本部
掲示板
-
【相談卓】
最終発言2017/01/20 18:38:42 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/01/16 20:08:44
オープニング
夜愛。
ヨモツシコメ三姉妹の一人である彼女に最初に与えられた神門の命令は、唯一、破壊を与えるものではない。
彼女は今後の行動や計画を思考し、その作戦を立てる事を命じられた存在だ。
そんな夜愛の立てた計画は、順調と言えた。
広げた奇病は蔓延し、四国は混乱の只中にある。
人と人は守りあう。
まだ助けられる人間や、助けられるかもしれない人間を、HOPEは見捨てることが出来ない。
それはつまり、力を持たない人間達が、HOPEの自由を奪う鎖となる事を示していた。
この状況なら、人間達が万一目的に気付いたところで、まともな対応は難しい。
夜愛はHOPEの人員不足の現状も、プリセンサーという存在の危険性もよく理解している。
だからHOPEが他国の事件に対応しなければならない間に種を撒き――プリセンサーの予知対象となりやすい、強大な愚神達が世界に現れている間にその下準備を終えたのだ。
凪いだ海に大波を立てれば分かりやすいが、嵐の中で大波を起こしても、それを確認することは難しい。
その目論見は上手くいき、四国の事件ではほとんどプリセンサーが役目を果たせず、こちらが多く先手を取る事ができた。
(鹿角さんのことは、残念でしたが……)
懸念すべき治療薬の開発者、アニー医師の殺害。
鹿角看護長による作戦が失敗したことは悔いてはいるが、彼女を責める気はない。
彼女の命令に従い動いた彼女の失敗は、つまり自らの失敗だ。
けれど、策の全てが成功しないのは当然のこと。
失敗したとて、次に繋がる策の用意は終えている。
狙うことは一つでいい。
終わらせるなら、一瞬でいい。
計画は秘密裏に、実行は迅速に、全てをその一つの為、一瞬の為に……。
姉と妹に託した電波塔の占拠を陽動とし……プリセンサーを始めとするHOPEの人間達の眼から自分を眩ませて……今、この時を作り上げた。
HOPEがこちらの狙いに気付いた時には、既に目的は達せられる。
「神門様……」
主の名前を口にする。
そこに込みあがる恍惚とした想い。
ようやく、達せられる。
主の眼差しを自分に向ける事ができる。
主に絡まる憎き因果に終わりを迎えることが出来る。
結界により封印された、主の力の開放、その悲願の成就によって……。
――――Link・Brave――――
結界破壊―暗夜に浮かぶ月―
―――――――――――――――
――HOPE東京海上支部・通信室――
「爆発は七十五番所だってな、黒松ちゃん、どうするよ!」
「どうするもなにも、すぐに現地の能力者を向かわせます」
大柄な職員に、黒髪の長身女性……黒松鏡子は言葉を返すと、すぐに通信機器を耳に当てた。
彼女が職員として行う業務は多岐に渡り、通常業務や職員会議の取りまとめ、こうした通信業務の他、現地への同行や、能力者として作戦に参加することもある。
いつもながらてきぱきと機器を操作しながら、黒松鏡子は状況を頭の中で整理する。
爆発騒ぎが起きた寺院は、七十五番所、善通寺。
目的は恐らく、四国にあるとされる結界の破壊。
電波塔の占拠と同時に、二点を攻めようというのは頭が痛い。
想定すべき事は山程あるが、今は寺院に能力者を向かわせ、襲撃者を阻害する事が先だろう。
もっとも、先手をとられている今、間に合うかはわからないが……。
彼女は通信機器から、香川県にいる能力者達に通信を繋ぐ。
『HOPE四国担当職員の黒松鏡子です。香川県、善通寺で爆発事件がおきました。その犯人と思われる和装の襲撃者が、従魔を引き連れ東院の境内にいます。四国の一連の事件に関わりを持っている可能性もあるので、能力者の方は至急、善通寺に向かってください』
――七十五番所、善通寺――
東院の境内の中、青白い肌をした和装の人物はそこで笑みを深めていた。
夜愛があえて爆破を起こしたのは、プリセンサーが予知を成功させた場合を警戒して行った策の一つだったが……どうやらその心配は不要だったらしい。
手足となる屍達に状況を確認させたが、どの要の地点にも、その周辺にも、能力者達の影はなかった。
それはつまり、プリセンサーによる未来予知は行われておらず。
それはつまり、夜愛の行う行為を阻止できる者もおらず。
それはつまり、この四国で神門を縛るもの全てを……漸く過去のものにできると言うことだ。
じゃらりと……左手に絡めた数珠を夜愛が握る。
歓喜に震えそうになる手、眼鏡の下、薄く開いた両目に浮かぶのは、狂信とも呼べるほどに深い、主への感情。
「……今こそ、この地を」
左手に絡めた数珠には、この世界から解脱した仏達と通ずる意味がある。
けれど、夜愛が通ずるのは……彼女が愛し崇める神門と言う一人の愚神。
空海の産まれたこの場を汚し、貶め、終わらせる為に……彼女はその唇を開く。
「災禍の念珠よ、従者たる我の声を届けよ」
流麗な声が響く。
数珠にぽぅっと、紫の光が灯った。
その光は百八ある珠に巡り、青白い夜愛の肌を照らす。
「六道輪廻に満ちる欲、汝は貪、汝は瞋 、汝は癡、即ち三毒」
数珠から放たれた輝きは夜愛の身体から床へ、そして大地へと流れ、ある地点で次第に大きな円を描いていく。
「汝らを刻みし書は語る」
その円の中、霊力が三匹の動物……豚、蛇、鶏の三匹を描く線となり、禍々しい紋様をそこに刻んだ。
「三毒通じて三界の一切煩悩を摂し、一切煩悩は能よく衆生を毒すること」
夜愛が言葉を語る度、その円の中に霊力が満ち、そこから地下へ……その深くを流れる四国の霊脈へと、黒い霊力が浸透していく。
「それ毒蛇の如く、また毒龍の如し」
夜愛はそこで眼を瞑り、両手を合掌させ……左手に絡めた数珠に右手を触れさせる。
バチりと、火花のように紫色の霊力が散った。
「故に我、汝に念ず。我らが欲、我らが怒り、我らが愚かなる願いに応じ、この六道輪廻に残る者をすべからく」
円形の陣から、無数の蔦のような線が広がり……『災禍の念呪』と呼ばれる禍々しい数珠が、その力を体現する。
「蝕みたまえ、トリヴィシュ」
善通寺に向かっていた能力者達は、一瞬、その寺から天空に向かい迸った巨大な紫電に気付いた。
不吉な予感を抱えながら、彼らはその異変の元へと、駆け出していく。
相手の目的は恐らく結界の破壊、それに伴い、何かの封印を解くこと。
感染、襲撃、様々な事件が続き疲弊した四国の地。
そこでこれ以上の何かが起きる事は、四国の人々にとって耐えられるものではないだろう。
夜の満たす善通寺。
今そこで、一つの闘いが始まろうとしていた。
解説
【依頼目的】
1.善通寺(東院か西院にある要)の破壊阻止
2.善通寺に現れた和服の女性の討伐、もしくは確保と、引き連れているゾンビ達の壊滅
【詳細】
善通寺が何者かに襲撃されました。
四国を巡る結界の重要点と思われるので、この襲撃者達から寺院を守護してください。
また敵の実力は不明である他、結界に関わるものをこちらは特定出来ていません、気をつけて対応しましょう。
【状況】
善通寺の東院の敷地に、巨大な魔方陣のようなものが浮かびあがっています。
円の中に豚、蛇、鶏が描かれたその陣からは、根のように霊力が広がっているようです。
その陣の中央に夜愛の姿が見え、周辺には40匹のゾンビが確認されています。
【地形】
東院(伽藍)には開けた場所があり、広域での戦闘をするのに適しています。
西院(誕生院)に従魔や夜愛の姿はありませんが、こちらは空海の誕生した地であり、寺院や宝物庫などの建物があります。こういった建物は東院にもありますが、西院の方が空海に深い縁のある施設が存在します。
【確認された紫電と爆発】
爆発は火薬によるもの、東院で起こされた。
また、紫電は離れた四国霊場の一番所、八十八番所でも確認され、一番所のみが倒壊したようです。八十八番所、七十五番所は無事ですが、四国の結界が維持されたままであるかは不明です。
観測した映像の限り、一番所、八十八番所、七十五番所の寺院の真下から巨大な紫電が吹き上げたようです。
両寺院共に七十五番所のような魔方陣は見えません。
以下PL情報
【夜愛を含めた敵の正確な人数】
ゾンビ×60
夜愛
???
【敵関連】
展開された魔方陣の根に乗っていると、定期的に誰かの足元から紫電が発生します。(対象1人、範囲2)
触れると霊力が乱され封印が付与されるようです、避けましょう。
また、敵は数珠から障壁を発生させ防御を行う他、ソフィスビショップのような強力な魔法攻撃を仕掛けてくるようです
リプレイ
それは、好奇心と呼ぶにはあまりにも貪欲な……技術への関心だった。
「そこな愚神よ。力比べさせてもらうぞ」
善通寺、境内。
地面から吹き上がる紫電を浴びながら……平然とそう告げるのは……能力者、カグヤ・アトラクア(aa0535)。
彼女はその興味のまま、魔法陣の中央にいる相手へと杖を向け……そこから特殊な領域を展開する。
魔法陣と触れ合った領域部分で、紫電が小さく爆ぜた。
結界と魔法陣、互いの法を押し付け合い、バチバチと爆ぜるその音は……技術と技術がせめぎ合うからこそ起きる、至福の音。
「わらわが勝てたらその魔法陣の使用法を教えるのじゃ」
●宴――賢者集う夜――
「おやおや、随分と派手にやってくれるじゃありませんか」
天に立ち上った紫電を、穏やかに見上げる人物がいた。
四国に関わる幾つかの事件を見てきた彼……君建 布津(aa4611) は、それまでの事件の異様さと、HOPEの出した依頼要請を見て、善通寺へと歩みを進める。
「……ま、普通にタダの感染症じゃありませんよねえ」
『ええ、ええ、こうした派手な花火は私も中々好きですよ? いいですよねえ、綺麗で』
その隣、嬉々とした様子で語る褐色肌の人物は、布津の英雄……切裂 棄棄(aa4611hero001)だ。
布津は他愛のない日常会話のように、彼女に微笑みを向け、歩きながら言葉を返す。
「確かに確かに。ですがまあ、今回は打ち上げられても困るようですので」
そうして、慌てる様子も見せずに赤門へと辿り着いた布津は、 棄棄と共鳴しながら、馴れた動作で銃器を取り出した。
「ええ、お楽しみはまたの機会にお願いしますよ」
四つの影が疾駆する。
「私達が四国を離れている間、アニー医師が狙われ、今度は結界が……」
『敵の策は幾重もあるはず。……立ち止まる暇はないぞ、ユリナ!』
善通寺に向かう月鏡 由利菜(aa0873)と、リーヴスラシル(aa0873hero001)の声を聞きながら……その後ろを走る少年……GーYA(aa2289)と、その英雄であるまほらま(aa2289hero001)は、これから向かう善通寺……そこにいる和装の人物に思考を向ける。
『未知の敵よ、情報を得る事を頭に入れて冷静にねぇ』
「わかってるさ、でもそいつが首謀者なら大剣叩き込んでやる」
この四国で多数の悲劇を生んだ存在がそこにいるなら、この場で逃すわけにはいかない。
「見えました! 行きましょうジーヤさん」
「はい!」
由利菜、それにジーヤと、その英雄達は、善通寺……南大門を潜りながら、その闘いの舞台へと駆けていった。
――東院・赤門方面――
「電波ジャックが囮とは大それた事してくれるじゃねーか」
日暮仙寿(aa4519)は、東院で輝く魔法陣を、金堂の近くに隠れて確認していた。
金堂の周囲の建物や地面が焦げていたが……あの魔法陣の影響だろうか?
視線の先……魔法陣の中央には、和装を着た一人の女性と、その周囲を彷徨う多数のゾンビ。
「それだけ結界の破壊が重要なんだろうけどな」
通信士に聞いた限り、この善通寺は四国霊場を築いた空海の生まれの地らしく、結界に関わりそうなものが多数存在する。
伽藍と呼ばれる東院には、本堂でもある金堂、シンボルとも言える五重の塔。
誕生院と呼ばれる西院には、空海が誕生した家の跡地に建てられた御影堂や、井戸……国宝に指定された、空海に纏わる様々な宝物。
『善通寺を守らないと不味い事になるね。気を引き締めていこう』
「ああ」
英雄……不知火あけび(aa4519hero001)の声に仙寿は頷くと、背後の人物を振り返る。
「無音だったな、やるぞ」
「はい、少しの間……よろしくお願いします」
その人物の名は無音 冬(aa3984)……英雄のイヴィア(aa3984hero001)と共鳴した彼は、近隣にいた能力者の一人だ。
冬が行うのは、展開された魔法陣の解除。
解除が出来るかは分からないが……その解除作業の間、冬を守ることが、今の仙寿達の役割でもある。
(奇襲には警戒した方がいいだろうな)
東院、西院……どちらが相手の狙いか分からないなら、どちらも警戒をする他ないだろう。
(任せるしかないが……)
西院に向かった一人の魔女、その姿を思い出してから……仙寿は共鳴をするべく、金蝶の模様が入った紫色の宝石に手で触れた。
――西院・仁王門前――
(ロ―ロ、…ーー、ロー…、ロ……ロロ)
『そうですね、皆さんがいますし、東院は任せられるでしょう』
辺是 落児(aa0281)との共鳴を終えた構築の魔女(aa0281hero001)は、その声を聞きながら、西院の様子を調べていた。
気になることはある。
ライヴスゴーグルを使って東院と西院の間、七十六番所への方角を調べたが……どうやら今、西院と東院の間でだけ、大量の霊力が動いているらしい。
通信士から聞いた際は、西院に誰かがいる、と言う情報はなかったはずだが……。
(魔法陣が、西院に影響を与えている?)
先行した爆破、それに紫電……どちらも陽動だった場合、西院が狙われる可能性はある。
(東院を囮として使う……。あり得ない話しではないでしょうね)
思案しながら、彼女は東院に近い方の門、仁王門を守る人物に声をかけた。
「月影さん、フローリアさん、大きな霊力の流れが西院と東院の間で出来上がっているようです」
年は二十歳そこそこの赤い髪の少年、月影 飛翔(aa0224)と、その英雄……メイドとしての風格を備えたルビナス フローリア(aa0224hero001)は、その女性の言葉に頷く。
「こっちも気は抜けませんね」
「用心をした方がいいでしょうね……。私は今から、御影堂を調べてきます。外で何かあったら通信してください」
「水落さんは呼んでおきますか?」
離れて行動しているもう一人の能力者……水落 葵(aa1538)の姿を思い出して飛翔が聞くと、魔女はその場で少し考え……。
以前犬を持ち帰った彼の特殊性を思い出し、笑みを深めた。
「考えがあるようですし、緊急時以外は余計な連絡は控えていいでしょう」
『で、どうするの?』
「どうもこうも、やりたいことをやるだけさ」
西院の土を掘り返し、そこに青いタオルケットを埋めるのは……水落葵だ。
『土にタオル埋めてるようにしか見えないけど』
「土にタオル埋めてるからな」
『何がやりたいわけ?』
「五色布の真似」
五色……各色ごとに、仏教では叡知を、中国では五行を示すそれで儀式を行い、空海が残したとされる結界への干渉を期待する事が、今回の葵の考えだった。
『効果あるかなぁ…?』
「あるかもしらんしないかも知らん」
断言した葵に、ウェルラスはため息をつきそうになるが、それに構わず葵は語る。
「こないだ四国を出たとたん袋の中身がおとなしくなったろ? いにしえの何某かにも意味があるんじゃねーかね」
「あるかなぁ」
ぼやきを挟む相方の前で土を固めると、葵は立ち上がった。
「こっちにもこっちの作法がある。無かったら無かったでかまわんさ。見廻りのついでだついで」
そこまで語り、次の場所に向かう姿を見て……葵が何故こんなことを始めたのかに気付いたウェルラスが、あ、と声をあげた。
『今日は……』
「大きい袋もってこれなかったんだよなー」
それでこんな事を……。
ウェルラスはそれが分かるのと同時にため息を吐き、ジト目で葵を見た。
『おっさんさ、袋持ってたらまた何か持ち帰る気だったよね、絶対。前にさんっざん怒られたのに』
「原因不明の固まりがそこに居るんだぜ? そりゃぁ……」
『普通は! 持って帰らないからね?!』
ウェルラスの言葉が、寺院に響く。
和やかな空気を見せる二人が、そのまま西院を探る中……。
それと反するように……東院で闘いが始まろうとしていた。
――東院・金堂前――
(なるほどのぅ。他の領域を浸食する性質があるのじゃな)
杖を始めとする、霊力による特殊な領域を展開する技を幾つか試し……カグヤは満足げに頷く。
「どれ、ならば抵抗してみようかの。心の煩悩を消すことなど造作もない」
元々カグヤには効かないが……カグヤにとって大事なのは、魔法陣のテーマとなっている貪瞋癡を消した時、魔法陣が反応しなくなるかどうかだ。
魔法陣の真ん中に立つ女性も、こちらに対して有効な手がないのか、あまり攻撃を仕掛けてこない。
実験するにはちょうどいいだろう。
だが、そんなカグヤの思惑は……。
『……カグヤほど技術への貧に溺れた存在知らないんだけど』
他ならぬ自らの英雄……クー・ナンナ(aa0535hero001) の一言であっさりと打ち消された。
「おお! これはうっかりしておった」
素直に納得したカグヤの背中から声が聞こえたのは、その時の事だ。
「カグヤさん!」
「おっと、入ると危ないぞえ?」
由利菜を筆頭に駆けつけた四人の前で、カグヤの足元から紫電が吹き上げる。
魔法陣に入ろうとした四人の足が止まった。
圧倒的な霊力の奔流……だが、それを平然と浴びて佇むカグヤの姿には、驚嘆する他にない。
「あれと千日手になっておってな、いろいろと試せたのはよかったがのう」
カグヤはジーヤ達から視線を外すと、相対していた人物に視線を送る。
その視線の先には、黒い着物を纏い微笑みを浮かべる一人の人物。
「あれとはまた、不躾な呼び方をされるのですね?」
友人と語らうようにカグヤと話すその人物だが……その肌は青白く、左手に巻いた数珠が、禍々しい紫色の光を灯していた。
周囲にはゾンビもいたが、カグヤには向かわず、近くを守るように固めている。
「名前を聞いておらぬからの」
「ヨルアと申します。夜を愛する、と言う意味で、夜愛と書きます」
穏やかに夜愛が語ると……それに少年の声が返って来た。
「お前が首謀者なのか?」
ジーヤだ。
彼は、苦しんでいた村人達の姿を……ゾンビとなった人を斬り捨てた、あの時の手の感覚を……その脳裏に呼び覚ます。
共鳴したその手に、巨大な剣が握られた。
「さてどうでしょうね。感染を広める為に手を尽くしましたが……」
四国の惨状は由利菜も知っている。
感染を広めたと……そう平然と告げた相手に、迷いを抱くつもりはない。
「ならば……あなたに剣を向ける事に躊躇いはありません」
由利菜のその意思に応じ、ラシルの身体がライヴスとなり……その気高い意思が、美しい光の蝶へと変わる。
胸元に現れるのは、幻想蝶が変化した赤い宝石。
美しい金色の髪を飾るのは、姫である事を示す高貴なる冠。
肌に纏うのは、可憐にして気高く、清らかにして果断な姫の戦衣。
姫戦衣フォールクヴァング。
由利菜の共鳴時の姿であり、多様な戦闘スタイルを持つ彼女の、一つのバリエーションだ。
剣を構え、展開された魔法陣に踏み入る。
だが刹那、闘いの火蓋を落としたのは……。
流星の如く飛来した一羽の輝く鳥と、ゾンビ達の元で起きた大きな爆発だった。
「来たみたいね」
魔法陣から伸びる根の近く、光の鳥を放った水瀬 雨月(aa0801)は遠目に、戦場の面々を見た。
前衛が到着するまでに迂闊な攻撃を仕掛けるのは危険だった為、こうして待機していたのだ。
夜愛と名乗る人物が、その場を動かなかったからこそ出来たことだが。
「君建さん、五重の塔の方面は任せるわ」
『ええ、わかりました』
通信先……緊張を全く感じさせないその声の主は、君建……この依頼に関わる人物のもの。
目的とする行動は同じ、従魔の駆逐。
雨月は当初、魔法陣から伸びる根に触れる予定だったが、カグヤ……敵の攻撃を平然と浴び続ける実力者が行った為、敢えて雨月が行う必要はないと言う結論に達した。
だから今は、従魔の駆逐に専念し……前衛にいる面々が動きやすいようその力を振るう。
雨月が生み出すのは、光の結晶たる鳥。
流星のようにゾンビ達の元へと飛翔した鳥はその場で砕け散ると、周囲の空間に煌めく欠片を撒いた。
間髪入れず、そこに雨月の霊力が放たれる。
それは無数に散らばる欠片の一つに触れ……その霊力を多方向へと反射した。
欠片から欠片へ拡散し……それがまた別の欠片へと触れ、瞬く間に細かな幾筋もの光となり、乱反射した霊力の輝きがその空間を満たしていく。
それはさながら恒星の輝きのように美しい……破壊の光景だ。
光に触れたゾンビが、霊力により蒸発する。
欠片と欠片の間を隔てていたゾンビ達が、無数無限の光に包まれ……その原型すら残さず塵となった。
『なんじゃ今のは! もう一度やってみせよ』
『雨月さん、支援感謝します』
「気にしないでいいわ、そっちは任せるから」
カグヤからのリクエストを無視し、由利菜に通信を返すと……雨月は夜愛を囲む無数のゾンビに、続けて術を放つ。
紅蓮咲く大火の華……ブルームフレア。
雨月のそれは、並みの能力者が扱うものとは比較にならない圧倒的な火力を誇る。
業火を戦場に咲かせながら……しかし雨月は僅かな違和感を覚えていた。 さっきから積極的に動かない夜愛の姿、そこに不自然なものを感じるのだ。
今回の襲撃が相手の目論み通りとして、能力者と積極的に交戦していない事は疑問に思う。
(……奇襲が来る様子はないけど)
焦りを感じさせない姿、その裏にあるものに、雨月は疑問を募らせていた。
魔法陣の端に流した霊力が、そこから溢れる光を一瞬だけ薄め……すぐに消える。
魔法陣の根、魔法陣そのもの、両方に霊力での解除を試みたが、規模が広すぎる為か望んだ効果は得られなかった。
(……一人じゃ難しいかな、それとも、場所?)
少し考えるが、わからない。
《終わったようだな。俺は離れるが、構わないか?》
ハッとなって顔をあげると、近くにいた美しい男性……共鳴し、天使のような白い翼を見せる仙寿に冬は顔を向け……一つ頷く。
《ではな、無音》
「日暮さん、ありがとう……。行ってらっしゃい……」
そうして仙寿を見送った冬は、一冊の本を手に持つと……そこに霊力を込めた。
「逃がさないようにしなきゃ……」
『だな……』
ゾンビ達を燃やし尽くす雨月の火炎。
それに劣るとは言え……冬もまた、着実にその力をつけてきた、一人の能力者ではある。
『寒かったならちょうどいいな』
本に灯した火が、膨れ上がる。
「……そうだね、イヴィア」
冗談とも本気ともいえない、抑揚のない声。
冬の顔が、暖かな焔に照らされ……放たれた火が、ゾンビ達の中心で炸裂する。
だが……。
冬は見た。
炎が炸裂する寸前で、数珠から発せられた薄い紫色の光が、夜愛の身体を包み守っているところを。
「あんなのもあるんだ……」
雨月の時もそうだが……巻き込まれた夜愛に傷一つない。
(……あれを、なんとかしないと)
奪えないかな……そう思いながら、冬は物陰に移動し、次の火炎をその書物に産み出す。
西院の事も、その脳裏に過ったが……。
(こっちに、集中しよう……)
任せられるだけの人達が西院にはいる。
そう思い冬は、眼前の相手へと意識を向けた。
――東院・五重の塔近辺――
轟音。
フリーガーファウストから放たれたロケット弾が、陣の中央……夜愛の周囲に群れるゾンビを駆逐する。
肩に担いだ兵器に霊力で練られた弾丸を再装填しながら、布津は共鳴した英雄と会話していた。
「いやぁ、ヴァンピールを忘れて来てしまったのは謝りますから」
『いいんですよ、君津さん。そ・れ・よ・り、新しい依頼の書類、終わったら取り寄せておきますので』
ヴァンピール……こういった時に利用する為に持っていた兵器のはずだが、手元にあるのはフリーガーファウストだけだ。
確かにこれでも装備としては充分だが……布津のなまぐさな気質を普段から知っている棄棄にすれば、目零しをする気はあまりない。
「あっはは、それより棄棄さん、妙に思いませんか?」
布津が、話題を逸らすために棄棄に告げる。
言わんとする事は、棄棄には分かる。
ゾンビ達の動きだろう。
忘れ物の話題は、後で存分に語ればいいとして……。
『ええ、守備的ですね、楽しいことを考えているのでしょうけど』
ゾンビ達はさっきから、前衛の進行を止める為だけに動いており……その結果として、布津を含めた遠距離からの射撃に対して、一方的に蹂躙されている。
攻めて来たとは思えない、防戦一方の状態だ。
だが……人間観察を趣味とする棄棄から見れば、その中心の存在……夜愛に対する違和感の方が強い。
危機意識が欠如しているのか、何かの安全策があるから……余裕を保っているのか。
『さて、何を隠しているのやら……』
その棄棄の興味に応える出来事は、すぐに起きた。
西院に、異変が起きたのだ。
――西院・産湯井近辺――
全てのタオルを埋め終えた葵は、そのまま何か起きないかと周りを見る。
夜の星が瞬く西院をしばらく歩き……。
「なんもないな」
『そりゃそうだって』
呆れた様子を見せるウェルラスだが、それはそれで構わない。
こうして選択肢を潰していくことは大事な事だ。
「次はどーすっかね」
『東院は?』
「あれだけの面子がいりゃなんとかなんだろ。 あの面子でどうにかならなかったら俺等が行ったところでとうにもならんよ」
東院に向かった能力者達は強者揃いだ。
そこに向かって出来る事など、この西院より少ないだろう。
「だから俺等は俺等がやりたいことをしねぇと、まずは空海さんの何かを守らんとな」
『そんな知り合いみたいな』
ウェルラスの言葉を聞き流しながら、葵はこれまで通った場所を考える。
歩き回るついでに、要、それに関わりそうなものを全て調べたが、特にそれらしい反応は見られなかった。
ハズレか?
そう疑問を持ち、西院を改めて巡った葵の元に……ゾンビが出現したとの通信がはいったのは、それからすぐの事だった。
伸ばされたワイヤーが夜を切り裂いた。
超高速で振動するそのワイヤーは銀閃となり、屍の下半身を瞬く間、三つに断つ。
倒れ伏す屍……その頭に剣を突き立て、飛翔は周囲を見渡した。
「動きは鈍くても、こういう輩は痛覚で鈍らせられないのが面倒だ」
『頭を潰せば終わり……ともいえないようですね』
頭を貫いたゾンビの手がノロノロと動いていることに気付き、飛翔が飛び退いた。
まるで最初から西院にいたように、唐突にゾンビ達がそこに現れたのは、つい先程の事だ。
数は十……既に四人を葬ったが、誰かが引き連れている様子が見えないのが、逆に不吉だった。
『これで終わりでしょうか?』
まず終わりではないだろうとは思いながらも、ルビナスはメイドとして意見を促す。
「いや、こういった場合は要破壊用の大物が出てくるか、綻んだ封印から何か出てくるパターンだな」
『フラグですか』
「……建って欲しくはないな」
ルビナスと話ながら、次のゾンビを狙うと……同行している葵から改めて通信が入る。
『水落だ。そっちの人手が足りてんなら、他の場所に怪しい奴がいないか調べたい』
「わかりました、お願いします」
『……魔女様にも、状況を聞いた方が宜しいのでは?』
ルビナスがそう飛翔に聞くと、飛翔はそれに頷いた。
襲撃があったなら、連絡をした方がいいだろう……葵との通信を切り、そちらに繋ぐ……が。
その通信機から返ってきたのは、ノイズの音だけだった。
――東院・金堂内部――
西院に変化が起きる前、静まり返ったその中を、一人の青年が歩いていた。
日暮仙寿、共鳴後の古風な姿の彼がそこを歩く姿は、時代を遡ったと感じさせるほど、様になっていた。
『此方にあるのかな……仙寿様』
その内から響くあけびの声に、仙寿は答える。
《要が複数だとするなら、此方に無いとも限らないだろう》
彼は聞こえる闘いの音に耳を澄ませながらも、そのお堂の中をざっと見渡し……その損傷の少なさから、ある事実を確信する。
《案の定、といったところか》
『……?』
《ここは要だ、次を調べよう》
『え、ここが要なの!?』
《ああ、理由を話すとしようか》
仙寿が語った内容は、簡単なものだった。
まず、この金堂の周囲の焼け焦げた跡。
魔法陣の周囲にはこうした焦げ跡はなく、焦げあとの規模も大きい事から、彼はそれを、ここに来る前に見た一つの情報と結びつけた。
天空に向かい発生した、巨大な紫電だ。
あの大掛かりな雷に狙われた場所がここなら、同様の雷が発生した一番所の倒壊と結びつける事で、その目的も分かる。
即ち寺院の倒壊。
そもそもとして、電波ジャックを囮にして行う事がただ小さな物品を狙う事なら、目立たずに、秘かに事を進めればいいだけだ。
だが、相手はそうはしなかった。
それはつまり、寺院の破壊や魔法陣の形成と言う大きな動きは、相手にとっては行わなければならなかった事であり……結界破壊に必要な事だったと考えられる。
それと金堂の焦げ跡を合わせて考えれば、金堂に既に攻撃がされた可能性や、金堂そのものが相手の目的……即ち、要であると言う推測を立てられるのだ。
破壊出来なかった理由までは分からないが、現地の情報から考えるなら、それが妥当なところだろう。
「ただ、東院に要があるとしたら、爆発を起こした理由に合いませんね……」
構築の魔女は、東院の仙寿達からもたらされた情報を元に、御影堂で考えを深めていた。
葵と共に西院を調べ尽くしたが、要と思えるようなものはない。
そうすると、やはり東院が狙いだろうか……。
だがそれなら、敢えて爆発を起こした理由は……?
「……」
東院と西院を結ぶ霊力の流れがあるなら、西院も関わっている事は間違いない……。
「西院に、もしも要が無いとするなら……」
魔女はそこまで思案すると、これまで得てきた情報の繋がりを、敢えてバラバラに解体していく。
解体、そして再構築……それは彼女が幾万、幾億と繰り返して来た思考の流れであり……真理に至る為の、論理の道筋だ。
東院、西院、先行する爆破、霊力の流れ、要の位置、敵の行動、戦闘の経緯……。
分解されていくそれらの情報を彼女は再び構築し、ある事に気付いた。
「だとするなら、敵は……」
爆発の事は分からないが……彼女はある事を調べるため……ライヴスゴーグルをかけて、改めて御影堂を調べ始めた。
――東院・金堂前――
『固まるな、広い地形を最大限に活かせ!』
「はい!」
ラシルの声に従い、ジーヤは広々とした戦場を駆けていた。
多数いたゾンビは、既にほとんどいない。
その大半を、魔法陣から離れた仲間が討伐してくれていた。
半数以上のゾンビを雨月が一人で狩ったのは、流石としか言い様がない。
「だいたい片付いたから、後は好きにして」
「はい」
通信から聞こえた雨月の声に、短く返事をしながら……夜愛と相対していたカグヤ、ジーヤ、由利菜の三人は、それぞれ充分に距離を取り、戦う事が出来ていた。
問題は、相手のあの数珠だ。
近付いてなおこちらの攻撃を防ぐ、圧倒的な防御力……。
あれをどうにかしなければ、捕縛は無論、討伐とて難しい。
さらに、足元から吹き上がる紫電と、夜愛本人からの攻撃がある……。
避けることは出来るが、由利菜とジーヤは一度紫電を浴びてしまい、その力……内部の霊力を乱され、内側から焼かれる感触を、肌で味わっている。
カグヤだけは受けてもまるで動じていないが、前衛の二人……その中でも特にジーヤは、いつまでこの魔法陣の上で闘えるかは怪しい。
(っ……)
自らそれを理解するジーヤが未熟さや、悔しさを覚えないと言えば嘘になる。
だけど今やることは、既に決まっている。
ジーヤが、握った大剣を振りかぶろうとした、その時。
唐突に……夜愛の動きが止まった。
その背に刺さるのは、数本の霊力の針。
その隙を、由利菜とラシルは逃さない。
ヴァイセローゼの棘……その身に纏う白薔薇から放たれるその棘は、夜愛の動きを封じ。
『深淵の縁にて悔い改めよ! ヴァニティ・ファイル!』
その剣で、そこにある霊力を真っ直ぐに断ち切る。
「そこだっ! 日暮さん!」
その隙に、ジーヤが夜愛の手に握られた数珠を投擲した短剣で断ち切ると……夜愛の動きを止めた本人……仙寿へと繋げる。
そして仙寿が、夜愛の身体を注連縄で拘束しようとした時。
彼は、何かに気付いた。
《……ほう》
ぐったりと動かない夜愛の周りから、魔法陣が消えてゆき……。
「……!」
その変化は……すぐに起きた。
まるで最初からそうであったように、そこにはそれがあった。
着物を着た、白骨死体。
骨に無数刻まれた、呪術を思わせる文字。
女ものの着物を着ていたようだが……骨の損傷具合から、こちらの攻撃をほとんど防げていなかった事が分かる。
『地面の六道輪廻図は消えてるけど……倒したって感じでもなさそうねぇ』
まほらまが語ると、ジーヤは物言わぬ白骨に眼を向けた。
「偽物……? でも、あんなに喋って……」
「どんな術を使ったのじゃろうな」
怪訝に思ったジーヤの言葉とは対照的に、興味深々と言った様子でカグヤが答え……。
《今から西院に向かう、何人かは東院に残れ》
仙寿の言葉に一同は応じ、それぞれが慌ただしく駆け出していった。
――西院・御影堂――
魔女がそれに銃を向けるのと……足元から発生した紫色の紫電が魔女に浴びせられたのは、ほぼ同時の事だった。
意識が乱れ、内側から焼かれるような感覚を味わいながらも、辛うじて倒れず踏みとどまる。
「よく気付きましたね?」
聞こえた声は……数珠を左手に巻き、骨の描かれた黒い着物を着た、一人の女性のもの。
「調べて、行き着いただけです」
話しながら通信機を仲間と繋げようとするが……先程の紫電の影響か、通信機が上手く繋がらず、ノイズが走っていた。
異変に気付いた飛翔達が駆けつけてくるまで耐えるしかないだろう。
「気付いた理由はなんでしょうか?」
今は時間を稼いだ方がいい……魔女は次の行動を考えながら、質問に応じる。
「魔法陣に霊力供給をしているものが、西院に隠蔽されているのではないか……そう判断しました」
西院に要となるものが見当たらないにも関わらず、東院と霊力の繋がりをもっていた……それは、魔法陣の維持に必要な霊力が西院から流れている可能性にも繋がる。
最初は推測の一つでしかなかったが、西院に要……結界と深く関与しそうな手掛かりが見つからなかった時点で、その可能性は強まった。
そうして周囲を探り、巨大な霊力の流れの出所を探るうちに……不自然な霊力が見えたのだ。
「……やはり能力者は侮れませんね」
落胆した様子を見せるその女性に、魔女は今度は質問を返す。
「あなたは何者ですか?」
その質問に、その人物は魔女を見つめ……。
「改めて名乗ることになりますが……」
その穏やかな目を、微笑みと共に魔女に向けた。
「夜愛と申します、以後、お見知りおきを」
御影堂の入り口には、まるで最初から存在していたように、新たなゾンビが出現していた。
「こっちはなんとかしとく」
構築の魔女と通信が繋がらない事が分かり、急ぎ戻ってきた葵がゾンビ達を引き付ける。
飛翔はその言葉に頷きながら、ゾンビの一人をワイヤーで切り裂いて、銃声の響く御影堂に飛び込む。
御影堂の奥に見えるのは……黒い和服の人物と闘い始めた魔女の姿。
「やらせない」
そこに駆け付けた飛翔が、和服の人物……夜愛を目掛けてワイヤーを伸ばし。
「読めていますよ」
それが届くより早く、右手がそちらに向けられ……障壁が発生する。
飛翔とルビナス、この能力者と英雄を見た時、何よりも特筆すべきは……その意思の強さだろう。
愚神を相手にしても一切の妥協を許さないその誓いは……武器に纏う霊力を、より確固たる、強いものへと昇華させる。
「やらせないと言っている」
伸ばされたワイヤーが障壁に触れると……易々とそれを断ち切り、夜愛の身体の一部を裂いた。
『目的は存じませんが、ここは死守させていただきます』
ぴ、と、青白い肌から鮮血が溢れ……夜愛の着物を濡らす。
「油断したつもりはなかったのですが……」
口で驚きながらも……夜愛の余裕はくずれない。
「……どうやら」
その様子に何かを察した魔女が銃を放ち、飛翔が駆け込んでザンバーを振るう中……。
「使う他にないようですね……」
夜愛はその眼を、見開いた。
夜愛を見ていた二人は、それぞれの眼前に広がった光景に眼を奪われた。
放った銃弾が飛翔の心臓を貫き……。
ザンバーが魔女の胴を断ち切るその光景が……まるでスローモーションのようにその視界に広がり……。
二人の動きが止まる……。
それは僅かの間に見えた、有り得ない光景。
その意味を理解するより早く、飛翔の足元から吹き上がった紫電がその身体を襲った。
「……ぐっ」
「……!」
我に返った魔女が周囲を見渡すが、不可解な光景と、攻撃……その二つに気を取られたせいか……既にそこに、夜愛の姿はなかった。
外にいた葵も出てくる姿を確認できなかったらしく……夜愛と名乗ったその女性は、西院から完全に姿を消していた。
●エピローグ
夜愛は、今回の作戦を振り返る。
各地の要に放った紫電……魔法陣により霊脈に干渉し、その力を逆に利用した……要を壊すはずだった一撃。
それで全てが終わらなかった事が、電波ジャックを囮とした彼女にとっての、そもそもの大きな誤算であり……西院に留まると言う、彼女らしからぬ行動まで生み出してまった。
能力者達と直接闘い、力を測れたこと……収穫としては、その程度だ。
「……次の計画を、進めましょうか」
穏やかな声。
けれどその手は、更なる災禍を広げる為に……。
その叡知は、偉大なる神門の為に……。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|