本部
We are ウォー!
掲示板
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相談卓
最終発言2017/01/27 20:47:11 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/01/25 23:40:07 -
質問卓!
最終発言2017/01/26 22:47:25
オープニング
●須頼の苦悩
今日もまたH.O.P.E.には変わり種の依頼がやってきた。
茨城県つくば市にあるH.O.P.E.技術開発研究紫峰翁(しおうほう)センター、真央(まおう)研究室への実験協力依頼だ。
真央研究室はこの実験の為にH.O.P.E.所属の英雄の力を今までに何度も借りているため、オペレーターとも顔見知りだ。
「ああ、ゲームですか」
依頼を受けたオペレーターは慣れた態度で紫峰扇センターの須頼(すらい)主任研究員を出迎えた。
彼らは英雄世界調査の一環として、『リング・ブレイク』というゲーム風のVR世界を使った実験を行っているのだ。そして、そこでの英雄の行動を分析し、英雄たちの失った記憶の断片を探そうという試み────のはずだった。
依頼を受けたエージェントは研究室で能力者共々、特別な機械を装着してVR世界にダイブするのだが、今までは特に問題は報告されていない。
だからこそ、オペレーターも安心しきっていた。
しかし。
最近、この研究がおかしいことをオペレーターは知らなかった。
元々、これらの研究は研究過程で有益な副産物こそ生まれてはいるが、肝心の英雄世界についての成果は出ていない。
そして、この研究を主導するはずの真央室長は突然長い休みを取り研究から退いていた。
真央室長が留守の間、研究の主導権を握るのは須頼である。
しかし、須頼は興味は────いつまで経っても大した成果が出ない『英雄世界』への研究からちょっと横道に逸れていた。
須頼はゲームが好きである。そして、いつの間にか長年制作に携わって来た『リング・ブレイク』をゲームとして発表・ランキング入りさせることを夢見るようになっていた。
……元々の目的からだいぶ、ずれていた。
真央室長が長期の休暇を取っている間に須頼は勝手に『リング・ブレイク』の世界を”ゲームとして”成長させた。
だが、彼は研究者であってゲーム開発者ではないし、研究室にゲーム開発・運営のノウハウを持った者がそう都合よく居るわけではない。
「ど、どうしましょうか……ぎゃあ!」
画面を見て真っ青になった須頼の肩が軽く叩かれて、彼は悲鳴を上げて椅子からずり落ちた。
「ど、どうした、須頼よ」
須頼の悲鳴にぎょっとした顔で後退りしたのは、彼が一番会いたくない人物────長らく留守にしていた真央室長だった。
「あ、水田さんも」
「お久しぶりです、須頼さん。お元気そうで」
スーツ姿の青年がにこやかに微笑む。水田はこの研究室では須頼に次ぐ古株だが、しばらく海外へ…………。
「あれ、水田さんってなんで海外へ行ってたんですか」
「いやだなあ、須頼さん……冗談ですよね?」
「じょ、冗談ですよー! ────じゃなくて! 大変です、まおーさまー!
ああっ、休暇のはずなのに、こんなにやつれて!」
「ダイエットと言えい! まさか、さらにやつれるような話でも持って来たのか────うんっ?」
深い皺が刻まれた顔は心なしか顔色が悪かった。いつもの見事な白髭を撫で、ダークブラウンのスーツを着こんだ真央室長は須頼が見ていた画面を見て絶句し、その顔色をさらに白くさせた。
「ど、どうしましょう、まおーさま!」
喉の奥から絞り出すような乾いた声で、真央室長は言った。
「────H.O.P.E.のエージェントたちを呼んでくれ……」
●Wargameしようぜ
ゲームとしての『リング・ブレイク』は二〇一六年秋に一部の選ばれた研究者のみに公開された。
なぜ、ユーザーが限定されているのかと言うと、このゲームにログインするために必要な装置が特殊なものであるからだ。
そして、『リング・ブレイク』は研究者たちの間で人気を博したのだが…………。
「先生方ったら酷いんですよ! 勝手に実験だって、こんなことを」
半泣きの須頼に対して、冷めた顔つきの真央室長は冷静に状況を説明した。
「この須頼が、勝手にこの『リング・ブレイク』世界の時間を滅茶苦茶進めてな……。その結果、以前、エージェントの方々に協力してもらって作ったキャラクターやそれを模倣してこちらで作ったキャラクターたちが文化や国を築き始めた。
それ自体はまあいい────ところが、一部の研究者たちが好奇心に負けて秘密裏にこの世界に悪意を持つ『敵国』を作ってしまったんじゃ」
リング・ブレイクには今、真央研究室で管理していたキャラクターたちが作った王国『エスペランサ』、そして、ユーザーであった研究者たちが作った王国『黒闇国(こくあんこく)』がある。
エスペランサは争いなどほとんど経験せずに国に成ったが、祖となるキャラクターたちに武芸に秀でた者たちが居たため今も戦士が多くいた。戦士たちは個々の力で抵抗を続けていた。
しかし、侵略するために創り出された黒闇国は軍隊を組織し、今、エスペランサを攻め落とそうとしていたのだった。
「これが解析した敵データじゃ」
────────
●敵データ
ちなみに、敵国の兵士はメイドの姿をしています。
黒闇軍の将軍率いる一団と戦ったのち、最後に黒闇覇王軍との戦闘になる見込み
黄闇軍…武器:A 戦地:村(無人)和風メイド
赤闇軍…武器:B 戦地:森 筋肉メイド
緑闇軍…武器:C 戦地:草原(草は伏せれば姿は隠せる長さ)猫メイド(猫耳ではない)
紫闇軍…武器:D 戦地:崖谷を挟んだ両端(吊り橋有、川の流れは緩やか)
※崖はあちこちに岩棚有、川のせいで助走は不可 ロボットメイド
桜闇軍…武器:E 戦地:砂漠(大きな岩有り)エルフメイド
白闇軍…武器:F 戦地:城下町(建物がある石畳、無人)英国風風メイド
黒闇覇王軍:G及び全武器、城下町 ボス:悪魔風メイド
●所持する武器詳細(全て凶悪な強さだがオリジナルほどではない)
A.狐丸:ストールのように肩にかける。両端が狐面と鎖分銅になっており、狐面は噛みつき攻撃、鎖分銅は中距離攻撃
B.爆裂ハンマー:全長2m近くある巨大ハンマー。スライム型地雷を発生
C.安穏の鎖:持ち主の意のままに長さの変わる二本の鎖。鋭いダガー付
D.エクスターミネイト:浮遊する攻防兼ね備えた二枚盾。極太レーザー、そして鈍器
E.転生弓・幽華:貫通力のある強力な一撃を放つ長弓から双斧・重斧へと変化する武器
F.クラウソラスソード:攻防一体、変幻自在の双剣。衝撃の刃を打ち出し敵の拘束も可能
G.血戒(チカイ):手の甲に輝く光の紋章。自分と味方を強化、一般兵は使えない
────────
「滅茶苦茶にされたこのゲームはもう修正不可能、このデータをリセットするしかないのじゃ……しかし、ワシは長いことこの『リング・ブレイク』世界で実験を続けて来た────リセットは本意ではない。
例え再構成できるとしても、この世界はワシにとって生きているんじゃ……どうか、どうか頼む……」
真央室長は深く頭を下げた。
「どうか、この世界を救って欲しい────」
解説
目的:軍隊を組織して黒闇覇王軍を撤退させろ
参加PCは
1.自分の使用する武器名
2.部隊の隊員種族と隊員の武器
3.対戦する敵軍隊名
の記載をお願い致します。無い場合こちらで振り分けます。
●PC側
PC一人につき一部隊(隊員数は対戦する黒闇軍と同じ)。
軍隊の隊員の種族とG以外の武器から一種類になります。将(PC)と隊員の武器は違っても構いません。
軍隊のメンバーは下記の中から一種類選択、同じ種族を選択したり選択しない種族があっても問題ありません。
・エスペランサ国民…集団行動が苦手、個々の攻撃力は高い
・ロボット軍…集団行動が得意、個性的な武器の扱いが苦手な為攻撃力は低め
・エルフ軍…集団行動が得意、素早い、武器A.Eは得意、Bは使えない
・ドワーフ軍…集団行動が得意、遅い、武器B.Dは得意、Aは使えない
●ご注意
・共鳴は出来ず、英雄一人で共鳴状態の強さ・スキルを出せるよう須頼より調整されています。
今回は英雄をサポートする形で能力者も戦えますが能力者は能力者単体のステータスになります。
一般人NPCは城の地下に潜んでいるので今回の戦闘には出て来ません。
ゲームなのでエージェントが実際に大怪我を負ったり死ぬことはありません。
※垂直ジャンプに関してはルール内戦闘マップにジャンプの項目があります。
以前シナリオ参加者は当時の配布アイテムを持って参加した場合、参加時に自分が作成した武器・PCを召還できます。
その場合、武器はそのままですが、PCは年を取り、親である英雄と同じクラスに就いています。
当シナリオはコメディです。
敵兵士のメイドさんは色んなタイプが居ます。
リプレイ
●女王
「ようこそ、おいでくださいました」
凛とした声が響き、大勢の兵士に囲まれた一人の女性がゆっくりと歩いて来る。
「私はこのエスペランサの女王カロリーナ。感謝致します、英雄(リライヴァー)の皆様。どうか我らの兵士たちを率いて平和へ続く勝利を」
大勢の兵士がずらりと広場を囲むように広がる。そこには耳の長い者、髭のあるドワーフ、ロボットのような者まで居た。
「ちょっといいかな?」
伊邪那美(aa0127hero001)は待ちきれないように手を翳した。ナト アマタ(aa0575hero001)はすぐにその意図に気付き、それに倣う。
光が瞬き、広場には一組の男女が立っていた。
男性は二十代前半くらいだろうか。礼装を身に纏った美しくしなやかな筋肉を備えた長身の青年だ。
女声は三十くらいだろうか、月のような静かさに気品と不思議な魅力を持つ佳人である。
「にー! ナト!」とくしゃりと笑うカル アマタ。
一瞬、目を潤ませたのを誤魔化し、気丈に微笑む月詠。
「うわあ、素敵な服だね!」
「おめかししたんだ! ナトに会えるから!」
シエロ レミプリク(aa0575)にカルは笑って答えた。
駆け寄ってぎゅっと手を握った伊邪那美は月詠が逆にぎゅっと抱きしめた。
「母上、今度は月詠が護ります」
どうやら、子供NPCたちは状況を理解しているようであった。
「待っててね、ヨミちゃん……直ぐにあんな奴ら駆逐してあげるから」
仲間の再会を嬉しそうに眺めていた白虎丸(aa0123hero001)だったが、おもむろにパートナーの虎噛 千颯(aa0123)へ顔を向けた。
「して、千代はどこでござろう?」
以前の依頼で白虎丸が育てたNPC『千代』はその場に居なかった。
千颯は青ざめて恐る恐る相棒に尋ねる。
「白虎ちゃん、以前ここで貰ったメモリーは……ホラ、千代の映像と声が入った」
「あの品でござるか! もちろん大切に持っているでござるよ」
その返答にほっと胸を撫で下ろす千颯。だが、続く言葉は残酷であった。
「大切な千代との思い出でござるからな。俺の幻想蝶の中に仕舞ってあるでござる」
もちろん、ゲームの中に幻想蝶は存在しない。
「待って。ゲーム始める前に須頼ちゃんがメモリーをセットしてって言ってたよね!?」
「『めもりー』とはアレのことでござったか」
千颯は思わず顔を覆った。
●紫闇ロボットメイド軍vs白虎丸・エスペランサ軍
目的地である崖谷から少し離れた陣所にて、斥候から紫闇軍の様子を聞いた白虎丸は思わず唸る。
「千代の世界を守るでござる!!!」
「白虎ちゃん待って!」
ゲームとは言え、息子が頑張って作った世界を蹂躙されて怒り心頭の白虎丸は爆裂ハンマーを手にやる気満々である。
「千颯! 行くでござる! 千代達が心血注いだ世界を守るでござる!」
会えない分余計なのか気合の入った相棒を押さえて、千颯は後ろに並ぶ兵士たちを彼に示した。
「こっちの人たちは戦いに慣れているわけじゃないんだぜ」
振り返った白虎丸の目にエクスターミネイトを振り回すエスペランサの人々の姿が映った。それぞれそれなりにうまく扱ってはいるが……。
「ご安心ください! 我らエスペランサ国でも手練れの者。同じ武器ならばからくりメイド如き────」
「この愚か者共が!」
白虎丸が声を荒げた。空気がびりびりと震え、心なしか彼の精巧な白虎の被り物すら怒気を孕んで見える。
「お主ら一人ひとりがどんな手練れだとしても、そのような纏まりのない攻撃の威力などいかほどのものであろうか……でござる!」
ずいと前に出ると、彼は戦士たちが持った巨大な盾────エクスターミネイトを軽々と取り上げた。
「個々の力が強くても戦争は数の勝負でござる! そんな事もわからずに己の力を過信するなど愚の骨頂でござる!」
そして、白虎丸はエクスターミネイトを草地に倒し、厳しく声をかけた。
「見ておくがいいでござる! 今から俺がお前たちのその腐った根性を叩き直してやるでござる! 百人組手でござる!」
兵士たちがざわめく。だが、白虎丸は構えを取ったまま、じっと動かない。
そして、兵士たちも一人また一人と白虎丸へと挑む。
「連携を取れ、一人ひとりでなくとも構わん!」
しかし、白虎丸に敵う者はおらず、兵士たちは軽々と投げ飛ばされ、また草地に組み伏せられた。
「さ、さすが……」
「これより俺の事は軍曹と呼ぶ事でござる! 返事は『ゴザル』でござる! 返事は!!」
『ゴザル!!』
エスペランサの兵士たちが初めて足並みを揃えた歴史的瞬間であった。
「わぁー……ツッコミが追いつかない~。もう好きにして~」
一連の顛末を見ていた千颯は、思わず地面に刺して立たせたエクスターミネイトに額を押し付けた。
組み手の後、敵の対岸に散る白虎丸軍。白虎丸と千颯、そして一部の兵士たちは一緒に吊り橋を臨む岩陰に場所を移した。
「千代は……家族は持てたでござるか? 幸せでござるか?」
ぼそりと呟いた白虎丸の言葉に兵士の一人が笑みを浮かべた。
「はい。千代様は良き伴侶とたくさんの子供に恵まれて、子供たちと共に槍術を極めました」
「そうでござるか、なら……安心したでござる」
「白虎ちゃん……」
その時だった。
ガサ、ガサガサっと、白虎丸たちの頭上の枝が激しく鳴ると小さな悲鳴を上げて青年が滑り落ちてきた。虎の耳と尻尾を生やした青年は辛うじて地面に着地すると、目の前の男たちの姿に目を丸くした。
「父上!?」
それは────あの日、白虎丸の脳裏に残ったままの少年の千代であった。
「まおーさま……あとは頼みます……ぐふっ」
膨大なデータを漁り終え机に突っ伏した須頼を真央は労った。
「千代!?」
同時に崖谷に草笛の音が響く。────戦の合図だ。
「軍曹殿!」
兵士たちが白虎丸を見上げる。それはもう武人の目だ。
「今は敵との戦いが先でござるな! 盾隊は半分は防御をもう半分は敵を対岸から薙ぎ払うでござる! 返事は!」
『ゴザル!』
エスペランサの武人たちが声を揃えた。
白虎丸が己と同じ爆裂ハンマーを千代に放ると千代は巨大なそれを難なく受け取った。
「状況はわかるでござるか?」
「目の前の敵と父上と共に戦えばいいのですね!」
「さすが俺の息子でござる!」
崖谷を挟んで攻守兼ね備えた破壊兵器、エクスターミネイト対エクスターミネイトの戦いが始まった。
「まるで、矛盾の故事だな」
千颯が呟く。ロボットたちの正確だが単調な攻めより、戦況を見極めながら攻守調整するこちらの方が有利ではあるがその差は僅かだ。
双方、吊り橋を唯一の進軍手段と警戒し、また、狙っている。
細かな石を踏みしめて、地雷を慎重に拾い上げる手。遊撃部隊を率いるストゥルトゥス(aa1428hero001)である。
谷底の川沿いには奇襲を警戒しての地雷がいくつも設置されていた。
「ストゥル、狙う順番は?」
「んー、適当!」
「それでいいの!?」
あっけらかんと答える英雄にニウェウス・アーラ(aa1428)は思わず驚きの声を上げかけて慌てて口を閉じた。
「基本的にはどう動くの?」
声を潜めて尋ねたニウェウスにストゥルトゥスはいい笑顔で答えた。
「ひき逃げアタックかな! ────ほら」
ストゥルトゥスは拾った地雷をそっと重斧に乗せると、あろうことかフルスイングで敵側へと放った。
爆・音!
「Nice shot!!」
「……これ、いいの? 反則じゃない?」
「反則じゃないよ、リサイクルだヨ」
谷底の遊撃隊に気付いた敵から極太レーザーが降り注ぎ、ストゥルトゥスとニウェウスは自軍を連れてさっさと撤退する。
一方、白虎丸の方はというと、突然、対岸が爆発した。
だが、それにより勝機が生まれた。
「防御隊も攻撃隊に変わるでござる! 俺と千代で敵部隊に風穴を開けてくるでござるからタイミングを逃すなでござる!
返事は!」
『ゴザル!!』
爆裂ハンマーを引っ掴み、機を逃すまいと吊り橋に向かう白虎丸。
「千代! 親子連携でござる!! 一気に打ち砕くでござる!」
「はい!」
頭を掻いた千颯が浮遊するエクスターミネイトを掴み、進路に掲げた。
「あー! もう! この武術馬鹿親子! 防御は俺ちゃんがやるけどあんまり期待すんなよ!」
「千颯、すまん!」
吊り橋へ走り出す三人にレーザーが襲い掛かる。だが、それに反撃する仲間の攻撃。
レーザーを避け、または自慢の耐久力で耐え、そして千颯にカバーして貰いながら白虎丸と千代は吊り橋を駆けた。
「千代、こんな事を言うのは不謹慎でござるが……俺はいま、こうしてお前と共に戦える事が嬉しいでござる」
「父上! こうして共に戦うことが出来て────俺も嬉しい!」
駆け抜けた三人の背後で吊り橋が落ちた。
「遅いでござる!」
白虎丸と千代、揃いの爆裂ハンマーが同時に左右の敵を薙ぎ払った。
●桜闇エルフメイド軍vs伊邪那美・エルフ軍
砂漠の向こうから攻め入る敵に対して、伊邪那美たちは軍をふたつに分けた。片方の軍は伊邪那美が、そして、もう片方は月詠が指揮を執る。
────月詠よりも伊邪那美に付いた方が良さそうだな。
御神 恭也(aa0127)がみるに、月詠は指導者としてだいぶ経験を積んでいるようだった。
一方、伊邪那美は。
「ヨミちゃんや皆の子供達が作った国を滅ぼそうなんて、ゆ・る・さ・な・い」
負のオーラを背負い、砂漠に立つ伊邪那美。砂埃の向こうに居るはずの敵を殺気だけで殺せそうである。
「我が子可愛さに暴走しているな……しかし、何で敵軍が皆メイドなんだ?」
至極真っ当な恭也の疑問はすぐに頭から追い出された。
先に放った斥候が戻ってきたからだ。
「敵影発見」
恭也が振り向いた時には既に伊邪那美は敵の近くの岩陰まで移動していた。
「ひゃっは~、ボクのヨミちゃんに手を出そうなんて天に唾する様な物なんだから~」
「おい! 一人で前に出るな、指揮を確りと執れ」
そうは言ったものの、伊邪那美が先行した理由はすぐに解った。敵のエルフメイドたちは更に向こうの月詠の軍を発見して奇襲を仕掛けようとしているのだ。
「行くぞ!」
完全暴走した指揮官が先行したため必然的に恭也が軍の指揮を執り行い、砂漠に点在する大きな岩に身を隠しながら敵を狙う。
だが、それは相手のエルフ軍も同じこと。更に武器まで同じと来ている。
「なんとか敵軍の横腹を襲撃して────」
その時、敵の後方部隊で何やら騒ぎが起こった。攻撃の手が止まる。
岩に隠れながら密かに移動していたストゥルトゥスの遊撃部隊が猛ダッシュで接近、弓の射手に双斧と鈍器で襲い掛かったのである。
ストゥルトゥスとエルフたちが雄叫びを上げながら、恭也たちの前を走り抜けていった。
少し遅れてニウェウスが悲鳴を上げながらストゥルトゥスたちを追いかけていく。
ドップラー効果。
「…………今だ、攻めるぞ!」
先行した伊邪那美をサポートしつつ、月詠の軍を狙う敵軍の側面を恭也の率いるエルフ軍が襲い掛かる。
●黄闇和風メイド軍vsルビナス・ロボット軍
城下町から少し離れた村に着いた月影 飛翔(aa0224)は村を挟んで反対側に陣を敷く敵軍を観察した。
どうやら人間のようであるが狐面が付いたストールを肩にかけている。全員が和風のメイド服に身を包んで、どことなく大正浪漫を感じさせた。
────ルビナスが張り切ってるな、今回は任せるか。
的確に味方に指示を出しているルビナス フローリア(aa0224hero001)を見て飛翔は思った。
「今回、俺は着いて行くだけにもなりそうだな。好きにやるといい」
「お任せください。主人の期待に応えてこそのメイドですので」
飛翔に答えるルビナスはメイド服を着用していた。いや、彼女にとってのそれは戦闘服でもあるからそれは不自然ではない。
ただ、ルビナスの後ろに整列するロボット軍も何故か全員ロングスカートのメイド服を着用していた。どうやらメイド技能を持つメイド型アンドロイドのようであった。
ルビナスはメイド型ロボットたち一人ひとりを見ながら、語り掛ける。
「いかなる時も優雅に余裕を持ち、それでいて確実に役割を成し遂げる。それがメイドの嗜みです。全員怠らないように。それでは行きますよ」
「了解致しました、ルビナス様」
飛翔は思わず視線を泳がす。
前にメイド、後ろにメイド、相棒もメイド。
────……味方もメイド軍だったっけか?
いや、そもそもメイド軍って何なのか。
常人ならばメイドの概念ががゲシュタルト崩壊するところであったが、ルビナスのパートナーである飛翔は踏みとどまった。
飛翔のそんな密やかな揺らぎなど知らないルビナスはメイドたちに最後に告げる。
「メイドの失態は主人の格を落します。それを忘れずに」
そうして、エクスターミネイトを周囲に浮遊させて出陣するメイド型アンドロイドたちと安穏の鎖を持ったルビナス。
和風メイドたちは即座にルビナスに気付いた。
「曲者めっ!」
和風メイドたちは肩にかけた狐丸をブンブンと振り回しながら村の中を闊歩する。その姿はさながら忍────メイドってなんだっけ。
「A~D班まで前方、残りは左右に展開」
六人一組。各組で二人組三列を作ったルビナスは、連携の悪い和風メイドたちに対して淡々と攻撃指示を行った。
和風メイドたちはレーザーから身を隠すべく、廃墟となった家屋に身を隠しながら反撃を試みる。
だが、そんな彼女たちを側面からのレーザー攻撃が襲う。驚き、転がり出る和風メイドたち。
「一列目は防御と近接、エクスターミネイトを鈍器に。二列目は遠距離攻撃に対し、一列目と協力。四盾防御、三列目と協力し弾幕を。三列目は法打撃弾幕。消耗したら一列目は参列目に周り、次々に疲れなく攻撃をお願いします」
ザッ、アンドロイドの機械脳は短く的確なルビナスの命令を一瞬で理解する。タイムラグ無しに動く統率の取れた機動を生かし、本来なら弱点の攻撃力の低さを指揮官の優秀さでカバーした。
「紡錘陣形で敵軍を突破し分断。分断後は敵軍右翼に集中し撃破、その後左翼撃破を行います」
陣中央で指示をしていたルビナスは突然安寧の鎖を掴むと、上空に向かって放り投げる。
「この程度でメイドを名乗るとは。出直してきなさい」
同時に、屋根から飛び降りて奇襲を狙ったメイドたちが呻き声を上げて地面に転がる。
「この武器は高いところなどの掃除に便利ですね」
振り向きざま、ルビナスの安穏の鎖がさっと周囲の建物の壁を叩く。それに倣うようにアンドロイドたちはエクスターミネイトで無人の建物ごと焼き払った。
周囲をじわじわと囲もうとしていた和風メイドたちは隠形の為に被っていた布が燃えて慌てて転がり出る。
勝機をすっかり失った和風メイドたちは降参の白旗を上げた。
優雅な手つきで捕虜を縛り上げるメイド型アンドロイドたち。
一方、ルビナスは誰も居ない村の外れを見つめる。
「遊撃部隊の方々にご心配をおかけしましたね」
●緑闇猫メイド軍vsナト・ドワーフ軍
草原に生えた背の高い草の合間からピンと張った猫耳が見える。それがメイド服を着こんだよく訓練された敵であるとシエロたちは気付いた。
「行くぞ! 合図と同時に突撃だぁ!」
「……」
「にー!」
シエロの声にナトとカルが頷いたが。
「……え?」
突然、ナトがシエロの頭から降りた。戸惑うシエロ。
「……!」
「に?」
どしたのー? とばかりに首を傾げるカル。そして、何となくわかったような気がするシエロは、「……タイム!」と武器を構えたドワーフたちを止める。
「カル……!!」
成長したカルに飛びつくナト。
いつもシエロの頭にかじりついているナトがカルの肩にひょいと移る。
ナトを肩に乗せるカルを見たシエロは寂しさよりも、ある種の感動を覚えてその光景を目に焼き付けたり、つい写真撮影なんかしていたため、ナト軍は戦闘開始が若干遅れた。
中々始まらない戦闘に首を傾げながら、ストゥルトゥスは茂みに身を隠しながら敵軍に近づく。
「あー……」
ぽかぽかと暖かい春の陽光の下で、猫メイドたちは新鮮な猫草を食べながら、肉球で地面を踏み踏み、のびーっと、ごろごろ。
「戦意喪失かな?」
だが、突然、猫メイドたちは飛び起きると鋭い眼光でじゃらりと安寧の鎖を鳴らした。
下草が揺れ、そこからドワーフたちが飛び出す。
シャアアア! と威嚇しながら二足歩行でタガー付の鎖を敵へと叩きつける猫メイド。それどころか、その両手には天然の爪が装備されている。
バリバリ、バリ!
背の低いドワーフたちの顔に張り付き切り裂くと、あちこちでドワーフたちの悲鳴が上がった。
あまりの光景に青ざめるニウェウス。痛そう。
しかし、進軍方向からスライム型地雷が投げつけられ始めると、戦意を取り戻した。
「お前らは基本的に十字砲火で殲滅じゃぁー!」
「その、ココロは……?」
「近づくとやばそうジャン」
「ミャン!」
「!」
カッと瞳を光らせた猫メイドとうっかり目が合い、役目は果たしたとばかりに慌てて撤退する遊撃部隊だった。
一瞬、体勢が崩れかけたが謎の攻撃により持ち直した自軍を観察しながら、カルとナトは草原を駆けていた。
「……カッコイイ所、見せて?」
「うん! いっぱい見ててね!」
肩の上で気持ちよさそうに笑うナトに言われて、嬉しそうなカル。
一応、彼らは遊撃ではあるが、この二人が暴れるための舞台をシエロと彼女が指揮する軍が整えていく
「全軍! 作戦通りに進め!」
シエロの号令に、ドワーフたちが作戦を思い出し慌てて隊列を組む。
ナトの指示の下、爆裂ハンマーで草陰に地雷を設置していくカル。
ドワーフたちがその体格を生かした壁として、一箇所にゆるゆると追い詰めていく。
「ん!」
ナトが突然カルの肩から飛び降りると、一枚のカードを空へと翳した。
空から小さな点が光り、ズン! と大きな猫の肉球モチーフのハンマーが落ちてきた。
それは、ナトが初めてこの世界に来た時に作った武器────爆裂ハンマーの元となる、伝説の武器『爆裂☆ピコネコハンマー!』であった。
ピコッ! 可愛らしい音を出しながら、肉球ハンマーは猫メイドを沈めていく。そして、その度に小さなスライムが飛び出していく。可愛さも攻撃力も爆裂ハンマーとは段違いである。
ドワーフに追い詰められた猫メイドの周りにある程度のスライムが集まったのを確認すると、ナトは声を上げた。
「……雷を!」
途端に、猫メイドとふにふにスライムが戦い合うちょっと可愛らしい牧歌的な風景が激しい爆音とともに消し飛んだ。
これにはいかついドワーフたちも唖然とした。
これぞ、ナトが観た可愛い猫番組と兵器特番の二本立てから作られた伝説の武器『爆裂☆ピコネコハンマー!』。
「……すごい」
驚きで言葉を失っていたカルが大興奮でナトに抱き着く。
「すっごいよ、ナトー!」
ちょっとだけ誇らしげなナトと、そんなふたりを温かく見守るシエロであった。
●赤闇筋肉メイド軍vsカイ・エスペランサ軍
「ガチのメイドさんなら英国式メイド。ファンタジーで愛でるならアキバ風メイド……」
エスペランサの兵士たちを引きつれながら森を歩くカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は頭を捻った。
「うーんむ、しかし筋肉メイドってなんだよ……? 邪道にしても程がある!」
「きんにくが主体かな? メイドが主体かな?」
御童 紗希(aa0339)も一緒に頭を捻る。
「それによって奴らの処遇も変わってこよう……」
カイは遠い目をした。
「筋肉主体なら即、死の判決を。メイド主体なら様子見で俺が『アウト』を出した時点で判決」
「あー……カイ、結構厳しいねぇ……」
「アタリマエだ! 俺は美しい物しか目に入れたくない! 特にメイドと言う至極曖昧な職業に関してはな!」
続けて、マリはどのくらいの筋肉メイドならセーフなんだよ、とカイが尋ねようとした瞬間、ソレは現れた。
────確かにソレはメイドであった。
メイドには種類がある。
レディースメイド、ウェイティングメイド、チェインバーメイド……それぞれ仕える相手や仕事内容によって違う。
筋肉メイドは確かに筋肉に仕えるメイドであった。
二メートル近くある爆裂ハンマーを両手に抱えて楚々とした外見のボディービルダーのようなメイドが並んでいた。
『アウト』
カイと紗希と、それから木立に隠れていたストゥルトゥスの声が重なった。
「マスターだってそう思うよね? 確かに興味深いとは思うけど、あれはアウトだよ」
ガサ! ストゥルトゥスは唐突に姿を現すと、唖然とするカイや紗希を後目にキリッと筋肉メイドたちを指した。
「お前達に教えてやろう。最も恥とされる死に方ってヤツを」
「やめて……自分の爆弾でうっかり爆散しちゃうようなのは、やめてっ!」
ニウェウスの懇願は間に合わなかった。ストゥルトゥスの背後に潜んでいたエルフたちの矢が筋肉メイドたちがバーベルのアイアンプレートよろしく積み上げた地雷を撃ち抜いた。そもそも何故地雷を積んでいたのか。
カッ!
光が弾けた。
爆煙が消える頃にはストゥルトゥスたち遊撃部隊は姿を消していた。
「なんだったんだ」
「援護、かな」
「ナイスバルク」
「なんかわかり合えた気が」
「ナイスカット」
「……うっせーよ!」
はっと気づくと、地雷の爆発を避けたメイドたちがポージングを取りながらそろそろとカイたちを囲んでいた。
エスペランサ軍にはとにかく火力で押し切れと言ってあるが、なんかもう火力で勝てる気がしなかった。
「こうなったら」
自分の転生弓・幽華を紗希に渡すとカイは近くのエスペランサ兵士の爆裂ハンマーを奪い、スライム的爆弾を生み出した。敵の「いやーん、かわいー」な感情を呼び起こさせ無慈悲に爆破する作戦である。
────だが、待って欲しい。敵の武器も爆裂ハンマーである。そのいたいけなスライムが地雷であるということは、敵は百も承知なのではないか。
カイがハンマーを振る度にスライムたちが量産されたが、筋肉メイドたちは静かにポージングをしながら包囲網を縮めて行った。
「……っつああああ!」
耐え切れなくなったカイがキレた。
「きんにくはもう居なくてもいいんじゃないすかー? だってメイドさんってらぶらぶずっきゅんなひとたちでしょー?
つか、カワイクネーなら逝ってヨシ」
ギラリ! カイの目が据わる。
「ミナゴロシ作戦決行じゃーっ」
ハンマーを放り出し、紗希から受け取った転生弓を斧モードにして全開で筋肉をしばきまくる。
「キレテルキレテル」
なぜか一体一体で挑んでくる筋肉メイド。そして、周りは応援の声を投げかける。
「うおー! ガンバレ英雄ー!」
負けじとカイのパートナーであるJKも筋肉メイドに混ざって叫ぶ。ちなみに声援以外で彼に協力する様子は無かった。
●白闇英国風風メイド軍vsリーヴスラシル・エルフ軍
「すまんの、今の状態ではキャラクター登録は出来ないのじゃ」
真央室長との通話が終わると、リーヴスラシル(aa0873hero001)は肩を落とした。
「キャラクター登録をすれば、将として設定して動きやすくなるかと思ったのだが」
「仕方ありません」
リーヴスラシルを励ます月鏡 由利菜(aa0873)だったが。
「どうしたんだ、ユリナ?」
「……いえ、真央室長とは初めて会った気がしません。初夢の影響でしょうか?」
「私の初夢には出てこなかったな……」
なぜか複雑な気持ちになる由利菜だった。
そんな彼女たちにエルフの一人が語り掛けてきた。
「あなたたちはリライヴァーであり、この世界の住人なんですね」
どうやら、先程の真央室長とのやり取りを勘違いしたらしい。
「いや、私たちは現世界の住人だ」
「そうでしょう、わかります。あなたたちは美しい。きっと耳の丸いエルフなんですね」
「褒めて頂けるのはうれしいのですが、私はエルフではなく」
「ならば、限られた人間というものか」
「確かにリンカーは限られてはいるが」
十分後、そんな話をしている場合ではないと話を切り上げた時には、由利菜は地方領主の箱入り娘のユリアに、リーヴスラシルはユリアに仕える元騎士のメイド、フレイアだという事になっていた。
「エルフって話を聞いてくれない人ばかりなのでしょうか……」
「この場の者たちだけのような気がするが……」
とにかく、訂正する暇は無い。エルフの寿命は人よりずっと長いせいか、ここで話していると半年くらい経ってしまいそうな気がした。
「それよりも」
城下町の厚い門の向こうに敵の姿が見えて由利菜の瞳に力が入る。現れたのは由利菜たちと同じクラウソラスソードを持った英国風のメイドたちだった。
「え、英国の血を引く者としては負けられません!」
「ふざけた状況だが……まあいい。娯楽として楽しむ位の余裕を持て、ユリナ」
リーヴスラシルは前衛で軍を指揮するべく颯爽と前へ進む。
「ユリナもこの地も私が護ろう」
《守るべき誓い》が敵の注意をリーヴスラシルに集める。同じクラウソラスソード同士が一瞬、火花を散らす。
「甘い!」
次の一閃が敵を後退させ、もしくは屠る。
敵のメイドたちも剣の腕前はずば抜けていた。ただし、エスペランサ兵士と同じように連携は苦手のようだった。
そこに差が生まれた。
「エスペランサの森を乱す者に戒めの剣閃を!」
リーヴスラシル一人が敵のほとんどの注意を引き付け、その間に由利菜とエルフの兵士たちが敵陣営に食い込む。
「左翼、周り込め! 前衛中央、気を付けろ!」
「さすがクニヒト」
戦いが終わり自軍の状況を確認していると、一人のエルフが微笑んだ。リーヴスラシルが怪訝な顔をし由利菜がはっとした。
「中世英語でしょうか。確か、騎士。……ラシルは向こうの世界でも騎士団を率いていたのですか?」
「ああ、その記憶は思い出せた」
由利菜たちは疲れた体を癒すためのお茶を仲間に振る舞いながら、次の戦いに向けて身体を休める。
●黒闇覇王軍との戦い
森を抜け、ふたたび草原へ出ようとしたストゥルトゥスにニウェウスが尋ねた。
「次はどこへ行くの?」
「次はどうやらひき逃げアタックとは行かなそうだよね」
ストゥルトゥスは足を止める。
同時に、雷鳴の如き轟き。
森の木々をなぎ倒し、黒馬に引かせたチャリオットが現れた。その上で仁王立ちする悪魔の翼とバッファローの角を持ったミニスカート姿の妖艶な悪魔メイド。
「ほうほう、須頼もずいぶん頼もしい仲間を用意したようじゃのぅ!」
「お前だな! メイド軍を作ったのは! 成敗してやるぞ!」
その声にストゥルトゥスは振り返る。そこには筋肉的な戦いを乗り越え一回り大きくなったカイの姿があった。
「何を言う。男ならゲーム空間で、何故、美女メイドに立ち向かうのじゃ」
カイは無言でかぶりを振った。
「あくまメイドが可愛くないから」
「は?」
「だってメイドってガチンコ英国風メイドさんでらぶずっきゅんかアキバ風メイドにらぶずっきゅんが定説でショーー!?」
その言葉は悪魔風メイドの逆鱗に触れたようだ。メイドは唾を飛ばしながら反論した。
「秋葉原でメイドの歴史はたかが二十年! 二次元でのメイドの歴史の長さを知らんのか! 儂が若い頃は萌えなどと言う言葉も無く、ジャンルとして確立すらしてなかったが自由な発想によりメイドを愛でる者はもっと」
「ちょっと待て。二十年前……ってオッサンじゃねーか!!」
「教授と呼べ!!」
悪魔風メイド”教授”はカイに怒鳴り返す。
「アレは他のNPCと違ってプレイヤーがリアルタイムで動かしてるわけだね」
ストゥルトゥスのメタな発言にこくこくと頷く紗希。
「日本のメイドの概念がいちばん萌えるんですよ! ナゼそれが分からないんですか?」
「あれ? 今、そういう話?」
しかし、カイは紗希の言葉に激しく同意する。
「そうだ、俺もそう思うぞ、マリ」
「ってゆーか、分かんないヤツ!」
カイと紗希の声が重なった。
『イッテヨシ……!』
飛び出すカイたち。エクスターミネイトを持つストゥルトゥスがそれを追う。
各部隊が到着した時にはすでに戦いが始まっていた。とはいえ、他の軍は負傷者を撤収させたためだいぶ兵士が減っていた。
「ここからが本気ってやつだよね。────まぁ、あれだ。折角のゲームなんだし。最後まで楽しんでやんよぉ!」
距離を詰めたストゥルトゥスが手を伸ばすのと同時に幻影蝶が”教授”を襲う。
「ゲームとして生まれた以上は、ね」
ニウェウスがエルフたちに合図を出す。
直後に戦場の全方位に散ったエルフ軍がチャリオット目がけて重斧を投げつける。
だが、同時に”教授”の手が鈍く輝き、遊撃部隊の攻撃は周囲のメイドたちが今までにない素早さで弾いた。
そのまま、敵のメイドたちはニウェウスへと刃を向ける
「この地の民と、主の平穏を乱す者は許さぬ!」
ガン! 飛び込んだリーヴスラシルの剣が敵メイドたちの攻撃を受ける。同時にリーヴスラシルの剣の拘束効果が発動し、敵の動きを奪った。だが、同時にそれはメイドと共に彼女の手を離れる。
「ラシル、この剣を!」
由利菜が自分の剣を投げる。
「わかった!」
その柄を横から掴むと、敵将へと続くメイドたちに剣を向けた。
「六重の斬撃、その身に刻み込め!」
「カルの世界、ナトの大好きな世界」
伝説の武器を手にしたナトが戦場に降り立つ。まるで鏡のように爆裂ハンマーを手に同じ構えを取るカルも続く。
「壊れないの、ナトとシエロと、みんながいるから」
《射手の矜持》により集中力を高めたナトが、そしてナトと合わせたカルが、ハンマーを振り下ろす。時に《トリオ》を使い、敵のメイドを、そして、ゴンゴンと地雷型スライムを生み出していく。
かつてのようにひらりと舞い強く打つ、でも今度は二人だ。
「ぜったい、負けない!」
カルの力強い言葉にナトがこくりと頷く。
各所でスライムたちが時間差で爆発を起こす。
ニウェウスが”教授”の頭目がけて牽制の光線を放った。そこに《拒絶の風》を纏ったストゥルトゥスがチャリオットの上に飛び乗った。慌てた”教授”の攻撃を避け、お返しとばかりに鈍器として振りかぶる。
「まずはあの紋章から……」
ニウェウスの呟きが聞こえる距離でもないのに、ストゥルトゥスが応える。
「OK、ぶっ壊すよ!」
思わず身を庇おうと翳した手のひら、ストゥルトゥスの狙いはそこであった。
叩きつけたエクスターミネイトが『血戒(チカイ)』の紋章にぶつかり光が弾ける。
「儂の、儂の紋章が疼くぅう!」
厨二の紋章、血戒は弾け飛び黒い痣と変わった。
同時に、敵のメイドたちの機動力がぐっと落ちる。
「敵軍右翼に一斉集中砲撃、着弾後、左翼まで薙ぎ払います」
メイド型アンドロイドを配置したルビナスは攻撃を開始した。
二列横隊、エクスターミネイトを構えたルビナス軍のメイドたちは前衛は防御と鈍器による露払いを、後衛は集中的な攻撃を行う。
「前衛盾構え、バッシュで弾いた後、後衛砲撃で殲滅しなさい」
「前衛砲門展開、後衛との一斉砲撃で味方の道を切り開きます」
チャリオットを護っていたメイドたちが次々と吹き飛ばされていく。
「隅々まで掃除を怠らないように」
「了解致しました、”Commander-in-chief”」
ルビナスの言葉にメイド型アンドロイドたちが涼やかな声で一斉に応えた。
そこへ部隊の三分の二を率いた伊邪那美が突撃して来た。
「逃げるメイドは駄メイドだ~、逃げないメイドは良く訓練された駄メイドだ~!」
金色に輝く砂漠の砂をまき散らしながら、爆走する伊邪那美。
ビクッと悪魔風メイドたちが一瞬怯えた。
「伊邪那美め、元凶を目の前にして頭に血が上ってるな」
恭也と月詠が残りの兵士を率いて伊邪那美の突撃のフォローに回る。
「ホント、黒闇国は地獄だぜ~、ひゃっは~」
「どこぞの鬼軍曹と世紀末世界が混ざってないか?」
恭也の隣で月詠は微笑んだ。
「さすが母上!」
武器を重斧に変えて敵をなぎ倒す月詠の姿に、彼女が立派なドレッドノートとして成長したことを確信した恭也は感心する。
「伊邪那美の狂乱を見て動揺せんとはな……意外に大物なのかも知れんな」
それでも彼は、月詠に未だにあの手のかかる赤ん坊の面影を見つけることができるのだった。
チャリオットを護る黒闇軍メイドたちがほとんど倒れた後、カイがチャリオットの前に躍り出た。
「お前の主張は理解した! しかし、お前はアキバのメイドに会ったことがあるのか!」
「あるか、そんなもん!」
カイが斧に変化させた転生弓・幽華で”教授”を指す。
「先入観でモノを語るな! メイドが好きなら嫌いで語るな! そもそも、まず秋葉原に行ってみてから語れ!」
その瞬間、ナトが短く声を上げる。”
「いま!」
その合図に味方は一斉に目を伏せた。強力な《フラッシュバン》が敵の視力を奪う。
「タイミングを合わせるでござる!」
七人の英雄たちがそれぞれの武器を”教授”へと向ける。
そして、タイミングを合わせた一撃。
それぞれの武器に謎のカラフルな光のエフェクトがかかり、すべてが収束して悪魔風メイドとチャリオットを貫いた!
「う、うわあぁああああああ!」
”教授”が絶叫を上げると、その周囲に薄紫色の巨大な光の柱が天へと伸びる。
地響きの後、視界を覆う煙が散るとそこには地面に倒れ伏す敵将の姿があった。
「鬨の声をあげよ!」
リーヴスラシルの言葉に兵士たちから歓喜の声があがった。
「全員ご苦労様でした。今後も怠らずにメイドとして恥ずかしくないよう精進してください」
ルビナスの言葉にメイド型アンドロイドたちは一糸乱れぬ美しいカテーシーで応えた。
「随分楽しそうだったな」
「この程度のこと、メイドの嗜みですので」
飛翔の言葉に答えるルビナスはどことなく誇らしげにも見えた。
「メイドの嗜みとは」
思わず呟いたカイ。
その直後、ピコーンという軽い音がしたかと思うとカイの頭上に燦然と輝く王冠アイコンと文字列が現れた。
「なっ!?」
倒れていたはずの”教授”がむくりと起き上がり、無理矢理カイの手を握った。
「君こそがこの世界の、いや僕のメイド観の救世主だ。そうだった。こだわりに囚われずに……まずは電車で秋葉原に行ってみるのじゃ」
最後に言いたいことだけ言うと”教授”はメイド軍勢と共に姿を消した。
カイの頭上に文字列が残る。
そこには『メイド王 カイ アルブレヒツベルガー』と書かれていた。
「つか、俺にそんな新要素いらねーっつーの!」
●凱旋
光の柱を見たエスペランサの国民達が馬車と馬を引いて現れ、エージェントたちは一連の騒動が集結したことに気付いた。
凱旋パレードを最初に出迎えるのは撤退した各部隊の人々だ。
『ゴーザール! ゴーザール!』
謎のゴザルコール。
エージェント達は一斉に白虎丸を見た。白虎丸と千代は誇らしげに胸を張り、千颯は顔を反らした。
月詠の操る馬に乗った伊邪那美は手綱を持つ娘の顔を見上げた。きりりと前を見る月詠は母の視線に気付いて目尻を下げて微笑んだ。
「ヨミちゃん、怪我は無い?」
「もちろんです」
一旦、口を閉ざし、周囲を見渡す月詠。そして、伊邪那美の耳元でそっと囁いた。
「母上が護ってくれたから月詠は平気です」
さっと頬を赤らめて、月詠は美しく笑った。
嬉しくて頬を緩めた伊邪那美は、はっとして月詠の腕を押さえた。
「そうだ、聞きたいことがあったんだよ! ヨミちゃんはちゃんと素敵な人と結婚したの?」
今度ははっきりと月詠の顔が赤く染まった。
「どんな人?」
「……のような、素敵な人、です」
小さな声で答えた月詠が、ちらりと恭也を見たような気がしたが、たぶん気のせいだと伊邪那美は思うことにした。
「メイド王?」
頭上に輝く謎の称号を見た人々の囁きと好奇の視線に顔を強張らせたカイだったが、ふと何かに気付いた。
「待てよ?」
「何?」
笑顔で爽やかに周囲に手を振っていた紗希が声だけで応える。
カイは手を伸ばして頭上の称号を胸元まで引きずり下ろす。
「メイドに関して色々言ってたのは俺だけじゃ」
「ん?」
笑顔のまま手を振ったまま、紗希が英雄を振り返った。
「ナンデモアリマセン」
ピコーン! 再び軽い音を立てて称号はカイの頭上へ戻った。
せめて、名前だけは非表示に出来ないものか。
だが、パレードの終わり。エスペランサ女王は無情にも宣言したのであった。
「この世界に再び平和を取り戻す為にこの地に再び降り立った英雄の方々を我らは忘れません。
そして、ゴーザールの言葉と誇り高きメイドの精神を、敵と相互理解に到達したメイド王の名を、我らは未来永劫語り継ぐとお約束致しましょう!」
『待って』
「皆様、せめてものお礼です。心ゆくまで宴をお楽しみください!!」
大気を揺るがす大歓声と共に見たこともない美しい花びらが空から降り注ぐ。ドワーフたちがとっておきの酒が詰まった大樽を転がし、エルフたちが美しい楽器を操って凱歌をあげる。エスペランサの人々は食欲をそそる料理を次々と運んで来た。
「戻ったらウチらもトラブル対応も兼ねての限定ユーザーに登録してもらえるよう頼まなくっちゃ!」
「に! ナトもシエロもまた会える?」
「うん! ね、ナトくん?」
こくこくと頷くナトとシエロを大きく育ったカルがぎゅーっと抱きしめた。
「限定ユーザーですか……」
シエロたちの正面で食事をしていた由利菜が手を止めて思索に耽る。
「ユリナ?」
リーヴスラシルの声にはっとして、彼女は苦笑いを浮かべた。
「すみません。『ユリア』と『フレイア』がこの世界で生きて行ったらどうなるのか考えてしまって」
さっきまで一緒に戦っていたエルフたちが広場で楽器の演奏を楽しんでいるのが見える。
おそらく、ユリアとフレイアがこの世界に居たら彼女たちと戦い、一緒に生きて行くのだろうか────。
「それにしても、ファンタジーゲームの世界に魔法が無いなんて思わなかった。
ふふ、ボクの魔法を見たこのゲームの人たちがどう変化するのか考えてみると面白いだろう?」
大皿から料理を取り分けながらニウェウスに語るストゥルトゥス。
「そう、だね」
料理を受け取るニウェウスも確かに好奇心が疼いた気がした。
そうして、おおよその人々の顔は喜びに輝き、世界はだいたい幸福に満ちたのであった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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