本部

【屍国】連動シナリオ

【屍国】幽玄より参る者

雪虫

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 5~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/05/17 00:15

掲示板

オープニング

●四国被害状況
 ゾンビ達の侵攻地域は拡大の一途を辿り、感染者数も増大傾向。
 四国山脈の所々では動物のゾンビ化が頻発。
 本州四国連絡橋の補修工事は完了しておらず、未だ通行止め。
 感染者数に対して治療薬の数が足りず、増産要請中……
 
●任務通達
「七十五番札所、善通寺。本尊にある薬師如来坐像は、空海の作った本尊の焼け残りをその胸に収めている。
 八十八番札所、大窪寺。本堂奥殿にある薬師如来坐像は空海が作ったと言われている。
 いずれも空海にゆかりのある寺であり、かつ、敵は何らかの理由でこの二つの寺を狙っているものと考えられる」
 オペレーターはエージェント達も手にしている資料の中身を読み上げると、二枚目を、と指示を出した。言われた通りに紙を捲れば、そこには「善通寺」の文字と地図。
「現在、HOPEは敵の襲撃に備えこの二つの寺にエージェントを派遣し、交代で護衛任務を行ってもらっている。君達には善通寺に赴き現在任務中の者と交代、そのまま護衛に就いてもらいたい。なお、周辺の善通寺市民は自衛隊の協力も得て避難しているため、市民の安全について心配する必要はない。襲撃があった場合は戦闘を行う必要があるし、襲撃がなかったとしても夜通しの任務となる。各自十分準備をした後、現地に出発するように!」

●邂逅
 夜。渋滞や悪路に巻き込まれ、マイクロバスは予定より大分遅れて暗闇に沈む善通寺市を訪れた。オペレーターの言葉通り、市民は全員この地から去っているようだ。見える光は街灯のみ、人の気配はまるでない。たまに烏の鳴き声が耳に入ってくるが……感じられるのはそれだけだった。
 このままバスで善通寺近くまで移動、現在任務に就いている者と入れ違いに護衛を行う。夜通しの長い任務を思い、誰かがふうと息を吐いた――瞬間、全員が今正に起きている異常事態に気が付いた。何故、深夜なのに烏の鳴き声が……闇夜では動けぬはずの烏の声が聞こえてくるのだ。
 異変を悟ったエージェント達が声を飛ばそうとした、その時、ドシャンッ! と巨大な音と振動がバスの前方に襲い掛かった。同時にエージェント達の全身に鉛のような重みが掛かり、エージェント達は呻きを漏らしながらも、状況を確認しようとそれぞれ視線を持ち上げる。確かにあった運転席は見る影もなく潰されており、壁とひしゃげた運転席の隙間から、変わり果てた運転手の手がぶらんぶらんと揺れていた。
 突然の出来事に誰もが息を飲んだ――と、血塗れになった運転手の腕が、緩慢な動きで持ち上がり、自身を挟む壁と座席の隙間に手を差し入れた。運転手は……運転手だったものは腐敗が始まった腕でなんとか瓦礫を押し退けると、爛れた皮膚、溶けた眼球をエージェント達にぎょろりと向ける。
「あァああああああ」
 ゾンビ。
 蠢く死体としか言いようのないその姿は、今正に四国を冒し貪る脅威の影。その悲劇に、一瞬にして成り果てた運転手の姿にエージェント達は重い体を奮い立たせて動き出した。何故、一瞬にして運転手がゾンビに変わり果てたのか、その理由をすぐさま当てる事は不可能だったが、いずれにせよ今すぐ外に出て状況を把握しなければ。共鳴してAGWで扉を壊し、エージェント達は闇の中の善通寺市へと転がり出る。とにかく状況を、とそれぞれ視線を上げた無人の道路の真ん中に、佇んでいたのは数多の烏と、それらに囲まれる一人の男。
「うん? なんだ貴様ら……ああ、“りんかあ”とか言う輩か。……そうか、この先の善通寺に用があるのだな」
 男性的でありながら、寒気がするほど美しい顔。
 身には僧衣を纏い、手には錫杖。しかし仏に仕える身の上ではない。
 愚かなる神にして、この四国を蠢く死者で満たそうとする。
 神門。
 その名を掲げる愚神が、今、人工の光を浴びながらエージェント達に視線を向けていた。
「車……とか言ったか。こちらに向かってくるのが見えた故に止めてみたが、成程、我は運がいい。烏で遊ぶのも飽いた所だ。鬱陶しい小蝿とは言え烏共よりは楽しかろう」
 何故、神門がここにいるのか。
 自分達を待ち伏せしていたのか。
 職員がゾンビと化したのはこいつの仕業か。
 あの烏共もゾンビなのか。
 善通寺は大丈夫なのか。
 こいつを振り切って向かうべきか。
 こいつを放置すればかえって危険になるのでは?
 様々な考えが一瞬にして頭を過ぎり、エージェント達は、それぞれ決意を固めるや己が得物を持ち上げた。エージェント達がこの愚神と見えた記録は一つだけ。それによればこの愚神はただ通り過ぎただけで、それだけで命ある者を蠢く死者に変えるという。ここで見逃す事は出来ないし、見逃して貰える事もないだろう。少なくとも善通寺に向かわせる訳にはいかない。
 逃げるどころか戦意を示す敵の姿に、愚神は、にいと、笑みを浮かべた。口元を微かに吊り上げながら、しかし切れ長の瞳の奥に険呑の光を滲ませる。
「空海めがと腹立だしく思っていた所だが、丁度いい。憂さ晴らし程度にはなるやも……か?」

●敵情報(PC情報)
 神門
 最低でもトリブヌス級と推測される。周囲に黒いもやのようなものを展開。もやを構成するものはウィルス従魔の発するライヴスと推測され、これに触れた生物(非リンカー)は一瞬でゾンビと化し、リンカーはステータスの劣化を起こす模様(ステータス劣化はもやの外に出ると回復する事が確認されている)
 他回復スキル、防御スキル、変則的な性能の単体攻撃スキル、恐怖的な幻覚を伴う範囲スキルが確認されているが、未だ不明点も多い
 
 烏
 夜だが何故か大量にいる

解説

●目標
 メイン:一定ターン神門の攻撃を耐え凌ぐ
 サブ:神門のステータスやスキルについて情報を得る
 
●状況
・バスで善通寺に向かう途中でバスが壁(進行方向の左側)に激突。バスの運転席は完全に潰れているので、バスを運転する事は不可能
・バスを運転していた運転手はゾンビ化
・エージェント達はバスを降りた所で神門に遭遇。善通寺までの距離は3km(移動力20の者が全力移動したとしても30ターン以上かかる)
・PC達は現在道幅20sqの道路上にいる(道の長さは判定的に無限として処理)。灯りは街灯のみ

●敵情報(PL情報)
 神門
 一定ターンが経過するといずこかへ移動する。まだ能力を隠し持っている
 何故か左手首から先がない(左手がない事は神門を詳しく観察した時のみPC情報として使用可能)
 リプレイ開始から2ターン経過で左手は完全に修復される。左手が修復されるまでの間神門は積極的に動かないが、修復後は積極的に攻めてくる
 
 烏ゾンビ×20
 全ステータスが低いが、10体で一気に敵に群がる事により【拘束】付与。倒すと烏の死体に戻るが、特定の条件下でゾンビとして復活する

 運転手ゾンビ×1
 既に完全に従魔と化しており、救出は不可能。PCに噛み付こうとする。倒すと腐敗前の死体に戻るが、特定の条件下でゾンビとして復活する

●その他PL情報
・PCが神門に遭遇したのとほぼ同じタイミングで善通寺は敵の襲撃を受けている
・敵は解説に提示されているもののみ(解説に提示されている以外の敵は現れない)

●その他
・使用可能物品は装備・携帯品のみ
・PL情報はPLのみが知っている情報。PCが使うためにはPC情報への落とし込みが必要/落とし込みが不十分の場合は使用不可
・提示している難易度は目標に対する難易度

リプレイ


 佐倉 樹(aa0340)は腰のベルトのハンディカメラを確かめた。余裕か、こちらの出方を伺っているのか、神門が動く気配はない。ならばまず、とシルミルテ(aa0340hero001)と共に僧服の男に問い掛ける。
「貴方は愚神なの?」
『妖怪なノ?』
 愚神と言えば異界からの来訪者、 妖怪と言えば元よりこの世界に存在したものの変化と考え。本当に過去の記録にある空海が封じた存在なのか、という疑問もある。故に、神門本人の自覚を問いたい。
「どうとでも捉えるがよい。どちらにせよ差異はない」
 言って神門は微かに笑った。他愛ない童の問答に付き合っていると言わんばかりに。その様を見ながら十三月 風架(aa0058hero001)がぽつりと呟く。
『こんな夜に鳥と戯れて遊んでいるとは暇人ですね……素直に善通寺に向かわせる気はない、か』
 まだ積極的に攻めては来ないが、善通寺へ向かおうとすれば侍らせる烏を差し向けるに違いない。あるいは神門自身が動くか……
『蕾菜、今回は自分が出ます。力の手綱は任せますよ』
「はい……おねがいします」
 風架の提案に零月 蕾菜(aa0058)は頷いた。数々の戦いを経て成長している、とは言え蕾菜の力は先代には未だ及ぶことなく、開花のときはまだ遠い。
 それでも、いつか強く美しい花を咲かせると願って。
 風架は瞳を和らげる。
『大丈夫、きっとすぐに追いつけます』
 風架は敵を見据えるや一転、瞳の煌めきを鋭くし、靄から十分距離を取った上で幻影蝶を解き放った。前回の幻影蝶の効果は偶然か否か、それを確かめるために。
 蝶の群れは神門を囲み、神門のライヴスを奪い狂わせ蝕んだ。つまり前回も偶然ではなく、
『スキルのない素の防御能力は特別高くない、と断定してよいでしょう』

『神門とやらの前で例のポーズを取る事は避けられたな』
「残念で仕方ないわよ」
 ひっそり安堵の滲むニクノイーサ(aa0476hero001)と対称に大宮 朝霞(aa0476)の声は全面的に不満気だった。バイザーの下から密かに神門を観察し、ひそひそ声を交わし合う。
「あの黒いもや……なんだろう?」(ひそ)
『飾りって事はないだろうが……奴の能力の一部か?』(ひそ)
 朝霞とニクノイーサが見た所、靄は直径60mはありそうだ。風の影響とは明らかに違う不自然な蠢き方をしている。
 思わず「うわ気持ち悪い」と呟きながら、朝霞は視界を確保するべくライトアイを展開した。レインメイカー(2m)のハートマークからライヴスが迸り、暗闇に沈む道路の景色をリンカー達の瞳に映す。
 ライトアイの恩恵を受け、八朔 カゲリ(aa0098)は神門に向けて駆け出した。靄との接触は避けたいが、攻撃を届かせるためには踏み入るよりなさそうだ。しばしの逡巡の後カゲリは靄に足を踏み出し、しかし完全には接近しきらずアンドレイアーの柄を握った。レーギャルンの鍵を外し、双炎剣を抜くと同時に衝撃波を撃ち放つ。神門は蝶の向こうからわずかばかりに顔を上げ、錫杖を振るい鳴らして靄を壁へと変形させた。黒壁は衝撃波を霧散させ、すぐさま元の姿へ戻る。
『……あれは、人間なのですか、八宏様』
「所業は人間に非ず、ですが……」
 菊千代(aa0046hero002)の問い掛けに邦衛 八宏(aa0046)は言葉を濁した。所業は人間に非ず。妖怪、愚神、いずれにしろ、その身は確実に人では非ず。
 なのに妙に意識に引っ掛かりを覚えるのは。
 いずれにしろ、まずは正体を確かめようと八宏は靄の中へと踏み込み、手首に備えるハンズフリーのライトを中心へと向けた。レイ(aa0632)がさらにノクトビジョン・ヴィゲンを駆使し、神門の隙を探るべく敵の姿を注視する。
「『左手首から、先がない……?』」
 レイの言葉に八宏は神門との邂逅を思い起こした。治療薬を奪取しようと、総大将自ら出向いてきた先の事件を。
「……Re-Birthの生産が安定しようと、貴方の手に掛かれば、処置を施すまでもなく被害を拡大出来る筈です。……あの時、破壊した試薬が手首に付着していたのは目にしていましたが……もしや、あれは……」
 Re-Birthは特効薬であり、神門へ対抗する手段であるのではないか。そのために病棟を襲撃したのではないか。
 八宏の予測が聞こえたか否か、神門は八宏を見、妖艶に目を細めてみせた。そして飛び掛かる烏の群れに美咲 喜久子(aa4759)が銃を構える。
「奴が神門、か…」
『報告書でじゃなく、実際相対すると……』
 アキト(aa4759hero001)が胸の内を代弁する。感じるのは圧倒的な、力……。
(叶うならば撃破したいが、私個人の実力では、何もできないだろう)
 だが、味方を助ける事は出来るはず。
「……今、できる最善を、尽くす!」
 A.R.E.S-SG550の弾丸を、喜久子は仲間へ迫る屍肉の群れへ叩き撃った。八宏もPride of foolsを構え、自身に襲い掛かろうとする烏を穿って地へ落とす。

「何でこいつがここに……?」
 虎噛 千颯(aa0123)の声に合わせホワイトタイガーの尾が揺れる。屍国関連の報告書は全て目を通したが、その中にこの邂逅の予兆足り得る要素は浮かばず。
『千颯、気をつけるでござるよ……』
「向こうが手加減してくるならな……っつってもこっちは倒す気でいくしかねぇけど!」
『善通寺の方も心配でござるが、こやつをここで止めておく必要もあるでござる』
 白虎丸(aa0123hero001)の声に頷き、千颯は豪炎槍をかざしまずは靄の一部を払った。猛虎の幻影が靄を喰らい飲み込んだが、靄が晴れたのは一瞬だけですぐに塞がってしまう。
 幻影蝶の影響か左手の欠損故か、神門はその場に立ったまま動こうとはしなかった。代わりに腐った烏共がリンカー達に嘴を向ける。
「こっちに、来て頂きます」
 八宏は烏の注意を引くべく、ストームエッジを炸裂させ刃の嵐で腐肉を裂いた。その隙に千颯が接敵し、神門の左手を狙ってイフリートを突き出すが、黒い壁が出現し魔槍の先を絡め取る。
「『良い趣味だな……全く。反吐が出る』」
 カールと声を重ね合わせレイは九陽神弓を絞った。損壊箇所があるなら更に増加させるべく。かつ神門の対応を可能な限り割り出すために。レイはテレポートショットを放ち、千颯に意識を向けている神門の死角を狙い射った。矢に脇腹を穿ち抉られ神門はわずかに眉をしかめ、合わせて風架が遠距離から、朝霞が至近距離から魔法攻撃をそれぞれ見舞った。神門は朝霞のレインメイカーは躱したが、風架の水晶の幻影は防ぎ切れずにたたらを踏む。
「それではちょっと」
『お手並ミ拝見』
 シルミルテと調子を合わせ、樹は自身を中心に重圧空間を展開した。範囲内の烏ゾンビと、一部のリンカー達の動きが重圧により遅くなったが、同じく重圧を受けているはずの神門に堪えた様子はない。神門はふむと息を洩らすと、左腕を持ち上げて軽く左右に振って見せた。左腕にはわずかに靄がまとわりつき、その先には無かったはずの手がしっかりと生えている。
「さて……参ろうか」
 瞬間、神門は地を強く蹴り、一瞬にして離れていたはずの風架の前へ躍り出た。外見は華奢な少女へと、神門は錫杖を持ち上げる。
「先程の味な真似の礼よ」
 靄が錫杖に集積し、蕾菜の姿を借りる風架へ遠慮容赦なく振り下ろされる。風架はプロテクトフィールドを展開し靄と錫杖を受け止めた。フィールドと靄がぶつかり合い、そして同時に掻き消える。
『プロテクトフィールドが干渉した……という事は今のは物理攻撃という事ですね』
 風架が判断を一つ下し、攻撃を相殺された神門の瞳が険呑に細まった。しかし感情に耽らせるつもりはなく、カゲリは冷魔「フロストウルフ」を神門の背へ差し向ける。神門の移動距離は長く、レーギャルンの衝撃波では届かない。
 同じくレイも遠方の敵へ九陽神弓を見舞ったが、これは双方黒い靄に阻まれた。お返しにと言わんばかりに烏がカゲリ達へと迫り……八宏がハウンドドッグに換装、使い魔の喉を喰い千切る。

 樹は大きな袋を両手で構え立っていた。目的はゾンビの確保。機能している状態で確保しサンプルとして調査したい。
 数羽が向かってきたタイミングで樹は袋の口を広げ、袋に烏を数羽収めてキツめに口を締め上げた。任務完了……と息を漏らした、その時、袋が嘴に破られて烏ゾンビが飛び立っていく。
『強度ガ足りなかっタかナ』
「……そのようだね」
 
 喜久子は数歩下がった後己の身を改めた。神門が移動した事で一時靄の中に入ったが、
「……体が先程よりは軽いな」
 また靄の中にいた時は、神経に何かが潜り込んだような悍ましい悪寒があった。とりあえず靄から脱すれば影響は徐々に下がると判断してもよさそうだ。
 ならば積極的に前には出ず、後方からの支援に徹する。烏ゾンビに狙いを定め、先ずは翼、次いで体、確実に仕留めて落としていく。
「次から次へと……キリが無いな」
 烏の数は、こんなに多かっただろうか。

 風架が後退しながら「金剛夜叉明王」の幻影を放ち、朝霞はフェイルノートに武器を替え僧衣の背へと矢を射った。しかし先程のような隙間ない連携は行えず、神門は錫杖と靄で二つの攻撃を防いでしまう。
 千颯は全力で駆けた後神門の前に躍り出た。一度は抜かせてしまったが、もう勝手をさせるつもりはないと金色の瞳を敵へと向ける。
 神門はにやりと目を細めると、錫杖に靄をまとわせて千颯目掛けて振るい落とした。槍では分が悪いと判断し千颯は飛盾「陰陽玉」を展開する。
 その様さえ嘲笑うように、神門がにいっと笑みを深めた。


「やはり、何かおかしい」
 烏ゾンビを撃ち落とした後喜久子は疑問を口にした。攻撃に落ちた烏は確かに動きを止めている。しかしその数が一向に減る事はない。
 八宏も同じ事を考え先程墜とした烏を見た……と、撃ち抜かれ、動きを止めたはずの烏が再び宙に舞い上がった。濁った声で哭く骸に八宏が眉間の皺を深める。
「……復活、しましたね……一体何が原因でしょうか……」
 とにかく原因の解明をと天雄星林冲に武器を替え、今まさに飛び立とうとするゾンビ烏を焼き払う。同時に靄の外も確認するが、そちらの死骸が起き上がる気配は特になく。
『樹』
 シルミルテの声に視線を上げると、ゾンビと化した運転手がこちらに向かってくるのが見える。仲間を巻き込まぬよう意識しながら、十分に引き付けた所でサンダーランスを一撃見舞い。運転手ゾンビはあっけなく靄の中にどたりと倒れる。

「厄介な能力ばかり持ち合わせてんな。遊ばれてるうちに引き出せる情報を引き出しておかねぇとな……」
『攻撃スタイル・技等少しでも多くのものを引き出すでござる』
 白虎丸に頷き返し、千颯は再び神門の左手へ斬り込んだ。敵がそのつもりなら余裕を逆手に取るまでだ。
 出来るだけ死角から狙い打ったつもりだが、千颯の攻撃は神門の作った靄の壁に阻まれた。続けて烏の群れが千颯を拘束しようと迫るが、
「――させない」
 一閃。リンクコントロールにより脅威を増した黒焔をカゲリが複数放ち、十体もの腐肉を一瞬で灰燼へと変えた。己が役割は神門の情報を集める為の持久戦の一端を担う事。故に、邪魔はさせないとカゲリの瞳が神門を見据える。
「くらえ!」
 朝霞がレインメイカーを神門の側頭へ叩き落とすが、これは神門が振り上げた錫杖により阻まれた。レイがライヴスゴーグルを使い、神門周辺のライヴスの流れを確かめる。靄はやはりライヴスの塊らしく、凝縮するような形で壁となっているようだ。また攻撃を防いだと同時に、攻撃に使われたライヴスが神門に流れているような……?
「『とにかく、かき鳴らしてみるか』」
 空海、と先程言っていた。また神門勢はこの先の善通寺を狙っているという。故に神門本人も善通寺を目的としているのでは。
 善通寺と逆方向に押し戻す、かつ反応を試すべく、レイは狙いを確と定め真正面から弓を引いた。神門はこれを身を捻って躱したが、同時に放たれた風架の水晶が神門の怜悧な相貌を打つ。
 口から黒い液体が垂れるが神門に堪えた様子はなく。黒い靄が神門を覆いしゅうしゅうと傷を癒していく。


『朝霞、マズイぞ。コイツはかなりやる』(ひそ)
「善通寺の味方に救援を頼もう。そうすれば善通寺からの救援と私達で、神門を挟み撃ちにできるわ」(ひそ)
 ニクノイーサとひそひそ声を交わし合い、朝霞は善通寺の仲間へ連絡を試みた。だが通信機は繋がらず。もしや善通寺も敵襲を受けているのだろうか。
 仲間に伝えようと顔を上げた、その時、靄の中からゆらりと影が立ち上がった。樹のサンダーランスに倒れたはずの運転手ゾンビに朝霞は思わず悲鳴を上げる。
「さっきやっつけたはずなのに!?」
「やはり靄の影響か?」
 喜久子が漏らした推測に「そうかも」と朝霞が頷いた。八宏も観察していたが、靄の外……神門の移動により置き去りになった烏の骸は骸のまま。一度倒されたゾンビでも靄に入れば復活する、と考えて間違いないだろう。
 樹は童話「ワンダーランド」を片手に開き、生み出したトランプの兵隊を運転手ゾンビへ差し向けた。喜久子とカゲリもそれぞれ烏に攻撃を放ち、八宏は靄の中にある死骸達を注視する。原型を留める程度の個体は仲間達の攻撃により既にある。灰と化した個体も八宏とカゲリの攻撃により十分数揃っている。
 靄は死骸達にまとわりつくと、しゅうしゅうと音を立てながら腐った肉を再生させる。原型を留める骸も、完全に灰と化した骸も。つまりどれだけ破壊しようとも、靄の中に入ってしまえば復活するという事であり。
 八宏は苦渋を滲ませた。烏の死体から何か手掛かりが得られればと思ったが、どうやら靄の外に出すより復活を止める手立てはない。しかし靄の外に出せたとしても、神門が移動し靄の内に取り込まれれば意味はなく。
 瞳の鋭さを更に増しカゲリは思考を巡らせた。死者を使役する様を目にしている為、死体を五体満足に残しておく気は元よりない。
 しかし解体しても意味がないとすれば……もっと徹底的に焼き祓うのが最善か。撃破後の「腐敗前の死体」を損壊する様を情報として流布される事への懸念もある……。
「少なくとも『"今"ハ"ヒト"の死体ヨ』
「考えがあるから『ココは任せテもらえナイ?』
 二人の思考を樹とシルミルテ、二つの声が遮った。樹の懸念はカゲリと同じく情報流布。かつ「芽衣沙を作った」のが神門である以上、神門が同程度の能力を持つ可能性は否めない。過去の洗脳事件の再発は断じて避けたい。
 樹は腐敗前の状態に戻った運転手の死体に駆け寄った。やはり靄が死体にまとわりつき、瑞々しい肌を腐ったそれへと変えていく。樹はタオルケットを取り出すと運転手の死体を覆った。さらに野戦用ザイルでタオルごと足首を縛り上げた、所で死骸が目を開く。
「うがァアアア!」
「例えゾンビになったとしても『アナタ達の人間トしてノ尊厳を守ッテみせル』
 以前知人が言った言葉を復唱し、樹は固定を強化すべくウレタン噴射器を吹き掛ける。復活した烏が樹に飛び掛かろうとしたが、
「させないと、言った筈だ」
 カゲリの放った黒焔が再び死肉を灰に変え、八宏もまた迎撃するべく迫る腐肉の群れを見据える。
「……お悔やみ、申し上げます………ちゃんと、お返し、しますから……」
 運転手に向けぽつりと声を落とした後、八宏はウェポンズレインを発動させた。武器の雨に切り刻まれ、一部の肉塊が靄へと堕ちる。


「『なかなか隙がないな』」
 銀髪を風に流しながらレイとカールは呟いた。ゾンビは仲間達に任せ、神門の対応を知る為と様々な攻撃を試しているが、神門は靄や錫杖を駆使し上手く攻撃を防いでいる。
 とは言え攻撃が全く当たらない、という訳ではないのだが、靄が傷を覆い隠し徐々に再生させてしまう。また神門の近くにいる者程、動きが鈍くなっているような……。
「どうした? もう限界か?」
 揶揄するように笑いながら神門は錫杖を振るい落とした。遊ばれていると分かっているが、仲間に意識を向かせる訳にはいかないと千颯は歯を食い縛る。
「さっき空海って言ってましたよね? 愚神の貴方がどうして空海を知っているんですか?」
 朝霞の問い掛けに合わせて風架が魔法を撃ち込んだが、これは神門の展開した靄の障壁に阻まれた。聞き慣れない人名にニクノイーサが疑問を投げる。
『朝霞、空海とはなんだ?』
「昔のエライお坊さんだよ。日本人ならみんな学校で習ってる。愚神が日本史を学ぶわけないだろうし、もしかして……知り合いとか?」
「何なら事細かに教えてやろうか?」
 朝霞に神門が目線を送った――その前に千颯が立ち塞がり盾で錫杖を受け止めた。が、先程よりも衝撃がのしかかり千颯がその場に膝をつく。
「虎噛さん!」
「簡単に倒させはしない……!」
 消耗に気付き、朝霞と喜久子が同時にケアレイを千颯へ飛ばす。千颯もまた自身にリジェネーションをかけ生命力を回復させる。
「大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫だぜ朝霞ちゃん」
 友人を安心させるべく千颯はにっと笑みを浮かべた。危機によりライヴスが研ぎ澄まされ通常より回復効果が増している。
 はずだが。
「……え?」
 千颯はそこで気が付いた。籠手から覗く自分の指が死人のように青白い。これは報告書の写真にあった、感染者と同じ症状。
「――屈しろ」
 神門の声と衝撃と共に、千颯の意識が遠退いた。朝霞は千颯の様子がおかしい事にようやく気付く。
「虎噛さん、どうしました?」
「……あ、あああ、がああァアアッ!」

 視線をゆっくり横に動かし、朝霞は自分の首に噛み付く千颯の姿を確認した。ダメージらしいダメージはないが、千颯の歯は朝霞の首にしっかりと喰い込んでいる。
 千颯は自分が朝霞の首に噛み付いている事に気が付いた。慌てて口を離し、死人より青白い己の手に視線を落とす。
「俺、一体何を……」
「虎噛さん、危ない!」
 響く朝霞の声も空しく、振り下ろされた錫杖は千颯の脳を強かに揺らした。倒れ込む千颯を見下ろしながら神門が無慈悲な声で呟く。
「力加減を間違えたか。まあいい、永遠に操ってやろう。今度は死人としてな」
 再び神門が千颯を狙い定めようとした……瞬間、レイと風架の攻撃が神門の足下を穿ち抜いた。その隙に樹が千颯を肩に担ぎ上げ、喜久子の手を借り後ろへ下がる。
 神門は千颯を追撃すべく足を向けようとしたが、カゲリが前に立ち塞がり、内のナラカが声を飛ばす。
『然し蘇って尚、空海空海と……空海所縁の地を狙うもそれが理由か? ああ、それとも今だ空海の封から抜け切れてはおらなんだか』
 神門の足がぴたりと止まり冷徹な瞳がカゲリを見据えた。常人ならば相対する事も叶わぬだろう瞳を前に、しかし怖気ずくカゲリではなく。ナラカもまた同様に。
『どちらにせよ――透けて見えるぞ、死霊術師。怨嗟に拘るとは、大物に見えて存外に小物かね?』
『――恨み、憤り、憎悪、まるで人間のようだな、化け物風情が。愚神が人間を殺す動機としては高尚が過ぎる』
 八宏の内の菊千代もまた神門に己が言葉を放つ。人を愛し人を脅かす者を憎む、己自身の性故に。
「虎噛さんに、これ以上酷い事はさせないわ!」
 朝霞も声を強く張り、深手を負った友を守る為神門の前に立ちはだかった。神門はぞっとするような目付きで三人を眺めた後、地を這うような低く濁った音を響かせる。
「よかろう。俺の身に巣食う怨念の深さ、その身でとくと味わうがいい」
 靄が急にどろりと崩れ、汚泥のごとく姿を変えた。そしてカゲリに、八宏に、朝霞に、襲い掛かってその身を飲み込む。

 憎い。
 生を貪る奴らが憎い。
 病め。腐れ。滅びろ。
(これは)
 雪崩れ込む負の感情に、八宏は一瞬自分自身を失いかけた。あらゆる苦痛の坩堝に放り込まれでもしたようだ。一瞬でも気を抜けば、呑まれる。
 だが。
「……貴方は、人間に近し過ぎる。人間を、理解している。…………だから憎い」
 八宏は自分を保ちながら神門へと語り掛けた。言葉が届いているかは、知らない。だが八宏は述べ続ける。
「……空海上人が貴方を封じた理由は、知る由もありません。……僕は愚神を、殺します。その憎しみごと、食い殺します」

 崩れ落ちた八宏の姿に、神門が口元を吊り上げた――瞬間、発動したロストモーメントが神門の身を切り裂いた。繰り出される攻撃は八宏の宣告のようでもあり、倒れても仲間を守るという決意の表れのようでもある。
 八宏の作り出した隙を風架は見逃しはしなかった。喉にライヴスを集中させ、支配者の言葉を、放つ。
『【防御体勢を解除せよ】』
 だらりと神門の腕が垂れた、と同時に靄から朝霞が躍り出る。恐怖的な幻覚は朝霞の身にも及んだが、吹き飛ばした。気合いで。
「……正義のヒーローが、こんなので怯んでたまるものかー!」
『薄々感じていたが、朝霞はけっこう脳筋だよな』
「脳筋なんて、どこで覚えたのよ!」
 くわっと相棒に牙を向きつつ、ハートマークの殴打を、一撃。カゲリもまた群がる靄を刃一振りで斬り払う。
 ナラカ。
 彼女は普遍を見透すが故に万象を俯瞰している。
 遍く照らす善悪不二の光として。
 彼女は神門に対して純然に「敵」と評価を下す。
 光にして焔、太陽の神威。不浄を祓う浄化の王――その眼に映るは、滅すべき不浄に他ならず。
 影俐。
 彼は万象を“そうしたもの”と肯定する。
 我も人、彼も人。故に対等とは基本に置くべき道理であるが故に。
 その上で彼は神門の在り方を醜悪と断ずる。
 是生滅法――なればこそ蘇る死者など只の塵でしかなく、使役する者もまた同様に。
 それは対等と見做して肯定する上での厳然たる評価。
 衰えるを知らぬと燃え盛る意志は劫火が如く。
 「燼滅の王」。
 不撓不屈にただ前へ――その意志は、総てを認めるが故に止まらない。
『千年蓄積した怨念? それが如何した。斯様なもので私は無論、覚者も止まりなどはせぬ』
 ナラカの声と共に、カゲリは黒焔を纏う刀身を神門の左腕に撃ち落とした。完全に断ち切るには至らずとも肉と骨の傷は深く。
「ブルーム『フレア!』
 樹の放ったライヴスの炎が神門を中心に華と咲き、レイはそこへ飛び込んだ。姿勢を屈め靄を滑り、狙うは敵の足下近く。
「『さ、Konzertの時間だ……』」
 色気のある声と共に撃たれた渾身の弾丸は、神門の頬と右眼を抉り抜いて吹き飛ばした。神門は顔を押さえて後退し、靄を傷へとまとわせる。
 しばらく睨み合いが続いたが、突如神門が舌を打ち、善通寺とは別方向へ歩き出した。重体者二人を抱えながら喜久子が仲間達に告げる。
「これ以上は……口惜しいが無理だろう……」
 飛び立とうとするゾンビ烏を全て動かぬ骸に変え、リンカー達は武装を解いた。神門は振り返る事もなく、やがて戦場から姿を消した。


「これで」
「ヨシ」
 足、腕、顎と完全に固定した運転手ゾンビを見下ろし樹とシルミルテは頷いた。神門は去ってもその身は未だゾンビのまま。レイが密かにスマホで撮った写メや動画もあるし、自分の映像記録も合わせればなんらかの情報は得られるはずだ。
「残念ながら、神門と烏以外ここには現れなかったようだけどね」
「そうダネー」

 朝霞は全力疾走で善通寺へ急いでいた。重体者は他の仲間に任せ、一先ず援軍のために赴く。
(神門は空海を「腹立たしい」と言っていた。空海由来の四国を狙っているのだとしたら、これまでの被害地域の説明がつくわね)
 思考しつつ善通寺に到着すると数多の負傷者の姿が見えた。戦闘自体は終わったようだが……朝霞は救命救急バッグを掲げる。
「手当します、ケガしてる人はこっちに!」

(逃げる……と言う体ではなかったな。目的、は……?)
 神門の去った方向を見つめ喜久子は首を傾げていた。一体何のためにここにいて、何処に行ったというのだろう。
 分からない事も未だ多いが判明した事もある。例えば青白くなった肌。神門に近接していた朝霞の肌も変色しており、クリアレイをかけても肌が治る事はなかった。
 しかし、神門が去ってからしばらくすると血色が良くなり……神門との距離と靄への滞在時間、どちらが要因かははっきりしないが。
(いずれにせよ、黒い靄か神門に接近すればするほど効果が高い、と考えるのが妥当だろう。神門の消えた方向も合わせ、何か突破口になればいいが……)

「アキト」
 友人、と呼ぶには未だ及ばぬ知人にレイは声を掛けた。音楽を愛し、歌を好む共通性を有するアキトに、誘いをかける理由は一つ。
「鎮魂歌を歌わないか」
 口説き文句にアキトは即座に頷いた。未だこの四国を覆う暗雲は晴れないが。

 美しいハーモニーが、夜の闇に響き渡る。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

  • 常夜より徒人を希う・
    邦衛 八宏aa0046
  • 雄っぱいハンター・
    虎噛 千颯aa0123

参加者

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • エージェント
    菊千代aa0046hero002
    英雄|28才|男性|カオ
  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • エージェント
    美咲 喜久子aa4759
    人間|22才|女性|生命
  • エージェント
    アキトaa4759hero001
    英雄|20才|男性|バト
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