本部

【白花】連動シナリオ

【白花】花舞う佳き日に

和倉眞吹

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2017/03/30 19:38

掲示板

オープニング

 とある異界接続点から、大量の白い花が噴き出した!

 空高く舞い上がった花々は、地球のあちらこちらに散らばり、降り積もる。
 敷き詰められた白い花は、なんとも美しく、なんとも幻想的な光景を作り出した。

 調査によれば、花自体は無害であり、従魔でもないという。
 そう、ただただ世界のあちこちに白い不思議な花が散らばった……という状況、ではあるが。
 なにせ、場所によってはそれこそ大雪のようにたんまりと積もっていたりもする。
 おかげで、空港では飛行機の離着陸ができないなど交通機関が麻痺したり。農作業や観光業に影響が出たり。世界各地の町としても、積もった花は美しいけれども、そのままにしておくこともできなかった。
 というわけで。「異界による事件」という理由もあってHOPEの出番となったのである。

 任務内容は「花集め」。至極簡単な内容だ。
 そういえば――ホワイトデーが近い。

 ……集めた花でお礼の花束でも作ってみるなんて、ロマンチックかも?

 ――ウチもか。
 選りに選って――選りに選って、こんな時に!

 そう、内心で嘆いたのは、とあるレストランのオーナーだ。
 この日、このレストランは貸し切り予約が入っていた。
 三月のまだ気温不安定なこの時期に、何を思ったか、庭園に面したフロアのガラス戸を開け放って、立食パーティー形式で結婚披露宴をしたいと宣ったカップルがいた。
 ホワイトデーに合わせたかったんだ、とは新郎の言である。
 何でも、プロポーズしたのが去年のバレンタインデーだったから、らしい。一ヶ月では流石に準備し兼ねるので、丸一年待ったんだとか。
 万が一、気温が凄まじく低かったり、雨が降ったりしたら、窓を閉めて屋内だけで催すというプランだ。
 前提は窓を開放し、屋内外を行き来できる形で、というのが、新郎新婦の希望だった。
 庭は普段、オープンカフェのように使用している場所だから、テーブルセットを出し入れするのは特別な事ではなく、日課の一環だった。ただ、今日は多少、それらしい飾り付けをしなければならない。
 なので、今日はいつもより気合いを入れて仕事に掛かろうとしたら――庭園は真っ白だった。
 雪ならまだ良かった。そのまま屋内のみ開催へ切り替えればいい。
 しかし、雨でも雪でもない――花だ。白い花が、もふもふと大量に庭園を埋め尽くしている。
 外に出たら、恐らく腰まで花に埋まるだろう。

「……どうしますぅ? オーナー」
 窓から外を見ていたスタッフの一人が、答えの分かり切った質問を口に乗せる。
「……HOPEに連絡する」
 その場にいたスタッフ全員の予想に違わぬ返答をしながら、支配人は自身のスマートフォンを取り出した。

解説

▼目標
・とにかく披露宴を開ける状態にする。
花の片付けは後回しで、結婚式に活用する方向で考える。
・式終了後の片付けも、宜しくお願いします(主に花の回収)。

▼状況
・只今、午前九時半。
式は午前十一時からで、披露宴は午後一時からの予定。
・会場:あるレストラン。洋館風の建物。貸切。
・式はレストラン内の別の場所で行ってから、披露宴会場へ移動する。
・披露宴に利用するのは、庭園と、そこに面したフロア。ガラス戸を解放すれば、出入りは自由。
庭園→西洋風。広さ、150平方メートル程。普段はオープンカフェとして使用されている。
屋内→庭園に面したフロア。広さ、160平方メートル程。
テーブルセットを両会場に数個ずつ置いて、ブッフェ風立食パーティー形式にする予定。

▼登場
レストランオーナー(男性)。
結婚披露宴を予定しているカップルと、招待客。レストランのスタッフ。

▼備考
・HOPEの検査によって、花に毒性はないのは分かっています。それを、式場や新郎新婦に説明して下さい。
・披露宴は立食パーティー式。飾り付け等が済んだ後、参加してOKです。

リプレイ

「ホワイトデーに披露宴なんてロマンチック……!」
 レストランへ到着後、ひとまず花が積もっているという披露宴予定会場であるオープンカフェへ向かう道すがら、通路を歩きながら藤咲 仁菜(aa3237)はうっとりと呟いた。
「この為に一年待った新郎の気持ちを無駄にはできないね。頑張らなくちゃ!」
 拳を握る仁菜を苦笑して眺めながら、彼女の相棒・リオン クロフォード(aa3237hero001)が、『気合い入れすぎて、物壊さないように気をつけなきゃなー』と零す。
「披露宴か……新しい門出を祝う為に頑張らないとな!」
 仁菜に同意したのは、虎噛 千颯(aa0123)だ。そんな千颯を見上げた烏兎姫(aa0123hero002)が、『パパは披露宴したの?』と訊ねた。
「ん? したよ、勿論」
『わー、見てみたかったなー』
 年頃の少女らしく目を輝かせた烏兎姫は、『凄く豪華にした?』と続ける。
「いや……質素だったよ。小さな会場で身内だけのね……」
 自身の昔を追うように、千颯が遠い目をする頃、披露宴を行うと思しきオープンカフェに面したフロアが見えた。そこには、レストランオーナーとスタッフ、式の刻限が近い所為か新郎新婦もいる。
 その向かって右手、ガラス製の戸と壁の向こう側は、見事な白に染まっていた。
『うわぁ、真っ白だ。凄く綺麗だね~』
 思わず歓声を上げたフローラ メルクリィ(aa0118hero001)が、窓に駆け寄る。
「辺り一面の白い花、綺麗ではありますけれど……」
『ここは花畑ではない。……時間もない、作業を始めるぞ』
 同意しつつも唖然と言った月鏡 由利菜(aa0873)に、彼女の相棒のリーヴスラシル(aa0873hero001)が容赦なく切り返し、ガラス戸へ歩を進める。
「確かに綺麗だけど、このままじゃ披露宴が開けないし……皆で頑張って何とかしないとね」
 そんなリーヴスラシルの背を見ながら、黄昏ひりょ(aa0118)も頷く。
 その後ろで、餅 望月(aa0843)も「うん、中々壮観だね」と呟いた。
『重機で何日かかけて巨大なオブジェを作ったりすると良いよね』
「うん、それ雪祭りだね」
 百薬(aa0843hero001)が大真面目にボケるのへ、見事なツッコミを繰り出す望月を、殊更不安げに見ながら、レストランのオーナーが口を開く。
「それであのー、あの花は……」
 ああ、と応じたのは、荒木 拓海(aa1049)だ。
「初めまして。HOPEより来た荒木と申します」
 拓海は、新郎新婦と思われる男女に向かって、「ご結婚、おめでとうございます」と挟んで続ける。
「この状況、ご心配と思いますが、花は無害ですから、大丈夫ですよ」
「でも……」
 本当に大丈夫なのか、と新郎新婦を始め、オーナー・スタッフも顔を見合わせる。
『本来起きる事のない状況ですので、御懸念はご尤もですわ』
 加勢するように、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)も進み出た。
『ですが、ご安心下さいな。既にHOPEによる調査で、安全は確認されておりますわ』
 彼女は、いつの間にかリーヴスラシルがやや強引に開けようとして開け切れなかった扉へ歩む。そして、その隙間から零れた花を一輪拾い、躊躇う事なくその香りを楽しむように鼻先へ近付けた。
『寧ろ、この佳き日に世界が祝福を下さったのだと、そうお考えになる方が宜しいかと思いますわ』
 些か過剰なプレゼントとも言えるが、と赤城 龍哉(aa0090)は口には出さずに苦笑する。
「安全性は問題なし、いっそ食べても大丈夫」
 真面目な顔で言葉を添えた望月に、百薬も相槌を打つ。
『従魔だっていつも食べてるしね!』
「少なくともあたしはいつもは食べないよ?」
『そっ、それに! 白い花には素敵な花言葉が多いんですよ』
 放っておくと、またしても脱線した漫才が展開されそうだと踏んだのか、慌ててメリッサ インガルズ(aa1049hero001)が割って入る。
『かすみ草の「清らかな心」とか、ユリは「純潔・威厳」、カーネーションは「純粋な愛」ですし……式の日にこんな素敵な贈り物が届くなんて、天からも祝福されてるのね』
 勿論、悪い意味の花言葉を持つ花もない訳ではないが、それは一切口にしない。
 重ねられた説明に、漸く関係者一同の表情が緩む。
(披露宴! らぶらぶさんやね!)
 そんな一同に釣られたのか、鈴宮 夕燈(aa1480)がそわぁっとした微笑で仲間達をチラチラと見つめる。
(ちょっと大変そうやけど、花は無害さんらしいし、凄い素敵な情景やと思うし)
 素敵な思い出になるように頑張る、頑張ろ、知ってる人も多くて嬉しいし、と一人にんまりする彼女の視線の先で、
「とにかく、時間との勝負だね! よーしやるぞー!」
 と腕捲りしつつ、アル(aa1730)が気合いを入れる。
(アルちゃんと一緒にお仕事、嬉しいな。月鏡さんとも何かしたい……)
 キョロキョロする夕燈から少し離れた所で、ラムトンワーム(aa4944hero001)と並んだアイリーン・ラムトン(aa4944)は、新郎新婦を無意識に見つめていた。
 自分は、悪龍と誓約した事で短命に終わる運命だ。結婚など考えるべくもなく、そうできる者達が羨ましい。
 だがその分、それが可能な者には幸せになって欲しいとも思う。
 すると、カップルに視線を向けているアイリーンに気付いたのか、ラムトンワームが声を掛けた。
「あんたさ……結婚とかしたいの?」
「っ、……貴様と誓約した所為でできない事は知った上で言っているのか!?」
 無神経にも程がある、と小声で言いつつ、相棒を睨む。
「……まあ、そうかねえ……」
 ラムトンワームは、言葉を濁した。
 本当は、アイリーンは短命などではない。だが、互いの誓約上、ラムトンワームはそれを言う訳にはいかなかった。
「そうであっても、相手を探しておくのはいいことだと思うよ」
 だから、言える範囲の精一杯を口にしても、彼女とのやり取りはいつも微妙に食い違う。
 こちらの善意を、やはり無神経と受け取ったのか、アイリーンは拗ねたように唇を尖らせた。

「しかしまた、サービスにしても度を過ぎると迷惑なもんだな」
 改めて外へ視線を向けた龍哉がぼやくと、ヴァルトラウテも『サービスでも何でもないから余計に、ですわ』と頷く。
「ま、健康に害がないだけマシだが……」
「花の所為で台無しに……なんて事の無いように、最高の披露宴にしないとな」
 千颯は既婚者故なのか、披露宴は絶対に行わせたいと思っていた。一生に一度の事だ。何とか成功させてやらねばと、ここで初めて会う筈の新郎新婦の親のような気持ちを燃やしている。
『こういう時こそ、あたしの出番よね!』
 じゃん、と言いつつ商売道具を取り出したのは、雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)だ。
「何だそりゃ。カメラ?」
 興味を示した千颯に、雅は『あたし、こう見えてプロのカメラマンなの』とはにかんだような笑顔でカメラを掲げる。
『許可が下りれば、片付けは皆にお任せして、午前の式から撮影させて貰おかなって』
「お、いいんじゃないか? あ、許可取りに行くなら、ついでにガーデンアーチがあるかどうかと、式終了後に花を回収する為のトラックも手配するよう頼んでくれるか」
『分かった!』
 頷いた雅は、既に午前の式準備の為、その場を辞していたオーナーの元へ駆け去った。

「後は時間との勝負だね」
 と言いつつ望月が腕捲りする。それに、龍哉も同意した。
「これだけの量だ、さっさと片付けようぜ。幻想蝶の中に放り込むとして、どの程度いけるもんなんだかな」
 すると、ヴァルトラウテが『生活空間なのですから、埋め尽くされても困りますわ』と待ったを掛ける。
「そりゃご尤も」
 肩を竦めた龍哉に、「ダストスポットもあるぞ」と千颯が自身の幻想蝶から引っ張り出す。
「こいつに収納して、幻想蝶には一時的に仕舞っとけばいいだろ」
「その前に、どう活用するか、ざっくり決めとくのがいいんじゃないか」
 龍哉と千颯の話し合いに、拓海も加わった。その身には、軍手にエプロンを纏い、靴を履いている。
『これだけあるんだから、色々加工して使えそうだよね。花の壁作ったりとか、アレンジメントとか』
 フローラも嬉しそうに提案する。
「最初の言動はともかく、花自体でオブジェにするのが早いよね」
 望月も言えば、百薬が『ゆきだるまは?』と透かさずズレた発案をする。
「いや、季節柄ダメでしょ」
「俺とフローラはとにかく花集めたりする裏方に回らせて貰うよ。二人共、手先あんまり器用じゃないし」
 自慢じゃないけど、とひりょが肩を竦めた。
「取り敢えず俺は、ガラス戸を開けても問題ないように、エアーシェルでテラスルーム的な空間を構築するつもりだったんだが……」
 言いさして、龍哉は庭へ目を泳がせる。実際前にした庭は、想像よりも広そうだ。
『こちらも持って来たが、タツヤ殿は幾つ持っている?』
 リーヴスラシルが、彼女には珍しく、恐る恐るといった口調で訊ねる。
「四つ……」
 試しに一つ、屋内でエアーシェルを展開してみるも、これが計五つあっても、庭園を覆うテラスルームには程遠い。
「六つあっても無理っぽいね」
 拓海も苦笑する。
「くそー……十時間なら花が崩れてきても空間を維持できると思ったのに……」
『仮に可能だったとしても、テラスルーム状に合体させるのがそもそも無理そうですわね』
 と容赦なく、ヴァルトラウテが断じた。
「じゃあ、エアーシェルに関しては、他に活用できそうな所を考えるとして……」
『後は、アーチトンネルですわね』
「あ、俺ちゃんもそう思ってた。花のトンネルだろ」
 ヴァルトラウテの提案に、千颯も頷いて続ける。
「雅ちゃんが、ガーデンアーチがあるか訊きに行ってくれてるから……」
『ガーデンアーチ、ここにもあるってー!』
 そのタイミングで、写真撮影の許可を取りに行っていた雅が戻って来た。
『手が空いたら持って来てくれるってさ』
「じゃあ、とにかく動きましょう。もう十時だしね」
 腕時計を確認したひりょは、まずは外へ出よう、と頷き、先刻リーヴスラシルが開けた隙間から、どうにか身体を捻り出す。
 それに倣って、皆次々にその隙間から外へと抜け出た。まずは、戸口を自由に開閉できるようにした方がいいような気もする。
(お花の中にもふーってダイブしても平気そう……)
 そう思いながらそわっとした夕燈の視線の先で、先にそれを実行した者がいた。
「花のベッド~」
 と言いつつ、ボフッとその中に背中から埋まったのは、拓海だ。しかし、「心地良いな~……」などと呟いた彼が寝そべっていたのは一瞬だった。
「でも、仕事しよ」
 とすぐ様起き上がる。
『綺麗だけど、程よい数がいいわね』
 メリッサも微笑して言うと、彼に手を伸ばす。微笑を返して彼女と共鳴した拓海は、アルクスシールドを幻想蝶から取り出し、出入り口付近の花からラッセル車のように一気に押し集め始めた。
「あっ、あれいいですね!」
 私達もやりましょう、と由利菜は相棒に手を伸ばし、共鳴すると自分も盾を顕現させ、拓海に倣う。
 アルと雅も共鳴すると、同様に盾で花を掻き集め、生け垣風になるように脇へ寄せていく。
 他のメンバーも、各々まずは、その場の花をある程度減らす仕事に取り掛かった。
 リオンと共鳴した仁菜は、ウィッチブルームで風を起こし、手早く散らばった花を掻き集めている。勿論、花を潰さないように出力調整するのを忘れない。
 ひりょとフローラは手分けして、大きな袋と寝袋を利用し、花弁を掻き集め、庭園の周辺へと運搬して行く。そうしながら、ひりょは時折時刻を知らせ、モチベーション維持にも尽力していた。
 アイリーンとラムトンワームも、大きめの笊と箒で、わさわさと花を集める。
「あたし達は、花で壁作っちゃいましょ」
 運搬されて来た花を早速に整え始めたのは、望月と百薬だ。
「オープンカフェの壁は全体を二重にしちゃおうか。秘密の二重底宝箱みたいな奴ね」
 これで一気に花の量は減らせちゃうね、と悦に入っている望月に、拓海が「これで固めてみたら」とウレタン噴射器を手渡す。
 漸く庭園の地面が見え始めた頃、由利菜が「はい、皆さん退いて下さーい」と号令した。何事かと皆が視線を向けた先で、彼女はウィッチブルームを、今しも振り抜かんと構えている。
 わたわたと仲間達が庭園から撤退するのを確認して、由利菜はウィッチブルームの一閃で、地面に残っていた広範囲の花を払った。
 唖然とする一同の前で、由利菜は一度共鳴を解く。
『何だ。ユリナの住居、涼風邸でもこの広範の箒での塵払いは使う技法だぞ』
 ポカンとしている仲間達に、リーヴスラシルが口を開いた。説明というよりは、少し言い訳をしているようだ。
「普通に掃くより広範囲を正確にお掃除できるんですけど、一閃はリンクが弱まるので短時間で何度もは使えないんですよね……」
 それには頓着せずに、由利菜はさも当たり前の愚痴を零すように、溜息を吐いた。

 そうして粗方花が脇へ避けられる頃、スタッフが数名、ガーデンアーチを置いて、また式の方の支度へ戻っていく。
 エージェント達は続いて、花を利用しての飾り付けや制作作業に取り掛かった。
「これだけ花があれば、素材には困らないですね」
 一部の花を抱えた由利菜は、一旦屋内へ歩を進める。
「じゃあ、花嫁さんのドレスとヴェールに縫い付けて来ますね」
 手には裁縫セットを持って、誰にともなく言うと、「……自分も行っていいですか」とラムトンワームが進み出た。
「いえっ、こう見えても手先は器用な方なので……」
「いいですよ。行きましょ」
 由利菜はニコリと笑うと、ラムトンワームを伴ってその場を後にする。
 リーヴスラシルの方は、庭園の邪魔にならない一角に陣取って、花を使って何やら作り始めた。
 彼女の周囲に、同様のことを考えていたらしい女性陣が、次々と集まる。
『沢山の花があるんだから、利用しない手はないよね! ところでリーヴスラシルさんは、何作ってるんですか?』
 烏兎姫が興味津々で訊ねるのへ、リーヴスラシルは手を動かしながら『フラワーアートだ』と答えた。
『女神フレイアをモチーフにしてみようと思ってる』
 どうやら彼女が、北欧神話由来の世界出身なのが理由らしい。
『事前に製作工程はメモ及び練習している。他所でも白い花絡みの事件が多かったからな』
「わあ! 私もです!」
 パッと顔を輝かせたのは、リオンと一度共鳴を解いた仁菜だ。彼女の手にも、抱えられた沢山の花と共に、資料がある。
『ほう? で、ニイナはどんなものを作るんだ?』
 顔を上げたリーヴスラシルに訊かれて、仁菜は照れたように笑った。
「作りながら形にしていけたらなって……惜しみなく花を使って豪華に、それでいて白の特徴の清楚さも出るような、そんなイメージなんですけど」
 近くに座った夕燈は、彼女らの会話に耳を傾けつつ、せこせこちまちまと花でネックレスやブレスレットを作っていた。

 一方。
「ガーデンアーチがあって助かったな」
 スタッフが持って来てくれたアーチを使って、龍哉とヴァルトラウテ、拓海とメリッサは、そこへ花を飾り付ける作業に掛かっていた。
「後片付けが大変そうだから、ウレタン噴射器は使わずに済めばいいと思ってたんだが」
「アーチには使わなくて済みそうだけどね」
 拓海が視線を投げた先では、ひりょやフローラ、望月と百薬、リオンが花の壁作りに勤しんでいる。彼らの手には、しっかりとウレタン噴射器が握られていた。
「ま、設営に関しての力仕事は一通り引き受けるとして……後片付けの事は後で考えるか」
 吐息と共に言うと、ヴァルトラウテも『それが良いですわ』と頷く。
「手が必要なところは言ってな~。俺ちゃん手伝うんだぜ!」
 直後、通り掛かった千颯に声を掛けられて、ヴァルトラウテは、『では、アーチを支えていて下さいませんか』と頼んだ。
「しかし、白ばっかだと流石に彩に欠ける気もするんだよな」
 アーチに花を盛りながら、龍哉が零す。
「LED系の発行デバイスがあれば、借りてもいいと思わないか。赤と青と緑あたりを過剰にならない範囲で仕込む感じでどうだろう」
「発火に気を付ければいいんじゃないかな」
 拓海が頷くのへ、「それは考えてある」と龍哉は続けた。
「電飾はカバーを掛けて、花に直接触れないようにするから」
 そうだね、とまた一つ同意した拓海も口を開く。
「オレも考えてたんだ。カラースプレーでポイント程度に薄桃か薄緑色でグラデーションっぽくしたらどうかって」
 直後、アラームを掛けてあったスマホが鳴る。時刻は、十時四十五分だ。
「雅さん! 写真撮るなら、そろそろ式場の方に行った方がいいんじゃないですか?」
 視線を巡らせて雅を探すと、彼女(彼?)は、アルと共にウレタンで簡易ソファを作っている最中だった。
 アルと雅の前には、ワインレッドの布で覆われ、花で飾られた即席のソファが設えられている。
『あ、そうね。じゃあ、アルちゃんと皆も後お願いしまーす』
 言うや駆け出した雅に、フラワーシャワーがしたい、と言う仁菜とリオン、望月と百薬、アイリーンがぞろぞろと続いた。
「ちーちゃんは行かなくていいの? フラワーシャワーするんじゃなかった?」
 拓海が、ヴァルトラウテを手伝っている千颯に水を向けると、「俺ちゃんはいいの」と肩を竦める。
「披露宴の時に、盛大にやるからさ。こっちのが人が要るだろう?」
 披露宴は、午後一時からだから、確かにこちらの作業も急いだ方がいい。
『ボクのセンスの見せ所だね! 頑張るよ!』
 当初から張り切っていた烏兎姫は、更に気合いを入れまくり、できあがったフラワーアートを、運ばれてきたテーブルに飾り始めた。
 持っていた花束と、薔薇のそれを合わせて、彩りを添えていく。
『単色だけじゃ飽きるし、華やかさに欠けるもんね』
 白の中にポツンと薔薇が咲いた様を確認して、烏兎姫はにっこりと笑った。
 アルも、白い花を引き立てる為、淡い色のテーブルクロスを掛けていく。
『ヴァージンロードに見立てて、新郎新婦の歩く道を純白のフラワーロードにしようと思うんだけど、どうかな!』
 烏兎姫が誰にともなく言えば、壁作りの作業をしていたひりょが振り返った。
「撒き過ぎないように注意すれば、いいんじゃないかな。やり過ぎると、足滑らせる人がいないとも限らないし」
「じゃあ、ウレタンで少し固定して、小道みたいにすれば大丈夫じゃないか」
 拓海も花の壁作りに加わりながら言うと、烏兎姫は二人の提案に『それもそうだね』と頷く。手の空いた者に手伝って貰いながら、花の小道を作っていった。
 そこに龍哉達が、出来上がったフラワーアーチを立てていく。拓海は、アーチに少しだけウレタンを吹き付け、メリッサとテーブルクロスで掬った花を被せるように掛けて見た目を豪奢に仕上げていった。
 外の壁作りは手が足りているようだったので、烏兎姫は屋内のテーブルの飾り付けに回る。
 特に、新郎新婦の席を重点的に飾っていると、「これ、使って下さい」といつ戻ったのか、由利菜が小さなチャームを差し出していた。ロータスの花飾りだ。
「この花飾り、とある依頼で頂いたものなんです」
『わー、ありがとう! 綺麗ですね』
 受け取った烏兎姫は、新郎新婦席のフラワーアートに早速花飾りを付ける。それを見ながら、リーヴスラシルが『……ユリナ、あくまでも貸すだけだぞ。後で回収する』と小声で耳打ちしているのを、当然烏兎姫は知る由もなかった。

 それから一時間はあっという間に過ぎ、残りの一時間は正に追い込みだった。
 仁菜が屋内の壁にもウレタン噴射器で花を付けているかと思えば、烏兎姫は会場入り口にもフラワーアートを設えている。アルは、引き出物の緩衝材を花弁と入れ替え、拓海や千颯、龍哉達は手の足りない場所を手伝う為に駆け回っている。
 ひりょは、テーブル周辺に於いて、花弁が大量に堆積している部分がないかをチェックして回っていた。
 余った花を、皆で手分けしてダストスポットと幻想蝶に突っ込み、どうにか準備が整ったのは、披露宴開始時刻の僅か十五分前だった。

 披露宴は、会場の規模からすると、家族とごく親しい者だけを招待したらしいこぢんまりとしたものだったが、それなりに盛大だった。
 披露宴会場でもフラワーシャワーが控えめに行われ、その中には式でもフラワーシャワーに参加した筈の望月が、やはり『おめでとー』と言いながら花弁を振り撒いている。千颯も、烏兎姫と共鳴して、食事の邪魔にならない程度に飛盾に乗せた花弁を舞い散らせた。
「わぁぉ……幸せオーラすごい……」
 ボクはお歌をプレゼントさせて貰うよ! と足を踏み出したアルは、ペールグリーンのワンピースドレスに身を包んでいる。
「あっ、アルちゃん待って!」
 言いつつ追い縋った夕燈は、自分の被った花冠と揃いのそれを、アルの頭に置く。先刻、アルと揃いにしようと衣装にも縫い付けた花が、ふわふわと踊った。
 夕燈は、スタッフで演奏が好きな人がいれば一緒に演奏するのも素敵、と声を掛けたのだが、生憎式と披露宴の進行で手一杯だと、丁重に辞退されていた。
(あーっ! 歌! ボクも参加するんだ! 悪いけどパパ、共鳴解いていいっ?)
 途端、焦ったように千颯の脳内で烏兎姫が叫ぶ。彼女も歌は得意なのだ。ダメだと言ったところで彼女を止めるのは無理そうだと見た千颯は、飛盾を回収し、共鳴を解いてやった。
 烏兎姫がアル達に駆け寄る頃には、アルと夕燈は、事前にスタッフと打ち合わせして設えた即席ステージで挨拶を始めている。
「こんにちは。ご結婚おめでとうございます! ボクはアイドルリンカーのアル。これから新たな人生へと出発する二人のために、曲を作りました! えっと、ユニット名は……どうしよっか」
 誰か付けてくれるかなー、とチラチラと視線を送る先には、夕燈とステージに辿り着いた烏兎姫がいた。が、夕燈は、「アルちゃんと一緒に歌って踊る!」と月欠ノ扇を構えているだけだし、烏兎姫は『じゃあ、ボクからも歌をプレゼントするよ!』とスタンバっているだけだ。
 はあ、と肩を落としたアルは、「それではまずボクから」と言って、陰陽双鉄扇・桜を顕現させて、花弁を舞い上げるように振り上げた。
「タイトルは、『white blessing』です」
 ニコリと笑ったアルは、口を開くと、吐息に乗せて自作の歌を奏で出す。

白は全ての光の色が
合わさってできる色なのだと
昔誰かが言っていた

私の 僕の
貴方の 君の
嬉しいこと
悲しいこと
苦しさも全部全部抱きしめて

二人だけの素敵な
特別な白を作っていこう

行く先に真白な幸あれ
white blessing

 両脇では、夕燈が満面の笑顔と共に扇で花をふわふわと舞わせ、烏兎姫が一緒になって踊っている。
 続いて、夕燈と烏兎姫がセッションで盛り上がるのへ、共鳴した仁菜がメンサ・セクンダの菓子や、星の書の星で可愛く演出したり、ケアレイやクリアレイなどの光で盛り上げる。
 思わぬトラブルに見舞われた新郎新婦だが、今日が最高の日になればいい、と願いを込めて。
『やはり、本職のアイドルはこういった式場で一際輝くな』
 仕上げに、ウィッチブルームで花弁を軽く舞い上げる仁菜を見ながら、リーヴスラシルが感心したように腕を組む。由利菜も頷いて、「では」と相棒に手を差し伸べた。
「本職ではない私達も、私達にできることで二人を支えましょう」
 再び共鳴した由利菜とリーヴスラシルは、アタックブレイブでステージの三人のボルテージを上げる。
 そんな中、ひりょ達はまだ、花弁で滑って転ぶ人がないかと、テーブルの周辺をチェックして回っていた。怪我をした人がいれば、ケアレイで回復させるつもりだった。
「ひりょ」
 その時、背後からポンと肩を叩かれる。
 振り返ると、そこには披露宴という場に違和感のない服装に着替えた拓海とメリッサが立っていた。
「少し休もう。オンオフ大事だぞ」
 言った拓海は、手にしていたソフトドリンクをひりょに差し出す。メリッサも、取った食べ物をフローラに勧めていた。
「ああ……ありがとうございます。気が付いたら作業に集中しちゃってたみたい」
 ひりょは苦笑と共にドリンクを受け取って、一口含んだ。
「何かいつも食べてる感じだね」
 手近なテーブルから唐揚げを摘むと、拓海も楽しげに笑った。
「だな。オレ達が一緒するのって飲食絡みが多いから」
『助かったー。実はひりょ君が作業に集中してたから言い出しにくくって』
 フローラは悪戯っぽく舌を出して、『お腹空いたー』と腹ぺこ魔神の本領発揮とばかりがっつきそうになり、慌てたメリッサに『流石にそれはダメー』と制止されていた。
『にしても、こういう所のご飯って美味しいよね』
 その横で、百薬が早くもがっついている。
「勝手に混ざってるんだから、食べ過ぎちゃダメよ」
 相棒と揃いの白花ドレス姿で、「しかし美味しいね」と窘めを無にする相槌を打った望月は、びしっと立てた人差し指を頭上に突き上げ、
「従魔じゃない食べ物を楽しめる、美味しい依頼大歓迎!」
 と、とんでもない一言を付け加えた。
「訳の判らない宣伝しないで!」
「まさか、酔ってるんですか!?」
 拓海とひりょが、順にツッコんだのは言うまでもない。

『今日しか見られない表情、ばっちり切り取らせて貰ったわ! 最高の涙と笑顔、ありがとう!』
 宴中にも写真を撮っていた雅は、宴終了までに編集を終えたフォトブックを、新郎新婦を始め、参列者に配っていた。
 その会場の片隅で、掃除を始める前に、拓海は針糸で簡単に輪にした花冠をメリッサに手渡す。合間を見て、こっそり作っていたものだ。
「似合うよ、お疲れ様」
 微笑すると、メリッサも嬉しげに笑う。
『ありがとう。拓海もね』

 一方リオンも、同じように会場の片隅に相棒を引っ張って行った。
『ニーナ! ハッピーホワイトデー!』
 差し出された、スズランのような花を見て、仁菜は目を丸くする。
「どうしたの、これ」
『幻想蝶に詰め込まれた中から探したんだよ。四つ葉のクローバー探すより大変だった!』
 満面の笑顔でグイと花を仁菜の方へ押し付けながら、『俺がニーナに渡したいのはこれだから』と続ける。
『ニーナ、スズランの花言葉、知ってる?』
「……幸福が訪れる……?」
 恐る恐る受け取る仁菜に、リオンは『当たり』と満面の笑顔で頷いた。
『ニーナに幸せが一杯訪れますように!』
「リオン……」
『昔、ニーナが失ったものは大きいかも知れない。でもニーナが頑張った事で救われたものだって、きっとあるからさ。ニーナもちゃんと、自分の幸せを望んでいいんだよ』
 昔の傷を埋めるように、自分を犠牲にしても誰かを守ろうとする仁菜が、リオンはいつも心配だった。
(俺は……ニーナにもちゃんと幸せに生きて欲しい)
 ありがとう、と泣き笑いのように言う仁菜に、微笑を返しながら、リオンは口に出さずに思った。

 それが一段落するのを見計らったように、「後一仕事頑張ろう!」と拓海が号令を掛ける。
「うん、片付けが本番だね」
 望月が花の壁に歩を進め、「実は壁にしてるお陰で、集めるのは楽なのよね」と言いつつ、大胆に壁を崩していく。
『そのまま圧縮しよー』
 と百薬が借りてきた箒を一振りする。
「そう言えば、百薬って箒とか得意だよね」
『長柄のものなら何でも必殺武器よ』
 愛らしい顔で物騒な事を言う相棒に、「またそんな事を言う」と望月は呆れ顔だ。
「癒し天使はどうしたのよ」
『ワタシは全てを清らかにする天使ー』
「よし、その調子でお掃除頑張ろう」
 明後日の問答をする二人を余所に、他のメンバーも現状復帰に勤しんでいる。
 そんな中ひりょは、花の片付けを積極的に行いつつ、残った料理を持ち帰り用に梱包して仲間に配って回った。
「はい、フローラも。お疲れ様」
『え、いいの?』
「今日はフローラも頑張ってくれたしね。ご褒美も兼ねて……かな」
「ついでだから、一段落付いたら、お茶にしませんか」
 由利菜が、誰にともなく声を掛ける。
「レストランにお願いして、少しの間だけ場所を貸して頂きました。ティーセットとお茶葉は私が出しますから」

 花を粗方片付けた後のオープンカフェ。
 高級ティーセットで淹れられたロイヤルレッドに皆が舌鼓を打つ中、「仕事の後の一杯もまた格別」と言った者がいたとかいなかったとか。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • 雨に唄えば
    烏兎姫aa0123hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • ~トワイライトツヴァイ~
    鈴宮 夕燈aa1480
    機械|18才|女性|生命



  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • エージェント
    アイリーン・ラムトンaa4944
    人間|16才|女性|生命
  • エージェント
    ラムトンワームaa4944hero001
    英雄|24才|女性|バト
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