本部

進撃! となりの伊勢海老

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/04/30 22:56

掲示板

オープニング

「緊急事態です!」
 警報音が鳴り響いてもおかしくないようなテンションで、HOPEスタッフが叫んだ。
「たった今、従魔を一体討伐完了したという報告が入ったのですが、それが近隣の一般人に漏れてしまいました」
 ざわ、とどよめく本部。今討伐の任務がある従魔と言ったら、彼らが思い出すのはちょうど一体だけだったのだ。
 まずい。非常にまずい。現場が開放された場所――というか海水浴場にもなっている観光地の海岸だったのも、一般人に目撃されてしまう原因だったろう。当然近づけないように当局が警備していただろうが、障害物のない高いところから写真や映像がSNSで拡散されるなどすればもう世界中に筒抜けだ。
 しかし、過ぎてしまったことはもうしかたがない。問題は、今起きていることだ。
「討伐に向かったエージェント達は、戦闘の疲れでもう動くことができません。今から誰かに急行してもらうしかありませんが……」
 ある意味、戦闘より厄介かもしれない。居合わせたエージェント達は互いに顔を見合わせる。
 今回の討伐対象になった従魔は、伊勢海老だったのだ。
 海老の中の海老、海老の王。キング・オブ・エビ。従魔伊勢海老の大きさはだいたい二メートルほどだったというから、遠くからでもよく見えたことだろう。
 そんな伊勢海老がめでたく討伐された。そしてここ数年で一般人にも認知されてしまった事実。
 ――倒した従魔は美味しくいただける。
 人々は歓喜したに違いない。倒したばかりの新鮮な巨大伊勢海老を食べられる、と。つまり、現場付近に集結した野次馬達の目的は、伊勢海老食い倒れ。
 一度走り出した食欲は止まらない。なぜならそれは、人間の生存本能だからだ。伊勢海老仕様になった人々の胃袋を満たさなければ、大なり小なりの騒ぎは覚悟しなければならない。
「既にお気づきだと思いますが、この任務に当たるエージェントの方々には、伊勢海老の調理をしていただかなければなりません。それも、殺到する人々を満足させるだけの料理を」
 新鮮な食材、特に魚介類を最も美味しく食べるには刺身が一番なのだろうが、刺身ばかりでは人々は納得しないだろう。焼く、煮る、ゆでる、炒める……考え得るすべての調理法を駆使するレベルが求められるに違いない。
 あるいは、その先にある究極の味、至高の味すらも。
「というわけで、ある意味熾烈を極める任務です。伊勢海老従魔をおいしく調理し、居合わせる人々に穏便にお帰りいただくように頑張ってください」

解説

●目的
倒したばかりの伊勢海老従魔を調理して、野次馬の一般人に振る舞います。できうる限り、思いつく限りの調理法、究極にして至高の伊勢海老料理を完成させてください。

●伊勢海老従魔
キング・オブ・エビ伊勢海老が従魔化したもの。もうすでに倒されているので、動く心配はありません。ただの巨大な新鮮とれたて伊勢海老です。体長は二メートル、重さは計測不能ですが通常サイズ(2、30センチくらい)なら身が詰まって美味しそうだなと思えるくらいです。

リプレイ

●海老よさらば
 二メートルの海老は、威圧感半端なかった。総重量がどれくらいになるのか、想像もつかない。
 しかし時間との闘いは始まったばかり。せっかくの新鮮な海老が駄目にならないうちに、素早く解体して調理と保存に取りかからなければならない。
「これが噂の日本の高級食材、伊勢海老か。でも海老は海老、ボクが美味しく調理してあげるからね!」
 アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は、ふふんと無い胸を反らし宣言する。そんな彼女に微笑みながら、八十島 文菜(aa0121hero002)は、
「うちも伊勢海老扱うのは初めてやけど、頑張りますえ」
 と答えた。
「……これは解体するのも一苦労だな」
「はぁ~、エージェントになって良かったと思える一つだよね~」
 御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)は、さっそく腕まくりをしている。殻を使う予定なので、アンジェリカ達と相談して分け合いながら解体を始めた。頭も大きいし、殻も相当な面積があるので、むしろ余りそうな勢いだった。
 殻を外して現れた美味しそうなぷりっぷりの身に、見物人から大歓声が上がる。このままかぶりついてきそうな気配すらあって、一同は大急ぎで解体することにした。ここで見物人に乱入されたら、大乱闘になりかねない。それくらい殺気立っている。
 まあ、気持ちはわからないでもない。何しろ高級食材、それもこんなに大量なのだから。
「これだけでっかい伊勢海老となると俺たちの方が食いたいぜ……。だがこれも依頼! 我慢我慢! それじゃあイッツクッキンタイム!」
 神鷹 鹿時(aa0178)は、涙を呑んで調理にかかる。エージェントの鑑である。伊勢海老のカレーと伊勢海老の味噌汁を作る予定だ。殻と頭を出汁にしたいので、アンジェリカ達から分けてもらう。
 まず最初にカレーを作る。煮込み料理は時間がかかるからだ。伊勢海老の頭と殻を煮込んで作った出汁に身とあらかじめ調達しておいたイカとホタテを具材にしてスパイスも一から入れて煮込む。白米も調達出来たらフェックス(aa0178hero001)が白米を炊く。
「こんなに苦労してるのに食べれないなんて割にあわないぞ~……」
「帰りに何か食わしてやるから我慢しろよ! 俺も結構同じ気持ちなんだからな!」
 漂うカレーの香ばしい匂いに、見物のテンションはダダ上がりだ。
 一方、美味しそうな匂いはアンジェリカ達のところからもしている。
 アンジェリカは途中買ってきた魚のあらで魚介出汁、フュメ・ド・ポワソンを作る。出汁を取っている間に頭と殻、ミルポワ、ニンニク、ローリエ等を炒めてブランデーでフランベ。魚介出汁を投入して鍋で煮込んだら、丈夫なザルにあけ擂粉木でガシガシと砕いてエキスを絞り出すようにしながら漉したら、生クリームを加えて煮詰めながら塩胡椒で味を調える。味付けはシンプルだが、過程に手間暇がかかっている。
「これが甲殻類の旨味を余す事無く抽出したアメリケーヌソースだよ!」
 ばーん! という効果音すら聞こえてきそうなアンジェリカの宣言に、見物人から大きな拍手がわき起こった。これを使ってどんな料理ができるのか、期待も高まっていく。
 文菜のほうは、と見ると、海老の身を粗微塵に切っているところだった。
「何を作るの?」
 と訊くと、
「海老しんじょう、海老のミートボールみたいなもんやろか」
 という返事だ。どんなのか気になったが、できてからのお楽しみと思うことにする。
「あ、そのミンチ少し貰っていいかな?」
 ボウルに入っていたミンチを、ちゃっかり少し分けてもらうアンジェリカだった。
「手間が省けちゃった♪」
 一方、殻を分けてもらった恭也と伊邪那美はというと。
「え~、ボクも何か一品作りたいんだけど~」
「残念ながら、まだ調理を託すには足りて無いな」
「……また、皿洗いとか器の用意とか?」
「心配するな。今回からは調理の手伝いをして貰う」
「うん! 任せてよ」
 張り切る伊邪那美に、恭也は殻を細かく砕くように指示した。海老が大きいので、殻の大きさと硬さもなかなかのものだ。けっこう力がいる。
「殻を砕けって言われて揶揄われてるかと思ってたけど……何になるの?」
「真面目に習っている者を揶揄うほど悪趣味じゃない。甲殻類の殻は炒めて煮出すと良い出汁が出るんだ 覚えて置いて損は無いぞ」
 二人がかりで殻を粉々にし、油で玉葱と大蒜と一緒に炒める。炒めた物に水とブイヨンを足して煮出し後にザルで殻を取り除いたら生クリームとご飯を入れて一煮立ちさせてからミキサーに掛け、更に裏漉しして滑らかにする。仕上げに塩、胡椒で味を調える。殻の粉を片栗粉、卵、水、胡椒と混ぜ合わせてホットプレートで焼いて海老煎餅を作るのだ。すでに、やめられないし止まらなさそうないい匂いがしている。
「ふむ……この一品は伊邪那美に任せて良いか?」
「本当に!? ボクが一人で作って良いの?」
「変なアレンジを加えないと約束出来るならな」
「天地神明に掛けても、変な手は加えないと約束するよ!」
「自称神族がそれで良いのか……まあいい、任せたぞ」
 何事も経験、習うより慣れろだ。伊邪那美は嬉しそうに鼻歌など歌いながら海老煎餅を焼いていたが、ふと気づいたように呟いた。
「ところでさぁ……ボク達さっきから殻しか使ってないけど身を使わないくて良いの?」
「あっ……さっきの海老煎餅に身のすり身を追加してくれ。甘みが強まるはずだ」
 というわけで、二種類目の煎餅が作られることになった。最初に作った方はすでに群がった見物人達がぼりぼり食べている。やっぱりやめられないし止まらないようだ。手軽にできるがカルシウムなどが入っていて栄養満点、胃を慣らすための前菜としても最適だろう。
「追加で塩焼きと蒸し海老を作っておくか」
「ねえ、グラタンは? 前に作ってくれた時に海老が入ってたよ」
「材料の質が良いからな、余り手を加えてたくは無いが……伊邪那美の希望だ、追加で作っておこう」
 伊勢海老のグラタン。聞くだに贅沢である。しかし身の方もかなりあることだし、少しでも使うに越したことはない。
「それと、塩焼きの方も任せるが火を入れ過ぎない様に注意しろよ」
「せっ、責任重大だね」
 姿勢を正しながらも、嬉しそうな伊邪那美であった。
 鹿時とフェックス組は、カレーを煮込む間に味噌汁を作っている。
「うぅ……美味しそうな匂いに負けそうだぞ~……」
 ちょっぴり涙目になりながら、出汁をベースに味噌と薬味ネギを乗せて味噌汁ができあがる。具はもちろん海老が入っている。贅沢すぎる日本人の心の汁物だ。
「ここは伊勢海老カレーと味噌汁だぜ! 鉄板だがそれでこそ美味いぜ! ぜひご賞味を!」
 お椀と皿に盛りつけて並べていくと、今まで我慢していた見物人達がわーっと群がってきた。フェックスが必死で配膳するが、何しろ人が多すぎる。どんな時も行列するのを忘れない日本人だが、待っている人の間から遅いぞーとか割り込むなーなどの声がちらほら聞こえてきた。
「こら! せっかく美味い伊勢海老料理が食えるのはわかるがルールとマナーは守れよ!」
 鹿時は、配膳をフェックスに一任して止めに入る。お腹が空いているのも伊勢海老を早く食べたいのもみんな同じなのだ。喧嘩両成敗で仲裁し、また配膳に戻る。
「俺達だって我慢してんだ! 守れない奴はご退場願うぜ!」
 幸いにも、余りひどい騒ぎにはならずにすんだ。カレーと味噌汁に舌鼓を打つ人々の歓声と満足そうな笑顔が辺りに溢れ、鹿時とフェックスはやりきった笑みを交わし合う。お腹は空いているが。伊勢海老食べたいが。
 そしてアンジェリカも、さっきもらった海老のミンチを使って料理を完成させにかかっていた。ミンチをソースに入れてさらに煮詰めたら、それを湯がいたパスタにかける。
「海老のミートソースパスタの完成だよ!」
 見物人から拍手が起こった。見た目こそ派手さはないが、手間暇かけて美味しく作り上げた一品なのは、過程をすべて見守ってきたからこそわかる。
 文菜のほうも、蒸しあがった物をお椀に入れて、そこに舞茸や蒲鉾を入れたお吸い物を注ぐ。
「うちも海老しんじょうのお吸い物、出来ましたえ♪」
 にっこり微笑む。しっとり上品な和風の香りが漂う。パスタとお吸い物で和洋折衷だが、一緒に食べても方向性が反発することなく、むしろ互いのいいところをさらに補い高め合うような不思議な調和が生まれる。いち早く料理にありつく幸運をゲットした者達は、そのおいしさに舌鼓どころか溜息すら忘れてひたすら食べていた。
「それにしてもそのお年でようそんなん作れますな」
「孤児院のシスターのお手伝いしながら覚えたんだよ。シスターは何でも出来るんだ♪」
 アンジェリカと文菜は、話しながらお皿を並べる。すでに、第二陣の見物人が押し寄せてきている。
「皆満足してくれるかな? さぁ、食べてみてよ!」

●包丁さばきが命
「ザリガニの数倍おいしいエビだって聞いてきたけど……同じ調理法でも数倍おいしいのができるのかしら?」
 エレオノール・ベルマン(aa4712)は、未知の食材のためまず伊勢海老の味や食感を確かめることから始めていた。平たく言えば、見物に混じってみんなの料理を食べ歩いている。トール(aa4712hero002)も一緒だ。
 彼女はスウェーデン出身だが、ふるさとではザリガニ料理でザリガニを食べる。高級イセエビの調理方法はわからないが、食べ歩いた結果家庭料理レベルのザリガニ料理と同じ方法で調理することにした。そもそもタラバガニはザリガニのほうに近い生物だし、海老とカニは甲殻類つながりといえなくも……なくはないが。
 ともあれ、調理開始である。伊勢海老に必要ないかもしれないが、一応酒でくさみとりをして、下ごしらえ。塩焼き、バーベキュー、シンプルな炒め物、ニンニクやレモン、白ワインでソテーにすることにした。ビスクやパスタも考えたが、食べさせてもらった海老のお煎餅とパスタが美味しかったので、被らないように見合わせることにする。見物人も、同じ種類の料理よりもたくさんバリエーションがあるほうが喜ぶはずだ。
 しかし、よい素材というのはシンプルであるほど味が引き立つのもまた事実。普段伊勢海老ではあまり使われない洋風の調理法も新鮮でよかった。食べにきた見物人からは好評で、その噂がどんどん口コミで広がっていき、行列がなかなか途絶えなくなる。
 家庭料理というのは、毎日食べるもの。つまり、誰がいつ食べても身体と心に馴染み、懐かしく人を癒す料理なのだ。それは国の違いなど関係ない。
 忙しく調理しながらも、エレオノールとトールは楽しい気持ちでいっぱいだった。
 海老の身はまだまだある。そして日本人である以上、やっぱり刺身をいただきたいという気持ちの人もいる。
 子龍(aa2951hero002)は、そんなご要望にお応えしてお造りを作ることにした。黒金 蛍丸(aa2951)は、持ち込んだ自衛隊四型飯盒三つを使って米を炊いている。子龍にあまり料理の経験が無いためのお刺身という選択だったのだが、日本料理に於いては魚などを捌く「庖丁人」が最も重要で経験を必要とされたことからもわかるように、刺身とは食材を切るところから料理が始まるとても難しいものなのだ。刃を入れるときに細胞を壊してしまえば、水が出て一気に味が悪くなる。
 故に、子龍の気合いも十分なものだった。強敵と相まみえたときに見開かれる両眼が、かっと瞠られている。普段振るう武器を今は刺身包丁に持ち替えているが、見ている者達の目には、海老を捌く姿は強敵との決闘を思わせた。
 海老の身を薄く切った後、氷水に入れて締める。ぎゅっとうまみを閉じ込めた美しい白さに、幾人もの見物が喉を鳴らした。これをもちろん刺身醤油とわさびでいただくのである。
 さらに彼は日本酒も持ってきていたため、特に見物男性陣のテンションが一気に上昇した。
 美味しい日本酒に美味しい刺身。最高ではないか。
 熱々のご飯は、お客さんだけでなく仲間達にも提供する。ご飯がほしい系の料理もけっこうあるので、これは喜ばれた。
「味噌汁今新たに作ったばっかりだから、持ってっていいぜ!」
 鹿時からは味噌汁をもらい、
「あ、これ海老のお煎餅。これだけあれば二人分足りると思うけど……」
 伊邪那美からは、焼きたて煎餅を分けてもらった。ほくほくしながら子龍は戻り、蛍丸と二人仲良く分け合って料理を堪能する。
 蛍丸は、子龍のお刺身をもきゅもきゅ食べながら、味噌汁と煎餅もゆっくり味わっていた。
「海老っ! 海老なんだよっ! えっ? 影さん料理出来るの?」
 ミーニャ シュヴァルツ(aa4916)は、風魔・影丸(aa4916hero002)が料理も身につけているのだと今初めて知って驚いている。
「ふむ。主様、忍とは只忍ぶだけに非ず。基本的に殆どの事はこなせねばなりませぬ。仕事柄様々な所に諜報に入ります故。診療所に入るのに薬を知らぬ、飯屋に入るのに料理が出来ぬでは話になりますまい」
 スレイヤーなイメージが広まりすぎている感があるが、本来忍者とは諜報員。決して誰にも気づかれない影のような存在として、あらゆるところに忍び情報収集したりするのが本来の仕事である。何者でもあり、何者でもない。
 それはともかく、影丸はこの機会に主の胃袋と心をがっしと掴もうと必死であった。熱々の魚介出汁が入った保温ポット、ミーニャの為に撰んできた米、元々の世界で飯屋に諜報に入ったときに着ていた板前服と捻り手拭いの鉢巻き(めしやのロゴが入っている和服)、ミーニャの為の食器、板前の時使っていたマイ包丁&砥石持参と、気合い充分準備万端である。
「準備は全て僕(やつがれ)にお任せを」
 そういうお言葉に甘え、ミーニャは座って影丸の包丁さばきを見学している。
「うわぁ♪ 影さん、とっても強いのに料理も出来るなんてすごいんだよーっ! 影さんって出来ないことってあるの?」
 手際のいい影丸の姿に、ミーニャは目をきらきらさせている。無事彼の株が上昇しているようだ。
「海老はそれ自体に旨味がありますので、素材が良ければ単純な料理でも十分美味しいのですよ」
 必殺料理人は、下ごしらえのすんだ海老の身をご飯と一緒に炊き込む。海老のうまみが充分凝縮された炊き込みご飯だ。ミーニャと見物人が、固唾を……もとい普通につばを飲む。
 刺身も作るが、これは子龍がやったのとは反対に塩を入れた熱湯で身を締まらせる。表面が赤くなる程度にさっとくぐらせ、すぐに氷水で冷やす。殻をむき背わたを取ってから、醤油をつけて食べるのだ。この手順のタイミングをうまく見極められるかどうかが、プロの料理人の腕の見せ所だ。
「此は海老の炊き込み飯です。ほんの少し醤油を垂らして召し上がり下さい。此方の出汁をかければ、また違った旨味がありますので、どうぞ」
 できあがった炊き込みご飯は、お茶漬けとして二度楽しめるようにした気配りの良さ。こういうシンプルな料理ほど作る人の腕がわかる。素材の良さもだ。
 ミーニャはもちろん、見物人もこれには大喜びだった。他の料理も堪能したが、そろそろ「しめ」がほしい頃合い。お茶漬けをさらさらとかき込んで、満足感に満たされる。
 長かった海老との戦いも、それを思い切り腹に納めた人々の満腹の溜息で終わりを告げようとしていた。すでに日はとっぷり暮れ、かつて巨大海老が身を横たえていた場所にも月の光が優しく射していた。

●始末のこと
「伊勢海老食べれなかったんだからステーキ食べたいぞステーキ……! それもデッカイの……!」
 後片付けは、善意の人々の協力もあり思いの外早く終わった。海老は文字通り頭から尻尾まで使いきったので、捨てるところなしだった。素晴らしいことだ。
 が、報告書を書いている鹿時の横で、フェックスは美味しいものを食べたいと急かしている。
「わかったからちょっと待ってろよ……ったくこっちも同じ気持ちなんだがな……」
 料理をしていたらお腹いっぱいになった気がしていたが、あくまで気のせいだった。それをぐうぐう鳴るお腹が訴えている。
 とにかく早く報告書を終わらせなければ。そう思ってうんうん唸っていた鹿時の前に、すっと何かが差し出された。
「少しだけど、よかったらどうぞ」
 伊邪那美が、お吸い物と味噌汁、パスタの器をお盆に載せてきたのだ。その後ろには恭也がいて同じくお盆を手にしているが、こちらは刺身とお茶漬け、ソテー、小さいグラタンが載っている。
「海老が少し残っていたから、一人一つずつ食べられるくらいの分は作れた」
 思わぬ差し入れに、鹿時とフェックスはぽかんと口を開けて惚けた。
 絶対自分達は食べられないと思っていたのに。
「これだけじゃご飯には足りないから、終わったら打ち上げがてらどこかお店に行こうって」
「う、うん……」
 食欲をそそる匂いが、ふんわりと彼らを包む。
 急いで報告書を終わらせなければ。鹿時は改めて気合いを入れ直した。そうしたらみんなで、今日のことを互いに労いながら思い切り美味しいものを食べてやるのだ。
 気遣いをくれた人達に、鹿時とフェックスは心からありがとうと言った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • ぼくの猟犬へ
    八十島 文菜aa0121hero002
    英雄|29才|女性|ジャ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • キノコダメ、絶対!
    神鷹 鹿時aa0178
    人間|17才|男性|命中
  • 厄払いヒーロー!
    フェックスaa0178hero001
    英雄|12才|男性|ジャ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 美味刺身
    子龍aa2951hero002
    英雄|35才|男性|ブレ
  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命
  • エージェント
    トールaa4712hero002
    英雄|46才|男性|ソフィ
  • おもてなし少女
    ミーニャ シュヴァルツaa4916
    獣人|10才|女性|攻撃
  • 主の守護
    風魔・影丸aa4916hero002
    英雄|25才|男性|シャド
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