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殺陣
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最終発言2017/05/14 15:02:45 -
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最終発言2017/05/14 17:42:04
オープニング
● 殺陣(たて)――その言葉の意味は本来、映画や演劇等で乱闘、捕り物、斬り合い等の演技や立ち回りを表す言葉として伝えられてきた。
「我々には時間が無い」
1人の愚神は厳かに言った。どこか口調が人間めいて見えるが、いつしかそれは伝播する様に周りの従魔達に波及する。
――ワレワレニハジカンガナイ――
そこにいた低級(ミーレス級)から中級(ケントゥリオ級)までの従魔達は己の感情を操ってその言葉を吟味し、復唱する。
無論、彼等とてそこにいた4体の愚神に操られていた支配下達に過ぎなかったのだが……。
「しかし、真の栄光を掴むのは他でもない。我々だ」
2人目の愚神が言う。そして、その言葉を再び吟味し、復唱する従魔及び配下達。
「我々の死せる魂はこの混沌の濁世に繁栄を築くのだ」
3人目の愚神は静かに言の葉を紡いだ。人では無い彼等にもそれなりの掟やルールが存在し、まるでそこに蔓延る数多の僕を歓待せんばかりに。
「我々の『殺陣』――それは、既に完成に近付きつつある。あらゆる敵対者である生物、動植物及びその最高位に立つ人間も我々にたてつく事は最早不可能」
4人目の愚神が吐息を吐く様にそう言い終えると――
――ウォォアアアアアアア!!!!!――
その場にいた配下。従魔達の歓喜のどよめき。怒号が瞬く間に広がった。
●
プリセンサーの異常事態宣言はすぐにH.O.P.E.東京海上支部全体を揺るがした。
「緊急事態ですね」1人の女性監査員が冷静にそう分析すると――
「うむ。その様だな」1人の初老の男。未だエージェントとしての肩書きを持つ今回の事件を任された上司も冷静に促した。
今回の事件は関東圏各地にH.O.P.E.東京海上支部を攻め落とさんと、大量の従魔の群れが静かにじわじわとその姿を隠しながら周囲を取り囲む様に近付いてきている――と言うものだった。
「売られたケンカは買うしかないか」上司の男は冷静さながら少し怒気を孕んだまま、含み笑いをする。
その様子がいつもと少し違う印象を受けた助手の女性監査員は驚きと呆れの混じった顔で訝しげに上司の顔を窺うと――こう言った。
「……どうするんです? このままだと、我々は敵の思うつぼ。森の中で仕掛けた罠に何も知らない野兎の如く辺りを飛び跳ねるしか手は無いんでしょうか?」
その初老の男。上司の顔には少しだけ笑みを堪えたものが未だ貼り付いていたみたいで――助手の女性監査員は怪訝そうな顔を更に色濃くする。そして言った。
「――何か作戦でも……あるんですか?」
「――作戦? そんなものある訳ないじゃないか」
「では、どうして――」
その言葉を手で制して、上司の男は言いきった。
「作戦――強いて挙げるならここがバトルフィールドだ。サッカーで例えるならホーム&アウェイ。こちらの準備は万端だ。何せここは我々のホーム。H.O.P.E.東京海上支部なのだからな」
だが――と、前置きはそこで終わり男の顔は見る見る内に険しいものになった。
そして続ける。
「奴等もここに素手でケンカを売るほどバカじゃないだろう。恐らく……いや、絶対に裏で糸を引く存在がいるはずだ」
そこで女性監査員はようやく普段の彼女に戻り、業務用の表情を作った。
「大量の従魔――つまりそれは、愚神? いや、ヴィランの手先ですか?」
「さあな。そこまでは私も分からん。だが、愚神やヴィランがここを攻め落とそうとするのならば、それこそ最強の作戦を練って来るはずだ」
男はそこで一呼吸間を空け――
「例えばこのH.O.P.E.東京海上支部を一瞬で葬り去るある種の魔法とかな」
●
H.O.P.E.東京海上支部内が異様にピリピリとした空気を孕んでいる最中――
4人の愚神達の所謂『殺陣』の陣形は少しずつ関東圏周辺――千葉、埼玉、神奈川を張り巡らせ、その全てのライヴスのオーラはトップの愚神へと集束する。
そして、リーダー格の1人である愚神は東京へと乗り込んできた。
他の3人の愚神もそれぞれが強力なライヴスを蓄え各地からジリジリと集っている最中だ。
つまり、東京に4体の強力な愚神を迎え撃つ事になる……!
その中の一番手の愚神は『愚神鳳凰四人衆』と呼ばれる今回の愚神、従魔集団のトップに立つ存在であり、『殺陣』の陣形のコア、核心部分、言ってみれば天から降り注ぐライヴスの雷を避雷針として受け取る役目を担っていた。
『愚神鳳凰四人衆』トップの愚神は不敵に笑う。
――さあ、リンカー達諸君。これが最初で最後の最高の舞台にしようではないか! 我々の『殺陣』――果たして見破れるかどうか? 楽しみだ!!――
――こうして異様な空気の中、極限の戦いは始まった。
解説
さて、今回も始まりました。待望(?)のバトル的展開です。果たして従魔率いる『愚神鳳凰四人衆』 VS H.O.P.E.東京海上支部のリンカー達はどの様な戦いをしてどちらが勝利し、そしてどの様な結果が待っているのか? 楽しみです。
ちょっとOPだけでは謎だらけかもしれませんが、幾つか条件を挙げます。それに従い的を絞れば何かと戦い易いかと。
・4体の愚神は関東圏、主に埼玉、神奈川、千葉からやって来て現状は東京に潜伏しています。彼等を撃破するのが目標です。
・敵の陣形『殺陣』ですが、『愚神鳳凰四人衆』の1人でも欠ければ急速にそのライヴスの量は減る訳で……つまり、パワーダウンすると考えて貰えばなと思います。
・愚神はもちろんですが、うようよいる従魔達も厄介です。しかし、従魔のライヴスは最終的に『殺陣』の生贄、トップの愚神に渡るので無視しちゃっても構いません。
・愚神のトップを倒せば相手に壊滅的なダメージを与えられますが、『殺陣』の本体であるトップは強力です。出来るだけ作戦を練って、人数次第では各班ごとに分かれるのが無難かと思われます。(例えば、愚神AにはA班が付くとか、トップの愚神には強力なアタッカー陣を討伐組として組み込むとかetc.)
・プリセンサーの情報等を随時仲間達全員に提供出来る様にH.O.P.E.東京海上支部に要請すれば、各地で暴れている愚神の特定も比較的楽に可能かと思われます。
それでは、皆さんの活躍を期待しています!
リプレイ
●
『殺陣』なる愚神達の企みはともかく、それに果敢にも挑んだのは15名のリンカー達だった。
「陣ってことはこの攻め方も含めて意味がある筈なんだが」
『裏を解く時間がないのが厳しいですわね』
「拠点を潰そうってんだ。地震だの津波だの起こそうって話でも不思議じゃねえ」
そう言って最初に口火を切ったのは赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)だった。
ライヴスを集めて叩き付けるだけなら攻めて来なくてもやりようはある。
攻めてくるのは自分達を東京海上支部に足止めする必要があるからか――?
しかし、それにしても今回の戦いは情報が不足し過ぎている。
H.O.P.E.東京海上支部にしても相手の愚神が4体も迫ってきていると言うのに計画が杜撰。
正気の沙汰とは思えず、そう悠長に構って等いられない。
「護りに回るのが悪手なら尚更だ。討って出て罠があるなら食い破ってやろうじゃねぇか!」
H.O.P.E.東京海上支部からヘリの要請を請け負って、敵陣営の上空に雪崩れ込む。
例の愚神4体の所在地の確認依頼は既に報告済み。後はその連絡係として請け負いながら敵の殲滅に果敢に挑む。
対処想定は3つあった。
1.中央以外の愚神で鬼門の方向に最も近い個体。
2.撃破後は反時計回りに、別個体を撃破して回る。
3.最後に東京海上支部のボス(?)に対応。
今回の攻め方がある種の陣形だとするのならば、愚神撃破は可及的速やかに行いたい所。
赤城とヴァルトラウテが最も懸念していたのは、外周に陣取る愚神3体が何かを敷設していた場合はこれも確実に排除する事だった。
「神社や寺を逆にライヴスを収集する起点に使われたんじゃたまったもんじゃねぇしな」
『仕掛け方が人間のそれを参考にしているように見えますわね』
そう言って赤城とヴァルトラウテは共鳴し、上空から敵陣営のど真ん中へと最短距離で突っ込んでいった。
「人もいますし支部も大事ですもんね。頑張らないと、です」
『……私が部下だったら絶対巻き添えにしてるわ……』
想詞 結(aa1461)とサラ・テュール(aa1461hero002)はその性格上からかそれぞれ対局した意見を持っていた。
今回の事件。結が思う事は――支部自体大事。そして支部には人もいっぱいいると言う事。
そして今、現状を結なりに分析するにかなり多勢の敵がこのH.O.P.E.東京海上支部を襲って来ると言う事だった。
しっかり守らなきゃいけない。もちろん英雄のサラも一緒に。大丈夫だと自分に言い聞かせる。
一方、サラ本人は不満ありありだった。
色々と思い出す――それが今回の事件と絡んでくる。サラ本人のイライラの元凶だった。
ブツブツと小言を不満気に呟きながらも、そのイラついた思考を全部従魔や愚神に解き放つべくサラは今回の事件に荷担した。
敵の情報が分からないながらも、2人は共鳴。大体何とかなると言うサラの意見を信じて、敵の奇襲首狩りを狙う。
これだけ大勢の敵が関わっているならば、必ず指揮官がいる筈――これはサラの意見だった。
しかし結は戦闘する前に1つだけ懸念していた事項があった。
――民間人の非難は終わっているのか?
愚神が来てるのに一般人の非難が終わっていない事は無いとは思っていたが、もし終わってないのだとしたら――
結にとっての最優先事項は早急にそちらへと切り替わるだろう。
周りの仲間達の迷惑は承知の上で、彼女は自分1人だけの意思ででも一般人の避難誘導を敵の殲滅よりも最優先に置くつもりだ。
もちろん、その時邪魔する敵には容赦する気も皆無だが。
それとこんな事態に悠長に黙って構えていられるH.O.P.E.東京海上支部の上役の人達には言うべき事を言わなきゃいけないのは百も承知だ。
「……オーダーはあれの元凶と特定と排除、で良い?」
交戦前の最優先は元凶の有無と特定。
アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は喜怒哀楽の無い全くの無表情でこれから襲い来たる対『愚神鳳凰四人衆』との戦いに臨む。
初老のエージェントの言う支部を一瞬で葬り去る魔法だとか、最強の作戦だとかから考えるなら指揮官がいるのは間違いないだろう。
指揮官がいるならそれを叩くのが一番良い。
まぁ支部を襲撃なんて、余程の準備をしているか……ただの馬鹿か? そのどっちかだ。
例の支部を一瞬で葬り去る魔法とやらがあるなら、それが発動されるまでの時間との勝負でもある。
『あの人の勘、信じるの?』
「半分ね。あくまで可能性の一つだよ」
全てが憶測に過ぎない今回の戦い。
それに柔軟に対応出来る様にいくつもの可能性を考慮してみる。
プリセンサーの情報は通信機で逐一提供して貰い、特に容姿・動作・位置などを詳しく聞き取る。
この2人も着実に戦闘の渦へと巻き込まれていく。
無能すぎるH.O.P.E.東京海上支部の役員達に腹を立てながらも、確りと自分達の本来の任務に忠実に動く者もいた。
藤林 栞(aa4548)と藤林みほ(aa4548hero001)だ。
そこまで強い連中が大軍でいるのならば、なぜ情報を全く収集出来ていないのか?
こんな無能なH.O.P.E.東京海上支部の連中の指示など聞いていたら世界が壊滅するので自分達の判断で動く事に決めた2人。
とりあえず忍者の事前準備をしている余裕はないので、まず散兵としてバラバラに討って出る。
「大丈夫なのかな?」
『栞殿。大丈夫でなければもうこの支部は終わりでござろう』
「……うん、そうだよね。やれるだけの事はやらないとね」
『それにしても酷い光景でござる。無能すぎるH.O.P.E.東京海上支部とタメを張れる位でござる』
彼女等は既に戦場にいた。その光景は見るも無残な従魔達の大群。既に東京付近にまで迫ってきている。
例の『殺陣』と言うのが何を意味するかはさておくとしても、なぜこれほどまでに放置されてきたのか? 疑問と怒りが湧いてくる。
2人の作戦はちょっとだけ戦ってやられたフリをして――と言うか多勢に無勢なので逃げるしかないので、そのままやられたかのように引いていき、大軍もしくは四人のボスのうち出来るだけたくさん、H.O.P.E.東京海上支部まで引き込む。
H.O.P.E.東京海上支部を要塞として使って籠城すれば少しはマシだろうとの考えだ。
何やら支部を滅ぼす魔法があるらしいが、そもそも放置していれば他の主要都市に潜んでいた連中なのだからそう危険度は変わらない。
だとしたら無能なH.O.P.E.東京海上支部職員は害悪だ。多少死んでも、ここで愚神連中をちゃんと倒して他の都市を守った方が良いだろう。そしてそれこそがリンカーだと思う。
こんな複雑な境地に至ったのも致し方が無い。
そして、彼女達の戦いは始まった。
「え……環境や前提や内容が何もない? 本気なの? この日本支部の依頼……」
エレオノール・ベルマン(aa4712)はそう言いつつ、トール(aa4712hero002)は呆れた溜め息。
まともな情報じゃない。こんなものにエージェントの派遣は出来ない。
スウェーデン支部から、日本支部に「外国リンカーを使いつぶす気か?」等、抗議を入れられるなら入れたい。
しかし、呼ばれたものは仕方がない。H.O.P.E.東京海上支部に引き籠って防衛に努める。
なぜならエレオノールは脚も遅いので、討って出て立ち回るのは難しいからだ。
だが、敵に回りを囲まれたら、どこに魔法を撃っても当たるだろう。
そこから全力で反撃を開始する。
『敵は強大、支部壊滅の危機……。どうする、の?』
「取り合えずボスを倒すのは先輩達に任せて、雑魚蹴散らしとけばいいんじゃない? トップリンカー達がいるんだから、レガトゥス級でも来なければ平気でしょ」
雨宮 葵(aa4783)と燐(aa4783hero001)はそんなやり取りを交わしていた。
『ん。敵、何か企んでるらしい……けど』
「企みとか罠ごと、力でぶっ壊すの大好きよ!」
『……葵らしい、脳筋意見』
葵と燐は事前準備を怠らなかった。
支部周辺の避難確認とビルの位置、高さ、戦い安い広い場所の確認。
主に支部防衛の担当をするこの2人はそれ位の情報は欲しかった。
因みに周辺住民達は既に安全地域へと移動しており、東京近郊と言う立地を活かしたビル群の見取り図も手に入れた。
後はプリセンサーに敵の位置確認をしてもらい臨時報告を求める。
早速共鳴し戦闘態勢に移行。2人はとある高層ビルの屋上にいた。
「それにしてもすごい数だよね。さすがは『愚神鳳凰四人衆』ったとこなのかな?」
『ん。これだけの数の従魔を統率してるのは……確かに凄い……かも』
だが、意思疎通もそこでプツリと途切れた。
共鳴していた2人のワイルドブラッドと英雄はビルの上から敵密集地に向かってカチューシャを発射した。
装備していた武器――『カチューシャMRL』だ。
敵の群れへと飛んで行ったそれは、16連装の細身のロケットを轟音と共に次々と連続射出し敵軍の面を圧倒。
あっという間に制圧したかと思えば、共鳴中の2人はそのまま跳躍。
高層ビルから落下している最中に素早く使い捨ての武器の一部をパージし、次セット。
敵の密集地に飛び降り、そのままの姿勢を保って連続攻撃を敢行。生き残りを殲滅。
――グオオオオオオァァアア!!!!――
従魔達の悲鳴が鳴り響く。
そして、また密集地を見付けたらカチューシャから飛び降り殲滅の繰り返し。
「こんな雑魚で本拠地に来るとか、馬鹿にしてんの?」
『ん。私たち新米でも、余裕なレベル……。殲滅して力を示す』
葵と燐はそのままストレス発散するが如く、サクサクと敵を蹴散らしていく。
そんな中、多少戸惑いを露わにしている2人組もいた。
寺須 鎧(aa4956)とマーズ(aa4956hero001)だ。
『ったく、どうなってやがんだ。おい鎧、敵の数は?』
「……さあ?」
『おいおい。じゃあ、敵さんの大将はどんな能力持ってんだ?』
「知らねぇよ」
『ハァ!? なーんも知らねーのにヤんのか?』
「そうだな。俺らには何も情報がねぇや」
『冗談じゃねェぞ!』
「しょうがねぇだろ、担当の職員に聞いても、なーんにも教えてくれなかったんだから」
そんな激しい口論をしながらも、2人の担当はH.O.P.E.東京海上支部まで敵を誘い入れ、撃破してゆく防衛線だった。
基本的には支部防衛担当として従魔を食い止める為にあらかじめ爆薬を借りておいた。
そしてそんな焦った状況の中でもやはり従魔達は押し寄せてくる。
「来やがったな。こっから先は通行止めだ!」
『テメェら、覚悟しやがれ! 行くぞ、鎧!』
「『共鳴チェンジ!』」
幻想蝶のブレスレットを翳して共鳴。戦隊ヒーローのレッドのような風貌になり――
「猛き情熱の星、マーズレッド! この炎は止められないぜ!!」
――このタイミングで事前にセットしておいた爆薬を発破。
名乗った背後で爆発が起こる演出をセルフで行なうのも忘れない。
どっちにしろ道に穴が空いた所で被害は免れないし。
そんなこんなで彼等の本当の戦いは始まった。
鎧とマーズとは対照的に比較的冷静沈着な2人組もいた。
ネパール人のレナード・D・シェルパ(aa4977)とグルカ兵(?)の英雄。シャドウルーカ―のバル・シャットリー(aa4977hero002)だ。
この2人はあまり強い強国ではないけれど、ネパール支部のH.O.P.E.所属。
日本海上支部の情報収集能力や指示があまりにも酷いので、日本支部は潰れてくれた方がネパール支部が稼げるんじゃないか? と言われて、愚神は全滅を狙うが日本支部も潰れる事を望んでいる。
「さて、どうしましょうか?」
『どうもこうも無い。バル達はバル達でやるべき事をやるだけです』
そして2人はそのH.O.P.E.東京海上支部周辺のビル群と従魔達の蔓延る街道の中、景色に溶け込む様に消えていく。
「おいおい、後ろに何かがいるかもしれないとか東京支部を壊滅させる魔法があるかもしれないとか、憶測で好き勝手言ってんじゃねぇ! 現場を混乱させるだけなのがわからねぇか! 情報をちゃんと集めろ!」
ライヴス通信機を受け取った沖 一真(aa3591)は思わず怒声を張り上げた。
『一真、落ち着いて落ち着いて……』
そのすぐ真横にいた英雄の月夜(aa3591hero001)はそう言ったが、一真は声を張り上げれば張り上げる程、怒りが込み上げてくる。
「落ち着けられるかよ。事件は現場で起きてんだ。おい、支部、あんたの憶測とかアテにならんからいい。ヘリを出してプリセンサーが予測した場所に偵察に出してくれ。プリセンサーは感知した情報を常に俺達とヘリに連絡。いいな! 確実な情報を頼むぞ!」
そこで一方的に連絡を切る。
「『愚神鳳凰四人衆』……ふっふっふ、こっちには御屋形様と月夜殿をお守りいたす家臣が揃っているのです! 貴殿等に勝てる算段は微塵も残っていない! それでも私達に挑むというのなら……その心意気潔し! いざ尋常に……参る!!」
『……(やべぇ、腹筋崩壊の気配が……崩壊する腹筋ねーけど、くはは……)』
三木 弥生(aa4687)は御屋形様をお守りする家臣であり、三木 龍澤山 禅昌(aa4687hero001)はそのパートナーの英雄。
そしてナタリア(aa4978)とシルト(aa4978hero001)も愚神対応班に所属し、同行者の一真と月夜。三木弥生と三木龍澤山禅昌と同じく時を共にしていた。
「敵の数、能力は分からない。そしてこの位置で待つ事すら怪しい」
『冗談の様な状況ですね』
「支部の連中には基礎から叩き込んでやらんとな」
『(表情は普通ですが……ここまで呆れているナタリア様は初めてです)』
しかし戦いは既に始まっていて、彼等もまたその渦中にいた。
『ああもう、あと少しで向こう側の記憶から医術の極意を引き出せそうなのに……』
英雄のウィリディス(aa0873hero002)は思わずそう嘆くが、それを優しく戒める月鏡 由利菜(aa0873)はこう言った。
「リディス、愚神は悠長に待っていてはくれませんよ。……行きましょう、私達の大切な場所を守る為に!」
目的は愚神対応。そして撃破の為の仲間のサポートにある。
現在彼女等は携帯品のレーダーユニット『モスケール』でライヴスの鱗粉を放ち、敵の大まかな流れを掴みつつ移動中。
今正に『殺陣』なるものを完成させ様と都内に近付いてきている愚神達の潜伏状況を予測したり、スマホや通信機で防衛班に従魔の侵攻状況を伝える。
『ん~……愚神が潜伏してるなら、正面から堂々とは向かってこないと思うなぁ』
ウィリディスはそう言い、しかし彼女等はその矛盾を解消する暇もなく従魔達のうようよいる街中を風の様に駆け抜けていく。
そして遂にその時は来た。何の前触れもなく、まるで従魔の大群から操り糸で手繰り寄せられたみたいに。
――『愚神鳳凰四人衆』の1人。恐らくこいつがトップであろう。
従魔の群れが押し寄せる中、同行可能な仲間を纏めて現場へと移動した赤城とヴァルトラウテ。
そしてそこには葉月 桜(aa3674)と伊集院 翼(aa3674hero001)、大門寺 杏奈(aa4314)とレミ=ウィンズ(aa4314hero002)、御剣 正宗(aa5043)とCODENAME-S(aa5043hero001)が一気に集う!
「ボクにまかせて!」
『全力で戦うまでだ!』
桜と翼はそう言って気合いを入れて共鳴。『愚神鳳凰四人衆』の1人。トップと対峙する。
「どんな敵だろうと、仲間に手出しはさせないっ!」
共鳴後『パラディオンシールド』を構え、初手『アタックブレイブ』を敢行したのは杏奈とレミだ。
「……」
『皆で生きて帰りましょう! 絶対に倒してみせますよ!』
その後共鳴。愚神を倒しそして皆を無事に生還させる――正宗とCODENAME‐Sも相手の前にただ立ち塞がる。これ以上の侵入は許すまじと。
杏奈とレミの絆の深さを力に変えた『アタックブレイブ』により、そこに集った仲間達のライヴスは鼓舞され攻撃力は高まる。迎撃準備は万端に整った。
従魔達の取り巻きを一掃し、ライヴスの力を高めた赤城とヴァルトラウテも共鳴。今、目の前にいるボスらしき愚神と相対する。
「……フム。貴様等は我等の『殺陣』を打ち破りに来た輩か。やはりこちらの『殺陣』が完成するまでにはもう少し時間が掛かる様だ」
愚神としては嫌に落ち着いた声でしかし身体の真に迫る鬼気迫ったものがリンカー達の精神を一瞬で撃ち震わせた。
先程の『アタックブレイブ』が嘘だったかの様に。これは愚神独特の何かの能力なのか――?
――いや、あくまで錯覚。攻撃力に何ら変化はない。だが、圧倒的な力の差がそこに見えない壁としてリンカー達を恐怖のどん底へと突き落す。
着物姿の蒼白美麗な愚神はまるで仮面でその顔を覆い隠す様に巨大な扇を眼前に広げ、カラコロと笑う。
薄気味悪い一瞬の場の空気に耐えきれなくなったのは……他でもない赤城とヴァルトラウテだった。
「大がかりな仕掛けの割に名前も名乗らねぇ奴はどこだぁっ!」
そして各地、別の場所では既に共鳴したリンカー達の戦いも始まっていた。
情報収集も範囲攻撃も苦手と自負していた結とサラは隠れつつ敵の観察に勤しみ、自分の分かる範囲の情報を伝達。
場所が判明次第急行して攻撃し、情報がなかなか出ない様なら周囲にいる雑魚従魔を攻撃して隠れ直しては揺さ振ってみる。それの繰り返し。
その狙いは従魔と愚神に繋がりがあるかもしれない――そして倒していけば何かが出てくるかもしれない。
そんな一縷の望みをかけて、敵の情報が曖昧ながらも接敵次第、全力攻撃で一撃離脱する。
そのまま戦いは続行するが、じっくりと観察する事も忘れない。
放置すればする程、周囲への被害が少なからず出てしまう今回の依頼――。
結とサラの根本的な解決策は――周囲に人がいないといっても大事なものもあるかもしれない。
その一点に尽きた。
愚神発見までは極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』+【SW(杖・本)】『アルス・ペンタクル』+【SW本】『リフレクトミラー』で従魔に対応しつつ情報収集をしていたアリスとAlice。
従魔の動きに今の所不審な連携や策は見られない。
――まさか、指揮官は不在?――
情報は更に錯綜し加速。そしてやがて混乱を生む。しかし、共鳴したアリスとAliceはまるでどうでも良い事だと言う様に目の前にいた従魔を分析する。
「……ケントゥリオ級ってとこかな。こんなとこに混じってるなんてね……思ったより……ああ、面倒そうだ……」
『愚神鳳凰四人衆』――と呼ぶのだからそろそろ出て来ても良い頃合いだと思ったが……まさか、それは杞憂に終わるのだろうか?
――そんな予感が脳裏をふと過ぎった時――
希望に満ちた一筋の光は砂鉄の様にサラサラと零れ落ちた。
「我が配下に何用だ? お主」
巨大な斧を担いだ鬼の様な愚神が突然やって来たのだ。『愚神鳳凰四人衆』の1人――もちろんトップでは無い……筈だ。
愚神発見!
支部周囲の従魔は従魔担当の人と支部に任せる。ここが自分達のホームで、準備は万端って言っていたのなら何とかしてくれる。
それよりも何よりも今、この状況は不味い。
「支部にまで攻めてきておいて、名乗り口上も述べられないの?」
軽い挑発。どことなく余裕を見せていると――『愚神鳳凰四人衆』の1人は言った。
「フン! 確かにな。我々のやろうとしている今回の一連の『殺陣』の完成には少々被害が甚大すぎた様だ。やはり――あの方――の思惑通りにはいかなかったか。それとも――あの方――の力が必要なのか?」
「――あの方? 何を言っているの? そもそも、ここがどこか分かってる? 物量頼みなら諦めなよ」
しかし、その時だった。空中から何か来る――!
「このまま突っ込んでいーい?」
『問題ない。……全部蹴散らす』
葵と燐がビルの最上層から愚神目掛けて波状攻撃を仕掛けてきた!
例の『カチューシャMRL』は全てパージし、サブに銃をセット。
「刀だけじゃなく、銃もちゃんと使えるよー! 刀で突っ込む方が好きだけどね!」
『ん。……色んな武器が使えれば、取れる戦法も色々』
炎の熱と爆撃の音が各地で鳴り響く中――
特にスキルを使うでもなく、手近な従魔から一匹ずつ相手にしてゆく鎧とマーズ。
自分の防衛拠点。つまり東京海上支部へと突破されても特に気に掛ける事は無い。
なぜなら追えば不利になる事は百も承知だからだ。
「流石に数が多いな……」
多勢に無勢とはこの事か? 次第に敵の侵入を許してしまうのも最早、仕方がない。
それでも、体の持つ限りは武器を振るい続ける。
そしてその時だった。
「――な!? オイ! マジかよ!!」
遠距離から何かが高速で飛翔しながら迫ってくる――!
それは竜。所謂ドラゴンの形を成した一体の愚神。
「我は『愚神鳳凰四人衆』の1人。故に名は無い。貴様等リンカーはよく頑張った。もう眠りについても良い頃合いだろう」
「くそっ、もう体が動かねぇ」
『なぁ、鎧。俺ら、ここまでのようだな』
「へっ、しょうがねぇよ。何の対策も打てなかった。情報が少なすぎたんだ」
そんな会話をしている最中にも次々に迫りくる従魔に目を向けて――
「あぁ、俺の夢もここまでか」
鎧とマーズ、2人ともが諦めかけていたその時――
「貴様等、本当に支部を壊滅させる気か?」
共鳴したエレオノールとトールが眼前に立ち塞がった。
「プリセンサー、敵の親玉の存在は感知できてんだろうな? ……えぇい、ライヴスが一番でかい奴がどこにいるか教えろ!」
『ライヴスが一番大きい愚神……それこそ一番の親玉だよね』
しかし、そこには既に他の仲間達が愚神と遭遇していた――つまり今ここでヘリに乗っている愚神対応班一行も早急にそこへと向かう事が出来たのだった。
――果たして今回の黒幕は……一体?――
『愚神鳳凰四人衆』――残り一体。しかしその最後の1人はトップの愚神の傍に控えていた。
「なるほどな。つまり、貴様等『愚神鳳凰四人衆』がこの東京海上支部を潰す為に近辺をうろついてるのは分かった。だが――」
共鳴した赤城とヴァルトラウテがその後の言葉を紡ごうとしたのをまるで遮るかのように、敵である愚神のトップは言った。
「我々の『殺陣』を逆に潰してやるとでも――?」
「――その通りだ!!」
そしてその言葉を合図としてヘリに乗っていた愚神対応班がやって来て無事合流――!
「今回バトルメディックは私と正宗さんしかいません。盾になる大門寺さんと三木さんの負担が大きくなるでしょうから、私とリディスで軽減しましょう」
『愚神がフェニックスとか偉そうに! ユリナ、みんな、あいつらの目論みをぶった切っちゃおう!』
「先手必勝、頭を落とせば後は烏合の衆! ――急々如律令!!」
「……どうやらアレらしいが」
『私には同じ様にしか見えません』
愚神発見次第、即座に『グラヴィティフィールド』を使用した一真と月夜。容赦なく相手の行動を阻害し、重力による空間が出来上がる。
そして、連続でスキル『ブルームフレア』も容赦しない。強烈な熱風がやがて炎の嵐となり、重圧空間で一瞬、身動きが取れなくなった愚神2体に襲い掛かった!
その後、奇襲攻撃を敢行! それに便乗する他の仲間達!!
しかし、トップの愚神とその傍らにいた愚神(まるで鎧武者の様な格好をした天狗を想起する)もここで終わる訳にはいかないと、迎撃態勢に入った!
だが、その攻撃は基本、御屋形様と常に行動をとっていた三木弥生と三木龍澤山禅昌に弾かれた!
刀での刺突をまず防御でカバーした三木は、扇を身構えたトップの愚神の射撃攻撃で火力が高いと瞬時に判断、『ターゲットドロウ』を優先に使用!
全ての攻撃を自分に向けさせるが、その際に鎧の力で相手の恐らくライヴスの光の矢の軌道を真下に捻じ曲げた!
「――何?」
「どこを狙っているのですか? 私がいる限り御屋形様に傷一つつけることは出来ないのであります故!」
そして御屋形様のカバーリングを続けながら隙を見て『女郎蜘蛛』を使う!!
相手に混乱とじわじわとしたライヴスのネットが絡まり、少しずつ動きが鈍くなっていく――2体の愚神!!
そこから更に追い打ちをかけるリンカー達。
『グングニル』を装備した、月鏡とウィリディスは――
『メディックだからってユリナの攻撃を甘く見ないで!』
「彼の敵を打ち貫け、神の槍!」
投擲された『グングニル』は真っ直ぐとトップの愚神の身体を貫通――!
そしてそこから電光石火で戸惑っているもう一体の配下の愚神に対して先制攻撃を浴びせたのは桜と翼だ。
「ボク達は絶対に負けないよ!」
『私達には希望(H.O.P.E.)があるからな……!』
そしてその愚神相手に一方的にひたすら攻撃をする。
未だ、戸惑っているその愚神に己の武器に力を溜めたライヴスの一撃、『一気呵成』で嘲笑うかの如く転倒させ隙を作り『へヴィアタック』でもう一度重い一撃を加える!
スキルを惜しみなく使い、相手を徹底的にぶちのめす!! その間、トップの愚神はまるで最初からいなかったかのように兎にも角にも無視。
そんな中、『ロケットアンカー砲』を使って轟音を轟かせたのは正宗とCODENAME‐Sだ。
じわじわと減退ダメージを喰らっていた敵達は更に束縛の生贄に捧げられた。
そして『ターキーハンマー』に瞬時に持ち替えて殴り、敵の隙も許さずに『ブラッドオペレート』を使い斬り裂き摩の如く八つ裂きに痛恨の一撃をお見舞いした。
ナタリアとシルトはメインの装備を『ナイトシールド』に持ち替え防御中心に立ち回り、相手の動きが徐々に鈍くなった隙を見計らって上手くタイミングを図り攻撃開始。
『ライヴスブロー』を惜しみなく使い、さすがは元軍人。一部の隙もなく容赦なく相手に攻撃を叩き込んでいく――!
しかし大分弱ってきたトップの愚神ともう一体の配下愚神は遂に最終手段に打って出た!
「我々の『殺陣』――よもや、貴様等リンカーがここまでやるとは予想だにしていなかったが……あの方の為にも完遂せねば……!!!」
あと一歩と言う所で、トップ愚神――未だ名も知らぬ強力な愚神は、いきなり空中に旋回したかと思うと、持っていた巨大な扇を翻しブツブツと詠唱呪文の様なモノを唱え始めた。
「また随分手の込んだ真似をしたもんだな。誰の差し金だ?」
赤城とヴァルトラウテが皮肉混じりにそう言うと――
『先生の教え通りにやればいいんだ……! させないよ!』
すぐさま、『クリスタルフィールド』を構え、相手の詠唱呪文らしからぬ魔法攻撃に対応しようとする共鳴中の月鏡の片割れウィリディスはなるべく落ち着こうと自分に言い聞かせる。
「みんな、最後まで気を抜かないで!」
『絶対に諦めるな!』
攻撃の手を弛めなかった桜と翼は尚、果敢にも相手愚神に電光石火で挑もうとしている。
「わたし達はこんな所で負ける訳にはいかないよね……! もう誰も、失わせない」
ひたすらカバーリングで立ち回りして攻撃よりも防御を優先していた杏奈とレミに余裕はなく――眉間にしわを寄せ、決意新たに身構える。
「……」
沈黙でその場のピンチを覚ったのか『クロスグレイヴ・シールド』を構え、敵からの攻撃を庇いその後の事も予想し、回復スキルをいつでも出来る状態を保つ正宗とCODENAME‐S。
絶対に最後まで戦い抜くこと、そして誰一人出来るだけ無傷で今回の任務を遂行する事を心掛ける。
あの方――それは一体誰を意味するのか? 今のリンカー達は戦う事に夢中で、そこに思考の入り込む余地はなかった。そして次の瞬間――
まばゆい閃光がトップ愚神に集束し、その場にいた従魔達の魂を捕食! 全てのライヴスのエネルギーが雷と化し、巨大な扇を天高く掲げたトップ愚神にズドン! と、落下した。
――『殺陣』の形成!――
あらゆる魑魅魍魎の混沌とした魂の叫びが――呪いの呪詛となって、リンカー達に襲い掛かる!
それはかつての武闘を想起させた。死せる従魔達の魂の叫び。そして、弱肉強食の世界に蔓延る残酷無慈悲な生死の境界線――。
だが、あらゆる従魔達の闘争劇もほんの一時でしかなかった。恐らく、ここで従魔討伐に当たっていたリンカー達がほとんど蹴散らしていた為だろう。
――『殺陣』は未完成で終わった。そしてトップの愚神は最期の時までその名を語る事無く散っていった。だがしかし、それが本望だとでも言わんばかりに愚神は己の命と引き換えに『殺陣』を実行した。
東京海上支部を一瞬で壊滅させる魔法の正体。それは大量の従魔達の混沌としたライヴスに宿る闘争の思念を利用した捕り物劇。
しかし、一時とは言えそれをもろに喰らったリンカー達が無事な筈はない。
最初に起き上がった月鏡とウィリディスは多くの仲間を範囲内へ入れられる様に『ケアレイン』を発動。
「天の水瓶よ、生命の滝となり同胞の戦傷を癒やせ! ゾーエ・ヒュエトス!」
『ケアレイン』にて何とか立ち上がったリンカー達。だが、まだやるべき事があった。
トップの愚神は陥落し、強力なライヴスの力を失った他の愚神達を纏めて片付ける為、一真と月夜はまたヘリへと搭乗。他の仲間達もそれに追随する。
高速詠唱、持ち物『奴隷の石』と『不死者の丸薬』を換装、武器を『金鳥玉兎集』から錫杖『金剛夜叉明王』に換装。残りの位置をプリセンサーに割り出させる。
「東京支部に向かった奴等は防衛班が対処しているはずだが、どうにも気になるな。だが、他の連中の事も気掛かりだ。ここにいるメンバー達を分散させて対処しよう」
それに否やを唱える者は皆無だった。
「プリセンサー頼むぜ。今回の不始末はキッチリと付けてもらわなきゃな。なんてったってH.O.P.E.東京海上支部の危機を俺達だけで救おうってんだからな!」
リンカー達はかなりの怪我を負ったものの、支部から特別救護班が到着。回復してもらって今回は事なきを得た。
●
こうして愚神達の『殺陣』なる策略はリンカー達の手で何とか事なきを得て、H.O.P.E.東京海上支部はいつもの日常を取り戻す事が出来た。
だが――
「何とか今回の15人のリンカー達の活躍のお蔭で私達も助かりましたね」
助手の女性監査員はそう言うと、上司の男はその場から無言で立ち去ろうとした。しかし、その背中をジッと睨み付けながら女性監査員は続けてこう言い放った。
「どちらへ行くお積りですか? 上司。いいえ、ヴィランさん?」
「――フン。どの道、君にだけはバレる事はお見通しだったよ」
今回の情報戦――『殺陣』――の黒幕はこの上司の男だった。
この男の正体はヴィラン。かつてのエージェントとしての肩書きを持ち、それを利用してH.O.P.E.東京海上支部内部から情報を操作。全てをうやむやにし、かつ有力な情報を極力見破られない様に自らを『殺陣』なる盾とし、その中核となって演じたのだ。
派遣されてきたリンカー達の混乱を招き、その隙を見てH.O.P.E.東京海上支部を外側は『愚神鳳凰四人衆』と従魔達、そして内側からは自らの手でひっそりと壊滅を狙った。
つまり、『愚神鳳凰四人衆』はこの旨い話に飛びついた影武者だったのだ。愚神達が言っていた――あの方――とは、このヴィランの男を差していた。
――これが今回の事件の真相。
『殺陣』とは、映画や演劇等で乱闘、捕り物、斬り合い等の演技や立ち回りを表す言葉として伝えられてきた。
最早、ヴィランと言う素性が明かされた今、この寸劇――いや、喜劇に踊らされていたのは何も15人のリンカー達と『愚神鳳凰四人衆』と従魔達だけに止まる事は無かった。
このヴィランの男もまた、『殺陣』なる悲劇の役者としてその情報戦の一部に取り囲まれた1つの駒。
外側から傍観する事を望んでいたのがいつの間にか内側へと引きずり込まれていた。他でもないリンカー達の命を削る戦いによって。
無策の中から策が生まれる様に――策士策に溺れるとはこの事か?
まるでホームから一気にアウェイへと空間が切り替わるある種の魔法の様に。
しかし、1人のヴィランが内部に潜んでいたと言う事実は結局の所H.O.P.E.東京海上支部の杜撰さを引き起こした。
それを知った時の15名のリンカー達の怒りの矛先は一体どこへ向かうのか――?
――全てはこの『殺陣』の中から生まれる。(了)
結果
シナリオ成功度 | 普通 |
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