本部

ドラマチック・マリッジ

一 一

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/02/12 20:04

掲示板

オープニング

●事実は小説よりも奇なり……?
「夫、ケースケ。健ヤカナル時モ、病メルトキモ、妻ヲ愛シ支エ合ウコトヲ誓イマスカ?」
「はい、誓います」
 この日、とある教会で1組の男女が神の前で永遠の愛を宣誓していた。
 雰囲気重視の片言アルバイト外国人牧師が、タキシードを着た男性の決然とした首肯に微笑みを浮かべ、傍らに立つ純白のウエディングドレスに身を包んだ女性へと顔を向ける。
「妻、ノゾミ。健ヤカナル時モ、病メルトキモ、夫ヲ愛シ支エ合ウコトヲ誓イマスカ?」
「誓います」
 同じ問いかけを受けた女性も、穏やかな笑顔で肯定した。牧師の表情もまた優しげに緩み、聖書を広げた。
 ここで行われているのは、H.O.P.E.職員同士の結婚式。参列者も親族や友人以外にH.O.P.E.職員も大勢混じっており、中にはエージェントの姿も散見された。
 交際期間三年ほどで、新郎である圭介が先日プロポーズを行い、新婦の望美が快く了承。関係各所への報告や式の段取りをすませ、あれよあれよという間に今日を迎えていた。
 それぞれの両親はうっすらと目に涙を浮かべ、子どもたちの晴れ舞台を温かく見守っている。その背後にいる一部の同僚やエージェントから、笑顔で隠す嫉妬や焦燥をぐちゃぐちゃに混ぜた負のオーラがまき散らされているが、出来れば何も知らないまま綺麗に式を終えて欲しいところ。
「デハ、指輪ノ交換ヲ」
『愛』の定義について書かれた新訳聖書の一節を読み上げた牧師は、結婚式における最大の見せ場へ突入させた。
 新郎新婦が向かい合い、新郎が新婦の左手薬指に指輪を入れる。事前に受けたレクチャー通りスムーズに行え、当人たちも一安心して表情が綻ぶ。その様子を見た負の権化たちは眉間に一瞬だけしわを刻み、不快感を露わにした。
「ソレデハ、誓イノキスヲ」
 そのまま牧師は、新郎新婦にベールアップを促す。
 やや緊張した面もちで新婦の眼前を覆ったベールをゆっくり取り払った新郎は、見慣れたはずの女性の美しさに思わず息を飲む。ノロケた空気感を敏感に察知した負の参列者は、漏れ出ようとする舌打ちを懸命に我慢した。
 そして、ゆっくりとお互いの唇が重なろうとした、まさにその時。
「……ちょっと待ったぁっ!!」
 教会の扉が、勢いよく開け放たれた。
「その花嫁は俺の物だ! お前みたいな男が、気安く触れていい人じゃない!!」
 乱入してきたのは、新郎と似た白いタキシードをびしっと決めた、新郎と同年代くらいの若い男性。バージンロードを大股で歩いていく彼の背を、参列者は唖然と見送るしか出来ない。
 なお、一部からは何かを期待するキラキラとした視線が注がれている。
「だ、誰だお前は!? どういうことだ、望美!?」
「え? ……えぇ?」
 大いに狼狽える圭介をよそに、突然の展開に望美は困惑するばかり。
「お前には関係ないだろう? これは、俺と彼女の問題だ!」
「あ、ちょっ!?」
 すると、式場内の混乱が収まりきらない内に乱入した男は新婦へ接近すると、一瞬でお姫様抱っこをして走り出した。
「ま、待て!!」
 追いかけようとした圭介だったが、相手はリンカーだったらしくあっという間に扉の外へ消えていく。
 呆然と姿を消した新婦たちの背へ手を伸ばす新郎の姿は哀れと言う他なく、会場内には気まずい空気と、一部の参列者から小さく力強いガッツポーズが生まれた。
「……はっ!? 呆気にとられている場合じゃありません! 皆さん、彼女を追いかけてください!!」
 だが、我に返った1人の職員が声を張り上げ、エージェントたちに追跡を指示した。その職員は新郎新婦の上司であり、結婚を祝福していた参列者の良心の1人でもあり、非常に優れた判断力を有していた。
 ドラマなどで見たことがあるシーンだが、さすがに現実問題としては略取・誘拐罪に問われる立派な犯罪。しかも、乱入者の身体能力を考えれば相手はヴィランと判定するのが妥当であり、逮捕をエージェントたちに依頼するのは自然だった。
「気をつけてください! 見る限り乱入した男は彼女の同意を得ないまま連れ去りました! 場合によっては、新婦に暴行などを加える危険性があります! 彼女の身の安全を最優先に、速やかに確保してください!」
 現状を理解したエージェントたちが慌てて共鳴し、2人を追って飛び出した背後から、上司職員の声が届けられる。
 エージェントたちは気を引き締め、追跡を開始した。
「……は~。こんなこと、現実に起こるもんなんだなぁ」
 その後、静寂に包まれた教会内で響くやたら流暢な牧師の日本語が、取り残された参列者の耳に届けられた。

●痴情の、もつ、れ?
 そして、まんまと望美を連れ出した乱入者は、胸に抱く新婦へ声をかけていた。
 圭介は知らなかったようだが、言動からすると乱入者は望美の元カレであろうと想像できる。また望美のリアクションからしても密かに計画された犯行であり、これから説得などを行うのだろう。
 男と女の関係は複雑だ。
 理性でわかっていても、感情が納得できないことなど、往々にして存在する。
 行動してしまった乱入者の男も、もしかしたら望美と話す内に冷静になるやも――
「貴方誰ですか!? 私、貴方の顔に覚えがないんですけど!?」
「え!? あぁ、ご挨拶が遅れました、初めまして!!」
『ウチのバカがゴメンねー。でも、しばらく付き合ってあげてねー』
 ――いや、事態は思った以上に複雑かもしれない。

解説

●目標
 新婦誘拐犯の逮捕
 新婦の安全確保

●登場
 圭介…結婚式の主役その1。訳も分からないまま新婦を奪われた新郎。一部の参列者からは心の中で『ザマァ!!』と思われている。

 望美…結婚式の主役その2。現状の情報量が圭介とほぼ変わらないという悲劇(喜劇?)のヒロイン。犯人へ猛抗議するも、一般人のため自力での脱出は不可能。

 広明…望美を拉致したヴィラン。回避適正。望美との関係性を臭わせておきながら初対面らしく、犯行動機は不明。現在、花嫁を抱えながら純白タキシード(レンタル)かつ全力疾走で町中を逃走中。

 イナティオ…広明と共鳴する女性英雄。シャドウルーカー。間延びした口調で望美と広明の口論の仲裁役。広明の行動を止めることなく、成り行きに身を任せて戦闘を担当。

 能力…回避・移動↑↑↑、防御・イニシアチブ↑、攻撃・生命力↓

 所持武装…太刀・鞘・拳銃

 スキル(詳細効果はスキルルールにほぼ準拠)
・霊奪…回数×3、射程=武器依存、単体物理、物攻-100、命中-10。
・影渡…回数×5、自身対象、回避+300。
・ターゲットドロウ…回数×5、回避+100(カバーリング対象は望美に固定され、望美救出を妨害)。

●状況
 教会から出撃したエージェントたちは聞き込みを行いながら追跡。付近の公園でヴィランを発見し、戦闘に突入。大きな噴水を中心に、休日の昼間を楽しむ一般人や家族連れなど衆人環視の中、正装したままの戦闘により非常に目立つ。空は快晴で穏やかな日差しが降り注ぎ、周囲からは好奇の目とスマホレンズとフラッシュが注がれる。
 遭遇時までに望美へ危害を加えた様子はなく、ヴィランの背中を呆れながら見つめている。意識の主導権は広明が握り、肉体の主導権はイナティオが握る。よって、口がよく回る割に戦闘の動きは洗練されていて侮れない。

リプレイ

●奪われた花嫁
 事件直前、エージェントたちはそれぞれの気持ちで結婚式に臨んでいた。
(そう言えば、私たち、まだ式挙げてないのよねえ)
 当たり障りないドレスを着た加賀谷 ゆら(aa0651)は、指輪交換の様子を見ながらふと思う。式には着慣れないフォーマルな服装のシド(aa0651hero001)に、夫の加賀谷 亮馬(aa0026)やEbony Knight(aa0026hero001)とともに出席している。
 ゆらと亮馬も新婚であり、2人とも職員同士の結婚を心から祝福しているが、ゆらだけ先延ばしになっている自分たちの結婚式について考え、少し羨ましくなった。
「リア充爆発しろリア充爆発しろリア充……」
「OK兄者、めでたい席で呪詛を吐くのは止めようか」
 一方、裏方スタッフのバイトで教会にいた阪須賀 槇(aa4862)と阪須賀 誄(aa4862hero001)兄弟。機械に強いということで、ついでに教会の備品を修理していた槇からこぼれる負の呪言を聞き、誄は窘めつつ式の進行を補助する。
「はぁ~。素敵ですね~」
「そうですね。……一部の反応は気になりますが」
 こちらは警備という形で式に参加していた詩乃(aa2951hero001)と黒金 蛍丸(aa2951)。純粋に祝福の視線を送る詩乃の傍らで、蛍丸はどす黒いオーラを発する列席者に注意を払う。
 また、席の後ろ側にいた柳生 正義(aa4856)も、負の参列者へ呆れを抱いていた。他人の幸せくらい純粋に喜んでやれよ、と。隣のボリス アンダーヒル(aa4856hero001)も似た心境なのか、ちらちらと負の参列者へ視線を向けている。
 そして、事件は起こった。犯人の登場から逃走まで1分もかからず、全員が呆然としてしまう。
「……うっ、わ! 何コレ、ドラマみてェだな。こんなトコに居合わせるなんて、フツー無いってモンだぜ」
「……ファルク、不謹慎です。ま、貴方に謙虚さは求めてませんけど」
 真っ先に立ち直ったファルク(aa4720hero001)の言葉に、茨稀(aa4720)は避難の目を向け立ち上がった。
「冷たいっ! 茨稀の心が氷のように冷たい……っ!!」
「当たり前でしょう? さぁ、さっさと行きますよ」
 続く小ボケもあっさり潰し、ファルクの襟首を掴んだ茨稀は犯人を追跡する。新郎新婦との面識は薄く、たまたま誘われたからきただけの2人だが、目の前でさらわれた人を放置するほど薄情ではない。
 それをきっかけに、他のエージェントたちも望美と犯人の後を追う。
「……っ!」
『え? あ、いつの間に!?』
 一瞬後に状況を理解したユフォアリーヤ(aa0452hero001)は呆然とした麻生 遊夜(aa0452)と即座に共鳴し、茨稀の背中を追う。共鳴の主導権を握った彼女の表情は鬼気迫っていた。
 原因は、ユフォアリーヤが祝福ついでに花嫁と自身を重ねていた為。新郎(遊夜)と引き離された上、知らない男に触れられた状況も重ねた結果、激おこな模様です。
「シド、行くよ!」
「ああ」
「俺たちも行くぜ、エボちゃん!」
「無論だ。急ぐぞ」
 続いて立ち上がったのは加賀谷夫妻。ゆらはシドと、亮馬は鎧をしまって生身で出席していたエボニーナイトとすぐさま共鳴し、後に続く。
「……真面目に不幸になるのを見過ごすのはなぁ」
「Yes! ジェラシー! Noタッチだ弟者!」
 式場の裏から花嫁拉致を把握した誄と槇も動き出す。
「意味が分からん、やるって事で良いのか?」
「ザッツライッ!」
 嫉妬はしても邪魔するな! と言いたかったらしい名言(?)に確認をとってから、誄と槇は共鳴して飛び出した。
「そっちは参列者の中に怪しい奴がいないか、調べてくれ」
「何かわかったら、連絡をお願いします!」
 彼らから一歩遅れ、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は上司職員へ参列者のサプライズ演出か、故意の妨害の線で調査を依頼。続けて連絡用の電話番号を渡した御童 紗希(aa0339)と共鳴し、駆け出した。
「すみません、お借りします!」
「急ぎましょう、蛍丸様!」
 最後に、望美奪還後を考慮して式場スタッフからバイクを借りた蛍丸は詩乃と共鳴し、エンジンを吹かせて町へと走り出した。

●追って追っ払って
 教会を出た時点で犯人を見失ったエージェントたちだったが、花嫁を抱えて逃げる姿は目立つだろうと聞き込みを行い、あっさり逃走ルートが見えてきた。スマホや通信機で連絡を取りつつ、花嫁の足跡をたどる。
『詰めが足りんな』
「と言うと?」
 道中、エボニーナイトがこぼした犯人への評価に、亮馬が耳を傾けた。
『本気で好いているのなら、何故この状況になるまで放置していたのかが分からぬ。公衆の場で掻っ攫う気概は中々だがな』
「……えーと、ああ、つまり、好きなら事前に対策をして立ち回っとけと言う?」
『うむ』
「なるほど……?」
 行動は批判的だが、犯人の思い切りの良さは認めるエボニーナイトの場違いな感想に、亮馬は同意を避けて言葉を濁す。何故なら。
「どんな事情があるにせよ、人の結婚式ぶち壊すとか、ほんと許せない!」
『お前も新婚だから、余計に思うところがあるだろうな』
「同じ女性として、絶対許さない! ぶっ飛ばす!!」
『はっきりしてるな。本当に』
 隣を併走するおかんむりなゆらがいるからだ。下手に頷いたらとばっちりは確実にくるだろう。怒りが冷めやらないゆらとシドのやりとりを横目に、早く解決しようと亮馬は思った。
「まったく学生の悪ふざけじゃないだろうにな」
 また、式場では我慢していた呆れのため息を吐き出した正義。それは大勢の前で望美をさらった犯人と、新郎の不幸を素直に喜んだ一部の参列者たちへ向けられている。
『略奪愛、は流石に騎士の名折れでしょうね』
「安心したぞ。流石に、その程度の良識はまだ捨て去ってはいなかったか」
 共鳴したボリスの言葉に、正義は軽口をこぼす。
 こちらの文化に馴染み、元々のフルプレートから華美なアクセサリに路線変更するほど、娯楽に染まった元アーマーナイトのボリス。良識まで路線変更されていては手に負えなかったが、そこまで重症じゃなかったらしい。
「例えどんな事情があれ、花嫁をさらうなんてこと、お話の中だけにしとけよな」
『問題を起こす前に、口に出して語ればいいでしょうに。沈黙は金といいますが、遠慮のしすぎもどうかと思います』
 ついでに事件を起こした犯人への苦言も呈しつつ、正義とボリスは先を急ぐ。
「……どこ?」
『あー、こりゃやばいな……』
 そして、全身の毛が逆立ち、同時に殺気立ちながら全力で追走するユフォアリーヤを、遊夜はずっと宥め続けていた。犯人視認後、即発砲しかねない勢いであるため、遊夜も結構必死だ。
 そんな思いも経て、エージェントたちは付近の公園で見かけたという目撃情報を得てそちらへ集合した。なお、遊夜は何とか主導権を奪還できました。
「……いたぞ。公園の中央、噴水のある広場だ」
 最初に茨稀が偵察用の『鷹の目』を飛ばしたところ、犯人と望美の姿を発見する。
「だが、周囲には一般人が多い。どんどん集まっている」
「ドラマか何かと勘違いしているのか? まあ、この格好じゃ無理もないが」
 続けて犯人たちに集まる野次馬も捉えた茨稀がそう告げると、正義は礼服を着たままの自分を見下ろし、苦い顔をする。茨稀のみイメージプロジェクターで外見を変化させているが、全員目立つ格好という意味では同じだった。
「避難誘導が先だな。その間に逃げられねぇようにもしとかねぇと」
「俺がこのまま監視を続ける。動きがあれば、その都度連絡を入れる」
「頼むぜ、茨稀さん。俺は別行動で狙撃場所を確保してくる」
 すぐにカイが方針を決めると、茨稀が犯人の監視を立候補してから隠密行動で公園内へと入っていき、避難誘導にと拡声器をカイに渡した遊夜が別の方向へと駆け出す。
『誘導は任せて、俺たちは花嫁の安全を優先するぞ』
「りょーかい。行こう、亮ちゃん!」
「よっしゃ!」
 続けて、可能な限り望美の位置まで近づきつつ、犯人の死角で隙を突くと作戦の概略を言い残し、シドの言葉を受けたゆらと亮馬も先行する。
 残りのエージェントたちは共鳴を解いてから、野次馬を散らす為に動き出した。
『公園内の方々注目して下さーい。こちらH.O.P.E.エージェントです。不審者が公園内に潜伏していると通報を受け、現在捜索中です。一般の方は非常に危険ですので、直ちに公園から退去をお願いします。エージェントが誘導を行いますので、それに従い落ち着いて避難して下さーい』
 結構な人数に一瞬眉をひそめつつ、カイはネクタイを緩めると拡声器で人垣の背中へ訴えかけた。
『ハイそこ! カメラは向けないで下さーい!』
 また、カイは犯人やこちらへ向けるスマホレンズにも注意を飛ばした。別の場所でも紗希が同様に避難を促す。
「もしかしたら大立ち回りをするかも知れませんので、申し訳ありませんが下がってください」
『こちらへ移動をお願いしまーす』
 蛍丸は個別にやんわりと危険性を訴え、詩乃は借りた拡声器で声を張って、野次馬の誘導を続けた。特に家族連れには子供への配慮に念を押す。
『危ないんで、もっと下がって』
 しかし、なかなか公園から離れない野次馬へ、正義も言葉を重ねるが効果は芳しくない。当初よりは散ったものの、まだまだ一般人は多く残っている。
「何だこれ、何かの特撮? あのー、これってリンカーを使った撮影です?」
「え? そうじゃね? わかんねーけど」
「あぁ、じゃあ……下がりましょう、AGWを使わないだけでガチでやるみたいですから、何かカスるだけでも僕らミンチですよ」
 そんな中、槇と誄は地味さを活かしてあえて野次馬の中に潜り込んだ。槇は近くの男性へ声をかけ、返答を聞いた誄が不安を煽る。
「あーあと、下がれって聞いててカメラに映っちゃうと、悪質な時は1テイク分、お金請求されるんだっけ? こっわーっ」
 さらに槇の放ったデマ情報にぎょっとし、槇たちがいる場所の野次馬がさーっと引いていく。現金な人たちだ。
 完全には無理だったが、犯人たちから野次馬を遠ざけた後、誘導係のエージェントたちが犯人と相対する。
「投降すんなら今の内だぞ。いくらアンタの能力が高いと言っても、これだけの人数相手にしたら、弾切れ起こすのも時間の問題だ」
 説得役として、カイが前へ出た。傍らには紗希がいつでも共鳴できるように控える。
 ただ、避難誘導のさなか犯人の写メを撮り、H.O.P.E.に犯罪歴を確認してもらったが該当者はおらず、式場内の人物も全員白。犯人の情報が少ないため、自然と説得は脅しを含んでいく。
「数キロ先の針も狙える狙撃手が、アンタの眉間狙ってんぞ? 死にたくないならムダな抵抗はやめた方がいい。平和的解決を提示してる今がチャンスだと思うけどねぇ」
 威圧的な笑みを浮かべたカイを見て、犯人である広明が目を丸くする。
「ええっ!? 不審者って俺のことだったのか!?」
 バカだった。背後に噴水を背負い、かばっている望美からの視線も痛い。
「いや、普通気づくだろ……っ!?」
 正義が呆れて脱力しかけた時、突如広明が拳銃を上空へ発砲。野次馬たちからどよめきが起き、さらに人垣が離れていく。
「ちょっ、イナティオ!? お前何やってんの!?」
『えー? だって、見られてたしー?』
 が、一番驚いていたのは広明だった。1人で騒ぐ広明に不審を覚えるが、通信機から漏れる声に緊張感が一気に高まる。
『すまない、『鷹』がやられた』
 それは、茨稀からもたらされた『鷹の目』の消滅。先ほどの1発でしとめられたのは明白だった。
 これを交渉決裂の合図として、紗希・蛍丸・正義は即座に共鳴。広明の逮捕へと動き出した。

●騒がしい熟練者
「らぁっ!」
 最初に仕掛けたのは紗希。望美を巻き込まないよう注意して自動小銃を牽制に放ち、同時に神斬を抜いて広明の側面から距離を詰める。
「ふっ!」
 広明の正面からは蛍丸が接近。間違っても望美へ当てないよう、リーチの短い『鬼切丸』へ持ち替え刃を翻す。
「逃がさないぞ!」
 さらに、紗希の反対側からは正義がタックルを敢行。2人の攻撃から逃げた後で捕まえようと迫った。
「き、きたーっ!?」
 しかし、広明は情けない絶叫とともに紗希の銃弾を切り払い、『影渡』を使用。追撃の神斬と『鬼切丸』をあっさりと回避し、突撃した正義の肩を足場に跳躍した。
『うわー。何で私、こんなことしてるんだろー?』
「ぐ、っ!?」
 そして、イナティオの言葉とともに空中で銃口を眼下へ向け、『霊奪』の弾丸を紗希へ浴びせる。続けて望美へ近づこうとする蛍丸と正義への牽制も行った。
「あっ! 向こうからも来てるぞ!」
 また、首だけを背後へ向けた広明は噴水越しに接近してくる亮馬・ゆら・茨稀の姿に気づいた。
『そうみたいだねー、っと!』
 瞬間、イナティオは自身へ飛来する足への狙撃を太刀で切り払い、再び望美の近くへ着地する。
「……あの身のこなし、相当の熟練者だな」
『……ん、絶対に、当てるの』
 その様子を、公園の木に上って狙撃姿勢をとる遊夜とユフォアリーヤが驚嘆の目で確認する。死角と隙を突いたはずの1射を防がれ、ヴィランへの認識を上方修正しつつ次の機会をうかがう。
「どうも相手は、俺達よりずっと強そうだぞ」
「う……っ」
 また、仲間の攻防を野次馬の中から見ていた誄と槇は、ヴィランの動きについていけずに困惑していた。
「……兄者、俺に考えがある。良く聞くんだ」
 が、一計を案じた誄の言葉に槇は耳を傾け、通信機を取り出した。
「しっ!」
 一方、戦いは茨稀が参戦して広明の包囲網が強固となる。スカバードから如来荒神を抜刀した茨稀は、『猫騙』で広明の動きを乱す。同時に素早い足運びをつぶさに観察することで行動を予測し、隙が生じるような斬撃を放っていく。
「そこです!」
「痛って!? ……俺のレンタルタキシードォ!?」
『あ、ごめーん』
 紗希の大剣による威圧と茨稀の攪乱で生じた隙を、蛍丸が切り込んだ。胴体に入った切り口からは血がにじみ、純白の礼服が染まっていく。
『そのファンシーな盾は使わないんですか? とても似合ってなくて素敵ですよ』
「両手が開いているほうが重要だ!」
 その中で懸命に捕縛へ動く正義に、ボリスが背負うだけの星形盾に言及。正義は最初から捕獲した時の重石として狙っており、腕がフリーの方が大事と反論する。
「行くぞ、ゆら! タイミングを合わせろ!」
「おっけー!」
 正義の組み付きを回避し再び高く跳躍した広明を確認し、今度は亮馬とゆらが動く。味方の包囲網の後ろから、亮馬はエクリクシスを地面に叩きつけて爆発と粉塵を発生させ、ゆらは頭上の広明めがけダイヤモンドユーリスの閃光を放った。
「まぶしっ!?」
『目くらましだねー、……あ』
 視界が一気に悪化したことで広明が声を上げ、イナティオが呑気につぶやくと、拳銃を扱う腕に1発の銃弾が貫通した。
「花嫁の無事が最優先で、怪我などさせられんからな。次は足をもらうぜ?」
 遠方から命中させた猟犬の牙を再度装填し、遊夜は広明の機動力を殺ぐため意識をさらに集中させる。
「食らえっ!」
 落ちた広明を待ち構えていたのは、亮馬が作った砂煙と紗希。力をためた体勢から『ストレートブロウ』が放たれ、着地姿勢が崩れる。
「何がしたいのかは知らないが、新婦はもってくぜー!」
『そういう事は一々言うでないわ。さっさと動くぞ』
「おっけー!」
 その砂塵の中を、亮馬はエボニーナイトに軽く叱責を受けつつ駆ける。向かう先は当然、望美の元だ。
「やべっ! イナティオ!」
『はいはーい』
 しかし救出の寸前、広明は『ターゲットドロウ』で亮馬の眼前へ躍り出た。片腕で太刀を振るって行く先を妨害し退ける。
「失礼しますっ!」
「がっ!?」
 ただ、無理な姿勢からのカバーリングと、牽制に使った太刀の大振りを代償に、広明は死角から現れた蛍丸の奇襲を受ける。刃ではなく柄頭による刺突がわき腹へ食い込み、広明の口から反射的に苦しげな声が漏れた。
「望美さん! こっち!」
「はいっ!?」
 剣戟の音が断続的に交錯する中、ゆらは仲間の足止めの間に望美へ接近し、手を取った。そのまま身を反転させ、噴水から距離を取った。
「あ、待て!」
「……謎の怪盗、新婦攫うも奪還ナウ、っと」
「おい、そこの野次馬! 下がれ!」
 この頃になると砂煙は晴れ、ゆらが連れ去る望美の姿がばっちり見えた。広明はすぐさま追おうとするが、背後で上がった声に反射的に振り向く。すると、スマホを構えて近づく一般人と、それをとどめる紗希の声があった。
 ただの野次馬と判断した広明は興味を失い視線を戻すと、注意された一般人が笑みを作った。
『OK、死角ゲット。今だ兄者』
「さーせん! いやぁしかし、《お日様が実に眩しい》……ねっ!」
「うわっ!?」
 瞬間、一般人――誄と共鳴した槇は『フラッシュバン』を広明の近くで破裂させ、2度目の目くらましを行った。動きが鈍った広明へ、事前に合図を聞いていた紗希・茨稀・正義がすかさず肉薄し攻勢を強める。
「く、そっ!? 痛ぇっ!?」
『あちゃー、これは厳しいかなー?』
 それでも望美を追おうとする広明とイナティオだが、遊夜の『ダンシングバレット』に足を射抜かれる。
「一辺倒な攻撃ばかり、と思っただろ?」
『……切り札は、先に見せちゃダメ、よ?』
 これで機動力が目に見えて落ち、遊夜とユフォアリーヤは薄く笑みを浮かべた。
「食らえっ!」
 直後、再び亮馬が地面をエクリクシスで殴り、爆発による煙幕を発生させた。
「げぇ! また、けむりか、よ……」
『……あー、ダメ、っぽい、なー』
 すると、程なくして広明とイナティオの意識が急速に薄れていき、その場に倒れ込んだ。
「……ふぅ。ヴィランの確保、完了しました」
 実は亮馬の煙に紛れて、蛍丸が『セーフティガス』を発動させていたのだ。消耗した体で思いっきり催眠ガスを吸い込んだ広明は見事に『気絶』。これにて、お騒がせな花嫁泥棒の捕り物劇は幕を下ろしたのであった。

●果たして動機は?
「あまり待たせるのもよくないので、先に望美さんを式場へ送っていきます。皆さんは、その間にヴィランから話を聞いてください。何かわかったら、通信機で連絡をお願いします」
「皆さん、ありがとうございましたー!」
 戦闘後、ゆらから望美を引き取った蛍丸はそう告げた後、バイクの後ろに花嫁を乗せて走り出した。ヘルメットをかぶった望美はエージェントたちへ手を振り、ウェディングドレスのスカートをはためかせる。帰りも帰りで目立ちそうだが、背に腹は代えられない。
「初対面でこんな大それたことするとか、ほんと信じらんない!」
『奴の目的が、ただエージェントを引っ張り出して、エージェントと戦いたかったとかだったら……』
「ぶんなぐる!」
 バイクを見送った後、ゆらは改めて広明を睨みつけた。望美とは精神状態を確かめるための軽い会話しかしておらず、いまだ犯行動機は不明のまま。シドの言葉にゆらは思いっきり拳を握りしめ、ずんずんと広明へと近づいていく。
「うー……、いてててっ!?」
「……ん、お縄ー♪」
「……リーヤ、もう少し加減してやれ。何にせよ、大人しくしてろよー?」
 野次馬が帰った後、広明は噴水前でまだまだ激おこなユフォアリーヤに野戦ザイルでキツ目に縛られ、目を覚ました。遊夜は容赦ない相棒の締めを窘めた後、意識が戻った広明へ不敵な笑みを見せる。ちなみに、広明の傷はすでに蛍丸の『ケアレイ』で回復済み。
「お、ようやくお目覚めか。こっちのイナティオって名乗った子は、ぜんぜん話が通じなくて困ってたんだよ」
「えー、っとー?」
 遊夜の後ろから姿を見せたファルクは、すでに拘束されているイナティオを広明へ示した。戦闘中の間延びした声はそのままに、ファルクの声には曖昧な反応ばかり。
「そりゃそうだ。イナティオは元々、目と耳が悪いからな。俺と共鳴してなきゃ、他人とのスムーズな会話はほぼ出来ねぇよ。まぁ、イナティオ曰く『空気の振動が肌に触れれば言葉も何となくわかる』らしいけど」
「え? まさか、それと同じ理屈で俺たちの攻撃も見切ってた、のか?」
「さぁ? 戦闘はイナティオ任せだし。でもそいつは勘も鋭いし、危機察知能力は高いんじゃね?」
 広明の台詞に、亮馬は目を丸くする。イナティオがエージェントや攻撃の動きを『空気の振動』を主体に感知し、あれほどの動きを見せたことにまず驚いた。同時に、そんな英雄の凄さを理解していない広明にも驚愕を隠せない。
「……ともかく、何故こんなことをしたのですか? しかも、新郎の前で初対面の女性との関係を臭わせるようなことまで言って、何がしたかったんです?」
 望美から聞いた『お互いが初対面』という事実を踏まえて茨稀が問うと、何故か広明は胸を張ってこう続けた。
「花嫁をさらうシーンのあるドラマを見て、俺もやってみたかったんだ!」
 バカだった。
「でも、実際にやろうと思っても彼女いたことねぇから、他人の結婚式に乱入してみた!」
 アホだった。
「そしたらビックリ、花嫁さんも同じドラマ見てて意気投合しちまってよー! ついでに理由を話したら呆れられたな!」
 マヌケだった。
「いやー、でもまさか出席者の中にエージェントがいるとは思わなかったぜ! 失敗失敗!」
 おまけに救いようがなかった。
「ギルティ!」
「ふべっ!?」
「……んっ!」
「いたいいたいっ!?」
 当然、広明はくだらない理由だと殴ると意気込んでいたゆらから強烈なグーパンチをいただく。ついでにユフォアリーヤからの締め付けもレベルアップ。自業自得である。
「これに懲りたら、こういう事は以後やめろ。男の価値を下げるぞ」
 手遅れかもしれないが、という本音を隠しつつ、正義はひどく面倒臭そうにしながらもバカへ説得した。頷いているのかわからないが、広明もピクピク動いて反応はしている。
「……はぁ。それで、この人どうします?」
 重いため息をついた後、茨稀は彼らの処遇を尋ねる。
「あー、結婚式、見たいなー?」
 すると、イナティオからのんびりした提案がされ、エージェントたちは完全に脱力した。

「おめでとー!」
 結局、広明のくだらない理由は蛍丸から参列者へ伝わり、遅れて戻ったエージェントとともに現れた広明たちから直接謝罪があって、結婚式はそのまま再開された。
「それじゃあ、いくよー!」
 最後に、望美が参加者全員へ向けたブーケトスを行った。造花の花束が宙を舞い、女性や子供が手を広げて追いかける。
「……あ」
 すると、ブーケはまるで吸い込まれるかのようにユフォアリーヤの手元へ落ちてきた。
「……ユーヤ、これ」
「えーっと、よ、よかったな?」
 すぐに隣の遊夜を見上げ、ユフォアリーヤは表情と瞳を輝かせて尻尾を力強く振り回す。どっかのバカのせいで悪かったユフォアリーヤの機嫌がV字回復した反面、彼女の期待がこもった視線に加え負の参列者からのどす黒い視線もあり、遊夜はたじろぐ。
「なんかさー。ご祝儀払って人の嫁の晴姿見て、今回の追跡劇もボランティアだろ? どーせ。ここ一年俺どんだけ周りの寿報告聞いてんだよ」
「そんなに知り合いが結婚した事嫉ましいの?」
「別にそんな事ねーけど……、けどさー……」
「もー! ちっさい35歳だなー」
 他方、少々負の参列者に毒されてきたカイに、紗希は呆れた様子を見せる。
「いろいろあったけど、結婚式素敵だったー」
 無事に結婚式を終えた望美を見送ったゆらは、本人的にはさりげなく亮馬へちらちら目線を送る。その眼差しには、暗に『私たちの結婚式』についてせっつく意味が強く込められている。
「そ、そうだな!(さ、流石に早く決めないとな)」
 妻からの露骨な視線を受けて言葉を詰まらせつつ、亮馬も延期されている自身の結婚式について少々焦りが生まれる。こういう風に皆に祝福されるのもいいよなぁ、と呑気なことを考えている場合ではなかった。
 また、亮馬は気づいていない。遊夜へ向けられていた負の視線が、自身にも集まりつつあるということを。
「ぢぐじょおおリア充爆発じろぉぉ……」
「……まだやってるのか」
 バイトに戻った槇は血涙を流す勢いで呪詛を吐き、傍らの誄から盛大なため息をもらう。
「素直に祝福しましょうよ……」
 そして、広明とイナティオの監視と警備を続ける蛍丸も苦笑を隠せなかった。
 色んな意味でドラマチックだった結婚式は、祝福(リア充)と嫉妬(非リア充)が混在する素敵(カオス)なものとなったのだった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951

重体一覧

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • ひとひらの想い
    茨稀aa4720
    機械|17才|男性|回避
  • 一つの漂着点を見た者
    ファルクaa4720hero001
    英雄|27才|男性|シャド
  • エージェント
    柳生 正義aa4856
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    ボリス アンダーヒルaa4856hero001
    英雄|22才|男性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
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