本部

長柄武器の脅威

宇山たかし

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/02/21 09:33

掲示板

オープニング

●長柄は剣よりも強し
 まだ生徒もほとんど登校していない早朝の学校、その敷地の端にある武道場を目指して剣道着を着た数名の男子生徒と顧問の教師が歩いていた。
「いいか、大会まであと十日だ! 気合い入れてけよ! お前ら!」
「はいっ!! 先生!」
「今年こそは絶対に全国大会に出るからな!」 
 彼らの所属する剣道部は県内では中堅上位の実力といったところで、大会では毎回あと一歩というところで全国行きを逃していた。その『あと一歩』を超えるために少年たちは朝一から練習をしようと武道場に来ていたのだ。
「準備体操をしたら最初は素振りな!」
「オオ!!」
 歩きながら主将と思しき少年が指示を出すと、周りの少年たちもそれに答える。大声の返事からは彼らの士気の高さがうかがえる。
 しかし、武道場の扉を開けると──、
「なんだ、あれ? 鎧……?」
 生徒の一人が困惑の声を漏らした。
 武道場の中には鎧を着こんだ三体の人型が座り込んでいた。
 一体は、手に長槍を持つ純和風の鎧武者。
 一体は、ハルバードを床に置いた鋼鉄の鎧騎士。
 一体は、矛を肩に担いだ、三国志にでも出てきそうな中華風鎧武将。
 鎧兵たちは少年たちの存在に気が付くと腰を上げ、各々の武器を構えた。
「逃げろッ!! 従魔だ!!」
 顧問の教師が叫び、素早く生徒たちの前に出る。彼はリンカーだったようで幻想蝶の中にいた英雄とリンクし、AGWの日本刀を取り出して上段に構えた。
 その間に生徒たちは校舎の方に向かって駆けだす。いくら剣道の腕を磨いていたところで一般人に従魔は倒せない。懸命な判断だ。
 残った教師を見て鎧騎士と鎧武将は下がる。相手が一人ならこちらも一人で十分、鎧兵たちはそう考えたのだろう。ゆっくりと鎧武者は教師に近づいてきて、
「キエエエエエエエエエェェェェェッッ!!」
 機先を制するように教師は前進し、そのまま刀を振り下ろす──!!
 先手必勝の奇襲。
 がしかし、日本刀が鎧を断つことはなかった。
(え…………? 遠……っ)
 刃が身にとどく前に、一瞬で鎧武者は後ろに飛び退り、日本刀の間合いの一歩外まで回避してみせたのだ。
 刀の間合いの一歩外、そこはまだ長槍の間合いで。
「ウオオォォン!」
 雄叫びと共に放たれた鎧武者の突きが教師の体を貫き、血の華が散った。

●討伐対象、三領の鎧
「『剣術三倍段』という言葉があります」
 夕日が射し込む会議室で、H.O.P.E.職員はエージェントたちにそう言った。
「『剣で槍を相手にするには三倍の技量が必要』という意味なのですが……、まあ、あくまで目安ですし、異論のある方もいるでしょう。ですがそれでも、リーチが長い武器の厄介さは誰もが認めるところなのではないでしょうか?」
 資料をめくりながら職員は語る。
「今回皆さんに討伐していただく従魔三体は、それぞれ長槍、ハルバード、矛と、長柄武器を得物にする鎧兵です。高校の武道場に籠城しており、今朝、練習に来た剣道部員たちを襲っています」
 エージェントの一人が、剣道部員たちを心配して声をあげた。職員はそれに対して冷静に答える。
「生徒たちは、リンカーである顧問の先生が従魔を足止めをしたおかげで無事に逃げることができ、先生の方も重傷を負ったものの、生還を果たしました。……どうやら従魔はテリトリーとした武道場から出ることを嫌い、外に逃げれば深追いはしてこないようです」
 犠牲者がまだ出ていないことを聞いて、エージェントたちは胸をなでおろす。
 学校自体は現在、封鎖されて一般人が近づけないようになっている。
「戦闘を行った先生からの情報によると、三体は全てデクリオ級で能力は平均的なレベルだそうです。ただ、瞬発力と筋力だけは優れており、後ろに飛んで敵の間合いから外れて、そこからリーチが売りの長柄武器で一方的に攻撃する戦法をとってきます」
 室内での戦闘になるので後ろに下がるのには限界があるだろうが、無策で突っ込めば壁際に追い込むまでに大きくダメージを負ってしまうだろう。 
 後ろに退けないように囲む、長物よりさらに射程の長い攻撃手段で攻める、突撃するならば敵の攻撃に耐えられる準備をするなど、なんらかの対策が必要だ。
「幸いなことに、敵は全員、武器の扱いはあまり上手くないようです。パワーを活かして長い武器を振るい、スピードで有利な間合いを作る。武の技量と言うよりは、人外の身体能力に依存したやり方と言って良いでしょう」
 あるいは、そこにつけ入る隙があるかもしれない。間合いさえ制することができれば倒すのはそこまで難しくないだろう。
「厄介な敵ではありますが、できる限り早期の討伐が望まれます。十日後には剣道部の大会があるようで、先生は重傷を負っていても生徒たちが早く練習を再開できるようにと願っていました」
 どうか、従魔を倒して剣道場を解放してあげてください、職員はエージェントたちに頭を下げた。

解説

■成功条件
従魔三体の撃破

■敵情報
鎧兵×3
鎧(正確には鎧を着ている展示用の人型)に憑依して、どこかからやって来たデクリオ級従魔。
全員長柄武器を持ち、後ろに下がりつつリーチを活かして攻撃してくる。
後ろに真っ直ぐ下がる場合のみ、移動力を無視して任意のスクエア分移動できる。
攻撃は二種類。
・突き:素早く前進し突きを放ち、素早く元の場所に戻る(単体・直線6)
・払い:周囲を薙ぎ払う(無差別・範囲3)

個別情報は以下の通り。
・鎧武者
日本の甲冑を着て、長槍を持っている
三体の中では平均的なスペック

・鎧騎士
西洋の鎧を纏い、ハルバードを扱う
他の鎧兵より頑丈で、仲間を狙う敵の前に立ちはだかることも

・鎧武将
三国志時代の鎧を身に着け、矛を武器とする
特に瞬発力に長けている

■戦闘場所
広々とした武道場(縦18×横9スクエア)、時刻は夕方。
プレイングに特に記述がない場合、手前の入り口から入ることになる。
奥には倉庫があってそこの窓からも室内に入れるが、後ろを取られたくない鎧兵たちが備品で窓を塞いでいるので、侵入にはそれらをどける手間がかかる。その過程で音も響いてしまうので警戒されてしまう可能性も大きい。
壁はリンカーが破壊目的で攻撃すれば穴を開けられる強度だが、剣道部が練習に使うので全壊させるのは望ましくない。

リプレイ

●布陣はいかな形を成すか
 夕暮れの武道場、その陰で白髪の誰かはその髪を黒く変化させつつ言う。
「ここは入り口からくる皆が交戦してから始めましょう」
 金の瞳と片方だけの角を持つ誰かがその声に答える。
「剣道三倍段とは言うけど……、本当の戦いってもっと汚いものだよね。例えば俺達がしようとしてることとか……」

 武道場の扉が外から開け放たれ、沈む夕日を背負ったエージェントたちが姿を現した。
「ぬ!?」
「俺は悪を滅ぼす赤色巨星! 爆炎竜装ゴーガイン! 不埒な従魔ども! 俺が相手だ、かかって来い!」
 鎧武将の驚きの声を掻き消すように高らかに名乗りを上げる飛岡 豪(aa4056)。彼を先頭に、6人のリンカーが共鳴状態で武道場に乗り込む。
 齶田 米衛門(aa1482)はトントンと床を踏みつつ真赤のガントレットを付けた拳でファイティングポーズをとる。
(床の損傷は最小限にしたいッスね。武の道は足捌きッスから)
「来い、『闇夜の血華』」
 大猿が如き姿の狒村 緋十郎(aa3678)は幻想蝶から愛しき英雄の愛剣を召喚し、構えた。
「ウオオォォン!」
「GUOOONNN!」
 雄々しき三人のエージェントに呼応するように、鎧兵たちは雄叫びらしき声を響かせながら武器を手に取り、臨戦態勢になった。立ち位置は踏み込めば長柄の突きが届く距離。桜小路 國光(aa4046)はグレイヴ付きの大盾を油断なく構える。
「……言葉は通じそうもないね」
「そうだね。なら──、行こう」
 共鳴前よりもクールな調子を見せつつ、グッ、っと踏み込んで、荒木 拓海(aa1049)が突撃で先手を打った。
 狙いは鎧騎士。
「GUOOOU!!」
 迎撃に放たれた突きを、拓海は鉞の背で払うと、その勢いを殺すことのないまま分厚い刃を振り上げて鎧騎士に叩きつける。
「GUUN!!」
 鎧騎士も取り落としそうになるハルバードを持ち直し、強引に柄で防御する。されど、鉞の豪撃に足腰が耐えきれず背から地面に倒れ込んだ。
 倒れて隙のできた騎士に一気呵成の攻めを叩きこもうと拓海は再度、鉞を持ち上げるが──、
「オォンッ!!」
 突出した拓海めがけ、先程まで鎧騎士が立っていた位置から長槍が伸びてきた。
「くっ……」
 やむを得ず拓海は防御に転じる。かろうじて長槍の刃を鉞の腹で受けることに成功するが、その隙に鎧の重みを感じさせない軽快さで鎧騎士はバク転するように飛び、体勢を立て直す。
 突きを放った鎧武者もすぐさま後方に退いていた。
「突いては即座に退く。聞いていた通りですね。気を付けてください、タク兄」
 烏面の穴から覗く瞳で動きを観察していた国塚 深散(aa4139)が警告を発する。
「は!」
 と、そこで鎧武将が動いた。武将は鎧兵の中でも一段上の速度で緋十郎に向かい踏み込んだ。
 矛と槍の違いの定義は様々で、矛自体にも多くの種類があるが、この武将の使う矛は槍よりも軽量のもののようだ。それが踏み込みの速度に、そして突きの速度につながっている。
 だが、『軽い』ということはメリットであると同時に、デメリットでもある。
「一番動きが早い、相手は貴方に決めました」
 伸ばされる矛の柄に忍刀があてがわれた。力任せな鎧兵たちとは対極の技術が、軽量気味な矛の軌道を逸らしてみせた。
「貴方の相手は私ですよ。さぁ、おいでなさい」
 深散のターゲットドロウに釣られて鎧武将は彼女に乱れ突きを放つが、深散は身を捻り、屈み、時には指行性動物のような足で床板を蹴って飛び、舞うようにかわす。
「武将が相手になったか。だが、誰であれ、目の前の敵を叩き斬るまでだ」
 共鳴する英雄の影響か、普段よりいささか攻撃的に。一撃粉砕を志した緋十郎の魔剣が深散を狙う矛に喰らいついた。
 ガギィッ!! と金属同士がぶつかって矛がひび割れる。
「くッ!?」
 焦りから鎧武将は仲間たちの下へ逃げようと跳ねる。だが、そこに、
「逃がさねえッスよ!」
 フォローを意識して動いていた米衛門がいつの間にか背後をとっており、赤のライヴスの奔流を纏った拳を鎧武将の後頭部に激突させた。
「武将は私たちが。西洋鎧が少々厄介です。抑えてください」
 機動力のある武将への包囲は成された。分身と共に攻撃しながら、深散は他の敵の対処を仲間に託した。

「身軽さが売りのようだが、それは貴様らの専売特許ではないということを思い知らせてやろう!」
 ロッドによる電光石火の『面』が鎧騎士の兜を叩く。
 剣道の動きで闘う豪から受けた痛打に、騎士の頭は混乱しふらつく。けれども、鎧兵一の頑健さは伊達ではなく、後方の鎧武者へ突貫する國光の盾の軌道に自ら入り込み、武者を庇う。
(銃以外の遠距離型は懐入られると基本、弱い。が、止められるか……)
 守りに長けた國光にとって、同じく強固な守りを持つ鎧騎士の実力は認めざるを得ないものだが、敵としては厄介なばかりだ。鎧武者がフリーに動ける現状はうまくない。騎士を突破して武者を抑えたいところだ。
 だが、それでも國光に焦りがあるかと言えば、そうではない。なぜなら──、
(そろそろか……?)
 國光が思った瞬間、それは来た。

 ガシャン! と奥の倉庫から音が響いた。
 それと同時、黒い影が倉庫の扉から駆け抜けてくる。
「あの鎧騎士が他の鎧を守ってるのか……なら、あえてこっちを相手にするよ、俺は」
 影──、村主 剱(aa4896)は瞬時に戦況を理解、ライヴスの針を鎧武者に打ち込む。
「オォ!?」
 武者は一歩後ろに飛んでそれをかわした。
 惜しかった。剱は潜伏も使用しており、窓を塞いでいた備品が倒れる音がしなかったら奇襲は決まっていただろう。
 だが、剱はそれを残念には思わない。攻撃を外しても自分の仕事は果たしている。
 銀光が、翔けた。
「ウオォンンンン!?」
 次々と銀の光が包む矢が鎧武者に突き刺さった。
「気を引いてくれてありがとう、村主」
 鍛冶神の名が刻まれた天弓を引くキース=ロロッカ(aa3593)。彼も剱と共に倉庫から武道場に侵入していたのだ。
「来てくれたか……」
 モノクル越し國光の瞳が喜びに細められる。友が来てくれた。
 襲撃者に鎧武者以外の鎧兵たちも意識を奪われる。鎧騎士の意識が逸れた間に、國光は鎧武者と闘う構えを取る。

 鎧武者、剱と國光が抑える形に。
 鎧騎士、強力な攻撃を持つ拓海と豪が相手取る。
 鎧武将、深散と緋十郎、それから全体のフォローを請け負う米衛門が包囲。
 そして遠距離攻撃を持つキースが武者と武将、場合によっては騎士をも狙う。
 壁に録画機能のあるスマートフォンを立てかけつつ、キースは宣言した。
「貴方達が剣より間合いを取り有利な陣を敷くというのなら、こちらはさらに有利な陣を敷くだけの事。心技体とはかけ離れてますが」

●強打、包囲、安定
 槍が、ハルバードが、矛が伸びる。
 リンカーたちがそれらを払い、己の武具をぶつけかえす。
 最初に決着がついたのは、必然、最もダメージを負う役割を担っていた鎧騎士との闘いだった。

 拓海と豪は互いをカバーしながら立ちまわっていた。
 拓海は思い出す。
 相棒である英雄は言っていた。戦いは己の得意と相手の動きを比べ、攻め方を瞬時に判断できるか否かが勝敗を決める、と。
 鎧騎士の突きが拓海に向かう。それを見て今こそ機だと判断した。
 浅く拓海の脇腹をハルバードの斧頭の刃がかすめる。
 その痛みを意に介さず、拓海はクロスカウンターの一撃を見舞った。
「武器は道具でなく己の一部。大切なのは、どう己を鍛え、そして武器を生かすか!」
 鉞の強烈な一撃が叩き込まれ、鎧騎士は思わず倒れかける。
 男はヒーローだった。ゆえに、そのチャンスを逃さない。
「俺達をなめるなよ!」
 豪が叫び、己が武器にライヴスを込める。
 ビームソードのように光るロッド、銘をシンガンブレード。
 その力で感覚を極限まで研ぎ澄ました豪は、ここぞという時の必殺技を使う。
「シンガンブレード……秘剣・蒼鮫返し!」
 疾風怒濤、面に、小手に、もう一度小手にと、光舞う三連撃が鎧騎士の身を叩く。
 これには騎士もたまらずハルバードを手からこぼし、膝をついた。見れば、もはや騎士には反撃をする力もないようだ。
 拓海と豪の勝利は明らかだった。
 しかし。
 騎士道など持たずとも、彼が騎士であることには変わりなく──。

(『突く』ってのは技量がねェと上手く突けないんスよ)
 米衛門は師から習った武器の特性を頭の中で反芻しながら、矛の突きを回避した。
 三対一では鎧武将も疲弊し、あと一撃で倒れてもおかしくない様子である。だが、まだ武将にも切り札があった。
(斧槍は『叩き切る』、矛は──、そうだ!)
 その切り札にいち早く気付いたのは、考えを巡らせていた米衛門だった。
「『斬る』ッスッ!!」
 端的なその言葉に深散と緋十郎が反応する──、その一瞬前に、鎧武将は周囲を切り払った。
 そう、突きだけではない。長柄武器には払いもあるのだ。
 いち早く気付いた米衛門と攻撃予測を得手とする深散は回避に成功した。だが、緋十郎は防御が間に合わず、矛が通った太ももから血が飛び散った。
「ぐっ……っ!」
「狒村さんっ」
 三人の内攻撃の要と言える緋十郎が怯む。決め手にかけるという自覚はあったが、深散は自分がトドメを担おうとする。
 分身を呼び出し、左右から挟むように鎧武将の首に忍刀を振るう。
 だが──、
「WOOOOONNN!!」
 そこに鎧騎士が割って入った。
「すまない! 逃げられた!」
 豪の声が深散の耳に入った。その言葉を聞きながら振るわれた深散本人の刃は、鎧の小手に防がれる。分身の刃は騎士の鎧の隙間を切り裂くが、トドメにはいたらなかった。
「なら、オイが!」
 鎧騎士の体に鎖が巻きつくと、米衛門のボディーブローがねじ込まれた。
 騎士の体が飛ばされそうになるが、鎖の束縛がそれを許さず、
「こいつで、トドメッスよ!」
 疾風怒涛の拳。バランスの崩れた鎧騎士に米衛門の渾身のアッパーが直撃した。
 今度こそ、確実なトドメである。
「かッ!?」
 それを見た鎧武将はいったん包囲を抜けようと足を動かそうとする。が、その前にただならぬ気配で魔剣を振りかぶる緋十郎が立ちはだかった。
「おい、どこへ行く」
 チャージラッシュでライヴスを充てんした緋十郎の剣からは黒の瘴気が立ち上る。
「ウオオオオオオオオォォォォ!!」
 隆起した筋肉で振るう三連斬。
 踏ん張る足から零れる血も気にせず、緋十郎は鎧も中の人型も関係なしに従魔を断ち切った。

 一番、長引いていたのは鎧武者との闘いだった。
 剱も國光も攻撃力を売りにするエージェントではない。キースも支援をこちらの戦場に集中させていたが、やや決め手に欠けていた。
 鎧武者の長槍にライヴスで強化した盾を構えた國光がチャージをかける。
 盾ごと貫かんとする槍の強撃を國光は受け流し、運動エネルギーを叩き込む。
「村主、縫止を」
「うん」
 キースの的確な指示を聞き、國光との挟撃の位置に立っていた剱が針を鎧武者に突き刺す。武者は体が硬直して動きが鈍る。そこにキースの矢が飛来する。
 攻撃では劣るが、安定感では対武者組が一番秀でているかもしれない。
「サクラコ、トドメの用意を」
「分かった!」
 キースの合図に従って國光が勢いよくタックルを決め、盾を用いて壁に鎧武者を押さえつける。
「オォォォォン!! ウオオオオン!!」
「逃がさない……、よ……っ」
 従魔との力比べは楽なものではない。國光は歯を食いしばって押し返す力に耐える。
 大きく飛んだ剱は宙から落下しながら、漆黒の暗殺刀を抜いた。
「切り刻むよ」
 そのまま身動きの取れない鎧武者の全身に幾度も斬撃を刻み付けた。
「グオオォォオン!!」
 痛みに鎧武者の暴れる力も強くなり、國光の負担も増す。盾の抑えがわずかに緩み自由になった腕が長槍を強く握り直し、至近距離で無理矢理、國光に刃を向ける。
 それでも、國光は抑えを離さず、逃げもしなかった。
 それは、一番の友を信頼するからだろう。
「村主、退いてください。ありがとう、サクラコ。これで終わりです」
 その信頼にキースは答えた。
 剱が後ろへ飛ぶとともに、鎧武者と國光に殺到する矢の雨。それらが体に突き刺さる直前、振り返り見ることもなく國光は退避し、残された鎧武者は鏃に身に浴びた。
 人ならば痛ましいその姿はまるで落ち武者。
「決着だね」
 剱がホッとしたように、締めの言葉を述べた。

●守った場所、伝わったもの
 闘いから一夜明けた日の午後、拓海は剣道部の顧問の教師が療養する病院を訪れていた。
「ありがとう。君たちのおかげで生徒たちは練習を再開できる。だが、それだけに寝るしことしかできず指導に行けない自分が情けないな……。痛っ……」
「オレは一人で従魔を止め、生徒を守ったあなたを尊敬します。生徒達も心強かったでしょう」
 それに、と拓海は言う。
「今頃、オレの仲間たちが──」

「ゴーガイン、カッケー!」
「盾の兄ちゃんも格好良い!」
 学校の視聴覚室で剣道部員の少年たちは闘いの映像を観て、沸き立っていた。キースがスマートフォンで撮影した映像だ。WNLの職員が善意で編集をしてくれたので見やすくなっている。
「なんだか少し照れくさいね。オレの武器は盾だけど参考になるのかな?」
「武器に限らず、試合と実践は異なるものですが、活かせる点はあると思いますよ。特に心の面で。それにサクラコ、人気ではないですか」
 二人が壁際で話していると、ドタドタと米衛門が室内に入ってきた。
「お~い、修繕終わったッスよ~! 練習にするッス! 今日は特別講師が来てるッスよ!」

「俺の指導は厳しいぞ。ついて来れるか? まずは素振りからだ!」
「「「はいッ! テザー先生!」」」
 米衛門が言った特別講師とは、武道場には少々浮いたヒーロースーツの豪のことだった。
 ヒーローは少年皆の心の夢。爆炎竜装ゴーガインの闘いに魅せられた少年たちは彼の厳しい指導に従い、一心不乱に竹刀を振るう。

「私からの剣技でのエール、伝わったようですね」
 端の方で同年代の少年たちの練習風景を眺めていた深散は、壁にもたれていた緋十郎に声をかけた。
 その声に彼はうなずく。彼もまた剣を扱うものだが、その剣技は剣道とは程遠い剛剣。そのため、指導には混じらずに練習を見守っていた。

 休憩時間には、剱が主将に話しかける。
「剣道の試合、良ければ拝見してもいいですか? 俺もまだまだ覚悟が足りてないので……」
 と、それを聞いた豪が、
「それなら見学だけじゃなく、剱も一緒に練習をしたらどうだ? 俺が稽古をつけよう」
「えぇ!? じゃ、じゃあ、お手柔らかにお願いします……」
 その後、ヘロヘロになるまで練習をさせられた剱の姿を見て、剣道部員たちはよりいっそう奮起したとかなんとか…………。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • もちを開きし者
    村主 剱aa4896
    機械|18才|男性|生命
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