本部

パワー・パワー・パワー

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/31 17:23

掲示板

オープニング

●殺戮の一夜
 南アメリカ、某所。突如吹き荒れた霊力の嵐は幸い人気のないジャングルを強打しただけに被害をとどめる。
 午前三時過ぎの不条理に。
 顔を上げたのは森の動物たちだった。危険を察知し逃走を図るため、群成す獣は固まって移動を開始して、ハンターたちは緑に身をひそめた。しかし。
 その鎖が、バイソンの体を捉える。
 夜を引き裂くようなンモオオオオオオという悲鳴が空にこだまし。
 そして、新緑の大地に一点。赤い塗装が成されてしまう。
「ンダ? この、けむくじゃら。れいりょくなんて、カスほどにもないぞぉ」
「夜に元気だねぇ。アゴー。その毛むくじゃらはバッファローだよ。この世界にもいるんだね」
アメリカでは普通「バッファロー」と呼ばれる、その毛むくじゃらの動物は。悲しいことにもう息をしていない。
 アゴーと呼ばれた愚神は軽々と体長380cmの体を持ち上げると、その手に巻きついた
鎖でさらにギリギリと締め上げたこれでは鉄のすりおろし器だ。
 あたり一面に肉片が転がる。
 だが仲間のバッファローたちはそれを見送ることしかできない、死んだ個体の仇を取るより、逃げ延びて種を存続させる方が大切だ。バッファローたちは地響きを上げながら草原の上を逃げていく。
 そんな獣たちを見送って二人の愚神は森の奥深くへと入っていく。
 むせ返る熱気、漂う鮮血の香り、それを肺にたっぷり吸いこんで。
 修道女の姿をした愚神『救済者テナー』は鋭い笑みを浮かべた。
「たくよ、人間を殺せるっていうからここまで来たんだぜ、あたしはよぉ。なのになんだ? ここには毛むくじゃらの獣風情しかいねぇのかよ、はり合いねぇな」
 そうテナーが召喚した銀色の刃。それが木々の枝を切り飛ばし、ナマケモノを切り飛ばす。鳥たちが空へと逃げた。
「どうすんだよ」
「ヒト。ちかい」
「歩いてどれくらいだよ」
「わからん。トオイ」
「わたしたちには便利な力はねぇからな、歩いていくしかねぇか。相棒」
「ヌ、しょうち」

● 森を赤く染めて進軍中
 南アメリカ某所の森の中にて前触れもなく愚神が出現した。
 プリセンサーが予測するには、このまま彼らは南下し続けいきあたった町を滅ぼすだろうとのことだった。
 その陰惨な性格と残虐非道な手口を指令官アンドレイはこう称する。
「あいつらは、くそ野郎だ!」
 アンドレイは机を叩く。湯呑が躍って落ちた。割れて中身が飛び散って、そしてそのお茶はもう。盆には返らぬ。
「奴らの殺戮対象は、人間だけじゃない! 森のくまさんや鹿さんたちもだ!」
 アンドレイは語る。絶滅危惧種ですら問答無用で殺して進軍する奴らはド畜生だと。
「くそ! 俺に戦う力があれば!」
 ひとしきり叫んだあとアンドレイは暗い面持ちで告げた。
「奴らを野放しにはできん、奴らは殺戮を好むもの。放っておけばレッドデータブックに名前を刻まれるのは我々だ、奴らを早急に排除してほしい」
 そこでアンドレイは自分なりの分析を君たちに伝えてくれる。
 先ず、彼等はリンカーという存在を知らないか、自分たちを倒しうる存在がいないと思っているのではないかということ。
 町まで直進しているのがその証拠だという。
 さらに、戦場が選べる可能性。
 町までの距離は約50キロ。絶対防衛ラインを町から20キロの地点に創るとして。
 森の長さがリンカー到着時に5キロ分の長さがあるかどうか。
 その先にはサバンナが広がっており。15キロ程度。そこから町までは草原が広がっているらしい。
 森の中で乱戦を狙うか。見晴らしのいい場所で準備をして敵を攻撃するか。
 作戦のたてようはいくらでもある。
 そして。最後に。
「今回はデクリオ級二体が相手だ。決して侮れる戦いではない。だがあの単細胞たちの
裏をかけば我々が勝てないことはないはずだ」
 そしてさらに細かい作戦会議にこれから移る。
 
 
● 愚神たちについて
 今回戦う愚神はデクリオ級愚神『殺戮者アゴー』そして愚神『救済者テナー』です。個性については後述します。
 彼らは全くリンカーたちを警戒していません。
 稼働当初は八人でないと戦えなかったデクリオ級、それが二体、
つまり五人で狩るひつようがありますが編成によっては偏らせる必要も出てくるでしょう。
 四人。最悪の場合三人でデクリオ級が倒せるのか。
 倒せたとしたならそれはリンカーの成長を示す強い証になるのではないでしょうか。

愚神『殺戮者アゴー』
 腕に鎖を巻きつけた愚神アゴーです。
 見た目は三メートルを超す巨体なのにもかかわらず足や胴体は補足、腕だけが発達し、柱のように長く太く大きいです。
 さらに腕に鎖を巻きつけていまして、鎖はある程度操れるようです。
 接近する敵を巻き取って回避力を下げたり、自分へ引きつけたり、そのまま
締め上げたり、結構器用です。 
 動きは遅いのですが攻撃範囲が広い上に、地面を揺らしてくるので体制を崩されやすいです。
 遠距離攻撃に対しては対抗手段を持ちませんが。そこら辺にあるものを投げてきます。霊力を帯びてないのでダメージにはなりませんが、視界が遮られます。

愚神『救済者テナー』
 見た目はシスター。しかしその首からぶら下げる無数の十字架は全て武器。
 小さなアクセサリーですが彼女が霊力を込めると160センチほどの大きさまで伸びます。
 その十字架にて、罪人をお救いするのが彼女の役目。
 十字架は側面が鋭く。その中央にあいた穴に手をかけてテナーは振るっているようです。投げて使うこともできます。
 またテナーはちょっとばかり知恵が回ります。
 魔法攻撃を跳ね返すバリアーを常に張っていますが
 物理攻撃で破れればそのラウンド間は魔法ダメージが通るようになります、彼女は
 テナーは機動力に優れ、回避力、移動力共にデクリオ級ではトップクラスです。

解説

目標 愚神二体の討伐。

●まとめ

 町までの距離は約50キロ。
 絶対防衛ラインを町から20キロの地点に創るとする。
 森の長さがリンカー到着時に5キロ分の長さがあるかどうか。
 サバンナは15キロ程度。
 そこから町まで30キロ草原が広がっているらしい。
 どこで迎撃するかは自由。
 リンカーを発見した場合二手に別れようとするようです。
 片方は町へ、片方はリンカーを攻撃する足止め。
 どちらがリンカーでどちらが街なのかは気分のようです。
 今回のOPの情報は全てアンドレイから与えられたPC情報です。

リプレイ

プロローグ
「初めての依頼なの! 頑張るの!」
 えいえいおーと『灰猫(aa5201)』は『追走者(aa5201hero001)』の手を取って大きく上に上げた。低い天井の金具すれすれを二人の拳がかすめる。
「さあて、初めての依頼だねぇ〜。まあ気楽に行こうかねぇ〜」
「お姉様は『力比べじゃ!』とかいって突撃して大怪我しかねないし、わたしが知略の方が優秀っていうのを見せてあげるわ」
 そう硬い椅子に座って両手を組み晴れ晴れとした表情を向けるのは『朔夜(aa0175hero002)』
 そんな彼女の姿を見て『御門 鈴音(aa0175)』は柔らかい笑みを浮かべる。
「またまた。本当は輝夜を心配してでしょ?」
「……馬鹿言わないで! 誰があんな女の事……とにかくやるわよ!」
 目標はコンビの愚神、アゴー、テナー。
 奴らの情報については全て熟読している。
『キャルディアナ・ランドグリーズ(aa5037)』は資料を幻想蝶にしまい込むと一つため息をついた。
「愚神2体、慢心は隙につながる。捨てておけ」
『ツヴァイ・アルクス(aa5037hero001)』は戒めるように告げると、キャルディアナは小さく頷いた。
「……ん、森が見える」
 そう告げる『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』の頭を撫でて『麻生 遊夜(aa0452)』はその手を取って眼下の密林を見据えた。
「やってやれなくはない、か」
「……ん、狩るのはこちら」
 遊夜に寄り添うユフォアリーヤはくすくすと笑う。
「今回はプリセンサーやアンドレイさんのおかげで敵の詳細もあり戦場も選べる
そのうえ敵さんは無警戒と来た……これでも修羅場は潜ってきたつもりだ、デクリオ2体とは言え無様は晒せんな」
 その瞳は月の光を映した獣のようにぎらついている。遊夜は愛銃を手に取った。
「これでダメなら傭兵依頼は廃業だな」
「……ん、油断はしない……ボク達が勝つ」
「そうだな、ガキ共に語る武勇伝の一つになって貰うとするか」
「まあ……力と運試しですかね」
『晴海 嘉久也(aa0780)』はそう『エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)』に告げる。
「私も……一応、急所狙いタイプなのでドレットノートとしては高命中ですが、今回の相手は……テナーですか」
 今回は二班に分かれての作戦となる。
「まあ、頑張って叩き落とす事にします」
 晴海はそうつぶやいて共鳴した。
「いや……こんな任務は初めてだなぁ。兄者」
『阪須賀 誄(aa4862hero001)』はそう兄の肩を叩く。
「愚神二体……」
『阪須賀 槇(aa4862)』は思う。しかもデクリオ級だ、今まで参加経験のない任務に武者震いがとまらない。
 だが。兄弟が仰ぐ隊長は落ち着いて佇んでいた。
『煤原 燃衣(aa2271)』はハッチの開閉レバーに手をかけてそのタイミングを今か今かと舞っていた。
「だだ、大丈夫だ弟者……漏れ達が何もしなくても隊長なら何とかしてくれる……」
「……兄者、人任せにし過ぎだ常考」
――おい、燃衣。
 その時共鳴済みの『ネイ=カースド(aa2271hero001)』は燃衣に問いかけた。
――怯えているのか?
「ああ、いえ。愚神に対してはなんともないんですけど。この高さから落されるっていうのがどうしても受け入れられないんです」
 燃衣はハッチを開く。
「殺戮者に救済者……殺すことが罪ならば、遍くものは罪あるもの、と言うことですかね?」
 風で髪をばたつかせ『禮(aa2518hero001)』は『海神 藍(aa2518)』の手を取った。
「からと言って無差別とは、神を気取ったような……いや、まさに愚かしき神か」
「ともあれ。攻め寄せる脅威は、打ち破らなければいけません」
 そう静かに告げて冠を触る禮。
「ああ、抜かせはしない。……行こう」
 そして仲間たちは眼下の密林を見据える。
『ナラカ(aa0098hero001)』は微笑を讃え『八朔 カゲリ(aa0098)』はつまらない物を眺めるような冷ややかな視線を向ける。
『御童 紗希(aa0339)』はスカートを抑えてコンビニに行くような気軽さで、そしてそんな紗希の背を『スワロウ・テイル(aa0339hero002)』がとんと押すと、ケラケラと笑った。
「ではいきましょう」
 そう燃衣が告げると全員が輸送機から飛び降りた。

第一章 暴虐

 上空からの目によって愚神の行動はバレバレだ。特に地面を揺らし断末魔を上げさせ、一直線に町を目指すとなるとなおさらである。
 そんな愚神の前に先回りをするのは簡単なことだった。
―― だいたい到着まで十分ってとこっすかね、足りそうっすか?
 テイルの言葉に頷いて、遊夜はワイヤーを撫でた
――……ん、予知から推定……ここから、5キロ程度?
――そんなもんっすね。
「手早くやらんと時間がないな」
 遊夜は、敵進撃ルートにスプレーで森林偽装した見せ罠のザイルを、そしてそれを避けたら引っかかる位置に本命のワイヤーを張っていた。
 その二重トラップを念入りに設置。
 ここから先、森は魔境となるだろう。
「一瞬でも気を逸らしたり体勢崩してくれりゃいいんだがな」
――……ん、引っかかるといいねぇ。
 直後、モスケールに反応。位置が近い。
――……ん、反応あり。
「奴らが来る、そろそろ配置に着こう」
 その言葉に頷いて晴海も姿を隠した。
 その時だった。声が聞こえた、甲高い女性の声が。
 そして伊びく地響き。重たい何かが地面を転がるように走ってくる。
「アゴー見てごらん、ワイヤーだよ、どこかの役立たずが仕掛けたみたいだねぇ」
 それは晴海が仕掛けたワイヤーだろう。わざと視界に入るようにかけておいた。
 端的に言うと囮だ。
「おい、アゴー、そこ……」
 その時である。
 遊夜は確かにきいた。アゴーがステップを踏む音、そしてその足が隠されたワイヤー。あまりの勢いで足を取られたためにアゴーは吹っ飛び、その肩に乗っていたテナーもまた派手に宙を舞った。
 そして二体の愚神は地面をえぐりながら着地。
「なんだ! なんなんだよ! これは」
 そう涙目で土を吐きながらテナーは上を見あげると
 灰猫が枝の上で佇んでいた。
――さあ、初陣に花を飾ろうかねぇ~
 そう追跡者が告げると、灰猫はリボルバーを抜き、撃った
 蔦の切れる音。そしてテナーの横っ面をなぐように丸太が迫った。
「この!」
 そうテナーは拳を叩きつける、割りばしのように砕けた木の破片があたりに飛び散った。
「霊力を纏わねぇ手段であたしらを傷つけようってか?」
「テナーに当たらなくても気を反らせれば良いの!」
 次の瞬間放たれたのはキチンとした霊力を纏った弾丸。
 それを腹部に受けたテナーは呻きを上げる。
「硬いな……」
 遊夜は次弾を装填しつつ場所を変える。
「そこだ! のがさん、やれ! アゴー」
 叫ぶテナー、アゴーは鎖を伸ばして密林内の雑音、その発信源を追う。だが。
 ぴろぴろぴろ!
 森中に響き渡る場違いな電子音。
 思わず二人は振り返る。
「そこにいると危ないぜ?」
 次いで聞こえたのは電子音で再現された遊夜の声。
 直情から銃弾の嵐。そして唸りを上げる晴海の16式60mm携行型速射砲。
 四方八方から放たれる出どころ不明の弾丸は二人の余裕を削るには十分な威力を秘めている。
 その弾丸は的確に急所を狙って放たれるが、そこはさすが愚神というべきだろう。硬い皮膚に弾丸は弾かれる。だが。
「その脚、貰うぜ!」
「……ん、逃げちゃ嫌よ?」
「ゴミ屑が!!」
 テナーの理性が爆ぜた、獰猛な獣の本能がままに森を跳ねまわり、弾丸の出どころを探す。
 こうなれば遊夜でしかテナーを捉えることは難しいだろう。
「ここは力持ちさんに退場してもらうの!」
 ついで振り子のように襲う丸太。
 灰猫の思惑通りの位置には誘導できたが、アゴーはその丸太を片手で粉砕した。
「イイな、テナー、遊んでる。イイナ。俺も殺す」
 そうテナーに加勢しようと動き出すアゴー、だがそれを許すリンカーたちではない。
「……槇さん。あの筋肉バカの雑魚を先に潰しましょう」
 森を駆ける音がアゴーの耳に届く。告げたのは燃衣。
「うーむ。隊長……俺困ったんですよ。時にあいつ脳みそカラで、頭狙っても意味なさそうで……」
 そう背の高い木々から目標をスコープに捉えるのは槇。
 その手のAK-13を躍らせて、アゴーの背中に弾丸を振りまく槇。
 振り返るアゴー。
「ああ、鉄さび臭いと思ったらあなただったんですね、いかにもさびてて鈍そうですね。当然頭もですよ、いや、こんなのが今回の獲物だなんて、僕たちはラッキーだな、楽勝案件ですよ? これは」
 燃衣はそう告げながら、わざと武器も構えず姿を見せた。
「エモノ?」
「え? 貴方の事ですよ。貴方どう見てもあのの女が居ないと何も出来ない脳筋雑魚ですよね?」
「ぐおおおおおおおおおおおおおお!!」
 アゴーは言葉をうまく話せない、しかし言葉を理解することはできる、そしてそれが侮辱だということも彼には分かった。
 アゴーはその太い腕を振り上げると、当たり一体の木々をなぎ倒しながら燃衣へと向かう。
「あっれー愚神さん、オコなの? ひょっとしてオコなの? NDK? NDK?」
 槇は声高に叫んだ。
「エヌ……ってなんだ!?」
 ねぇどんな気持ちという意味である。
「おめぇらこそ雑魚のくせによぉ!」
 そう挑発に代わりに答えたのはテナーである。だがそれが逆効果だった。
「えぇ、ボクは自他共に認める、徒党を組まないと弱い雑魚ですよ」
 直後振り上げられた腕を目の前に、燃衣は残忍な笑みを浮かべて愚神をあざける。

「で? 貴方方は《そんな雑魚も独りじゃ殺せないクソザコ》ですか?」

「な!」
「おおおおおおお!」
 頭に血が上る二体の愚神たち。そして。
「……お前一人でボクを殺してみろよ、脳筋。やってみろよ、クソザコ」
 そう告げて燃衣は駆けていく。その背をアゴーは追った。
「おいアゴー! どこ行くんだ」
「アイヅ、ゆるさない!」
 そこからは追い駆けっこの始まりだ。足場の悪い森を駆け抜ける燃衣と。それを追うアゴー。
 それを追おうとするテナーを灰猫が遮った。
「こっちなの! 捕まえて見るの〜」
 あっかんべーっと舌を出して見せる灰猫
「スキだらけなの! コレでもくらえなの!!」
 そしてテナーの鼻先を丸太がかすめた。
「行くよティン!《ビーストチェンジ》なの!」
 その視界が遮られている隙に灰猫はフォルムを代える。
――あいよ〜! イッチョ派手にやりますかねぇ〜!
 追跡者が笑うと再びテナーを銃弾の嵐が襲った。

第二章 怒りの進撃

――380センチって大きいんだろうけどなんかピンとこないね。
「兄さんが縦に2人並んだくらいっスよ」
――う~ん…………無駄に大きい……
 森を抜けた先には開けた地形が広がっている、見渡すばかりに茶色い大地。
 その中心で少女は立ち尽くしていた。
 その腕に鷹を止まらせると、霊力にひも解いてそれを消す。
 もう必要ない。そう頷いて。地面を揺らす張本人を観た。
「自分、どうぶつは大好きっスよ」
――うん。
 紗希の頷く声に合わせて、テイルはパイルバンカーの杭を装填する。
「いつかアフリカの大きな動物保護区に一ヶ月くらい滞在してずーっと野生動物を
観察して巡る旅をしてみたいっス!」
――うん。
「だから動物をいじめる奴は許さない!」
 燃衣がテイルとすれ違う、眼前のアゴーは頭に血が上ってか紗希のことなど
見えてはいない。
 だから。
――私たちを無視するな!
 直後躍り出たテイルがその手の杭をアゴーの胸に押し当て放つ。だが。
「く! なんつう……」
 打ち出された杭はその肉をえぐるも突進は止まらず、テイルはたまらずその場から跳躍して一短距離を取った。
 次いで今までテイルが立っていた場所に、遅れて拳が叩きつけられる。
 鎖が周囲に巻き散って耳ざわりな音階を奏でる。
 吠えるアゴー。その背後で立ち止まったテイルは両手を後ろに回して、前かがみになって笑う。
「にゃはは! おサルサンにはテイルちゃんは捕まえられないにゃー」
「お前等!!」
 そう反撃とばかりに振り上げた拳をテイルはニッと笑って避ける。
 それこそ最小限の動きで。舞うように。
「おおっと」
 そして地面を叩いた腕を、浄化の刃が走った。
「おおおおおお!」
 うめき声を上げるアゴー。その視線の先には双剣を振りかざすカゲリがいた。
 視線を細めるとカゲリが走る。
 アゴーが地面を叩いて転倒を狙うがカゲリは跳躍してそれを無力化。剣から放たれた斬撃が空気を焼いてアゴーに突き刺さった。
「うごおおおおおお」
 直後テイルはアゴーの背後に回って顔面をパイルバンカーでうつ。
 燃衣が視界から忍び寄ってその足を蹴った。
 しかし岩石のように強靭な下半身は早々崩れない。
 反撃とばかりに伸ばされる鎖。
 それを槇が打ち落とすと。
「隊長!!」
 燃衣は後方宙返り、そのままの勢いでバックステップを決めた。
 そしてバトンタッチとばかりに飛び出したのはキャルディアナ。
「まかせな!」
 その手の双銃が唸る。
 吐き出される弾丸はアゴーの鎖に跳弾するが、届いた弾丸が皮膚を削る。
 その隙に背後からカゲリが迫る地面に刃を突き刺して、それに手をかけて横向きに回転。足をからめ捕ろうと伸びた鎖を回避。残った片方の件で斬撃をみまう。
 目くらましにも等しい浄化の炎。
 それを晴らすため投げられた大岩をその両腕で抱えた。岩の上をミミズのように、鎖が這う。
「甘いな」
 それをカゲリは、地面にささった剣を背に立つ。もう一方の剣も地面につき刺しそして、命じる。
――さぁ、いでよ冥狼。その絶対零度の牙で、奴の喉笛を噛み裂くがいい。
 猟犬の遠吠えが乾いた大地の温度を下げる。
 直後、空を切るように走る双子狼は放たれた大岩を避け。そしてアゴーに殺到する。
 カゲリは、大岩を普通に避けた。
――うむ、腕力は立派だな。
「ただ、それだけだ」
 そうカゲリが瞳を伏せた瞬間。二つの冷気はアゴーの動きを縛り。直後はなたれた
弾丸がアゴーの瞳を真っ赤に染めた。
「うがあああああああ!」
 キャルディアナだ。彼女が構えたLSR-M110から硝煙が上がっている。
「おんな! 殺す!」
「装甲が堅い奴はたくさん会ってきたが、目が潰せねぇ奴には会ったこと無いんでねぇ」
「うがあああああ!」
「おらおらこっちだぜぇ! 追いかけっことしゃれこもうや、遊ぼうぜぇ!」
 直後うち放たれる槇の弾幕その弾幕を背に迫る燃衣がすれ違いざまに連撃を叩き込んだ。 
「あらら? 真っ赤に染まっちまいましたね、痛くないんすか?」
 そう笑いながらその肩にかかとを置く。わざとアゴーの肩に乗って見せた。
 無謀とも取れる危険な行為。だが、攻撃を全て避けられると確信あっての行動だ。
 直後アゴーは自分の肩をかすめるように拳を放つ。
 それを回避。地面に飛び降りてバンカーを叩き込んだ。さらに。
「テイルちゃんは足癖も悪いにゃ!」
 去り際の、目へのキック。
 呻き倒れるアゴー。
 痛みに屈したわけじゃない女郎蜘蛛テイルの放つ霊力が毒のようにアゴーの自由を奪った。
「面倒臭い鎖は腕と一緒にブった切る!」
 そうぎらつく視線でアゴーの腕を見下ろすテイル。
 そのパイルバンカーで腕をひきちぎろうとしたその時。
 急激に鎖の量が増えた。全員がその異常事態を察し距離を取る。
 だが遠距離職にその変化は関係ない。
「……実はボクもゲームは大好きです。攻略開始ですよ槇さん。《されば立ち上がって戦え》ッ!」
 燃衣の号令に銃弾の方向で答えたのは阪須賀兄弟
――射線ゲット。今だ兄者!阪須賀兄弟
「OK行きますよっと!」
 燃衣は鎖も恐れず接近。その顎を蹴り上げた。スロートスラストである。
 その体を大きく広げるように伸び上がったアゴー。
「さすが隊長、狙いやすい」
 槇は位置を代えながらその腕を的確に狙って弾丸を叩き込む。
「火力支援行きますよっと!」
――……よし!《楔撃ち》って名付けたらどうだ兄者。
「その名前は流行らないし、流行らせ……」
 直後反撃とばかりに叩きつけた両腕、その振動で体制が崩れた燃衣。
「隊長! 危ない!」
 それを突き飛ばす槇。
 彼は拳の直撃は裂けたが、鎖がその肌を裂いた。
「くっそ! だったら勝負だ!
 そう引き金を引くも、槇の銃はカチンと切ない音を響かせた。
「あ、あれ……?」
 その時アゴーはとてもいい顔で笑った。だが
「なーんてな」
 直後。他のリンカーからの総攻撃をもらうアゴー。
「時にコレ、サバゲじゃ常道テクだぬ」
 その時だ。何かが壊れた。
 アゴーの中で、ばきんと何かが、直後、アゴーの体からあふれ出る鎖たち。
「うわわわ照準が」
――落ち着け兄者、バラ撒け弾を!
 その鎖はうねり緑のかわりに大地を覆っていく。

第三章 断罪

 アゴーが密林を抜けてから少しして灰猫が茶色い大地を転がされた。
 テナーがズタボロになったローブを引き裂いて、その犬歯をむき出しにする。
「こいつが殺されたくなかったら! あんたらさっさと出てきな!!」
 そうテナーは叫ぶ。その視線の先に現れたのは黒いドレスの高飛車そうな女
「あなた……」
 朔夜は告げる。
「あん? なんだ? 殺される前に遺言か?」
 その時である。足元の灰猫がテナーの足を引っ張った。直後地面に吸い込まれるように消えるテナーの姿。それを冷静に眺めて朔夜は笑う。
「私とキャラが被るのよ」
 まぁ厳密に言うと、鈴音主体の共鳴姿が……なのだが。
「どう? 特性の穴倉の中は?」
 朔夜はそう優雅にテナーへ歩み寄る、彼女は穴の中に落ちていた。
「あはははははは、無様ね! 余裕ぶってるからそうなるのよ」
 事の顛末はこうだ。移動速度と経路から迎撃ポイントを決め穴を掘る(鈴音製)その後、傷ついたふりをして朔夜自身が穴に誘導するつもりだったが。
 その役目は灰猫がやってくれた。
 想定の120%うまく罠にはまった、これが笑わずにいられるか。そんな調子で朔夜は笑う。
「……フフッ、私ね。とっても加虐体質なの」
 もはや暗すぎてテナーの姿が見えないくらいに深い穴。その穴の底めがけて土を蹴り落としながら朔夜は笑う。
 その隣に晴海が立ったそしてテナーに渾身の弾丸の雨を降らせる。
「ああああああああ!」
「自分の掌で翻弄される相手を一方的に痛めつけて相手の顔が歪むのがだーい好きなの。……さぁ! もっともっといい顔で苦しんで! いい声で泣き喚いて!」
(……輝夜と朔夜って対極な部分が多いけどサドっ気だけは驚くほどそっくりよね……)
 どんびきの鈴音である。たぶん灰猫も同じ気持ちだろう。
 だが直後。
「この穴が何だって?」
「え?」
 直後信じられないことが起こった。 
 テナーがものすごい速さで穴を上ってきたのだ。
「あんた!」
 槍を構えるのが遅れた。あわてて朔夜は穴から離れ。そして土まみれのシスターは穴の淵に立った。
「さっきから、あんたらは!!」
 怒り心頭。ここまでコケにされたことはないと言いたげな瞳を朔夜に向けると。
「噂の救済者はあなたかな?」
 そう語りかけたのは藍。
「ああ、救済者テナーだ。生きる苦しみから救ってやろうか?」
「救いなど間に合ってる、お引き取り願おうか」
 そう告げた藍に、テナーは一瞬で接近し。そしてその喉元に爪を突きつけた。
 だがその体を衝撃が襲うことになる。思わず離れるテナー。
 藍の手にはトリアイナが握られていた。
「ソフィスビショップが物理戦闘が不得手なんて……誰が言った?」
――棒術や杖術は近接戦闘の基本です!
「そうかい!!」
 風のように走るテナー、その姿を三人は捉えることが泥ない。
 藍はミラクルスタッフに装備を変更。軽く回して構えると三人は背中合わせに相手の出方を見た。
 飛び交う巨大な十字架。
 そのふりすら早すぎて、攻撃を避けることも難しい。
「命中を最大限に強化はしてますが……当たるかどうかは五分五分という所ですね」
 晴海はつぶやいた。
「まあ、当たりさえすれば向こうの攻撃に対して効果的に武器受けができる装備も持ってきてますし、罠と包囲を併用しての撃破は問題ないでしょうね」
 そう告げて晴海はトリガーを引く。
 それでもテナーを捉えることは困難を極めた。
 だが。
 突如、テナーの体制が崩れた、見ればテナーは太ももから血をふいている。
 その機会を逃す藍ではない。
 藍は急接近。そして。
「突けば槍」
 その顔面をスタッフでついた。ついで足元を払い、その足を砕く。
「払えば薙刀。持たば太刀 ってね」
杖を振るい敵の手首を打ち払う。だが最後の一撃は跳ね起きることによって避けるテナー。
 だが逃げた先には朔夜がいた。
「もう逃がさないわ」
 直後テナーを包むのはライヴスフィールドである。謎の力はテナーに動揺を走らせる。
 そんなテナーの耳に聞きたくない声が再び聞こえた。
「さぁ、そろそろ仕上げと行こうか」
 その声にまとわりつくような女のくすくす笑い。
 直後森から放たれた弾丸の嵐が、テナーを捉えた。 
「あああああ!」
「俺達の眼から逃げられると思うなよー?」
 遊夜はにやりと笑みを作る。
――……ん、絶対に……逃がさない、よ。
 その銃弾が収まったのを狙って藍はテナーの背後に回る。
「行くよ、禮」
――ええ、いきましょう!
 直後膨大な霊力が藍を包み、その霊力が阻まれないように藍はテナーの背に手を当てる。
――……其れは暗き嵐を貫く一条のひかり。
 歌うように告げる禮。霊力浸透を使用、そして放たれた雷撃は。
――無明の夜を裂け!
 空を切り裂いて天に上る。
「あの詠唱は要るのかい?」
――分かってませんね、兄さん。必要かは関係ないです。あれは浪漫ですよ。

「ああ、我が救済の道は」
 
 うつろに口ずさまれるテナーの言葉、それを聞き終わらないうちに。
「「おやすみなさい、良い旅を」」
 遊夜は優しいレクイエムを奏でる。
「ふふふ、久々に楽しい相手だったわ」
 そう謳うように告げた朔夜。
 そんな朔夜を見て鈴音は『敵じゃなくて本当に良かったと』心から思った。

   *    *

 どこから沸いてくるか分からない鎖の群、それを切り捨ててカゲリは溜息をついた。
――飽いた、覚者よ。そろそろ。
 そのナラカの言葉に、カゲリは鼻で笑って答える。
「それは皆同じみたいだぞ」
 直後、鎖の海から飛び上がるように浮上したのはテイル。
 クロスパイルバンカーをパージした勢いを利用したのだ。
 鎖をはじいて。そしてヘパイストスに換装。
「キルキル。でっかい蜂の巣にしてやるよ~ん」
 超至近距離でうちまくった、鎖が暴力的な勢いでテイルの肌を駆けた、血が吹きだし激痛が走っているはずだ。だがテイルは攻撃の手を止めない。
「むさくるしい見た目もちょっとは涼しげに見えるでしょ?」
「ぐおおお!」
 たまらず呻くアゴー。
「その邪魔な腕を」
 そのアゴーの肩へ槇とキャルディアナは弾丸を集約する。
――OK兄者、キルチャンスゲット。
「……見えた、隊長あとヨロです!」
 その掛け声に燃衣は突撃。斧に装備を持ち替えて、そして回転力を加えてアゴーの肩を切り上げる。
 超高速の回転切り。その名も《虐鬼王斧》
 鮮血が燃衣の頬を彩る。
「次は首をもらいます」
 満身創痍のアゴー、鎖のうねりも止まり膝をついた。
――行くぞスズ……覚悟は良いか……。 
 そのアゴーの前に立ち、燃衣はネイの言葉に頷く。
「えぇ…………これはガデンツァや仇を殺す為に編み出した《とっておき》です……ッ
…………今ここで死ねッ!」
 そして一閃。放たれた斬撃は愚神の首を跳ね。そしてサバンナは静寂に包まれた。
「いい挑発でした、槇さん。誄さん」
 そう燃衣は振り返り兄弟の健闘をたたえる。
「いえいえ、隊長こそ」
 そう槇が告げると、燃衣は苦笑いして答える。
「ぜ……全部ネーさんの仕込みです」
――褒めるな、照れる。
「…………」
 槇は勝利の祝砲として、その手の銃を空に撃った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 残酷な微笑み
    朔夜aa0175hero002
    英雄|9才|女性|バト
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • 赤い日の中で
    スワロウ・テイルaa0339hero002
    英雄|16才|女性|シャド
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • リベレーター
    キャルディアナ・ランドグリーズaa5037
    人間|23才|女性|命中
  • リベレーター
    ツヴァイ・アルクスaa5037hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • エージェント
    灰猫aa5201
    獣人|14才|女性|攻撃
  • エージェント
    追走者aa5201hero001
    英雄|18才|女性|カオ
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