本部

恭佳のアングルード

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/06/12 15:17

掲示板

オープニング

『……よくこんなに散らかしましたね』
 エイブラハム・シェリング(本名ウォルター・ドルイット)は部屋を見て溜め息をつく。そこはH.O.P.E技術班の内で仁科恭佳に割り当てられた個人的な研究室。時折作り出す天才的な発明品に期待されて割り当てられたのだが、今やガラクタが乱雑に置かれた物置のようになっていた。段ボールにガラクタを押し込みながら、助手の青年は溜め息をつく。
「気付いたらこんな事になっていたんです。一週間くらい前までこのような状態ではなかったのですが」
「姉さんが悪いんだよ。二か月もしみったれた感じでやきもきさせてさぁ。バックドラフトみたいなもんだよ、これ」
 当の本人は悪びれもせず無い胸を張っていた。澪河青藍は溜め息交じりにがっくりと肩を落とす。
「んな事言われても……というか、よくこんなに役立ちそうもない物ばっかり作ったな」
「役に立たない!? 何を仰る! この私が作った物が役に立たないなんて事ないし! ほら、見なさいよこれ」
 恭佳はいきなり段ボールの中に押し込まれていた軍刀を手にする。鍔が妙な形だ。
「これ、厨二式軍刀! かっちょいーい必殺技名を登録しておく事で、それを叫びながら放つと威力が高まるんだぞ!」
「最初から統一された威力が出せるようにしとけよ! なんで一々叫ばにゃならんのだ!」
 すかさず青藍が突っ込む。その横ではエイブが口の異様に広い銃を手にしている。
『それで、この喇叭銃は一体何です?』
「おお、良くぞ聞いてくれました。これは『ぱーぷーラッパガン』。所有者の精神力を犠牲に威力を極限にまで高めた銃よ」
「はぁ。精神力が犠牲にって一体どんなレベルよ。つーかそんな言葉使っちゃだめでしょ……Fワードと大して変わらないでしょそれ」
『一度試したのですが、ライヴスの流れが全部この銃に持っていかれてしまってスキルを使うどころじゃありませんでしたね』
 恭佳の英雄ヴィヴィアンが困ったような笑みを浮かべて応える。青藍は溜め息をつくしかない。
「それじゃ強くたって仕方ないじゃん……」
『あ、でもこれは面白い効果になりましたよ。回避適性の青藍さんにはもってこいです』
 ヴィヴィアンが青藍に小手を差し出す。受け取った青藍は首を傾げ、忌々しそうな目を恭佳に向ける。
「これは?」
「名付けてスカイクラッド。その名の通り、身軽であるほど加速度的に動きが軽やかになる力を持っているのだ」
「……何だか引っかかる言い方だけど?」
「外気から直接ライヴスを取り込む仕組みだから……ま、有り体に言えば脱ぐほど強くなるよね」
「バカ! ……え、あ……バカッ!」
 青藍の頬にさっと朱が差し、ヴィヴィアンを押し倒す勢いで小手を突き返す。
「何つーもんお勧めしてんだアンタぁッ! 戦場で裸になるバカがどこにいるんだ!」
『ご、ごめんなさい』
「気にすることないよぉ。自分のスタイルに自信が無くて、海に来ても水着の上からパーカー羽織ってパラソルの下でじっとしてるような奴なんだからこの人」
「うるせぇなぁ! 自分の事棚に上げやがって!」
「私はこの貧乳というステータスについて存分に誇りを持っている。何の憂いも無い」
「ぐが、ああああッ!」
 煽られて苛立ちがピークの青藍が精神半壊している横でエイブは冷静に冷や汗を垂らす。
『というより、あの、要するにご自分で試したんですか……?』
「そうだけど?」
「お姉ちゃん悲しいよ! もう二度とそんなモン作るな! ……ねえ、これは何ですか? これは」
 青藍はテンションが一周して飛び切り冷めた口調で尋ねる。その手には青い杖が握られていた。
「ん? それはあれよ、『氷結の言霊』」
「いや、言われたって知らんがな」
「寒いギャグを言えば言うほど氷のパワーが上がるのだ」
「まぁたベタなモン作りやがって。ある意味凄いけどさ……総合するとガラクタじゃんか……」
『何だか周囲にも悪影響が出そうですねぇ……』
 エイブは力なく笑う。青藍は舌打ち一つ、ぽいぽいとガラクタを段ボールに放り込む。
「いいから片付けるぞ。部屋こんなガラクタ屋敷にしてるなんてしれたら、上の人になんて言われるか……」
「あああっ! 待って待って待って! せめて、せめてこいつらを日の目に出してやりてえんだぁ……」
「どんな口調よ。ったく。そんなん付き合ってくれる人どこにいるのさ――」


――君達がいた。君達は面白半分か何かで恭佳に供与された武器を取り、アメリカにある一高原を訪れていた。その地ではどうやらUMAとして有名であり続けたチュパカブラが従魔となって登場し、周囲の動物を散々に食い荒らしているらしい。目的は単純、そんな従魔を駆除する事だ。

――是非とも、使ってみてくださいね。是非とも! ゴミになる前に戦場で活躍しているところを見たいんです!

 とか何とか言っていた恭佳さえいなければ。どう見ても、どう聞いてもガラクタだ。戦場で一線を張るグロリア社のAGWには敵わない。だが、特に大した任務でもないのだ。
 使ってやろう。君達は仕方なく渡されたジョークアイテムを起動し、目の前に現れたチュパカブラに向かい合った。

解説

メイン 山中に現れた従魔を倒せ
サブ 恭佳の提供したガラry……武器を使え

エネミー
チュパカブラ×4
 高原に現れたJUMA。吸血ついでにライヴスを吸いつくして周辺の生態系を壊滅させつつある。渡された武器が武器だが、早急に排除すべし。
・脅威度 デクリオ級
・ステータス 回避B、その他C以下
・スキル
 吸血
  単体、物理。命中時、与えたダメージ分体力を回復する。
 身軽
  パッシブ。このキャラは転倒しない。

支給武器
1.厨二式軍刀×2
厨二的絶叫により威力アップする剣。声の大きさが大事。
(物攻+0。プレイングにより+150まで上昇する。)

2.ぱーぷーラッパガン×2
強力だが使用中は興奮して集中ができなくなる喇叭銃。射程も短い。
(物攻+300、射程0~10sq。ただし装備中はBS封印が付与。解除不可。)

3.スカイクラッド×2
装備者が裸に近いほどステータスを上げる手甲。全裸はやめよう。
(物攻+50。防具スロットが一か所空く毎に回避+50。プレイングで+300まで上がる。)

4.氷結の言霊×2
寒いギャグを氷の威力に変換する杖。マイクに吹き込むとAIが勝手に判定する。
(魔攻+0。プレイングにより+200まで上昇するが、40上昇するごとに周囲の特殊抵抗を-1下げる。)

フィールド
・林 まばらに木が生えている。武器の利用を阻害するほどではない。広さも十分。
・日中 明るい。命中回避に補正無し。

開始位置
・チュパカブラの群れを発見したところからスタート。

Tips
・支給された武器を使う必要はない。まだレベルが低いなどで付き合ってられない場合は自前の武器で対応しよう。
・裏技的にその能力を引き出す事も可能。試行錯誤してみても良い。真正面から面倒くさい効果をその身に受けるのも良い。
・支給武器を使用した場合、後で恭佳に感想を言う事で何かあるかもしれない。
・リプレイに青藍は出て来ない。

リプレイ

●おバカ行進曲
「カイちょっと落ち着いてよ!」
『これが落ち着いていられるかよ! チュパカブラだぜ! UMAだぜ!? やっぱ存在したんだすげえ!』
 叫びながらカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)はバシバシスマートフォンで写真を撮り続けている。御童 紗希(aa0339)の静止などお構いなしだ。
『この動画SNSに投稿したらすっげえ話題になるんじゃ……いや、TV局に売り飛ばしたらすげぇ金になるんじゃ……? いやいや。動物園もありだ。何とか生け捕りに……』
「ダメだよ! 退治しろって言われてるんだから!」
『お前もうちょっと世の中知ろうぜ! 一攫千金のチャンスだぜ!』
 一応茂みに隠れている最中なのもお構いなしにぎゃーすかやっている二人を、白虎丸(aa0123hero001)はじっと見つめる。被り物の耳をぴくつかせ、首を傾げて虎噛 千颯(aa0123)に尋ねる。
『らしいでござるよ。千颯の財布の足しになるなら、やる価値ありでござらんか?』
「ないない! カイには悪いけど、本物じゃないんだから撮ったって仕方ないんだぜ……」
『むむ。残念でござる……それはともかく、お前は何故脱いでいるでござるか?』
 白虎丸の目がぱちくりと動く。既に千颯は上も下も脱ぎその肉体を外気に晒していた。
「安心してください、履いてますよ!」
 翻る褌が光を浴びて白い輝きを放つ。白虎丸は吼えるしかなかった。
『そういう問題では無いでござる!』
 その吼え声に、バイソンの血を啜っていたチュパカブラ達はくるりと振り返った。きぃきぃ鳴きながら、エージェント達を指差し何やらやり取りしている。もう隠れている意味も無い。沢木美里(aa5126)は浅野大希(aa5126hero001)と共に茂みを飛び出す。その手に握られているのは、握りがニスでつやめく喇叭銃。
「変な武器らしいけど、使っても大丈夫かな」
『でも、使おうと思って来たんじゃないの?』
 大希は美里に尋ねる。美里はほんの少し頬を赤くし、小さく頷く。
「ちょっとだけ好奇心があって。あと、従魔が暴れてるんだったらなんとかしないと!」
『人助けも兼ねてちょうどいい、と』
 ほとんど娯楽のような依頼だが、それでも美里は人助けという大義を忘れない。健気な彼女を誓約相手として所有している。その事実を確かめ今日も悦びつつ、大希は美里と共鳴した。
 その途端、手にした喇叭銃に埋め込まれた宝石が光を帯びる。ライヴスが強引に増幅され、思考が砕けた。チュパカブラがそんな彼女に向かって迫る。その頭でっかちで不釣り合いな外見を改めて見た美里。その腹がふいに捩れた。
「ふ、はははははっ! 何これ! キモッチワルーイ!」
 高笑いしながら引き金を引く。小粒の弾丸が飛び散り、一体の胸にぶち当たった。エージェントとしてはまだ駆け出しでも、正気を犠牲にした攻撃は強力だ。チュパカブラは悲鳴を上げながら吹っ飛び、仲間と共に折り重なって倒れてしまった。美里はそれを見降ろし再び高らかに叫ぶ。
「ナイスストライク!」
『ああああっ! チュパカブラがッ! 金稼ぎのチャンスがッ!』
 それを見ていたカイは頭を抱えようとするが、どうにも身体が言う事を聞かない。籠の中に閉じ込められてしまったような感覚だ。
「……むふ……何だろ。これ見てると、ムラっとクる……」
 それもそのはず、紗希がカイを意識の奥に押し込めてしまっているのだ。妙に蕩けた目をして、喇叭銃を持たない方の指を咥え、じっとチュパカブラを見つめている。それに気づいたカイは慌てる。紗希の左目の光が揺れた。
『おいマリ落ち着け! ナニ興奮してんだよ!』
「あぁ……。この溢れる愛! 語らずにおくべきか!」
『待てよ! 俺を差し置いてそんなんないだろ! よく見ろよあんなん[注:チュパカブラはグレイ型宇宙人っぽい外見なのだ!]だぞ!』
 カイはしめやかに(大っぴらに)想いを寄せる紗希の暴走を止めようと必死になる。だがその努力は全くの無意味だった。
「でもっ! あたしはエージェントで、あれは従魔……あたしたちの愛に多分未来はないの……だからせめて、あたしの手で……」
 紗希の髪の毛がふわりと逆立つ。喇叭銃を上げ、その銃口を起き上がったチュパカブラに向ける。目がかっと見開かれ、口裂け女もかくやの如く歯を剥き出しにして紗希は叫んだ。
「あたしの手で死にッ! いたらしめるッ!」
『(あーあー……)』
 散弾をぶちまけながら、紗希は突っ込む。カイおじさんはもう見てられない。
『(普段が普段なだけにタガが外れるととんでもない所に行くなマリは……)』
「いざ進めカイレマリエル♪ 任務の日はやってきた♪ 我らに対し愚神の♪ 血塗られた軍旗は掲げられた♪」
 仏国歌の替え歌を高らかに歌いながら、紗希はチュパカブラの横っ面を殴りつける。カイはひっそりと匙を投げるのだった。

●凍るマントラ、燃える厨二
「っと、受け取ったはいいものの、俺ちゃんオヤジギャグとか苦手なんだよなー」
『そもそも、おやじぎゃぐとは何でござるか?』
 褌一丁、虎の尻尾を揺らしながら千颯は首を傾げる。その隣で杖を握りしめるは卸 蘿蔔(aa0405)。目がきらきらしている。レオンハルト(aa0405hero001)は既に呆れていた。
「私も端くれといえどアイドル……言葉遊びは良くします。ああ、でも……困っちゃいますね。面白くしたら威力が低くなってしまうんでしょう?」
『(やれやれ……)』
 どうにもテンションが高止まりしている蘿蔔。早速杖の柄元に備え付けられたマイクを口元に近づける。
「ソース噛んで総すかん! 中国にいっちゃいなー! 燭台壊してショック大!」
「グワーッ!」
 不意に杖が鋭い冷気を帯びる。軽く振るっただけで鋭い氷柱の刃が飛び、チュパカブラの固い皮膚を易々と切り裂く。
「アバーッ!」
 しかし仲間も断末魔の叫びと共に倒れ伏す。絶望的な脱力感に支配されていた。蘿蔔は口をとんがらせて叫ぶ。
「お、面白いと思ったのにっ。……というかどうして皆さん倒れてるんですか!」
『(どうやら、面白いと思っているのは蘿蔔だけのようだ)』
「くっ……!」
「……こ、これなんだぜ。これがオヤジギャグさ……」
 杖を頼りに立ち上がり、千颯は呻く。一児の(二児の?)父とはいえまだまだ若い彼は堪えられない。

 だが、白虎丸はオヤジであった。

『ふむ……掴んだでござる。父さんが通さんぞ、とか言う事でござるな』
「はぁぁ」
 千颯は白虎丸の呟きに鳥肌を立てる。
『虎噛だけに、虎にとらいでござるな!』
「ひぃ」
 杖も千颯も蒼くなる。
『そういえばこの間急に魚が出てきてギョッとしたでござるよ』
「ふぅっ……」
 千颯は堪えきれずによろめく。相方の異変を白虎丸は訝しんだ。
『さっきからどうしたでござるか?』
「寒すぎる……」
『全く、そんな恰好でいるからでござる。自業自得でござるよ!』
「違うわ! 白虎ちゃんのが寒すぎるんだぜ!」
 やけっぱちになって千颯は杖を振るう。飛んだ氷の刃は一体のチュパカブラの腹にぶっ刺さった。悲鳴を上げながら、その一体はその場に崩れ落ちる。魔法が苦手な二人にすれば壮絶な戦果だ。しかし白虎丸は唸った。
『何だか釈然としないでござる……なら、これはどうでござるか?』
 隣の家に囲いが出来たでござるよ。へー。このおれんじ誰のでござるか? おれんちの。アルミ缶の上にあるみかんでござる。電話しても誰もでんわでござる……
 ギャグの連呼。その度に仲間達は脱力する。世良 霧人(aa3803)はにこにこしているエリック(aa3803hero002)の裏でがたがたと震えていた。
「(えぅ……は、半分オモチャみたいな物ばっかりと思ってたけど……)」
『へぇっ。面白そうなだけじゃなくて威力も本物か! こりゃいいや』
 エリックは軍刀を振りかざし、一体のチュパカブラに狙いを定める。
『えーっと、何かカッコいい事を叫びながら使うと強くなるんだっけ?』
「(らしいね……)」
『なら……よし、思いついた』
 剣を振り回して逆手に持ち替え、鍔元のマイクに向かってエリックは高らかに叫ぶ。
『行くぜ……ドッペルゲンガースラッシュ!』
「(な、何だそのネーミングセンスは……!)」
 エリックが宙に跳び上がった瞬間、その身体は二つに分身する。揃って前方宙返り、遠心力を載せて叩きつける。
「キィーッ!」
 チュパカブラは顔面から草原に叩きつけられる。最早鈍器な切れ味だが、確かに強い。土に頭がめり込み、従魔がもがいている。
「(……すごい。すごいけど、別にこの武器である必要が無い感がもっとすごい……!)」
『そんな事言うなよアニキ! ……と言っても、この武器一発屋な感じだしなぁ。……そうだ。おーい、そこの人ー。スズシロって言ったっけー?』
 早くも厨二式軍刀に見切りをつけたエリック、遠くで杖を振り回している蘿蔔に目を付け駆け寄っていく。
「は、はい? 何ですか……? って! 危ないです!」
 突然声を掛けられ戸惑う蘿蔔だったが、そんな彼に向かって突っ込んでくるチュパカブラに気付いて目を見張る。
「ああ! エリックさん狙われてる! 敵が二時の方向からにじり寄ってます!」
『え、うわっと』
 エリックは脇から突っ込んできたチュパカブラを躱す。勢いそのままに従魔はさらに突っ込んでいき、ラリサ リリエンソール(aa4857)の肩口に噛みつく。ラリサは顔を顰め、軍刀を振るってどうにかチュパカブラを跳ねのける。
「ち、力が抜けて戦いになりませんね……子供の思い付きに付き合ってここまでの物を作るなんて。大人の愛と寛大さに涙が溢れそうな美談です。傍迷惑な話で私としては全く泣けませんので、代わりにローズマリーが泣いてあげてくださいね」
――違うんです。それを思いついたのも、そして作ったのも、ラリサ様の一つ年下の女性でして――
 ローズマリー(aa4857hero001)は必死に思いを伝えようとするが、彼女の言葉は喩え共鳴していても伝わらない。ラリサが知るのは相方が抱くバツの悪い感情だけだ。
「……どうしたのですかローズマリー。異議があるとでも言いたげですが」
――大したことではありませんが……――
「とはいえ、任務を受けてしまったのですから仕方ありません。この『厨二式軍刀』とやらを振るうとしましょう。わかっていますねローズマリー。貴方が頼りです」
――はぁ――
 全くわかっていない。しかし言葉の意思疎通が効かないのを良い事に、ラリサは強引にローズマリーを押していく。
「何だか気乗りしない様子ですね。まじめにやってください! これは生態系を守るための真面目な依頼なのですよ。命名も武器の性能を高めるための大事な儀式ではありませんか!」
――それほどのものではない、と思いますが……そこまで仰るのなら――
 相変わらず気乗りしない調子でローズマリーは念を送る。『教会騎士団奥義 ブレイクカルマ・クロスエアスパイラル』と。伝わる気がしなかったが。
「ふむ? 本当にその名前でよろしいのですね。……ならば私に文句はありません。行きましょう! 教会騎士団奥義! 分福茶釜クロスエアスパイラル!」
――なんでそうなるんですかぁっ!――
 案の定、彼女は自信たっぷりに間違える。ローズマリーは声にもならない叫びを上げる。全身のバネを生かした鋭い突きが、派手に敵を吹っ飛ばしてしまったのもまた悲しい。
「……どうしましたローズマリー。……ああ、やはり槍の奥義を軍刀で繰り出す事に違和感が拭えませんか。しかし耐えてください。私達はこの自然を守るためにも、『教会騎士団奥義! 分福茶釜クロスエアスパイラル』と叫び続けなければいけないのです」
――もしかしてわざとやってはおりませんか?――
 半ば恥ずかしさで泣きそうになりながらローズマリーは呟く。そんな彼女の想いがようやく届いたか、ラリサは首を傾げる。
「はぁ。名前が違う、と仰りたいのですか?」
 ローズマリーは心の中で何度も頷く。ラリサは一瞬目を見張ったが、それだけだった。
「……いえ。既に登録は完了してしまっているのです。こうなったら開き直って、世界に響かせるように叫ぼうではありませんか! 多少名前は違えど、大地を護らんとする気持ちに違いはありません!」
――どうして……――

●裸一貫悟りを開け
「嫌だよ! 絶対脱いだりするもんか!」
『嫌にゃ! 何でよりにもよってこれを選んだにゃ!』
 一方、遠巻きでもぞもぞして動こうとしないエージェントが二組。シーエ テルミドール(aa5116hero001)と共鳴したエスト レミプリク(aa5116)と、音無 桜狐(aa3177)と共鳴した猫柳 千佳(aa3177hero001)である。彼らが共に身に着けた武器はスカイクラッド。そう、脱げば脱ぐほど強くなるという、薄い本の為にあるかのような武器なのだ。主に表へ立つエストと千佳は強硬に拒絶の姿勢を見せている。当然だろうが。
『いいじゃなーい。面白そうでしょ?』
「面白いとかいう問題じゃねーだろ!」
 いつもながらの悪戯っぽさを発揮するシーエに、すかさずエストは噛みつく。
「そうじゃ……このままじゃなーんにも、心地が変わらん。ほれ、覚悟決めぬか。……脱げば脱ぐほど強くなる……必殺の脱衣格闘術、今こそ見せるときじゃー……」
『うー、自分じゃないからって気楽にゃね!? そんな格闘術知らにゃいし、なにより……えっちなのはいけないとおもうにゃ!』
 完全にわかっててやってる桜狐に向かって千佳は叫ぶ。しかし桜狐はのらくらと躱してしまう。
「仕方ないじゃろ……わしらの戦い方に合うのは、これしかないんじゃから……ほれ……みんな武器に振り回されて、このままじゃ戦いが終わらん」
「むぐぐぐ」
 エストと千佳は戦場を見つめた。

『布団がふっとんだー!』
『猫が寝転んだでござる』
 エリックと白虎丸は口々にオヤジギャグを飛ばし続けている。

「分福茶釜!」
 ラリサは叫びながら闇雲に刀を振り回している。

「必殺技、必殺技……ええいこれです! ティロ――」
『それだけはダメ!』
 蘿蔔はレオンハルトに止められている。

「ひゃっはぁ!」
「ひゃっはぁ!」
 紗希と美里はもう何とも言いようがない。肩を組んで歌いながら天に空砲をぶっ放している。

『……こ、こうなったら覚悟を決めるにゃ。さっさと倒れるにゃー!』
 最早チュパカブラを相手にしていない惨状を前に、千佳はとうとう覚悟を決めた。まずは靴やら手袋やら脱ぎ捨て、ぽかんとしているチュパカブラに突っ込んでいく。
『喰らうにゃ!』
「キェーッ!」
 鋭いパンチ。しかしチュパカブラは咄嗟にそれを躱し、逆に千佳を蹴飛ばしてしまう。
『うにゃっ』
「……覚悟がたらんのう」
『こ、こうなったら!』
 千佳はさらに服を脱ぎ棄て、彼シャツ状態で突っ込んでいく。

『ねぇ、エスト。ちょっと思ったんだけどぉ』
「……なにさ」
『エストが嫌だと思っても、わたし達じゃこんな事出来ちゃうのよねぇ』
 一方、未だ脱衣を渋っているエストだったが、ついにシーエが動き出した。二人の姿が混ざり合う境界面が揺らぎ、エストの腕がシーエの物へと変わっていく。そしてその腕は勝手にドレスの袖に掛かり、思い切りよく脱いでしまった。
「おぉい! 勝手に脱ぐなよ! というかちょっと待って! なんで堂々と君の部分を晒してるの!」
 シーエはドレスを脱ぎ捨て下着も何もない上半身を露わにしている。二人は主導権を握っている箇所が己の姿になるという珍しい共鳴の形式を取っているのだが、つまり今は少女の幼さが残る胸が露わになっているわけである。シーエは慌てて右腕の主導権を奪い取り、胸元を覆い隠す。
「ふざけんなよ! 女の子なんだからやめなさい!」
『まぁ。女の子みたいなポーズになってるわよぉ?』
 エストが必死に右腕の主導権を固守している間に、シーエは左腕の主導権を奪って下の下着に手を掛ける。
「待てよ! そっちはどっちにしろダメだから!」
『これも経験よぉ?』
「バカ! ったく! なぁにが『新装備の性能試験』だよ! 騙しやがって!」
 シーエを止めるのに必死でもうエストは戦いにすら参加できない。

「……何しとるんじゃあいつらは……ほれ、こっちで決めてしまうぞ」
『うにゃー! 恥ずかしいけどこれでどうにゃ! これ以上は色んな意味で無理にゃよ!』
 上のシャツも脱ぎ捨て、大陸の風が巻き上げる葉で青少年の何かが危なくなる部分を隠しながらチュパカブラに突撃する。文字通り風と一体化した彼女は、本物の猫よりも俊敏にチュパカブラの攻撃をかわし、拳をその脇腹に突き立てる。
『もうお嫁に行けないパンチにゃ!』
「グェーッ!」
 カウンターばりに一撃が入った従魔は、呻きながらすっ飛んでいく。その先には裸を隠そうとおたおたしているエストが。
「くそっ! それならこっちは何とかお嫁に行かせるパンチ!」
 エストは身体を捻り、何とかその身が隠れるようにチュパカブラの頭を殴りつける。偶然にも決まった連携を浴びて、チュパカブラはその場に倒れた。
「や、やった……」

 それを遠巻きから眺めていた漢が一人。
「……やっぱりあれだ。あれが、オレちゃんの魂を昇華させる至高の神器なんだぜ……」
『何をじろじろ眺めているでござるか』
 絵面だけを見れば裸の少女に鼻の下を伸ばしているエロい兄ちゃんの図だ。しかし今の千颯は裸を見たいのではない。裸になりたいのである。千颯は飛び出し、二人に向かって呼びかけた。
「おーい! その武器、オレちゃんに貸してくれ!」

●JUMAもドン引き
「いいですとも! こんなものこうしてやりますよ!」
 千颯に向かってエストがスカイクラッドを投げつける。代わりに杖を投げて寄越し、千颯はついに神器を手にする。
「全く……罪深い装備を作っちまったもんだぜ……」
『千颯。もうこれ以上脱ぐ必要は無いでござろう?』
 散々ギャグで暴れ倒した白虎丸だったが、突如として目を輝かせる千颯を感じてようやく我に返る。だが、既に千颯が正気じゃない。
「この武器こそ、フルオープンパージャーたる俺ちゃんに相応しいんだぜ! 今こそ! 俺ちゃんは完全開放して風になる!」
 千颯はさっとその手を褌に伸ばす。
『だから! 褌すら脱ごうとするな! この馬鹿者――』
 怒鳴ってももう遅い。大陸の風に吹かれ、褌は空へと舞い上がった。

 ああ……この開放感、爽快感、そして全てを受け入れる抱擁感! これこそ完全開放者が完全開放者たる所以。身も心も全て解き放ち世界に委ねる事により、自らの能力が普段の二倍にも三倍にも膨れ上がるのである!

 千颯の身体が、主に下腹部が白い光に包まれる。スカイクラッド、その名の由来であるインド哲学にはチャクラという概念がある。それは会陰部から起こり身体を伝って天へと上る力の流れなのである。今、千颯はその流れを露わとしている。
 要するに、千颯の千颯は隠れているのである。公然猥褻は免れた。白虎丸も安心だ。
『出来るわけ無いだろうが! 千颯、せめて褌はつけろ!』
 地の文にさえ当たり散らしながら白虎丸は怒るが、千颯は聞きやしない。全てを脱ぎ捨て世界と一体、千の颯となって従魔に乱打を見舞う。
「これが! 完全開放の力だ!」
 〆のパンチがチュパカブラの顎を撃ち貫く。空高くまで突き上げられ。チュパカブラは星となって消えた。

「き、ぃー……」
 最後の一体となったチュパカブラは呆然と立ち尽くしている。本能で動く従魔は、既に目の前で起きている事態に対する思考を放棄しただそこに居るだけになってしまっていた。しかし、エリックはそんなそれにも容赦が無い。
『オラーッ!』
 ビーチパラソルで跳び上がり、エリックが降ってくる。そのまま敵をぺしゃんこに押し潰すと、そのまま釣り竿の針を鱗に引っ掛ける。
『チュパカブラの一本釣りだー! 今の内に攻撃頼むぜ!』
「この私の超絶怒濤の一発を受けなさい! イエエエエエエッ!」
 好き放題に叫んで美里がラッパガンの一発を叩き込む。後を追うように、オルトロスを履いた紗希が跳び上がる。
「従魔死すべし! 慈悲は無い!」
『(もう勝手にしてくれ……)』
「エイジョリヤアアアアン!」
 前宙の勢いも加えた鋭い踵落としがチュパカブラに炸裂する。大量のライヴスを一気に流し込まれた従魔は、堪えきれずに弾け飛んだ。まるで特撮のような、見事な爆発ぶりである。

「イエエエエエエッ!」
 その爆発を背後に美里はもう一度叫ぶ。地平線の果てまで彼女の喝采は響いた。
「ああ……これが全てを開放した者だけが味わえる風なんだぜ……」
 相変わらず全身を光に包み、天にも昇るような表情を千颯はしている。
『うにゃ……僕は何てことしてしまったんだにゃ……』
 千佳はその場にぺたんとへたり込んで蹲っている。
「ひ、酷い目に遭った……」『楽しかったわぁ♪』
「き、っききみ! なんではだっ! はだが……」
 裸のままで飛び出してきたシーエに、エストは慌ててマントを被せる。
「はぁ……何てこった……」
『いいじゃん。次はもっと楽しそうなもの作ってもらおーぜ』
「えええ……」
 やる気未だに満々のエリックがにっと笑い、霧人はへなへなと肩を落とす。
「うむー。やはりこの武器がしっくりきますねぇ」
『何で……?』
 蘿蔔は杖を相変わらず振り回している。
「ようやく終わりましたね。今日も大地は護られました。……どうしてそんなに顔を赤く?」
 手のひらで赤くなった顔を覆い隠しているローズマリーを、ラリサは不思議そうに見つめている。
「何かこう……羞恥心も封印されて心置きなく必殺技も叫べる感じ! 大変有難うございました!」
 スマートフォンを取り出し、紗希はいきなり恭佳に電話をかけて叫ぶ。
「え、ええ。喜んでくれたのなら、何よりですが……」
 帰って来たのは作り手のくせにドン引きしたような声色だったが、紗希には気づくわけも無かった。

●恐るべき計画
「……このダジャレ武器を作ったのはダレジャー」
「えぇ……」
 本部に戻り、恭佳の出迎えを受けるなり蘿蔔はそんな事を言いながら杖を差し出す。名状しがたい表情を浮かべている少女に向かって、レオンハルトは苦笑しながら弁解した。
『ああ、すみません……この子テンションが戻らないというか、この武器が気に入ったというか。ほら、ちゃんと返しなさい。お礼も言うんだぞ』
「はい、ありがとうございました。これからも開発頑張ってください」
 蘿蔔は恭佳にぺこりと頭を下げる。恭佳はほんの少し頬を赤くすると、頭を下げ返す。
「……どうも。頑張ります」

「あああああっ」
「ああああああっ」
 ロビーに伸びる柱に向かって頭をがんがんとぶつけているのは紗希と美里。二人は消し去りたい記憶がいっぱいだった。美里は叫ぶ。
「何か、何かよくわからないけどヤバかったああああ!」
「同じくううう……うっ!」
 勢い余って紗希はドレッドノート級の一撃を柱にかましてしまう。しかし今は生身。柱の方がずっと強い。額にたんこぶ作って紗希は目を回してしまった。カイは溜め息だ。
「ぐるぐるぐるぐる……」
『あーあ……何してんだか……』
『ふふ……これもこれで美しい懊悩の姿ですね……』
 大希は遠巻きに美里の姿を見つめ、ふっと微笑むのだった。

――ああ。言葉など無くてもいいと思っていましたが。ですが――
「どうかしたのですか。もしかして……この武器がそんなに気に入ってしまったのですか?」
――どうしてそうなるのでしょうか……――
 見当違いなラリサの心配に、やはりローズマリーは肩を落とすのだった。

「ふっ……またオレちゃんはフルオープンパージャーとしての道を一つ歩んだんだぜ。ありがとうな」
『……頼むから、二度とこのような武器は作らんでくれでござる』
『私からも念入りに頼みますにゃ! もう二度とあんなのごめんにゃ!』
 格好つけて笑う千颯と、口々に苦情をぶつける白虎丸と千佳。
「つまらんこと言うのぉ……まあ……もう少し役に立つものを作ってもらいたいがのう」

「……お疲れ様でした」
「そっちも大変だったな」
 苦労人の霧人とエストは共に引きつった笑みを浮かべる。
「そしてこれからも大変そうですね……」

『また面白いの出来たら見せてくれよ! 消防車並みに水を飛ばせる水鉄砲とかさ!』
『ふふふっ。あの喇叭銃みたいに、持っただけで壊れちゃうような武器、もっと作ってくれない? 例えば、持ったら心が女の子になっちゃう武器とか♪』
 恭佳の周りに集って口々に無茶振りするエリックとシーエ。その言葉を聞いた若き狂科学者は、小さく悪い笑みを浮かべるのだった。

「(……もう作ってるんだよなぁ。『ロリポップ・バトラクス』を……)」

 To be Continued!?

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • アステレオンレスキュー
    音無 桜狐aa3177
    獣人|14才|女性|回避
  • むしろ世界が私の服
    猫柳 千佳aa3177hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • フリーフォール
    エリックaa3803hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • 若き血潮
    ラリサ リリエンソールaa4857
    人間|18才|女性|防御
  • エージェント
    ローズマリーaa4857hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 決意を胸に
    エスト レミプリクaa5116
    人間|14才|男性|回避
  • 『星』を追う者
    シーエ テルミドールaa5116hero001
    英雄|15才|女性|カオ
  • オーバーテンション
    沢木美里aa5126
    人間|17才|女性|生命
  • 一つの漂着点を見た者
    浅野大希aa5126hero001
    英雄|17才|女性|バト
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