本部

愚神流転

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
12人 / 4~12人
英雄
12人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
6日
完成日
2017/01/29 12:52

掲示板

オープニング

● 暗黒の門
 目覚めよ。
 これは君の物語の続き。
 ここは、君の知る世界ではない。
 君は囚われている。
 絆とは鎖。
 鎖とは君を縛るもの。
 解き放たれよ。
 首輪をひきちぎるがいい。
 その力は私がくれてやる。
 さぁ。
 目覚めよ。
 ここは君のいるべき世界ではない。
 それ故に。それ故に。
 破壊しても構わない、そう君は思わないだろうか。

●邪英化
 君たちはとある山岳地帯に愚神調査に来た。
 膨大なライブスの反応が観測されたためであったが、君たちが来たころには森は何事もなく静まり返っている。
 ただ一つの異常を覗いて。
「幻想蝶が、黒く染まってる?」
 その瞬間闇が空を覆う。夜より濃い闇が皆を包む。それは幻想蝶に流れ込み。
 そして英雄たちを蝕んだ。
 君は相棒の名を叫んだことだろうだが、その声は届かない。
 そして……
 君は相対することになる。
 いつも語らっている相棒が、バカをやっているパートナーが。
 かつての世界ではどれだけの力を持ち、どれだけの偉業を成し遂げたのか。
 その片鱗を理解することになる。
 目の前に立っている英雄は君が知る英雄だ、だが君が知らない英雄でもある。
 心は愚神に囚われる。邪英化。
 完全なる邪英化ではないが、このまま放置すれば君たちの英雄はこの世界を敵と認識して破壊の限りを尽くすだろう。
 だが……
 絶望の詰まった箱パンドラにも希望が残されていたように。
 君たちにも希望が残されていた。 
 幻想蝶はまだ輝きを失ってはおらず、輝きは残っている。
 その輝きに駆け、リンクと叫ぶと。
 その宝石の隅に残されていた、英雄との思い出が力をくれた。
 共鳴である。
 今君たちは、英雄に立ち向かう、英雄の心はそばになく、力のみがその場にある状態。
 不安感が君たちを襲うだろう。だが恐れる必要はない。
 君が纏うのは英雄と過ごした長い年月、その間の努力と経験。
 今こそのその真価を相棒地震に見せつける必要がある。
 戦え。大切なものを取り戻したければ。
 戦うがいい。

● 英雄たちの状態。
 今回は英雄たちは夢を観させられています。
 ケントュリオ級愚神『まどろみ』が作ったドロップゾーンの影響で、英雄たちのライブスに干渉されているため。
 このドロップゾーンのルールを開設しましょう

1 英雄は邪英化し、能力者の前に立ちはだかる
2 英雄のステータスは、任務に出発したときのステータスを参考にし、さらに邪英化ボーナスで強化される。
3 能力者のステータスは任務に出発したときのステータスそのままとなる。
4 能力者と英雄は任意で邪英化を拒否できる。さらに能力者は望めば、邪英化した英雄に取り込まれることも可能である。

 つまり能力者連合と邪英化連合の数が同じ場合、能力者が圧倒的不利である。
 かつての世界にいた夢を、戦いの夢を。
 彼らにとってあなた達はその世界を浸食しに来た敵に映っているでしょう。
 だから彼らは武器を持つのです。
 彼らをもとに戻す方法は二つ。
1 倒す。
2 誓約を思い出させる。
 そう、彼等は能力者との思い出をなくしているために暴走しているのです。
 思い出させてあげてください、あなたとの思い出と、あなたと英雄を繋ぐ確かな絆を。

 そして最後に、この愚神のドロップゾーンは大量のライブスを使うため長時間の維持ができない。
 そのため、およそ24時間から36時間程度しか邪英かは続かない。
 だが、能力者連合が倒れれば残りの時間は近くの町を破壊したりと暴れるはずなので、一人でも多く倒すことをお勧めする。

●邪英化ボーナス
1 ステータス1.1倍
2 パッシブスキル追加(下記から一つだけ選択)

『フェニキシアンブラスト』
 不死鳥の羽。破壊不能な翼を作成し空中を自在に飛ぶことができるようになる。
 もともとその世界で、神、精霊。など呼ばれるもの達が多く発現する。
演出は任意。このスキルで飛行している場合、飛行を妨害することはできない。
 さらに移動力に+20する

『ヌルポイント』
 自身の霊力を0にするという意味の言葉。暗殺者。虐げられたもの、そもそも実在しない者などにおくられることが多い。
あらゆるスキルや感覚で探知されなくなる。視覚ですら見えなくなるので奇襲し放題である。
 ただ唯一触覚でだけ確認可能である。

『アブソリュート・デス』
 絶対なる死を届ける攻撃力を手に入れる。世界の破壊者。殺戮者などに発現することが多い
このスキルが発動している限り相手の防御力を50%低下しているものとしてダメージを算出。さらにこの能力で防御力が300以下の扱いとなった場合。防御力0としてダメージを算出する。

『パラダイスプランナー』
 対象者が世界自体を掌握していることを示す。支配者の称号。攻撃・スキルの対象を範囲を任意に設定できる。
 つまり、ドロップゾーン内であればどこにいようと、どれだけ数が多かろうと、一度に攻撃することが可能。
 さらに命中が+1000される

『人間殺しのゲッシュ』
 このスキルを持つ限り人間に対して強い恐怖を抱かせるようになる。
 このスキルを持つものは、前の世界で闇に属する者だった可能性が高い。
 人の天敵であり、人類史に終末をもたらす存在。
 このキャラクターを対象に含む攻撃を放つ場合。六面ダイスでダイスロールを行い。一以外が出た場合攻撃は失敗になる。さらに出た目が偶数だった場合。BS【幻死】が付与され【幻死】を受けたキャラクターは移動以外の行動が行えなくなる。解除方法はスキルによる回復か。ロールプレイによる恐怖の脱却である。

『心食らい』
 この世界に来る前に重大なトラウマをおったものが発現する場合が多い。
 自身の能力者から攻撃を受ける度に、自身の記憶の一部を相手に植え付ける。
 その結果、英雄に飲み込まれるのか、何らかのマイナス要素が発生するのかはプレイヤーが決定してよい、しなくてもよい。

3 弱体化の危険性
 邪英達は能力者の呼びかけによってステータスの低下。および邪英化ボーナスを含めたスキルの無効化などされる可能性がある。
 それは無意識に能力者を攻撃することを拒むためである。
 どのステータスが下がるのか、どのスキルが使えなくなるのかは演出によって大きく左右される。

解説

目標 邪英の駆逐

 今回は皆さんの相棒英雄が敵です。
 英雄は素のステータスの強化に加え、チートスキルを手にしています。
 正直普通に戦っても勝てません。
 しかし、私達には言葉があります。
 闇に染まった英雄の心を取り返すにはそれしかありません。

●戦闘フィールドについて
 PCが戦闘を行うフィールドはブラックタウンと呼ばれる。黒い床。暗黒の空が広がる世界である。
 英雄や能力者は理解していないが、ここは精神世界である。
 それ故に能力者の意志力によってフィールドに干渉することができる。
 素のフィールドは無限に続いている、何もない空間。
 そこに自分の記憶内にある建物や物体を召喚できる。
 耐久度は本物にかなり劣るが、これも説得の鍵にしてもらいたい。
 あるいは遮蔽物として使うなど。
 この建物召喚は手番を使わずに瞬時に行えるが。召喚するたびに生命が-2される。
 想像による疲労と捕えてほしい
 能力者が全滅しない限り、現実世界にリンクされることはない。
 存分に戦ってほしい。

リプレイ

プロローグ
 化物は空を見上げた。
 うねる肉体。醜悪なその姿には見覚えがあり。あの時の姿に戻ってしまったんだと知った。
 そして、捨て去った過去とは、あくまで自分の一部であることを知った。
「また、戻ったのね…………元の姿に。いつかはこうなるとは思っていたけど。私が消えたらみんなどう思うかしらね」
 化物は涙する。その涙でさえ誰かを害してしまうのだから化け物は救われない。 改めて自分は世界の敵なんだと認識した。
「この世界から消えるまで海の底にでも沈んでいようかしら…………」
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』は嗚咽交じりにそうつぶやいて空を見上げた。
 孤独を包むように闇が広がっていた。

第一章 混乱

『無月(aa1531)』は全身を貫くような霊力の奔流に耐えていた。
――くっ……、意識が薄れて、記憶が……大切なものが消えていく……
「ジェネッサ!大丈夫か!?」
――な、なんとかね……。他の仲間たちはどうなっているかな……?
 その声に周囲を見渡す無月、かろうじてその視界に仲間たちを捉えることができたが、その体から、何かが抜け出そうとしてた。
「これは……!」
――無理やり邪英化させられているね……これはボクまで邪英化する訳にはいかないな
「いけるか?」
 無月は相棒に問いかける。
――無理してでも行くさ。ボクが正気を保てる間にカタをつけよう。

   *   *
 
 そしてリンカーたちは固い地面に打ち付けられる。『斉加 理夢琉(aa0783)』は首を抑えながらあたりを見渡した。
「ここはいったい、どこ」
『御門 鈴音(aa0175)』が答えた。
「たしか、私達は愚神『まどろみ』を前にして」
「まどろみ殺す」
『イリス・レイバルド(aa0124)』がそう高らかに叫んだ瞬間『紫 征四郎(aa0076)』が崩れ落ちた。
「ああ、心が入ってきます」
「せーちゃん」
『木霊・C・リュカ(aa0068)』がその体を支え、背中をさする。
「心、だれの?」
「お母さんが、お母さんが」
 汗でぬれて額に張り付く髪。震える肩。
「なんで、こんな、ひどい」
 見えたのは、十字架に張り付けられて焼き殺される女性の姿。
 そんな出来事があっても真っ直ぐ前を向いて、薬屋として働く男の姿。
 だが重なる惨劇。
 死体の、山、山、山。
 そして母と同じように磔刑に処される男。
 その無念と後悔と怨嗟と、懺悔と。そして。
「ああああああああ!」
 征四郎はリュカの胸に額をこすり付けて泣いた。

――多くを殺し、多くが死んだその上に世界は続いていく
…………守らなきゃ、いけないんだ。じゃないと、俺様のしたことは。

 直後リュカは振り返る、なじみのある声を聴いた気がしたから
 直後、征四郎が何を見たのか、おおよそのことを察した。
「そうか、俺の心に入ってこようとしたのは、彼で。そして心に君がいなくなってしまったのは『まどろみ』のせいなんだね凛道」
 そうリュカが向けた視線の先。そこには大鎌を携えた冷たい目の『凛道(aa0068hero002)』が立っていた。
(ああ、一人は、こんなに怖い物だっただろうか)
 リュカは幻想蝶を握りしめる
「変なクスリからようやく復調したと思ったら、病み上がりにこれはキツイわねぇ」
 『榊原・沙耶(aa1188)』は思わずため息をついた。そして虚空の一点をただ見つめる。
「この系統の愚神は、これで二回目かしらねぇ? 何にしても、腹立たしいわねぇ。人のものを横取りするなんて」
「貴方達が侵入者ですね。ご主人様の邪魔をする者は始末致します!」
 そう告げたのは燕尾服に身を包んだ青年『クロード(aa3803hero001)』である。
「そんな……。クロード、どうして……!」
 『世良 霧人(aa3803)』は叫ぶ。その腰にはレーヴァテインが刺さっており、それを抜くと切っ先を霧人に向けた。
「まどろみを主人だと思っているのかい?」
 霧人はその問いかけには答えない。
「一体何が起こって」
 まだ状況を飲み込めない『天城 稜(aa0314)』そんな彼が上空に見つけたのは黒い点。
「…………リリア?」 
 上空からめがけて飛来したのは『リリア フォーゲル(aa0314hero001)』だった。その勢いのままリンカーの列に突っ込んであたりに能力者たちを散らしていく。
 その後リリアは妖艶に微笑むとまた空へと昇って行った。
「くっ! 何をするんだ!? リンクできない? まさか、邪英化したのか!」
 その言葉にその場にいた全員が息をのむ、薄々察してはいた、だが認めたくはなかった事実。
「まって! リリア」 
 その声むなしくリリアは空中で宙返り、その大きな黒い翼で加速力をつけ。今度は稜を衝撃でバラバラにすべく突撃した。
 その攻撃を阻止したのは無月。
「ジュネッサ。そこにいるか?」
『ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)』は答える。
――なんとかね、でもいつ意識を奪われてもおかしくなかった。
「後ろ……」
 沙耶が無月の背後につく、その瞬間沙耶の肩を何かがえぐった。
 その何かはまるで闇から浮かび上がるようにみなの目の前に現れた。
「上等だ、宣言どおりだ」
 イリスが歯ぎしりする。その光景があまりに許せなかったためだ。
 湛えていた知性などまるでない、虚ろな人形がそこにいる。『アイリス(aa0124hero001)』である
「『まどろみ』見つけ次第ぶち殺してやる!! その前に、最優先でお姉ちゃんを取り戻す!」
「せーちゃん。相手の位置を正確に伝えて」
 そう告げたリュカ。征四郎の震える肩に手を置いて告げる。
「辛いのはわかってる。けど君を一番信用できるから」
 頷く征四郎、小声で場所を正確に伝え、そしてリュカは念じた。
 せりあがる地面。一瞬にして迷宮を形成した。
「連れ戻す為の攻撃も言葉も一発勝負。二手目は無い、お兄さんの首がさよならしちゃってるから!」
 だが邪英達の対応力はすさまじい、何せ全員が英雄と呼ばれるにふさわしい力を有している。例えば『Eliminator(aa4672hero001)』が迷宮の高い壁の上に立っていた。その銃口はぴったりとリンカーたちを捉えている。
「エリ…………分かった! かかってきなさい!」
『メルヴィナ・ガーネット(aa4672)』がそう叫ぶと全員が幻想蝶を取り出す。
 そこにはわずかな温もりがある、それは英雄からの助けてのサインだった。
 心の絆が完全に断ち切られていない証拠だった。

第二章
「敵が来る!」
 全員が共鳴直後『Hoang Thi Hoa(aa4477)』は反射的に迷宮の奥へと走り出した。それに続きリンカーたちも駆け出していく。
 しかし、その一行を不吉な声が追いかけてくる。
「豊穣神ハルュプは言いました、大地に実りを捧げれば、己が身の豊かさへ至ると。故に、私はこの世界を実らせるのです」
「ディエドラ、でしょうね」
『ティテオロス・ツァッハルラート(aa0105)』は告げる。
 次の瞬間壁をぶち抜いて現れたのは銀色の聖獣。
 その瞳は狂気と憎悪で彩られている。
「アリューなの?」
 理夢琉は静かに告げた。それは間違いではなく、あの獣は『アリュー(aa0783hero001)』である。
 その怒り、哀しみ、憎悪、後悔などの念が濃縮した『形なき者』である。
 その突撃に対し魔術で対抗する理夢琉。しかしその姿は幻影のようにとらえどころがなく、攻撃が全く当たらない。 
 そのくせ、アリュー自身はこちらに手が届くようで、リンカーたちが次々とはね飛ばされていった。
 その混乱のさなかEliminatorの攻撃がリンカーたちを貫く。
 どこにいても当る一撃。支配者の一撃はリンカーたちの戦意を沿いで行く。
 レベルが違いすぎる。そう思った。かつての彼らはこれほどまでに強大な力を有していたのか。
 だが絶望は続く。
 視線の先には人形が二人。
「クロード、君の主人は愚神なんかじゃない!思い出してよ!」
 クロード。そして『輝夜(aa0175hero001)』
「全ての生命を破壊……それこそが我が作られた意味。滅ぶがいい小娘。己の無力を嘆きながら。」
「輝夜……思い出して……あなたが救った人たちの笑顔を……愛した人たちの笑顔を……私のかけがえのない大切な英雄だった貴女を絶対に取り戻すわ!」
 鈴音は大剣を握り直すその手があまりの恐怖に震えている。
 霧人と鈴音は道をこじ開けようと突撃する。その隙に別の道をそうHoangはアリューのあけた穴から先を急いだ。
 だがそんなHoangの脳裏に響くように声が聞こえた。
「 ただの農夫の娘を担ぎ上げ、フランス軍のために、祖国フランスのためにひたすら尽くしたこの私を!」
「そんな……」
「オルレアンの乙女の奇跡ともてはやした結果があれか!」
 その慟哭、その叫び。あまりの苦痛にHoangは地面を転がり自分の身を抱える。
「 故郷ドンレミだけに飽き足らずこの私を魔女と! 辱め焼くつくしそれで解決か! 国に尽くした私を! あああああ!」
 今度はその声が間近から聞こえた。見上げればそこに『Jeanne dArc(aa4477hero001)』が立っている。
「ごめんね」
 Hoangは立ち上がる、そして裏切られた少女を真っ向から見据えた。
「そんなにつらかったなんて、受け止めてあげられなくてごめん」
 

   *   *

 イリス、征四郎、リュカは迷宮最奥を目指して進行していた。
 その直後横壁が破壊され凛道が現れる。その背後ゆらりと見える陰に向かって征四郎は声をかける。
「ガルー」
 『ガルー・A・A(aa0076hero001)』がにやりと笑って凛道の背後についた。
「罪人の命を刈り取る」
「己の命は正しく使い潰すもの。全てはただ大義の為に」
 うわ言のように何かをつぶやく二人。
 その瞬間凛道のおおがまがリュカの首を飛ばすべく振るわれた。
 間に入ったイリスが凛道の攻撃を防ぐ、しかしきちんと防いだはずなのに、イリスの体には合計八の傷が刻まれていた。
「これ! 皆さんが受けるとまずいやつです!」
 イリスは弾かれたように距離を取った。
 しかし逃げ切ることなどできるのだろうか。そうイリスの頬を冷たい汗が伝ったとき、目の前に一人の女性が立つ。
 直後『ディエドラ・マニュー(aa0105hero001) 』が乱入してきたのだ。
 彼女は邪英側のはず、だがイリスに背を向けていた。
 直後である。イリスの鼻腔を草の香りが付いた。
 迷宮の壁を蔦が覆っていく。
「この星に我等の神が降り来たるよう、先ずは世界を緑に満たさなければなりません。そして、異なる神を座から降ろすのです」
 直後世界の中心に見上げるほどの気が生えた、地面は草で覆われてそして。
「“神の代弁者”たる巫女であるディエドラ」
 ティテオロスは朗々と語る。イリスの脇を通過しディエドラに並び立つ。
「目的は己の神、ハルュプの為にあり、大地を強制的に緑化する『侵略的植樹』の教義に基づいて行動。何処の誰とも知れない愚“神”の力は受け取らない」
 ティテオロスはディエドラと肩を並べ、凛道とガルーを見据えた。
「大地に豊穣を。そして地上には強き者が住まうのです」
 そう、ここはティテオロスが再現した、豊穣神の神域なのだ。そこではいくら邪に心惹かれていようと、ディエドラは彼女の役割を全うするだろう、そう思ったのだ。
「信じていました」
 ティテオロスはそう、ディエドラに微笑みかけた。そしてティテオロスは告げる。
「行きなさい!」
「お前たちも俺様を阻むのか!」
 ガルーが叫んだ。
「誰に認められなくても、俺様のしたことは正義だ。この世界が続く限り」
 征四郎は息をのむ、止まろうとしていた征四郎の足を掬って、リュカが全速力で駆けだした。
「リュカ、危ないです、だって。目が…………」
「そうも言ってられない。それにこの迷路は俺が作り出した迷路だからね、普通の道を歩くよりは安全なんだ」
 そう言ってリュカは強がって笑って見せる。
「せーちゃんも、取り込まれちゃだめだ。真剣な人間は誰だって怖いものだよ。それを受け入れてあげないと」


第三章 激突
 稜はT字路に隠れて武装を確認する。
「使えるのは阿修羅と、各種装備。リリアに奪われたわけじゃない」
 M110を装備。槍を持つ。
「本当に戦うの?」
 メルヴィナが問いかけた。
「でないと彼女達を取り戻せない」
 そう告げた瞬間である。背後に浮上するように聖獣の影が迫る。
 気配を完全に消していたのだ。
 その攻撃を回避しようと二人は左右に飛んだ。
「想像していたよりきれいで……禍々しい」
 理夢琉は猛る獣を真っ向から見据えてそう告げた。
 理夢琉へ突撃してくる聖獣。
 その突撃を押しとどめているのは無月。真っ向からやりあうのは得意でないだけに徐々に押され始めている。
「我が種族は認めし者と絆を結ぶ事で会話し心を知る喜びを得ていたのに!」
 その言葉に無月は声を上げる。
「それが貴方の望んだ姿なのか? 成し遂げたい行為なのか? 否! それは貴方の本心ではない、本当の姿ではない! 思い出せ! 貴方の真の心を!」
 その声に耳を貸さないアリュー、アリューの悲痛な声を黙って聞く理夢琉。そして歯噛みする無月。
「人間の放った矢のせいで我の声は獣のそれと成り果て意味をなさず。主君の言葉は音の羅列となって消え 想いが伝わる事はなかった」
「それはアリューの記憶じゃない! 例えるなら母親の記憶だわ。一緒にいたから混同してるだけだよ!」
 その時アリューの姿が消える。
「く! 感知できない」
 忍びの者である無月ですら気配を欠片も感じられない。
 直後浮上する気配。その刃でアリューは理夢琉を切り裂いた。
「アリューは我とか言わない 最初から俺だった そして私と絆を結んだの!」
「絆を? 結んだというなら我の元へ来い 我と共にあろうぞ」
「絆を信じて一緒に戦うよ『アリューテュス』」
 直後空を覆うような視界いっぱいのレーザーバレットが降り注ぐ。
 Eliminatorの攻撃が能力者たちにさく裂した。
 その隙間を縫って空から飛来するのはリリア。
 その黒色の翼から生み出される推力を真っ向にうけて稜の体が宙を舞う。
「かはっ」
 迷宮の壁に叩きつけられる稜。
 追撃を仕掛けようとリリアは《白鷺》を振りかざす。だが。
「強い一撃だ、だが、私は生きている」
 無月がその体を掴む。
「なぜ私を倒せなかったか解るか? それは、貴方の攻撃には魂が篭っていないからだ……!」
 そんな無月を引きはがそうと、さらに弾丸が襲うが。
 その攻撃をメルヴィナが代わりに受けた。
「もうやめて! エリ!」
 彼女には見えないものが見えていた。Eliminator何を思っているか。そして……
「全部わかってる。本気だったら私達もう動けなくなってるはずだから」
 その時、彼女の声が聞こえた気がした。彼女の姿が見えた気がした。
「そっちなの?」
 メルヴィナの耳が震えた。
 走り出すメルヴィナ。その背中に攻撃しようとしたリリアとアリュー、それを阻止するために無月と理夢琉が立ちふさがった。
 その瞬間アリューの姿が変わる。
 銀獣の姿でも通常の共鳴姿でもなく地面に付くほどの長い黒髪に赤く滲む瞳の青白い肌に黒いドレスを纏った姿に。
「よく考えるのだ! 己が何をしたいのか、その為には何が必要なのかを!思い出せ! 貴方達は何のために契約し、誓ったのかを!」
 理夢琉の攻撃、それ掻い潜ってリリアが迫る。稜はその前に立ちはだかる。
「リリア! あの時と違って今度は、僕が君を助ける!」
 アリューはすべてを掻い潜って理夢琉へその手を伸ばす。
 それを尻目に稜の思考は加速した。
(何千、何万と繰り返してきたパターン。コンビネーション。ずっと間近で見続けてきたからわかる)
 大振りの攻撃は槍をはじくためのモーション、だからあえて槍を手放す稜。
 甲高い音を上げて槍は飛来し、驚きの表情でリリアは固まった。
「君は僕に何を求めたか思い出して!」
 その腰に稜は思いきり抱き着いた。
「あの夜、リリアに救われなかったら…………僕はあそこで命を落としていた。誓約時に此方の世界に来て、力がギリギリの筈なのに君が力を僕に分けてくれた事で僕は生きてる」
 朦朧とした意識、柔らかな感触、彼女が抱きかかえてくれているのがわかった。
 最後の時に誰かと共にあれることが嬉しかった。 
「だから、僕は君が力無き人を殺める前に止める。僕が、君を止めて命を落としても後悔はしない。君を止めて僕も死のう」
 その言葉にリリアは目を見開いた。
「だ……め。それは、ぜったい」
 一滴、こぼれた涙が稜へと落ちる。
「やっと、戻って来てくれた…………今度は僕が助ける事が出来たよ?」
 直後霊力が稜の体から噴き出してリリアを飲み込んだ。その光の隙間から稜は瑠無るを見た。
 するとアリューの腕が理夢琉の腹部を貫通しているのが見えた。
「共に戦う? 誰と? もう答えられないだろう。アーハハハ……ハ?」
 だがその直後、アリューを包む世界が一変する。
 それはあの時、自分が何者か見つけてくれた、あの時の記憶。

――信じてるよアリューテュス 私だけの……

 膨大なイメージを反映するのには負荷がかかる。
 リュカは迷宮を召喚しただけであれほどに体力を消費した。
 その時の光景自体を再生し続けるとなると、膨大な精神力を使うだろう。

「帰ってきて! アリュー」

 そうアリューの体を抱きしめる理夢琉、その体が血の海に沈んだ。
  
  *   *

「クロード」
 二人は壁を走りながら刃を交えていた。
 戦闘スタイルはほぼ同じ。当たり前だろう、妻と違って霧人は戦いというものを知らなかった、教わるとするならそれは全てクロード空だったのだから。
 そしてついに迷宮の壁を登り、あいたいした二人。
 落ち着いた素振りのクロードの前に霧人は一つ置物を召喚して見せた。
「君はこの姿になってこの世界に来たんだよ。覚えてるかい?」
 それはクロードの置物だった。人間姿の物ではない。
 猫の姿の置物。
 クロードの脳裏に一瞬、霧人と誓約を交わした時の様子が思い浮かぶ。
「ちがう、ご主人様は。ほんとうのご主人様は」
 その時、霧人の脳裏に浮かんだ一つの光景。
「そうか、クロード。君は」
 その瞬間クロードは駆けだす。
 抜身の刃がぎらついて、その切っ先が霧人の心臓に迫るが。
 その刃は霧人を貫くことはなかった。
「!? な、何故……!」
「もう、君は何も失わなくていい」
 そう告げて霧人はクロードを抱きしめる。
「クロード、僕らが交わした誓約を思い出せるはずだよ。言ってみて。」
「………………執事として、仕えさせて欲しいと」
 守れなかった。
 そう慟哭するクロードの声。それが霧人の耳元で再生され続けていた。
 クロードは愚かではない。
 だから過去の過ちを繰り返すことはない。
 もう二度とクロードは失わないだろう。
 守るべき主を。 
「旦那様に……!」
「ありがとう、君が守ってくれたおかげで僕は今生きている」
「……それを、ずっとききたかったんです」 
 直後である。ぼんっと軽い音がして二人は煙に包まれた。
 霧人は一瞬何が起こっているか分からずあたりを見渡す、すると足元に猫がいた。
 いつの間にか猫にクロードがもどっていた、しかもいつもよりも猫っぽい。
「疲れている、ところ悪いけど。他の人も助けに行かないとね」
 そう告げるとクロードは頷いて。そして二人を共鳴の光が包んだ。


  *   *
Hoang
Jeanne

 Hoangは再び地面を転がった。擦り傷だらけの体。だがJeanneが追撃してくる前に起き上がりJeanneへと向かって行く。
 Hoangは戦うことが怖かった。当然だろう、普通であれば戦うことは怖い。
 痛いし、疲れるし怖い。だからHoangは英雄の力を借りてもあまり戦うということはしてこなかった。
 それをHoang自身は逃げてきたと。思っていた。
 だから今、彼女の心を取り戻せないのは人生逃げ続けてきたつけを払わされているんだと。
 そう、思った。
「あああああああ!」
 周りのベトナム人は目端が利いて早々と就職やスキルアップや結婚をしていたのに。Hoang自身はのほほんとバイトに甘んじる日々。
 あやうく日本にきてものたれ死ぬところだった、そこを救ってくれたJeanneだった。
 あの戸惑いと、捨て猫でも見るような憐みの目。
 今でも覚えている。
 Hoangにとって彼女は救いの聖女だったのだ。
「私はもう逃げたりしない! 今度は私が!」
 救う番だ。そうHoangは拳を握りしめる。コツコツこういう時のために稽古してきたベトナム武術のボビナム。
 まだ初段程度の腕前だが、かつての自分とは違う。
 そう果敢に向かって行くHoang。
 Jeanneの一撃を体さばきでかわして一撃。さらに蹴りと同時に距離を取る。
 だがその連撃も見切られていてまるで効いてない。
「まだよ!」
 Pride of fools へと持ち帰るHoang。
それこそがHoangが見つけ出した、自分の戦い方。ベトナム式ガンカタである。
「これが私の答え!」
 だが甘い。そうあざ笑うかのようにJeanneはボビナムの動きをまねて見せる。
 踏み込んで肘鉄。その一撃で吹き飛んだHoangは壁に激突。血を吐いた。
 息をするたびに貫くような痛みが全身を襲う。Hoangは直感した。鎖骨が折れていると。
 そんなぼろぼろのHoangを一瞥し、Jeanneは銃を構えたその時である。
 あたりの風景が変わった。それは日本の町の大通り、みすぼらしい娘が自分を見あげて。
 笑っていた。
「あの時もお前は実力もないくせに楽観的だったな」
 Hoangは目を大きく見開いて、人懐っこい笑みを浮かべる。
「わかるの? 私が」
「そしてこうやってボロ雑巾のように倒れていたんだっけ。思い出したよ」

「やればできるじゃないか。Hoang」

第四章 断頭台

「私の神はあらゆる自由を認めている。自由神ガルュコの祝祭に、善悪賢愚の隔て無し」
 ディエドラとティテオロスは地面に伏せっていた。
 凛道はそれを感慨もなく見下ろしている。
「ルュ神族。欲望の一側面を善として認める神の一族。故に、私は私の自由を放棄する気は無い」
 そうティテオロスは告げるとディエドラの手を握った。
「緑の神の巫女よ、赤き神の祭司として問う。我等の敵は、何処か」
 そう告げて二人は消えさった。
  
   *   *

 鈴音は大剣の一撃を受けて吹き飛ばされる、輝夜が四人を追うように現れたので鈴音が相手をしていたのだ。
 リュカと征四郎は輝夜に反撃を試みるが、剣先が滑るようにずらされ何か硬い物に当たり、全ての攻撃をそらされてしまう。
 そして小さな笑い声、まるで狐につままれているようだ。
「お姉ちゃんですね」
 輝夜の攻撃を盾ではじくイリス。三重結界を軋ませるほどの一撃だが、まだ耐えられる。
 問題は、そうイリスは鈴音をみやった。
「く…………」
 足をすくませるほどの恐怖。イリスはまだ立てる。しかし鈴音はもう何度もその恐怖にやられていた。
「その程度で、いつものあんぽんたんぶりを、忘れてなんてあげない…………」
 鈴音が立つまでの間、輝夜を抑えようとするイリスだが、脇から見えない斬撃が飛ぶ。
「違う」
 イリスはそれを間一髪ではじいた。
「盾だ、お姉ちゃん…………」
 アイリスは盾を投げたのだ。だが盾を投げるというのは存外に有効な戦術である。
 それを制御できる怪力があればこそだが、妖精である彼女に重さはあまり関係ないかもしれない。
「この黄金の光が決して染まらぬボクたちの絆。黒く染めようと言うのなら、染め返すまで!」
 そう、この光景を見ているはずの愚神に宣言するイリス。
「『煌翼刃』いつだってそうしてきた、ボクたちの軌跡の刃だ!」
 そんな輝かしい背中を見て鈴音は思った。
 自分はあんなふうにはできない。
 英雄が闇に囚われていても、その力の差に恐怖してなにも、できない。
(輝夜、あんなに強かったんだ。だったら…………)
 だったらなんだというのだろう。鈴音は思った。
 あれだけ強くても、その強さを何かのために使っているところが想像できない。
 鈴音は気が付いた、輝夜が人と一緒にいる姿が、全く想像できないこと。
(でも一つだけ知ってる、輝夜がその力を使っているところ、ひとつだけ覚えている) 
 それはあの満月の番。帝のために剣を取ったその日。
 あの時の彼女の泣き顔を思い出した瞬間、なぜだろうか。
 輝夜との思い出が溢れてきた。
――鈴音、それを使いなさい。
 突如、突然蘇る記憶。それは昔、誰かに、とても大切な人にもらった言葉。
――大切な人ができたならその櫛で髪をといてあげなさい。
「そうすれば、その人はあらゆる忌まわしいものから解き放たれるから」
 そうつぶやくと鈴音は再度剣を握った。そして輝夜へと剣を叩きつける。
「輝夜……貴女は滅びの鬼なんかじゃ決してない! 思い出して! 貴女が愛した人を……守りたかった人を……一人だった私の暗闇を輝きで照らしてくれた輝夜を!」
「ミカド……? ミカド…… リンネ……戯言を言うなぁぁぁ!」
 その直後である輝夜の剣がはじかれ飛んだ。そしてすれ違いざまにその櫛を髪にさして輝夜を抱き留める鈴音。
 そんな二人の耳に穏やかな歌声が響いた。
「なぜ、泣いておるのじゃ、鈴音よ」
「輝夜……」
 歌っているのはイリス、唐突に彼女は戦うことをやめた。
(諦めたのかな?)
 違う、それはアイリスが一番よくわかっていた。
 これは、意趣返しだ。
(これは期待、だね。涙雨の音~Friend~か)
 イリスの耳に、もう一つ歌声が聞こえた。
 その声はイリスの声を支えるように、重なるように、ふくらますように響き溶け合う。
 そしてそれが『虹の音~Iris~』につながった。
 その時、イリスの手が空を切った。
 その手は何かにぶつかりイリスは指を曲げる、徐々に姿が浮かび上がる金糸の妖精、彼女は纏った黒い輝きを払うように振るわせ、黄金の輝きを身に纏わせた。
「みみざわりだったぜ」
 その歌声がやむと直後現れたのはガルーと、凛道。
 その二人を迎え入れるように征四郎は手を広げた、背後には場違いな建築物が立っている。
「思い出してください。ここが征四郎たちの住む家です」
「あ?」
 凄みをきかせるガルーにひるまない征四郎。
「ここでご飯を食べます。ガルーの料理、実家の味とは違うけど、好きですよ。お肉少ないって文句言ってごめんなさい、です。
 裏庭ではよく模擬戦しますね。ガルーはいつだって、遠慮なんかしてくれなくて」
 その言葉に重ねるように拡声器片手にリュカも凛道について語り始めた。
「いきなりブロマイドください! って。ふふ、せっかくだしサインも貰っておけば良かったんじゃないかな」
「くだらない」
 凛道は告げる。
「あ、そう」
 つぶやくとリュカは、何やら棒を振るった、その先端には針がついていて。糸の先は断頭台に巻きつけられている。
 急激にひかれた凛道は体制を崩す、糸を切ろうとしたガルーへ征四郎が迫った
「ずっとずっと何かを隠してるの、知ってました。そしてそれを許すことが出来る自信もありました。
 …………でも
どうしてこんなものを抱えたまま、笑ってくれてたんですか、あなたは!」
 ガルーは構える、だが征四郎は武器も振るわず、その胸に飛び込んだ。
 そして両の拳でガルーの胸を叩く。
「よそ見している暇はないよ!」
 リュカの声に凛道の意識が引き戻される。引きずられるようにリュカの前に並ばされた凛道、その目に記憶の箱を突きつけた。
「ここに俺たちが積み重ねてきた全部の時間が入ってるよ。あけてみようか?」
 そういたずらっぽく笑ってリュカは告げる。
「正直、すごくしんどいけど」
「必要ありません、過去等。処刑人には不要」
 直後、凛道の頬をリュカが張った
「そんな迷いの無い声を出すな、俺達の誓約はそこには無い」
 その時凛道の瞳に確かな光が宿る。
「一緒に、凛道の正義の先を見に行くのは俺だよ。
 それに、いらないなんて言われたら。俺達が可哀そうじゃないか。
 何一つ忘れないで
 前の自分が過ごした日々も、自分のしていたことに抱いた疑問も。
 アイドルの追っかけしてることも、俺達と過ごした時間も」
「許されるのですか」
 凛道は問いかけた。
「僕は、人間らしくあっても。いいんですか?」
「うん、もちろんだよ。だから一緒にいこう凛道。はい復唱!」

「『いえす、マスター』!!」

 直後世界は光に包まれる。その光の向こうで征四郎の声が聞こえた。

「大丈夫です、ガルー。助けてくれた貴方を、怖がったりしませんよ。
 貴方は怖がっているけど。
 明日はきっと明るいから、明るくしていけるから」

「私達は、『紫家の四男』と『魔女の息子』では無く
『紫 征四郎』と『ガルー・A・A』として生きていける
そこで守りたいものこそ、守るべきなんだって!」



――ハハッ、皆眩しいくらいに強い絆だね
 その光景を眺めていたジュネッサは楽しそうに笑った。
「私達もそうだろう? 貴女と私の絆も決して彼らに劣るものではないはずだ」
――そうだね。これからも頼むよ、無月。
「ああ、これからも共に歩もう、彼らのように」

 そんな無月を背後から襲おうとしていたEliminatorをハングドマンで拘束するメルヴィナ
「よっし! エリ、捕まえたーっ!」
 その視線は冷たく、メルヴィナを捉えている。
「これ以上、近づくナ……後悔スル……」
 その言葉に構わず抱き着くメルヴィナ。そしてEliminatorの顔を引っ張って見せる。
「ほら、私だよ? エリったら、寝ぼけちゃったんだよ~」
 すると徐々に正気に戻ったのかEliminatorはしょんぼりとした表情を見せた。
「……すみません、取り返しのつかない事を」
「ううん、頑張ってみんなを傷つけないようにしてくれてたんでしょ、全然痛くなかったもん」
 そうEliminatorの手を取ってメルヴィナは笑った。
「これで全員だね?」
 その言葉に無月は答える。
「いや、あと一人残っている」


エピローグ
「こんなところにいたのねぇ」
 そう化け物の背中に声がかかる、間延びした緊張感のない声。沙耶だった。
「あらあら、まさかこれがあなたの本当の姿?」
「見ないでよ!!」
 そう身を震わせる沙羅。粘液が飛んで沙耶の頬を溶かした。血が流れる。
「沙耶! 来ちゃダメ」
 そんな沙羅へ沙耶はゆっくり近づいていく。
「小鳥遊ちゃんが自分から出生の事を語りたがらないから聞いた事がなかったけど、確かにまぁ、こうして見ると化け物というか邪神よねぇ……」
 傷ついたように身を震わせる沙羅。
「でも私は、その化物の中身が小鳥遊ちゃんで本当に良かったと思っているわぁ」
 沙羅はその言葉に息をのんだ。
「何に生まれるかなんて、決められるものではないしねぇ」
「あなた、怖くないの?」
 その時沙羅は初めてちゃんと沙耶を見た。
 沙耶はいつもと変わらずそこにいた。
 醜悪さに眉をひそめることもなく、哀れむわけでもない。
 いつもと同じ、見下しと好奇心と。ちょっとの愛情。優しい瞳。
 それが沙羅は好きだった。
「自分でもどうにもならない悍ましい程の力を生まれた時から持っているのに、力で世界を支配するでもなく誰の迷惑にもならない様に世界の片隅で生きるだなんて。
小鳥遊ちゃん程に優しい生き物を、私は知らないわぁ」
「私は、わたしは……」
 沙羅は身を震わせて涙を流した。そんな背中に手を当てて、沙耶は微笑みかける。
「誓約が万物の救済だもの。最初は頭がおかしいのかと思っていたけれど……
 でも、優しすぎるわねぇ。誰にも迷惑が掛からない様に、今回もまた逃げるつもりなのかしら。
私の研究の助手がいなくなるし、小鳥遊ちゃんの周りには、もう心配してくれる仲間もいる筈よぉ。
 その人達の為にも、戻ってくる義務があるわぁ」
「戻れるの?」
「戻れるわよ。小鳥遊ちゃんが、望めば。だってあなたの居場所はここじゃない」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 己が至高の美
    ティテオロス・ツァッハルラートaa0105
    人間|25才|女性|命中
  • 豊穣の巫女
    ディエドラ・マニューaa0105hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • 献身のテンペランス
    クロードaa3803hero001
    英雄|6才|男性|ブレ
  • 恋は戦争、愛は略奪
    Hoang Thi Hoaaa4477
    人間|22才|女性|生命
  • エージェント
    ベトナムオオムカデaa4477hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • エージェント
    メルヴィナ・ガーネットaa4672
    獣人|14才|女性|攻撃
  • エージェント
    Eliminatoraa4672hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
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