本部
恋愛・スイート脳
掲示板
-
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/04/24 09:15:51 -
【相談卓】
最終発言2017/04/23 21:58:33
オープニング
「好きです。付き合ってください」
中学校を卒業した時、キミコは初めて告白された。
同じクラスの男の子は顔を真っ赤にさせていて、キミコは可愛いなと思った。
「でも、ごめんねぇ」
キミコは、自分に告白していた男の子を食べてしまった。
●
キミコには、愚神に取りつかれている自覚があった。
けれども、自分ではどうしようもなかった。告白してくる男子生徒を食べて殺してしまっても、キミコには何もできない。相談できる人も味方も、キミコには一人もいなかった。共働きの親とは疎遠だし、友達もいない、異性は単に自分に告白してくるだけの生物……それがキミコの小さな世界のすべてだった。
高校生になったら愚神は大人しくなると言っていたのに、キミコが高校生になっても愚神はぜんぜん大人しくなるようすはなかった。むしろ、中学校の頃よりも多くの男性生徒の男をむさぼるようになってしまった。もう、この愚神は自分から離れることはないだろう。キミコには、そんな予感があった。
「おまえが、告白してきた男を食らう女子高生か。噂通り、ものすごい美人だな」
そんなキミコの前に現れたのは、リンカーであった。
銃と刀、双方をもった男性のリンカーだ。
きっと待ち伏せしていたのだろう。公園には誰もおらず、キミコとリンカーの二人っきりであった。普通だったら告白されるのだろうが、残念ながら今回はそうはならないようだ。
「私を殺すのね。そうね、それが正しいわ」
「いいや、おまえは殺さない。俺は、誰一人として見捨てない」
おまえから愚神を引き離してやる、とハルは言った。
●
HOPEの支部に、とある報告が舞い込んできた。
「近隣住民より、公園で戦闘中のリンカーが負けそうだという報告が入ってきてます」
「こっちは、その戦闘は未確認だぞ。誰が何と戦っているんだ!」
「目撃情報から、リンカーのハルと女性型の愚神とのことです。ハル側が劣勢ですが、おかしなことを叫んでいたとか」
愚神と戦っていたリンカーは「ここに誰も呼ぶな!」と叫んでいたらしい。
「なぜ……呼ぶなと」
「おそらくハルは、引離せない愚神を無理にでも引離そうとしているのでしょう。彼は、つい最近友人を亡くし……HOPEのエージェントに救われた人物でもあります」
もうこれ以上は愚神に誰も殺させない、と彼は思っているのかもしれない。
「だが、このままではハルの身が危ない。至急、手の空いているリンカーに連絡を取って加勢に行かせろ!!」
●
かつて、ハルはクロトというリンカーと共に隊を逃すためのしんがりと務めた。結果ハルは生き残り、クロトは死に――ハルはその事実と書面から向き合うことができなかった。そんな自分を救ってくれたのは、仲間と死んだクロトであった。
「あいつの代わりに、人を守る……一人だって死なせるものか」
愛をむさぼる愚神の前にして、ハルは息も絶え絶えに呟いた。
解説
・公園……夕方の公園。遊具はなく、ベンチと花壇が多い大人の雰囲気の公園。
・愚神(キミコ)……キミコと引離すことは不可能。素早いが、腕力はあまりない。武器は鞭を使用する。鞭は相手の体に巻きつけて、動きを拘束することも可能。
愛の告白――愚神が視線を合わせて微笑むだけで、一定時間動けなくなる。
愛のベーゼ――口づけをすることで、相手の身体を完全に操ることができる(操っている人間の意識はそのまま)
愛の終焉――ベーゼで操っている人間のライブスを取り込み、愛の奴隷に配布。身体能力を向上させる。終焉使用後は愚神の姿が変わる。
・愚神……八本の触手をもった巨大な愚神。素早さは減退するが、腕力が大きく向上する。
愛の蹂躙……二本の触手の先から、炎を召喚し奴隷たちもろとも燃やし尽くそうとする。
愛の別離……奴隷を犠牲にすることによって蹂躙の火力がアップする。
愛の殉教……ベーゼで操っている人間のライブスをすべて使用し、自分と周囲一帯を燃やし尽くす。
愛の奴隷――少年たちの死体に従魔が入り込んだもの。身体能力は共鳴中のリンカー並。武器は主にナイフを使用するが、相手にナイフ戦に慣れた頃合いにあると半数は銃を使うようになる。多数出現。
ハル……友人が救えなかった分まで命を救いたいと考えており、それに殉じる覚悟。動きが素早く、武器は刀と銃。接近戦は苦手。
(以下PL情報)
ベーゼにかかった状態のハル(基本的に後方支援を担当)
粉砕支援――近づいてくる敵に向かって銃を乱射する。
友の技――接近戦で追い詰められた時のみ使用。相手の急所に向かって、全体重をかけた一撃を放つ。ハルが接近戦を不得手としているため、当たっても致命傷にはいたらない。なお、刀はかなり追い詰められないと使用しない。
生き残る覚悟――愚神が終焉を使用後に使用する。少なくなったライブスをかき集めて、自信の回復をおこなう。回復後は以前のように行動可能。
リプレイ
夕焼けのなかで美しい少女が笑う。手には鞭、周囲には愛の奴隷を伴って。
――私を殺すのね。そうね、それが正しいわ。
キミコは、自分と戦うリンカーを見つめていた。
たった一人で、キミコを救おうとするリンカーを。
「いいや、おまえは殺さない。俺は、誰一人として見捨てない」
●救えない少女
「一人で処理しようとしてもできるもんじゃないでしょ!」
公園にエレオノール・ベルマン(aa4712)の声が響き渡る。ハルが後ろを向いたとき、そこにはリンカーたちがそろっていた。
『美しい愚神を助けたいのはよくわかるがな』
トール(aa4712hero002)は豪快に笑い、愚神を見つめる。エレオノールは、トールの言葉に反論する。
「仕事として愚神は倒す、それだけよ! だれが好き好んで首をつっこむもんですか!」
「私の容姿に騙されると酷い目に合うわよ。この人たちみたいに」
愚神に操られる愛の奴隷たちがナイフを持って、エレオノールに襲い掛かる。彼女は銀の魔弾を使用する。始まる戦闘に、灰色 アゲハ(aa4683)は気を引き締める。
「前回のことがあるからって、ムキになっちゃダメよ。冷静さを失ったら負けだからね」
前回、リンカーたちはハルの悪夢に飛び込みトラウマを前排除した。
だが、どうやらハルはそのトラウマを正しくは乗り越えられなかったらしい。
『……わかってる。ワタシ達はエージェントなのだから』
シズク(aa4683hero001)は、盾で奴隷たちの攻撃を防ぎながら頷く。
そして、愚神に向かって尋ねた。
『キミコ、愚神と契約した理由があるはずだ。心揺らぐ隙を狙われた、おまえも被害者だ。
だが、つらさや悲しみを他人へ向け命を奪うことは解決にならん。……現におまえはそれで満たされたか? 満たされたのは愚神の腹だけではないのか。今、吐き出せばよい。我は聞こう』
友達だったの、とキミコは呟く。
「私のことを誰も分かってくれなかったの。愚神だけが、私の友達になってくれたわ。偽物の友達だったけど……私は嬉しかったの」
『ハルはそれでもおまえを助けたいと願っている。そんなエージェントもいるということを胸に刻んでおけ』
シズクの言葉に、キミコは「無理なのにね」と返した。
『罪には罰を、死者に神の救いがあらんこと』
祈りの様な言葉を唱え、凛道(aa0068hero002)は愛の奴隷たちの足を狙う。
「遺体をあまり傷つけたくはないもんね……」
木霊・C・リュカ(aa0068)は操られている死体を悲しげに見つめる。
紫 征四郎(aa0076)はその様子を見て、思わず呟いた。操られる死体も悲しいが、愚神に操られた少女も助けたい。
「愚神と女の子を引き離してあげたいですが、でも、一体どうしたら……」
『よく考えろ。最善はなんだ。全員が無理なら、1人でも多く助けることだろ』
ガルー・A・A(aa0076hero001)は、相棒を叱咤する。その言葉に征四郎は首を縦に振っただが、やはりためらいがある。
『迷いがあるなら俺様がやる』
ガルーが、征四郎から肉体の行使権をもぎ取る。
そのまま黙って、武器を握った。
「やめろ、その子を殺すな!!」
ハルは叫んだ。
その叫びに、葉月 桜(aa3674)と伊集院 翼(aa3674hero001)は頷く。
二人とも、キミコを殺す気はなかった。むしろ、彼女を救いたちと思いその場に立っていた。だからこそ、ハルの言葉に背を押されたように叫ぶ。
「キミコっていうんだよね。君なら、大丈夫。まだやり直すことができるよ!」
『命を捨てようとするな! 私たちが助ける、だから希望を持て!!』
桜と翼は、自分を頼ってとキミコに向かって手を伸ばす。
「もう……私はダメ」
だが、キミコが手をとることはなかった。
「あきらめたくはないものだな」
狒村 緋十郎(aa3678)もそう呟いた。愚神は倒さなければならないと頭では理解しているのだが、かわいらしい少女を攻撃するのは気が引けるのだ。
『本当に、それだけよね』
にこり、とレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は笑う。浮気は許さないとでも言いたげに。
「告白してきた男のみを喰らう愚神ならば「誰からも告白されない状況」を作れば無害になるかもしれない……或いはキミコに愚神と「殺すまではライヴスを奪わない」とでも誓約を結ばせれば? 殺さずとも無害化することはできる筈だ」
『なるほど。愚神が英雄になってくれたら、リンカーとしてまっとうには生きられるかも。よくわからないけど』
緋十郎の言葉に百薬(aa0843hero001)は、手をぽんと叩いた。
『それが本当に可能なことだと思ってるの? 愚神が飼いならせるものならば、最初から被害はでないわよ』
緋十郎の言葉は、すべて机上の空論だ。
いや、空論にすらなっていない。
不可能な事案だ。
現実的ではない。
レミアは、そう断言した。
「それでも……助けないと」
焦るようにハルは武器を握る。
どうして、ハルがそこまでして愚神に固執するのかを餅 望月(aa0843)は分からなかった。だが、彼がこれぐらいではあきらめないこと伝わってきた。
「ハルくん、愚神は倒さなければいけません。それがキミコちゃんを殺すことにつながるとは限りません。できることは、全部やりましょう」
大丈夫です、と望月はハルに声をかける。
「キミコさん、君はどうして周りに助けをもとめなかったの?」
小宮 雅春(aa4756)はキミコに尋ねる。
「私の両親は共働きで……相談する時間もなかったの」
その言葉に、雅春はうつむいた。
「……キミコさんの気持ち、少しだけ分かるよ。僕の親も共働きだったから、一緒にいた思い出もあんまりなくて「お前なんかいなくても誰も困らない」って言われてるみたいでとても悲しかった」
雅春は隣にいるJennifer(aa4756hero001)を見つめる。
「もしジェニーに会えなかったら、僕が愚神になってたかもしれないね。もう少し抗ってみようよ。長い夜が明けるかもしれない」
雅春は、希望を持っていた。
だが、無理だと思うリンカーもいた。
「命を秤にかける……か」
キャルディアナ・ランドグリーズ(aa5037)の唇を噛む。
キミコを助けることはできない。
だからこそ、ここで倒さなければ更なる被害がでる。
『覚悟を決めろ、脆い心は隙を生むぞ。』
ツヴァイ・アルクス(aa5037hero001)の言葉に、キャルディアナは覚悟を決めた。
「何人犠牲になったと思ってる!」
ワルムバールHM-3を持ったキャルディアナが、愛の奴隷に立ち向かる。
「ここで従魔になってるやつら全員だ! ここで終わらせなきゃ、もっと犠牲が出る。悪ぃが、こいつの命、天秤にかけさせてもらうぜ」
キャルディアナの言葉に、ハルは叫んだ。
「殺すな――!!」
「優しい人ね。でも、それでは何にも救えない」
キミコは、ハルに近づいた。
そして、その唇を奪う。
「なにを……」
ハルの腕は、彼の意思を無視して望月に対して攻撃した。望月は寸前のところでその攻撃を避けることができたが、一体何があったのかと目を丸くする。だが、すぐに何があったのかを悟った。ハルは、愚神に操られているのだ。
「……かなり厳しいね。愚神取りが愚神になったか」
『まだ愚神じゃないよ。操られているだけだから、あのリンカーの方は助けられるよ』
百薬の言葉は、希望であった。
「つーちゃん。ハルが操られたみたいだけど大丈夫かな?」
不安げに、桜は尋ねる。
『今は出来る限りの事はしておこう、何もしないよりはマシだ』
「うん」
烈風波を使用し、桜が従魔をなぎ倒す。
『仲間と呼吸を合わせるぞ。連携を忘れるな』
「もちろんだよ」
桜は、翼の言葉に頷いた。
だが、そんな桜の攻撃を妨害するかのようにハルは攻撃を開始した。
「……ちがう。これは愚神が勝手にやらせて――」
仲間に攻撃し戸惑うハルに、真っ先に挑んだのは凛道であった。
『……届く刃を持ち合わせていないのは、些か口惜しいですね』
凛道は、まだハルが愚神に操られているとは気づいていないようであった。ハル自身の暴走故に、仲間を攻撃したと思っていた。
「近寄るなっ!」
接近した凛道に、ハルの友の技が発動する。
『凛道! 怪我はどうだ?」
ガルーの言葉に、凛道は首を振る。
『かすった程度ですが、キスされると操られる愚神の能力が厄介ですね。征四郎さんにも備わっていたら、僕はすでにやられています』
「本当にピンチのときもブレないよねー」
お兄さんもちょっと感心しちゃうよ、とリュカは苦笑いを零した。
「あの技って……」
雅春は言葉をなくす。
あの技は、おそらくはハルの友人のクロトのものを模倣したものなのだろう。その証拠に使い手がハルでは威力がでず凛道にはあまりダメージを与えられなかった。
「気を付けて、あなたにも……」
レミアの前に、気が付けばキミコがいた。
緋十郎は彼女を押しのけようとするが、美しい彼女の瞳から目を話すことができない。自分にはレミアがいるのに、見つめてくるキミコの瞳こそがすべてだと思ってしまう。
『言ったわよね。浮気は許さないって』
「レミア!!」
キャルディアナは、愚神に向かって銃弾を撃ちこむ。
その銃に被弾した愚神は、緋十郎から距離を取る。愚神の瞳が離れたせいなのか、レミアは体の自由を取り戻していた。『ようやく連携という言葉を覚えてくれたな』とツヴァイは小さく呟いた。
『人の男を誑かすなんて、面白くない技よね。緋十郎、帰ったらお仕置きよ。覚えておきなさい』
嗜虐的な笑みを浮かべるレミアの言葉に、緋十郎の背中が震える。
ああ――ああ、これこそが自分が求めていた……愛なのだ。
「なんだか、よりまずい状況になっているみたい」
エレオノールは遠目で、ハルが愚神に操られている姿を確認する。
ただでさえ愚神の容姿のせいで戦いづらい状況だと言うのに、人をマヒさせたり操ったりする攻撃が厄介すぎる。
『なら、まずは周囲の敵を薙ぎ払うか?』
トールの言葉に、エレオノールは唾を飲む。
「できそうか?」
『何、雷を身に着けた後は釣りがくるほどだ』
「奴隷は一人でも多く減らしたいもんなっ!!」
エレオノールは紫電を身にまといながら、一体でも多くの奴隷たちを倒していく。仲間たちも、自分と同じように戦っている。負けてはいられない、とエレオノールは思う。
「……もう、敵わないって思ったみたい。だから、ごめんなさいね。優しい敵さん」
キミコが、ぼそりと呟いた。
――愛の終焉。
「一体何が起こったんだ。いきなり、奴隷たちの動きが早くなったよな」
奴隷たちの相手をしていたエレオノールは、その変容に驚く。先ほどまで当たっていた攻撃が、今は相手に避けられるのだ。
『先ほどの技はハルのライブスを吸い取る技のようだな。そして、奴隷たちの身体能力が上がっている』
トールの言葉を引き継ぐように、キャルディアナが呟く。
「奴隷たちだけじゃない。キミコの姿も変わっただと……」
キミコの姿は、もはや可愛らしい少女のものではなかった。八本の足が生えたおぞましい姿に、思わず雅春が目を見張る。
『あれが……愚神の本当に姿なのね』
Jenniferは冷たい声で呟く。
その姿を見たとき、誰もが思った。
――キミコはもう誰にも救えない、と。
『ハル、救うとは何だと思う……』
シズクは、操られたままのハルに問いかける。
『罪を重ね止まることができない者を止めるのも、またひとつ救うことになる。もはやキミコは殺し続けるしかできん。ならばせめて、彼女の生き様を記憶しておこう。我々の心で生かそう』
「あの子は綺麗で可愛い子だった。女の子だったら、誰でもそっちを覚えていて欲しいはず。……化け物になった自分ではなくて」
アゲハは、目を伏せる。
シズクはブラッドオペレートを発動させ、愚神の触手を退ける。炎を吐いていた触手は、シズクによって切り捨てられた。
「そんな……」
助けられないと聞いて、ハルは呆然とする。
『誰一人死なせないか……。理想は高尚ではあるが幼稚でもあるわね』
レミアの呟きに、緋十郎は悔しそうに唇を開く。
「レミア……本当に無理なのだろうか?」
『あの子たちみたいな優しさは美徳だとは思うわよ。でも、優しさだけで他人を助けられるほど戦いは甘くはないわよ』
レミアの視界の向こう側には、桜たちがいた。
「キミコはただ友達が欲しかっただけの女の子だよ。あきらめたくない……。あきらめたくないよ!」
桜はヘヴィアタックを仕掛けながらも、自分に言い聞かせるように叫ぶ。だが、一方で翼は目を伏せる。
『……キミコ殿はもう』
「つーちゃん、わかってる。それでも、ボクはあきらめたくはないんだよ。愚神につかれたキミコは被害者でもあるし……何より高校生なんて一番楽しい時期に死んでほしくないんだよ」
それは、大人としての桜の叫びであった。
大人として――子供を助けたい。
そういう叫びであった。
『全員助ける、それが出来りゃ一番良いんだろうさ。でも全員救う、なんて拘りで、救えたはずの奴が救えないのはお笑いだろ』
ハルはガルーに向かって、銃を向ける。
ハルの表情から、その攻撃が本心からのものではないと知れた。
征四郎もそうなのだ。底抜けに優しく、悲劇の結末を全てハッピーエンドにしてやりたいのだ。だが、ガルーは大人だ。すべての物語が幸せには終わらないことを知っている。
『だから、覚悟は決めて欲しい。その上でお前さんには戻ってきてほしい。俺様は1人でも多くを救いたいんだ。その1人はおまえのことだ、ハル!』
望月は愚神に対して、パニッシュメントを使用する。
「これなら、愚神にだけダメージを負うはずですよね!」
『だめだよ。それでも愚神とキミコは切り離せないよ』
百薬の言葉通りだ。
愚神とキミコは、もう切り離せない。
「……もうちょっと人に頼ってみれなかったのかな。理想は良いことだけど、もう少しきっちり準備をしていればもっと救えた物も多かったよ。キミコちゃんの愚神に襲われた人やハルちゃん自身も」
リュカの言葉を聞いた凛道が、反論する。
『まだ、です。まだ……僕らは』
凛道は、ガルーを見やる。
『おう、俺様たちは、まだ一人は救えるぜ!』
ガルーは、クリアレイを発動させる。
光りがハルにまで届き、その光景に征四郎は目を細めた。
「ガルー……」
『安心するのは、まだ早いぜ』
果たして効いているのか、効いていないのか、まだ分からない。
雷書「グロム」を片手に、エレオノールはトールに尋ねる。
「クリアレイの効果は、バットステータスの回復だよな?」
『もしも、効いているならば正気に戻るだろう』
ハルは、未だに刀を離さない。
得意ではない刀を離さない彼が、雅春の目には未だに操られているように見えた。
「僕だって悔しいよ。どうしたらいいか分からないんだ。……だけど、少なくともクロトさんは――こんな風に一人で抱え込もうとするのは望んでいない、と思う」
雅春は、春に向かって手を伸ばす。
「ハルさんは、一人じゃないんだ。だから、一緒に考えようよ。どうするのが最善なのか」
――馬鹿な子だ。
Jenniferは、雅春の言葉を聞きながら思う。
『これから先こんな決断を迫られることが何度も訪れるって、経験の多い貴方の方が分かっているのではないかしら。情に惑わされては、貴方が死ぬだけよ』
もはや、この場の最善はハルの最善ではなくなった。それでも、励ます雅春をJenniferは嫌いにはならない。
ハルの手から、刀が零れ落ちる。
それが、愚神の支配が解けた証明であった。
「俺は……俺は、全部を救いたかったんだ。クロトにはもうできないことを――俺がやってやりたかったんだ」
小さく、ハルは呟く。
「無謀は何より良い手を減らすと思うよ、青少年」
凛道と意識を交代したリュカは、ハルに声をかけた。
悲しみも、同情も、そこには浮かんでいなかった。
「かっこいい台詞は、まず自分を見捨てないことができる様になってから言った方がいい」
『一人ですべてを背負いこもうとするな』
シズクは言葉を紡ぐ。
『……共に在ると言ったはずだ』
「それが、私たちの選択なのよね」
武器を落したままのハルに、シズクとアゲハはなおも言葉をかけようとしていた。
『もう少し、迷う時間を与えてやりたかったけど』
緋十郎は、レミアの呟きの真意が分かっていた。
「ハルに止めを刺させる気なんだな」
レミアは頷いた。
『そうしないと、ハルは前に進めない。でも、進む気がないならば……わたしが』
「少し、待ってもらえないでしょうか?」
雅春は、レミアに頼み込む。
その姿をJenniferは見つめる。
『あなたは――信じているのね』
「ハルは、前に進める人です」
雅春は、そう言い切った。
「早く、愚神を倒してこっちの手伝いをしてくれ!」
『身体能力が上がった奴隷たちが予想以上に厄介だ』
キャルディアナとツヴァイは舌打ちして、愚神への攻撃へと切り替えようとする。
このまま奴隷たちを相手にしていても、埒があかないと判断したのである。
「邪魔だ!」
自分に群がる奴隷たちをフリーガーファウストG3で、キャルディアナは吹き飛ばす。そして、自分の胸の前で十字を切る。
「祈りを託す。ここは頼んだ、凛道!」
元シスターから祈りを託された凛道は、静かに息を吸った。
『託されました。祈りは死者の為に。……ここからできることは、遺された人の為のことだけです。きっと、心配していた家族の方もいるでしょう』
彼らを一人でも多く家に返します、と凛道は言った。
「たしかに、ハル君が上手く動けたら――もしかしたらだけども、被害者は減っていたのかもしれないです」
望月は呟く。
『それは、分からないことだよ。もしも……なんてことは、誰にも分からないものだよ』
そうだけど、と望月は呟く。
「でも、ハル君はそう考えるかもしれない……そう思う人がいるかもしれない。自暴自棄にならないでくれたらうれしいんだけど」
望月のわずかな不安を百薬が微笑み一つで吹き飛ばす。
『わりきらなくてもいいんだよ、大変な時は天使が手伝うからね』
雅春は、拳を握る。
大丈夫、と自分に言い聞かせる。
――おやすみなさい。せめて、楽しい夢を。
雅春とJenniferは、自分の持ちうるすべての力を愚神に叩きつける。だが、まだ止めを刺すには足りない。
「誰か、援護を!」
雅春が叫ぶ。
レミアは自分が行くべきか迷った。
自分が動けば、魔剣を愚神の胸に突き立てるだけで終わらせられる。だが、それはおそらくは最善の終わらせ方ではない。
『こちらは従魔の相手で手一杯だな』
「愚神に近づけない!」
キャルディアナとツヴァイの叫びが響く。
「飢えた愚神は人の弱みにつけこむわ。だから……ここで倒さないといけないのよ」
アゲハの言葉に、シズクは頷く。
シズクは、ハルが落した刀を拾い上げる。そして、それをハルに渡した。かつての友が使用していただろう刀を彼に返すことは、千の言葉に匹敵する。シズクは、少なくともそう思った。
『愚神本体に向かって撃てい! あれが……人の心を喰ったのだ! ここで倒さなければ、もっと食われる。選べ、さらなる悲鳴か。終焉かを』
シズクの言葉に、ハルは前を向く。
その瞳には悔しさがあった。
「あいつの代わりに、全部の人間を救えたらよかった……クロトの代わりに」
そこには、醜い愚神の姿があった。
ハルが救えなかった――誰にも救えなかった少女の姿があった。
――私を殺すのね。そうね、それが正しいわ。
美しい少女が呟いた言葉を胸に刻みながら、ハルは銃を向ける。
銃声が響き渡り、愚神は倒れた。
「おやすみなさい。どうか、やすらかに」
一人の少女の死を悼むように、リュカは小さく呟いた。
●いつかのために
「たすけ……られなかったね」
桜は悲しげにつぶやいた。
そんな桜の手を、翼は握る。
「最初から助けられなかったんだ。それでも、私たちは最善を尽くすことができた……と思う」
今は悲しむことしかできないけど次に生かさなければ、と翼は語る。
桜は翼の手を握り返して、それに答えた。
『征四郎、1人でも多くを救う。そういう選択も時には必要なんだぜ』
ガルーは、幼い理想を持つパートナーに語りかける。
いつかまた、同じような局面に陥るかもしれない。
あるいは、もっと酷い犠牲を強いるかもしれない。
そんなとき、征四郎はハル以上に傷付くかもしれない。
「それでも征四郎は、諦めたくないのですよ」
大人の心配をよそに、子供は自分が傷つくかもしれない前を見つめ続ける。その純粋な眼差しを見つけた望月は、思わず呟いた。
「ハルくんも、征四郎君も、これからたくさんの別れを見ることになるかもね」
「それでも前に進むしか道はないだろ」
キャルディアナは、凛道たちと共に愚神となっていた死体の後片付けをしながら呟く。キャルディアナは遺体に祈りをささげ、凛道はちらりとハルを見た。
「大丈夫、彼はこの経験を活かせるよ」
『別に心配していたわけではありません』
リュカの言葉に凛道は、首を振る。
すべての人間を助ける術を人は持たない。
それでも――征四郎は、諦めたくないのですよ――と言った彼女は、いつかきっと救いようのない誰かを助けることだろう。そのときまで、彼女が折れず曲がらずいることを願ってやまない。
「ハルさん……」
雅春は、いまだに武器を離さないハルに話しかけようとして戸惑う。
救いたかった愚神に止めを刺した彼に、なんと言葉をかければよいのか分からなかったのだ。戸惑い傷ついたような顔をする雅春をJenniferは後ろから包み込む。
『馬鹿な子……でもね、私はそんな貴方が大好きよ』
それは、Jenniferの上辺の優しさであった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|