本部

ジャックオーランタンの宴

東川 善通

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/24 20:57

掲示板

オープニング

●眠りカボチャのお目覚め
 雑貨店が管理するとある倉庫。そこには店主自らが作ったハロウィンカボチャ――ジャックオーランタンが所狭しと並べられていた。その中には体まで作ってもらったカボチャもおり、それは服を着せてもらい、フードを羽織り、丁寧に椅子に座らされていた。この大小様々なカボチャたちは毎年、ハロウィンの時期に雑貨店に飾られる。しかし、新しいものも作るため、どんどんとその倉庫には増えていった。
 10月、例年の如く店主はその倉庫の前にやってきていた。
「さぁ、僕のジャックオーランちゃんたち、いい子に……」
 ガラガラと鉄の扉を開け、目に飛び込んできたのはぴょんぴょんと跳ねるカボチャと歩くジャックオーランタンの姿。店主は驚き、開けた扉を閉め直した。
「ぼ、僕のジャックオーランちゃんが歩いてた!」
 店主にとっては最高傑作ともいえるジャックオーランタンが動いていたことに僕の魂がカボチャに伝わったのだと喜ぶ。しかし、もう一度確かめようと扉を開けた瞬間、目の前には動いていたジャックオーランタンの姿があった。
「ひっ!」
「ハ~ッピ~ハ~ロ~ウィ~ン」
 先程の喜びはどこへやら、恐怖のあまり尻もちをついてしまった店主にジャックオーランタンはニィと笑いながら、そう声を発した。そして、扉の隙間から、外に出ようとしているのだろうガタガタと扉を揺らす。
「は、ハロウィンはまだだよ。まだ、倉庫で眠ってて」
 店主は体に叱咤を入れ、ジャックオーランタンを倉庫の中に押し込み、急いで扉を閉めた。そして、出てこられないように頑丈な鍵をとりつける。
 倉庫を閉める際に扉に向かって飛んできた火の玉。それは奥のカボチャがそれを吐き出したということだった。店主の脳はわずかな時間ながら、それを記憶していた。それに恐怖を覚えつつ、店主は自宅のテーブルに突っ伏す。
「僕のジャックオーランちゃん……」
 数年前に作ったそれは頭の中にレコーダーを入れ、亡き妻に頼み込んで声を吹き込んでもらった可愛い可愛い娘のようなものだった。妻の声で愛らしく「ハッピーハロウィン!」というその姿はハロウィンの時期に雑貨店には欠かせないものだった。しかし、今年は飾ることはできない。
 命が宿ったことに一度は喜べたが、あの不気味な姿を見ると今はもう喜ぶことはできなかった。


●目覚めカボチャを眠らせて
 H.O.P.E本部に設置されている雑談室。そこにオペレーションを担当している若い女性が入ってきた。そして、彼女は自身が声をかけ集まってもらっていたエージェントたちのもとへと真っ直ぐ向かう。
「お忙しい中、集まってもらって、ありがとうございます」
「それで、我々にご用とは」
「これは正式な依頼ではなく、私の叔父からの相談でして」
 彼女から語られたのは雑貨店を営む叔父の倉庫であった出来事だった。彼女がそれを聞いた時に彼に恐らく従魔が取りついたのだろうと話したそうだ。そして、その従魔の引きはがし方も説明したと。
「叔父は『それじゃ、ジャックオーランちゃんも壊さなきゃね』と寂しそうに言ってました」
 カボチャである点と作品の数からして壊した方がいいと彼女は伝えたそうだ。それにはエージェントたちもそのほうが早いなと頷く。
「ただ、ジャックオーランちゃんは叔父にとって、大切な娘なんです。無傷とは無理でしょうから、彼女の頭の中にあるレコーダーだけはなんとか回収してもらえないでしょうか」
「そのレコーダーが頭にあるのは確実なんだね」
「はい、それは間違いなく」
 叔父がレコーダーを入れ、ジャックオーランちゃんを完成させる時に彼女も一緒にいたようで、しっかりとその問いに頷いて見せた。
「どうか、お願いします」
 ぺこりと頭を下げた彼女にエージェントたちは顔を見合わせ、頷いた。

解説

 レコーダーの回収及び従魔の殲滅。

●倉庫
 出入り口は鉄の扉のみ。鉄格子がはめられた窓はあるものの高い場所に設置されており、梯子がなければ届かない。尚、内部ではその高さにものなどないため、侵入できたとしても、危険があるとのこと。
 建物の構造としては一度火事に見舞われたこともあり、石積みにした上に倉庫強度を上げるため鉄で補強してある。そのため、カボチャである点もあり、従魔たちは外に出られていない。部屋は一室のみである。

●ハロウィンカボチャ
 小型、中型のカボチャ。イマーゴ級。
 攻撃は跳ねる、体当たり、噛み付くだが、噛み付くに至ってはカボチャであるのでそれほど攻撃力はない。ただし、魔法に対しては耐久が多少ある。

●お化けカボチャ
 大型のカボチャ。イマーゴ級。
 攻撃はハロウィンとほとんど変わらないがプラスで火の玉を吐き出す。ただし、火の玉を出すとライヴスを消費するためか近くにいるハロウィンを喰らう。多少、攻撃力はある。防御は紙。

●ジャックオーランちゃん
 体が付いているカボチャ。ミーレス級。
 頭の中にレコーダーが入っているため、歪な声が時折、再生される。体は木を土台に綿と布で肉付けされている。
 攻撃は火の玉を吐く、持っているランタン(火はつかない)を振り回す、近くにいるカボチャを投げる。
 他のカボチャよりも耐久性はあり、攻撃力も高い。

リプレイ

●雑貨店
 緋山 集(aa0089)とラクウェル ハーシェル(aa0089hero001)が尋ねた依頼主の雑貨店は基本的に可愛いものを取り扱うのか、見る限りそれが多かった。ラクウェルは「集、これ、可愛い」と商品を手に取っては集に見せてきた。
「いらないし、買わない」
「えー、こんなに可愛いのに」
「あっても邪魔なだけだし」
 ばっさりと切り捨てれば、むぅとむくれるラクウェル。そこに「お待たせしました」と店主がやってきた。店の看板を反してくると店外に出ていっていたのだ。
「それで僕に聞きたいこととは?」
 商品であるらしいテーブルに集を案内し、店主も席につく。複雑そうな顔をしたのだろう店主はそれに気づき、「常連のお客さんとかも座ってるから大丈夫だよ」と笑う。集はそんな店主の姿に小さく溜息を吐いたのち、本題を切りだした。
「あー、倉庫のレイアウトかぁ。基本的にあそこはかぼちゃを保管する用で購入したから、棚がびっしり並んでたんだよね。でも、この間開けたら、棚はぐちゃぐちゃに潰れてたよ。もう、綺麗に内部が見渡せちゃったよ」
 でも、また一から作り直しだよ、あははと笑う店主。どうにも能天気なのかずっとにこにこと笑みを浮かべていた。
「あと、レコーダーの大きさなどは」
「レコーダーは確かこのくらいだったかな」
 幅約4センチ、高さ約11センチ、厚さ約2センチだったはずだと近くにあったそれに近い箱を手に取り、集の目の前に置いた。そして、聞いてもいないのに、取りつけた場所まで説明を加えてくれた。要件も終わったと立ち上がると店主が思い出したように声をあげ、集もラクウェルも行動を止める。
「お茶だしてない」
「大丈夫です」
 重要なことかと思えば、と溜息を吐きつつ、それに断りを入れると店を後にした。途中、集と同じく店主に話を聞きに行こうとしている鶏冠井 玉子(aa0798)とオーロックス(aa0798hero001)と会った際、聞いてきたことを伝えれば、「あぁ、助かるよ。ただ、僕らはカボチャについても聞きたいから、問題はない」と言い、玉子は集と分かれ、雑貨店を尋ねた。
「いらっしゃいませ」
「あの、クローズとなってましたが、大丈夫ですか」
「あー、戻すの忘れてたよ。お嬢さん、ありがとう」
 店主は忘れてたと店外に出ると看板を再度反し、玉子のところに戻り、要件を尋ねる。
「実はカボチャについてなんですが」
「看板、クローズにしてきた方がいいかな」
「いえ、長くはなりませんから」
 再度、直しに行きそうな店主を止め、玉子はカボチャについて尋ねれば、苦笑いを浮かべる。
「あのカボチャは食べられないんだ。元々、そういう品種でね。それに長く使用できるように防腐剤とかも使用してるから」
 余計食べられないかもと言えば、そうですかと頷き、食べられないにしろ、従魔を討伐した後に、欠片をもらっていいかと聞けば、別に構わないと店主は答えた。その後、店主からお茶をご馳走になり、玉子たちも店を後にした。
「中々、天然ものな主人だったな」
「そうだな。でも、人にも好かれそうだ」
 帰り道、そう話していると集から連絡事項という名で彼が聞いた情報がグループチャットに書き込まれた。それに玉子もカボチャの情報を書こうとしたが、約一名、自分と同じようなことを考えてそうな人物がいるのを思いだし、そっとそれを閉じた。


●カボチャ倉庫
 倉庫前にエージェントたちは集まっていた。
「……数、少なくありませんか?」
 シグルド・リーヴァ(aa0151)が首を傾げれば、隣にいたセレシア(aa0151hero001)も周りを見渡し確かにと頷く。それにカリスト(aa0769)が皆月 若葉(aa0778)とその英雄ラドシアス(aa0778hero001)は既に梯子を窓に立てかけ、中の様子を窺っているため、ココには居ないと告げた。アルテミス(aa0769hero001)は「早く中の様子が知りたいですわ」と微笑んでいる。
 わかったと杵本 千愛梨(aa0388)は手を挙げ、杵本 秋愛梨(aa0388hero001)も「……人数を確認したら、一組足りない」と呟く。
「すまんすまん、遅くなった」
「ちょっと、なによ、その格好!?」
「え、だって、ハロウィンでしょう?」
 遅れてやってきた剛田 永寿(aa0322)と夜刀神 シン(aa0322hero001)はクマとはにわの着ぐるみに身を包んでいた。それにカペラ(aa0157)が声を上げればシンはなんで怒られるんだと首を傾げる。
「ところで、剛田さんどうして、こんなギリギリになったですか?」
「あぁ、家からこの格好で来たら途中で職質されてな。エージェントだって何度も言ったんだが」
 佐倉 樹(aa0340)に問われ、永寿はあれには参ったぜと豪快に笑う。
「……おっきいクマさんとはにわさん」
 呆れたと溜息を吐く樹の傍で永寿とシンを見ていたシルミルテ(aa0340hero001)は二人を見上げながらそう零していた。彼女の身長からしたら、永寿とシンはかなり大きい分類に入るうえに今は着ぐるみを着こんでいるため、異様な迫力を感じていた。

 所変わり、倉庫の窓付近。若葉とラドシアスは共鳴をし、梯子に登っていた。
「敵の数は、いち、にぃ……。えーっと、扉の右側に」
『……お前から見ての左右ではなく、扉を正面にした場合で考えろよ』
「……あぁ、そっか! 了解、了解」
 窓から様子を見てた若葉は数を数えるもののラドシアスに注意を受け、また最初から数え直す。ただ、ぴょんぴょんと跳ねまわるカボチャに「あー、もう! 動くなよ、数えらんねー」と若葉は文句を垂れる。しかし、それは届くはずもなく、好き勝手に動き回っている。
『そもそも、数が多過ぎるだろ。大体、固まっているほうを連絡すればいいんじゃないか?』
「それもそっか。にしても、扉のところに結構いるね」
『何かがいるって気づいててもおかしくはないけどな。気づいてなかったとしても外に出るために開いたタイミングで飛び出るためだろうな』
「じゃあ、出来るだけ、こっちに引きつけておく必要があるね」
 どれだけ来るかわかんないけど、状況だけでも写真で送っておこうと何か所かに分けて若葉は写真を撮るとそれをグループチャットに貼りつけた。


「あ、写真が来ました!」
 扉の真ん前で待機していた九字原 昂(aa0919)が声を上げれば、樹の持ってきたしーつテーブルクロスをどのタイミングで使うかという話し合いをしていたシグルドたちが昂のもとに集まる。
「……結構、沢山いるんですね」
「この体が付いているのが私たちの標的ですわね」
「まぁ、とっても愉しそうなパーティだわ、ね、カリスト」
「アルテミス様、これはパーティではなく、お仕事ですよっ」
「これが発砲でどれだけ扉から意識が逸れるかが問題だな」
 個々に写真について分析しつつ、アルデバラン(aa0157hero001)がそう呟けば、永寿とシンを除く、全員がそうだなと頷く。永寿に関しては、出て来たらブッ飛ばせばいいだけだろ、任せろと胸を叩いた。
「五分後に発砲するらしいので、改めて、僕が扉を開けるので」
「俺が二番手に入って入り口に入る奴らをブッ飛ばす」
「チアたちはジャックオーランちゃんの相手だね」
「……うん」
 改めて相手を確認すると全員、武器を手に取り、発砲を待つ。


 携帯で写真を送ってから五分後、銃を構え、窓の近くにいるカボチャを目がけ、発砲した。パンッと乾いた音と同時にガラスの割れる音も響き、カボチャたちの目が一斉に若葉のほうに向いた。
「うわぁ、これはこれで凄い光景!」
『できるだけ、打ち込んで、こっちに気を引こう』
「わかってるって」
 目の端で扉が開くのを確認しつつ、出来るだけこっちに来いとカボチャを目がけ、何発か打ち込んだ。カボチャたちは窓が見えるところに移動すると体当たりを繰り返したり、窓に向かって火を放つ。
「あづッ」
『鉄格子だから、な』
 火の玉は鉄格子に当たりつつも、宙にまで上がったものの跡形もなく消えた。避けるまでは上手くいった若葉だったが、不意に熱を持った鉄格子に触れてしまい、声を上げた。
「まぁ、外に逃げられることなく中に入れたみたいだし、俺たちも行こう」
 素早く、梯子を降りると出られないようにと少し閉められた扉を開け、遅ばせながら、合流した。
「ぼっこぼこのメッタメタのギッタギタにしてやるぜ!」
「着ぐるみだとちょっと動きづらいね~」
 ヌンチャクを振り回すクマとピコピコハンマーでピコピコと攻撃するはにわの姿。しかし、あんまり効果がないのか、カボチャたちは後ろに飛ばされるだけでその数は減っていない。
「ちょっと、真面目にやりなさいよ」
「真面目にやってるんだけどな」
 攻撃が効いてねぇみたいだし、共鳴すっかとクマに消えるはにわ。クマ改め、永寿はさて、本番だと肩を回す。そして、改め、戦闘態勢になると飛んでくる火の玉をヌンチャクで巧みに防ぎ、お化けカボチャを防いだ流れからそのままヌンチャクを振り下ろす。
 そんなクマの傍でカペラは拳を振るっていた。
「切りがないわね。全く、どんだけ、作ってたのよ」
『人を喜ばせるために作っていったらこうなったんだろう』
「これだけの数になれば、喜ぶどころか、恐怖ね」
 カペラはお化けカボチャを喰らおうと集まったハロウィンカボチャがまとまったところにジェミニストライクを打ち込む。音を立てて脆く崩れていくそれにまだ硬くないだけマシねと呟き、攻撃の手を緩めない。
 一方ではまるで踊るようにカボチャたちの攻撃をひらりひらりと避ける少女の姿。
『さぁ、おいでなさい。特別にお相手してもよろしくてよ』
 くいくいと手でカボチャを挑発しつつ、的確に射貫いていく。
『まあ……なんて躾がなっていないのかしら。淑女に突然飛びつこうだなんて……』
 飛びかかってくるカボチャたちにそう言いながらも、軽やかに攻撃を避け、矢を打ち込む。
「ジャックオーランちゃんだっけ、あれの周りからできるだけカボチャを引きはがさないとね」
 合流した若葉はストライクを放ち、ジャックオーランちゃんの傍からカボチャを確実に引きはがす。
『だいぶ、数は減っているとは言えど、まとめて一掃したいな』
「ほんと、それだよね」
 どっかに纏められたら『トリオ』とか放てるんだけどなと言いつつ、若葉はカボチャを周り集めていた。そして、少ないけど、いっかと呟くと早撃ちでカボチャを砕いていった。
「厄介なのは残ってるけど、最初よりはかなり減ったね」
 昂は小太刀で同時に何体ものカボチャを斬り捨てる。彼らが突入した時よりもお化けカボチャの量は確実に減っており、ハロウィンカボチャもお化けよりも残ってはいるが数を減らしていた。
 ボフッと火の玉が吐き出され、すぐさまハロウィンは近くにいたお化けを食べる。昂は火の玉を斬り落とし、丁度次の火の玉を吐き出そうとするハロウィンを斬った。ハロウィンの口の中で燃えていた火はそのまま小さな火となりハロウィンが崩れると同時に消え、煙を出していた。

「……本当にカボチャが動いてるし。古代ケルトの人達もびっくりしそう」
 玉子や千愛梨が直接相手になっている様子を見つつ、支援できる位置を確保する集。そんな集の呟きに『なんでランちゃんって言わないの?』とラクウェルが尋ねれば、当然のように「化物にちゃん付けしたくない」と答えた。
「もう少し、腕が上がればいいんだけど」
 弓を構え、見ると少しジャックオーランちゃんの腕が上がり、タイミングを外さないようにストライクを打ち込む。ビュッと放たれた矢は正確にジャックオーランちゃんの腕を捉え、その勢いはビリビリと布を裂き、腕を体から切り離した。
『あの人、とてもナイスネ』
「そうね、攻撃パターンが減ったし、動きやすくなった」
 樹は吹き飛ばされた腕を一瞥し、もう一方の腕も吹き飛ばす算段を立てる。が、すぐさま、周りにいるカボチャに目がいく。
「それにしても、減ったとはいえ、まだ周りにカボチャいるね」
 周りのカボチャに標的に合わせ、ブルームフレアを放つ。命中したカボチャは燃えやすくなっていたのかパチパチと燃え、炭になる。
『やられる時もハロウィンらシイ従魔ネ』
「そうね。でも、まだまだ数はいるよ」
『どんどん、減ラシちゃオウ!』
 呼び出した剣を放ち、ジャックオーランちゃんの武器にもなりそうなカボチャを排除していく。
『ちーねぇ、危ない』
「ありがと、シア」
 意識が飛ばされた腕にいっている間に近づいて来たらしいジャックオーランちゃんが未だにあるランタンを持った腕を振り下ろしてきた。しかし、秋愛梨が気づき、それをシールドで防ぐ。
「ハ~ッピ~ハ~ロ~ウィ~ン」
 不気味な声が響く。それに千愛梨は苦笑いを浮かべ、「それは君のものじゃないよ」というと体に蹴りを入れた。バランスを崩したジャックオーランちゃんはガガと機械音を鳴らし、倒れこんだ。
『シグルド、腕を狙いましょう』
「うん、そうよね」
 残った腕にえいっと拳を降ろし、バキッと折る。腕がなくなったジャックオーランちゃんはバタバタと足を動かし、立ち上がろうとする。
「亀みたいね」
『今の内にボイスレコーダー回収しましょう』
 ぽつりと呟いたシグルドにセレシアは頷き、頭に触れようとした。しかし、セレシアがジャックオーランちゃんの視界に入ったこともあり、ぎょろりとセレシアのほうに目が動く。
『セレシア、注意してください』
「!!」
 シグルドが言うが早いか、ジャックオーランちゃんは口を開くとそこから火の玉を吐き出した。セレシアはとっさに拳でガードをしたが、若干、服の裾が燃えてしまった。
「セレシア君、大丈夫かい」
「……はい、なんとか」
『ふーっ、火の玉のことを失念してたな』
「そうだな。僕たちと対峙しているときには吐いてこなかったからな」
 全く、やってくれたよと言いつつ、集からの情報で得た、ボイスレコーダーの場所を目で確認し、頭の上をランスで狙う。
「いい度胸だな」
 ガツッと刺さったのは床だった。そのため、ジャックオーランちゃんの頭にはかすり傷程度なものしかできていなかった。
『気を付けろ。また、火の玉の可能性がある』
「もちろんだ」
 カパッと再度開き、口の中に火の玉が渦巻く。玉子が距離を取った瞬間、何発も宙に向かって火の玉を吐き出す。
「これは、危ないね」
 シールドを構え、千愛梨はその後ろにシグルド、集を置き、火の玉をガードする。勿論、近くにいた玉子はランスを持ってそれを捌く。
『エイッ』
 水を染み込ませたテーブルクロスを被せる。すると威力の小さくなった火の玉は少ない水でじゅわっと消え、煙が出る。重さもあるのか、ジャックオーランちゃんはバタバタと動くもののバンドで押さえつけられ、身動きができなくなる。
『早ク、レコーダー取ろウ』
「確か、カボチャの底にあるんですよね」
「そのはず。あの人が間違っていなければですけど」
「恐らく間違ってないだろう」
 若葉はジャックオーランちゃんの頭上部を狙い銀の魔弾を打ち込む。ビクンと体が跳ねると動かなくなった。
「やったか?」
「油断をしないほうがいいですよ。相手は人間ではなく、従魔ですし」
「チアが行こうか?シールドあるし」
「大丈夫みたいです。無事、回収もできました」
 ほらと手に取って見せる若葉は一応、警戒してしてとジャックオーランちゃんにブルームフレアを放つ。そして、あとはカボチャの殲滅ですねと見れば、「吹っ飛びやがれ!!」と残っていたカボチャをヌンチャクで飛ばすクマの姿。カボチャは壁に向かって、凄い勢いで飛んでいく。ただ、壁に一直線に飛んでいくものもあれば、ジャックオーランちゃんと戦っていた集たちのほうに飛んでくるものもあった。
「……危ないですね」
「全くだ」
 シグルドと玉子はそれぞれで飛んできたカボチャを払い落す。
「はぁ、暫くはカボチャ食べたくないかも」
 ようやく終わったと共鳴を解き、溜息を吐く集。
「よし、じゃあ家に帰ったら僕がカボチャの煮付けを」
「いや、いい。やめて」
 笑顔で告げたラクウェルの提案を即座に却下する。第一に料理得意じゃないだろうと言えば、勉強してるから大丈夫と口を尖らせながらも言う。
「……レコーダー、大丈夫ですか?」
 激しく動き回っていたジャックオーランちゃんの頭にあったということもあり、シグルドが尋ねれば、樹は少し怪しいですねと答える。先程から、再生してみているが、声が再生されないらしい。
「なんだ、それじゃあ、カボチャもらえねぇじゃねぇか」
「残念だね~」
 食料手に入るかなって思ったんだけどと落ち込むはにわ。
「あー、実はこれは食べれないカボチャらしいぞ」
「なん、だと!? じゃあ、俺が頑張ったの無意味だったのか」
「え~、そんな~」
 言わなかったのだがと玉子が事実を告げるとガーンと効果音が付きなほどショックを受けるシンと永寿。
「取りアエズ、開けタラ閉メルー。散らカシタらオカタヅケー」
「シルミルテ、今度はこっち」
「ハーイ」
 ふんふんと鼻歌を歌いながら竹箒でザッザッとカボチャの残骸を掃く。
「シグルドもお手伝いしましょう」
「うん」
「カリスト、やるからには徹底的に綺麗にしますわよ」
「はい、勿論です、アルテミス様」
 女性陣を中心に片づけをし始め、一部男性陣はレコーダーを直せないものかと一通り触ってみる。
「これは、難しそうだな」
「従魔の一部かした影響なのかな」
 やれ、店主になんて言おうと頭を悩ませる。
「あ、一応、殲滅が終わったことを報告したんですけど」
「どうかしたのか?」
 カボチャの一部を袋に詰め、持ち帰り用を作った玉子は携帯を手に皆に話しかけて口を閉じた昂に問いかける。
「いえ、今から来るそうです」
「俺は店主に文句を言うぞ。なんで、食べれるカボチャで作らないんだって!」
「うん、食べれるのがよかったね~」
「いや、それよりも前にレコーダーが問題でしょ」
 昂の報告にうおーと拳をあげ、そう宣言する永寿。そして、その能力者にしてその英雄ありきかとばかりに頷くシン。それに溜息を吐くカペラ。
 一先ずとばかりに、全員で片付け、レコーダーについてはあーでもないこーでもないと話し合いをするのだった。


●ハッピーハロウィン
「えっと、あの、ご苦労様です」
 ひょこっと顔を覗かせた店主に全員に戦闘とは違う緊張が走る。
「えっと、大切なものを守り切れず、すみません」
 回収した手前、自分が行くといい店主の前にレコーダーをもって頭を下げる樹。店主はそのレコーダーをそっと手に取る。
「中のメモリーカード見てみよっか。きっと、機械がダメになっちゃっただけで、メモリーは大丈夫かもしれないでしょう。それに君たちが凄く頑張ってくれたんだから、きっとそうだよ」
 おもむろに携帯電話を取り出し、レコーダーからメモリーカードを取り出すと携帯に差し込む。そして、ミュージックボックスを開き、唯一は入っているそれを再生する。全員に再生されるかと緊張が走る。
『ハッピーハロウィーン!!』
 鈴のように可愛い声が倉庫に響いた。それに全員の肩の荷がスッと下りる。
「ん? ということはカボチャ!!」
「でも、食べられないカボチャだよ~」
「そうだったー!!」
 食いてぇのにと叫ぶ永寿に気づいた店主は苦笑いを浮かべたのち、ちょっと待っててねと倉庫の外に出ていった。
「よかったですわ」
「本当ですね。きっと、アルテミス様のご加護があったんですね」
 それがきっかけとなり、よかったと全員が口々に言う。
「お礼ってわけじゃないけど、皆で食べて」
「これは?」
「僕の奥さんが好きだった『カボチャパイ』なんだ」
 彼が持ってきたものはいい香りのするものでピクリと永寿とシンが反応する。更にはシルミルテも反応する。
 置くところ置くところと探し、店主は壊れかけた棚の一部が使えると思ったのか、ずるずるとそれを持ってきて、そこにカボチャパイを並べる。
「ランさんがね、とっても好きだったんだよ、これ」
「ランさん、奥さまですか?」
「そう、僕の奥さまなんだ」
 えへへと照れたように笑いながら、どうぞ食べてくださいと言えば、一番に手を伸ばしたのは勿論永寿だった。ついでシンが手に取る。
「早速、カボチャ来ちゃったね」
「はぁ、食べないわけにはいかないね。折角、出してくれたし」
 さっき見たくないって言ってたのにねと言えば苦虫を噛み潰したような渋い顔をしつつ、パイを手に取る。
「うめぇ」
「本当に美味しいな~」
「剛田さん方、食べすぎですよ」
「あー、大丈夫だよ。きっと、いっぱい食べてくれる人がいるんじゃないかなって思っていっぱい作ったから」
 どんどん食べて、という店主に遠慮なくと手を伸ばす。余ったら持って帰っていいからと言えば、より喜ぶ永寿。そして、そこから、飲み物なども並べてもらい、自由に飲み食いする形となった。
「……あの」
「どうかしたかい? あ、もしかして、口に合わなかった?」
 それなら、無理して食べなくても大丈夫だよと言えば、そうではなくてと口ごもる。
「シグルドはあなたにジャックオーランちゃんの作り方を聞きたいのです」
「あぁ、勿論。今年もいいカボチャもらったから一緒に作ろっか」
 ちょっと持ってくるよと道具とカボチャを取りに出ていき、その間に食べる班とジャックオーランタンづくりの班に分かれていた。
「ミンナで作るノモ、飾るととってもハッピーだと思うノ」
「いいね。じゃあ、皆で作ろう」
 ここをこうしてねと丁寧に教える店主に各々好きなように顔をくり抜き、ジャックオーランタンを作る。そして、完成したものを並べるとそれぞれの個性がでたジャックオーランタンたちが並んでいた。
「うん、今年のお店はこれで楽しくなるね」
『ハッピーハロウィン!!』
 自然に流れたその音にびくりとなるがすぐにふにゃりと笑い、ランさんもそう言ってくれてると笑う。


「あ、トリックオアトリート!」
「はい、お土産にどうぞ」
 そして、解散という形になり、忘れたとシルミルテがそう言えば、笑顔でどうぞと手にクッキーを置く。カボチャのクッキーに目ざとく見つけた永寿が俺もと声を上げ、店主は勿論、といって全員に配った。
「どれだけあの店主は作ってたんだ?」
「さぁ、どうだろうな。だが、中々、いい食材を使っているようだ」
「あぁ、それは言えてる。パイは一種類だけではなく何種類かあったし、結構こだわっているんだろう。これは、僕も負けてられないな」
 とりあえず、帰ったら、カボチャの分析をしてみるかなと呟いた。その後ろでは若葉とラドシアスが「もうすぐハロウィンだな」とハロウィンの話をしていた。


 後日、雑貨店には最後の最後に全員でとった『ハッピーハロウィン』という音声とランの音声が仲良く二体のジャックオーランタンの人形から流れていた。さらに、皆で作ったジャックオーランタンは色々なところに飾られ、訪れる人に笑顔を届けてるのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340

重体一覧

参加者

  • エージェント
    緋山 集aa0089
    人間|17才|男性|命中
  • エージェント
    ラクウェル ハーシェルaa0089hero001
    英雄|16才|女性|ジャ
  • 腹ぺこワーウルフ
    シグルド・リーヴァaa0151
    機械|14才|女性|回避
  • 財布を握る妖精
    セレシアaa0151hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • シャドウラン
    カペラaa0157
    人間|15才|女性|攻撃
  • シャドウラン
    アルデバランaa0157hero001
    英雄|35才|男性|シャド
  • エージェント
    剛田 永寿aa0322
    人間|47才|男性|攻撃
  • エージェント
    夜刀神 シンaa0322hero001
    英雄|27才|男性|ブレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 囮姫
    杵本 千愛梨aa0388
    人間|23才|女性|攻撃
  • ハッピー☆サマービーチ
    杵本 秋愛梨aa0388hero001
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 慈しみ深き奉職者
    カリストaa0769
    人間|16才|女性|命中
  • エージェント
    アルテミスaa0769hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



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