本部

愚神の再生者

鷲塚

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 6~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2015/10/17 21:08

掲示板

オープニング

●導入
 街を見渡せる高台に立つ男は、眼下に広がる街灯りに目を細めた。この世界に来てから、ここまで来るのにずいぶんと時間を費やしたものだ。
 ライヴスの絶対量が少ない山中に出現してしまい時間こそ掛かったが、これからは効率的にライヴスを集めることが出来るだろう。そして、もはや依り代も必要が無いという確信が男にはあった。
 男は愚神なのだ。これから始めるライヴス収集の事を思うと自然と口元に笑みがこぼれる。
 愚神は、気配の無い山道を街に向かって歩き始めた。一歩踏み出す毎に、全身にみなぎる力を感じて。
 
●リジェネレート
 こんなはずでは無かったと、愚神は思った。京都市の北から始まり、周囲のライヴスを吸収しながら自分の力を増幅させていたはずだ。それがどうだ、十数人のライヴスを吸収し、中京区まで来る頃には、強力なAGWに手を焼かされ追い立てられている。
 愚神は、致命傷とまではいかないものの、ずいぶんと傷を負っていた。このままダメージが蓄積すれば、自身の存在が危ういだろう。
「まあ、道すがらライヴスをすってりゃあ治るか……」
 愚神は、巨躯をモノともせず市内を飛び回り、道すがら通行人のライヴスを吸収していった。それと共に傷は癒えていき、5人目を数える頃には傷が完治していた。追っ手も直近に気配があるのでこの場を去らなければならない。
「フンッ」
 鼻を鳴らして愚神は、ライヴスを絞りきった死体を一瞥した。再び全身に力が漲るのを感じ、ひとっ飛びに民家の屋根に飛び移る。
 屋根から屋根へと逃走しているうちに、自分と同様の気配が愚神に感じられた。
「もう少しマシなライヴス供給源が必要か」
 どれも自分よりも弱いモノだが駒として使えるだろうと、愚神は考える。上位のモノに下位のモノが従うのが愚神の常なのだ。
 すぐさま愚神は、号令とも言えるテレパシーを周囲に放った。程なく二体のデクリオ級が一人、また一人と合流する。
「お手伝いしますぜぇ、アニキ」
「俺も手伝わせて貰います」
 愚神の男は、二人を見てニヤリと笑う。
「俺のことは、山崎とでも読んでくれ」
 これは、愚神が支配している男の名前だ。
「このまま南下し地下に潜る」
 二人のデクリオ級は、頷いて山崎の後に続いた。

●バスターミナルの戦い
「市民の避難誘導完了しました」
「狙撃班、狙撃ポイントに到着」
「よし、予定通り京都駅正面、バスターミナルで奴を仕留める。烏丸通りから塩小路の交差点に出た瞬間に狙撃だ」
 京都駅正面口に設けられた本部でレシーバーを耳に当てる獅子口に、次々と無線が入る。
「さて、狙撃を突破されたときには正面からの戦闘となる。その時には、諸君らの出番となる。心して対処して欲しい」
 集まったHOPEのメンバー達を獅子口は順に見た。
「愚神は、周囲のライヴスを吸収し再生する能力を持つと思われる。まずは狙撃によりケントゥリオ級愚神を行動不能にする。その間、なんとかして愚神に対処して欲しい。再生に対しては、このナパームAGWでケントゥリオ級愚神を完全に焼却するものとする」
 獅子口は、用意されていたナパームAGWをHOPEのメンバーへと引き渡す。
「戦闘に関しては、あなたたちが専門だ。宜しく頼みます」
 徐々に烏丸通りが騒がしくなってきた。遠方に跳ねる黒い影が三つ。もうじき塩小路へとたどり着くだろう。そして、先頭の巨大な愚神が角からその体を出した瞬間だ。
 線状痕を一直線に引いて強力な閃光が山崎の心臓を貫き、そのままアスファルトへと突き刺さる。その余りの熱量に、アスファルトが青白い煙を上げる。次いで、愚神の体が膨張し爆発四散した。
「作戦開始!」
 愚神を睨み付ける獅子口の号令がバスターミナルに大きく響いた。

●作戦区画の情報について
 作戦時刻は13時を少し回った頃となります。
 戦闘地点である塩小路通りとバスターミナルとタクシー乗り場は障害物が殆ど無く大きく開けています。また、塩小路通りの北側は商業ビルが建ち並んでいます。現場には、警察による誘導により関係者以外おりません。

●戦闘開始時に於ける愚神の状況について
 深山のトロール・山崎はPCがたどり着いた時点で再生が完了しており襲いかかってきます。再生の際に魔法攻撃型の愚神からライヴスを吸収したため、残っているデクリオ級愚神は魔法防御型愚神となります。
 1ラウンド目に山崎は必ず従僕の召喚を行います。

解説

 リプレイは、戦闘開始からスタートします。
 狙撃の2発目はありません。また、警察関係の能力者は市民を誘導や他の事件に出払っているため、この戦闘に介入することはありません。

●登場
ケントゥリオ級愚神「深山のトロール・山崎」:巨大な肥満体型をしたケントゥリオ級愚神。生命力と攻撃力が非常に高い。丸太のような両腕で1ラウンドに2度の攻撃が可能である。周囲のライヴスを吸収し、粉々になっても3ラウンドで肉体を再生し活動する。

従僕の召喚:直径500メートルほどのテレパシー領域。このテレパシーは従魔・愚神のみ受信することが出来る。1d6で1-5が出た場合従魔を1d10体召喚する。6が出た場合1体のデクリオ級愚神を召喚する。召喚されるデクリオ級愚神は、後衛魔法防御型・後衛魔法攻撃型のどちらかとなります。戦闘時このスキルはメインアクションとして扱う。

デクリオ級愚神二体:一人が後衛魔法攻撃型。もう一人が後衛魔法防御型となります。

獅子口 劾:京都市東山署の刑事。42歳。厳つい顔に見合わず心根のよい真面目な男。

ナパームAGW:ライヴス駆動のナパームです。直径10メートルを超高熱の炎で焼き払います。これは、一発しか用意されていません。山崎の焼却用に用意されました。

リプレイ

●リジェネレート
 6人が戦場に辿り着いたとき、既に愚神の再生は完了していた。その再生具合を確かめるように首と肩を回しながら能力者達を見下す。
「ひとつ・ふたつ・みっつ……、と。旨そうな能力者どもが、このオレにライヴスを吸われに来たって訳か」
「(ふーん……お山の大将を気取っているってわけね。あんな木端の親玉をして、どんな気持ちかしら?)」
 銀髪狐耳、ちょっと着崩した着物を着ている天戸 みずく(aa0834hero001)が幻想蝶の中で毒づいた。
「み、みずく、悪口はダメだよ……」
 身長が2メートルはあろうかという黄泉坂クルオ(aa0834)が困ったような表情を浮かべ汗を飛ばした。
 そのままミズクは黙ってしまったが、ここは自分たちが戦うしか無いのだ。
「と、とにかく!  力を、借りるよ。みずく」
 クルオ達が話をしている間、山崎は値踏みするように能力者達を順に見ていた。その酷く濁った瞳は、対面した者に対して嫌悪感を抱かせるに十分なモノだ。
 威嚇とも取れる山崎の視線をものともせず、一歩踏み出した古代・新(aa0156)は、眼前に構えたシルフィードを抜き放った。そして、刀の具合を確かめるように基本の型をなぞっていく。その度に刀の軌跡が銀色に煌めいた。
「俺の名は古代・新! 世界を旅する高校生冒険家見習いだ!」
 レイミア(aa0156hero001)は何も言わなかった。この口上は何時ものことだし、レイミア自身も何時ものように新に助言をするだろう。二人にとって、これは言わば戦いに於ける儀式のようなモノだ。
 しかし、山崎は古代の前口上に耳も貸さず、ライヴスを完全に吸われて干物になったデクリオ級を古代に向かって蹴り上げた。古代は一歩も動かずにそれを真っ二つにしてしまう。
「食い過ぎなんだよ、この野郎! お前がするべき事は二つに一つ。とっとあっちの世界に帰って接触制限するか。あるいはこの場で過剰ダイエットの末に消え去るかだ!」
 斜め45度、最も格好いい角度で古代はビシリと指を差した。
「では、手始めに貴様からライヴスを吸ってやろう」
 山崎は下卑た笑いを浮かべ両方の拳をならした。
「あれが伝え聞く前口上というやつなのね、エステル」
「ええ、恥ずかしげも無くやってのけるとは、古代様もなかなかの御仁ですね、鈴音様」
 瑚々路 鈴音(aa0161)とEster=Ahlstrom(aa0161hero001)が心の会話をしていると、そこにスッと影が差した。
「怪我が無いのが一番だよ鈴音ちゃん」
 鈴音が振り向くと、自分の三倍はあろうかというクルオが心配そうに見ていた。
「クルオ様の言うとおりです。鈴音様、充分に気をつけて下さいね」
 エステルの声も酷く心配そうだ。
「もっちろんだよエステル。それにしても、山崎って名前まであるんだよねあいつ」
「ああ、まるで人間だよね……」
 エステルが答える前に明日沢 今日人(aa0485)が歯をガチガチとならして答えた。相手の姿は人とはほど遠い。しかし、名前まで名乗られては、自分が殺すものがまるで人間みたいではないかと思えるのだ。
「(絶対に許せない悪とは、一方的に、何の感情も無く命を奪い去ることだよなぁ)」
 そんな今日人の気持ちを知ってか知らずか、未だに足が震えている今日人の頭の中でユー・フワ(aa0485hero001)ががなり立てた。間を置かずして、その肩にポンと手が添えられる。
「明日沢君、ああいうのは人間とは思わんことだ。あいつはこの街、全ての人間に対する敵だよ」
 手を添えたのは千石 琉(aa0685)だ。思わぬ人に手を添えられたものだ。
「そうそう。ささっと終わらせてリンク解除を激しく希望します!」
 続けて千石の口から発せられたアンブラル(aa0685hero001)の声。その声と姿との余りのギャップに今日人は思わず吹き出してしまう。体の震えはもう収まっていた。
「(おうおうおうおう、やれそうじゃねぇか。ぶっ飛ばしてやれ)」
「おかげさまで」
 今日人はスッと慣れないシルフィードを半身で構える。
「じゃあ、そろそろ行くよ。みんな!」
 そう言って間合いを計る向井 千秋(aa0021)の美しい銀の髪の毛が翻り太陽に輝く。グラデーションした毛先は元の茶色だ。他の5人も事前の打ち合わせ通りに配置についた。
「やってみるさ……」
 配置についた千秋はボソリと呟いた。

●駅前の戦闘空間
 千石は、二体居たデクリオ級愚神の片割れと距離をおいて向かい合っていた。この愚神からは山崎ほどの圧迫感を感じない。それほどデクリオ級とケントゥリオ級との差は大きい。
「まずは小手調べと行くか」
 千石が大きく息を吐いて丹田に気合いを込める。そうしてハンズオブグローリーの中で握りしめた拳に必殺の力をため込むのだ。
「おらあぁぁぁぁぁ!」
 叫び共に体を捻り足から腰へ回転力を伝える。構えた右拳を渾身の力を込めて突きだした。全身から発せられた気合いがライヴスのオーラとなり拳に集まる。そのオーラは巨大な拳となって発射されデクリオ級に襲いかかった。
 拳の先に居るデクリオ級を千石は睨み付けるように見ていた。今更体を捻っても無駄だ。オーラの拳は的確にデクリオ級の下あごを捉え、不快な破砕音を響かせる。その様子を千石は、まるでスローモーションであるかのように感じていた。
「(ホォォォ、千石のおっさんやるじゃねえか。お前もやるしか無いよなァ)」
 千石が仕掛けている間に正面からサイドに回っていた今日人は、静かにデクリオ級の隙を窺っていた。シルフィードを構えたまま走り込み、攻撃の衝撃でよろめいているデクリオ級の脇腹に刀を滑らせる。表皮のガードを羊皮紙のように切り裂いて鮮血が周囲に迸った。ぐるりとデクリオ級が今日人に視線を向ける。そのどこか許しを請うような目に、一瞬今日人の動きが止まった。
「(オイオイオイオイオイオイオイオイオイ、躊躇するんじゃねえ!)」
 声と共に体のコントロールがフーに移った。そして、自分の反対側から走り込んでくるのは今日人自身だ。ライヴスで作られた自分のコピー。素早いステップから、がら空きの脇腹に深々と刀を突き立てる。ドロリとしたモノがアスファルトに転げ落ちるのと同時にコピーがかき消えた。
「なにやってんだぁぁぁ!」
 今日人は思わず叫ぶが、フーはものともしない。
「(悪は殺せ。躊躇うな。殺られる前に殺る。これは戦争だ。どういう事か分かるか?)」
「え……?」
「戦闘に荷担した時点で、俺達もまた悪だ」
 どんな理論だ、と今日人は心の中で毒づいた。それでも、助かったのはフーの機転があったからだ。そこだけは感謝しておこう。さっき変わらなきゃいけないと思ったばかりなのに不甲斐ない。
「ありがとう、フー」
「(あああ、何か言ったか?)」
「なんでもな……」
 今日人が言葉を続けようとしたときだ。
「最後は私の攻撃です!」
「(お気を付けて。鈴音様!)」
 自分の身長よりも長い大剣の剣先を半ば引きずるように鈴音が山崎に切り込んだ。かなりの重量を誇る大剣だが流石に鈴音は能力者である。振り回すのに不自由はない。
「ずおりゃあああああっ」
 気合いと共に大剣を横に薙いだ。その攻撃は自然とデクリオ級の膝を捕らえる形になる。肉と骨を叩き切るグシャリという音が周囲に響き、膝から下を失ったデクリオ級がゆっくりと鈴音に向かって落ちてきた。
「あぶないっ!」
「鈴音様!」
 今日人とエステルが同時に叫ぶ。そして、一瞬の間を置き、今日人は鈴音を抱えてその場を飛び退いた。
「あ、ありがとう。ございますっ」
 鈴音は下ろして貰ってからペコリと頭を下げた。
「わしがキッチリこいつの引導を渡してやるから安心せい!」
 駆け寄る千石がちらりと視線を山崎の方に移すと、山崎とクルオが距離を取って対峙していた。
「どうでてくるかな、みずく」
「リーチはこっちが圧倒的に有利なんだし、この距離を保っていれば大丈夫」
「そうだね、ここは遠慮無く行かなきゃ」
 左手に持ったマビノギオンを正面に翳すと、本のページが勝手にめくれて行くにつれて銀色のエネルギーで作られたセイバーがページの上に出現した。即座にそれを掴んだクルオは、その恵まれた体格を存分に使ってセイバーを投擲する。
 一直線にセイバーは山崎の腹部を貫通した。しかし、勢いよく血しぶきが飛び散るものの、その傷はすでにうねるように蠢き再生を開始しているのだ。
 山崎は、血が噴き出す腹部に手を当てて血が吹き出るのを押さえようとした。この程度の傷なら再生にさほど掛かるまい。しかしながらこの場は多勢に無勢。再生のためのエネルギーを補給しておきたいところだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 山崎は、テレパシーを発して周囲の従魔と愚神を呼び寄せた。こちらへ向かっていたときのように詳細な情報を送っている暇は無い。とりあえずとしての従僕の召喚だ。すぐにでもこの場に駆けつけてくるだろう。
「あまいぞっ! 深山のトロール・山崎っ!」
 従僕の召喚の一瞬の隙を突かれて古代が山崎に接敵していた。サイドからの強襲だ。姿勢を低くして、山崎が振り回す腕をかいくぐり、すれ違い様に剣戟を加える。
「硬い!」
 まるで砂に刃を擦りつけているような感触だった。傷は付いているが深くはない。
「シルフィードでの攻撃は意味がなさそうだなっ!」
 自分の思考を声に出してしまう。
「ちりも積もればなんとやらですよ、古代さん!」
 その後方で千秋が右手を山崎に向けていた。
「──Monstrum e locis emissum summis Abi nunc ex oculis meis」
 精神集中と共に手元でエネルギーが収束され、直径5センチ程に圧縮されたエネルギーの球となる。
「貫け!」
 言葉と共に高速射出されたエネルギーの球は、まるで銀色のレーザービームの様だ。一直線に銀色の尾を引き、咄嗟に避けようとした山崎を打ち抜いた。ドプリと嫌な音を立てて体液が流れ落ちる。
「くそっ、これほどまでとはやってくれる」
 山崎が吐き捨てるように言う。そして、デクリオ級にテレパシーを送り、自分を治癒する魔法を飛ばすことを指示する。
「判りやしたぜ……、山崎のアニキ」
 それまで、デクリオ級は切断された足を癒やそうと自分に癒やしの魔法を撃とうと思っていたのだが、自分より上位のケントゥリオ級による強制力には逆らえない。愚神の序列は絶対なのだ。
 力を振り絞ってデクリオ級は山崎に癒やしの魔法を飛ばした。その力と山崎自身の自己修復とが相まってか、傷口がかなりの早さで塞がっていく。
「肉体を再生する愚神ね……。ふーん考え方によっては何度でも解体して壊して遊べるってことね」
 デクリオ級がケアレイを飛ばした先を見た千石の口でアンブラルが言った。
「わし、たまにお前が怖くなるんだけど」
「そんなことないない。ほら、デクリオ級を倒してしまわないと!」
「わかっとるわい!」
 この一人芝居はかなりシュールだ、頭の中でフーが爆笑しているのを聞きながら見ていた今日人は思った。
 手傷を負っていようが行動不能だろうが千石はこの愚神を倒すことに何の躊躇も無い。この街や人、大切な人を守るため戦うのだ。
 再び拳に最大の力を込めて走り込むと、起き上がろうとしたデクリオ級に向かって地面すれすれ、拳が掠るようなアッパーカットを叩き込む。巨大な拳と共に上空に吹き飛んだデクリオ級は、弧を描いて頭から道路に叩き付けられた。そのまま二・三度痙攣して動かなくなる。
「十一時の方向、ビルの屋上から従魔数体接近、直ぐ接敵するぞ!」
 拡声器を通して獅子口の声が駅前に響いた。
「方向さえ判れば対処のしようがあるってものよね」
 千秋は、こういう時のために獅子口に口添えしておいた甲斐があったと思った。こいつらは山崎の餌も同然なのだ。姿を見せた瞬間に消し炭にしてしまわないといけない。
「従魔を焼き払うから山崎をお願い!」
 従魔がビルの上から飛び降りるのが見える。
「──Monstrum e locis emissum summis Abi nunc ex oculis meis」
 再び集中するための一節を口にする。掌の上にライヴスの炎が圧縮されているのが判る。重量感のある節足動物を思わせるような従魔が地面に降り立つ音が聞こえる。落下の衝撃を吸収するために従魔が静止する一瞬の隙を突いて千秋は左から右に腕を薙いだ。
「爆ぜろ!!」
 腕の動きに合わせて帯状の爆炎が従魔を飲み込み凄まじい熱風が周辺に吹き荒れた。
「やったのっ?」
 ライヴスの炎が落ち着いた中から黒影が飛び出し、千秋の脇をすり抜けて山崎の方へ向かった。
「従魔が一体レジストしよった。そっちに向かったで!」
 それを見た山崎は好機とばかり凄まじい跳躍力で従魔の方へ飛ぶと従魔を掴み上げた。そのまま一気にライヴスを搾り取る。
「効率が悪いが補給完了だぁ」
 そうして振り向いた山崎の傷は殆ど塞がりかけていた。

●焼却完了
 それからは完全に消耗戦となった。
 物理攻撃は通りにくい為リンクコントロールを続けた古代が盾役となりパーティを守った。そこに魔法による攻撃でダメージを蓄積していくのだ。もちろん、能力者達も無傷でいられず、鈴音などは能力の限界まで回復魔法を撃つことになった。
 山崎も再生のため、戦力を増やすために従魔とデクリオ級を召喚したが警察によるヘリからの監視と連携を取った能力者達が適切に対処したおかげで被害を最小限に止められたことが功を奏した。
 決め手になったのは今日人の縫い止めだった。影を縛り、その本体を行動不能にする技だ。魔法は撃ち尽くしていたため、クルオのマビノギオンを使い急所を突いて狙い息の根を止めた。
「よし、急いで焼却するぞ。みんな安全なところまで下がってくれ」
 全員が自分の後ろに下がった事を確認し、古代は背負ったナパームAGWからホースが伸びる銃身を取り外し構えた。山崎に向けてトリッガーを引く。銃口から伸びる紅蓮の炎が帯となって山崎を包んだ。
「汚物は消毒よーッ!」
 いつの間にかリンクを解除していたアンブラルが拳を振り上げて叫んでいた。他の5人も次々とリンクを解除していく。そんな中、クルオは焼かれる愚神をみつめていた。
「……戦うことは僕たちの専門、かぁ」
 クルオは戦闘前に獅子口から言われた言葉を思い出していた。
「どうしたの。クルオ」
「慣れなくちゃ、護れないんだと思ってさ……」
 そこに後方から獅子口が駆けつけてきた。
「みんな、本当にお疲れ様」
 そのままの、消し炭となりつつある愚神をのぞき込んだ。炎の中で炭化した破片が更に灰となって崩れていく。
「獅子口から本部、ヒトマルイチゴ愚神の再生者の討伐を確認。繰り返す愚神の再生者の討伐を確認」
 獅子口は本部に連絡してから、もう一度、灰となった愚神を確認した。
「いや~、疲れたっ。もう何時間も戦ってた気分ですよ。獅子口さん」
 古代は背負ったナパームAGWをゴトリと置き、肩を何度も回しておく。
「何にせよ、みんな無事でよかったよ」
 今日人が笑顔でそう言った。戦闘前の震えが嘘のようだ。
「ええ、ええ。鈴音様に怪我無くて本当によかったです」
 背中から鈴音に腕を回しエステルが言う。
「そうそう、皆疲れたろうから温泉でも入ってくるといい。嵐山にある温泉宿を押さえてあるから。そこで晩ご飯も……」
「おおお、温泉とお食事!」
 それまでずっと幻想蝶の中に居たレイミアが興奮して古代の腕に抱きついた。
「任務の後のビールは格別だしな」
 千石もまんざらでなさそうだ。
「ユーはどうするの」
「はぁぁぁぁ、行くに決まってんだろうが!」
「それじゃ、第2ラウンドは温泉と行きましょ!」
 千秋が満面の笑顔を見せる。
 この後、温泉で繰り広げられた第2ラウンドの様子はまた別のお話で……。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 再生者を滅する者
    向井 千秋aa0021
    人間|16才|女性|攻撃



  • 再生者を滅する者
    古代・新aa0156
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    レイミアaa0156hero001
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 小悪魔幼女
    瑚々路 鈴音aa0161
    人間|6才|女性|生命
  • 小悪魔メイド
    Ester=Ahlstromaa0161hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • エージェント
    明日沢 今日人aa0485
    人間|16才|男性|命中
  • エージェント
    ユー・フワaa0485hero001
    英雄|16才|男性|シャド
  • エージェント
    千石 琉aa0685
    人間|48才|男性|生命
  • エージェント
    アンブラルaa0685hero001
    英雄|15才|女性|ドレ
  • エージェント
    黄泉坂クルオaa0834
    人間|26才|男性|攻撃
  • エージェント
    天戸 みずくaa0834hero001
    英雄|6才|女性|ソフィ
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