本部

恋樹の下で、たすけてDarling!

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/03/03 19:56

掲示板

オープニング


●イケ面大量発生中
「君と運命を感じたんだ。俺は君を離さない」
 花を背負ったとびっきりのイケメンに囁かれて、顔色を点滅させている女子。
「ダーリン、もう絶対離さないからねー!」
 濡れた瞳で見上げて来る美少女。

 ────ここは、恋愛の聖地という触れ込みで営業している商業施設『ロータスの樹』である。
 恋人が多く訪れる場所であるため、平時であってもこの島では雰囲気に流されてこういった言葉を口走るカップルも居ないわけではないが、今はバレンタインやホワイトデーという恋愛要素たっぷりのイベントで世間が盛り上がる時期でもある。もちろん、より恋人たちのテンションはあがっている────はずなのだが。
「ちょ、ちょっとやめてください!」
 いわゆる壁ドンしているイケメンに文句を言う男性…………実はイケメンに口説かれている女性の恋人である。
「ご、ごめんなさい! リオン……、わ、私……いえっ、なんでもないわ!」
 壁ドンされた青年の恋人は頬を赤く染め、泣きそうな顔で口元を押さえながらゆるふわの髪を何度も横に振った。
 その様子に青年は絶望の表情になり、イケメンは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「じゃあ、こんな冴えない奴放っておいて俺と遊びに行こうか!」
「い、いやです! 助けて!」
 その時だった。そんな彼らの前に修道服を着た『ロータスの樹』スタッフが飛び込んで来た。
「ご注意ください! 現在、ここに妙な薬を使うヴィランが紛れ込んでおります!」
 力なく彼女とイケメンを見送ろうとした男性をシスターは揺さぶる。
「そんなこと言ったって……」
「へえ、何を根拠にそんなことを言うんだい?」
「そ、それはっ!」



●イケ面ヴィラン(悪人)を撃退せよ
 しゃらん、しゃららん……。
 優しく美しい音が心を揺さぶる。
 まだ弱く柔らかい冬の陽の光を通して地面に甘い緋色の光の影を作る。
 そんな美しい花序をつける大樹があった。
 AGWの研究の過程で生まれた植物。ガジュマルに似たその樹は風鈴を思わせる緋色がかった透明な花序をつけ、風が吹くと風鈴のように美しい音を鳴らした。
 大樹に育ったそれに寄り添うように作られた落ち着いた街、修道服を着たスタッフたちが来場者を優しく見守る海上の人口島。
 それが観光施設、”恋愛の聖地”『ロートスの樹』である。



「営・業・妨・害です!!!」

 『ロータスの樹』の修道服を着たスタッフ”シスター”は顔を真っ赤にしてそう叫んだ。勿論、顔が赤いのは怒りのためである。
「どこかのライバル会社がこの書き入れ時を狙ってヴィランズを差し向けて来たんです!」
 ちなみに、そのライバル社がどこかは頑として答えなかった。今後、企業間で色々裏の交渉があると言う。
「ヴィランズの名前と手口はもうわかっているんです」
 そう言って、シスターが机に広げた資料にはありとあらゆるイケ面が並んでいた。女性も居る。
「彼らはヴィランズ『アモール』。自分たちの優れた容姿を利用した人心掌握詐欺などを得意にするヴィランです。
 彼らは『月夜のプルス』と呼ばれる不整脈を起こす毒薬を香水としてつけており、その効果で相手にときめきと誤解させ、今回は更にその恋人に危機感を感じていると誤解させ……っ、許しがたいです!」
 バン!
 シスター、荒ぶる。
「この、この『ロータスの樹』を恋愛の聖地として今日まで営業していくのにどれだけの苦労があったと……っ。なのにこんなよこしまな方法でこの地を荒らすなんて……っ」
 そう言うシスターの目は少し潤んでいた。
「奴らのせいで、円満だったカップルは疑心暗鬼に陥っています。今、スタッフが島中を駆け回って事情説明をしていますが、恋人の豹変を見た人々は半信半疑です。それに、相手は一目見ただけでわかる美形揃いですからね」
 そこで、と彼女は目の前に居るH.O.P.E.のエージェントたちに話を切り出した。
「アモールたちは『星夜の洞調律』というふざけた名前の毒薬を無効にする薬を持っています。これは匂いを嗅ぐだけで『月夜のプルス』を無効化し、冷静さを与えます。これを奪って欲しいのです。
 ですが、ここで派手に戦闘行為を行い敵から取り上げてもお客様たちの印象は最悪。
 どうか、アモールたちをやり込めてください。
 噂では彼らは外見と薬にばかり頼っているせいで相当根性無しです。
 いつも通……こほん、薬に負けない愛情を演じてくだされば、お客様もきっとヴィランズの薄っぺらさに気付くはずですし、返り討ちにしてさえ下されば、ここは離島。港も封鎖しておりますので、後で『星夜の洞調律』を提供して頂く術はいくらでもあります」
 そう言ったシスターの顔はちょっと怖かった。
 けれども。
「いつも通りちゃんと依頼料は払います。どうか、どうか恋人たちを守ってくださいませ!」
 そう言って深々と頭を下げた彼女はとても真剣だった。


 そんなわけで、毎度の如く慰労の為にとロータスの樹に無料ご招待されていたエージェントたちはヴィラン対策に駆り出されたのであった。
 ────慰労とは!!

解説

目的:アモールの企みを砕け
・言い寄って来るヴィランの幹部を(戦闘せずに)撃退
・『星夜の洞調律』を奪い、『ロータスの樹』スタッフに渡す(敵を懲らしめればドロップする)

ステージ:恋愛の聖地という触れ込みの商業施設『ロータスの樹』の教会(の見た目を取ったイベント会場)

●敵ヴィラン
イケ面ヴィラン『アモール』
男女ともに顔面偏差値が高いが、残念ながら性格に欠陥があり根性も無い。
演技派ヴィランとして主に結婚・恋愛詐欺などに日々励む。
イケ面Ver.は共鳴後の姿だが、戦闘力は低め。
しかし、一般客の手前、意味なく戦闘を挑むのは厳禁。
恥ずかし気もなく相棒に愛を囁いたり、
もしくは、言い寄られている本人がヴィランを怖がらせたり等々で撃退。

●登場アイテム
・月夜のプルス
アモールがつけている香水。
男女関係なく、その甘い香りを嗅ぐと脈拍が早まる効果がある軽い毒薬。
ときめきと勘違いしてしまうこともある。
・星夜の洞調律
さっぱりとした香りの『月夜のプルス』を無効化する薬。効果は匂いを嗅ぐだけで良い。
ただし、月夜のプルスも星夜の洞調律も誰が作ったか・どんな後遺症があるかわからない違法な薬物であるため、使用も所持も禁じられている。

(相)相手:イケメン・美少年、美女・美少女、イケオジ・オバ(性別明記)
(属)属性:俺様・ツンデレ・デレデレ・ヤンデレ・健気・大人・フレンドリー・厨二病など
(対)対象:ヴィランが狙う相手、能力者・英雄のどちらか一人
ジャンルと属性、対象のご指定お願いします。
※属性は彼らが装っているだけで実際の性格は違います。
※ワイルドブラッドやアイアンパンク(ロボット要素多め)がどうしてもいい方はご指定下さい。
※NG行為の明記をお願い致します。

敵は時々壁ドンを繰り出してきますが命中300程度の判定に勝てば回避可能、
カバーリングの宣言も有効です。
その他戦闘行為でないスキルの使用はご自由にどうぞ!

リプレイ

●恋なる樹の下で
「女の子大好きでやたら声掛ける癖に、いざ言い寄られると鈍感なフリして逃げ出す、根っからのヘタレの颯太にピッタリな依頼ね」
「光縒さん、目が怖い」
 光縒(aa4794hero001)の眼差しに天宮城 颯太(aa4794)は恐れおののく。
「幸せなひと時を壊そうとするなんて、許せないよな」
 憤る黄昏ひりょ(aa0118)にフローラ メルクリィ(aa0118hero001)が力強く同意する。
「うん、そうだね。頑張ってなんとかしないとね……ふぁいと、ひりょ!」
「え……、俺?」
 焦るひりょにフローラは笑顔を浮かべる。
「良い人生経験になるかもだし、私は草葉の陰から見守ってるよ~」
「うわ、ひどっ。それに草葉の陰だとフローラやばいよっ!」
 そして、幸せなひと時を壊された被害者がここにも。
「……慰労?」
 首を傾げたユフォアリーヤ(aa0452hero001)。その姿は毛を逆立てた黒猫もとい、黒狼を思わせた。
 けれども、彼女が怒るのも無理のない話なのだ。ユフォアリーヤにとっては最近はデートを邪魔するトラブル続きなのである。
 ────これはなんとかしないとな。
 さっきまでの上機嫌とは打って変わって怒り心頭、激おこ状態の英雄の姿に麻生 遊夜(aa0452)は頭を抱えた。
「……最近こんなのばっかりだな」



●恋樹の広場
 ガラナ=スネイク(aa3292)はチョコラテを一口啜る。甘過ぎないがシナモンの香りが鼻についた。店員から苺がコテコテに盛られたスムージーを受け取るリヴァイアサン(aa3292hero001)が引きつった顔を相棒に向ける。
「……気の所為じゃないわよね? 去年も此処来たような気がするんだけど……似たような内容で」
「安心しろ、お前の記憶は間違ってねぇ」
「だと思ったわよバカぁ!」
 そう叫んだ英雄はいつものツインテールを解いて落ち着いた雰囲気の服へと着替えていた。普段の元気な姿が清楚で可愛らしい印象に変わっていた。
「何でこんな恰好しなきゃなんないのよ!」
「相手釣るなら見た目大人しい女の方が良いだろ、あとその武器も使わなきゃ損だろ」
「胸見ながら言うな!」
 その服は清楚ながら胸を強調した造りで、元々豊かな胸がさらに強調されていた。
「武器?」
「ち、ちがうから!」
 二人分のドリンクを持って首を傾げるフローラに、リヴァイアサンは力いっぱい否定する。
「ひりょの方はもう来てるみたいだな」
 ガラナの言葉に残して来たひりょの方を見るフローラ。
 そこでは長い髪をハーフアップにした清楚な見た目の美少女がひりょと談笑している。
 ────ひりょにもついに春が!
 一瞬喜ぶフローラだったが、リヴァイアサンたちの会話にはっとする。
「ひりょって、ガラナと違って詐欺とかに引っ掛からないか凄く心配よね」
「なんでそこで俺を引き合いに出すんだ」
「そっか、確かに出来過ぎよね……よし、見事私が撃退してみせよう!」
 えへんと張り切って走って戻るフローラの姿にリヴァイアサンが少し慌てる。
「フローラ、依頼のこと忘れてる?」
「……撃退すれば依頼達成だしな」


「ひりょ!」
 慌てて駆け戻るフローラを見た美少女が一瞬、意地の悪い笑みを浮かべたのを見て、フローラは確信した。
 これ、絶対詐欺とかだよ。
「こんにちは。私、ひりょくんに一目惚れしちゃって……彼、とても優しいんですね」
「ひりょ、やったね! いい人が出来たの?」
 香水の効果なのだろう、顔を赤らめて少しぼんやりとしたひりょと、予想外のフローラの言葉に狼狽える美少女。
「これで恋人が出来たらやってみたかった事とか出来るね」
「あ、うん。ありがとうフローラ。そうだな、色んな思い出作りたいな」
「えっと、あなたは……」
「うんうん、お弁当十人前とか。ひりょ食いしん坊だもんね」
「ちょっ、確かに食いしん坊だけど、それはフローラもだろ?!」
「十人前っ?」
「まぁね。後は……、ハードな事とか? この間ひりょの部屋にそんな雑誌置いてあったの見かけたよ?」
「えぇ? ちょ、どういう事!? そ、そんなの持ってないから……」
「おふたりはどういう関係なんですか? 兄弟とかじゃないんでしょう」
「わわ、違います、俺、そんな────フローラはえいゆ……」
「彼女さんも大変だね。痛いのとか痛くするのとか、大丈夫?」
「ひりょくん、この人、なんでそんなの知ってるの……?」
「そりゃ、(共鳴して)一緒になってるから」
「どういう……」
「? お互いの存在を認識し(幻想蝶に)触れ合うと一緒になれるのよ。その時はどんなに傷ついても」
「!? ひりょくんんん!!?」
「ちょ、冤罪やぁぁぁっ」


 蔦の絡まった古い壁に寄りかかるようにして立つリヴァイアサン。
 ロートスの花序が奏でる涼やかな音が耳朶を擽り心地よい。
「寝てるのかと思った」
 不意に顔を覗き込まれて、驚くリヴァイアサン。
 豊かな海のような碧の瞳が彼女を映していた。
「ボケっと寝てると変な奴に絡まれるぜ。声かけられたくて待ってたんなら余計なお世話だけどな」
「余計な……お世話よ……っ」
 甘い匂いが鼓動を加速させる。顔を赤らめた彼女は胸の前で手を組むと震える声で答えた。
 整った顔の青年は口の端を上げて意地の悪い笑みを浮かべた。
「顔が赤いな、俺のこと意識してんの?」
 十五センチくらい違うのだろうか。身体を屈めた青年は片手で壁を突いて彼女の身体を囲おうと────して、その肩を掴まれた。
 そのまま、壁ドンしようとした男の側の壁をしなやかな脚が足ドン、ガンッと蹴りつける。
「オイ、テメェ……オレのツレに何か用か、あぁ?」
 二十五センチくらい違うだろうか。鋭い三白眼が上から青年を威嚇する。
「柄悪いな。彼女が怯えてるだろうが」
 怯んだかに見えた青年はガラナの手を払うと、挑発的にリヴァイアサンを抱き寄せようとした。
 しかし、その手からするりと逃げたリヴァイアサンはガラナの背後に逃げ込む。
「誰が怯えてるって?」
「恫喝が得意そうなお前に」
 青年の言葉にガラナは背後に隠れたリヴァイアサンの腰を抱き寄せ、顎を持ち上げると見せつけるようにキスをした────ふりをした。唇から数ミリずらして口づける。
 唇が離れ、真っ赤になったリヴァイアサンとガラナの視線が一瞬合う。
 ────っ! 依頼! し、仕事っ!!
 赤面した顔を見られたくなくて、彼女は慌ててガラナの胸元に顔を押し付けた。
「……まだ文句でもあんのか?」
 リヴァイアサンを抱き寄せ、ニヤリと余裕の笑みを浮かべて見せたガラナに青年は傍らに唾を吐き捨てると去る。
「……危なかった……あまりにも偉そうだから、ムカついて手が出るのを我慢するのが大変だったんだから」
「……お前はもっと────いやいいわ。
 ……? おい、いつまで抱き着いてんだ……っ!?」
「だ・れ・が! あそこまでやれって言ったのよぉおおお!?」
 羞恥と怒りを込めた全力のハグ……ベアハッグ。
「おま……! お、折れるっての……!? 離せ、ってーの……!?」
「煩い! バカバカバカ―!」
「お邪魔かな……?」
「ち、ちが……フローラ?」
 ひりょの所へ戻ったはずのフローラが戻ってきていた。彼女は明るく言った。
「カオスになっちゃった、てへ」
「ひりょ……」
「…………」



●大量確保
「なるほど。合法的にカワイコチャンを口説けるわけだな!」
「違う。……はぁ、別の方向で張り切りすぎないでよー、ミントくん?」
「俺のイケメン話術で返り討ちにしてやるぜ!」
「イケメン話術……?」
 心弾ませる藍那 明斗(aa4534)に一抹の不安がよぎるクロセル(aa4534hero001)。
 しかし、仕事は仕事だ。
 張り切る明斗を残して離れるクロセル。
 一人残された明斗の足元に小さな箱が転がって来た。
「ん?」
 箱を拾いあげた明斗をふわっと甘い香りが包む。途端に呼吸が苦しくなった。
「ありがとう?」
 襟ぐりが広いが品のあるワンピースを着た美女が微笑みを浮かべている。
「あ、いえ……」
 美しいが四十代くらいだろうか。柔らかに波打つセミショートの間からうなじがのぞいた。
「いつもうっかりしてしまうの。でも、あなたみたいな素敵な方に拾って頂けて」
「あ、いえっ」
 鼻の下を伸ばす明斗の姿に見守っていたクロセルが苛立ちを感じ始めた。相方はまったく相手のペースでハイハイ頷いてその挙句、なぜか報告には無い変な壺まで買わされそうになっている。イケメン話術はどうした。
「とても賢いのね。その通りだと思う」
「わかってくれてうれしい……」
「だいじょうぶ、明斗君はいつも偉くて凄いわ」
「おかあ……」
「違うだろ!」
 ついに痺れを切らして飛び出したクロセルは、自分の尾でぺしんと明斗の尻を叩く。
 傍から見れば可憐な美少女(※違う)が恋人の不貞を見つけて鬼嫁(※違う)豹変。
「貴女もうちの子を甘やかすんじゃありません!」
 違う、お母さんである。
「す、済まないクロセ。ついついバブみを感じてオギャってしまったようだぜ……」
「三十近くもなって何言ってるの君は」
「まだ俺、二十さん……」
「ちょっと黙って。二人ともそこ座ろうか」
「スイマセン」
「貴女も!」
 そっとその場を離脱しようとした熟女にぴしゃり。その剣幕に美女も慌てて石畳に正座する。
「ミントくんは壺、ちゃんと返して! どんなに顔が良くて相手を口説けても、それだけのペラッペラじゃ一生誰かの本物になんてなれない、ひとりぼっちの売れ残りになるよ!」
「う、売れ残りなんて言わないで!」
 悲鳴を上げるヴィランにきっちりとクロセルが常識と良識を言い詰める。
 その後、半泣きの女ヴィランから『星夜の洞調律』を貰ったが、ハプニング(説教)のために精神的行動不能に陥った明斗に代わり今度はクロセルが囮を買って出ることになった。
 だが────というか、やはりというか。
「可愛いね! 僕と一緒に行こうよ」
「俺も一緒に行ってやってもいいぜ」
 大量に釣れる”男性”ヴィランたち。
「そう、僕の事をそんなに……照れるな……」
 目を細めたその反応を勘違いしたのか、ヴィランたちはクロセルを囲む。気付いた明斗が慌てて近づく。
「おいおい困るぜ、兄さん。その子に近付くならうちの事務所を通してもらわないと。チョット裏に来てもらってもイイデスカー?」
 しかし、明斗を手で遮ってクロセルはヴィランたちに可愛らしく微笑んだ。
「もう1回僕を女の子扱いしてみなよ。
 ────その綺麗な顔がお人形みたいに『ゴメンナサイ』しか言えなくなるまでお仕置きしてあげるからさ」
 ぴしゃり! 壁ドンならぬ、鞭のようにしなる尾がヴィランたちの退路を塞ぐように叩く。
「そ、その子は本当に怖いからやめたほうがいいぜ兄さん。ほら、こ、こっちだ」
 笑顔でブチ切れている相方に怯えるヴィランたちを明斗がやんわりと保護誘導し、そのままスタッフに引き渡した。
 ……彼らの活躍により、大量の『星夜の洞調律』が確保できたという。



●過去
「そこのブリテングレネード持ちのお嬢さん、俺とティータイムと洒落込まない?」
「お、お父様!?」
 声をかけられた月鏡 由利菜(aa0873)に衝撃が走る。
 黒髪の二十二、三歳の青年だったが、四十代の由利菜の父が若く見えるのもあってとてもよく似ていた。
 ────いえ、本物なら既にラシルとの誓約は解除されているはず……。
 慌てて幻想蝶を確認するが変化はない。
「ん? お父様?」
「いいえ、すみません、勘違いでした」
「その勘違い、よく聞かせて欲しいなぁ」
 由利菜の傍に無遠慮に近づく男、香水の香りが由利菜の鼻腔を擽るが、すでに別な意味で動悸が激しい由利菜には効果が無かった。
「ん……? なんだ、ねーちゃんもそのでかいメロンを届けに来てくれたのかい?」
 身を縮めた由利菜を庇うように滑り込む人影に軽い混乱に襲われていた由利菜ははっと息を吐く。
「我が主に邪な目的で近づくとは……貴様、覚悟はできているのか」
 顔を見るまでもない。それは彼女の英雄リーヴスラシル(aa0873hero001)である。
「げ、ヤバい、リンカーか!? 待て、くそ、誰か!」
「黙っていろ」
 スマートフォンを取り出した男の手首を捉えると、逆の手で男の上着のポケットから覗いていた液体の入った小瓶を取り上げるリーヴスラシル。そして、そのまま物陰で男に軽く当て身を喰らわせると、座り込んでいた由利菜を抱え上げて颯爽とその場を後にした。

「……薬はシスターに渡して来た」
 教会へ戻ると、リーヴスラシルはソファーで休んでいる由利菜に声をかけた。
「平気か、ユリナ」
 ソファーの上で休んでいた由利菜は顔を上げる。
「ええ、ラシルのお陰です」
 その言葉に嘘は無かった。彼女に抱えられた瞬間、魔法が解けたように由利菜を襲っていた妙な不安や胸のざわめきが氷解したのだった。
「あの男は────」
「他人の空似です。でも……父によく似ていました。若く見える人なんです」
「ずいぶん軽い性格に見えたが」
「意外とお調子者なんです。でも、熱い心を持った方です」
 由利菜の父、篠宮順平と母のリア・S・バートンは共に高レベルのライヴスリンカーだ。
「たまに……父の姿を真似る人も居ますから……」
「しかし、ヴィランがユリナの父君の姿を真似るなど言語道断だ」
「大丈夫です────姿、だけですから……」
 憤る英雄に、由利菜はそっともたれかかった。



●光縒さんの作戦
「そうね、あれにしましょう」
 光縒の隣でぎこちなく頷く颯太。
 四十代くらいだろうか? 洒落たスーツを着こなしたイケメンのダンディが顔面蒼白になった男性の目の前で、気の弱そうな女性を抱きすくめている。
「誘って来たのは彼女なんだぜ? 彼女だって俺……ん?」
 ジャケットが強めに引っ張られてダンディは煩わしそうにそちらを見た。
「おとーさん……その人が新しいお母さんなの?」
 問うのは男児用のセーラー服を着た颯太だ。半ズボンを履いた彼はどう見ても小学生────まさか実年齢がプラス五歳の青年だとはわからない。
「ひっ、人違いです……よ?」
 狼狽えるダンディ。
 上目遣いにダンディと女性を見上げる、幸の薄いオーラを出す少年(颯太)。
「えっ、お母さんとかはまだ……」
「まだってなんだよ!」
「ち、ちがっ」
 いきなり揉める一般客。遠くから光縒のダメ出しの視線をひしひしと感じながら颯太は頑張った。
「もう八人も新しいママが来たのに、朝起きると居なくなっちゃうんだ。パパは昼間はいつもお酒飲んで寝てるけど、夜はずっとカジノでお金を稼いだり……取られちゃう時も多いけど、お酒だってお仕事だって飲んで怖い敵ともひるまず戦って怪我したりしながら、たまにきれいなお姉さんを助けて夜の平和を守ってるのに、それなのに、朝になるとママがいなくなっちゃうんだ。ねえ、おねーさんはいなくならないママ?」
 無垢な子供(実年齢、十七歳男子)がほろ、ほろほろと涙を零す。
 この時の颯太の演技は権威ある映画賞にノミネートするレベルであった。『ここまでやったらもう、やりきるしかなかった』────このことを思い出した彼はのちに述懐したという。
 パァーンッ! 小気味よい音を立てておねーさんの平手打ちがダンディの横っ面を張り倒した。
「海に沈んで魚の餌になれよ糞が、サイッテー!!」
「うえぇっ!?」
「行くわよ、リオン! 坊や、このお父さんは偽者だから警察に行って保護してもらってね!」
「は……ハイ、待って!」
 …………。
「おとーさん……?」
 身に、覚えがあるのだろうか。ヒィッと変な声を出してダンディは逃げ出そうとした。しかし、いつの間にか近寄った光縒が素早く足を掛ける。
「さぁ、出すものを出しなさい」
 太陽の光を背にしてダンディを睨みつけるマグナムドライの眼差し。
 戦闘力の低いアモールのヴィランはその瞬間、力の差を感じたという。
 ────『星夜の洞調律』を奪取したついでにダンディの顔写真をしっかり撮った光縒はそれらをスタッフに渡した。
「それにしても、あんなにスラスラと、両親の悪行が出てくるわね」
「……まぁ、お父さんもお母さんも、ダメ人間だったからね。ダメ人間の話はよく聞こえてきたし」
「……苦労しているのね」
「あ、ちょっとだけ光縒さんが、優しい……」
 優しい空気が漂い出した、その時だった。
「こんなところでつまんないだろ。俺と行こうぜ」
 急に現れたのはアイドル顔のイケメンで、男らしく光縒を庇う様に彼女の前へ出る颯太。
「積極的じゃん?」
「あれ?」
「セーラー、割と嫌いじゃないからな。飲み物くらい奢ってやっても」
 ────ボク、女の子だと、思われてる……?
「あんた、二回くらい女の子になってるし、もう半分くらい女の子になったんじゃない?」
 光縒から放たれる冷酷な一言。
「わ、わーん! ボクは男だー!!」
 突然泣きながら、いつかのように内股で走り去る颯太を見送るイケメンと光縒。
「さて……。それで、あのヘタレより私に、女としての魅力が無いってことなのかしら……?」
 くるりと振り向いた光縒さんはどす黒い微笑みを浮かべ、禍々しいオーラを漂わせていたという。



●交わされた証、結ばれた絆
 遊夜とユフォアリーヤは片隅のベンチで軽食をふたりで分け合っていた。
「そろそろか。リーヤ、仕事だからな?」
「んぅ……」
 恨めしそうに見上げる彼女を残して遊夜は近くの屋台へと歩いて行く。
 その姿が消えると同時に、見知らぬ男がどさりとユフォアリーヤの隣に腰を下ろした。
「あ、ゴメンね? 気付かなかったよ」
 そう言ったのは狼のワイルドブラッドの青年だ。犬のようなくりくりとした目でユフォアリーヤを見る。
「君も狼のワイルドブラッドかな? 嬉しいな、うん、いい匂いがする」
 尻尾を振って、ついと距離を詰める男。
 ふんわりと甘い香りがユフォアリーヤの鼻腔をくすぐり、彼女の心臓がドキンと跳ねた。
「ん、どうしたの? 君も仲間に会ってうれしくなっちゃった?」
「……邪魔、近寄らないで」
 しかし、ユフォアリーヤは牙を剥いて威嚇の表情を浮かべた。尻尾もゆらゆらと揺れているが、それは興味ではなく警戒心。同族らしき者に会うのは珍しかったが、香水によるときめきも彼女にとっては怒りや不快感としか判断されなかった。
 男は一瞬驚いた顔をしたが、整った顔に甘い笑みを浮かべた。
「そんなこと言わないでよ。さみしくなるよ」
 さらに距離を詰めようとする男の肩越しにこちらを伺う遊夜の姿が目に入り、ユフォアリーヤの胸がドキドキと高鳴った。
 ────あ、ちょっとは揺れ動いた感じにした方が、ユーヤの気が引けるかも……。
 そんな彼女の心の揺らぎを勘違いしたのか、ベンチの背もたれに押し付けるように男が彼女の肩を押した。
「そこまでにしときな。人の女に手ぇ出してんじゃねぇぜ、若造」
 男の手を軽く払って、逆の手でユフォアリーヤの手首を引く遊夜。後ろから抱きすくめたユフォアリーヤの掴んだ左手首を自分の口元に寄せて揃いの指輪を見せつける。
「彼女が僕を誘っ────」
「……ユーヤの、女……」
 にへら、とろけそうな眼差しで遊夜を見上げるユフォアリーヤの姿に男は絶句する。
「同族なら察しろよ……わかるだろ?」
 ────リーヤは他人嫌いだからな!
 胸の中で呟く遊夜。
 ────色々とヤバいんだよ、リーヤの機嫌的にも相手の被害的にも……俺の気分的な意味でもだ!
 しかし、男は引き下がらない。彼女の肩を押した手をもう一度ユフォアリーヤへと伸ばす。
 覚悟決めて息を吐いた遊夜は、そのまま彼女の顎先を自分に向けると男へと見せつけるように深く口づけをする。
 ……男が何やら毒づいて去ったのがわかって唇を離すと、間近でユフォアリーヤの黒い瞳がいつもと少し違う遊夜の顔を映して美しく煌めいた。
 ────……年貢の納め時って奴だな……実際、ちょっと嫉妬したわけではあるし……。
 甘い嘆息。
「デートの続きでもするか」
「……ん」



●大団円
 アモールたちを撃退したエージェントたちは、シスターが用意してくれたカフェの一室で疲れた身体を癒した。
「大変だったね」
「フローラ……」
 ガラナたちの協力によりなんとか解決したものの、意味ありげな美少女ヴィランの視線がひりょの心にダメージを残した。
「……あー、痛、リンカーじゃなかったら死んでたな」
「うっさいバカ! このバカ! 全力でバカ! も、もうちょっとで……あ、当たっ……! バカー!!」
 ガラナが零すとリヴァイアサンが真っ赤になって叫ぶ。
 リヴァイアサンとガラナのじゃれ合いを見ていた遊夜がぽそりと呟いた。
「やれやれ、俺もここまでする気はなかったんだがな……」
「……ん、ふふ……相思相愛」
「ま、機嫌治ったみたいだし良しとするか」
 ────しかし、俺に向けてヴィランが来なくて良かったな。
 そう思った遊夜の脳裏にヤンデレヴィランとユフォアリーヤが相対する図が浮かび……ゴクリと生唾を飲む。
 とにかく今より大変なことになるのは想像に難くなかった。
 先程着信音が響いたスマートフォンを眺めていた由利菜がリーヴスラシルに笑顔で画面を見せた。
「私とラシル……それに、リディスの分もありますよ!」
 自宅で待っている英雄が送ってくれた写真には、由利菜の両親からH.O.P.E.東京支部宛てで彼女たちへ贈られたバレンタインチョコレートが映っていた。
「ユリナのご両親の胸中は複雑なはずだが……英雄の私達のことも気にかけてくれているのか」
 由利菜はリーヴスラシルとの誓約の代償によって家族や親しい者と会うことはできない。それでも、彼女の両親は娘とその英雄たちを想ってくれているのだ。
「改めて……主を守る意志も力も深めなければな」
「あれ、颯太さんは?」
「……」
 一名、まだ戻ってきて居なかったが、満面の笑みを浮かべたシスターがエージェントたちの傍らに小さな美しいチャームを置いていった。
「またご招待致しますから、ぜひ遊びに来てくださいね!」
「慰労とは……」
 色々と疲れ果てた明斗とクロセルがテーブルに突っ伏した。
 カラン、と空のグラスの氷が音を立てた。


結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
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  • 飛込みイベントプランナー
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  • 短剣の調停を祓う者
    光縒aa4794hero001
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