本部
ホワイトデーフェアにご招待!
掲示板
-
念の為の相談卓
最終発言2017/03/15 00:02:44 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/03/16 17:37:14
オープニング
●ホワイトデーフェア
日本で生まれたホワイトデー。バレンタインデーにチョコレートを貰った男性が、そのお返しを送る日である。
バレンタインデーに定着したチョコレートの後を追い、マシュマロ、キャンディー、ビスケットとクッキーなどが戦線を繰り広げ未だに我こそは、とその地位を競っているのが現状だ。
そして三月。
有名お菓子企業が一社、ホワイトデーをより各国に知らしめようと動き出した。
東京某所、某ビルで大規模なホワイトデーフェアが開催される。
マシュマロ、キャンディー、ビスケット&クッキーの三者が競い合う、というテーマの下、主催者企業のお菓子を中心に定番物や風変わりな地方限定品、ホワイトデーの為に趣向を凝らした特別品を取り揃えた。
一部の海外企業も招待され参戦している。
三エリアに別れたスペースからはどれも甘くて美味しそうな匂いが漂っている。
カラフルでかわいいマシュマロ、綺麗な色合いが交じり合うキャンディー、和を基調にした大人の雰囲気の抹茶クッキー等など、多種多様、匂いも見た目も十分だ。
また、販売会場の上のフロアには提携しているカフェがあり、ホワイトデー限定の各種メニューを食べることが出来る。
ホワイトホットチョコレート、ふわふわマシュマロピッツァにビスケットラムレーズンサンド。わたがしキャンディーソーダ―という綿あめがのった炭酸ジュースという変わり種もある。
そんなホワイトデーフェアの主催からH.O.P.E.の息抜き企画部に依頼が入った。
是非、全国にエージェントがいるH.O.P.E.でこのフェアの宣伝をしてほしい。と。
そして送られてきた数枚の優待チケット。
カフェでフローズンスモアを無料で食べれる特典付きのチケットだ。
「ではいつも通りに貼り紙を作ってチケットの配布をしましょうか」
「先月のチョコレートに続き、今度はマシュマロ、クッキー、キャンディー! いいですね! 甘いもの最高!! 是非、今回も引率を!」
ショコラの祭典でも大興奮していた女性職員がまた同じように興奮気味に主張する。
と、そんなこんなで貼り紙を息抜き企画部は用意した。
●お返しに悩めるZ君
ホワイトデーが迫り、一人悶々と悩みを抱えていたゼファー・ローデン(az0020hero001)。
バレンタインデーにリア充爆発しろとかなんとか言っていたところ、相方のタオ・レーレ(az0020)が義理チョコをくれたのだった。
お返しをしなくては。
とゼファーは思う。しかし英雄としてこの地に降り立ってからこの方、プレゼントなど考えたことがない。
そもそもホワイトデーの存在は知ったが何を渡せばいいのか、そこがよく分かっていない。
というか、彼は一人で買い物に行ったこともなかった。
そんな時、息抜き企画部の貼り紙を目にしたゼファー。
「ここが約束の都、白き祭典の戦場へと向かう者へのお悩みソウ・ダン室と聞いたのだが」
勇気を振り絞って一人で息抜き企画部を訪れたのだった。
だがしかし特有の喋り方にきょとん、とする職員。集中する視線。
思わずドアの後ろにピャッと隠れるゼファー。流石はヘタレ。
「あ、もしかしてホワイトデーフェアのチケットの件ですか?」
女性職員が理解できたのか声を掛けてくれる。
注がれる視線の多さにこくっ、と頷くだけでゼファーは返す。
「ではこれですね! 彼女さんへのプレゼントでも買いに行くのかな? 分からないことがあれば聞いてくださいね!」
チケットとフェアの詳細の載ったパンフレットを手渡し女性職員は笑顔を浮かべた。
「ふっ、礼を言おう」
一瞬、どんなものを買えばいいか聞こうか、と思うものの、かっこつけたがりが出てしまい礼を述べただけで踵を返してしまう。
結局背を向けた以上振り返るのも恥ずかしく、今更聞くことも出来ずゼファーはその場を後にした。
果たしてゼファーは無事、タオへのお返しを買うことが出来るのだろうか。
解説
●目的
ホワイトデー菓子を食べたり買ったり楽しみましょう!
●場所
日本の東京、某ビル、7階建て。
6階と7階の二フロアを貸し切ってのイベント企画。
6階が販売フロア、7階にカフェが設置されている。
カフェは窓が大きく、快晴の空と、東京の街を見渡せる。
カフェでは様々なメニューの他、下の階で買ったお菓子全般を食べることも可能。
カフェにてマシュマロの新感覚スイーツ「フローズンスモア」(焼きマシュマロにアイスが入っている)を無料で食べれる特典がついています。
※OPにないスイーツでもメニューにあるとして注文して構いません。ケーキやパフェ、コーヒーやジュースなど定番のものもあります。
●三つ巴のホワイトデー定番お菓子
エリアは三つに分かれており、マシュマロコーナー、キャンディーコーナー、ビスケットクッキーコーナーが存在します。
有名企業の定番のものから、ホワイトデーに合わせた女性が好きそうなハート型や可愛らしい形をした各種お菓子が並んでいます。
大人の女性向けのシックでクールなデザインのクッキーや和を意識した抹茶味系、他、金平糖なども売っています。
ところどころで試食も盛んなようです。
※OPに存在しない形や味、色のお菓子を買って頂いても構いません。
※実在する商品名などが書かれていた場合はぼやかせてもらいます。
※普通の範囲内の買い物であれば通貨は減りません。
●ゼファー
ホワイトデーのお返しを買いに会場に来ているが、あまりの人混み、あまりの種類に困惑しまともに買い物が出来ていない。
タオに内緒で来たため、一人であり、しかも初めてのお使い状態。
会場の隅っこのベンチで膝を抱えてしょんぼりしています。
ゼファーの買い物を手伝ってもらっても構いません。もちろん、放っておいてもシナリオ成功度には影響を与えません。
リプレイ
●
日本東京某ビルは結構な人で賑わっていた。
「いやぁ、日本のバレンタイン/ホワイトデー戦線はすさまじい物があるねぇ」
盲目の木霊・C・リュカ(aa0068)だったがその人々の熱気を察しのんびりと感想を零す。
バレンタインデーにたくさんのお菓子(義理チョコ)を貰ったリュカはそのお返しの調達にやってきたのだ。
「甘味だけでも沢山あるものであるなぁ」
「目移りしちゃいますね!」
一緒に来ているユエリャン・李(aa0076hero002)と紫 征四郎(aa0076)が並ぶ商品の多さに楽し気に瞳を輝かせていた。
「世界的に見ても、バレンタインはあるようですがホワイトデーというのは日本独自の文化らしいですね」
リュカの付き添いに、と同行していた凛道(aa0068hero002)が手にしたパンフレットを見ている。
バレンタインデーのお返し、折角だからと凛道も貰っている分のお返しをリュカに一緒に買ってもらおうかと考えていた。
四人連れ立って販売フロアを歩き出す。
目の見えないリュカの手はいつも通り征四郎が引いていた。
が、そこで凛道が何かに気が付き足を止める。
そのことに気が付かずに進んでいく三人。
「マシュマロには嫌い、クッキーは友達のままで、あめ玉は私も好きです、って意味合いがあるって言うよね」
「……なんだと。そんな意味になってしまうのか、何故そんな面倒なことを……」
リュカがホワイトデーの噂話を披露するとユエリャンが理解できない、と言った風な顔で答えた。
「ますふぁー、このアイスのまひゅまろおいひいでふよ」
そこに何だか聞き取りにくい声で凛道が会話に混じる。
ユエリャンと征四郎が振り返ると食べ歩き用のフローズンスモアをもぐもぐ頬張っている凛道。
先程一人で立ち止まったのはこれを受け取っていたからだった。
綺麗なキツネ色の焦げ目がつき、棒に刺さったマシュマロは口の中で柔らかく溶け、その暖かい白肉の中からは冷たくほんのりとろけたアイスが広がってくる。
紙の受け皿もあるが、下手をすると零して手がべたべたになってしまうので気を付けたいところだ。
「……うん、まぁ、気にしなくてもいいのかな……」
「マシュマロもおいしいのですけどね。あ、あれ可愛いのです!」
リュカが凛道の声音に少し考えてから零す。それに征四郎が頷き目についた可愛らしい動物クッキーを指さしてリュカの手を引っ張り向かって行く。
しかし、このホワイトデーフェア、略してWDFは三者が競い合う、というテーマの下行われている。
ホワイトデーのお返しはマシュマロが嫌い、クッキーは友達のままで、あめ玉が私も好き、という意味合いだという噂が昨今とても広まっていた。
だからこそ、特にマシュマロ勢はこのフェアで汚名返上をするべくやる気満々だ。
本来の意味として「あなたの愛を純白に包む」というキャッチフレーズを前面に押し出している。
更には互いに起源の主張なども相俟ってホワイト―デーは完全に三つ巴のライバル同士の戦い、である。
「三つ巴の白き戦争だよ」
「これは、どれが一番かしっかり見極めないと」
その戦いの中に身を投じる覚悟を餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)の二人はしていた。
息を呑み立ち並ぶ綺麗に彩られた数々のホワイトデー関連商品に目を配らす。
「まずはやわらかマシュマロから」
「行くよー」
と、マシュマロエリアに二人揃って駆け出した。
既に二人とも楽しそうだ。
そんな二人とすれ違うようにフロアにたどり着いたのは秋津信子(aa5063)と十一面観音(aa5063hero002)の二人だった。
「ホワイトデーのフェアと聞いてきてみましたが……」
「甘いいい匂いがしますね」
二人とも肉や魚などが食べられない分、食べられる美味しいものに二人は目がない。特に最近は甘いもの好きに拍車がかかっていた。
ふんわりと二人の鼻孔を擽る甘いお菓子たちの香り。
優しい柔らかさと甘さを匂いだけでも感じさせるマシュマロ。香ばしく濃厚なバターとベリーや苺などフルーツの酸味ある爽やかな香りも交じり合っているクッキー。砂糖のまろやかな甘さ漂うキャンディー、と匂いだけでも多種多様だ。
カップルが楽し気に話をしながら商品を選んでいるのを目撃し、信子は少し心が掻き乱される。
昔別れた男の顔が信子の脳裏に浮かんでいた。
ふるふると頭を横に振る信子。
「行きましょう」
気合を入れて言う信子に十一面観音も頷く。
信子は男に強い未練を持っていた。しかし、仏教系に染まり過ぎて男と縁がもてない。その上、表面上は至って真面目。齢30の女である。
一方で十一面観音も、観音の姿で出現したものの男と死に別れた未練ある女の精神がまじりこんだ英雄の為、信子の気持ちは痛いほど分かっていた。
「あ、あれ美味しそうですよ」
二人でカップルとか男っけが少ない場所を選んで進んでいく。
「うわぁ……美味しそうなお菓子がいっぱい……」
続いて販売フロアにたどり着いたのはニウェウス・アーラ(aa1428)とストゥルトゥス(aa1428hero001)の二人だった。
漂う甘い香りと綺麗にラッピングされたりディスプレイされている数々のお菓子にニウェウスは感嘆の息を逃がす。
「カロリーもいっぱいダヨ」
「……そういう事、言わないの」
だがストゥルトゥスが鋭い一言をズバッと言い切った。うっ、と呻くニウェウス。
「そうは言うけどさ、マスター? 一昨日、体重計に乗って……」
更にもう一撃を放つストゥルトゥスにため息を零して
「ま、まずはあれ、食べる……っ」
聞かなかったことにしてスタスタ歩きだした。
「どーなってもしーらないぞ~?」
と、ストゥルトゥスはニヤニヤしつつ、ニウェウスの後を付いていく。
こういう時はカロリーは気にしたら負けだ。
ストゥルトゥスの言葉を再度聞いてないふりをしてニウェウスは珍しいものを探して三つ巴の甘い園へと足を踏み入れた。
開場から時間が経てば経つほど人の数は増えていく一方。
お菓子が一杯食べられると聞いて参加した音無 桜狐(aa3177)は、人の多さにUターンしそうになっていた。
「……ぬ、何やら人が多いの……。……面倒じゃし帰r……ぬぁー……」
が、同行者の水上 翼(aa3177hero002)に掴まれ引っ張られる。
「美味しいお菓子が待ってるのに帰るなんて勿体無い♪さ、突撃ー♪」
楽し気に人混みなどまったく気にせず翼は桜狐を引きずるようにして中へと進んでいった。
「想像以上に混んでるモノだね」
幼女エレナ(aa0996hero002)の引率としてやってきた炉威(aa0996)がWDFの込み具合に冷めた感想を零す。
「あら、炉威様何をお考えでして?」
そんな炉威に寄り添い彼の顔を見上げながら問いかけるエレナ。
「多分、想像通りだよ」
「うふふ。以心伝心ですわね」
視線を合わせ答える炉威にくるりと回りエレナは微笑んだ。想像などどうでも良く炉威と共に入れることが一番の喜び。
「バレンタインは炉威様のお誕生日。ですからホワイトデーが私にとってのバレンタインですわ」
手を合わせ微笑んだまま続けるエレナ。
「炉威様がいらっしゃるのですもの。それはチョコレートよりも甘く素敵な事」
「ま、好きにすると良いさ」
エレナの言葉を最後まで聞いてから炉威は答えて歩き出そうとした。が、その時炉威はエレナの方を見ていて前方をよく見ていなかった。
「っと……」
肩に軽い衝撃を覚える。振り返るとそこには黒髪の美女。
「カノンねーさま……っ! お怪我は?」
「大丈夫よ」
連れの幼女、リリィ(aa4924)が炉威とぶつかったカノン(aa4924hero001)の肩を摩り心配げな顔をしている。
「すまない。……随分な美人だね」
「此方こそごめんなさい、色男さん」
炉威がカノンにきちんと向き直り丁寧に謝罪する。するとカノンも微笑んで優しく答えた。
だがそれが面白くないのがエレナ。
「炉威様、お怪我は? 大丈夫でしたらこんな女など放っておいて行きましょう」
目に光の無い柔らかな口調と微笑みで炉威の腕を軽く引く。
そんなエレナの様子を見ながら炉威は(癖は治りそうも無いね)と、心の中で呟いた。
「はいはい。じゃあ、美人さんまたお会いしたいモノだね」
軽くカノンに手を翻し、腕を引くエレナに合わせ炉威はその場を後にする。
「行きましょう、カノンねーさま」
同じようにリリィもカノンの腕を引き炉威とは別の方向へと促す。
カノンは炉威とエレナの様子に興味を持つも、リリィに手を引かれるままその場を後にした。
●
「やわらかマシュマロざっくりクッキー、飽きのこないキャンディー。いずれ劣らぬ美味しさ」
試食で味わった口の中に残る数々のお菓子の触感に恍惚としている望月。
「望月は餅だよね」
もちもちづきだけに。
「え? 百薬も好きでしょ」
「うん、好きー」
だがしかし望月は不思議そうに瞬いて首を傾げ天然っぷりを大発揮した。
百薬もふふっと笑って頷く。
世の中にはマシュマロ風餅なんていうのも存在するらしい。
と、楽し気に買い物や試食をしていた望月の目に隅っこのベンチで膝を抱えている少年の姿が目に入った。
「何やら一人で来てる英雄がいる?」
「きっとプレゼントだね」
「でも、なんだか悩んでるみたいだよ」
「声をかけてみようか」
二人顔を合わせて頷き合うと望月と百薬はゼファーの元に近づいた。
「ねぇ、何してるの?」
「あれー? そんな所で何してるの?」
望月が声をかけたと同時に少女の声が被る。
偶然的に同じタイミングで翼がしょんぼりしていた少年に声をかけたのだ。
望月と翼が、連れの百薬と桜狐が顔を合わせる。
少年、ゼファーは唐突のことに座ったまま四人をポカーンと見上げている。
「一人なら一緒に見て回ろう♪ 何か買うなら僕達が手伝うよ? そっちの二人も同じだと思う!」
「うん、プレゼント悩んでるの? 手伝うよ」
翼がゼファーに向き直って言ってから確認するように望月を見ると、望月も頷いてゼファーの方を見た。
「そんなところまで察するとは救世主(メシア)か……苦悩まで読み取られては仕方ないな」
実に何時間も一人で悩んで絶望していたゼファーにとっては二人の申し出は天の配剤。
ぱぁっと表情を明るくし少年らしい表情を浮かべるが、ハッ、と思い直し後半は額を押さえ無駄に格好つけて言い放つ。
ちょっと変な子だなぁ、と望月はシビアなことを思ったが口には出さなかった。
「あ、僕は翼! こっちが桜狐。よろしくね♪」
「百薬だよー。あと、餅が好きな望月だよー」
「え、餅が好きとかいう情報いる!?」
翼が元気に自己紹介すると百薬も合わせて楽し気に自分と望月の紹介をする。が、紹介の仕方につい望月がツッコミを入れた。
口数の多くない桜狐は大人しく黙って様子を伺っている。
「この俺に名乗れというのか? 良いだろう。ゼファー・ローデン。常闇の中に降臨せし(以下略)」
声をかけてきた四人があまり自分と年の変わらぬ少女少年だったため、調子に乗ったゼファーがすくっと立ち上がって無駄にポーズを決めながら中二病満載の伝わらない発言をする。
理解できてない空気が流れた。
「うっ……いや、そのゼファーだ。本当に年上の姉のような人に何を選んだらいいかわからなくて、だな……」
流石にその空気が堪え、ごく普通に言い直すゼファー。
「じゃあ、みんなで色々見て回ろうー」
一番お気楽な百薬が一番に頷き翼たちの方も見て行こう、と賑わっている店々を指さした。
「うん♪ 人数多いと楽しそうだね」
翼も頷く。こうして、五人連れ立って一通り販売フロアを散策することにした。
「想いのこもってるのならなんでも嬉しいと思うよ」
「い、色々あり過ぎて逆によく分からないんだが……」
まずは望月がゼファーにアドバイスをしてみる。困ったように首を振るゼファー。
「……油揚げの入ったものがあればよかったのじゃがのぉ……」
「油揚げ!?」
「どっきりさせるには良さそうだが……」
きょろきょろしながら零す桜狐の言葉に望月がツッコミを入れ、ゼファーがアドバイスだと思って考え込む。
「油揚げ入ってなくてもどれも美味しいよ? うーん、どれを買って行こうか迷っちゃうね」
慣れている翼は桜狐にカラフルな小さいマシュマロの試食を手渡しながら首を傾げた。
「……ふむ、神社では見たことないものばかりで目移りするのぉ……。……とりあえず良さそうなものを幾つか買えばよいかの……」
ちなみにゼファーに声をかける前に翼と桜狐はキャンディーエリアの試食を制覇している。今はマシュマロエリア。そして試食を見つける度二人はもぐもぐむぐむぐしていた。
「じゃあ、味見して一番美味しいのがいいんだろうけど、あえて試食しないで相手と一緒にファーストインプレッションの感動を分かち合うのもいいかも」
「ワタシが試食したときのリアクションで決める?」
そんな翼と桜狐を見て思い付いた! という風に望月が提案し、すぐに百薬がはーい、と手を上げる。
「成程。それは面白いかもな」
「僕もやるよ♪」
「見ててやるのじゃ……」
頷くゼファーと面白そうとリアクションする側に立候補する翼。桜狐は今度はうさぎのマシュマロの試食をもぐもぐしている。
早速近くのいちどミルク味のマシュマロの試食を受け取って口にする百薬。翼も受け取り、一つを桜狐に手渡す。
「あまーい」
「イチゴミルクだね♪」
にこにこと笑顔を浮かべる百薬。頷きながら翼も素直に簡単な感想を零す。
次はホワイトチョコレートとレーズンがサンドされたクッキーの試食をし
「オイシー」
「ちょっとおとな? っぽい味がするね」
と百薬は幸せ顔。桜狐が無言でかじかじと齧る隣で翼も百薬に合わせゼファーに味の印象を伝える。
「やばーい」
百薬が嬉しい驚きの表情を見せたのは箱までクッキーで出来ているクッキーボックスだった。見た目は可愛らしく中身は木の実の風味満載で、おとぎ話に出てきても不思議ではなさそうなくらいだ。
「優しい感じの味がするよ」
と、比較的まともな感想をゼファーに言う翼。
一通りそんな感じでまさかのマシュマロ、クッキーエリアの試食を制覇する5人。
これで翼と桜狐は試食をコンプリートしたことになる。コンプリート達成に喜ぶ二人の横で百薬の試食感想に望月は頭を抱えていた。
(差がわからん。参考になってたらいいんだけど……翼ちゃんのが割とちゃんとしてるから大丈夫かな)
「よし、これなら多分なんとかなりそうだぞ!」
うーんと望月が悩んでいる横で、ゼファーがグッ、と拳を握り希望に満ちた表情でそう言った。
どうやら大丈夫だったようだ。
「世話になったな。ミッションコンプリートの最後の仕上げは自分の力で成し遂げてみたい」
と、4人に向かって最後に今度こそ、とゼファーは格好をつけて言ってみる。本当に一人で買えるかは定かではないが、似たような年の相手にこれ以上格好悪い姿を見せたくないのが本音だった。
「そっか! 頑張ってね♪」
「うむ、行ってくるとよいのじゃ」
「いってらっしゃーい」
「何かあったらまた声かけてね、あたし達カフェにいるから」
翼が明るく見送り桜狐が頷く。能天気に手を振って百薬が送り出し、望月が少し心配して上を指さして告げる。
「ふっ、俺を誰だと思っている? 忌憚なく最上エリアで白い魂を蕩かす甘美な味覚を堪能してくるといいぞ!」
そういうだけ言って颯爽と去っていくゼファー。本当に大丈夫かな、と望月は一抹の不安を覚えた。
「君たちもカフェに行くの? 僕たちも試食してほしいもの買ったし、次はカフェに行こうと思ってたんだよね」
「じゃあ、せっかくだから一緒にいこー」
ゼファーが去った後、翼が望月と百薬に向き直った。その言葉に百薬がゴー! とばかりに片手を上げる。
こうして四人は連れ立ってカフェへ、と向おうとした時、望月がベンチで項垂れている人影を発見した。
最初に出会った時のゼファー同様、どんよりとしたこの場に似つかわしくない雰囲気を醸し出している。
ベンチに座っているのは信子だった。
甘いお菓子を試食しては気に入ったのは買い、としていたのだがどうしても別れたあの人を思い出しどんどん気分が沈んで行っていたのだ。
(別れたあの人ならこういったものを喜んでくれるはず……)
とか
(いつかまた恋人ができたら、こういうものを送ろう……)
などと考えつつ、10代の恋愛女子とは違う、結婚や人生の意味合いが脳裏を埋め尽くしついには重い気分でベンチに座っていた。
一緒に来ていた十一面観音は気分転換の為、飲み物を買いに行っている為この場には居ない。
「お姉さん、なにしてるんですか?」
「君もプレゼントで悩んでるの? 困ってるなら手伝うよ♪」
百薬と翼が二人で信子に声をかけた。沈んでいる人を放っておけない、という子供たちらしい明るさ。
「あ、いえ、そうではないのですが……ちょっと落ち込んでいまして……」
「だったらせっかくこういうことに来たんだし、甘いもの食べれば元気出るんじゃないですか?」
「そーですよー。一緒にカフェ行きません?」
声をかけてくれた少女たちの優しさに顔が綻ぶ信子。
望月の言葉に百薬が頷いていい発案、とばかりに信子の手を握って引っ張った。
「みんなで食べればもっと元気になれるだろうし、僕達とカフェで美味しいもの食べよう♪」
翼も頷いて百薬が握り逆の手を取って信子を引っ張りベンチから立たせる。
どんよりと暗い気持ちになっていた信子だが彼女達の明るさに先程までの気持ちが吹き飛んでいくのを感じた。
「あの、ありがとうございます。もう一人、一緒に行ってもいいですか?」
「もちろんですよ」
こくん、と信子の言葉に頷く望月。他の一同も同じように頷いて見せた。
こうして戻ってきた十一面観音と合流し、六人は上の階へと向かうことにしたのだった。
彼女達が向かったカフェで特典のフローズンモアを堪能しているのはニウェウスとストゥルトゥスだった。
「なにこれ……すごく、美味しい♪」
「……」
見た目は焼き色が香ばしくナイフを入れればふんわりさっくりと切れていく。口の中で緩やかに解け暖かいマシュマロと冷たいアイスが交じり合いその甘みはお互いを引き立てている。
ニウェウスは反応なく黙々と口を動かすストゥルトゥスの顔を覗き込んでみた。
「ストゥル?」
「……おぃしぃ……うまぁ……」
破顔、という言葉が適切なほど緩み切った表情がそこにはあった。
「顔の表情筋……溶けてる、よ?」
カロリー計算がなんだどうだと言っていたストゥルトゥスのスイーツ堪能っぷりに楽し気にニウェウスは笑いを零す。
穏やかな時間であった。この後はめいっぱい買い物を堪能する心づもりだ。
●
カノンとリリィはお互いの為のお返しを選ぶため別れて行動していた。
リリィへのお返しを無事選び終え、カノンは七階のカフェへと向かう。
「ん……アンタは確かさっきぶつかった……」
丁度通された席の隣、あの肩がぶつかった男性がカノンを覚えていて声をかけてきた。
男性、炉威との再会に不思議な縁を感じるカノン。炉威もまた何かの縁ではないか、と微かに思っていた。
お互いに改めて自己紹介をする。
「カノン、か。名前まで綺麗な響きだね」
「ふふ、光栄ね。そういえば、あの可愛らしい彼女は?」
柔らかく笑い誉め言葉をいなしながらカノンは炉威の傍にエレナがいない事を指摘する。
「俺に渡すものを買いに出ているよ。隣へどうぞ、美人さん」
カノンの問いに応えつつ炉威は少し椅子をずらし隣の席をカノンに勧めた。
「ふふ……愛されてるのね」
炉威に勧められるままに椅子に腰を下ろすカノン。彼により一層興味が沸いた。
二人はそのまま初めて会ったというのが嘘のように緩やかに流れるように会話を始める。
初対面なのにこんなに話を出来るのか、とカノンは炉威に何か言い表せない気持ちを覚えた。
一方で、買い物に出ていたエレナ。
「あら、あなたは確か……」
「また……お会い出来ましたの」
偶然にもカノンの連れであるリリィと顔を合わせていた。
「御機嫌よう、リリィと申しますわ」
「わたくしの名はエレナ」
リリィから丁寧に挨拶をされてエレナも大人しく名乗る。
カノンに対してとは違いリリィには嫌な感情をエレナは持っていなかった。
何をしているのか問えば、リリィはカノンへのお返しを探しているのだと答える。
「奇遇ですわね。わたくしも愛しい方の為に買い物ですの」
微笑んで、エレナは答えた。そんな彼女に大人の雰囲気を感じ、リリィの胸は騒めく。同じ年頃なのに、と。
「愛しい人……」
エレナの言葉を復唱し訥々と思ったことを区切りながら口に出すリリィ。
「リリィにとってカノンねーさまは愛しいを通り越した存在」
目の前の大人らしさ漂うエレナにそういうことを言うのは少し何だか恥ずかしい気がした。
「そんな方の為に何かを選ぶことの出来るリリィ達は幸せですの」
だがカノンへの気持ちは何よりもリリィにとって大切。
最後までしっかりとエレナに言葉で伝える。
そんなリリィの気持ちにエレナは自分の炉威への気持ちが呼応するような気がした。
「では、お互いに愛しい方の為に買い物をいたしましょう」
そんな言葉が自然とエレナの口をついていた。リリィが少し嬉しそうにして頷く。
炉威以外と過ごすのは普段からは考えられないエレナだったが今回は何故か自分から誘ってしまった。
(炉威様以外とでも偶には悪くはないですわ。偶には、ですけれど)
と、リリィと買い物をしつつ自分で自分にそう言い聞かせるエレナ。
そんな二人が並んで買い物をしている横を通り抜けていくニウェウスとストゥルトゥス。
ストゥルトゥスが両手に複数の紙袋を下げている。
日本にしかない珍しい抹茶味のクッキーチョコサンドや、空が閉じ込められたガラス玉のようなキャンディー、びっくりするほど大きなマシュマロ、など、珍しくも美味しいものばかり買っている。
「ねぇ、マスター。食べ過ぎ&買い過ぎのダブルパンチだよぅ?」
新しい試食に手を伸ばしたニウェウスにストゥルトゥスが切り込みを入れる。
「そんなこと……無いもん」
「そう答えながら、目は次のターゲットをサーチっすかパネェ」
試食を食べながらもニウェウスの目は次の店の新商品の文字に向けられていた。
さながら彼女はホワイトデーの珍品美食ハンターである。
「うん、ふろーらんたん……んー、これなんて読むのです?」
フランス語で書かれたお菓子の名前を上手く読めずに困ったように首を傾げる征四郎。
彼女は片手にはリュカの手を、もう片手には難しいフランス語やドイツ語のお店や菓子の名前が並ぶメモ持ち、お使いとして頑張っていた。
「せーちゃん、綴り教えて?」
リュカの問い掛けに足を止め一文字一文字丁寧に征四郎は伝える。
「それはね「フィレンツェの」という意味でイタリアから伝わったお菓子なんだよ!」
ふふっ、と柔らかく笑ってお礼と共に軽い解説をするリュカ。
手渡される試食を征四郎はメモ持った手で受け取っては食べて見たりリュカに一つ分けたりしていた。更にはリュカが分かりやすいよう周囲の様子やお菓子の見た目などをかなり細かく説明する。
「せーちゃんはどのお菓子が一番好き?」
「んー、そうですねぇ。征四郎は全部好きなのですが……」
見えないながらも征四郎の方へと顔を向けリュカは首を傾ける。その光を通さない瞳を見返して征四郎は考え込んだ。
リュカ本人的にはお返しの種類など特に希望はない。手を引いてくれている征四郎が美味しいといった物で人数分揃えてしまう位の心づもりだった。
「ふふーふ、ちょっと高い物でもいいんだよ?」
考え込んだ征四郎が金額で躊躇しないように付け足すようにリュカは言う。
ふと、征四郎の目に綺麗な造形のキャンディが飛び込んできた。
一度目を奪われると気になってしまう。
「どうしましたお嬢さん、何か素敵なデザートが見つかりましたか?」
立ち止まった征四郎の気配に気が付きふふーふ、と笑みを零しながら紳士的にリュカは問いかける。
征四郎が見つめていたのは花の形を模した飴細工だった。薔薇やチューリップ、桜、ヒマワリ。本物のようで飴特有の艶やかさと透明感がある。
大きいものが飾ってあるが小さい様々な種類の花の飴細工が詰まったボックスもあるようだった。
「これは綺麗ですよ」
と、彼女はリュカの手を引いてお店の目の前まで移動し、丁寧に細かくまたそのキャンディの説明をする。
その声音と足を止めたことからリュカは征四郎が気に入っているのだろう、ということ察する。
「じゃあ、これにしよっか!」
小さいたくさん詰まった箱詰めを征四郎の為に、と購入を決めるリュカ。
リュカは初めに自分で言ったことを覚えているだろうか?
あのリュカの言葉を思い出して彼の横顔をじっと静かに征四郎は見つめた。
好きな人に貰うものなら。
ほんとはなんだって嬉しいと思うのです。
キャンディでなくたって。
その想いを密やかに胸に秘めて。
それでも飴を貰えるのは、きっと嬉しいことだろう。
「これはせーちゃん専用」
征四郎の秘めた想いを知ってか知らずかリュカはそう言って少し考える素振りを見せ、
「他の人のお返しはせーちゃんが美味しいって感じたものがいいな! それに」
残してきたもう一人の英雄にもお土産を買っていかないと、と続けた。
「チョコとかがいいと思うんだけど……」
「それなら向こうにホワイトチョコを掛けたクッキーや、ミルクチョコをサンドしたクッキーがあったのです!」
「じゃあ、チョコクッキーをお土産に、そうじゃないクッキーをお返しにしようかな!」
楽し気に会話をする二人。征四郎に手を引かれリュカは飴のエリアを後にした。
さて、本当は四人で来ていた彼らだったがいつのまにか逸れてしまっていた凛道とユエリャンはというと……。
あれもこれもと目移りしてしまい、試食で尽く捕まり抜けられなくなっていた。主に凛道が。
途中までは懸命にユエリャンが遅れがちな凛道を引っ張っていたのだがいつの間にやら逸れてしまったようだ。
やっと飴エリアまで抜けたものの征四郎達の姿は見えない。
ぐるり、と辺りを見回すユエリャンの目に色とりどりの綺麗で可愛らしくもある金平糖が目に入った。
甘すぎるものが得意ではないユエリャンだが金平糖の見目麗しさに心を奪われる。
「綺麗だな、あれも菓子であるか?」
「ほうひゃもぐもぐ……ないですか」
新たな試食を食べながら凛道が答えた。そのやり取りを見て店員がユエリャンに金平糖の説明を丁寧にしてくれている。
その間、凛道はふとベンチに座って項垂れる少年の姿を捉えた。
「ユエさん、あの方どうしたんでしょう。日曜日公園でよく見かけるサラリーマンの方と似たようなポーズしています」
「日中に公園に縄張る貴様も大して変わらぬであろうよ、竜胆」
少年、ゼファーを指さして的確なたとえをする凛道。ユエリャンが鋭いツッコミを口にし、少し考えた後にゼファーへと近寄る。
「貴様も何をやっておるのだ、辛気臭い」
そう声をかけられて顔を上げるゼファー。だが威圧をユエリャンから感じゼファーが固まる。
「何かお困りですか?」
続いて凛道もユエリャンの隣に並んだ。
(このメガネなら勝てそう――いや、そもそも二対一じゃっ)
大人二人に声をかけられ混乱したゼファーは二人に勝てるか勝てないか考えすぐ絶望を顔に浮かべる。
「マスターァ。なんか、あそこの人がキニナリマス」
「うん? んー……あの人、何か困ってそう?」
そこへ通りがかったストゥルトゥスとニウェウスの二人。大人に囲まれ絶望顔しているゼファーの所為でストゥルトゥスは何か勘違いしたようだ。
「イケない助けなきゃネ!」
「ちょ、ちょっと待ってストゥル……!?」
ずかずかと近寄っていくストゥルトゥスを慌ててニウェウスは追いかける。
「駄目です! いじめはヨクナイデス!」
「いや、いじめてはいないが……」
ストゥルトゥスが間に割り込むように声を荒げる。ユエリャンが驚いて瞳を瞬かせた。
「あ、あれ? そうなんですか?」
「う……この方が日曜日公園でよく見かけるサラリーマンの方と似たようなポーズしてましたのでお困りかと思いまして」
向う脛を摩り小さく呻きながらも凛道がストゥルトゥスに丁寧に答える。
ニウェウスがストゥルトゥスの行動にわたわたしながらことの成り行きを見守った。
「ゴメンナサイ。勘違いでした」
すぐに謝るストゥルトゥスに気にしていない、とユエリャンは首を横に振る。
「でもこの人困ってるんですネ? Hey、ミスター! どしたん?」
ポカーンとしているゼファーに向き直り凛道の説明を思い返して困っていると判断したストゥルトゥスはものすごい気さくなノリでゼファーに問いかけた。
「あ……あぁ……うん」
やっとニウェウスという似た年代の姿を見て落ち着きを取り戻したゼファーが全員の顔を見回して。
「実は……」
と、話し始めた。
そう、望月や翼のおかげで買えそうだったゼファーなのだが、そう言えば一緒に選んだりアドバイスをくれたのは年の近い子供という年齢ばかり。
タオは19で、もう少ししたら成人する年齢だ。
もしかしたら今選んだのは子供っぽ過ぎるのでは?
という悩みに取りつかれて結局ベンチでしょんぼりという状態に逆戻りしていた。
ゼファーの悩み相談が終わると4人が顔を見合わせる。
「んー、そんなのはね。こう、美味そうなのをサクっと買って渡せばいいのさー」
「ストゥル……それはちょっと雑すぎ……」
最初に口を開いたのはストゥルトゥスだった。ニウェウスが小声でストゥルトゥスに注意を促す。
「自分がいいなと思うものを買えば良いのだ」
だがユエリャンが似たようなことをズバッと言い切った。
「相手が食べられない物以外なら、どれでもいいと思います。できれば貴方が美味しそうだと思うもので」
凛道もユエリャンに続き同じようなことを言う。
「大事なのはね、美味いってことと、渡すときに添える言葉。ほんとこれ」
うんうん、とユエリャンと凛道の言葉に頷きストゥルトゥスがにこっと笑って続ける。
「そういう、もの?」
「そういうものデス。悩みすぎて動けない方が、よっぽどNoですよ?」
ニウェウスがうーんと首を捻るとストゥルトゥスが一つ頷く。彼女の言葉は動けなくなってしまったゼファーの心に突き刺さった。
「大人の皆さんから見てもそう、なんですね……」
少しおどおどとした様子だが納得したように零すゼファー。
「贈り物はその気持ちこそ本懐、であろう?」
促すようにユエリャンも再度言葉を添える。
「あの! 買うまで付き合ってくれ、ませんか?!」
勇気を振り絞りゼファーがストゥルトゥスとユエリャンの手を掴んで願いを口にする。視線は凛道にもニウェウスにも向けられたので全員に対してだったのだろう。
「もちろんいいデスヨ!」
最初にストゥルトゥスが快く頷く。横でニウェウスも同じように頷いて見せた。
「お困りでしたら少しなら力になりますよ」
「よかろう。付き合うのである」
凛道とユエリャンも揃って答えを口にする。
ゼファーは嬉しそうに表情を明るくし
「ふっ、これならば極限まで達した(以下略)」
ちょっと調子に乗った。
●
7階カフェ。そこに席でぐてーっとしている桜狐の姿があった。
スイーツが来るまで気を抜いているのだ。
「カフェのフローズンスモアってどんなの?」
「甘くてふわふわで冷たくて美味しいやつ」
「うん、語感からそんなイメージしかないね」
注文しながら望月と百薬は見たことのないフローズンモアというマシュマロスイーツについて話し合っている。
「これがフローズンスモアですか」
と、信子も十一面観音も初めて見るそれを見つめ興味深そうだ。
隣では翼が桜狐の分も合わせて注文していた。
翼はパフェとフローズンモアとオレンジジュースを各二人分をトレーに乗せ、フローズンモアを持つ他四人と共に桜狐の元へと戻る。
「……美味しいものいっぱいあったがやはり人混みは疲れるのじゃ……。……誰もいなければ楽じゃったのに……」
「誰もいなかったらイベント失敗しちゃうから無理じゃないかな? はい、買ってきたよー♪」
「ワタシ達とも会えなかったしねー」
「本当ですね」
ぶちぶち零す桜狐に翼と百薬が答え、信子が笑って頷いたりしながら全員がテーブルへと着く。
むくり、と起き上がった桜狐は目の前のパフェに長いスプーンを突き立てた。
「……む、美味なのじゃ……。……このぱふぇとかいうの、豪華なのじゃ……。……次は油揚げパフェを……」
一口掬っては食べ、その口の中に広がる甘さのハーモニーに油揚げを求める桜狐。油揚げの甘じょっぱさは案外合うかもしれない。
「新しいスイーツも美味しいね♪」
「本当に想像の通りだけどマシュマロ分の甘さと外側のさくさく感のハーモニーがすばらしいね」
と翼の言葉に頷きながら望月がきちんとした感想を口にする。一方で百薬は「あまーい」「つめたーい」と変らず分かり難い反応を示していた。
信子も十一面観音も口の中で蕩けるマシュマロとアイスの甘さに元気になっている。やはり甘いものは強い。
「うーん、今日は来てよかったー♪ お土産も一杯買えたしねー」
と、パフェもフローズンモアもジュースもしっかりと間食した翼。あれだけ試食をめいっぱいしたのにどこに入っているというのだろうか。
六人がわいわいとカフェで楽しみそろそろ出ようかとしている頃、リュカの手を引いた征四郎がカフェへとやってきた。
その後ろには凛道とユエリャンの姿もある。
「もー、どこ行ってたのです?」
「若造の世話を焼いておったのだよ」
「無事に買えてなによりでした」
ゼファーの買い物が終わりやっとユエリャンと凛道は征四郎達と合流したようだった。
メニューを開き苺スペシャルと書かれたパフェを征四郎は黙って見つめている。
「リュカは何を頼むのです?」
リュカにメニューを説明しながら征四郎は問いかける。
「せーちゃんと同じのにしようかな」
「え、苺パフェですよ、食べきれるのです?」
心配する征四郎に大丈夫だから、と答えるリュカ。いざとなれば凛道もいるので問題ないだろう。
苺パフェとフローズンモアがテーブルに並ぶ。
パフェに目を輝かせる征四郎のその姿は年相応の可愛らしさがあった。
美味しそうにパフェを食べる征四郎。リュカも征四郎に食べさせてもらいながら美味しいね、と答える。
甘酸っぱくもあり、酸味がより一層クリーミーに甘みを際立たせ甘いのに後味はすっきりとしていた。
パフェをリュカと共に堪能してから征四郎はユエリャンが食べるフローズンモアに視線を向ける。
その様子に気が付いたユエリャンが味見でも、と皿を征四郎の方へと寄せた。
「マシュマロのアイス、美味しいのです……!」
フローズンモアを口にして解けていく温と冷のハーモニーに目を輝かせる征四郎。
「でも、これは、お土産には出来なさそうですね」
と残念そうに呟いた。
カフェがわいわいと賑わっている中、話が弾み長居をしていた炉威とカノンの元にエレナとリリィが戻ってきた。
「あら、炉威様、随分と……絡まれてしまっていますわね」
生気の無い笑顔を炉威に向けるエレナ。
「絡んでるのはむしろ俺の方だろうかね」
「愛しい炉威様、そんな女と一緒に居る所為でおかしな言葉を口走ってますわ」
「あら、リリィ。その可愛らしい彼女と一緒だったのね」
絡まれている云々に苦笑しつつもカノンはリリィに声をかけた。
そして、カノンからエレナに自己紹介をする。
エレナの態度は気付いているものの、敢えて素知らぬ顔のカノン。
カノンの自己紹介に応えてエレナも挨拶を返す。
(炉威様にとって唯一存在するわたくし。他の者も事も全てはまほろばの様なモノ。まほろばは、すぐに消えますもの)
その無に等しい笑顔の裏ではただただそんなことをエレナは思っていた。
「カノンねーさま、エレナさまはとっても素敵な想いを抱いてらっしゃるの。リリィ、とっても素敵だと思いますのよ」
「そう……良かったわね、可愛らしいお友達が出来て」
カノンの隣に腰かけリリィがカノンへの態度が良くないエレナを褒める。リリィはエレナの想いを聞いてるが故に、愛しい人の為に、そういう態度を取るエレナを理解していた。
微笑んでカノンは頷く。
「お友達……エレナさまが……そうだったらどんなに素敵でしょう!」
嬉しそうに頬を押さえるリリィ。その様子にリリィとエレナの仲は悪くないことをしっかりとカノンは確信した。
そして、折角カフェに来たのだから、と全員でフローズンモアを注文する。
「変わった……食べ物ですのね」
フローズンモアを見てリリィが首を傾けながら零した。皿の上に鎮座する白くそれでいて茶色の焦げ目がついている円形のそれに恐る恐るナイフを入れる。
中から溢れ出るアイスを絡ませ、そっと口に運んだ。
「面白いお菓子……初めての感覚、ね」
と、カノンがふふっ、と楽し気に笑みを零す。
「中々変わったモノだね。悪くない」
炉威も頷き、今度家で再現してみるのも一興かもしれない、と考えていた。
「炉威様のお口に合って良かったですわ」
相も変わらず生気の無い人形の様な微笑みを湛えているエレナ。
「エレナさまはお気に召しまして?」
「えぇ、炉威様のお口に合うんですもの。もちろんですわ」
リリィはそっとエレナに問いかけると、エレナは炉威を見たまま振り返らずに、だがきちんと答えを口にした。
時は過ぎて楽しい宴も終焉に差し掛かる。
楽しい時間もそうでない時間もいつかは終わるモノ。
ビルの前、別れ際、炉威は名残惜しいそうにカノンを見遣った。
「また会える事を願ってるよ。麗しのカノン」
そう言って。赤い糸に導かれた今日という日を、炉威は胸の奥にしまう。
(今回ばかりは誘ったエレナに感謝かね)
幼き少女を見つめて炉威は感謝の言葉を口には出さない。
リリィがエレナの近くまで寄ってきてこっそりにっこりと笑う。そして耳に口を寄せ。
「炉威さまに喜んで頂けると良いですわね」
小さな声でそう告げた。
そんな仲の良さそうなエレナとリリィの様子を微笑んで眺め
「きっと……会えるわ、ミステリアスな王子様」
その声は炉威に届いていただろうか。
分からないが、彼らの行く末がどうなるかはまだ誰も知らない。
同じようにフェアを堪能しビルから帰っていく人々の群れ。
その中にニウェウスとストゥルトゥスの姿があった。
「ああ、マスター。今日の総カロリーはこちらになります」
「ひぃ!?」
計算して打ち出したカロリーをそっとニウェウスに見せる。さっと血の気が引くニウェウス。
「頑張って運動しよう、ネ!」
ストゥルトゥスは笑顔を浮かべてそう言い切った。
さてさて各自が解散すれば息抜き企画の職員もこの場を去ることになるのだが、そこに望月が声をかけてくる。
「ところで、どうやったら息抜き企画部員になれますか?」
その問いに驚いたように目を瞬かせる女性職員。
「エージェントの方は職員にはなれませんが……仮、ということで是非、今後とも息抜きにやってみたいことなど言ってくださいね」
自分達の仕事に興味を持ってくれるそのことに嬉しそうに笑って彼女は答えた。
こうしてWDFは終わりを迎える。
気持ちの籠ったお返しは買えただろうか。喜ぶ笑顔が見られますように。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|