からの問いに対する答えを告げた。
「信じておるからじゃ。わらわが命を賭しただけ、この醜くも美しい世界がきっと今よりも素晴らしいものになり、楽しめるとな!」
 それこそがカグヤの偽りのない本心だから、愚神を満足させる内容であるかなど気にしない。どこまでも世界を愛し、己の意志に誠実な姿がそこにあった。
 続いて部屋に入ってきた、中世の貴族を思わせる装束を優雅に着こなし、高貴な印象を与えるフェルナ アルテミラ(aa1547)も答えを告げる。
「それがわたくしの誇りであり、生き方であり、未来ある方々に伝えたい願いだからですよ。戦う事で守るべき方々の未来を拓き、未来へ繋げられるよう守り抜く。それができるなら、わたくしの命など、惜しむまでもありません」
 事前にこの存在が引き起こした事件の資料を熟読した上での答えだった。
 誰かの明日へ、未来へ繋げるために自分は戦う。
 率直に前へ進む、剣のような姿と意志がフェルナの言葉から感じられた。
 そして外見上は幼さを残しながらも、顔に大きな傷が走り、歴戦の猛者の雰囲気を醸し出す紫 征四郎(aa0076)が、自分より大柄で、腕に何かの刺青が垣間見えるガルー・A・A(aa0076hero001)を伴って愚神の前に立つと『答え』を口にする。
「征四郎はこの世界が好きです。一緒にいてくれる人たちが好きです。だからこそ、征四郎は、征四郎が好きな全てを守りたいからです!」
 この世界では当たり前過ぎて気づく人はそう多くないが、明日が常に普通とされる日々になるとは限らない。その明日や普通の日常を、理不尽が何の前触れもなく現れ、踏みにじる事もある。
「征四郎は弱いかもしれません。甘いかもしれません。でも決めたことを曲げたくはありません」
 その理不尽に毅然と立ち向かい、明日や日常を取り戻す必要がある事を、征四郎は身をもって知っている。
「例え居場所がもう無いとしても。紫の姓を以って生まれた征四郎は! 征四郎の魂に真っ直ぐ応えて生きたいのです!」
 果敢に挑み、激しい勢いを持ってひたむきに『生きる』姿がそこにあった。
『変わった人だね』
『人じゃない』
『そうなんだけど! お話かぁそっかぁ』
 そんな会話を自分の英雄とかわしながら、最後の一人、木霊・C・リュカ(aa0068)が杖を片手に部屋に入って来た。
 カグヤと征四郎は友人あるいは親しい仲間でもあるリュカの歩みに手を貸し、リュカの英雄であるオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)もリュカの歩行を支える。
 リュカはある事情でサングラスで目を守り、肌を長袖を纏い光から身を守っている。
 そしてリュカは悩む仕草をして「まだ、戦い初めてから間もないから正直わからないっていうのが本音かな。ごめんね」と謝った上でこう告げた。
「戦わないとって思うとね。胸がぎゅっと痛くなるんだ。死にそうになっても戦わなきゃならないって時っていう時もこの先あると思うんだ。そこで命が惜しいって逃げたら、きっともっと胸が痛くなって、それがいつまでも続いて、死んでしまうかもしれないと思うんだ」
 死にそうな戦いというのは、恐らく誰かを、何かを文字通り命をかけて守り、救う為の戦いだろう。
 けれど、命惜しさに守る事、救う事ができる人達や何かを見捨てる事はできない。見捨てたら、いつまでも痛みが伴う後悔を続けてしまう。
 だからこそ自分は痛みを抱えながら戦う。
 それがリュカの出した答えだ。
 オリヴィエも愚神に近付き、己の答えを告げた。
「俺がそうすべきだと思ったからだ」
 他に理由などはない。簡潔だが揺るがぬ意志がそこにあった。
 一連の答えを聞いていた愚神は満足げな笑みを浮かべた。
「素晴らしい。やはり君達は違う」
 そう言うと、愚神は事もなげに拘束衣を引きちぎり、能力者と英雄達に向き直った。
「君達からの質問への答えは戦いながらお届けしよう。この部屋と広い場所、どちらで戦うのがお好みかな?」
 愚神からの問いに、退治する全員は異口同音に『広い場所』と答えた。
「では質問と戦闘準備を。全て終わったら、広い場所へご案内しよう」
 そして5人からの質問を受け、共鳴化を果たした4人の姿を確認した愚神は、リュカが発した己の名を問う質問のみ最初に答えた。
「私の名はエスクロ。ではご案内しよう」
 そう言うと愚神は鞭を顕現させ、振り上げる拳に纏わせると、床に拳を打ちこんだ。
 愚神が殴りつけた場所から急速にヒビが床全体へと走り、がぼ、という奇妙な音と共に床が割れた。
 すさまじい勢いで床が揺れ、やがて悲鳴を上げて床がごっそりと抜け落ちる。
 そして4人と愚神は一瞬浮遊感を感じた後、無数の瓦礫と化した床の部品、轟音と粉塵を伴って、真下にある『演習室』へと落下した。


 かつては集団戦を想定して作られた広大な空間、『演習室』に、無数の瓦礫が降り注いだ後、4人と愚神が降り立つ。
 髪と肌、体の主導権はオリヴィエに譲り、瞳は金木犀を思わせる赤金色に変え、ホルスターとグローブが付随する姿となったリュカ。
 ガルーの助けを得て、瞳はガルーの色で、傷はそのまま残るが、己が理想とする騎士然とした凛々しい雰囲気の青年の姿になった征四郎。
 そして共鳴化してもそのままの姿を保つ、カグヤとフェルナの4人はいずれも己が最善と思える位置に動き、愚神と対峙する。
 その空間には先程まで自分達がいた上の部屋に残る照明の光が差し込むだけだが、それだけの光源があれば、共鳴化して動体視力が向上した4人の戦闘には支障ない。
 まず動いたのはカグヤだった。
 まるで太いワイヤーのような鞭を愚神が動かしたのを見て、カグヤは武器をバラの名を冠する鞭に替えて、愚神へと叩き込むと、愚神は鞭を盾にしてこれを防いだ。
 両者の鞭が激突し、カグヤの強靭な意志と、愚神の意志が互いの鞭となって絡み合う。
「君から受けた質問に答えよう。少なくとも私はそんな方法は知らない」
 カグヤからの質問内容は『愚神と誓約させ、英雄化させる方法を知らぬか?』だった。
『そちらにとっても人類と敵対することなくこちらの世界に顕在出来る様になって得なはずじゃから、知ってることを答えよ』
 不満げなジト目で自分を見つめるクーのことなど気にせず、カグヤは愚神へ質問の意図も告げていたが、知らないとの答えにカグヤは内心不満を漏らす。
 そこへカグヤを援護すべく、青年姿となった征四郎が一気に間合を詰め、紡錘状の赤黒い槍を突き出し、愚神の体に叩き込む。
「何故こんなことをするのですか? 私達のことを知って、どうするつもりなのですか!」
 先程愚神に問いかけた言葉を征四郎が再び放つと、愚神は視線をカグヤから外さず、声だけ征四郎に届けた。
「単純に興味がわいたからだ。金の為なら他人のライヴス、君達で言うところの『命』を平然と捨てる人間達ばかり見てきたが、君達はやはり違うからね。その意志を確認したかっただけだ」
「征四郎、カグヤ。俺から視線を外せ」
 不意に愚神の背後から男の声が響き、愚神は振り返り、征四郎とカグヤは視線を外す。
 愚神が振り返った先で強烈な光が炸裂し、愚神の視界を奪った。
「俺からも、もう一度聞こう。お前は自分以外の何かの為に、命をかけて戦おうとしたことはあるのか?」
「今まさにしているところだよ」
 強引にカグヤと征四郎の武器を振りほどいて、おぼつかない足取りで距離をとりながらも、愚神はオリヴィエに向けて、そう答える。
「それはどういう意味でしょう? あなたがエージェントに質問をした理由も含めて、お聞かせ願えますか?」
 いつの間にか愚神へ接近したフェルナが、そう愚神へ問いかけると共に、フェルナのクレイモアが愚神の鞭を握る腕へ襲いかかる。
 フェルナの斬撃は征四郎の行動に合わせた形だが、フェルナの刃は愚神の腕に喰らいつき、無視できないダメージを与えた。
「質問は1つだけと言った筈だがいいだろう。君達に質問をした理由は既に述べた通り、単に興味がわいたからだ。そして私がここで戦う意味と受け取っていいのかな? それは『君達から得た考え方を参考にして、金でライヴスを買う手段を増やす為』だ」
「金でライヴスを買うじゃと?」
 そうカグヤは問いを重ねるが、魔法の剣を射出して愚神を攻撃する手は緩めない。
「私が知る限り、人間達は金の為なら平気で他人の命を使い捨てにする。ならばその人間達に金を払えば、連中は使い捨てにする命を私に売る筈だ。そう思わないか?」
「思うわけないじゃろう」
 カグヤから放たれた魔法の剣が己に命中しても愚神の言葉は淀みなく、その鞭の動きが急激に変化する。
「歓談は以上だ」
 次の瞬間、鞭の残像をまき散らしながら、愚神の鞭の猛連打が周囲にいた4人に襲いかかった。


(怖いか? 震えるか? 大丈夫だ征四郎。2人なら怖ぇもんなんざねぇからな)
 前後左右から軌道を変えて襲いかかる愚神の鞭を、征四郎は周囲にある障害物と化した残骸の間を駆け抜け、残骸を盾にして防ぎながら鞭の間合から退いていく。
「お相手しますよ。あなたにも目的があるように、わたくしにも願いがありますから」
 フェルナは仲間達に殺到する鞭の猛攻の前に強引に割り込むと、クレイモアを振るって鞭を迎撃するが、鞭を全てさばき切れず、ダメージが蓄積されていく。
 ふと猛攻を続ける鞭が、狙いを逸らしてフェルナの横にずれる。その隙を逃さずフェルナは鞭の間合から離脱した。
「よし。これで全員、鞭の間合から離れる事ができたな」
 鞭の射程外まで退く事ができたオリヴィエが、自分の威嚇射撃で愚神の猛攻が緩んだことを確認すると、さらに狙撃を続け、仲間達を援護する。
 ようやく鞭の猛攻から離脱できた征四郎は、味方が退く時間を稼いだフェルナの負傷をケアレイで治療する。
 愚神は4人を鞭の間合へ入れようと駆け出すが、カグヤから飛来した魔法の剣が愚神の頭を穿ち、愚神はよろめいた。
「わらわを無視するな。ついでじゃから質問を続ける。適当に答えよ」
 愚神はカグヤの言葉に答える事なく、懐から光る珠のようなものを取り出すと、床へと叩きつけた。
 光る珠は床に衝突すると細かく砕かれ、その破片が周囲へ転がっていく。
 すると破片のうち8個が急速に膨れ上がり、2m程の高さの黄色の石板と化す。そして8個の石板がゆっくり浮かび上がり、愚神の周囲を周り始めると、愚神の体もまた大きくなり始めた。
「あれが巨大化結界と要ですか。わかりやすくて助かりますが」
 フェルナはカグヤに治療の御礼を述べると、仲間達が要を破壊する時間を稼ぐ為、愚神のもとへと疾駆する。
 巨大化した愚神の振るう鞭は、もはや送電鉄塔に繋がれた送電線並みの太さだったが、鈍重になるという代償もあったようで、フェルナは愚神の攻撃をかわしつつ、着実にクレイモアの斬撃を愚神へ刻み続ける。
「確かにわかりやすいが、確実に破壊していくとしよう」
 オリヴィエは集中して感覚を研ぎ澄ませると、狙撃銃を唸らせ次々と要を射抜き、その先ではカグヤが光り輝く扇子を振るい、征四郎も武器を黒い拳銃に替えて、要に銃撃を加え続ける。
 そして最後の要が破壊された時、愚神の体は急速に縮み、元の大きさになると、愚神は両膝をついた。
 それを見逃す4人ではなく、オリヴィエは照準を愚神に切り替え、銃声と共に銃弾を愚神の鞭を持つ手に喰らいつかせ、フェルナの切り上げが鞭もろとも、愚神の腕を宙に飛ばした。
「ここまでか。だが忘れるな。お前達人間が金の為に他人の命を使い捨てにし続ける限り、『私』はまた現れる」
 それが愚神の最期の言葉だった。
 カグヤの振るう魔法光を伴う扇子とライヴスのメスが同時に愚神の頭を穿ち、さらに征四郎のブラッディランスが同じ場所を貫き、ついに愚神の頭を粉砕した。
「死ぬのはとても怖いことです。でも必要としてくれる人達がいるから、その人達に助けられているから、私はもっと強くなりたいと思うのですよ」
 征四郎は光の粒子となって消えゆく愚神へそう告げた。


 かくして従魔を売った愚神は、能力者と英雄達の尽力により討伐された。
 破壊された部屋だが、後日問題なく修繕されたらしい。
 こうして一連の事件は無事解決に至り、地域には平穏な日々が取り戻された。
 「楽が出来るなら、英雄が増えてもいいんだけどね」
 愚神への質問で発したカグヤの言葉にクーは未だ不満があるらしい。
「わらわの相棒はクーだけじゃぞー」
 そんなクーを後ろから抱きしめて、カグヤはクーの機嫌を直そうと努力していた。
 フェルナは討伐の後、他にもこのような愚神がいないか再度調査してくれるようH.O.P.E.にお願いした。
 金の為なら他人の命を使い捨てにする人々がいる限り、再びこのような愚神が現れるかもしれないから。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • エージェント
    フェルナ アルテミラaa1547
    機械|70才|女性|攻撃



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