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いっしょにびこうしてください
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/03/06 23:04:53 -
びこう作戦
最終発言2017/03/07 23:16:10
オープニング
●抜き足差し足忍び足
竜見玉兎(az0044)はこっそり尾行していた。
いや、尾行と言ってしまうと本職の方があんぐりしてしまいそうなお粗末具合だが――とにかく尾行していた。
尾行されているのはユウ(az0044hero001)。何を隠そう玉兎の契約英雄である。
何故彼女が自身の英雄を尾行することになったのか……話は数日前に遡る。
●怪しい……
「出かけてくるから遅くなる」
そう玉兎に告げて玄関から出ていくユウは、出かけるというには不自然な軽装だった。
首を傾げて棚を見るとユウが普段持ち歩いている財布や携帯が置きっぱなしだ。
玉兎はさらに首を傾げて、数時間してからようやく戻ってきたユウにどこに行っていたのかと問いかけるが。
「……なんでもない」
あからさまに目を逸らし、逃げるように夕食の支度を始めるユウ。
怪しい。
とてつもなく怪しい。
世間を知らず人を知らず、まだまだ分からないことだらけの玉兎だがぴこんと勘が働いた。
彼は何かを隠している……!
●少女のお願い
というのが数日前からしばらく続いている出来事である。
ユウは一人でどこかに出かけて行き、しばらくすると戻ってくる。
ずっとそうなのだ……とばったり出くわした貴方達に玉兎は説明した。
そして彼女はぺこりと頭を下げる。
「きょうりょく、してほしい……の」
●青年の本音
ユウは静かに溜息をついた。
ついに尾行までするようになったか。
しかしここでやめるわけにはいかない。
ようやく見つけた目当ての物だ。
なんとしても玉兎に見つからないように入手しなければ。
解説
●目的
・ユウが何故こっそりいなくなるのか突き止める
●場所
・ありふれた繁華街
・そこら中に裏路地(平和)があるので、隠れたり撒いたりするにはもってこい
●補足
・玉兎は理屈が通っていればどんな理由でも納得する
・ユウは玉兎の尾行に気付いており、撒こうとしている
・ユウの目当ての物はファンシーなぬいぐるみショップにある
・ユウはぬいぐるみショップに入る所を玉兎に見られたくない
・ぬいぐるみは玉兎へのホワイトデーのプレゼントである
・PCがユウに接触すると協力をお願いされる
リプレイ
●お願い
「事情はわかったわ! 私達に任せておいて!」
そう言って強く頷いたのは大宮 朝霞(aa0476)。彼女の隣では英雄である春日部 伊奈(aa0476hero002)が、
『おっ! 朝霞! 探偵依頼か!? わくわくするなっ』
と目を輝かせている。何しろ尾行のお願いだ。探偵依頼と言っても過言ではないが……。
「伊奈ちゃん、これは遊びじゃないのよ。必ずユウさんの尻尾を捕まえてみせるわ」
きりっと目を光らせる朝霞。まずは形から、とイメージプロジェクターを使用して、鹿追帽にインバネスコート姿へお着替え。
「まずは形から入らないとね!」
『おーっ! 探偵っぽいな!』
玉兎からユウの写真を受け取り、気分は名探偵な二人の隣では、同じく依頼を受けた木陰 黎夜(aa0061)の姿。
「尾行、手伝う、よ……。がんばろ……」
玉兎に声を掛ける黎夜の隣で、アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)は思案顔だ。
(ユウさんが何を考えているのか、見極めないとな)
何か良くないことを行なっている……とは思いがたいが。
「お?黎夜ちゃんじゃん~一緒に尾行しちゃう系~?」
『アーテル殿も尾行でござるか? 最近流行っているでござるか?』
そう言いながらやってきたのは、虎噛 千颯(aa0123)と白虎丸(aa0123hero001)のペアだ。どうやらこの二人も尾行組らしい。
と、二人の声に気付いた朝霞と伊奈もやってきて、それぞれ挨拶を交わす。
「虎噛さん達も竜見さんからお願いされたんですね! 一緒にがんばりましょうね!」
「あぁ、一緒に頑張ろうぜー!! 朝霞ちゃんがいるなら色々任せられそうだしなー」
共に幾度も依頼をこなした能力者同士は言って頷き合い。
『今回は私も一緒だからなー。大船に乗ったつもりでいていいぜ!』
『春日部殿は流石でござるな。うむ、では大船に乗ったつもりで任せるでござるよ!』
天然混じりの英雄二人はなんだかほのぼの空間を作りだしている。
こうして集まった六人の精鋭達と玉兎は尾行を開始したのだった!
●尾行開始、数分後。
六人プラス一人に、出歩いていた十影夕(aa0890)と彼の英雄のシキ(aa0890hero001)、餅 望月(aa0843)と彼女の英雄である百薬(aa0843hero001)も加わり、総勢十人プラス一人になった尾行。少し、多い。
『こっそりでかけるのだから、うわきにちがいない』
うわきと言いつつ、シキの脳内に浮かぶのは可愛らしい猫の姿だ。もふもふの猫を撫でるユウの姿を思い浮かべる。ひとりじめとはゆるしがたい。
「むやみに詮索するのはよくないと思うけど、竜見は心配なんだよね」
一方、口元に手を当てて思案する夕。
何か理由があるとしても、小さな子供を不安にさせているのは事実だ。それは間違いなくユウが悪い。
しかし、財布も携帯も持たないで、どこに行くのか。
……まだ分からないことが多い。本人に聞けば一番早いだろうけれど……と、思考を続ける夕に朝霞から声が掛かる。
「十影さんも一緒に尾行ですね。私達の華麗な捜査?を魅せてあげますよ!」
頭から足元まできっちり探偵らしい格好をしている彼女の姿に、
「大宮さん、はりきってるね」
夕は少しだけ口の端を上げて、微笑む。大人なのに、かわいいなと思う。
『シキは、お嬢ちゃんと一緒か? お嬢ちゃんの事、頼んだぜ!』
こそこそと隠れつつもシキに言う伊奈。
「わたしにまかせたまえ。イナもがんばりたまえよ」
その様子を見て、シキは尊大に首肯する。
『ワタシも一生懸命びこうするよ』
「でもあれは警戒している動きだね」
人数が人数でもあるし、もしかしたらいくつか班に分けた方がいいのかもしれないと望月は思うが……おや?
『どうしたの?』
「人数が減ってる気がして」
ひいふうみいと数えてみると、
『竜見殿は任せるでござるよ! きっと尾行を成功させてみせるでござる!』
玉兎に力強く頷く白虎丸。黎夜に話しかけているシキに、朝霞と伊奈。そして望月と百薬。なんだか随分人が減ってしまったような。
「先行部隊かな」
うんうんと納得して、ひとまず、尾行再開。
●秘め事の露呈
一方、尾行されているユウ。なんだか大事になってきたなと溜息をつく彼の元にこっそりやってきたのは、アーテル、千颯、夕の三人だ。
『ああ、こんにちは、ユウさん。こんなところで奇遇ですね』
『……あー……』
顔見知りであるアーテルに声を掛けられ、夕に何をしているのか問われ、事情をおおよそ察している千颯もいることで、逃げ回っていた英雄は観念したようにここ最近の行動について説明を始めた。
バレンタインデーに玉兎からチョコをもらった。不格好だし味もそこそこ、けれど心の籠もったプレゼントにお返しがしたいと思った。だから、こそこそとプレゼント……玉兎に渡すぬいぐるみを探していた。
なんとも回りくどい、彼のホワイトデーである。
『なるほど……』
「そっか、ホワイトデー……」
バレンタインにもらった菓子折りやチョコレートを思い返す夕。シキにと渡された物もあるけれど、お返しのことをすっかり忘れていた。
菓子折りをくれたあの人にはお菓子で返すことにして……玉兎と同じぐらいの女の子になら、ぬいぐるみの方がいいだろうか。
悩む少年の隣。唯一の既婚者である千颯は大きくうんうん頷いている。
「ま、男としてはやりたいとこだよな~OK、俺ちゃんも協力するんだぜ」
ただし。
既婚者として、人生の先輩として、これはしっかり言っておかねばならない。
「サプライズしたい気持ちはわかるがそれが相手に怪しまれる様では全然ダメダメなんだぜ~」
サプライズは相手を驚かせ、そして喜ばせる為に行なうものだ。怪しまれてしまってはそれはもうサプライズではないのである。
●不思議キャラとの遭遇
一方尾行組。背丈のある白虎丸やあちらこちらに純粋な好奇心でもって興味を惹かれまくっているシキ。
『ここはむしろ余裕を見せるべきだね』
と言いつつも花や食べ物にふらふらする百薬。真剣に隠れている朝霞や伊奈の視線のおかげでユウを見失わずに済んではいるが、なかなかの大所帯。
「ところで、どう見ても尾行向きでないのが混ざってないかい」
さりげなく突っ込みを入れる望月だが、当の本人から『しーっでござるよ!』と返され、いっそ堂々と向かうべきではと思ったりもする。
『大丈夫、気配を消して背景と一体化すれば姿形は問題じゃないよ』
「そう?」
まぁ確かに、尾行する人間は地味な格好をしているものだし。
「一理はあるか、玉兎ちゃんもちょっとやってみよう、隠れ身の術だね」
と、望月が玉兎に声を掛けたところで……その不思議な物体は姿を現した。というか、認識された。
電信柱に姿を隠し、
「アア……。そーたノ後姿……御尻…オシリサマ……」
表情は見えないため分からないが、うっとりしているに違いない声を漏らすメジェド(aa4794hero002)。
視線の先を見れば、逃げ回るように歩いているメジェドの能力者である天宮城 颯太(aa4794)の姿。
そして彼と遭遇してしまったらしい、ユウの姿がある。
尾行組は知らないことだが、恐らく見えない位置にアーテルや千颯、夕もいるのだろう。
「しょーじょ、アレガ、オマエノ、オシリ様カ?」
見つかった。
そして、オシリ様、とは。
一同、心中で首を傾げるが、事情を説明するとどうやらメジェドの中では納得がいったらしい。
「……ワカッタ! めじぇ、協力スル! めじぇ、尾行ノぷろ! 任セロ、ダゾ!」
みょんみょんと不思議な、もといゆるゆるとした動きをするメジェド。
こうして新たな一名を加えて、尾行再開である。
●一方その少し前
(ごめんなさいメジェド様、一緒に繁華街を歩く勇気は、ボクにはありません!)
メジェドから逃げ隠れているのは、メジェドの能力者である颯太だ。
ただ買い物に出かけただけなのにストーキングされる羽目になり、無関係だと知らんぷりで逃げていたわけだが……。
「あれ?」
『お?』
路地裏で、ばったり、ユウ達と、遭遇。
事情を聞くにどうやら追っ手を撒こうとしているらしく、颯太がそぉっと様子を窺うと……増えてる。
尾行というには人数が多すぎてバレバレで、どちらかといえば追いかけっこの図になっている気もするがそれはそれ。
「こっち、ここを通れば人目につきませんよ」
颯太の手引きで一同は再び移動しながらも作戦会議。
「……で、本当のことはナイショにしたまま竜見に事情説明しなきゃいけないわけだけど」
お返しの事は後で考える事にしたらしい夕が「『秘密の特訓』はどうかな」と提案する。
秘密だから、何をしていたのか、相手が誰なのかも、秘密。
『十影くんの提案に賛成です』
それならば深く追求されないだろうし、フォローしておけば納得してくれるだろう。
「じゃ、現状をどうするかってとこだな~」
まずはあの大人数を撒かなければ、プレゼントを入手するのも難しい。
「なんなら、ボクが代わりに買って来ましょうか?」
事情を聞いた颯太がそう申し出る。
「まぁ元々、その店に用があったんですけどね。手芸が趣味なもので、生地と小物を買いに……」
ただの買い物が何故か尾行され追いかけっこになる辺り、この能力者と英雄の関係性がうっすら見え隠れするが……ユウは颯太の提案をやんわりとお断り。
遠回りする英雄ではあるが、プレゼントは自分の手で購入したい、という意志はあるようだ。
「撒く方は俺ちゃんにいい考えがあるんだぜ」
と、どことなくきりっとする千颯が取り出したのは手の平サイズの麻袋だ。中には小さな黒猫を召喚するための霊石と穀物が入っている。普段ならば対象への攻撃に使役される黒猫だが、今回はまた別口。
『なら、俺は黎夜に連絡を取っておきますね』
慣れた手つきでスマートフォンを操作するアーテルが送ったメールは二通。
一通目は玉兎に見られてもいいように、秘密の特訓についてのメール。ユウの方から話があるだろうからそれまで待つべしとフォロー付きで。
二通目は黎夜にのみ見れるように。ユウが何をしたいかと、メールに疑問を抱かれた場合も考慮してこちらにもフォロー付き。
ちらっと夕が尾行組を確認すると、メールに気付いたらしい黎夜がスマートフォンを操作しているのが見える。
『虎噛さん、お願いします』
アーテルの合図とほぼ同時。召喚された黒猫がアスファルトの上に降り立ち、にゃあんと鳴いて千颯の足に擦りついてから玉兎達の元へと駆けていく。
それに反応したのは玉兎……ではなく。
「あ」
『みたまえ、あちらにネコがいるよ。いこう!』
夕の視線の先、迷子にならないか不安だった彼の英雄――シキが、真っ先に黒猫を発見して走っていく。
普段入らない路地裏にも興味津々なのか、その足取りはいつもより軽い。
(本気で迷子にならないか心配だけど……)
シキを追うメンバーの中には友人である黎夜も含まれている。恐らく、彼女に任せれば大丈夫だろう。きっと。
白虎丸も子供達を追いかけて視線が外れたし、猫!と伊奈が追いかけているのを必死に止める朝霞もこちらを見ていない。メジェドは恐らく颯太のことしか見ていないし。
「今のうちです!」
颯太の声掛けで千颯はイメージプロジェクターを使用。ユウの服装を変えてより見つかりにくいよう細工を施してから尾行組に合流すべく移動。
今のまま撒けていれば、プレゼントを購入するまでの時間は稼げるだろうが万一に備えてだ。いざとなればユウの行き先を誤魔化せるようにしなければ。
「じゃ、あとでな~!」
『えぇ、また後で』
「ん」
「行きましょう!」
アーテルと颯太、夕は各々の目的のこともあり、ユウと共にぬいぐるみショップへ向かう。
サプライズ完了まで、あとわずか。
●伝えられた言葉
「わたしのユウが、まいごになってしまった!」
猫を追いかけて路地裏に迷い込んだ先、先頭を歩き続けていたからこそ気づけなかった相方の不在に、シキが気づく。
『ついでに目標も見失ったね』
「このあたしの目を欺くとは」
『安心したまえ、こんな時のために先行部隊がいるのよ』
そう嘯く百薬の言葉はともかくとして、朝霞と伊奈がここにいない所を見るあたりあの名探偵二人はきっと尾行を続けているはず。大丈夫……と思いたい。
「あ……玉兎」
猫がいなくなってしょんぼりしている玉兎の肩を黎夜が軽く叩き、アーテルから送られてきたメールの内容を伝える。
「秘密の特訓、だって……。あと、もう少ししたら、ユウから教えてくれる、みたい……。それくらい……」
「ひみつの、とっくん……?」
「本屋さんとか図書館に行って、勉強したり……? 危なくない、らしい、けど……」
秘密の特訓ならば黙って出かけることもあるかもしれない、と納得しかける玉兎へさらに後押しするように「そうなんだぜ!」と曲がり角からひょっこり千颯が姿を現した。
『千颯! 何処に行っていたでござるか! お前もちゃんと尾行をするでござるよ!』
いつの間にかいなくなっていた能力者を叱る口調の白虎丸だが、言われている千颯としては疑問符が尽きない。
「白虎ちゃんは何ていうかあれで尾行をちゃんと出来てるつもりだったんだ……」
ものすごく、目立ってたけど。
背丈とか、背丈とか、被り物とか、背丈とか。
『しっかり尾行していたでござる』
しかし天然純度100%英雄にとってはアレが大真面目な尾行だったらしい。どことなくふふんと胸を張っている。
「本当に先行部隊がいたのね……」
驚く望月の隣、こちらもふふんと胸を張る百薬である。
●折角の商店街だから
「なるほど、男の秘密だね」
秘密の特訓をしていた、とアーテルと口裏合わせ済みの千颯から説明を受け、それならばと納得する尾行組。
『そっとしてやるのが能力者の甲斐性だよ』
深く頷く百薬の言葉に即座に望月が「百薬を放置するとだいたいどこかでおやつ食べてるだけだけどね」と突っ込みを入れる。
そう、おやつ。
ぐぎゅる……と誰のものかは分からないが、お腹が空いたという抗議の音が響く。
時間は15時になろうかというところだ。
秘密の特訓を終えたらちゃんと戻ってくるという話だし、とりあえずは。
『あまいものでもたべようじゃないか。わたしはパフェがたべたい』
そういえば尾行している最中に喫茶店があったような。
「そうだね。ユウくんもちゃんと戻ってくるみたいだし、本当におやつでも食べてようか」
そういえば尾行している最中に石焼き芋を売っているスーパーがあったような。
『かいぐい!』
みょんみょん動くメジェドはどこから食べるのかという疑問が残るが、置いておいて。
『買い食いでござる!』
「買い食いだ!」
買い食いです!
まずはシキの要望でパフェを食べに喫茶店へ。大勢でしか頼めない巨大パフェに舌鼓を打ってから次は石焼き芋へ。
「玉兎ちゃんもどうぞ」
スーパーの入口で売られている、いい匂いがする石焼き芋。
望月はそれを三つ買って、一つは百薬へ、もう一つは玉兎へと手渡す。
「ありがとう……なの」
嬉しそうに石焼き芋を受け取り、微笑む玉兎だが……静かに視線を落とした。
秘密の特訓。それは、能力者である自分が居ては、出来ない事だったのか、と。仲間外れにされたような、信頼されていないような、そんな感情が玉兎の表情を僅かに曇らせていた。
「玉兎も、内緒の特訓、する……?」
声に、少女は顔を上げる。
玉兎に声を掛けたのは、黎夜。
「ないしょの……?」
「ん、戦うだけじゃなくて……お料理とか……。ユウが喜びそうなこと……」
あちらが秘密にするのなら、こちらも秘密にすればいい。
悪い秘密ではなくて、良い秘密。
だから、『ないしょのとっくん』。
「……うん、したい……の」
ほわっと微笑む玉兎に黎夜も微笑みを返し、石焼き芋を一口頬張った。
●尾行の終わり
一方、名探偵の仕事もそろそろ終わりに差し掛かっていた。
一度は見失いかけた彼らの姿も、ファンシーなぬいぐるみショップの前で発見。
『なー朝霞』
猫にも惑わされず追い続けた執念の結果である。
石焼き芋の美味しい匂いもしてくるが、名探偵に余所見の文字は。
『朝霞ー』
ぐう、とお腹が鳴った。ぐいぐいと服が引っ張られ、どうしたのと言いかけた口に石焼き芋が放り込まれる。染み渡る甘さ。美味しい。
尾行中にあんぱんを食べる探偵の気持ちが分かるというものだ。甘味は幸せ。……甘味を食べていたのが探偵だったかは怪しいが。
「あっ」
幸せを噛みしめていると、ぬいぐるみショップの中からユウやアーテル達が出てきた。
「ユウさ……」
と朝霞が声を掛けるその後ろから、
「うさぎさん」
聞こえたのは玉兎の声。
あっ、とユウの表情が固まった。その手にはしっかりと、逃げようのない袋が握られている。ファンシーなロゴ入りで。
朝霞が振り返れば袋をじっと見る、見てしまっている玉兎。
これは、まずい。
「……ユウさん! ありがとうございます!」
とっさに機転をきかせ、ユウに近づく朝霞。そのままユウが持っていた袋を掴むと、目配せした上で幻想蝶の中へと突っ込む。
あとで、わたします。
口パクでそう伝えると、意図が伝わったらしくユウも頷く。
ずっと尾行していたから、入っていくのを見ていたから、玉兎がいるのを見てユウが『しまった』という顔をしたから。
全てを瞬時に繋ぎ合わせた上での朝霞の行動は、今現在の彼女の服装同様、まさしく『名探偵』であった。
●そして
尾行が無事に終わり、依頼というお願いからの帰り道。
「それで、百薬はあたしに何かプレゼントとかないの?」
そういえばホワイトデーだったのだから。何か無いのかと問いかける能力者に、百薬は当然のように首を傾げて。
『元気な笑顔が一番のプレゼントだよ?』
「はいはい」
そうだよね、と望月も笑う。
言ったからにはずっとそうしていてもらわないといけない。
もし黙っていなくなっても、ちゃんと帰って来てもらわないと。
天使のようなこの英雄がいないと、困ってしまうのだから。
『そういえば、玉兎ちゃんの尾行に気付いていた事は黙っておきますか?』
同じくこっそり贈り物を購入したアーテルがこっそりとユウに言う。
『あー、いや、後で叱っておく』
ユウ曰く、尾行なんてもってのほかとのこと。
その真意は危ないことはさせられないという過保護であるのだが、それはそれで。
颯太も無事に手芸品を購入出来たようだし。
夕もプレゼントの見当はつけられたようだから、きっとお返しも出来るだろう。
なんだか慌ただしい一日ではあったが、『依頼』としての尾行は無事大成功で幕を閉じたのであった。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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