本部

見合って見合って!

布川

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/02/24 14:34

掲示板

オープニング

●あなたのご趣味はなんですか
「見合い?」
「はい、えーっと、お見合いをするという……依頼……とはまた違った、ある種の企画とでもいうんですかね」
 H.O.P.E.の職員が持っているのは、いつにもまして分厚い資料――とはいっても、見合いの釣り書き写真の山だった。
 コリー・ケンジ・ボールドウィン(az0006)は慌てて目を逸らす。とても個人的な資料だ。勝手に見るものではないだろう。
「いったいどういうやつから頼まれているんだ?」
「えーっと、そうですね。スポンサーの方に頼まれて、「会ってみるだけでも!」ってのと、H.O.P.E.に所属するエージェントたちの親御さんやらの要請で、おうちの方がセッティングしたものがいくつかと、それと…………うーん、なんていうんですかね? こういう機会により仲を深めてもらおうという趣旨のものを、有志が……ごにょごにょ……いや、でもなんか、間違ってる? のもあるような気がするんですけれど……うーん、はい。でもまあ、そんなに真面目な、企画ではないので……」
「一生の問題じゃないのか?」
『いいんじゃない、ケンジくん。固いこと言わないでさ』
 コリーの英雄、ネフィエ・フェンサー(az0006hero001)はぽんと肩を叩く。
「いっそ、ケンジくんもお見合いしたら?」
「俺はもういい歳だからな……。バツ1だし。もう十分だよ」

 とまあ、そういうわけで、召集されたエージェントたちは、なぜか見合いをすることになっていた。

解説

●目標
見合いをこなし、誰かのことをより深く知る。

●解説
お見合いをする理由は、押し付けられたもの、偶然に選んだもの、相手が気に入って熱烈なアプローチをかけてきたもの、友人やパートナーがノリノリで計画したものにはめられたものと様々です。
適当にこなして帰るもよし、真剣にこなしてみるもよし、最終的にごめんなさいするもよし。嫉妬して乱入するもよし、お好きな出会いをこなしてみてください。

あまり複雑な設定でない限りは適当なモブを設定していただいても構いませんし、パートナーでも他の参加者のどなたかでも構いません。
また、誰かの付人や、ひやかしに行ったりその他のポジションをこなすことも可能です。
お誘いあわせの上、プレイングにて相互に指定してください。

●場所
基本的にお見合いは個別に行われています。
高級料亭やレストラン、あるいはどこかでの軽いデートなどでも構いません。
場所が同じところなら、すれ違ったりするかもしれません。

リプレイ

●出会いは突然に
「お見合い!?」
 驚きの声をあげる御門 鈴音(aa0175)に、朔夜(aa0175hero002)は妖しげに笑う。
「フフッ、男知らずの鈴音のために私が申し込んでおいたの。感謝なさい? 何事も経験。失敗を重ねて女は魅力的になるわ」
「悪魔かアンタは!」
「悪魔よ? 紛うことなき生粋のね?」
「…………」
 それを言われては何も言い返せない。この世界では大幅に弱体化しているとはいえ、確かに、彼女は悪魔である。

 待ち合わせの場所に向かう御門の足取りは重かった。
 私生活において、多少見た目は良くても成績は中の下、内気、ドジ、口下手、引きこもり、ゲームオタク。彼氏いない歴=年齢。
 初恋は盛大な勘違いにより失恋。etcetc……。
 残念女子高生の鈴音を見るに見かねた朔夜が、鈴音の了解もなしに今回の依頼を勝手に受けてきたのが事の発端だ。
 色々とすっ飛ばしてお見合いという事態に、鈴音は発狂しそうになる。
 依頼をキャンセルしようとする御門を、朔夜が引き留める。
「とにかく男性と話すことで男性に免疫をつけるの! コミュニケーションをとりながら相手の好きなこと、自分の好きな事などを聞き出して共通の趣向を見つけて話を広げていくの」
「ふむふむ……」
「んで、仲が深まってきてたら一発寝て相手を骨抜きにして最後には魂までしゃぶりつくすのが悪魔流の……」
 最後まで言わないうちに、鈴音の拳骨が飛ぶ。
 前半に本気で感心していた分、少しだけ損したような気分になった。

 後半に目をつむれば、朔夜のアドバイスは確かに的を得ている。なにも付き合うまで行かなくても、お見合いを通して、男性とせめて普通のまともな会話が出来るようになれればいいのだ。
 しかし。
 お見合いは、始まりからして前途多難なようだ。
「待ち合わせの時間に遅れるとか……」
 約束の時間から、虚しく10分程度が経過していた。
 初めから無理な話だったんだ。御門が立ち上がりかけたとき。
「すみません、遅れてしまって……! ええと、御門さん、ですよね」
 やってきた男性の姿を見て、御門は目を見開いた。
 電車が止まっていて、だとか、なんとか。男性の話を、御門はほとんど聞いていなかった。爽やかなルックス。よく通る声。
 俗に言われる――”イケメン”だ。

「お見合い、っていうのもなんか大げさですけれど、友達の紹介で……よ、よろしくお願いします」
「は、はい!」
 意図せずして、1オクターブくらい上の声が出た。
 どうやって自己紹介したのかほとんど覚えていない。
「趣味はなんですか?」
「しゅ、趣味ですか!? 趣味は、趣味は、えー……えーと、映画、映画鑑賞です」
 それと、ネットサーフィンとか。こちらの方は黙っておこう。少なくとも、嘘はついていない。
「映画、ですか! 最近は何を?」
「あー、えっと、ホラーって苦手、なんですけど……でも、怖いもの見たさっていうか……」
 しまった。せっかく話題を見つけたのに、もっと一般受けのするようなチョイスをすればよかった。しかし、今更ひっこめるわけにもいかない。
「なんていうか、最近見たのは、……リアルで……すごく臨場感があったので……そこが、えー……」
 何を言っているんだ、と思いつつ、脳裏にはかなり身近な怪異が浮かぶ。エージェントをやっていれば、色々と不思議な体験もするものだ。
「御門さんって、真面目で、すごく頭が良いんだろうな」
「そんなことは」
 うつむいてしまう。本当にないのだが、相手は謙遜と受け取ったようだ。
 メガネのせいか、勉強ができそうに思えるんだろうか。

 随分な時間が経ったような気もするし、あっという間だった気がする、それに、ずいぶんと妙なことを口走ったような。
「名残惜しいけど、そろそろ時間かな?」
 終わった。やりつくした。出来る限りのことはした。
「あの、よかったら。この話、真剣に考えてくれませんか」
「は?」
 燃え尽きて椅子にもたれかかりかけた御門は、慌てて姿勢を正した。

 聞いたことが信じられなくて、3度聞き返した。聞き返すたびになんだか微妙な空気になって行ったのは、まあ、気のせいだろう。
「良かったの?」
「うん。なんていうか、結果ばかり求めないで、過程を大切にしたいの。お見合いっていうのは、ちょっと急だったかなって」
「そう言ってる間に、彼女が」
「ぐっ……でも」
 御門は、愛を育てる恋愛ができる大人の女になろうと心に誓った。
 連絡先の紙片はきちんと持ったまま。友達からというのも、案外間違いではないだろう。
 少しだけ、自信もついたかもしれない。
「それで、そのためにはテクニックが大事だと思うの」
 御門は、他の人たちのお見合いの様子も見て、参考になりそうなテクニックなどを観察して今後に生かそうと画策していた。

●はじめの一歩
「お見合い……って、何するんだろうね……!」
【ぅ、ぅ……? えっと、その……んっと……趣味の、お話とか、したり、とか……!】
 お見合いをよく分かっていない御代 つくし(aa0657)と、そんなつくしに引っ張られてきたカスカ(aa0657hero002)。楽しそうだから来てみたという御代。本音は、カスカに色んな人と関わって欲しいということだ。
 そんな風に考えているのは御代だけではないらしい。
「イヴィア……お嫁さん探すんだね……」
『いや、俺じゃなくてな……』
 お節介だろうが、恋をさせたい。そして、できることなら笑顔を引き出してやりたい。それこそが、イヴィア(aa3984hero001)の真意なのだが、無音 冬(aa3984)はまた別の解釈をしていた。
(……本気なんだ……応援してあげないと……)
 張り切るイヴィアを、無音は別の方向に応援していた。

 そんなこんなで、御代とカスカ、無音とイヴィアはお互いにお見合いをしてみることになった。
(なんだか、さっきから窓の外にちらちら鈴音ちゃんの頭が見える気がする……!)
 ふんふんとメモを取りながら、気にしないでと言うようにさっと引っ込む。彼女も彼女で、何らかの研究をしているのだろう。人間関係について。
「お見合い……か」
 やってみたはいいものの、何をすればいいのかはあまりピンときていなかった。
(イヴィアのお嫁さん候補探し……かな……?)
 これについては、そっと胸に秘めておく。
「お互いの事を良く知って……仲良くなって……その後は……むぐ」
 余計なことを言いそうになったところで、イヴィアが無音の口を塞ぐ。
「よし、やってみよー!」
【う、うん……!】
 御代に励まされ、カスカも強く頷く。
『さぁさぁ、まずは自己紹介と行こうぜ♪』
 イヴィアの一言で、4人は互いに自己紹介をしあう。
「御代つくし、って言います! よろしくお願いしますっ」
 御代はぺこりと頭を下げる。黒髪がふんわりと揺れ、良い香りがした。
【ぅ、ぁ、あの、その……カスカ、……って、言います……! よ、ょろしく、お願いしてほしかったり、です……!】
 カスカの言葉は、いつも以上につっかえつっかえだ。
 とてもおどおどしているように見えるが、話すのをやめる様子はない。
 隣にいる御代に勇気をもらうように、少しずつ。
「あ、そういえば冬く……さんって、歳はなんさ……おいくつ、ですか……!」
「僕は16……。つくしさんとカスカさんは……?」
「16? ……だと同い年……かな……? えっとー……敬語じゃなくても大丈夫……かな……? 敬語苦手でっ!」
「敬語じゃなくても大丈夫……」
 少し苦笑する御代は、とても表情が豊かだ。
 無音はコクッと頷くと、顎に手を添え考える。あの表情はどうやって作るのだろうかと、つい、視線で追ってしまう。
「それじゃあ僕も……つくしちゃんと……カスカちゃんって呼ぼう……」
「わぁ……!」
【ぇ……ぅ、なんだか一気に、仲良しっ……みた……ぃな】
「ちなみに俺は、永遠の18歳だ」
「もう!」
 和やかな雰囲気が満ちる。
 カスカが口を開こうとする気配があれば、3人は辛抱強く聞く。
【ぇ……ぅ…っと……えっと……ぁ、の……ご趣味、は……っ……?】
「お、いいね!」
 お見合いでは定番の質問だ。
「趣味……」
 無音は少し考える。
「コタツで温まりながら……ミカンを食べたり……」
「おいしいよね!」
「イヴィアは?」
『俺の趣味はオシャレだな……♪』
「わかる気がする!」
 イヴィアの着こなしはとても洗練されたものだ。気張っていないのに、こなれている。それに、どんな服が自分に似合うのか知っているようでもある。
『つくしとカスカはどうだ?』
【ぼく、は……その……髪飾り……とか、飾りもの、とか……細かいの、作るの、すき……です……】
 話し終えたカスカは、ほわっと微笑みを浮かべる。
『手先が器用なのか……凄いなぁ♪』
 イヴィアに褒められると、くすぐったそうに目を細める。
「趣味……趣味……趣味………。誰かと一緒にご飯、とか……?」
 御代は、言いながらむむむと眉を寄せる。
『一緒にご飯か……なるほどなぁ……。もしかして……兄弟、いるのか?』
 兄弟。その言葉に、御代は一瞬固まった。
「兄弟はいないんですけど、家族が今どこにいるか分からないんですよね……」
【家族、のこと、……覚えてなかったり……です】
(悪いこと聞いちゃったのかな……)
 一瞬、そう思った。笑顔は途切れてしまうだろうか。しかし、御代は、顔をあげて、なおも笑う。
「だから、どっちかっていうとカスカやメグル……もう一人の英雄さんが家族、みたいな!」
【ぁ、ぅ、ぅ……ボク、も! あの……】
『何難しい顔してんだ♪ 笑え笑え♪』
 イヴィアの笑顔につられて、カスカも表情を和らげる。
『……カスカには良い家族がいるみたいだしな……』
 イヴィアは、つくしの方を見る。寂しくないならそれが一番だ。

『お二人のタイプでも聞いてみようか? 好きな異性のタイプは? どうだ?』

(イヴィア……必死だ……)
「……タイプ……」
 御代とカスカは真剣な表情で考える。
「あ、一緒に居て楽しい人、とか!」
【タイプ……とか、その……特に、は……無かったり、したり……。イヴィアさんは……?】
『俺のタイプか……、大人の事情で子供には教えられないなぁ』
 にやにやと余裕の笑みを浮かべるイヴィア。
【……ぼくも、一応……大人だったり、なんだけど……】
 カスカはむうとすねたように、小さな声で呟いた。

「今日はいろいろ、ありがとう」
【こ、こちらこそ……楽しかったり……】
『楽しかったな!』
「また会おうね!」
「あの、……つくしちゃんに聞きたい、ことがあって……聞きたい、っていうか、知りたい、なのかな……」
 無音はゆっくりと切り出した。
「……どうしてそんな風に笑えるの……? ……あ、変な意味じゃなくて……羨ましい……って言うのかな……」
 御代は、羨ましいという言葉に首を傾げる。
「うーん……。明るく元気に前向きに! っていうのがあの……えーっと……あ! モットー、だからかなっ」
「……明るく前向きに……」
 無音は、考え込むようなそぶりを見せた。

「ねぇ……イヴィアのタイプって……」
 帰りがけ、無音はイヴィアに話しかけた。
『どうした、気になるか?』
「ううん……」
 にやにやと笑うイヴィアに、無音は首を横に振る。
『……気にしてくれよ』
 無音の表情は、やはり無表情だ。
 それでも、何かわかるような気がしたのかもしれない。

「……笑顔、笑顔か……」
 ショーウィンドウに自分の顔を映しながら、御門は笑う練習をしてみた。
「あ、鈴音ちゃん!」
 声をかけられて、慌てて通常モードに戻す。

●お互いを知る
「久しぶりのデートですの♪」
 楽しそうに支度するセリカ・ルナロザリオ(aa1081)を、リゼア(aa1081hero001)がそっと眺めている。
(セリカの恋人か……どんな物好きなのだろうな)
 秋津 隼人(aa0034)達とリゼアが顔を合わせるのは、これが初めてだ。いったいどんな物好きなのかと考えてみたりもする。

 コーヒーショップの喫茶スペース。挽きたてのコーヒーの良い香りが漂っている。
 以前、秋津がセリカの喫茶店に店のコーヒー豆を持って行ったとき、一緒に来ようと約束していた場所だ。
 セリカとリゼアは、店の中に時間より少し早く来ていたらしい秋津と椋(aa0034hero001)の姿を認める。彼らもすぐに彼女たちに気が付く。
「今日はお誘いくださり、ありがとうございます♪」
「きちんとお話するのは初めてですね……秋津隼人と申します、よろしくお願いします」
 セリカが優雅に挨拶をすると、秋津もまた丁寧な挨拶を返した。しっかりとした、温和そうな青年だ。
「2人とも会うのは初めてじゃの。隼人のこと、よろしくお願いするのじゃ」
 椋は外見に見合わず、大人びた深い礼をする。こちらこそ、と、二人が続く。
「お初にお目にかかる。リゼアだ。……こんな女と付き合っているだなんて、大変だな」
 そんな言い方でも、言葉の端からリゼアがセリカを大切に思っていることが伝わってくる。秋津は少し苦笑いをしてから、真剣な表情になる。
「セリカさんとは、真剣に、お付き合いさせて頂いてます」
 赤い瞳が、まっすぐにリゼアを見る。
(顔合わせの後は……若い2人でゆっくり、が良いかの)
 気を利かせた椋が席を立つ。
「ご一緒なさらないのですか?」
「一目見て安心したわ」
「まあ」
 セリカは顔をほころばせる。
(わしは隼人の進むのを見守る存在、隼人が決めた人ならばどこまでも応援するのじゃ)
 時間まで、その辺りを探検するとしよう。

 いつもより少し格式ばった調子。二人はぎこちなく、どこかくすぐったい調子で、質問をかわす。その様子を眺めながら、リゼアはブラックコーヒーを飲み干す。
「好きな食べ物は何ですか?」
「『オムレツ』ですわね。昔によく通っていたレストランではロブスターの上にキャビアと卵が乗せてありましたの」
「キャビアですか?」
 彼女らしい返答だと思った。セリカはくすくすと笑う。
「此方に来てからは再現が難しいのでまた食してみたいものですわ。それでは、私からも。将来、目指しているものはありますか?」
「エージェントとしてならば、」
 秋津は丁寧に言葉を探り、一つ一つ口にする。
「やはり多くの人を守れるだけの力を持った強く優しい存在になりたいです。皆を守り、自分も帰って来られるような、そんな強さが欲しいです。エージェントとしてでないなら……」
「ないなら……なんですの?」
「ち、父親、とか、でしょうか」
 秋津の頬が赤に染まる。セリカも一瞬、驚いた顔をして、すぐに笑顔になった。
「長らく独りだったので、家族に強く憧れがあるんです」
「……きっと、叶いますわ。ひょっとすると、ずいぶん早く」
 セリカはそっと秋津の手を取る。リゼアが視線をやると、セリカはいたずらっぽく笑って手を放した。

「何か一つ、何でも手に入るとしたら何が欲しいですか?」
「『タイムマシン』でしょうか。過去へ遡り、当時ならではのスリルを楽しみたいですの」
「過去、ですか」
 秋津は、まだ出会ってない頃の彼女を想像してみる。
「昔の隼人様はどんなお方だったのかしら」
 その一言で、不意に、その隣に自分がいる光景が浮かぶ。
「あの、聞いてみたいことがあったんですの」
「もちろんです」
「私の、どこを好きになりましたか?」
「何と言っても奔放な所ですね」
「奔放?」
 秋津はカップを持ち上げて、一息つく。丁寧に、自分の気持ちを伝える。
「自由で、楽しそうに歩いているのがこれまでの俺には無かった物、なのでまずそこに惹かれました。それに仕草や料理上手なところなど、とても女性らしいとも思います……とても可愛らしい、と」
「まあ」
 可愛らしい、そう言って貰えるのは、嬉しい。
「一緒にいたら楽しいだろう、一緒にずっといたい、と、そう思いました」
「私も……同じ気持ちですわ」

「遅くなってしまいましたね。名残惜しいですけれど、今日はこのくらいにしておきましょうか」
「ええ、また近いうちに」
 秋津を見送って、セリカはリゼアに微笑んで見せる。
「素晴らしい殿方でしょう?」
「お前と付き合うくらいだ。物好きではあるが、頼れそうな男で安心だ」
「私とお付き合いしている殿方なのですから当然ですわ。……惚れてはダメですからね?」
 リゼアは笑みをこぼした。二人の将来は、幸せに満ちていることだろう。

●思わぬ遭遇
「ちょっとどうかしら、落ち着いてもいいころじゃない?」
 ……などと、近所のおばさま方と世間話をしていて。気が付くと、話は具体的なフェーズまで進んでいた。
(とても良いお肉を頂いて食べてしまったのがいけなかった……)
 合コンの経験は多いものの、お見合いは初挑戦だ。

 ホテルのレストランにやってきた木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、思いがけない人物と鉢合わせた。
 ガルー・A・A(aa0076hero001)と、その付き添いと思しき紫 征四郎(aa0076)だ。紫は、おしゃれな洋服を着ている。
 思いがけない――それも、スーツでとびきりの正装をしている木霊とガルーの姿を見て、オリヴィエと紫は思いっきり固まった。
「あ、どうしたの? ひょっとしてそっちもお見合い?」
「お、お、お見合い……ですか!?」
 紫は口をパクパクとさせて、すぐに奥にひっこんでいってしまう。
「……何かこう、改まった場所だと緊張するよね……。あれ、オリヴィエどこ行くの?」
『野暮用ができた』
 そう言って、オリヴィエも席を外すのだった。

「初めまして、とても素敵なお嬢さんだとお話は常々聞いています」
「こちらこそ、ご活躍はかねがね」
 相手は、一般人の女性だ。
 最初は緊張していたようだったが、木霊の持ち前の明るさで、すぐに和やかな調子になる。
(それにしても、せーちゃんたちはどこ行ったのかな?)

 席を離れオリヴィエと合流した紫は、お互いに情報交換をする。
「つまり、そっちもお見合いなんですか?」
 紫の言葉に、オリヴィエはコクリと頷く。
 互いの相手がどんな人物なのか。
「いい人そう……でした」
『……』
「……とってもきれいな方でしたし……その、でも……」
『ああ……』
 良くないことはわかっている。
 けれど、放ってもおけはしなかった。

「木霊さんって、とっても素敵な方なんですね」
 リュカのお見合いをこっそり覗きに行った紫は、話を弾ませる二人を眺める。高い椅子、同じ目線。お似合いの二人。……大人の世界だ。
 いつもの調子で出て行って、ちょっと雰囲気に水をさして……。けれど、なんとなく真剣なリュカの表情を見て、決意が揺らぐ。
(そりゃ邪魔、したい、ですけど)
 この気持ちのモヤモヤは汚い感情だから。
 ぎゅっと、洋服を握る。
(でも、でも。きっとこのままでは後悔してしまう)
「このまま、真剣にお付き合いで来たら嬉しいって、そう思うんです」
「ありがとう、でも――」
「お客様!」
 女性の声を聴いたときには、頭が真っ白になっていた。
 ボーイの静止を振り切って、小さな影が木霊に飛びつく。
「へっあっえっせーちゃん!? なんでここに?」
「……っ、リュカ! あの! ダメなのです!」
 紫の言葉は、上手く言葉になっていない。
「結婚して、離れてくの、ダメなんですから……っ」
 泣きながら言う紫をなだめながら、木霊はそっとハンカチを差し出す。
「あの……」
「すみません、やっぱり、こういうのはまだ」
 苦笑しながら、木霊は女性に断りを入れる。
「エージェントとして動いてる以上、安定とはまた遠い状態ですし、それに、目と体質のことで、で必要以上に苦労させてしまいそうですし」
「そうですか……とても残念です」
(お見合いが上手くいかなくって、ほっとしてしまうのは、やっぱりずるいことなんでしょうか)

「いつかきっと、素敵なマダムが会いにきます、から、待ってて、ください」
「うんうん」
 しばらく一緒にいると、ようやくしゃくりあげる声が小さくなった。ぽんぽんと背中をさする。大丈夫そうだ。
「よし、せっかく高級ホテルまで来たし、美味しいご飯食べて帰ろっか!」
「いいんですか?」
「それとさ、」
 いたずらっぽく、木霊は声を潜める。
「ガルーちゃんいい雰囲気になってたら面白くないから邪魔しに行こっか」
「はい」
 紫はこくんと頷いた。

●思わぬ行動
 木霊が見合いの話を貰ったのと、奇しくも同じころ。
 ガルーは製薬関係の仕事の人脈から、お見合いの話を受けていた。
 自分が英雄であること、そして何よりエージェントでいつ死ぬかわからないことを丁寧に伝えお断りする予定……だったが。
 いざあってみれば、見合い相手は、結構な美人だった。

『これは驚いた。写真で見るよりずっとお綺麗です』
 女性は、くすくすと笑った。
 聞き上手な女性だ。美人で程よく相槌を打ってもらえるとなると、ついお喋りの勢いも増すというものだ。
(ガルーが本気なら、応援しますけど……あっ、でも勢いでOKするのはダメですからね?)
 紫の言葉が脳裏に浮かぶ。そういえば、さっき木霊らと出くわした。
 そうしていると、仕事の連絡が入った。確認事項のようだったが、おろそかにするわけにもいかない。
『すみません、ちょっと外します』
「……」
 ガルーが席を立っていると、女性の前に緑髪の少年――オリヴィエが書類を手渡した。
「えっと、これは? ……ええ!?」
「性格・酒癖・女癖」をまとめて書面にしたレポートだ。驚いた見合い相手の手から、一枚の写真が滑り落ちる。
 ちょうど良く戻ってきたガルーの目の前に、ぺらりと一枚の写真が舞った。それを見て、表情を凍りつかせる。
『あっちょリーヴィやめてちょっと、あーーー』
 写真に写っていたのは、「ブルマ着用ガルー」だ。

『ブルマ事件は俺様のせいじゃねぇだろ!』
 弁明はしてみたものの、後の祭りだ。見合いは破談となった。まあ、当初の予定通りともいえる。
 丁寧に謝罪を済ませると、先方も理解してくれた。見合いは破談になったものの、とりあえず、笑い話で済みそうだ。
「なーんだ、もう終わっちゃってたんだ」
「見てみたかったですね」
「ね」
『仲良しか』
 やってきた木霊と紫が、顔を見合わせる。

『なぁリーヴィ。そういえばお前、なんで俺様の見合い邪魔しにきたんだ?』
 彼がこんなことをするのは珍しい。少しからかうように言うと、オリヴィエは目を逸らした。
『……、……別に、深い意味なんてない。リュカの言葉を借りるなら、面白くないからやっただけ、だ』
 そう素直に言われると、どうも怒りづらいというか。
(まぁ写真の一枚で破綻するなら上手くはいかねぇか)
 残念ではあったが、破談になったことには妙に後悔していない自分がいた。どこかで冷静に考えている。
 手の込んだレポートを眺めながら、ガルーは思った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御
  • ブラッドアルティメイタム
    aa0034hero001
    英雄|11才|男性|バト
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 残酷な微笑み
    朔夜aa0175hero002
    英雄|9才|女性|バト
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 想いの蕾は、やがて咲き誇る
    カスカaa0657hero002
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 繋がれ微笑む『乙女』
    セリカ・ルナロザリオaa1081
    人間|18才|女性|命中
  • エージェント
    リゼアaa1081hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • エージェント
    絶閃aa1799
    機械|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    セブンソードaa1799hero002
    英雄|18才|?|シャド
  • 穏やかでゆるやかな日常
    無音 冬aa3984
    人間|16才|男性|回避
  • 見守る者
    イヴィアaa3984hero001
    英雄|30才|男性|ソフィ
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