本部

【屍国】連動シナリオ

【屍国】感染調査―非力な者の足掻き方―

山鸚 大福

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/02/28 01:30

掲示板

オープニング

 ――HOPE東京海上支部・休息室――


「ゾンビ騒動は広がる一方か、結界に感染症、こりゃしばらく休みはねーな」
 ぼさぼさ髪の研究員、桜木久隆が、缶コーヒーを片手に、近くの男性職員に話しかけ、どかっと腰を降ろした。
 男性職員は三十前半だろうか……きっちりとした七三分けをしたHOPE職員のその男は、隣に座った久隆に顔を向けた。
 その手には飲みかけの缶コーヒー。
「調査の手は進めているのですけどね。他に大きな事件も起きてますし、エージェントに頼ってるのが現状ですよ」
 今、HOPEを騒がせているのは四国だけではない……むしろ、四国よりも重要視されるべき愚神の事件が起きているせいか、四国の調査は遅れている。
 一般人にも被害が広まっている状況で総力をあげられないのは、関わっている人間にとって歯痒いものだ。
「なんで重なっちまったかなぁ、あっちもこっちもじゃ手に負えねえよ」
 ぼやくような久隆の言葉に、七三分けの職員が苦笑した。 
「鏡子さんならともかく、久隆さんがいうと妙な気分ですね」
「どういう意味だコラ」
「鏡子さんに仕事丸投げじゃないですか」
「ありゃ鏡子が勝手に持ってってるだけだっての」
 はは、と笑う七三の男を不機嫌そうに見てから、久隆が一口コーヒーを飲んだ。
 少しの間、何かを考えてから……久隆は口を開いた。
「ゾンビに結界か……なんてーか、変わったよな」
「というと?」
「昔なら笑い話しだったろそんなの。英雄も愚神も能力者も……あんときは盛り上がったが、こうなっちまったら良かったのかわかんねーな」
 英雄達がこの世界の表舞台に現れたのは、彼らが子供の頃だ。
 当時、空想の産物だったはずの存在が現実に来た事は、彼らに数多くの感動と……喪失をもたらした。
「ま、お陰で霊力研究なんてやって飯食えてるから、それでもいいけどよ、死ぬ奴は増えたよな」
「増えましたね……でも、憧れの正義の味方にもなれる時代ですから、僕達で助けましょう」
 久隆は、男の向けた屈託のない笑顔に苦笑を返す。
「変わんねぇな、お前は」


 愚神、英雄、異界の産物……神々がもたらした贈り物……それは時に幸福をもたらし、不幸に人を沈める。
 さながら今の世界は、嵐の中の小舟のような、そんな不安定さを見せているように感じるが……だからこそ、それに翻弄されながらも、HOPEに所属をする彼らは闘う……。
 『不幸』や『悲劇』と言うものが、少しでもこの世界からなくなるように。 


――――Link・Brave――――――


 屍国編―間―


『感染調査――非力な者の足掻き方――』


―――――――――――――――――


 四国で悲劇を加速させているもの……。
 それは間違いなく感染症だろう。
 治療薬が開発されたものの、量産ができてない以上……感染者全員にそれが行き渡っているわけではない。
 四国の病院で延命措置を必要としている者は依然として多く、中には病院に入る事も出来ずに、病と闘っている者達もいる。
 必要なことはなんだろうか?
 彼らを医療行為で助ける、それも一つの選択肢だ。
 だが、もう一つ大事な事がある。
 それは、今も広がる感染症……その感染原因と感染対象、感染ルートを究明し……その対策に力を注ぎ、新たな感染者を生み出さない事だ。


 ――善通寺――


 つい昨晩、襲撃事件が起きたその場所では、現地調査が行われていた。
 呪文の刻まれた白骨死体、金堂やその他文化財の調査、さらに西院と東院の再調査等だ。
 とくに、敵と思われる存在が潜んでいた西院や、現在は消滅した魔法陣……六道輪廻図の描かれていた地面には重点的な調査が行われたが、現在の霊力技術で調べた限り、大きな進展は得られなかった。
 もっとも、東院に再調査がなされ、専門家により金堂の本尊と金堂そのものに何らかの作用がある事が判明したことは、一つの進展であるかもしれない。
 他に攻撃が行われた、一番所と八十八場所の調査結果も、すぐに出る事だろう。
 そんな善通寺の調査に加わっていた一同に、HOPEの男性職員から通信が入った。
『あなた方に、新規の依頼を頼みます。簡単なものなので、受けても良いと思われる方はご協力ください』
 彼はそう語ると、その依頼の内容を話した。



解説

【内容】
動植物のサンプル確保


【詳細】
善通寺市内で人間以外の生物を捕獲しHOPEに提出してください。
HOPEは感染ルートに幾つかの推測を立てていますが、現在はサンプルが圧倒的に足りません。
感染症への今後の対策や感染ルートの特定の為にサンプルが必要になりますので、ご協力願います。


【情報】
・善通寺周辺、及び山に近い場所に住んでいる住民は現在避難しています。
・捕獲や回収に必要な檻や袋は、HOPEから支給されます。
・捕獲した生き物はトラックに乗せて、善通寺市内の駐屯地に運ばれます。
・感染しているかどうかは問いません
・昆虫や植物、魚等にも感染が広がっている恐れがあるので、そちらのサンプル回収もお願いします
・今回の依頼は守秘義務が発生します(依頼内容が一般の方に広まった場合、義憤から危険な行動を取るなどの危険がある為です)


【地形】
善通寺周辺には、山、川、町、どれも揃っています。移動にもさして時間を必要としないので、好きな場所でサンプル回収を行ってください。


以下PLさんへ


【戦闘関係】
四国の山には感染したゾンビや動物もいますが、プレイングで要望がない限り戦闘関係の描写はカットし、調査を行います。
対策をしない事でのデメリットも、基本的に発生させませんので、調査に集中されて構いません。

【善通寺や白骨死体、結界の事を調べたい】
善通寺や攻撃が行われた寺院、白骨死体、近隣の霊場への調査が行われ、その情報は調べられていますが、それでも調査をしたい事や気になる事があるのなら調べても構いません。


【考察等や情報収集に関して】
極力拾いますが、リプレイ中に全て拾えない可能性もありますので、予めご了承ください

リプレイ


 夜が明ければ闘いなどなかったように静かで、朝日に照らされた世界が眩しくさえ思えてくる。
(まだ昨日の事なんだよな……)
 昨日の闘いを思い出す日暮仙寿(aa4519) の耳に、少女の声が聞こえてきた。
「仙寿様ー!捕獲機貰ってきたよー!」
「……お前は元気だな」
 赤い瞳と紫色の髪。
 その名と同じ花の簪をつけた少女、不知火あけび。
 赤門から入ってきた彼女はその日の始まりを象徴するような、明るい笑顔を浮かべていた。


●今日と言う日に出来ること


「採取のお時間です」
「また?!」
 善通寺の境内……水落 葵(aa1538)の言葉に、ウェルラス (aa1538hero001) は思わず天を仰ぎ顔を両手で覆った。
 依頼の内容を聞いた際の各自の反応は様々だったが、ここまで大きな反応をしたのはウェルラスくらいのものだろう。
 とはいえそれも無理からぬこと……彼の四国での思い出を知る者からすれば、納得のいく反応だ。
 犬の死体をHOPEに持ち帰って騒ぎになったり、山より高い場所から飛び降りた後、町の調査を二人で行ったり、昨日の事件でもいろいろ試していたらしく、職員達の間ではちょっとした有名人になってきたとかなんとか。
(水落さん達も残ったんだ)
 何かと依頼を共にすることが多いGーYA(aa2289) は、二人を見ながらそんな感想を抱いた。
 昨日の善通寺襲撃事件に関わったメンバーのうち、ジーヤや葵、仙寿の組はこの依頼を受けていてる。
 闘いの後でもやることはある。
 昨夜から悩むこともあったけれど、それは採取をやりながら考えていけばいいだろう。


 カタカタとキーボードを打つ指が、エンターキーを弾いた。
「何を採取するんだ」
「色々だな」
 波月 ラルフ(aa4220)は、英雄のファラン・ステラ(aa4220hero001)にそう言葉を返すと、幾つかの操作を終えてからノートパソコンを閉じた。
 ダウンロードした衛星写真と各自の採取予定エリアを全員に転送したから、あとはこの善通寺から出て山へと採取に向かうだけだ。
 この時間に善通寺に残るメンバーは少なく、ほとんど全てのグループが善通寺市の山や町へと繰り出していく予定になっている。
 罠を仕掛けるのは笹山平介(aa0342)と賢木 守凪(aa2548)のペアや日暮仙寿組、町や公園で虫や鳥を探すのがGーYA組、この境内や平地から先日の事件に関する事柄を中心に調べるのが水落葵組……時間が経てばまた行動は変わるが、その予定と採取エリアは、既にパソコンやスマホに記録している。
 こうした各自の事情をラルフが記録しているのは、彼が連絡を取る役割も請け負っているからだ。
 早朝、午前、午後の各自の予定を把握したり、HOPEへの地図の申請等も然り気無く彼が行っていた事を考えれば、外見に合わず気配りや配慮の出来る青年なのだろう。
「筆ノ山の登山ルートなら……ああ、そうだな、山頂に向かうならそれがいい」
 先に町に向かった他のメンバーと通信機で何回かやりとりをしながら、彼はファランと共にその日の採取作業へと出発した。


 ――善通寺市内――


 清流が、涼やかな音と共に流れて行く。
 市内の川の近くに、四人の人物がいた。
 平介と守凪……それにその英雄である、ゼム ロバート(aa0342hero002)とイコイだ。
 平介の手により川に浸されたペットボトルが、すぐに水で一杯になる。
「ゼム……ここに地図のA-2『川の水』という文字を」
「……」
 平介からそのペットボトルを手渡されたゼムは、仏頂面でそれを受け取ると、メモにペンでさっと文字を書き、その口を開いた。
「……どこに張ればいい?」
 そう言ったゼムに平介より早く答えたのは、可憐な声。
「ここに貼ればいいんじゃないですか?」
 華奢な指先が、ペットボトルの一ヶ所を指差した。
「まぁ、分かりやすければ上だろうと下だろうとどこでもいいとは思いますけれどねぇ」
 そう立て続けに喋るのは、守凪の英雄……イコイだ。
 ゼムと平介の間から顔を出したイコイに、ジロリとゼムが視線を向けた。
「お前に聞いてねぇよ……」
「聞かれてなくても言いますよ。……もう二度と、言えなかったかもしれないんですから」
 イコイは、いつもより静かにそう語る。
 今日この日、こうして近くで話せることが……これまでの沢山の葛藤を乗り越え……そして極寒の地での死地を生き延びた四人にとってどういう時間であるか、それはゼムも、よく分かっている。
「……」
 ゼムはぺたりとメモを張り付けると、少しだけ何かを考えて……。
「……好きにしろ」
 ぶすっとした表情で、そう呟いた。


 葵とウェルの二人は、HOPEからの許可を得て、そこに残された昨夜の事件の品……白骨死体に関しての再調査を行っていた。
 場所は昨日のままだが、その周囲にはロープが張られている。
「ああ、だいたいわかった、ご苦労さん」
 葵は、通信機で職員から聞き終えた白骨の詳細を、頭の中で整理する。
 女性、生前の年齢は20~30代、骨の年代に関しては一ヶ月以内……極めて最近のものであり、被害者の死体の骨を使ったと推測されている。
 また、骨が最近のものである為か、生前の顔がほぼ合致する行方不明者のデータも別途に転送されてきた。
 骨に使われていたのは、久下真澄、23才OL、能力者ではなく一般の人間。
 実家暮らしで家族は四人、両親、弟と共に暮らしていたが、高知県からの避難の際に家族共々行方不明。
 家族を含めて身辺調査も終えているが変わった点はないらしく、被害者の死体の骨を利用したのであろうと推測がされている。
 人相の整った成人女性ではあるが、夜愛と名乗る女性や、その他四国で目撃された人物とは異なる。
 また、骨に刻まれていた文字は彫られたもので、梵字に近いものが書かれていたらしい。
 近いもの、と言うのは、暗号等ではなく、梵字を元に作られた独自の文字なのだそうだ。
 推測された内容としては、六界……つまり現世に対する呪詛を込めたものだろうとの話だが、具体的な意味は分かっていない。
(何かの骨に彫ってみるかね)
 そんな不謹慎な事を考えながら、葵は恨めしげに天を見る白骨の頭蓋骨を眺め……。
 ばふ、と、タオルケットをかけると、それをいそいそと包み始めた。


 あけびと仙寿の二人と合流したジーヤとまほらまは、先日の戦いの舞台となった、善通寺を見て回っていた。
 仙寿達が山に罠を仕掛け終えたので、午前中に善通寺を歩き、簡単に調査をする予定だ。
 西院を巡り、東院へ……空海由来の品や、その像を眺め歩いていたジーヤは、ぽつ、と言葉を零した。
「空海って何者なんだろう、愚神を封印しちゃうなんてさ」
 大師像の元となった空海……その人物が成した行いは、今の時代であっても難しい。
「お遍路に結界を組んで、要を複数作って、更には防御機構かー。空海上人、念入りだね」
 あけびがそう口にすると、仙寿がそれに続いた。
「神門って奴がよっぽど強くて……執念深い性格なんだろうな」
「結界が解かれたら出てくるのよねぇ、執念深い奴ってきらいだわぁ」
 そうしてまほらまが、一つ頷く。
 三つの要と防御機構、大規模な結界……その大掛かりな仕掛けは、念入りと言えるだけのものでもある。
 ただ一つだけ言えるのは……これだけの結界を用いなければならなかった相手と、闘う事もありえるという事だ。


「油断出来ないが、現段階ではない気がする」
 山中……ファランが採取をする間の見張りをしていたラルフが、結界に関する考えを述べる。
 樹木の種子を集めていたファランが、その手を休め疑問を浮かべた。
「何故そう言える」
「結界の恩恵」
 俺の希望でもあるが、と前置きを加えると、ラルフは言葉を続ける。
「調査の結果色々判明していても、当時の人間が生きてない以上真の意味での全容はまだ不明だ。敵は何かしら知ってるから、色々動くんだろうが」
 結界にどの程度の機能があるかは分からないが、まだ要が残っている事からも、それなりの効果は期待出来るだろう。
 敵の行動も、結界があるから奔走している、と捉える事も可能だ。
「人をゾンビにするのもか?」
 種子集めを再開したファランが聞くと、ラルフは周囲の警戒を続けながら言葉を語る。
「理解したくねぇが、連中の好み且つ1番早い手なんだろ」
 相手の動きから考えれば、無駄を好むとは思い辛い。
 真っ先に感染を広めたのも、それが敵にとって有用であるからかもしれない。
「結界の要潰してもそれで終わりって訳ねぇし、空海は何でそういう結界を考案したんだかな」
「悲劇の阻止以外に何がある」
 それを聞いて、ラルフはファランに顔を向けた。
「そんなのは判ってる。が、世界蝕は近年だ。史実にない異世界の接触があったのかって話」
「あ!」
「実際そうで、いずれ結界の破壊を目論む奴が現れると考えたって可能性はあるがな」
 推測にしかならないが、空海が結界を作り上げた背景は、その機構を考える際には重要な要素だろう。
「結界が人の善なるライヴスに依るなら、供給があれば維持は可能だろうが……随分前から供給が減ってて維持は出来ても万全ではなかった可能性もある。弱った人間が病気になり易いのと一緒だ」
「結界は人心、善なるライヴス……か」
「全部推測だけどな」
 ラルフは頷くと、木々の隙間から見える四国の町並みに視線をやった。
「切り札は他にあるかもしれねぇが、今はやれる事をやるしかない」
 冷静に語るラルフの姿に……ファランは自分が、小さく苛立っていることに気付いた。
 別に、何かを言われたわけじゃない。
 けれどラルフは、全てを表に出してはいない。
 何かを隠しているわけでもなく、ラルフは本心が表に出辛い……ただそれだけのこと。
 それなのに、ファランはラルフに苛立ちを覚えてしまう。
(くそ、私は何をイラついている)
「終わったら帰るぞ」
「あ、ああ……」
 ファランはその表情を隠すように、サンプルとなる種子を、袋に詰めた。


 ――善通寺・金堂前――


 昨日の闘いの場である金堂近くの境内、そこで解散する前に……昨夜の夜愛との闘いが話題にあがった。
「昨日は動きを止めてくれたからなんとか動けたけど」
 仙寿の近くで、ジーヤは自分の内心を口にする。
 闘いが終わってから、ずっと燻っていたもの。
 仙寿とは同年代だからだろうか、共鳴した時とは違う無愛想な少年に、つい、本音が溢れた。
「まほらまが力を十分に出せなくてイラついてるのがわかるんだ、俺が弱いから、未熟だから……」
 独白のようなその言葉に、仙寿は耳を傾ける。
「偽物に苦戦してるようじゃダメじゃん、俺」
 そうして自虐するような表情を浮かべたジーヤに、仙寿はいつものように無愛想な表情で言葉を返した。
「お前が夜愛の数珠を断ち切ってなかったら、俺は障壁に阻まれて何も出来なかったかもしれねぇ」
 そうかな……と口にしたジーヤに構わず、その切れ長の眼で、境内を見つめる。
「もしあの夜愛が本物だったら? じりじりと体力を削られて全滅してたかもだろ。それにあの時偽物だって気付けたからすぐ西院組の安否を確認できた」
 昨日の夜の事を静かに述べる仙寿だが……ジーヤはなんとなく、その言葉に宿る感情が、自分と似ているものにも思えた。
「お前は咄嗟の判断で最善手を打てる奴だ、未熟ならこれから強くなれば良い」
 だからだろう、その言葉は……燻っていた気持ちの中に残った。
 未熟なら強くなればいい、その言葉は、仙寿にも、ジーヤにも必要な言葉だったのかもしれない。
「一杯食わされたまま終われるか。次はやり返すぞ」
「……うん」
 ジーヤは頷く。
 その少年達の瞳は昨日の夜ではなく……これからの事へと、その先に続く明日へと、真っ直ぐに向けられていた。


 男の手が、木になった実を千切り、それを一つタッパーに入れる。
「……どうです?採れましたか?」
「あぁ、採れたぞ。怪我は痛まないか?」
「えぇ♪ これくらいなら痛みませんよ」
 平介の声は、木の実を採った守凪の下から聞こえた。
 木が高かった為、怪我の治療をしている平介が守凪を肩車し、支えているのだ。
 守凪からすれば心配だが……能力者だからだろう、平介は痛みもなく、守凪の木の実の採取を手伝っている。
 場所は山の麓。
 川での採取を終え、木の実の採取を行っている最中だ。
 イコイとゼムは近くで草や土の採取をしており、その話し声が聞こえてくる。
 幾つかの木の実を採取していると、平介は守凪に、片手で何かを手渡した。
「ついでに……その高さからコレで、何か変わった場所は見えますか?」
「ゴーグル……?」
 手渡されたゴーグルを受けとると、守凪は言われるまま、そこからの景色を眺めた。
「見えるもの、か……」 
 比較的見張らしのいい場所であったからか、ゴーグルからは町の様子がよく見えた。
 その中で、守凪の眼を引いたのは……。


 ――善通寺市内――


 守凪が見つけたその場所に、四人は足を運んでいた。
 畑の近く……野菜が無造作に置かれたその場所の名前を知るのは、平介とイコイの二人だけだ。
「これは……なんだ? 不用心だな」
 盗んでくれと言わんばかりに野菜が置かれていたが、平介からは明るい声が返ってきた。
「無人の販売所ですね……治安がいいのかもしれません♪」
 平介はそう言うと、無人販売所についての説明を始めた。
 平介はよく、こうして守凪にいろんな事を教えてくれる。
 知らなかったこと、知りたかったこと、そうした平介の優しさや知性を、とても暖かなものに感じるのは自然なことだろう。
「お金を入れる所はあそこです♪」
「……入れると、買えるんだな」
「はい♪」
 そう言って平介が守凪にお金を渡すと、守凪は好奇心に引かれるまま、お金を握りしめて無人販売所に走っていく。
 それを憮然とした表情で見ていたゼムにも、イコイから声がかかった。
「やってきます? 初体験でしょうし」
「……」
 眼前に差し出された百円……ゼムはそれを奪い取るようにして握ると、むすっとしながら無人販売所に歩いていった。
 守凪とゼムが、それぞれにお金を入れる。
 守凪は一度、平介の方を確認してから大根を手に取り……ゼムは躊躇わずに、人参をひっつかみ、初めての無人販売所を経験する。
 その二人を見守る平介とイコイの眼差しは、どこか保護者を思わせる、暖かなものだった。


 葵の後ろに下げられた大きな袋から、奇妙な鳴き声が聞こえてくる。
 ゾンビ化した生き物を手当たり次第に放り込んだ結果、袋の中は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
 梵字も骨に彫ってみたが、とくに効果はない。
 葵はそれを気にせず、近隣の高台からライヴスゴーグルを使い、周辺地域の霊力の流れを調べていた。
 面白いことに、四国を流れる巨大な霊力の流れは、ゴーグルから確認ができない。
 地中深くを霊力が流れているからか、あるいは気付かれない細工がしてあるのかどちらかなのだろう。
 前者の可能性が高そうだが、もし後者だとしたら、空海は念入りに、この結界を隠そうとしていたことになる。
「そこらへんって調査済じゃないの?」
 不満顔のウェルラスの疑問に、ライヴスゴーグルをつけたまま葵は返答する。
「調査済でもその結果は知らんからな。いざという時に一々問い合わせするよか、最初にある程度知ってた方が良いだろ」
「山とか川とかは?」
 ウェルラスが言うと、葵はゴーグルを外し……ポケットからスマホを取りだして、なにやらその操作を始める。
「それに関して、今回のメンバーの一部の傾向をアイツに確認したら、その人なら心配無いから別行動しておいて、と返ってきてな」
 そうして葵が見せたスマホには、確かに葵の従妹からのメッセージが書かれていた。
 ……ウェルはそれを見て、若干呆れを混ぜて葵に視線をやった。
「たぶんそれアッチの邪魔するなって事じゃないかな……」
「さて、どうかね」
 スマホをしまった葵に、悪びれた様子はない。
 どころか……ウェルの予感が正しいなら、後で合流する気すらありそうだ。
「っていうかハズレばっか引いてるよね。おっさんそれでいいの?」
 ウェルがそう言うと、葵はいつものように悠々と言葉を返した。
「それがいいんだよ。ハズレなことに意味があんだから。俺ぁただの尖兵役だ」
 こうした行動の実入りは、目には見えずらい……けれど、小さくともHOPEや他の能力者達の助けになる行動でもある。 
 わっかんないなぁ、とウェルがぼやくが……なんだかんだ、葵に手を貸しているのだから、彼は葵の英雄……いや、大切な同居人の一人でもあるのだろう。
 夕暮れに染まり始めた四国の地、型破りな葵と、それに文句を言いながらもついていくウェルの姿は……他から見れば、ちょっとした悪友のようにも、家族のようにも見えた。


 無人販売所から少し離れた市街地で、ゼムはある一匹の動物を相手に、それを……猫じゃらしを構えていた。
「じゃれろ……来い……」
 真剣な表情、その手に握られた猫じゃらしの先には……首輪をつけた猫の姿があった。
 イコイの肩が小刻みに震えているが、ここまで真剣に猫に挑む姿を見て、笑うなと言う方が難しい。
 ゼムは真剣に猫と向き合いながら、猫じゃらしを握る武骨な手を、ちょいちょいと小さく動かす。
 ぴく、と、猫が動き、俊敏な動作で猫じゃらしをおさえる。
 そこに、ゼムの手が伸びた。
 猫の頭を一度二度撫でる……逃げない、何回目かの挑戦でやっと辿り着いたその結果だが、ゼムの表情はいつもの憮然としたものだ。
 人懐っこいのか、猫がペロペロとその手を舐めた。
 彼はそれを嫌がらずに、撫で返してやってから、すくっと立ち上がった。
「平介……ん」
 そうして平介に、ゼムは飼い猫の毛を数本渡す。
 その姿を見て、楽しげに笑っていたイコイは、ぽつりと呟く。
「やっぱり……可愛らしい人ですよねぇ」
 ゼム、純朴で単純で、だけれど興味を惹かれる……そんな人。
 歪な自分と同じ時間を過ごしてくれる、純粋な男。
 イコイと言う名の小悪魔は、密かな満足感を胸に、空を見た。
 ……既に時間は夕暮れだ。
 それはありきたりな、だけれど恵まれた、そんな一日の終わりだった。


「いいわねぇ、面会謝絶だって言われて契約者に会えないまま2週間放置されたあたしとは大違いね」
 それは、仙寿とジーヤが話している間の、あけびとの会話の記憶だ。
「え、そんなに会えなかったの!?」
 大仰に驚くあけびに、まほらまはそうよぅと言ってから、自分の誓約者の情けなさを少し愚痴る。
 このあたりは、誓約者を仙寿様と呼ぶあけびとは相反する部分だが……その最後で、まほらまは小さく、ぼやくように言ったのだ。
「泣き虫でへなちょこで……なのに目が離せないのはどうしてなのかしらねぇ」
 それは……と、少し考えてあけびが口を開いた。
 

 善通寺市内の公園、そこにジーヤとまほらまの姿があった。
 ゾンビは霊力を好む性質があるため、ここで霊力を強め、鳥型の従魔を集める算段だ。
 木刀を握るジーヤの目を、まほらまは見つめ返す。
 真っ直ぐな目……今日の昼……善通寺であけびと話した時の言葉を、まほらまは思い返していた。
 それは……大切な人だからじゃないかな!
 真っ直ぐなその言葉を聞いた時、まほらまはつい吹き出してしまったけれど……。
(そんなでもないと思うけどぉ……)
 だけれど……今目の前で、真剣に木刀を握るジーヤの未来に……どこか楽しみを感じているのは確かだろう。
「まほらま、霊力全開で!」
 だから、彼女は遠慮はしない。 
 全力を求められるなら、応じるだけだ。
 あるいはそれは……まほらまが目の前の少年を大切に思うからこその……期待の印でもあるのだろう。


 空気が変わる。
 びり、と、肌に感じる圧力に、ジーヤは知らず、木刀を強く握りしめた。
 まほらまと相対して分かる。
 この力に支えられてきた。
 この力に助けられてきた。
 これからはそれを、自分のものにして高めていく。
 まほらまと一緒に生き抜く為に。
 それが非力な少年の選んだ、確かな前進の一歩だった。


 夕暮れから夜へと変わり……斬光が、死肉を二つに裂いた。
 そろそろ、戻る時間だろう。
 共鳴した仙寿が、すぅっと刀を鞘に納めると……その視界の端に、月が映った。
 それを見上げて、仙寿は目を細めた。
《夜を愛する、か》
『どうしたの仙寿様?』
《いや……》
 己が内から聞こえたあけびの声に、月を見たまま、零れるように言葉を発する。
《夜も嫌いではないが、俺は明ける日の方が尊いと思うのでな》
 時折目を背けたくなる程に……。
(て、共鳴中の俺は何を言ってんだ!)
『朝の方が希望に満ちてる感じがするよね! まさにH.O.P.E……あれっ!?』
 自ら共鳴を解除した仙寿は、慌てるあけびを置いて先に進む。
「仙寿様、ねー仙寿さまー! わっ」
 そうして追いかけたあけびの前で、仙寿は足を止めた。
 そうして共鳴した自分ではない……日暮仙寿自身の言葉を、あけびに伝える。
「お前言ったよな。人を殺す力は救う力にもなるって。だからお前は侍を目指せるんだろ」
 それは、きっと仙寿が……長く抱えてきた想いの一つなのだろう。
「……俺にも誰かを救えるのか?」
「出来るよ! 仙寿様なら出来る!」
 ……そうだと、良いな。
 少年の抱いたその想いを肯定するように、明ける日のようなその少女は、屈託ない笑顔を浮かべていた。


●エピローグ


「はい、確かに報告通りのサンプルですね。ええ、ラルフさんも皆さんも、お疲れ様でした」
 ラルフからの報告を受けた七三分けの職員が、そう言って通信を切った。
 採取場所の写真等や、細かに地点を記した地図、採取したものの分類分けもされていたうえ、幅広い範囲からサンプルを確保できたので、内容としては上々だ。
 白骨死体に関しても、水晶の連とタオルケットだけではなく、それぞれをケースに入れてバラバラに保管する事を約束した。
 あとは職員達が、この成果を繋ぎ、四国の現状を変える為に尽力するだけ。
 たった一日の成果……それは全体から見れば僅かなものだが……大切なものであることには変わりない。
 この日の成果が、四国に住む多数の人間を救う、確かな足掛かりとなるのだから。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • Survivor
    イコイaa2548hero002
    英雄|26才|?|ソフィ
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • 巡り合う者
    ファラン・ステラaa4220hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
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