本部

怪鳥は眠らない

大江 幸平

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/27 20:03

掲示板

オープニング

●制空権を奪え
 ロシア北東部・カムチャツカ半島。
 島の全域を火山群に囲まれた、雄大な自然を誇る美しい土地である。

「プリセンサーがケントゥリオ級愚神の出現を予知した。場所はここ……火山の麓あたりだ」

 H.O.P.E.の職員が指したのは、クリュチェフスカヤ山の裾野一帯だ。
 この山は活火山であり、付近に人里はない。

「どうもこの愚神はかなりの数の従魔を従えているみたいでな……」

 ケントゥリオ級愚神『ヒノトリ』は、体長4メートルほどの全身が炎に包まれている鳥型愚神である。
 従魔たちも同様に翼を広げると2メートルほどになる獰猛な爪を持った鳥の姿をしている。
 この群れに空中から一斉に襲いかかられれば、いくら優秀なリンカーたちとて完全に対処するのは容易ではないだろう。

「しかもこいつらは警戒心が異常に強い。気付かれずに接近するのは難しいってわけだ」

 そこでだ。職員はある作戦をあなた達に提案する。

「まず奴らの出現ポイントから一番近い場所にある丘陵地帯に布陣する。そして、遠距離からの一斉射撃を行って奴らをおびき寄せるんだ。ここらへんは視界を遮るものが何もないからな、狙撃自体は難しくないはずだ。腕に自信のあるやつは出来るだけ強そうな個体から狙ってくれ」

 この時点で敵の数を一気に減らすことが第一の目的だが、可能ならば群れの中心である愚神に対して先制攻撃を成功させたい。
 もしも、敵と接近する前に愚神へ致命的なダメージを与えられれば、それだけ殲滅は容易になるからだ。

「それから、奴らに出来るだけ高所を取らせないよう移動しながら、タイミングを見計らって一気に攻勢をかける。しっかりと対空戦の準備はしておいてくれよ」

 手順。
 1.布陣した丘陵地帯から敵勢力への斉射(範囲攻撃あるいは愚神への狙撃など)
 2.敵をおびき寄せながら、接近してきた群れに包囲されたり頭上を取られないように行動。
 3.全員で一気に攻勢を仕掛け、敵集団を殲滅する。

解説

●目標

・ケントゥリオ級愚神『ヒノトリ』の撃破。
・デクリオ級鳥型従魔の殲滅。

●状況

・戦場は見晴らしの良い広大な高原。周辺に遮蔽物は存在しない。
・天候は曇り。雪は降っていない。気温は高めだが、やや風がある。
・PCスタート地点は敵出現ポイントからやや離れた丘陵地帯。愚神が全速力で飛翔すれば、おそらく三分ほどで接近してくるだろう。
PL情報:
・対空射撃ないし狙撃は『対象との距離』と『PCの命中率』に大きく依存します。よって手順1の時点で行う愚神への狙撃は難易度高めです。

●登場

・ケントゥリオ級愚神『ヒノトリ』
 全身を炎に包まれた大型の鳥型愚神。
 翼を広げると周囲に高熱の火の粉が舞う。鋭い爪を持ち、空中から滑空するスピードは桁外れに速い。
 知能は獣レベルだが、支配している従魔の数だけでなく、単独でも危険な存在なのは間違いない。

・デクリオ級従魔
 愚神よりは一回りほど小さい鳥型従魔。
 視覚と聴覚が鋭く、警戒心が強い。直線的な移動よりも旋回速度に優れる。

リプレイ

●魔弾
 乾いた空気。ゆったりと背筋を通り抜けるような風が流れていく。
 現場へ到着したリンカーたちが布陣していたのは、見晴らしの良い丘陵地帯だ。わずかに緑が生い茂った土色の大地から、風下に位置する彼方の敵を見下ろしている。
 場所は火山の麓からほど近い場所。
 事前にあった報告通り、数十羽の獰猛そうな鳥たちが地上で翼を休めながら、甲高い鳴き声をあげていた。
 その群れの中心には、愚神『ヒノトリ』の姿も確認できる。一際大きな身体を持ち、その名の通り全身から静かに炎を吹き上げている。
「べるべっとよ! たいへんであるぞ! とりがもえておる!!! これがほんとうのやきとりであるな!!!」
 そんな愚神の姿を見て興奮したのか、泉興京 桜子(aa0936)が叫ぶ。
 呆れたように返したのは、ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)だ。
『あんたそんなこと言ってる場合じゃないわよ! あれが人里に下りてきたら大変なことになるわよ? 焼き鳥も食べられなくなるんだから!』
「む! それはダメであるな! 早くたおさねばなるまいて!!」
 同じく昂揚したような様子で声をかけあっていたのは、齶田 米衛門(aa1482)とウィンター ニックス(aa1482hero002)の二人である。
「ッし! へば宜しくッスよ、兄さん」
『おぅとも! 気合入れて行くか、兄弟』
 今回が二人にとっては初めての共鳴戦闘となることもあって、気合は十分なようだ。
 近くには、笹山平介(aa0342)とゼム ロバート(aa0342hero002)。それに真壁 久朗(aa0032)とアトリア(aa0032hero002)といったよく見知った顔もある。
 実力と気心の知れた仲間の存在は、彼らに安心感と程良い緊張感を与えているようだった。
『アンチマテリアルライフルに活躍の場がついにやってきたのである!』
「頑張って狙撃しようね、エルちゃんっ」
 一方、加賀美 春花(aa1449)とエレオノワール アイスモア(aa1449hero001)は、装備の確認や潜伏の準備を進めていた。
 春花は今回の任務にあたって、どんな状況にも対応できるよう様々な武器を用意してきていた。
 中でも特に重要なのが、強力な長距離射撃が可能な『アンチマテリアルライフル』である。その反動やサイズ故に取り扱いの難しい武器ではあるが、その性能は折り紙付きだ。
 ちなみに粃 リウ(aa3943)と天青鉱(aa3943hero001)はというと、斉射を行うリンカーたちから少し離れた場所を潜伏地点に選んでいた。
 どちらかといえば白兵戦を得意とする二人は、接敵のタイミングを見計らって、横合いから殴りつけることにしたのだ。
 すでに土で汚したタオルケットに包まって、機会を伺いながら息を潜めている。

 そうして、全員の準備が整ったことを確認すると、手順通りにリンカーたちは素早く持ち場についた。
 いまだ愚神たちの動きはない。こちらに気付いた様子もなさそうだ。
 辺是 落児(aa0281)との共鳴を済ませた構築の魔女(aa0281hero001)が、殲滅すべき敵を見下ろしながら静かに笑う。
「ふふ、少し不謹慎ですが心震えますね」
 この作戦は、彼女の狙撃を合図にして始まることになっている。
 狙撃対象は言うまでもなく――愚神『ヒノトリ』である。
 もし成功すれば、愚神に致命的なダメージを与えるのみならず、敵の指揮系統を混乱させ全体への動揺を誘うことが出来るだろう。つまり、それだけ殲滅は容易になる。
 しかし、失敗してしまえば。それは一度限りの決定的な機会を、むざむざ逃がす羽目になるということだ。
 その身に掛かるプレッシャーは甚大。この役割を引き受けた以上、この初撃――絶対に外すわけにはいかない。
「周囲状況の解析完了。制御可能圏内に敵性体捕捉完了。……それでは始めましょうか」
 昂揚する心とは裏腹に、その頭脳と身体はひどく醒め切っている。
 あらゆる事象に対する『解析』と『操作』。それこそが、彼女の真なる本分。故に――彼の人は『構築の魔女』であるのだ。
「頭部から胴体を通る射線を優先……確実に狙っていきましょう」
 魔女の構えた37mmAGC『メルカバ』に装着されたオプティカルサイトの照準が、燃え盛る炎に包まれた愚神の胴体を捉える。
「……」
 息を吐く。精神を集中させると、次第に周囲の音が消えていくのがわかった。
 魔女の呼吸は、やがて鼓動のリズムと重なり合う。世界と同一化するような感覚。
 風が止まる。愚神は動かない。
 意識下に浮かび上がったライヴスのレティクル。その中心に対象を捉え、息を止める。

 衝撃。

 重たい反動が、腕を揺らす。

 放たれた榴弾は、空気の壁を突き破り、鮮やかな軌道を描いていく。

 鋭く風を切る音。一瞬の静寂。

 異変を察知した、怪鳥の鳴き声が響き渡る。

 ――次の瞬間。

 愚神の片翼に直撃した榴弾が――盛大に炸裂した。

●斉射
 大地を揺らすような爆発音。
 立ち昇る粉塵の中、混乱した鳥たちが一斉に鳴き声をあげた。
「ふおおおお! ないすじゃ!」
「お見事ッス!」
 伏せていた上体を起こして、魔女が着弾地点を確認する。
「敵は……」
 徐々に晴れていく視界。騒ぎ立てる従魔たちの姿が見えた。
 それは危機を回避しようとする本能なのか。鳥たちは即座に翼を広げて、次々と混乱したように上空へと飛び上がっていく。
『……慌ててやがるな』
「好機です!」
 平介の声に呼応するように、リンカーたちの斉射が始まった。
 銃声。銃声。銃声。
 火薬が一気に炸裂する音が、瞬く間に戦場を埋め尽くしていく。
「ぬう! ちっと遠いッスね!」
『とにかく撃ちまくるぜぇ、兄弟!』
「数打ちゃ当たるの理論でいくのであるぞ!」
『適当ね~』
 さすがに全弾命中とまではいかないものの、リンカーたちが容赦なく浴びせていく銃弾の雨は、従魔たちを確実に撃墜していく。
『ワタシ達も遅れをとってはいけませんよ』
「よし……奴らにお見舞いしてやるか」
 そう言って、久朗は地面に設置した巨大な兵器の砲身を彼方の空に向けた。
 身長1700mm、砲身1000mm。『担ぎ型射出式対戦車刺突爆雷』と呼ばれる化け物級のサイズを誇るアンチマテリアルミサイルである。
「……吹き飛べ」
 ボシュゥッ!
 白煙と共に、勢い良く射出音が響いた。
 そのまま鋭く弧を描いて飛んでいった爆雷は、上空を飛翔する従魔の群れに着弾する。
 ――轟音。大気が激しく揺れた。
『挨拶がわりというやつです』
 その凄まじい威力に、おもわず愚神がけたたましい鳴き声をあげる。
『キュオオオオオッ!』
 すると、榴弾の直撃を受けた片翼をかばいながら、愚神が周囲を鼓舞するように高く飛び上がった。
 追随するように従魔たちも稚拙な編隊を組みながら、リンカーたちがいる方角へ全速力で飛翔を始める。
「……ふぅ」
 そんな敵の動きを冷静に観察していたのは春花だ。
 ゆっくりとスコープの照準を一点に合わせて、静かに息を吐く。
 捉えているのは、集団の前方。従魔たちを先導するような位置を取りながら飛んでいる炎の愚神だ。
 ――距離はまだ遠い。でも、当てられないほどじゃない。
 周囲から断続的に響き渡る銃声の中、やがて春花は息を止めて、引き金を絞った。
「……」
 ドゥンッ!
 強烈な反動。水平に設置したアンチマテリアルライフルから銃弾が放たれる。
 ――直撃。愚神の胴体が、弾けた。
 高速の弾丸に貫かれ、その巨大な翼がぐらりと傾いていくのがわかる。
『当たったのである!』
「……よし、命中」
 予想外の追撃を食らった影響か、愚神が激昂するように吠えた。
 そのまま、速度を上げながら一直線にこちらへと向かってくる。
『やる気満々って感じだな』
「勝負してけるべが……ありがてぇッスね!」
 その様子を見て、米衛門は不敵に笑う。
 あくまで目標は敵の殲滅である。つまり、当然のことながら愚神もここで討伐しなければならないのだ。
 もしも、あの愚神が従魔たちをけしかけて逃げに徹してくるようならば……。
 そんな米衛門の懸念は杞憂に終わった。怒り狂うあの様子ならば、その可能性は限りなく低いだろう。
「近づかれる前に、出来るだけ敵の数を減らしましょう」
『適当に撃ってりゃ当たるだろ……』
 平介とゼムの言葉へ応えるように、銃を構えたリンカーたちは再び一斉に引き金を絞った。

 その頃、別地点では。
 熾烈な銃撃の嵐を飛翔する敵集団を見据えながら、リウと天青鉱が行動を開始していた。
『やー。自ら事前に焼かれているとは中々気前のいい鳥だね!』
 燃え盛る愚神を遠目に見上げながら、天青鉱が言う。
 二人は自分たちの存在に気付かれないよう移動しながら、接敵のタイミングを見計っていたのだ。
 狙うべくは愚神の背後。慎重に、しかし大胆に、リウと天青鉱は素早く駆ける。
「食べる?」
 リウが訊くと、自信満々に天青鉱が頷いた。
『従魔だって食べられるらしいじゃない? だったら愚神だってきっと食べられる!』
「お腹壊さないように気をつけてね」
『うん!』
 どこか呑気な会話を交わす二人の目前で、また数羽の従魔が墜落していった。

●接敵
「敵接近を確認しました。誘い出しは成功、でしょうか」
 狙撃を続けていた春花が周囲に声をかける。
 連続して浴びせた斉射により相当数の個体を減らしたものの、生き残った従魔たちは高度を保ちながら旋回して、リンカーたちを挟撃しようと滑空し始める。
 その集団からやや後方、愚神の姿がある。
「来た……」
『見つけやすくていいな……』
 スコープを覗き込んでいた平介が愚神を捉えた。
 出来れば接敵する前に撃ち落としたいところだ。しかし、何度も攻撃を受けた愚神は狙撃を警戒しているのか、従魔の陰に隠れながら素早く左右に展開して的を絞らせない。
『ちょこまかと……』
 ゼムが舌打ちする。
「やはりもう少し数を減らしてから、誘き寄せる必要がありますか……」
「あぁ、頭数が多いな。囲まれたら厄介だ」
『的が多いとも言えます。当てる事に集中してください』
 包囲されることを警戒して、久朗が『フリーガーファウスト』を連続して打ち込む。
 それをサポートするように、平介と春花が的確な狙撃で一羽づつ撃ち落としていく。
 そのうち、数羽の従魔が上空から突撃するように滑空してきた。
「ぬははは! そのようなこうげきわしにはとどかぬのであるぞ!!!」
 盾を構えて飛び出したのは桜子だ。勢いを殺すように攻撃を受け流す。
 そこへ米衛門の番えた『九陽神弓』から放たれた弓が従魔を見事に射抜いた。
「久朗! やるッスよ!」
「……っ!」
 瞬間。
 久朗の全身から集積されたライヴスの光が放射される。
 威圧的なライヴスの防壁。それこそは守るべき誓い。不落の守護である。
『我々は絶対の壁。如何なる者も易々とは通しません』
「通れるけどな。飛んでるし」
『こ、言葉の綾です! ならば全力で阻止するまで!』
 そんなアトリアの気合に引きつけられるように、従魔たちは一斉に久朗めがけて滑空を始めた。
 凄まじい速度だ。直撃を受ければ、いかなリンカーたちといえども、それなりのダメージは免れないだろう。
 しかし、従魔たちにとって不運なことに。それは米衛門からすると想定通りの動きでしかなかった。
『おっしゃ! 来たぜ!』
 射程内ギリギリまで引きつけてから、絶好のタイミングで閃光弾を発射する。
「目ぇ閉じて! ちっと眩しいッスよ!」
 掛け声に合わせてリンカーたちが頭を伏せると同時に――目も眩むような光が空中で爆散した。
『キュルアアアッ!』
 まともに閃光を浴びた従魔たちが、次々と墜落していく。
「平介!」
「仕留めます……」
 久朗の盾に防がれていた平介が飛び出して、従魔の群れを一掃するように、頭上から数多の武器を降り注がせる。
 無慈悲な豪雨。それらは身動きの出来なくなった従魔たちを余すことなく絶命に至らせる。
『後はとらせるな……』
「もちろん」
 ゼムの言葉に、平介がにこりと笑った。

 その見事な連携に負けじと、分断された群れの一部を引き受けるべく、桜子も守るべき誓いを発動する。
「かかってくるがよい!」
 高らかに掲げた『ライオットシールド』の鈍い輝き。
 そこへ数羽の従魔が鋭く滑空する。
 スピードの乗った重い衝撃。一体目を弾き返し、二体目を受け流す――が。
「ぐぬうううう!」
 挟撃のような形で盾の隙間を潜り抜けた従魔の爪が、桜子に振り下ろされる。
「ぬおおおおお! やめええい! どうじにくるのはひきょうであるぞ!」
『おばか! 引き寄せたのはあんたでしょうが!』
 ダダダダダダッ!
 目にも留まらぬ早撃ちの連射。
 春花の自動小銃から放たれた弾丸が、一瞬にして従魔を撃ち落とした。
「武器は1つじゃないんだから!!」
 次の瞬間。魔女の背後に展開された十六連装の凶悪な翼が唸りをあげる。
「霊力がきついですが……出し惜しみはなしですね」
 連続射出された『カチューシャMRL』のロケットが小気味よいリズムで爆散。攻勢に転じようとしていた従魔たちの勢いが止まった。
 しかし、群れが分断された影響もあってか、従魔の群れは気付けば四方に散開し始めている。
『春花! 囲まれるのであるぞ!』
「……うんっ!」
「皆さん、少し下がりましょうか」
『ほら! 距離を取るわよ!』
「しょうちしたのである!!」
 その瞬間――戦場に炎の嵐が巻き起こった。
 何事かと構えたリンカーたちの前方。
 まるでその意思を察知するかのように、愚神『ヒノトリ』が翼を広げながら、地面を滑るように飛び込んでくる。
『キュオオオオオッ!』
「回避を!」
「ぬうううう!」
 ――が。
『ニーエ・シュトゥルナ――最大出力』
 耳朶を打つ共鳴音。
 ライヴスの神秘的な輝き。
 狙い澄ましたタイミングで飛び出してきたのは――リウだ!
『はぁぁああああっ!』
 淡く輝いた光線が、愚神の無防備な胴体へ突き刺さった。
 横合いから重い一撃を食らった愚神が、地に身体を打ち付けながら彼方へと吹き飛んでいく。
『あっつあつをキンッと冷やせば身がきゅってしまるかな?』
 それは――完璧なる不意打ちであった。

●殲滅
「敵は怯んだ。一気に殲滅するぞ……」
「守りはわしらにまかせるのじゃ!!」
 リウの作った隙を利用して、改めて高所を取ることに成功したリンカーたちは、この機を逃さないよう一気に殲滅戦へと移行する。
 再び強烈なライヴスの光を放った久朗が双璧の『陰陽玉』を巧みに操り、春花が『火竜』の散弾で従魔をまとめて撃ち落とす。
 そのやや後方。『スナイパーライフル』に持ち替えた桜子と『メルカバ』を構えた魔女は、激しい連射により久朗と春花を援護している。
『せめて美味しく食べてあげるからね!』
 起き上がり、咆哮を飛ばす愚神。
 対峙したリウが身を低くして、跳ね上がるように駆ける。
 気合と共に連続して放たれた光線が、愚神の硬い皮膚を貫く。が、同時――巨大な翼が水平に振るわれ、火の粉がリウの身体に降り注ぐ。
『……む~!』
 それを転がるようにして、紙一重で躱す。
 肌を灼くようなライブスの熱。咄嗟に距離を取ろうとするも、さらに愚神が首を伸ばし、リウを捉える――かに見えたが。
「これでも食らうッスよ!」
 頭上から投擲された『毒々しい髪染め』が愚神の頭部へ直撃した。一瞬だけ、巨体の動きが止まる。
「粃さん! 下がってください!」
 助太刀するようにやって来たのは、米衛門と平介だ。
 すかさず平介は呪符を掲げると、中空に出現させた氷の杭を愚神へ激しく突き立てる。
 ザクザクザクッ!
『キュルアアアアアッ!』
 燃え盛る体躯にその効果は覿面だったようだ。たまらず、愚神が一歩下がった。
 そのまま、リウが距離を取ったのを見ると、三人は横並びに立って愚神を追い詰めるように武器を構えた。
「っし! このまま仕留めるッス!」
『あの炎、かなり熱いからうかつに近づかないほうが賢明かな~』
「……私が隙を作ってみますね」
 平介はそう言うと、懐に忍ばせておいた血液パックをこっそりと使って、自らの腕に血をぶちまける。
 ――あれの知能が獣レベルであれば、弱った獲物から仕留めに来るはず。
 不自然でないように腕を下げながら、平介は愚神へにじり寄る。米衛門とリウもそれに合わせて、距離を詰めていく。
『キュルルルル……!』
 威嚇するような鳴き声をあげる愚神。
 その全身はリンカーたちの度重なる攻撃によりボロボロになっている。しかし、黒く鋭い瞳にはいまだ戦意が滾っているのが見て取れた。
 ――次の瞬間。
 舞い上がる炎。愚神が平介に襲いかかった。
『兄弟!』
「させねッスよ!」
 一直線に放たれた矢は、完璧に愚神の目を捉える。
 続くように、爆発的な速度で飛び出したリウの連撃が決まった。
『キュルアアアアッ!』
 断末魔にも似た叫び。巨体が軋む。
 平介は再び呪符を取り出すと、いつものように穏やかな表情で笑った。
「おしまいです♪」
 無数に浮かぶ氷の柱が――愚神を容赦なく串刺しにした。

●緋色の黄昏
 愚神が討伐されたことにより、従魔の群れは文字通り烏合の衆と化した。
 洗練された動きで攻守を支える久朗の前に、従魔たちは手も足も出ずにひたすら宙をさまよい、春花と魔女の狙撃によってその数を減らしていく。
 それから、圧倒的な火力によってリンカーたちが敵集団を殲滅したのは、たった数分後のことであった。
 想像以上の戦果を収められたことに、一同は深く安堵すると共に、今回の作戦が完璧に成功したことを心の底から喜んだ。

「改めて見ると、美しい景色ですね」
 水平線の彼方に沈み始めた夕陽を眺めながら、魔女が呟いた。
「ほんとに綺麗ですっ」
『うむ! 美しいものは守るべきものであるな』
 春花とエレオノワールが微笑ましく笑い合う。
「粃どの! それ! それなんじゃ!?」
「ん、倒した鳥の羽根だよ。綺麗だからもらっといたんだ」
『ほんとはお肉を食べたかったんだけど、H.O.P.E.の人に止められちゃったからね~』
 リウが手にしていたのは、すでに熱を失っている愚神の色鮮やかな尾羽だ。
 羽根くらいならば大丈夫ですという本部の許可を得て、数枚ばかり採取しておいたのだった。
 それを見た桜子はキラキラと目を輝かせた。
「わしも! わしもそれほしい!」
『やめときなさいよ。ばっちいじゃない』
「ばっちくないわい!」
『見なさい、あたしの毛のほうが綺麗よ! ほらほら!』
「なんかざらざらしててばっちいのである!」
『ばっちくないわよ!』
 一方、久朗たちは身体を休ませながら、互いの健闘を称え合っていた。
『なんだかんだで余裕だったな~』
「兄さんとの連携もばっちしだったッス!」
 米衛門とウィンターの言葉に頷いて、久朗が息を吐く。
「なにはともあれ、無事に終わって何よりだ」
『たしかに今回は大きな怪我もせずに済みましたが……アナタは少し無茶をしすぎではないですか?』
「……そうか? まぁ、敵は多かったが……仲間を守るのは俺たちの役目だろう」
『む。そ、それはそうですけど……』
 どこか不満げに唇を尖らせるアトリアを見て、ゼムが無表情のまま口を開く。
『そこのちっこいのは何を怒ってるんだ』
『べつに怒ってませんけど』
「……?」
「まぁまぁ♪ 久朗さんとアトリアさんのおかげで私たちも助かりましたし」
 ニコニコと笑いながら平介がその場を収めると、久朗がうんと背を伸ばした。
「それにしても、動いたら腹が減ったな……。皆で飯でも食いに行くか」
「いいですね♪」
「大規模作戦で観光どころじゃねがったッスもんな」
『アトリア殿、この後一緒にどうだろうか? 運動の後は甘味が一番! 涼の取れる良い店を見付けたのでな』
『え、あ、はい……』
『色男は食い気より色気か』
 ゼムの皮肉げな言葉に、明るい笑い声があがった。

 激しい戦闘は終わり、再び平和が訪れた美しい大地に風の音が吹き荒ぶ。
 静かに燃えるような夕陽の橙に照らされながら、赤き魔女は遥か彼方を見つめていた。
『……』
 穏やかな表情。しかし、魔女の唇は固く結ばれている。
 その聡明な緋色の瞳に映っていたのは、如何なる光景であったのか。
 恐らく、この世界において、それを理解できたのは――
「ーーロロ……ロロ」
『……ええ』
「ロロ……」
 二人の間を通り抜けていく風は柔らかく、何処かほんの少しだけ――優しかった。

 ちなみに余談であるが。
 この任務において『構築の魔女』が成功させた長距離狙撃は、後にH.O.P.E.内においても語り草となり、いつしか彼女は一部でこう呼ばれるようになった。
 H.O.P.E.の赤き死神。《魔弾の射手》――と。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • 守りし者
    加賀美 春花aa1449

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • 守りし者
    加賀美 春花aa1449
    人間|19才|女性|命中
  • ちみっこプリン(セ)ス
    エレオノワール アイスモアaa1449hero001
    英雄|10才|?|ジャ
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • エージェント
    ウィンター ニックスaa1482hero002
    英雄|27才|男性|ジャ
  • エージェント
    粃 リウaa3943
    人間|20才|?|生命
  • エージェント
    天青鉱aa3943hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • クールビューティ
    アリスaa4688
    人間|18才|女性|攻撃
  • 運命の輪が重なって
    aa4688hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る