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盲目孤高の剣士
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最終発言2017/02/19 12:26:45 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/02/15 20:51:20
オープニング
私は、生まれたときから目が見えない。
だから、誰かの邪魔にならないように生きていこうと思っていた。
「お譲さん、お茶はいかがですか?」
使用人に扮した悪人が、私に囁く。
この屋敷の中の使用人たちは、全員がここに攻め入った悪党たちが成り代わっている。どうやら夜のうちに、ここの使用人たちは全員が捕えられてしまったらしい。私が育った屋敷は、もう乗っ取られてしまった。
――私は、身代金を引きだすための人質か。
「いらないわ」
目が見えないから、舐められたのであろう。
声の違いで、使用人が別人になりかわっていることぐらいは分かる。
「疲れましたので、少し休みます。私室には、入らないでください」
私は自分の部屋に戻る。
こうやれば、少しでも時間を稼ぐことができるかもしれない。
「私は、誰の助けもいらない」
こんな局面ぐらいは、一人で乗り切らなければ。
私は、誰の邪魔にもなってならない。
「この屋敷も使用人も、私が守らなければならない」
●HOPE支部
「ヴィランズが、屋敷をのっとりました」
HOPEの職員が、集まったリンカーたちに説明を始める。
「大富豪の満田氏の邸宅。そこにいた娘さんエリさんを人質に取った犯人グループが、身代金を要求しています」
屋敷に隠密に侵入し、娘を助ける。
依頼内容は単純である。
「仕事自体は単純なのですが、不安要素が一つあります」
HOPEの職員はため息をついた。
「エリさんが、最近英雄と契約したということです。ですが、密田氏いわくエリさんの視力は契約しても戻らないとのことで……」
「つまり、人質が暴走する可能性があるということですね」
リンカーがため息をつく。
その時、電話が鳴った。
「大変です。今、現場の屋敷で発砲音がしたそうです!」
●盲目の剣士
自分の私室で、私は刀を抜いていた。
英雄と共鳴しても、私の目に光は刺さない。それでも、気配には敏感になる。まるで、部屋全体が私の体になったかのようだ。この部屋に入った敵を、私は逃せない。
私の間合いに入った敵を切り倒す。
「あの娘! リンカーだったのか!!」
「銃を持ってこい!!」
悪党の叫び声が聞こえる。
でも、平気。
私の間合いからは、誰一人として逃がさない。
解説
・使用人および人質の救出
エリ……最近契約したばかりのリンカー。実戦経験はないが身体能力は高く、勘もいい。共鳴しても目は見えないが、気配にかなり敏くなる。自分の私室の内部ならば、目が見えているかのように戦うことができる。なお、エリはよっぽどの理由がなければ部屋からは出てこない。部屋に入りこんでくる人間のすべてが敵だと思っており、問答無用で切り捨てようとする。武器は刀。
フェイント――急に目標を入れかれて、別に敵に急接近する技。敵が複数いるときに使用。
居合切り――部屋に入った最初の敵に急接近し、敵を切り倒す。
袈裟切り――敵の背後に回り、背中から切り捨てる。
ウィランズ……屋敷に押し入った身代金目当ての悪党たち。十人出現するが、すでに二人がエリに切られている。全員が拳銃と刀で武装している。腕はかなり立つ。
・屋敷――大豪邸(日中)
1F
庭……石造が多く飾られており、遮蔽物が多い。二名の敵が見張りについている。
居間……さまざまな豪華なインテリアに囲まれた部屋。物が多く、戦いづらい。
台所……使用人四人が閉じ込められている。敵二名が見張りに立っている。比較的狭く、戦いづらい。
客間……ベットなどが置かれたホテルのような部屋。
2F
私室……エリの私室。広い部屋であり、エリが出現する。切られた二名の敵が倒れている(PL情報――エリを無力化すると、倒れていた敵がエリを攻撃しようとする)
主人の部屋……私室。エリの部屋の隣のため、敵四名が壁を突き破り、奇襲をかけようとしている。
リプレイ
忍び込んだ屋敷は、まさに大邸宅と呼んでよかった。庭にまで美術的価値が高そうなオブジェが並び、さながら美術館のような外観である。
『運の悪い立てこもり犯だよっ』
匂坂 紙姫(aa3593hero001)は、キース=ロロッカ(aa3593)の方を見る。兄のように慕うキースも今はあきれ顔であった。
「襲った先に駆け出しとはいえリンカーがいて……返り討ちに遭うとは」
エリがHOPEに所属しておらず調べようがなかったと言えばそれまでだが、こんな大当たりなど滅多にあることではないだろう。
「それでは各自、行動を開始してください……突入!」
●庭からの奇襲
「行くよ……相棒」
『ええ、始めましょうか』
庭に隠れていた天剣・霞音(aa0672)はクラーケリス・アクスシード(aa0672hero001)と共鳴し、準備万端である。おそらくは、他の面々もそうなのであろう。
『人質たちはすでに恐怖の一夜を過ごしている。精神的にも肉体的にも疲弊しているはずだ』
リタ(aa2526hero001)の言葉に、鬼灯 佐千子(aa2526)は頷く。彼女たちはイメージプロジェクターを起動させ、周囲の風景を自分たちに投影させていた。庭に潜伏する佐千子たちは、どうしても他の面々と比べて隠れている時間が長くなる。万が一でも見つかってしまえば、作戦がすべて台無しとなってしまう恐れがあった。だからこそ、潜伏にはできる限り手を尽くしたいと佐千子は考えていた。
「特に使用人の方々は――、私みたいに無駄に頑丈ではないでしょうから。早く救出しないと」
主を守れずに、一か所に集められた人質たちは恐ろしい思いをしているに違いない。そして、それ以上に悔しいと感じていることだろう。
「それでは各自、行動を開始してください……突入!」
キースの声が、それぞれが持った携帯を介して伝わった。
『一斉攻撃開始ですね』
クラーケリスの呟き通り、紙姫と佐千子は武器を握る。庭にある彫像類は実によい盾になったが、それと同時に遠距離の攻撃をさえぎってしまう。
「そうだね。むー……物が多いと隠れるには便利だけど射線が通りにくいなぁ……」
庭の見張りをしていたヴィランに、霞音は魔法攻撃を仕掛けるも置物がどうにも邪魔である。だが、相手も腕の立つ悪党とのことで、できるのならば接近戦は避けていきたい。霞音の体重は、異様なほどに軽いのだ。一般人ならばそれでも勝てるが、手練れのヴィランとの戦いでは心もとない。
『ですが、こんなところで時間をかけてもいられませんね。人質の安否が気になります』
「そうだよね。今は、速さが勝負」
霞音は、武器を大剣へと持ち替える。クラーケリスの言う通り、こちらは使用人という人質がいる状態なのである。一刻も早く、悪を倒さなければ彼らの安全を保障できない。
「ボクらが、皆を守る」
『その意気です』
アスガルを構えて、霞音は敵との距離を一気に詰める。敵の銃弾が足をかすめたが、歩みを止めるわけにはいかない。
『私たちは隠れません』
「多少のダメージなら、気にしないよ」
だって、守りたいものがあるから。
霞音は剣が、相手に届く。
『だから、ここで眠っていてくださいね』
クラーケリスの言葉を聞きながら、霞音は敵を倒した。
「でも……殺すつもりはないわ」
佐千子は、敵相手に急所は狙わなかった。狙うは、腹部や大腿部といった的の大きなところだけ。
「あたしのところまで、来なさい」
吹き飛ばすから、と佐千子はつぶやいた。
●台所での人質解放
『作戦開始だね。ようやく、人質を解放できるよ』
台所の前で潜むS(aa4364hero002)の言葉に、依雅 志錬(aa4364)は頷く。少しでもタイミングがずれれば、人質たちの命をいたずらに危険にさらすことになる。
「志錬ちゃんなら、大丈夫だよ」
隣で、藤咲 仁菜(aa3237)が励ましの言葉をかける。
「うん……。大丈夫、きっと成功させる」
志錬は、深呼吸一つして自分を奮い立たせた。
『エミヤ姉なら、大丈夫。だって、私がついてるからね』
「……ソル」
英雄の明るい声を聴きながら志錬は、武器を持ち替える。持ち場までたどり着く前に敵に見つかってしまったら、と考えて志錬はサイレンサー・ピストルナイフを持っていた。これならば、音もなくヴィランの喉笛を掻っ切ることもできたからだ。幸いにも、コレを使う機会はなかったが。
志錬は、フラッシュバンを使用する。
目くらましが効いているうちに、畳み掛けるように志錬はトリオを使用。台所にいた悪党たちの銃器を正確無比な射撃で、無力化していく。
――ヘタに抵抗するなら永久に黙ってもらうぞ。
志錬は、銃弾を敵の銃のスライドへと命中させながら強く念じた。自分の射撃の腕を見たのならば、敵は知るであろう。自分たちの眼球を突き破り、脳へと弾丸を届かせるだけの技術を志錬が持っていることを。
技術を持ってして、自分の実力を知らしめる。
これが、志錬の脅しであった。
「大丈夫よ、すぐ終わらせるから、待ってて!」
フィアナ(aa4210)は、人質を安心させるべき叫んだ。
『笑顔を見せげあげよう。きっと彼らは不安に押しつぶされそうになっているはずだ』
ルー(aa4210hero001)の言葉に、フィアナははっとする。人質を無傷で助けることはもちろん大切だったが、今の彼らはとてつもない不安の中にいるはずである。もしも、少しの微笑で彼らを安堵させることができるというのならば、それもフィアナの仕事の一部のような気がした。
悪人に向かってフィアナは、ライヴスリッパーを使用する。
「これでは気絶してくれないの?」
『なかなか思い通りにはならないものだな』
狙っていた気絶の効果が発揮できなかったことにフィアナは、一瞬だけ悔しいと思った。今ので敵が気絶してくれていたら、今頃は人質たち解放することができていたはずなのに。
『忘れたのかい? いまするべきは、そんな焦った顔じゃないだろう』
ルーの言葉に、フィアナは頷いた。
「フィアナさん!」
『後ろには俺たちがいるんだ! だから、もっと暴れるんだよな!! 大丈夫、怪我をしたとしても俺とニーナで治療をするから』
仁菜とリオン クロフォード(aa3237hero001)が、フィアナに声援を送りながらもリジェネーションを使用する。癒されていく傷を見ながら、フィアナは自分の背中に心強い味方がいることを再確認した。
守るべき誓いを使用したフィアナは、人質と悪党の間に立つ。そして、人質たちや仁菜 たちにだけ見えるように笑った。その笑顔は凛としながらも、どこか優しげなものであった。
「私たちに任せて。大丈夫、絶対に勝つから」
『その通りだ』
フィアナのライヴスリッパーが、再び悪に向かって放たれた。
最後のあがきだったのか、悪党がフィアナに剣を向けようとする。だが、志錬の銃弾が悪の刃を弾き飛ばした。
「……」
『えーと、エミヤ姉?』
Sは、冷や汗を垂らしながらも考える。
別にこれは、志錬が相手にとどめを刺すために狙いをつけているわけではない。単に武力を没収し無力化した敵に無語で「なにかやったら殺す」と脅しているだけなのである。あくまで、無言で。
「甘いのは分かってるけど、誰も死んでほしくないの」
後ろでひっそりと、仁菜が悲しげな顔をしていた。
ああ、やっぱり勘違いされているなとSは思った。別に志錬も、目の前の無抵抗の悪人たちを殺すつもりはないのである。今やっているのは、あくまで無言の脅しだ。
『そんなこと言ってる場合じゃないって、分かってる? ニーナ』
リオンが苦笑いする。少しばかり不安がる仁菜のために、リオンは共鳴を解いていた。
「敵は人と言えど悪者だし、殺されてもしょうがないのかもしれないけど、でも……死んだらそれで終わりなんだよ?」
『了解! 難しいけど半殺しで行こう。うっかり敵が死にそうになったら、後で手当するからー』
俺たちこれから何されるの?
悪人たちに動揺が走った。
時に無言の脅しより、悪意なき有言の脅しのほうが効くものである。
●主人の部屋の悪党たち
「また人様の迷惑になることを……これだからヴィランってのは嫌いなんだよネ」
主人の部屋の前で連絡を待つ大宮 光太郎(aa2154)の言葉は、辛辣なものであった。
一方で、オウカ(aa2154hero001)はのほほんとしたもので『おや、そうですか? 欲深な所とか……愚かしくて愛おしいと思うのですが……』と光太郎に返した。
「亡霊の視点から言われてもネ……」
話が噛みあうわけもないか、と光太郎は前を向く。
そこには、無明 威月(aa3532)がいた。彼女は、光太郎でも分かるぐらいに震えていた。汗ばむ手で獲物を握りしめて震えを誤魔化そうとしているが、荒い息までは隠せていない。威月は今回の事件を通して、過去に自分に起きた事件を見てしまっていた。そして、その時の恐怖すらも思い出していたのである。
『………威月。威月ッ!』
青槻 火伏静(aa3532hero001)が、威月の背中を叩く。その乱暴な手つきに反して、火伏静の声は静かで優しいものであった。
『……同じ様な人間は出さねぇ。そう思ったんだろ?』
威月は、頷く。
火伏静の声を聴いたせいなのか、震えも動悸も収まっていた。あるのは、静かな決意だけである。
『……なら、行くぞ。安心しろよ、俺も……仲間も付いてる』
威月の様子を見たオウカは呟く。
『どうやら、あちらの準備も整ったようですね』
「じゃあ、行こうか。お仕置きの時間だネ」
光太郎がドアをけ破り、同時にクロスガードを使用する。
侵入者に気が付いた悪人たちが、一斉に光太郎たちに銃を向けた。
「さぁさぁ、そんな事をしたら駄目でしょ? 君達はこれから恐怖する時間なんだから……大人しく切られてネ」
『ククク……さて、死合いを始めましょう』
悪人のように笑うオウカの声を聴きながら、光太郎は考える。
――まぁ、仲間が来るまでの時間稼ぎなんだけどネ。
●エリの部屋
「盲目の剣士とは興味深い。手合せしたいものだ」
東江 刀護(aa3503)の言葉は、エリの部屋の前でも楽しげだ。双樹 辰美(aa3503hero001)は、そんな刀護にぴしりと釘を刺す。
『エリさんの顔に、傷はつけないでください』
女の子なんですから、と辰美は続けた。
『盲目の剣士……手合わせ願いたいものだ』
灰燼鬼(aa3591hero002)が、刀護と同じような言葉を呟く。もしも、辰美が聞いていたのならば『顔に傷がうんぬん』の話が再び出ただろうが、彼女には灰燼鬼の言葉は聞こえていなかった。
「一応、そいつ救出対象だからな……?」
沖 一真(aa3591)も灰燼鬼(aa3591hero002)を止めようとは試みていたが、残念ながらこんな言葉で止まるものとも思えない。
『しかし、誓約してなお視力が戻らなかった彼女の絶望は如何ほどの物だろうな……』
「それは」
おそらく、それは誰にも分からないことなのではないだろうか。という思いを、一真は飲み込んだ。
「それでは各自、行動を開始してください……突入!」
キースは離れた仲間に支持を出し、自らは盲目の剣士の部屋へと入った。
「……どうも失礼します。エリ、ですね?」
部屋の中にいたのは、刀を手にした少女である。彼女は剣を抜き放ち、よそ見もせずにキースに切りかかろうとする。
『あのお姉ちゃん、人の話を聞く気はないみたいだよ』
危ないな、と紙姫はつぶやいた。
一真はとっさにキースの前に立ち、メーレーブロウを使用する。居合切りを受け止めることには成功したが、同時にエリの実力もわかった。敵と味方を判別できないところをみると彼女の実戦経験は皆無に近い。だが、その才覚は恐るべきものがあると言っていいだろう。
「おい、落ち着け。俺らは助けに――!」
『手合わせ願おう』
「なんですと!?」
灰燼鬼の言葉に「ややこしくなる!」と一真が悲鳴を上げる。
『いきなり攻撃といかず、相手の動きを見てから行動してください』
身構える刀護に、辰美は注意を促す。
「わかっている。倒すべき相手ではないからな」
エリは、自分の屋敷を守ろうとしているだけなのである。
そんな彼女を傷つけるつもりは、刀護には微塵もなかった。
「この屋敷は、私が守ります。この屋敷を獲物に選んだことを地獄で後悔しなさい」
エリの切っ先が、刀護に向かった。
『刀護さん、わかっていますよね』
「ああ、顔に傷はつけないぜ」
エリの刀を武器で受け止める。
力技ならば、圧倒的に刀護に分があった。
おそらく、それはエリにも伝わったであろう。
「落ち着け、自分達はお前を助けに来た。戦う気はない」
「東江さん、後ろだ!!」
一真の言葉に、刀護ははっとした。目の前にいたはずのエリがいつの間にか、自分の背後に回っている。
「くっ」
刀護の背中をエリの刀がかすめる。
寸前のところで避けたが、今のは危なかった。
部屋のなかで倒れていたヴィランズを拘束していた一真も、武器を構える。倒れていたヴィランは二人。彼らもエリが倒したようである。
『あの動き、警戒するに越したことはないぞ』
灰燼鬼の言葉に、一真はため息をつく。
「何度も言っているけど、そいつ救出対象だ」
●人質の言葉
ヴィランを拘束したフィアナは、自分の懐をまさぐった。
『なにを探しているんだ?』
「えっと、ちょっとね。あった、あった」
フィアナが取り出したのは、エージェント登録証であった。自分の身分を証明するためのものを、フィアナは探していたのである。
「私たちはHOPEのエージェントです。これからエリさんを助けに行くのですが、たぶん彼女を止めるには皆さんの声が必要です」
エリに届くのは、顔が見えない味方の声ではない。
慣れ親しんだ、使用人たちの声であろう。
「お嬢様はご無事なのですね。良かった。あの人は自分が邪魔にならないようにと何でも一人でやろうとしてしまう癖があるんです」
使用人の言葉に、Sは悲しげに眼を細めた。
『誰かの邪魔にならないようにかぁ……ヒトには無理な話だよ。生きるコトも死ぬコトも、誰かの手を煩わせることだもの』
志錬は、Sの言葉を聞いていたが何も言わなかった。
『孵ったばかりの雛が上手く飛べないのは、道理だと思うけれどね』
ルーの言葉に、フィアナは小さくうなずいた。
「意志があるなら後は経験……何にせよ、彼女とお話するのは全ての片をつけてからね」
「皆さんの声を必ずとどけます」
仁菜が携帯を握りしめた。
「……私も同じだったの。周りに迷惑をかけないようにって、考えてばっかりだった」
『ニーナ』
仁菜の言葉に、リオンは不安な気持ちになる。もしも、今も仁菜が同じ気持ちであったら、自分に何ができるだろうかと考えたのだ。
「でも、今は違うよ。仲間も、友達も――なにより、リオンが隣にいるからね」
仁菜の明るい声に、リオンの表情は見る見るうちに明るくなった。
『大丈夫だよ。使用人たちの言葉も、ニーナの言葉も、絶対にとどくよ』
「――新たな仲間に敬意を」
フィアナは、はっきりと告げた。
「そう、エリに伝えたいわね」
●悪の一念壁を壊す
「ホラホラ、ちゃんと避けないと」
光太郎は、ライブスリッパーを使用する。
「……そんなに令嬢がお好みですか。でしたら…私が相手になります。私も名家の生まれですから……但し、近付く悪は……容赦せずに斬り捨てます」
威月は防御に徹しながら、自分を鼓舞する。
まだ、応援の仲間がこないのだ。ここは光太郎と自分たちだけで、持ちこたえるしかないのである。それに、威月は一人ではない。
「……兄様……私に力を……。毒咬」
威月はブラッディオペレートを使用する。敵の足を害することには成功したが、少しばかり体力を消耗しすぎたようだった。さすがは、こんなにも立派な屋敷を襲撃して一人娘を人質に取ろうとしただけある。ヴィランと言えども、結構な手練ればかりだ。
――油断していたら、こちらが危ないですね。
『どうしたオラァ! デケぇ男が寄って集って女一人どうにも出来ねェか!』
火伏静が叫ぶ。
荒々しい声に、自分も決してあきらめてはならないのだと威月は拳を握りしめた。
「……決して『諦めない』……それが……火伏静様との……兄様への誓いですッ!」
月擁――リジェネレーションを使用し、自らの体力回復をはかる。
威月の危機を見た光太郎は、ハイカバーリンクを使用した。応援が来るまでの時間稼ぎ、こちらが危機に立たされるわけにはいかない。
「おっとと、危ない危ない」
威月を守っている間に、悪党の一人が部屋の外に出ようとした。だが、部屋の外にいたのは霞音であった。
「エリの部屋に行く途中だったけど」
『悪党は見過ごせないですね』
霞音の狙撃が、逃げようとする悪人を仕留める。ヴィランを打ち抜いた光景をみた霞音は、思わずクラーケリスに尋ねる。
「加減は……できなかったよねえ……仕方ないか」
『緊急事態ですし、やむを得ないでしょう』
クラーケリスは『たぶん』と呟きながらも、隣の部屋へと急いだ。
「さてさて、それじゃ制圧の時間ダヨ………今日もまた、刀の錆が増えるネ」
光太郎は、武器を持ち替える。
『もう少し遊びたい所でしたが……まぁ致し方ないですね』
本気の制圧の時間だ。
オウカは、にんまりと笑っていた。
「それはこっちのセリフだ!」
ヴィランが、壁に攻撃を加える。
その一撃で、壁は粉々に吹き飛んだ。
「あれは……」
威月は呆然と、壊れた壁の向こう側を見る。
そこには、剣を持ったエリがいた。
衝動的に、威月は叫んだ。
「貴方様は、我が同胞と共に。是非とも悪を打ち破って下さいませ!」
――似た経験を先にした者からの進言です。
●孤高の剣士
「庭に二人、貴女の足元に二人、台所に二人そして隣の部屋に四人……そして十人。これが犯行グループの全員です」
キースは、エリにそう告げる。
彼女の動きが、わずかに鈍ったかのように覆われた。
「……ではボクは何者で、何故こんなにぺらぺら喋るのか。改めて、失礼。ボク等はHOPEのエージェントです。皆さんを助けに来ました」
「それが、本当だと証明できますか?」
キースを狙うように急接近したエリの姿が、一瞬消えた。
そして、気が付いた時には彼女は一真の前にいた。
「……こっちに来るか――エリ!!」
一真は防御の姿勢を取り、彼女のフェイトを防ぐ。
『奇襲は防げたか』
灰燼鬼は『危ないところだったな』と呟く。
「私は、誰の邪魔にもならない。こんな目のせいで人質に取られた、だなんてことは言わせない!!」
エリは叫んだ。
その慟哭に刀護が答えた。
「目が見えないことが誰かの邪魔になるだと? それは違う。自分を責めるな! 何度も言うが、自分達はお前を助けに来た。戦う気はない」
刀護の目には、エリが疲れているように見えた。
『一人でリンカー二人の相手をしているのだから、当然ですね』
辰美の言うとおりであった。
さっきから彼女は、リンカー二人を相手取って戦っている。全力で、全身全霊で相手をしていたのだ。スタミナが持つはずがない。刀護は守るべき誓いを使用し、エリの狙いを自分に固定させる。
「辰美、俺たちがキースたちの盾になるぞ」
『わかりました。まずは、話を聞いてもらわなければなりませんしね』
本当ならば、傷など一つもつけたくはないのだ。
辰美と刀護の思いは、同じであった。
だからこそ、ここは仲間の説得の手助けを全身全霊でするしかない。
「どうやら、大丈夫そうね」
そっけない言葉が、女性の声で放たれる。
その声の主は、佐千子であった。
庭で敵を拘束し終えた彼女とリタも、この場所へと一直線にやってきたのであった。
『大怪我をした人間もいないようだな。……あの刀をもった少女が今回の保護対象か』
リタは、まだ子供と言える年頃のエリを見やった。
「エリ、聞いてください」
『お姉ちゃんの守りたい人たちの声だよ!』
キースは携帯のスピーカーモードにし、床に滑らせた。その携帯からは、囚われていたはずの使用人たちの声が響く。
「お嬢様! その方たちは味方です。私たちは、全員無事です」
「これで、ボク等の言葉を信じてもらえましたかね?」
『あたしたちの仲間が、みんなで使用人の人たちを助けたんだよ。みんな、お姉ちゃんの味方だよ』
キースと紙姫の言葉に、エリは首を振った。
「どうせ、脅せて言わせているんでしょう。私は、戦い続ける。こんな目のせいで騙されたとか言わせない。私は、人のお荷物になんかなりません!!」
「エリさん!」
携帯から少女の声が聞こえた。
仁菜のものだった。
「私もリンカーになったばかりの時は、人に迷惑かけないようにって考えてばっかりだった。でも、一人で全部出来るわけがないし、失敗したり迷惑かけたりばっかりで……。人が生きる以上、誰にも迷惑かけないなんて無理だよ」
騙されるものか、とエリは強く刀を握る。
「だから今はお互いに迷惑かけるけど、一緒に頑張ろう! って思えるようになったんだ。いいんだよ。出来ない事は補いあって、出来る事を精一杯頑張る。それが仲間で、友達でしょ?」
「私に! 英雄と共鳴しても、何も見えない私に! 仲間なんて、いないんです」
エリの慟哭と共に、部屋の壁が壊れる。
大きな破片が一つ、エリに向かって飛んでいく。それを破壊したのは、霞音であった。
「こういう事態の時に面倒が減るから義眼、いいよ?」
部屋に侵入してきた悪人は、三人。
その三人に向かって、最初に一歩を踏み出したのは佐千子であった。
「私が前に出ます」
『接近戦だな?』
リタの言葉に、佐千子は頷く。
新たな敵の出現に身構えるエリの隣をすり抜けて、佐千子は悪に向かい立つ。
「射手故の、身体・武器構造から攻撃の軌道を読み、安全地帯へと身を置いていく――そんな戦いを試してみましょう」
『戦力的にはこちらが有利だろうが、油断はするな』
リタの言葉に、佐千子は「分かっています」とだけ答えた。
目の見えないエリは、戸惑う。
ここに居る人間たちは――本当にすべてが敵なのかと。
「こいつはやらせねぇぞ!」
『怒涛乱舞――天流乱星の構え』
エリの隣にまで接近していたヴィランが、一真によって吹き飛ばされる。
敵と味方が入り乱れる混乱のなかで、エリの耳に聞こえてきた声があった。それは床に放り投げられたキースの携帯電話から聞こえてきた。
『いっそのこと、人目なんて気に留めずに”生きて”くれたら……どれだけよかったか。――今からでも、そうなってほしい。そのために助けが要るのなら、私たちは力になりたいって思うよ』
それは、Sの声であった。
●孤高でなくなるために
人質は、全員が解放された。
使用人たちはエリの無事を喜んだが、エリはぽかんとしていた。
自分が今まで戦っていた面々が、HOPEのエージェントだとは分かってもらった。だが、彼女の心の穴は開いたままであった。
志錬は、エリの様子を無言で見つめていた。他人と違うこと――それは自分が自分でいるかぎり、いつかは乗り越えなければいけない試練の一つだ。志錬の体も人とは、かなり違う作りをしている。冬は冬眠して過ごしていたし、今なお食事は半月に一度。今でも、時よりそれに戸惑う。だが、戸惑ったところで事実は変わらない。
エリもまた、自分と同じように『人とは違う自分』を受け入れて生きていかなければならないのだろう。
『エミヤ姉』
隣を見ると、英雄がにんまりと笑っていた。
『大丈夫、私たちは力になれるよ』
志錬が再びエリに視線を向けると、いつの間にか光太郎が彼女の隣にいた。
「キミが例のリンカーさんだね?」
にこにことしながら、光太郎はエリの話を聞く。これからどうしたいのか、なにをして自分の力を生かしたいのかを。突然の質問に、エリは戸惑いながらも「考えていなかった」と答えた。
『もったいないよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんは、自分が思うよりずっといろんなことができるはずだよ』
紙姫がぴょんと飛び出し、絵里の手を握る。
そんなことをしたら目の見えない人間は驚いてしまうよ、とキースに注意された紙姫は慌てふためいた。だが、彼女は握った手を放すことはしなかった。
「ボク等でよければ、紹介しますよ。HOPEに。新たな力を人の役に立つために振るいたいなら。家族以外の大勢を救いたいと欲するなら。どうしますか、エリ?」
「私も出来ないことがいっぱいあるけど、できることならエリさんが出来ないことのお手伝いしたい。……仲間になって欲しいの!」
キースと仁菜が、手を差し伸べる。
エリが何と答えたのかは、志錬には聞こえなかった。
だが、ルーが『才があり、その意志には光がある。多くを重ねていけばきっと高く飛べるだろう』と呟いていたので悪い返事ではなかったのだろう。
少なくとも、志錬はそう思ったのであった。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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