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エイプリルフールIFシナリオ

【AP】Reverse World

影絵 企我

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/04/13 21:05

掲示板

オープニング

 この【AP】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

●こちらミディアンハンター事務所
 ――私の名前はエイブラハム・シェリング。この街では少しは名の知れたミディアンハンターである。20年前に起きた世界蝕以来、この世界には伽話のみの存在であったはずの化け物が溢れた。愚神、従魔……世ではそれをそう呼ぶ。だが私はあくまでそうは呼ばない。昔から、この手の化け物はミディアンと呼ぶのが決まりだ。今更私はそれを曲げるつもりなど無い――

『……なぁに一人でブツブツ言ってるんです。エイブさん』
「独白はハードボイルドの習わしだ」
 ふんぞり返って言い放つ紳士然とした男――エイブラハム・シェリングの言葉に、スーツを着た少女――澪河青藍は呆れたとでも言いたげに溜め息をつく。
『なぁにが。アンタは只の格好つけでしょう。ハードボイルドでも何でもないじゃないですか。知ってますよ。そのコーヒーに角砂糖何個も入れてるって。ハードボイルドが聞いて呆れます』
「お前には関係の無い事だ」
 エイブはしれっとして砂糖いっぱいのコーヒーを飲んでいるが、青藍はそんな彼に向かってずいと詰め寄る。
『アンタのせいで私まで変人扱いされるんだから関係あります~。勘弁してくださいよ。英雄の評価の大半は能力者の在り方にもかかってるんですからねー。何しろ記憶が無いんですから』
「記憶が無い記憶が無いというがな、お前はどうにもそんな風には見えんぞ。いつも言っているが」
『まあ私は覚えてる方じゃないんですか? というか特別覚えたり忘れたりするような目に遭ってませんもん。起きて、ご飯食べて、大学行って、講義受けて、でもって友達と遊ぶなり家に帰って神事の勉強するなりする。毎日毎日のルーティンワークですよ。その中で何をしたかなんて、わざわざこっちに飛んでこなくたって忘れますよ』
「つまり向こうでは没個性な人生だったというわけだ。哀れな奴め」
『ぶー……』
 青藍がむくれているのをよそに、エイブは煙草を一本取り出し吸い始める。これもまたハードボイルドかぶれなエイブの日々の習慣だ。毎日毎日煙が苦くて敵わないと思っていても、日々一本は吸うようにしている。阿呆である。
「いいではないか。そのまま向こうの世界で暮らしてたら、お前は何でもない女として、何でもない仕事をして、何でもない男と結婚して、何でもない子を産んで、何でもなく死んでいくところだったぞ。そんな退屈な人生があってたまるか? 少なくとも私はお前に退屈はさせていない。毎日が自然と忘却の彼方へ消えていくような日々は送らせていないつもりだが?」
『刺激的すぎますよ! 一日たりと忘れられるか! あんた危ない事ばっかしやがって! 付き合わされるこっちの身にもなれ!』
 神社で巫女を務めていたとはいえ、基本的には只の大学生だったという青藍は、エイブが日々繰り返す無茶にすっかり振り回されていた。青藍はうんざりしたようにソファーへ崩れ落ちる。示し合わせたかのように電話が鳴ったのは、まさにその瞬間だった。
「はい。こちらミディアンハンター事務所」
「仕事です。ショッピングモールでヴィランズ二組が抗争を始めたようです。適当にあしらってください」
「了解した。すぐに片づける」
 即答して受話器を下ろすと、すぐさまエイブは立ち上がった。青藍は呆然とエイブを見上げる。
『……また仕事ですか』
「ああ。そうだ。行くぞ」
『へーい』

●いざ出撃
「ザッケンナコラー!」
「ヤンノカコラー!?」
 ショッピングモールの広場にてどつきあいを始めた二組のヴィランズ、四対四の総勢八人。ただならぬ雰囲気を感じて堅気の人間達はそそくさと彼らから距離を取る。そのヴィランズどもが近頃抗争を始めて一触即発状態であることはよく知れ渡っていた。
「ダレンケンカウッカワッテンカオラー!?」
「テメッコソワカッテンノカー!?」
 何言ってるかもわからない叫び合いの果てに、とうとう彼らは武器を持ち出した。周囲は悲鳴を上げて距離を取る。だがそんな周囲の様子にヴィランズは気付かない。めいめい共鳴を遂げて、いきなり相争い始めた。

 下から騒ぎが聞こえてくる。君達は、それぞれ悠々自適の日々を送っていた。フードコートの一角で食事をしていたり、ゲームセンターでゲームに興じたり、ショッピングに胸を躍らせている者もいるだろう。

 君達は騒ぎを聞きつけ様々な事を思った。またヴィランズか。このままでは人々が危ない。放っては置けない! 今ゲームがいいところなんだ。まあ他がしっかりやってくれるだろう。買い物の邪魔が入った。面倒くさい。はたまた、遠いところにいすぎて騒ぎなど全く聞こえてなかったという者もいるかもしれない。何方にせよ、君達には今二つの選択肢があった。休暇を押してヴィランズの抗争に手を出すか、放置して、あるいは騒ぎに気づかぬまま自らの休日を守るかだ。どうせハードボイルド気取りのミディアンハンターがヴィランを倒す。特に気にすることはない。

 だが一つだけ確実な事がある。このショッピングモールを巻き込んで、大きなバカ騒ぎが一つ起きようとしている事だ――

解説

メイン 大型ショッピングモールに現れたヴィランズを倒したりせよ

エネミー
・ヴィランズ×8
脅威 ミーレス級
ステータス 能力者Lv20~40、英雄Lv10~25相当
スキル 上のレベル相当の初歩~中級程度のスキルを使用

その他出来る事
・買い物
服飾なり宝石なり買おうと思うものは何でも揃っている。
・食事
ファストフード店からそれなりに美味しい感じの店まで色々。
・ゲーム
ゲームセンターがある。音ゲー、シューティング、格ゲーなど色々ある。

※そのほかショッピングモールで出来そうな事なら何をしていてもいい。
※コソ泥など軽犯罪程度なら一応コメディの範疇で制裁。殺人とかガチなのは勘弁してください。

IFルール
・Reverse
この世界では能力者と英雄の立場が入れ替わっている。OP例でいくと、エイブが能力者として暮らしている世界に、青藍が英雄として飛ばされてきた形になっている。
※世界像はIFじゃない本来の世界とほぼ同じ。
※英雄としてやってくる能力者のバックボーンはある程度アレンジしても良い。(OP参照)
※能力者として暮らしている英雄のバックボーンは本来とは異なるはず。(OP参照)

Tips
・PC達は全員何らかの目的で大型ショッピングモールを訪れている。
・抗争中のヴィランズがかち合い、広場で喧嘩を始めている。
・任務を受けたわけではないので、これを鎮めに行ってもいいし他が行くだろうと放っておいてもいい
・↑いっそ気づかなくてもいい。
・↑↑放っておいた場合はOPの通りエイブ&青藍ペアその他が片づけに行く。
・↑↑↑オープニングでの「君達」の枠から外れてヴィランになってても良い。その場合上のエネミー情報は変わってしまうが……

リプレイ

●PM1:00 東棟
 がやがやがやがや……

 遠くの方がなんだか騒がしい。広場の方だ。出し物だろうか。彩咲 姫乃(aa0941)はキャップのつばを軽く持ち上げ、その方角を伺おうとする。しかし、そんな彼をメルト(aa0941hero001)は両手で押し留め、その手を掴んでぐいぐいと引っ張る。
「姫乃、ごはん。早く行く」
『え? 今日は向こうの方がいいって言ってなかったか?』
「急にこっちが食べたくなった」
 ジャージ姿の少女がぐいぐいと引っ張るのは、騒ぎとは真逆の方角である。ライブか何かだろうと思った姫乃は、後ろ髪を引かれる思いだったが拘りもしなかった。
『わかったよ。で、向こうには何かあったっけ?』
「ごはん、ある」
『いや、まあ……。確かフードコートがあったはず……』
「早く。姫乃も一緒に食べる」
 食いしん坊の少女と、少女の身体を持つ少年は連れだって駆けていった。

 そんな二人と、チョコソフトを舐める少女がすれ違う。泉 杏樹(aa0045)だ。先ほどフードコートで榊 守(aa0045hero001)に買ってもらったのである。
『ん。おいしい、の。パパ、ありがと』
「ああそうか? よかったよかった……」
 守はだらしない笑みを浮かべる。毎日毎日暗くなるまでデスクに向かい、時にはエージェント業までこなす社会に飼いならされた家畜だが、それでも杏樹がいれば堪えられる。今日もその笑顔が太陽のように眩しい。
「(My Sweet Angel, 杏樹……今日も可愛過ぎるな……)」
 道行く人が思わず振り返るほど緩みきった表情。その手には如何とも表現し難い――本音を語ると第四の壁でもぶち破って私をぶちのめしにくるだろう――ビーズのブレスレットが嵌められている。かつては家庭も省みる暇がない企業戦士だったというのに、エラいザマである。
『パパ、あの髪飾り、可愛いな』
 杏樹は呉服店で足を止め、カツラを被るマネキンが身に付けている髪飾りを指差した。紫色の発色が美しい。多少値は張るが、独り身の企業戦士に金の使いどころがあるわけもなく。痛くも痒くもない。
「よし、買ってやるぞ。杏樹に貢ぐ為に社畜やってるんだぜ」
 それでいいのか榊守。杏樹はにこにこだからいいのか。
『わーい! パパ大好きなの。……』
 キラキラしていた杏樹の眼が、ちらりと横へ動く。少しだけ申し訳なさそうにしながら、しかしキッチリとねだる。
『パパ、あの着物、可愛い、な』
 守はいそいそと値札を見て凍り付く。ショッピングモールとはいえ高いものは高い。桁が違う。顔が凍りついた守はぶんぶんと首を振った。
「……き、着物は、ボーナス入ってからにしてくれないかな……と、とりあえず髪飾りを買おう。うん」
 財布が重体のピンチだ。どうする親バカ。

 そんな彼らが呉服店へと引っ込んでいくのと同時に、フード付きの黒いコートを羽織ったゴスロリ少女がそこを通りかかる。レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)だ。伊達にゴスロリやってるわけではない。彼女は世界蝕より遥か昔からこの世界の闇を支配してきた夜の貴族の末裔である。そんな彼女の紅の瞳は、アーケードの真ん中で広げられる宝石展示即売会に向けられていた。
「(……ふふ。人間も偶には面白い事をするものね。血のような紅玉の一つでも買って帰ろうかしら)」
 そんな事を考えるレミアが握る鎖の先に繋がっているのは、狒村 緋十郎(aa3678)、もとい変態である。一応彼女の英雄だが、契約したその日に結婚してくれなどと言ったためにあらゆる手で叩きのめされ、そのまま英雄兼ペットなんてザマになってしまったのである。
 だが緋十郎は尻尾を振っている。彼は狒々の半妖、欲望に忠実で見境の無い獣という。それが加虐に向くのならば立派な化物だが、被虐に向いているのだから世話が無い。
「さっさと来なさい」
『はい、ご主人様』
 鋲が外ではなく内を向いている首輪に繋がれ、緋十郎はわざと引っ張られるようにしてレミアに付き従う。少しでも少女に与えられる苦痛を甘受したいようだ。変態め、杏樹が見ているぞ。
『……鎖で縛られて……痛くないのかな?』
「杏樹は見ちゃいけない。心が砕けて死んでしまうぞ」
 びくびくと怯える杏樹の眼を両手で遮り、守はそっとその場を後にするのだった。

●PM1:00 西棟
『おい、向こうでヴィランが喧嘩を始めたんだが……』
「えー。要請ないんだし無視でいいよ」
 家電用品店で小さな冷蔵庫を眺めていた伊邪那美(aa0127hero001)は、騒ぎを聞きつけた御神 恭也(aa0127)の言葉に取り合おうとしない。
「連絡も無いし、他のお客さんへの被害も無いんでしょ? じゃあ買い物してようよ」
『あ、ああ。まあ……だが、仮にも神職に就く身だろ? 無辜の者達を助けるべく助力するのが筋じゃないのか?』
 かつての世界で武士であった恭也は、義なり使命なりに敏感だ。己が信ずる神を奉ずる巫女にもそれなりの態度を取ってほしかったが、伊邪那美はどこ吹く風だ。いかにも不満げに振り返る。
「えー。なんで仕事でもないのに僕のプライベート時間を割かないといけないのさ」
『いや、この場合は助けるのが人の道なんじゃ……』
 恭也は一応食い下がるが、伊邪那美はつれない。
「よく考えなよ。ボクが助けに行くって事は、この依頼を受けた人達じゃ力不足だって言う事になるんだよ?」
『……助けに行く事は、彼らを侮辱する事になる、と?』
「そういう事。まぁ、要請があればすぐに向かうから、それまでは買い物を続けよう」
 恭也は肩を竦め、ぽりぽりと頭を掻く。見た目は小学生、年齢は中学生、性格は高校生以上にませた伊邪那美。個人的には今まさに騒ぎを起こしているヴィランをどうにかしたかったが、相方がこの調子では丸め込まれるしかなかった。
『……全く正論ではあるが、物事に対してそうもドライなのは欠点だと思うが』
「ドライじゃなくてクールって言って欲しいな。それに時間外労働には適正な対価が必要になるしね。HOPEの為にもここは行かない方がいいのさ」
『銭ゲバ……とは言わんが、少なくともこのままだと嫁の貰い手がなさそうだな……』
 ぼそりと呟いた言葉に目ざとく反応し、伊邪那美はくるりと振り返った。頬がぷくりと膨らんでいる。
「言っておくけど、それってセクハラに値するセリフだからね」
『……ああ』

「おかしいな……“嫁”って単語が家電用品店の方から聞こえた気がするのだが……」
 ゲーセン界ではアリス・レッドクイーン(aa3715hero001)という勇名を馳せる干物女、一ノ瀬アリス。彼女は鮮やかにボタンを叩きながらくるくると周囲を見渡す。そんな彼女の横に立つ少年、一ノ瀬 春翔(aa3715)はそんな彼女をからかいプークス笑う。
『うわー。男日照りで幻聴が聞こえてるよこの人。カワイソ』
「ハァ? うっせ! 男とかそんなメンドクサイもん私には要らないの!」
 アリスはハルトに噛みつきながらも、コンボの手は止めない。乱入者のヒットポイントがみるみる赤く染まっていく。レッドクイーンの名の由来だ。
『とか言いつつ夜な夜なネットで顔の見えない誰かさんと戯れてるの僕知ってるぅ~♪』
「その減らず口を閉じろォ!」
 エンターキーばりに荒々しくコンボの〆を叩き込む。超必殺技が発動し、派手な演出と共に乱入者は葬り去られた。補正切り、バースト読みは当たり前、この界隈で知らぬものはいない。麗しきゲーセンの女帝レッドクイーンのプライドを叩き折り、そのままリアルでも屈服させてやれとばかりに挑んできた挑戦者は、悲鳴を上げて逃げていく。
「ッシャオラァ! 連勝記録更新じゃい!」
『おめでとー。年齢スコアもどんどん更新してくね!』
「うるせええええっ!」

『……これに一体何の意味があるんだ?』
 格ゲーコーナーが阿鼻叫喚の地獄と化しているのをよそに、ヴァイオレット メタボリック(aa0584)はひたすら音ゲーに向かい合っていた。サイボーグの彼女にとって高難度でもパーフェクトなどわけない。こちらもまたさりげなく人目を引いている。火傷痕は隠れ、ただ可愛らしいメカ少女に見えるのもその理由の一つかもしれない。
『ふむ……これを繰り返す事で本当に私の秘密のデータがアクティブになるのか?』
 相方――ノエル メイフィールド(aa0584hero001)には黙っているよう言われたが、彼女の孫娘であるフローラにこうしろと吹き込まれたのだ。彼女の機械化部分には何やらブラックボックスな部分があり、ゲームをこなしていくことでそれがアクティブになるらしい。秘密だとかブラックボックスだとか、そんなワードに弱い中二病はほいほいとそんなフローラが出した課題に乗せられてしまったのだ。
 パーフェクトプレイを出すと連続プレイが可能となるこの音ゲー。ヴィオがやるとエンドレスになってしまう。そんなわけで、中央広場の方からノエルが駆けつけてくるまで、彼女は異変に全く気が付かなかった。
「おい! ヴィオ、ヴィオ。こんなところにおったんか」
『はい。あっしを探してたんですか』
 いつの間にか出来上がっていた人込みを掻き分け、ノエルはヴィオの隣までやってくる。丁度最後のサビに入ったヴィオは、ノエルの方を見もせず応える。
「当然じゃ。ヴィランが下で喧嘩しとる。行くぞ。天下の往来で喧嘩とは、見過ごすわけにはいかん」
『そうですかい。ノエルさんが行くってんならあっしはついていくだけですが』
「なら行くぞ」
『はい』
 ヴィオは最後のボタンを叩く。話しかけられても余裕のパーフェクトだった。

『……ヴィランだって』
「ヴィラン? 仕事でもないのにやる気出ませーん……」

●PM1:00 中央広場
「アンコラー!」
「シネッコラー!」
 ヴィラン達のバカ騒ぎが繰り広げられる中央広場。入学式に向けて小洒落た服を買い、レストランで昼食を済ませたルナ(aa3447hero001)と世良 杏奈(aa3447)は、そんな騒ぎに丁度出くわしてしまったのだった。
「ね、ねぇママ。何だか大変なことになってるんじゃない……?」
 ルナはおろおろした様子で杏奈と騒ぎを交互に見る。交互に見て……その目は杏奈に釘付けになってしまった。
『ふ、ふふ……』
あれ、ママの様子が変? ルナは目を見開く。杏奈は口元を緩め、肩を震わせながら目の前のバカを見つめていた。その目は獲物を見つけた獣のようだ。
「あれ? ねぇ……?」
『ルナ、行きましょう。共鳴するわよ……』
「……!」
スイッチ入っちゃってます。こうなったらもう止められません。ルナは頬を引きつらせたまま頷き、杏奈と融け合うように共鳴した。そこに立つのは、真紅のロングコートとフェドーラに身を包んだ一人の女。漫画のファンタジーを自力で再現できると気づいてしまった、狂気の漫画オタクだ! 要するにコスプレである!
『さぁ、行くわよ……』
「(ひぇっ)」
懐に収めていた魔導銃を引き抜くと、杏奈は吹き抜けから飛び降りた。ご挨拶がわりに威嚇射撃。入り乱れて相争うヴィランズの中にぶち込む。当然ヴィランズは彼女の方へ振り向いた。
『ねぇ……面白そうな事やってるじゃない。私も混ぜてくれる?』
「アッコラー!?」
「ダッテメッコラー!?」
ヴィランズはヴィランチャントを飛ばしながら一斉に杏奈の方へ殴りかかった。持てる全力を彼女へと叩き込む。その連携の美しさたるや。杏奈は吹っ飛び、植木の中へと叩き込まれた。
「……何だったんだ、コイツ?」
雑魚がイキったか? ヴィランは首を傾げる。ダメだ。その女を相手に油断はいけない!
『殺意が足りないわねぇ。そんな刃じゃ私の心臓を刺し貫くことなんて出来ないわ』
刹那、植木に倒れていた杏奈の右手が動き、次々にヴィラン達を撃ち抜いた。
「グワーッ!?」
『ふふ、ふふふ……』
杏奈はゆらりと立ち上がる。まずは一発貰ってやる。それも彼女が好きな漫画の主人公の流儀だった。
「ヒ、ヒー!」

ミディアンハンターがやって来たのは、ちょうどそんなタイミングだった。しかし、彼は目の前に広がる景色の意味がわからず首を傾げる。
「……青藍。何が起きてるんだ?」
『……さぁ?』
『ああ! そこに見えるはハンター殿!』
そこはさらに、共鳴したヴィオまでもが飛び降りてくる。メカ・ヒーロー的な装いに身を包んだ彼女は、槍を持たぬ手をひらひらさせる。エイブはしばし首を傾げていたが、やがて合点が行ったように頷いた。
「ふむ、君か。よくわかっていないのだが……これは、全部片付ければいいのか?」
 何たることか。どんなヴィランよりも凶悪な笑みを浮かべている杏奈を、エイブは――まあ仕方ないのだが――新手と勘違いした。
『へぇ。新手かしら……? それで、貴方達は狗、人間? それとも、化け物……?』
 杏奈も杏奈である。化け物狩りはその質問にカチンときた。すぐさま銃剣を引き抜き、杏奈に向かって投げつける。
「貴様。私が化け物だと、よく言えたものだな……!」
 肩口に刃を受けて仰け反った杏奈は、そのまま踏ん張ってエイブに反撃の一射を放つ。
『ふふ、ふふふ……今の一撃……楽しめそうね!』
「(ま、ママが止まらない……!)」
「ひ、ひぃー!」
 戦闘狂二人が始めてしまった新たなバカ騒ぎ。本物のヴィランは真っ青になって逃げだした。ヴィオはきょとんとしてそんな光景を眺めていたが、やがてそれではいかんと気が付く。
『まったく。ここはあの御仁に任すで……!』
 ヴィオは身を翻すと、東西に散ったヴィランを追って駆け出した。

●PM1:05 西棟
「ふむ……これは良いのう。特に刃紋が美しい」
『ナイフに刃紋の良し悪しなんてあるんですか……?』
「あるとも。これは肉も野菜もよく切れそうじゃ。日本の“包丁”はやはり違うな。いい仕事をしている。流石は関孫七だ」
 刃物店。武器マニアのドゥルガー(aa4977hero001)は、レナード・D・シェルパ(aa4977)を連れて買い物に訪れていた。故郷ではレナードと共に愚神や従魔の脅威を現れる傍から打ち払い、その武器コレクターな気風も合わせて彼女はインドの女神“ドゥルガー”に喩えられている。今日は故郷に生まれた新たなリンカーのため、日本製の優秀なAGWを買うついでに物見遊山をしに訪れたのだ。
『本当に好きですね。こういうもの……』
 包丁を見つめる相方を、レナードは呆れたように眺める。
「当然じゃ。物を切る使命を一身に帯びた鉄塊がなぜこのように均整の取れた姿となる? 究極の機能美だと思わんか。本来ならドージキリやコガラスマルをこの手に掴みたいものじゃが、日本の国宝になっているのでは仕方ない」
『みんな持ってるじゃないですか』
「あれはAGW版のレプリカじゃろ? 本物を手に持ってみたいんじゃよ」
『それは確かに無理でしょうね……』
「仕方ない。せめて日本の職人が作り上げたこの刃を買って帰るとするかのう……」
 ドゥルガーが一振りの包丁を買うと決めたまさにその時、遠くから男達が喚き散らしながら駆け込んできた。ひどく焦った様子で、後ろを何度も何度も振り返りながら刃物屋に突っ込んでくる。
「アイエエッ! オイ、コイッ!」
 男――ヴィランはレナードの肩を掴んで引き寄せ、自分の得物を突き付ける。追いかけてきたヴィオはヴィランと向き合い武器を構える。
『人質か?』
「ああ、そうだ。こいつがどうなってもいいのか!」
「……仕方ないのう。行くぞレナード。思い知らせてやる」
 しかしレナードを人質にとっても意味は無い。彼女はただの年若い女に見えるが、紛れもなく彼女はこの世界へやってきた英雄なのだ。
『はい。わかりました』
 ドゥルガーの言葉に応じると、二人の姿は素早く溶け合い、装い神々しい姿へと変わる。彼女はそのままヴィランの腕を握りしめると、思い切り振り上げ地面へと叩きつけた。
「うごぁっ!」
「……やれやれ。店で暴れるとは、はた迷惑な奴もいたもんじゃな」
『なるほど。……かなり、やる』
 ヴィオはその鮮やかな手捌きを感嘆の眼で見つめる。腹に拳を叩き込んで念入りに気絶させたドゥルガーは、目の前に立ち尽くす彼女と向かい合った。
「ふむ。……どうかしたかの?」
『……いや』
 その時、ゲームセンターの方でわーきゃー騒ぎが聞こえ始めた。二人は頷き合うと、ゲームセンターの方へ駆けだした。

「な、なんだよ! 来るな!」
『広場で仲良く喧嘩しているだけならいざ知らず、ここにもはた迷惑を持ち込むなら容赦はしない』
 その頃、ゲームセンターでは共鳴した恭也達がヴィラン数人と向かい合っていた。立て続けに襲い来るエージェントの脅威に堪えきれず、ヴィランは格ゲースペースで呑気しているヤツらの方に一発撃ち込む。画面に銃弾が突き刺さり、ゲームが停止してしまう。少年と共に遊んでいた少女はびくりと震えあがって、目に涙を浮かべた。
「ふ、ふぇ……」
「おい! 次は頭撃ち抜くぞ! 分かったらとっとと……あ? おい、どうした!」
 ヴィランは口角泡を飛ばして迫ろうとするが、恭也は『やっちまった』とでも言いたげな顔をして立ち尽くしていた。
『お、おい。……お前』
「あっちゃぁ……」
 伊邪那美も言葉を失う。ヴィランの背後には、怒りを纏う男がいた。

「てんめぇえええッ! 俺の杏樹が傷ついたらどうすんだァッ!」

 杏樹を腕の中に抱きしめ、守はブチ切れパパになって叫ぶ。パパ気持ち悪いと数分前に言われて魂が抜けていた守だったが、もうそんな言葉は忘れた。その剣幕にヴィランは思わず気をつけしてしまう。だが許さない。守は杏樹と共鳴し、両手に銃を握りしめてずんずんとヴィランへ迫っていく。
「社畜戦士サカキ……娘に代わってお仕置きだ」
「ひぃっ! 何このオッサン!」
 ヴィランはオッサンに釘付けだ。そのせいで気付かない。洞窟の奥に竜が潜むように、ゲーセンの奥にはアリスが潜んでいることを。
「……おい。ここがアリス様のシマだと知っての乱行かぁっ!」
 ゲームを破壊されたアリスは絶叫する。椅子を蹴り立ち、彼女も一歩を踏みしめながらヴィランへ迫っていく。
『シマじゃねーって。拗らせたゲーマーは怖えなぁ』
ゲームセンターを己の縄張りと言い切ったアリスの怒り満面の顔を見上げ、ハルトはけらけらと笑う。目を三角にしたアリスは唸ってハルトを見た。
「うるせぇ。行くぞハルト! 人の楽しみに水差す真性の悪は!」
『空の果てまでブッ飛ばす! ……ハハッ。八つ当たりじゃんか!』
「巡り巡って悪を討つならそれで良いのよ!」
アリスは共鳴のために右拳を突き出す。その様子をじっと見つめていたハルトは、ふと微笑んで拳を付き合わせる。
『そうやって理屈をぶん投げちまうとこ、結構好きだよ』
二人の姿は融けあい、真紅がベースのロックな装備に身を包んだアリスが現れる。
どうやらそのお顔まで真っ赤になっているようだったが。
「……いきなりデレるのやめてくんない?」

●PM1:10 東棟
『はい、光栄です。御主人様。どうかこの緋十郎めに、御主人様の麗しい牙跡のついたその食べかけのハンバーガーと飲みかけのジュースを賜りたく……!』
それでいいのか緋十郎。いい笑顔してるからいいのか。
「相変わらず口を開くたびに気持ち悪いわね……これでも食らいなさい」
レミアは一瞬ドン引いた表情を見せたあと、トマトジュースを素早く飲み干し大口を開ける緋十郎に余った氷を流し込んだ。
「貴方にはこのくらいがお似合いよ」
『はい。かんひゃいたひます』
そんなやりとりを遠くで眺めていた姫乃は、真っ青になってがたがたと身を震わせる。
『何だよあれ……この世の光景じゃねぇよ…….』
「姫乃」
そんな彼の肩をメルトがつつく。振り向くと、メルトはハンバーガーを手に持って身を乗り出していた。
「姫乃も、あーん」
『おいおい待て待て。アレに触発されんのはナシだろ……?』
「姫乃も食べる。もっと」
『いや、待ってって……ふぐっ』
無理やりハンバーガーを押し込められてむせ返る姫乃。そばの変態とメルトの乱行で近づく騒ぎに気づく余裕さえない。
「姫乃、おなかすいた。あーん」
『自分で食えよ!』

「ヒィィ!」
『もっとよ。もっとこの私を愉しませなさい!』
「ふん……」
 ヴィランが四人、必死になって逃げだしてくる。それを半ば追いかけるように、杏奈とエイブが銃と刃を交えながらフードコートに向かって突っ込んできた。
『楽しい! こんなに楽しいのは久しぶりよ!』
「まるで戦闘狂だな、貴様」
 こんな事言いつつも周辺に被害を出さない辺りは二人ともエージェントである。泡食って逃げ出してきたヴィランがフードコートになだれ込むという副次的な被害はもたらしているが。
「どけ! どけ! 逃げるんだよ!」
 ヴィランは喚きながらフードコートを駆けていく。その喧しさといったらない。牙を剥いたレミアは、食べ終わったアップルパイの箱を静かに握りつぶす。
「騒がしいわねぇ。わたしの優雅な休日を邪魔するなんて、身の程知らずにも程があるわ……! 行くわよ緋十郎、粛清の時間よ」
『承りました、御主人様。御主人様と一つになれる事この緋十郎――』
「黙りなさい」
 緋十郎の顔面にレミアの拳が命中し、その瞬間二人は共鳴する。金色の髪は艶めき、爪は緋色に染まる。かつて栄華を誇った闇の眷属そのものの姿だ。己の方に駆け寄ってくるヴィランを裏拳一発でノックアウトする。汚いものでも触ったとでも言いたげに手を白布で拭うレミア。フードコートに駆け込んできた杏奈とエイブは、そんな彼女を目の端に捉えてぴたりと動きを止める。
『……あらぁ。こんなところでAクラスの吸血鬼と出会えるなんて!』
「(ちょっと、ママ。まだギア上げるの……?)」
「レミア・ヴォルクシュタイン! こんなところで出会うとはな」
「マンガかぶれの世良杏奈にハードボイルドかぶれのエイブラハム・シェリングじゃない。いいわ。貴方達もまとめて相手してあげる……」
 こうして始まる新たな戦い。一応ヴィラン対エージェントの体にはなった。

「姫乃……」
『あーあ……』
 メルトと姫乃の目の前には吹っ飛んでのびたヴィランが横たわっている。せっかく最後にとっておいたダブルチーズバーガーがぐちゃぐちゃだ。しばらくぼんやりと立ち尽くしていたメルトだったが、やがて凄絶な怒りをその身に宿してレミアを睨む。
「ヒメノ。アイツ、コロス」
 怒りのあまり言葉もまともに話せない。
『待て待て待て。物騒な事言うなって』
「ヒメノ!」
『わかった! わかったから……』
 姫乃は諦めてメルトと共鳴する。メルトの怒りが姫乃の身体に宿り、全身を紅に染める。
「ヤッチャウ!」
『はいはい。行くぞ……』

「逃がすかァ! 社畜の休みを妨害し、娘を泣かせた! これで跳満だァッ!」
「ゲームを妨害し、ゲーム機を破壊した! これで数え役満だァッ!」
 西の方からはヴィランを追いかけ追いかけ、二人の狂戦士が突っ込んでくる。訳の分からん点数計算で、ヴィランを徹底的に潰すという結論に達したのだ。その後ろを呆れた顔でドゥルガーや恭也やヴィオが追いかける。
「一体何なんじゃ……日本とはよくわからんな……」
「日本人のボクだってわかんないよ……」
『まあ、これでヴィランが倒され平和になるならいいんじゃないか?』
 ヴィオは陽気にそんな事を言うが、恭也は小さく首を振った。
『いや、絶対ならないだろうな……』

 フードコートに追い詰められたヴィランは、ただただ震えあがる事しか出来ない。遠巻きにしている一般客達を人質に取ろうという考えすら、最早浮かばなかった。鬼のようなるアリスと守が、ずんと並び立つ。
「ひっ」
 逃げ出そうとするが、二人の脇は恭也達が固めてヴィランの道を塞ぐ。守達の威勢に呆れたり、面白がったりしながら、彼らはヴィランに止めの宣告をする。
『ここは通さんやで』
『大人しく捕まってくれるか』
「……まあ、そう言う事じゃ。大人しくしとらんと、そこの奴らがマズいぞ」
「ひぃ……」

「あらあら! 威勢の割にその程度なのかしら?」
『ふふ。そっくりそのままお返しするわ!』
 杏奈とレミアが攻撃の応酬を繰り広げる。エイブも二人の隙を窺い、いつでも脇を刺せるよう構えている。そんな三つ巴のバカ騒ぎを前に、姫乃は仁王立ちで武器を構える。
『あああ、メルトが怒ってると何だか俺まで……腹が立ってきたぁああああッ!』
 姫乃は叫びながら戦闘狂の群れへと突っ込んだ。両手に握るアステリオスが、怒りを受けて激しく燃え盛った――

 この先に何が起きたか。それは皆さんの想像にお任せする。とはいえ、HOPEの歴史に名を刻む大騒動になったのは間違いない。



※このリプレイはフィクションです。実際のPCや小隊などとは関係ありません。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • エージェント
    レナード・D・シェルパaa4977
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    ドゥルガーaa4977hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
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