本部

ハローエネミー

ガンマ

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
4日
完成日
2017/04/28 21:32

掲示板

オープニング

●悪巧みは悪の華

「カッコイイ!!」

 第二英雄の存在を聞いた瞬間、そのヴィランが上げたのは歓喜の声だった。
「やっぱりね、ヒーローはパワーアップしてナンボですよ! 立ちはだかる強大な悪! 理不尽な強敵! それを打開するのはやっぱり、強くなった正義の味方なんですからッ! でも次の物語ではパワーバランスを取る為に悪役も強くならないと。そうじゃないと世界が平和になってヒーローがヒーローたり得なくなってしまうじゃないですか。幸福は平等じゃあないんです、不幸が無いと幸福は成り立たないんです。つまり悪役に立ち向かってこそなんですよ正義というものは!」
 ハァハァ……。ワンブレスで言葉を垂れ流したヴィランは、肩を弾ませつつ目の前の愚神を見やった。
「……コホン。失礼。つい興奮してしまいました。それで……愚神商人さん」
 視線の先には、異形の紳士。冒涜的な風貌の彼――愚神商人へ、ヴィランは言葉を続けた。
「私も第二英雄……いや第二愚神が欲しいです」
「ええ、エネミーさん。そのつもりで話を持ちかけに来たのですから」
 愚神商人の声は穏やかで友好的なソレだった。営業スマイルとも言う。
「今回ご紹介させて頂きますのは、とある組織が観測した、全く新たなライヴスパターンを持つ存在です。サンプルを一つ確保できましてね、実戦データが欲しいそうです」
「つまり代金として、その新しい子をつれてパーッとやればいいんですね」
「そういうことになりますね。お得意でしょう?」
「悪役ですからね、この業界に入ってそこそこなので。……それで、その新しい子の名前は?」
「仮称は“ブラックボックス”――その力は、使ってみればわかりますよ。これまで以上にライヴスが必要になってきますが……貴方なら心配など不要でしょうか?」
「ですね!」


●正義と悪の大決戦
 巨大な火があった。それが、一帯をグルリと取り囲んでいたのである。
 現場に到着したエージェントたちは状況を既に把握していた――マガツヒのヴィランが、多数の花見客で賑わっていた自然公園に出没。無差別傷害事件を引き起こしたのだ。
 そしてこの現場を取り囲む火であるが、これが奇妙なのである。消火のために水を散布しても、「水が当たらない」。なんとか消火剤などで鎮火したとしても、また燃え上がるのである。

『本作戦は、一般人避難救助班とヴィラン対応班に分かれての任務となります』

 通信機よりオペレーターの声。救助班が君たち――ヴィラン対応班へ眼差しを向け、緊張しつつも頷いて見せた。救助班は耐熱布などで一般人を保護した上で、一時的に消火できた地点から脱出、運搬を繰り返す……という任務内容である。
『ヴィラン対応班の皆様は、その間ヴィランの攻撃から一般人や救助班を守ること、戦闘行為によってヴィランの気を惹くことが任務となります』
 ヴィランと呼称はされたが、現場には愚神と従魔も確認されているという。危険な任務となるだろう。が、エージェントが戦うことで、ヴィランたちの狙いを一秒でも人々から逸らすことで――救える命がある。
 エージェントたちは火の壁を見やった。作戦決行は間もなく。ライヴスの通っていない炎であれば、共鳴すればダメージにはならない。この火の向こうにヴィランがいる。そして、救うべき命もある。

『それでは作戦を開始します。皆様、どうかご武運を!』


●enemy

 自然公園は炎に包まれた灼熱地獄と化していた。
 あちらこちらに血を流してうずくまる人々。呻き声。
 満開の桜は燃え、赤々と咲いている。

「四大元素の操作、斥力など一部法則への干渉、ふむふむ」
「ハライソすごいねー。愚神商人さんも来たら良かったのにねぇ」
「商人ってぐらいですし忙しいのでしょう」
「案外その辺から見てたりして」
「さあ、どうでしょうねぇ」
「……あ。エネミー、H.O.P.E.が来たよ」
「早いですね。流石ですね。素晴らしい」
「今日は合体ナシ?」
「新しいフレンズのお披露目式ですから」
「僕はどうしたらいいんだっけ?」
「シャングリラは悪逆非道の限りを尽くすのです」
「はーい。桜きれいだね」
「綺麗ですね。綺麗なものは壊すに限ります。それが悪のモットー」
「キュッとしてドカーン」

 会話が聞こえた。次いで桜の木がひとつ薙ぎ倒されれば、エージェントへと振り返る者どもの姿――スーツを着た機械の顔面をした人物、歪な人型をした異形。機械顔の方がニコヤカな声で、一同を出迎えた。

「ようこそヒーロー! どうも、お久し振りになるのかな。マガツヒのエネミーです」

 その直後だった。一陣の風が吹いて、近くにいた一般人が大きく切り裂かれた。「ぎゃっ」と悲鳴、血の赤が散る。
「分かっています、分かっていますとも。“どうしてこんなことを”……でしょう? ほら、春は犯罪が増えるって言うでしょう? だからやっちゃいました。こんな風にね。無差別連続殺傷事件というやつです」
 動機付けはこんな感じでOKですか? ヴィラン――エネミーは嬉々としている。そして問答無用で武器を構え、襲いかかろうとするが。
「あ! 忘れるところだったヒント言っておこう。従魔があちこちにいるでしょう。アレね、『動く一般人を狙え』って命令してあるんです。だからこの哀れな被害者たちは歩ける程度の怪我でも動かないっていうカラクリですね。まあ動かなくても私がカッとなったらアレしちゃうんですけどね。頑張ってください」
 そこに嘲笑はなく。崇拝じみた視線を、エネミーは『正義の味方』へ投げかけていた。凶器の切っ先を突きつけながら。

「それでは正義のヒーローたち。憎き悪役は目の前です。どうかその燦然たる正義で、私を悪役にして下さい。
 ……クソ悪役の前口上はこの辺で。カッコイイ決め台詞はヒーローのものですから。――さぁ、レッツ世界平和!」

解説

●目標
 敵勢力の撃退

●登場
マガツヒ上位構成員『エネミー』
 アイアンパンク(生命適正)×???
 機械化部位は顔面。性別不詳。使用AGWはマチェット。
 能力未知数。憑依しているのは正体不明の愚神『パライソ』。自然現象や斥力などを操作している……?
(以下PL情報)
・森羅の忌児
「火や水などの自然現象系エフェクトをフレーバーテキストに持つAGW」「同上のスキル」
 これらに対する防御力が高められている。常時発動。
・嘲笑せし者
 対象単体。1シナリオ1回のみ使用。イニシアチブフェーズに宣言し、即座に行動終了になる。
 対象に攻撃が命中したものとしてクリンナップフェーズにダメージ算出を行う。
・etc…

※エネミーはそこそこ満足したら撤退する。
(/PL情報)

階級不明愚神『シャングリラ』
 機械仕掛けの人型めいた外見。チェーンソーめいた武装を持つ。
 能力はバランス型。ブレイブナイトめいた何か。
 今回はエネミーに憑依せず独立している。常にエネミーの傍にいる。
・血の宴
 範囲不明周囲の「出血している非リンカー」からライヴスをじわじわ吸収しており、能力強化・生命のリジェネレートを行っている。この効果はエネミーとも共有している。
・死角?特にありません、無敵です
 常時発動。エネミーと知覚を共有している。「不意打ち」の効果減少。命中回避上昇。
(以下PL情報)
・超合体ッ
 生命が一定数削れた場合、エネミーに憑依する。
 能力値が大上昇するが、この状態は激しく消耗するようだ。
(/PL情報)

ミーレス級従魔『雑魚も悪役には必要』×5
 特筆することもない雑魚。生命が高い。積極的に避難対応班へ攻撃を仕掛ける。
 バラバラに行動する。

●状況
 時間帯は昼。
 桜が咲き誇る自然公園。巨大な火が広範囲を囲んでいる。
 火の中には多数の花見客。誰もが負傷している。
 彼らの救出・運搬はH.O.P.E.エージェントの避難対応班が行う。PC達は戦闘班。

リプレイ

●FULL RED

 赤――

『血の匂いがひでぇ、鼻が曲がりそうだ』
 共鳴状態。稍乃 チカ(aa0046hero001)はライヴス内で顔をしかめていた。そのまま『行けるか、八宏?』と共鳴中の邦衛 八宏(aa0046)に語りかければ、彼は表情を崩さぬまま。
「……人命救助を、最優先に考えて下さい」

 赤――
 赤の中を、エージェントは駆けている。

「エネ……、ミー……!!」
 鬼灯 佐千子(aa2526)にとっては二度目の相手。その名前だけで思い出してしまう。一度目の邂逅、あのナイトクラブでの惨劇を。だけではない。佐千子に刻み込まれた記憶――『こんな身体』になった日の記憶までも。
『……サチコ』
「分かってる、リタ」
 共鳴中のリタ(aa2526hero001)へそう返す。佐千子は炎の彼方を見据えた。レーダーユニット「モスケール」の情報によれば、この先にアイツがいる。現時点で周辺に「悪質な仕掛け」は見受けられないが、それは油断を許可する口実にはならない。
「……ただ、そこにいただけの人たちの平和を踏みにじる、そう言うヤツが居るから――そう言うヤツに踏みにじらせないために――私が居る」
 その言葉に、ゼノビア オルコット(aa0626)も同感であった。
(前、みたいにたくさんの人、死なせたりしたくない……あの人たちに、『次』なんてないから。次こそは、なんて通用しない、から!)
 一度目に刻み込まれた悔しさに、ゼノビアは手にした銃を握りしめる。
『相変わらず悪趣味な奴だな。一発ぶん殴ってやりたいくらいだ』
 共鳴中の英雄、レティシア ブランシェ(aa0626hero001)も少女と気持ちは同じ。

 今回こそは、奴の好きにさせるものか。

『ふざけた男が性懲りもなく現れましたね』
 ライヴスの中でアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が言う。共鳴姿の志賀谷 京子(aa0150)は凛と前を見ていた。
「わたし、ブチ殺すとか言ったんだよね。あのときは頭に血が上っていたけれど、今ならそれこそが相手の望みなんだってわかる」
『……本気でヒーローメーカー足らんとしている、のでしょうね』
「だから単純にブチ殺すなんてしてやらない。あの余裕の態度を剥ぎ取って、アイツの底を見てから捕縛する。それが今できないとしても、いつかはね」
 告げる決意。英雄は頷きを以て肯定を示す。
『ならば、最善を尽くしましょう』

 然り。

 辺是 落児(aa0281)と共鳴中の構築の魔女(aa0281hero001)は、探求者としての「敵が用いる見慣れぬ能力への興味」がある。しかし同時に、こうも思っていた。
「なすべきことを、なしましょう」
「了解です」
 答えたのは新座 ミサト(aa3710)。嵐山(aa3710hero001)と共鳴しているその姿は、黒衣をまとう白き麗人。
「エネミーたちとは別に従魔が五体、散っているようですが」
『儂らをエネミー自身に引きつけてその隙に市民を襲わせる気か、はたまた従魔に人数を割かせるのが狙いか……』
「面倒です。答えは取調室で奴自身から聞きましょう」

 また一歩、エージェントは敵へと近付いていく――すぐ傍の桜の木が燃え上がる。周囲に満ちた人々の呻き声は止むことがない。

「……ヒーローだか悪役だか知らんが。はた迷惑極まりないのは確かだな」
 共鳴して白い姿となった真壁 久朗(aa0032)がわずかに眉根を寄せた。セラフィナ(aa0032hero001)も毅然とした声で、ライヴス内より相棒へ声をかける。
『傷つけられた人達を放っておける訳がない……僕達が戦う理由はそれで充分ですよね?』
「ああ、その為の盾であり矛である。正義の味方などと、ふざけた茶番に付き合う必要などない」

 ――かくして。

「ようこそヒーロー!」

 エージェントはヴィランと相対し。状況は始まるのだ。さぁ、レッツ世界平和! そんなふざけた口上で。

「……どうもお久しぶり」
『今日ハ背中かラ生えテナいノ?』
 機械の顔をしたヴィランに、共鳴中の佐倉 樹(aa0340)とシルミルテ(aa0340hero001)尊大とも取れる笑みを見せた。
「おっ! 樹さんとシルミルテさん、京子さんとアリッサさん、ゼノビアさんとレティシアさん、佐千子さんとリサさん……覚えていますよ、もちろん! お久し振りです!」
 エネミーは友好そのものの態度だった。
「あっ! その姿は……【鴉】の久朗さんとセラフィナさん!? 構築の魔女さんまでいる! 超有名人じゃないっすか! 光栄ですヴィラン冥利に尽きます! 八宏さんとミサトさん、あなた達のことも、ええ、もっちろん存じてますよ。身長体重適性クラス誕生日まで知ってるんですからねっ!」
 まるで憧れの存在に出会った熱心なファンのような。

 ゆえに不愉快だ。

「エネミー。傷害、器物損壊、放火の現行犯で逮捕します。大人しく従いなさい」
 感情を抑えた声で佐千子が言い放つ。同じく、とミサトも言葉を続けた。
「一応聞いておきましょう。武器を捨てて投降しなさい」
「嫌です」
 即答だった。
「わかりました」
 ミサトはニコリ、と微笑んで。

「――ではココで死になさい! この下衆がッ」

 狼の如き眼差しで、戦気を剥き出しに虹の鞭を振り上げる!



●syanimuni

「まとめて跪きなさい!」

 ピンヒールブーツを高らかに。一気にエネミーと愚神シャングリラへ踏み込んだミサトが怒涛の勢いで鞭を振るえば、虹の軌跡が毒蛇の如く襲いかかる。
 それと同時。月弓アルテミスを引き絞っていたのは京子、狙撃銃ドラグノフを構えていたのは佐千子――神速の照準より放たれるのは三本の矢、三発の弾丸。狙いはエネミーとシャングリラ、そして……獲物を逃がさぬ狩人達の目は、その射程を以て従魔すらも狙っていた。

 狙いは鋭く、どこまでも鋭く。
 寸分違わず命中したことだろう。
 エネミーが、己の眼前に土の壁を出現させなければ。

「イテテいてて」
 尤もシャングリラはそうはいかなかったようで、従魔に至っては矢と弾丸に射抜かれることとなったが。
『自然現象の操作能力……』
 冷静に戦局を見るリタがライヴス内で眉根を寄せる。エネミーが作り出した大地の防壁は、しかし、一同の攻撃に早くも崩れてしまったが。
「壁がないなら」『防御デきナい?』
 間髪入れず。魔力を練り上げた樹が掌を翳せば、エネミー達の足元に浮かび上がる魔方陣。咲き乱れるのは火焔の大華――。
『? イツキ、ナんかへんダよ』
 当たった。が。妙だ。――魔女は怪訝な感覚の正体にすぐ気付く。
「炎の勢いが……弱められた?」
「ご名答! 火だけじゃなくて水もイケるんですよ」
 スーツを払いつつ、エネミーが掌より水の球を作り出していた。刹那である。シャングリラが大きく開いた口より放つ光線と共に、ウォーターカッターの要領で周囲を薙ぎ払ったのは。
「水も操作できる……それで、か。消火が困難なのは水の干渉を阻害していると」
 飛盾「陰陽玉」で仲間を守りつつ。鉄壁の如く立つ久朗はエネミーを見やる。
「正解です」
 猛烈な広範囲攻撃。桜の木がバキバキと倒され、いっそう炎が舞い上がる。
 倒れた木に一般人が巻き込まれていたら。己の傷のことよりも、そんな懸念が湧いてしまう。けれど。京子は不安を握り潰す。きっと救助班の仲間達が上手くやってくれるはずだ。従魔対応へと向かって行った仲間達もいる。特に構築の魔女は信頼できる存在だ。
 全員を助けられるとは、シビアに考えれば難しい。けれど。出来る限りを救ってみせる。

 その為ならエネミーの思惑に乗る演技だって――業腹だけれど、やってやる!

「再会できて嬉しいよ。ようやく前回の借りを返すことができるからね」
 挑発的な物言い。不敵な眼差しで、京子はエネミーを見据える。
「あなたは悪役足らんとしているのでしょう? なら、惨めにヒーローに敗れるって最期を演じさせてあげる」
「ふ、ふっ、今日がその時なんでしょうか。だとしたら素敵です!」
 エネミーは喜びに満ち溢れていた。
 つくづくド下衆野郎――ミサトは二閃の攻撃に流れる血をそのままに心の中で毒吐いた。
『一般人の救助が済むまで、奴等の注意を引くことが最優先じゃぞ、わかっておるか?』
 するとライヴス内で、冷静な嵐山が彼女をいさめるように言う。「わかっています」とミサトは冷静さは失っていないことを英雄に示しつつ、
「ですが、倒してしまうのが手っ取り早いでしょう」
『敵の能力が未知数じゃ。あまりつっこみすぎるでないぞ、ミサトちゃん』
「善処します、老師」
 言下、ミサトは久朗と共に、ヴィラン共へと勢い良く踏み込んでいく――。



●gamusyara
 エージェント達は二手に分かれていた。エネミー達対応班と、従魔対応班。後者を受け持ったのは八宏、構築の魔女、ゼノビアであった。
 さて。この広い戦場に、従魔は五体。炎や煙に紛れ隠れ、負傷した一般人を狙っている。動かない者は襲わないが――救助対応班が救助のために抱えて運ぶ人々、それらを目ざとく見つけては、襲いかかるのだ。
「……させません」
 そこへ鋭く割って入ったのは八宏。火焔の蛇矛を牽制するように先んじて振るえば、怯んだ従魔がその足を止めた。
「……急いで下さい。ここは僕達が食い止めます」
 礼を述べる仲間を横目に見やり、彼は従魔の行く手を阻むように立った。その勇ましさに、ライヴス内でチカがクッと笑う。
『死亡フラグくせーぞ、そのセリフはよっ』
「……冗談を言っている場合ではないです」
『わかってら!』
 八宏とチカの役割は、とにかく従魔の行動を阻害すること。彼方から構築の魔女が眼前の従魔を狙っていることを横目に確認した彼は、すぐさま別の従魔へと走り始める。
「……木のそばを通るのは危険です、距離を取って、エネミーからの遮蔽物として利用出来る位置を……」
 その視界は、上空を旋回するライヴスの鷹と共有されていた。視界は炎や煙で見え辛くとも、二つあればぐっと鮮明だ。八宏はそれを通信機によって救助班とも共有する。救助ルートを指示する。
「……七時の方向に一般人。消火、お願いします」
 だけでなく。戦場を封鎖している炎の傍に一般人を見つければ、それを救助班へ通達。消火剤を使えば一瞬でも炎は消える、その間に一般人を脱出させることができる。
(上手いこといくと、ええんやけど……)
 脱出が叶った一般人はできるだけ遠方へ搬送するように要請しておいた。あのヴィランが相手だ、被害が拡大する危険性がある。炎の中を駆けながら、男はただただ人々の生を願う。従魔を妨害しつつ、手近な一般人へは救命キットを投げ寄越した。
「……気休めでしょうが、外に出るまではそれで我慢して下さい」
 シャングリラの用いる『血の宴』――出血している非リンカーよりライヴスをジワジワと奪う能力。事前情報が正しければ、少しでも彼らの出血を止めることが出来れば……作戦上、大いに優位になるはずだ。

「……こちらは押さえます。救助よろしくお願い致しますね」
 同刻、構築の魔女は37mmAGC「メルカバ」を撃ち続ける。その圧倒的射程で、一般人を追う従魔を逃がさない。跳弾で、あるいは転移の弾丸で――魔女の弾丸は敵のみを狙い続ける。
 構築の魔女を始めとした従魔対応班の行動は的確だ。そのおかげで、救助は着々と進んでいる。
「大丈夫です。我々H.O.P.E.がついています。すぐに救助を行いますので、どうか落ち着いて指示に従って下さい」
 炎が爆ぜる音に負けぬよう、構築の魔女は救助を待つ人々へ声を張った。
(さて、少しでも安心していただければいいのですが)
 その間も、構築の魔女は対愚神砲を休ませない。危惧していた、従魔の自爆や『悪役らしいしかけ』はなさそうだ。だが油断は出来ない。愚神からの流れ弾だって来るかもしれない。放つ砲撃音。戦場を冷静に見渡す双眸。炎と桜を纏う風に、魔女の髪が翻る。
「延焼の危険がある場合は連絡を。木を間引きます。緊張の糸を切らさないように……予想外の動きへの警戒を」
 救助班へも声をかけつつ。戦いは、続く。

 救助面での作戦は順調だ――順調、だが、ゼノビアは不安を拭い去れない。
 あのエネミーのことだ。安心なんて出来るはずがない。脳裏に繰り返されるのは、あのナイトクラブでの惨劇。断末魔。血の色。死。死。
(もう、あんな、ことは……っ!)
 だからこそ、ゼノビアは愚神対応班へ「相手に妙な動きがあれば知らせて欲しい」と連絡していた。

 ――それが功を奏した。皮肉なまでの即効性で。

 エネミーが動いた、と一言の連絡があった直後。
 シャングリラの光線と、エネミーの水の一閃とが戦場を薙ぎ払った――それは燃え盛る桜の木を容易く切り払い、うずくまる一般人へと倒れこむ!
「――ッ!」
 咄嗟にゼノビアは動いた。覆い被さり、その者の盾となる。華奢な背中に重く乗るのは燃え盛る木。
「……っだ、いじょ、ぶ、ッ……!」
 掠れた小さな声だけれど。リンカーとして超人の域である膂力を以て、ゼノビアは燃える倒木を彼方へ押しのけた。ライヴスが伴わぬゆえに傷にはならない。救われた者は震えて涙ぐみながらも、確かにゼノビアへこう言った――「ありがとう」と。
「……!」
 言葉は上手く出てこないけれど。ゼノビアはしっかとそれに頷きを返した。肩を叩いて彼方を指差す。救助班が駆けて来る。きっと助かる。だから大丈夫。必ず守るから――少女は白と赤の髪を翻して、別方向へ走り出す。炎の向こうに従魔の姿が見えたからだ。
『確実に、一匹ずつ潰すぞ』
 ライヴス内でレティシアが言う。少女はそれにコクリと頷いた。
 従魔は一般人を狙うがゆえに、引き付けるというのは難しそうだ。それでも足掻く余地はあるはずだ。――従魔に踏み込み、蹴り飛ばす。これで構築の魔女の射程内に入るはず。ゼノビアは仲間を信じている。射程に入れれば、必ず倒してくれる。
(攻撃、だけをするのは慣れてない、ですけど……でも、ここが踏ん張りどころ、です……!)
 愚か者の名を冠した二挺拳銃を、蹴り飛ばした従魔とは別の方向へ向けた。一般人を狙い炎の中を進行する別の従魔へ。遠い。だが、当ててみせる。高純度のライヴスを込めた長射程射撃を、放つ。

『雑魚なら大人しくワンパンされろっての、なぁ!』
「……同感です」
 ゼノビアの弾丸に合わせ、八宏が炎より飛び出した。掲げる矛を力の限り――降り下ろす。その一撃は敵を討つ矛であり、人々を守る盾である。

 エージェントの想いは一つ。
 一人でも多く。一つでも多く。
 守れるものを、守り抜く!



●unputenpu

 炎は収まらない。

「……お前はブレイブナイトの邪英、だったのか?」
 一つの疑問を、久朗はシャングリラへと問うた。
「バラバラにしちゃうゾ!」
 返答は支離滅裂。シャングリラのチェーンソーめいた兇器が、久朗の身体をこれでもかと深く切り裂く。肉を引き裂く。彼の白いコートが赤くなる。
「――、」
 が、男は倒れない。並大抵のリンカーならとっくの昔に死すら超えているであろう猛攻を受けつつも尚。片膝すらも突かぬのだ。泣きも震えもしないのだ。久朗は盾として仲間を守り続ける。その術で傷を治し続ける。だからまだ、あれだけエネミーやシャングリラが無秩序なほど範囲攻撃を放っているこの状況でも、誰も倒れてはいないのだ。
「死角が無いなら正面から行けばいい」
 更に、無骨な鈍色の槍を手にして真っ向からの攻勢を仕掛けるほど。突き立てる。力ある限り。
「頑丈、頑丈!」
 シャングリラは嬉々としている。そのバケモノは時間と共に強くなっている。あのチェンソーめいた武装に布を絡ませて刃を詰まらせることは出来ないかと久朗は画策したが、どうもリアルなチェーンソーとは勝手が違うらしい。
「くろー、」
 そんな久朗を呼ぶ声があった。すぐ隣に樹がいて――直後、彼の口に賢者の欠片を有無を言わさず捻じ込んだ。
「無理するなとは言えないかもだけど、まあ」
「前線は危険だ、下がれ」
「そのつもり」
 相変わらずの反応でまあ安心したというか。樹は飛び下がりつつ術式を呟く。吹き抜けるのは死霊の風。地面に落ちている桜の花びらを舞い上げるそれは、さながら桜吹雪。
「……うん」『まチガいナいね!』
 先ほどサンダーランスも用いてみたが。火、風、雷……そういった自然現象系の技は、やはり威力が弱められている。前に相対したときよりも、だ。エネミーがそのような能力を持っていると断定していいだろう。
「じゃあ、氷はどうなのかな」『デテおいデ、ジャック!』
 魔女が指を鳴らした。すると傍らに現れるのは、氷でできたジャック・オ・ランタン。「森」の魔女の願いや想いが染み付いた不思議なカボチャが、大きく口を開けてケタケタ笑う――。

「けけけ。ケケケ」

 愚神は笑っている。その身に攻撃を受け続けてもなお。
(気味の悪い……)
 外骨格式パワードスーツ「阿修羅」で武装した佐千子は、じりじりと間合いを開けつつ銃声を止めない。不用意に攻撃を受けては前衛の負担が増えかねない。
『同感だ。吹き飛ばすぞ』
「もちろん」
 狙い、定める。正中線。基本的にはど真ん中。着実に、撃ち続ける。命中している。ダメージは確かに入っている。だがシャングリラは血に塗れてもなお破壊の武装を振り回すのだ。
(……持続修復があるとはいえ、ストッピングパワーもお構いなしとはね)

 バケモノめ。
 だが、どんなバケモノが相手でも。

『撃ち続けますよ』
 アリッサが京子のライヴス内で言う。少女は放つ一矢を以て返事となした。狙いはシャングリラ、ではない、それを掠めてその向こうのエネミーへ。
「ぎょわ」
 ずど。矢が機械のコメカミに突き刺さる。
「いって~~……見えててもこうも精確だとなぁ」
「わかる、わかるー」
 など。エネミーはシャングリラに囃されつつ、刺さった矢を引き抜いた。京子の矢はどこまでも巧だった。一定の距離内を動き回り、跳弾、転移矢、射線上の相手を狙うと見せかけて別を狙うフェイント、あらゆる技巧を以てエネミー達を撃ち抜いていく。
(判断する情報量を増やして負荷を上げてやる……!)
 一般人に手出しする余裕など、与えてやらない。死角がない、それが何だ。それさえ凌駕する精密さがあればいいのだ。京子は次の矢を番える――瞬間だった。

 ぱっ、と赤色が散る。

「―― ぐッ!?」
 腹を切り裂かれていたことに京子が気が付いたのは、直後。
『京子!』
「アリッサ、……大丈夫。まだ、戦えるッ」
 歯を食い縛る。今、何が起きた? 誰からの攻撃だ?
「老師、視えましたか」
『うんにゃ。奴め、何をしおった?』
 エネミーの眼前、白兵戦闘を挑んでいたミサトは起きた現象に驚愕していた。嵐山の目を以てしても見えなかった、今のは一体。
「時間差攻撃~……カッコイイでしょう?」
 エネミーが答える。そのスーツは乱れている。久朗のライヴスミラーによる反射攻撃を始めとした、エージェントの攻勢によって、だ。
『ミサトちゃんは防御面で不安があるからの。盾役というわけにはいくまいの』
「わかっていますよ老師。攻撃は最大の防御! の精神でいきます」
 ミサトは鞭を握り直す。誰かを攻撃しようとするのならその瞬間を狙う。外れたっていい、足掻いてやる、振り回す鞭で乱戦に引きずり込んでやる。プレッシャーを与えて戦局が有利になるのであれば!
「さぁ、踊りなさい!」
 疾風怒涛に操る鞭はさながら竜巻。打ち据えられつつエネミーは賛美の眼差しを一同に向けている。直後に振り下ろされるマチェット。異常なほど重力が乗った刃が、ミサトの肌に凄惨な血の花を咲かせる。

 刹那である。

 彼方より飛んで来た砲撃が、エネミーを後退させた。
 一同が振り返れば――そこに、対愚神砲を構えた構築の魔女。そして、八宏も。従魔殲滅を完了し、一同へと合流したのである。ちょっと遅れてゼノビアも現れる。霊符、救命救急バッグ、それから消火器の使用と、彼女は従魔だけでなく一般人への対応も出来る限りをやり尽くした。
「……ッ」
 奥歯を噛み締め、ゼノビアはエネミーへ銃を構える。
『悪党さんよ、いつまでこのイタチごっこ続けるつもりだ? ご立派な建て前は置いといてだ、悪党らしさが足りねぇんだよ、お前。スッカスカで嘘くせえ』
「……理想はどうあれ、貴方は殺します。正義に基づくのではなく、僕の意思で」
 チカと八宏は銃口の如き眼光で敵を見澄ましていた。
「正義、ですか」
 構築の魔女は浅く息を吐く。彼女と落児にとって、それはあくまで『普通』の延長上。ただし、今ここで想う『正しさ』を成す為に在る。
「傷ついた人がいるなら手を伸ばす『普通』ことでしょう? 残念ながら貴方の『悪』の『正義』ではないかもしれませんが」
 一同の言葉。
 エネミーは賞賛の拍手をする。
「素晴らしい。なんと崇高なる、理念であることでしょう!」
 相変わらずである。樹はそんなエネミーを、じっと見据え。シルミルテと共に、問う。
「前にアナタと対峙した時の様子を、とある人がこう評価していたよ」
『ソレはまルデ“破壊者”ト言うヨりは“破壊神ノ信徒”ノ様だネ!』
「マガツヒは破壊者の集まりみたいに言われていたけど」
『いっぱイ見てルトナんダか違ウよネ。それト香港!』
「狂化薬の実験」
『新薬ノ実験にシテは違和感がアった』
「まるで“理想のモデルケース”がいて、それを目指しているかのようにも見えたけど」
『ソコのシャングリラちゃんモ』
「名前がわからないもう一人も“愚神”なんでしょう?」
 返答は期待していない。だからこそ言葉を続ける。
「香港では人間を家畜と称するアンゼルムとも協力状態にあった? みたいね」
『生駒山ト一緒ノ従魔見タヨ』
「……愚神は自分より上位階級の者には絶対服従だって聞いたけど」
『ドコも同じ苦労スルのネー』
「で、マガツヒの頭は比良坂清十郎」
『アナタ達はソレに追従シてイル……ト』
『崇拝スるノニモ』
「“理想のモデルケース”にも適しているね」
 魔女は笑い、問う。

「ねぇ……君達」『マガツヒってナに?』

 エネミーは飛び下がると、今一度「素晴らしい」を口にした。
(いいところついてきますね。でも、それだけじゃないですよ。これからが本番なんですから)
 そうエネミーは心の中で呟いてから、聞こえるかどうかの小声で「西か中つの東か……」と呟いた。
「あと、もう一つ、パライソことブラックボックスはマガツヒとは異なる組織に関連しています。ヒントは『緑と森が豊かな場所』」
 言下である。ふわり。エネミーとシャングリラの体が、まるで重力などないかのように浮かび上がった。
「というわけで、」
「お前の口上を聴いてやる義理などない」
 ここで割り込んだのは久朗である。撤退となればエネミーは何かをやる、必ずだ。前のような悲劇を起こさぬ為にも。英雄に凄惨な光景を見せぬ為にも。放つ爆導索。しかし。シャングリラがその先端をバクンと喰らってしまうではないか。起こる爆発に無傷とはいかなかったようだが、愚神は血反吐を吐いて喜んでいる。
 京子はそんな『敵』を、冷たく見据えた。
「憎めと言ったね、ヴィラン。だから憎んであげない。かわりにいつか、その価値観がどこから来てるのか暴いてあげるよ。その振る舞いの内に隠したものを全部ね」
「待っています。では、悪役はこの辺で撤退しましょう。皆様それまでお元気で!」


 赤。



●勝利はいつも鉄臭い

 予想的中だった。
 一帯が、炎の渦に巻き込まれた。

 ……幾人かの一般人が、救助待ちだった者が、それに巻き込まれた。
 けれど。その被害は、最低限に食い止められたと言っていいだろう。従魔掃討が的確に済んだ賜物である。

 八宏が救助者をできるだけ下げるよう要請していなければ、被害はもっと甚大になっていた。
 ゼノビアがずばり「火災を激化させるかもしれない」と予想を的中させていなければ、守れない命がもっとあった。

 エージェント達は足掻いたのだ。悪の成す絶望に。食い止めたのだ。一でも多くを。



 ――任務後。樹は腰のベルトに密かに装着していたハンディカメラをH.O.P.E.に提出する。そこには一連の出来事が全て動画として収められていた。
「マガツヒは“愚神を擁したヴィラン”ではなく、“ヴィランを擁した愚神組織”の可能性があります」『対応よろシくネ!』

 戦いはまだ終わっていない。
 マガツヒ。それから、パライソなる愚神と関連しているらしい異なる組織の存在。
 魔女は深淵に想いを馳せる。

(……さて、どうなることやら)



『了』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • ローズクロス・クイーン
    新座 ミサトaa3710
    人間|24才|女性|攻撃
  • 老練のオシリスキー
    嵐山aa3710hero001
    英雄|79才|男性|ドレ
前に戻る
ページトップへ戻る