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【相談卓】
最終発言2017/03/19 21:22:33 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/03/21 10:47:17
オープニング
●風変わりな依頼者
鼻歌交じりにHOPE本部へとやってきた若手職員は、入り口で誰かと柔らかくぶつかった。
「あ、すみま」
謝ろうと口を開いて、思わず二度見してしまった。相手は、クマの着ぐるみを着ていた。思わず警報装置へ手を伸ばしたところで、入館証を首から提げていることに気がついた。
「い、依頼者の方ですか?」
着ぐるみはこくんと頷いた。
●HOPE本部
「それで、今話題になっている、『白い花』についてなんですが・・・・・・」
画面に映し出されたのは、白い花に埋もれたテーマパーク。観覧車からジェットコースターに至るまで、雪でも降ったかのように真っ白だ。
部屋の隅にいる着ぐるみはさておき、エージェント達は依頼の説明を受けている。
「どうも、このテーマパークには特に局所的に白い花が発生しているようで、それで、営業がままならない状態だそうです。というわけで、エージェントさん達にはには、白い花を片付けてほしいということですね。それとー」
HOPEの職員は、少しだけ首をひねった。
「この白い花は、他で報告されているのものとは、ほんのちょっと違うようですね。無害であることには変わらないのですが、ライヴスのパターンが少々異なるようです。だからどういう性質があるのかは、わかりませんが。とにかくまあ、危険なことは無いと思います」
かくして、エージェント達はテーマパークへと向かうこととなった。
解説
●目標
白い花を片付け、営業のできる状態にする。
●場所
都内テーマパーク(遊園地)
観覧車、メリーゴーランド、ジェットコースター、コーヒーカップ、絶叫系マシン、ジェットコースター・・・・・・etc、などの一般的な遊園地にあるような乗り物と、シアター、喫茶店(※営業していないが、軽食などの提供が可能)、売店(※営業していない)などの設備がある。
白い花は、屋内外問わず積もっているが、とくに設備の上には多く積もっている。
●状況
現在、安全のために一般人の立ち入りは制限されている。
身長制限などもあるが、今回はリンカーであれば気にせずに乗ってかまわない。
掃除のためにアトラクションによじ登ったり、施設の人に設備を動かすように頼んだり、また、自分で動かすことも可能。
通常よりもスピードを速めたり、スピードを遅めたりすることもできる。
(故意によほどのことをしない限りは壊れないし、リンカー達もよほどのことが無い限りはけがをしないだろう。)
●白い花(変異)
ここに散らばった白い花は、薔薇のような花。どうやら人の感情に引き寄せられたり、押しのけられたりするようだ。
何か強い感情を抱くと、近くの花が反応する。
おおむね、プラスの感情であれば引き寄せられ、マイナスの感情であれば反発する(大して強い力ではない)。
リプレイ
●いざ、遊園地
「遊園地、楽しみ……じゃない。お掃除頑張りましょう!」
『ん、「掃除」頑張ろうな』
普段は精一杯凜々しくあろうとする紫 征四郎(aa0076)が素直に年相応の喜びを見せるのは珍しい。ガルー・A・A(aa0076hero001)はやんわり釘を刺しつつ、仕事のついでに少し遊ぶくらいはとがめるつもりもない。
「ふふーふ。これはこれで良い景色じゃない?」
踏みしめる柔らかい感覚に、木霊・C・リュカ(aa0068)は微笑む。
(放っておいてくれればいいものの)
オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、髪にひっついてくる花びらを払う。花びらはゆるやかに惹かれるようにしつつ、くるくると地面に落ちる。
「ついに…………来たんだね、遊園地に」
ヨハン・リントヴルム(aa1933)は、入り口を見上げる。7歳の頃にヴィランズに拉致されたヨハンは、今回が人生初の遊園地だ。
「まあ……だからっていい歳してはしゃいだりはしないさ。僕たちの娘を連れてくるための下見だよ下見」
『そうですね』
ドイツ出身の美青年は、きりりとした表情で入り口をくぐる。
(花びらが津波のように押し寄せているけど、黙っておいてあげましょう)
パトリツィア・リントヴルム(aa1933hero001)は、何も言わずヨハンを追う。
踏みしめる場所もないほどの白い花。二人は寄り添い、手をつないで遊園地へと入っていく。
「遊園地か……久しく来ていなかったのう」
『何か楽しそうな場所じゃの! アクチュエル、早く行くのじゃ♪』
アクチュエル(aa4966)の手を、アヴニール(aa4966hero001)が引く。アヴニールにとってもまた初めての遊園地だ。アヴニールの好奇心の赴くまま、二人は走って遊園地へと進む。
一歩進むたび、ふわりと花びらが舞い上がる。
それぞれに竹箒等の掃除道具を手に取り、エージェントたちは清掃の支度を済ませる。
「……イヴィア、ちゃんと袋持ってて?」
『真面目だよなぁお前は……』
無音 冬(aa3984)は、アトラクションに気をとられず依頼をこなす姿勢だ。その様子をちらりと眺め、イヴィア(aa3984hero001)はどうすれば楽しく仕事ができるか考える。
続いて遊園地に駆け込んでくる一人と、少しだけおどおどしたもう一人の姿を認めて、ふと、それほど心配することでもないかという考えが頭をよぎる。
「アトラクション乗りほうだーいっ! 行こう、カスカっ!」
元気よく挨拶をする御代 つくし(aa0657)に、職員が嬉しそうに会釈をした。
【ぁ、ぁ、ぇっと、その……お花集め、頑張ったりしたりする……よ!】
はしゃいでゲートをくぐるに続き、カスカ(aa0657hero002)はあくまで依頼と気合いを入れるのだが、やはり目線は乗り物の方へと向く。
カスカもまた、遊園地へやってくるのは初めてだ。
「ふふっ、まるで遊園地デートね♪ いっぱい満喫しましょう♪」
赤と白が、現実離れした幻想を描き出す。真っ赤なゴスロリ服を身に纏った羽跡久院 小恋路(aa4907)が、セリカ・ルナロザリオ(aa1081)の首に繋がる首輪の鎖を引く。じゃらりと金属の音を立てた。
「……綺麗なお花もこのような咲き方……いえ、生え方ですと少々不気味ですわねっ……♪」
「ふふっ、はい。楽しみましょう♪」
異様な光景。わくわくしながら。花を引き連れ、堂々と道を歩く二人の姿は倒錯的でありながら、それ以上にどこか美しい。
「うーん、広場の辺りがいいかな?」
エージェントたちは、とりあえず、花を集める大まかな場所を決める。傍らで、どの乗り物に乗るかを相談するエージェントたちもいる。
「上から見れば、どこに花が集まっているか分かるじゃろうしの」
アクチュエルとアヴニールは事前に手配した園内地図に目を通しながら、効率良く回れるルートを確認している。言ってみたものの、すでに観覧車とメリーゴーランドは行くと決めているため、そこに寄ることは折り込み済みだ。
山のような白い花。時間はたっぷりありそうだ。
●見下ろす世界
『……大変そうなとこからやるか』
「ひええ、高い……」
ガルーと紫は、天井にまで白い花が降り積もった大観覧車を見上げる。
『共鳴して行った方が良いな。征四郎、頑張れ』
「なんでですか! ガルーがいっても良いのですよ!?」
『高所戦闘の訓練と思って頑張れ』
「鬼ー!」
共鳴を果たした紫の姿は、すぐに凜々しい青年のものへと変わる。オリヴィエも木霊と共鳴を果たす。褐色の肌に深緑の髪、目だけは金木犀の様な赤金色に染まったリュカの姿だ。
おぼつかない足場、ひゅるひゅるとうなる風。きりと眉を上げ、覚悟を決める。慣れない場所と言ってもエージェントだ。オリヴィエの後を追い、紫も無事てっぺんに登ることができた。
『……こうして登ると、やはり高いものだな』
「怖い! でも雪景色みたいで綺麗だねぇ」
木霊と共鳴したオリヴィエが、一足先に観覧車の屋根の上から遊園地を眺める。
「きれいです」
顔を現した紫もまたぼそりとつぶやいた。てっぺんから少し下がったところで、観覧車はしばし動きを止める。
恐れも忘れ、何も言わずに景色に見入る。
●てっぺんから
『高くから見る景色はまた気持ちの良さも違い、良いモノじゃな』
園内を眺めながら、アヴニールは手際よく花の多い場の目星をつけ、園内地図に印をつける。
「雪の様で綺麗じゃのう……」
アクチュエルの呟き。アヴニールも同じことを思った。
がこん、と、少しの振動を立てて、観覧車は止まる。
『? 停まったのじゃ』
観覧車はそういうものなのだろうか。それとも、何かの故障だろうか。アヴニールはきょろきょろとあたりを見渡し、笑うアクチュエルに気がついた。
「ゆっくり見れる様に、一番上で少し止めて貰う事にしておったのじゃ」
『粋な心遣いじゃの。それにしても綺麗じゃ……』
ほう、と辺りに目を細めるアヴニールは、とても楽しそうだ。そんな様子を見て、アクチュエルは少し心配になったりもする。
(アヴニールは何時も元気じゃ。知らない世界に来たのはどんな心持ちなのじゃろうか。
独りで心細くはないのじゃろうか……)
「のう、アヴニール……」
自分と同じ顔が、きょとんと振り返って、花開くようににっこりと笑う。
「いや、何でもないのじゃ」
『変なアクチュエルじゃの』
アヴニールが笑えば、その笑みはアクチュエルにも広がっていった。白い花が高く、窓の外に舞い上がり、それから重力に負けてはらはらと雪のように降り積もる。
●予行演習
「遊園地っていうのは、どこもかしこもカラフルで、可愛くて、楽しい音がするものなんだね。早く僕たちの娘にも見せてあげたいなぁ」
パトリツィアとともに、ヨハンはゆっくり遊園地を歩く。これは喜びそうであるとか、これは危ないかもしれないと真面目に検討している様子はなんとも微笑ましい。
ふと、ヨハンは看板に目を引かれ、足を止めた。
「イチゴ味のポップコーンだって、作って食べてみようパトリツィア」
『はい』
できたての匂い。香ばしい香り。渡されたポップコーンをヨハンはそっとパトリツィアに差し出す。
「はい、あーん」
甘やかなひとときだ。
「……どう?美味しい?」
『はい。とっても』
「ふふふ、良かった」
二人の頭上を、ちょうどジェットコースターが駆け抜けていく。先ほど乗ったものだ。
「テレビでキャーキャー言ってるから、どんなものかと思ったけど…たいして怖くないね、ジェットコースター」
『そうですか?』
「でもお陰で、パトリツィアをゆっくり鑑賞できた」
パトリツィアはそっと目を伏せた。普段とは違う余所行きの服装の、可愛いパトリツィア。ヨハンはじっと見て、目に焼き付ける。
「ここはちょっと、歩き辛いかな」
好き放題パトリツィアといちゃつくヨハンの周囲には、当然と言うべきか花びらが舞いっぱなしだ。
ヨハンはパトリツィアをお姫様抱っこして、道を進む。当然のごとく、磁石で引き寄せたように花が舞い上がる。
(問題があるとすれば……僕、白は嫌いなんだよなぁ。汚いから。……まあ、いっか。今はパトリツィアの可愛さを堪能しよう。娘には悪いけど、たまにはパトリツィアを独り占めするんだ)
目と目が合って、自然とキスをする。
ふわりと吹き上がる春の嵐。
「……掃除、僕も手伝おうか?」
『いえ、いいんです。あなたはどうか、遊園地を楽しんでください』
「……そっか」
パトリツィアは、ヨハンが望めば、正しい事も間違った事も文句一つ言わず従う。
(僕はパトリツィアといられれば幸せだけど、パトリツィアはどうなんだろう)
ふと、花がざわついた。
振り切るように次のアトラクションへ。
ぱちり、とヨハンは目を開ける。
周りは花だらけだ。
パトリツィアは。――すぐそばにいる。手慣れた風に、箒が規則正しく擦れ合う音。ヨハンが目を覚ましたのを知ったのか、その音は少しだけ止まった。
(どうしたんだっけ?)
記憶をたどる。そうだ。なんの施設か知らずに入ったところで気絶したのだ。見てみれば、お化け屋敷、と看板にある。ヨハンが目を覚ますと、パトリツィアが自分の周りに押し寄せる大量の花弁を片付けていた。
「……パトリツィアも、楽しいんだね。よかった」
幼い時からずっと側で見てきた少年が、やっと自分の時間を楽しめるようになったのだから
パトリツィアにとっても、嬉しくないはずはないのである。
片付けても片付けても、掃除は終わりそうにない。今はこの時間が、ゆっくりと過ぎてくれればいい。
●ジェットコースターに寄せて
観覧車の上を掃除し終えた紫は、木霊と一緒に園内を歩く。
(ちょっとデートみたいでドキドキするのです)
そう考えた途端、ふわりと花がひっつき、慌てて頭を振る。どうやらこの花は、エージェントたちの機嫌が良いときのライヴスに反応するようなのである。
「あ、征四郎あれに乗ってみたいのです!」
「んー?」
紫は、大人向けのジェットコースターを指差す。
(だって、普段は身長が足りなくて乗れなかったのですよ)
なんであろうと、木霊がいいねと言ってくれるところは想像できた。
(絶叫系苦手お兄さん大ピンチだが、可愛い友人の頼みは断れない!)
きりりと表情を作ってみたものの、やはり恐いものは恐い。ガタンゴトンと音を立て、ジェットコースターは速度を増す。
ふわりと舞う花びらをかき分けるように。レールの上の花を回収しつつ、できないところは払い落とす。
ゆっくりと上がり、そして、急降下。
(ひいい)
詳しいことは、良く覚えていない。頭が真っ白だ。
速度がゆるゆるとゆっくり下げられ、ようやくスタート地点へ戻った。
(乗り切った、乗り切ったよお兄さん!)
隣で紫が楽しんでいる様子は分かる。たまにはこんなこともいいか、と思い始めた瞬間。
「次は速度2倍で!」
「えっ」
目を輝かせて注文しているであろう、紫からの宣告。マシンを動かす従業員は、微笑ましそうにレバーを上げる。
「ねぇ今サービスで速度上げたとか言ってなkああーーーっやっぱ怖いーーー!!」
きゃあ、という歓声。ぼふり、と花だまりにジェットコースターが突っ込む。
「は、リュカ、大丈夫ですか……!?」
「平気へいきー」
そうは言ったものの、木霊はぐったりとしてずいぶん疲れた様子だ。紫はとりあえずベンチに座らせ、きょろきょろと辺りを見回す。
「今何か飲み物でも……」
立ち上がるそばから、花がくっついてくる。慌てて振り払うものの、木霊には見えていないはずだ。だから、慌てることはなかった。様子が気になって、振り返る。
ベンチに腰掛けた木霊が、柔らかく微笑んだ気がした。思わず息をのんで、瞬間、花がふわりと舞い上がる。慌てて振り払い、用を済ませようとその場を去る。
日だまりの中。木霊にはほんの少し。ぼやける視界の中でも、紫に薄らと混じる白い花びらが見えた。
●夕焼けのさなか
『はい、差し入れ』
ガルーが園内で買ったクレープを渡してやるとオリヴィエはこくりと頷き、受け取って食べ始める。
オリヴィエは地道に園内の道路等を竹箒で掃きつつ、アトラクションにはあまり興味を示さない。
『遊びながらって言っただろ……。なんでそんな真面目に花探ししてるの』
『一人で乗ったらどうだ、似合うと思うぞ。あれなんか』
オリヴィエが真顔でメリーゴーランドを指すものだから、思わず咳き込みそうになった。
『……って、なんだ。今なんか隠さなかったか?』
『別に』
一瞬だけ、オリヴィエが素早く何かを払った様子を見せた気がした。気のせいか。きちんと掃除している。
(構ってくれなきゃ寂しいんですけど)
建物の影にさしかかったオリヴィエは、ふわりひらりと寄ってくるたくさんの花びらを手早くぱっぱとゴミ箱へ入れる。払いのけてもくっついてくるのでやっかいだ。なんとなく、この花は感情に合わせて寄ってくるもののような気がする。
夕焼けが見え始めた頃。ガルーとオリヴィエの二人は、園内の確認も兼ねて観覧車へ乗り込んだ。閑散とした遊園地。木霊と紫が喫茶店でのんびりとしているようだ。
『……まぁ、大体、綺麗になってるな』
オリヴィエは、高いところから見る夕焼けにほんの少し目を輝かせる。金色の瞳の中で、夕焼けが燃える。
ずいぶんと、花は少なくなった。いくら花が寄ってくるとは言っても、観覧車の中であればごまかせる。
だから、良かった。
『お前さん、頭に花ついてるぞ』
『!』
ガルーは笑って花びらを取ってやりつつ、花びらを強く払う。ごくごく緩やかに、花びらは落下する。ほんの少しだけ名残惜しそうに。
●ティータイム
トゲがないかどうか、花のがくに手を添え、ココロの棺に注ぎ入れる。しばらくしている内に、花の扱いが分かってきた。
「ふぅん……人の感情に反応して近くの花が引き寄せられるのね……それなら簡単ね♪」
羽跡久院は鎖を引き、セリカを抱き寄せて見せつけるように唇を奪う。情熱的な仕草に、花がざわつく。
セリカは主人のされるがまま、うっとりとした表情を向ける。
「…まあっ。本当にお花が反応していますわ♪ ……ふふ、羨ましいのでしょうか」
「最高に昂ると思ってるわぁ♪」
そして、もう一度。奪うようなキス。花など、口実に過ぎない――。
「紅茶はご用意できるのですが。オムライス、ですか。あいにく今日は従業員が出払っておりまして……」
臨時営業であるからかメニューは少ない。チラリと様子をうかがってから、セリカは優雅にイスから立ち上がる。
「問題ありませんわ。厨房をお借りできますか?」
あっという間に食事の準備は済んでいた。
「あーん♪」
ココロは、セリカのためにオムライスを一口分すくってやる。セリカはココロのなすがまま、うっとりとして受け入れる。
「ふふっ、美味しい?」
ココロは銀のスプーンを、そのまま口に運ぶ。慣れた所作。
そろそろ終わりだろうか。観覧車に乗った二人は、安全確認という名目で、ゆったりと遊園地を見下ろす。
「ふふっ、とっても楽しかったわぁ……また一緒に来ましょうね♪」
「ふふっ、戦闘のない依頼というのも……悪くありませんわ。ココロとご一緒でしたら、どのような依頼でも楽しくなりますが♪」
●いつかの再会に寄せて
『沢山集まったのう……』
花の入った袋を見下ろし、アヴニールはぱっとひらめきを得た表情になった。
『そうじゃ!』
アヴニールは花を両手いっぱいに持ち上へと投げ、アクチュエルに降らす。
『花の雪なのじゃ♪』
「ふふ、綺麗じゃのう」
スノードームをひっくり返したように、ゆっくりとゆっくりと舞い落ちる白い花。
「『これを家族にも見せたいのう』」
揃い出た言葉に笑みが漏れる。
『次は”めりーごーらんど”とやらじゃな!』
ぴょん、とベンチから降り、アヴニールはメリーゴーランドへと向かう。本物の馬とは違う、メルヘンチックな様子に、アヴニールは驚き、そして笑う。手すりに掴まり、順々と背に飛び乗る。
(……そう言えば兄さまと一緒だった時も楽しく今日の様に笑いあったモノじゃ。兄さまは今頃如何しているのじゃろうか)
アクチュエルの兄は、戦火の中行方不明となった。アヴニールは、そっと花を一つアクチュエルの髪に挿す。
アヴニールには、アクチュエルの考えが分かる。
『……のう、アクチュエル。我は我じゃ。汝の兄になれはしない』
ふわり、と、花弁が揺れる。
『じゃが、再会出来るまで我は汝の兄の分まで汝を大切にするのじゃ。我は汝の為にこの世界に来たのやも知れんしの』
『アヴニール』
微笑するアヴニールの腕に、アクチュエルはもたれかかる。
(アヴニールは何時も優しく強い。それだけが全てではないが、だから大好きじゃ)
「今度来る時は兄さまと汝の家族とも一緒に来ようぞ」
再会を信じて、メリーゴーランドは回る。そうしよう。お互いに頷き合って、また笑う。しばしの指定席。いつか、再開を果たして、ここに来たときの――。
●雪花乱れ降り積もり
「キレイ……」
じっと白い花を見つめる無音の瞳に、花びらが映り込むように光る。
『好きなのか?』
「……うん、好き」
無音は掌に花びらを集め、そっと優しく袋に入れる。
(このまま捨てるのはもったいないし……かわいそうな気もするから……そういえば…花束にするのも良いんだっけ……? いっぱい作れそうだけど……作って……来てくれたお客さんに配る……?)
(感情に引き寄せられるってことなら、思いっきり楽しむといっぱい集まったりするのかな? 試してみよー!)
ということを考え、辺りをキョロキョロしていたつくしは、無音に元気よく声をかけた。
「冬くん、アトラクション乗ってみないっ?」
「アトラクション……うん。乗ってみようか……」
「次、次はあれ! あれに乗りたいなー!」
【わぁ……すごかったり……とか、するのかな?】
ゴーカートを指さす御代。無音は全て無表情で乗りこなすが、楽しいとは思っているようだ。
「つくしちゃんとカスカちゃんは……花……好き?」
「お花? うん、好きだよー! カスカは?」
【お花……んと……好き、だったりする、かも……です】
「そっか……やっぱり……女の子は花が好きなんだ……」
『聞くだけかよ……』
黙々と作業を再開する無音に、イヴィアが突っ込む。
(せめて花を一輪渡すとか……まぁ冬がするはずないが)
(営業の妨害になってしまった花だけど、でもこうして集めれば誰かを楽しませることが出来るから)
一つ一つ丁寧に花を拾い集めていたつくしは、何か思いついたようだ。
「あ!」
ちょっと待っててね、と言い残して、つくしはごそごそと何か作業をし始めた。素直に待ってみれば、集めた花で作った白い花束だ。
「はいっ!」
「これ……」
「冬くん、お花似合うよね……! 白くて綺麗な感じ!」
「ありがとう……?」
不思議そうにつくしを見る無音。もらう側か、とイヴィアはチラリと思ったが、何も言わないでおいた。確かに、白い花束は無音によく似合っていた。
何かするべきだろうか。無音は少し考えて、ひとつ思い至った。
(すこしだけなら良いよね……)
花を手のひらいっぱいに集め階段を上る。階段を上った無音は、つくしとカスカ、イヴィアの頭の上にふわりと花を撒く。
「……雪みたい」
「わっ…うんうん、雪みたい、だね!」
くるくると回りながら、4人の間で惹かれ合い、渦のようにまとまる白い花。降り注ぐ花の中、イヴィアは、一瞬笑ったかもしれない表情を見せたのかもしれない。
『あぁ……たしかにそうだな♪』
『雪みたいって事は…こんだけ集まってればフワフワしてるのか……?』
「見た目は柔らかそうだけど……」
『ほれっ! 行って来い!』
イヴィアはいたずらっぽい表情をうかべ、冬を担ぐ。施設屋根から下ろした花で一杯の中にポーイと放り投げる。
「っ……!」
「わっ」
【……ぁ!】
ぼす、と雪が舞った。しばらく無音の姿は花に消える。大丈夫かと顔を見交わした頃、ぼすりと顔を出した。
「ふわふわしてるけど…今度やる時は一声かけて…」
少し楽しそうに周りの花を集める。柔い花びらが、吸い付くような感触。これを覚えておきたかった。
「よーし、次はジェットコースターに乗りたいな!」
無音がこくりと頷く。
つくしがあちこち楽しんでいる様子を見て、カスカはうずうずとした様子を見せる。
『カスカ、片付けが終わったら皆でジェットコースターにでも乗るか?』
ニヤニヤと笑いながらイヴィアが水を向けると、カスカは縮こまる。
【ぅ……ジェットコースター、……耳が、きーんってする、から……苦手だったりしたり、です……】
『なるほどなぁ……』
予想通りだ。悩むふりをして、誘う。
『じゃあもう少しゆっくりした乗り物ならいいか』
【ゆっくりしたの……? ぁ、……ぅ……ん、ゆっくりなら……好き……です】
つくしはちらりとカスカをみた。別行動でも大丈夫そうだ。いや、むしろなんとなく、別行動の方がいいのかと思ったりもした。
(なんとなく、だけど。たぶん。イヴィアさんと一緒ならカスカは大丈夫なんじゃないかなーって!)
コーヒーカップでほわほわと幸せそうに乗り物に揺られるカスカを、イヴィアはただ眺めている。
【これ、すごく……ぁの、好きかも、しれないなー、って……】
イヴィアが笑うと、カスカの周りに花が惹かれてやっていく。
【ぅ……? 楽しいから、集まってきたり…だったり…するのかな…?】
それでまた、イヴィアはこらえきれずに笑うものだから。花が次から次へ、のんびりとやってくるのである。少しだけハンドルを回すと、遠心力に負けて、花はゆるやかに飛び散った。
【わぁ……】
素直に感嘆するカスカの髪には、花びらがついている。
(なんだろうな……良い子だからか…甘やかしたくなる。こういう子達が笑っていられる世界であるべきだよな)
イヴィアはそんなことを思うのだった。
●
3月14日、突如として降り積もった大量の白い花は、一カ所に集められ、イグニスの着火によって焼き払われた。花は幻想的にきらめき、生き生きとして雪解けのように消えた。
エージェントたちのはからいにより、状態のきれいなものが数本残され、入り口を飾っている。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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