本部

【屍国】連動シナリオ

【屍国】 汚染電波~包囲網を突破せよ~

桜淵 トオル

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
12人 / 4~12人
英雄
12人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/01/28 10:25

掲示板

オープニング

●ある局員の証言
 笹井 良子(ささい りょうこ)は、入社二年目のテレビ局員だ。
 地方局とはいえ、テレビ番組を作っている以上、局内に奇異な服装の出演者が歩いていることは珍しいことではない。
 それでも、そのときの一団は、良子の足を止めさせた。
 一団の先頭には、和装の少女と女性。少女のほうはフリルをふんだんに使ったモダン和装で、女性は緋袴に着流し、小道具にしては立派過ぎる薙刀を持ち込んでいる。
 このカメラ映えしそうな二人だけなら、ちょっと風変わりな出演者、というだけで気にも留めなかったかもしれない。普通と大幅に違ったのは、後ろから歩いてくる人数の多さと、二人の和装とのミスマッチぶりだ。
 皆一様に、黒ヘルメットと白い特攻服を着込み、手も白手袋で覆った少年達。
 顔を見たわけではないけれど、映像関係の仕事をしている良子は、体つきからまだ若者と判断した。
 番組出演者用の仮通行証を提げているから、許可は出ているのだろうけど……どうにも異様だ。
「失礼ですが、本番まで局内ではヘルメットを脱いでおいて頂けますか?」
 先輩局員のひとりがそう話しかけ、良子はほっと胸を撫で下ろした。
 さすがに自ら話しかける勇気まではなかったからだ。

「これはお前達が怯えないよう、被ったままにさせているのだがな」
 薙刀を持った女性が応えた。
「まあいい、頃合いだ」
 女性はすっと左手を挙げる。それに呼応するように、ジャキッという重い音が響く。
 良子は目を疑った。特攻服の集団は、銃を構えていた。
(モデルガン?! ……にしては、本物過ぎる!)
 もつれる足で廊下の角を曲がり、階段を駆け上がる。
 廊下のあちこちで悲鳴が上がり、局の廊下は逃げ惑う人々で溢れる。
 その中に立つ女性の声は、あくまで落ち着いたものだった。
「命尽きる前に聞いておけ。私の名は朱天王(ステンノ)。お前達を統べる者」
 背後で銃声が鳴り響き、布を引き裂くような同僚達の断末魔の声がいつまでも耳に残った。

●電波ジャック
「テレビ局『四国放送』が、敵性体に占領された」
 H.O.P.E.職員が、切迫した口調で説明した。
「一階フロアで銃乱射があり、局員が多数射殺された。殺された人々はそのままゾンビと化し、局周辺を徘徊している」
 職員はホログラムを操作し、テレビ局の外観を映し出した。
「占領された地方局は二階建てで、地下部分に資材倉庫がある。スタジオは一階に集中し、1階にいた局員は片端から射殺された。二階はデスクワーク用のオフィスと控え室だが、そこにいた人々は殺されることなく人質となった」
 切り替えられた次のホログラムは上空からの映像で、屋上部分に穴が開いていた。
「すぐに動けるエージェントを招集し、屋上から侵入して二階部分に囚われていた人質は救い出した。救出した人々の証言によれば、侵入者の一人は朱天王と名乗ったそうだ。連れていた和装の少女は先日の洗脳事件に関与した『芽衣沙』、黒ヘルメットの少年達は、以前徳島で活動していた暴走族、『百鬼夜行』のメンバーと見られている」
 資料映像として、エージェントと『百鬼夜行』の少年達が接触した際の写真が映し出された。
 黒ヘルメットに白い特攻服の集団、という部分は、確かに証言と一致している。
「彼らの一部は、警察により死亡が確認されている。その他の少年達についても……新型感染症患者は延命治療なしに長くは保たない。生存は絶望的だ」
 いかにも暴走族らしく、黒ヘルメットと白い特攻服でバイクに跨る姿、夜の駐車場で群れる姿に続いて、ブルーシートの上にヘルメットを脱いで横たえられた姿が映る。
 その顔の皮膚は無残に崩れ、一部は肉が露出していた。
「事実、二階制圧のために撃破した三体の黒ヘルメットの中身は、死体だった。身元は現在調査中だ」
 次にホログラムに映し出されたのは、押収したと見られる銃器類。
「それから重要な事項だが、敵は一般武器と共に、AGWを所持している。製造元は不明だが、徳島の自衛隊基地の事件で押収されたものと類似点が見られる」

 そこで突然に警報が鳴り、女性オペレータの声が速報を告げる。
「当該テレビ局に動きあり。放送中のニュース映像が中断されました。いま当該テレビ局の放映地域には……『芽衣沙』の映像が流れています!」
 『芽衣沙』は先日の愛媛で多くの住民を洗脳し、絶望の淵に落としこんだ。
 もしもその能力が電波を通じて発揮されるとなれば、大変なことになるだろう。

「急がなければならない」
 職員は、気を引き締めるように言った。
「君達は局内に侵入し、出来うる限り敵の排除を行ってくれ。すぐにもうひとつチームを組む。スタジオ内にいる『芽衣沙』の対応はそのチームに任せる」
 職員はホログラムにテレビ局一階の地図を映し出した。
「これは人質救出時にエージェントが【鷹の目】を飛ばし、偵察した一階の状況だ」
 敵勢力は出入り口のシャッターをすべて閉じた上、建物内の防火シャッターも次々に閉じ、そのうえ付近の壁や天井も破壊して、瓦礫をバリケード代わりに通路を塞いでいる。二階に通じる階段も、エージェントの制圧を受けて即座に防火シャッターと瓦礫で完全に塞いだ。
「局側も多くの犠牲者を出し、非常事態であることを認識している。建物に多少の被害が出るのはやむを得ない」
 テレビ局も敵の排除が優先という点でH.O.P.E.と合意した、と彼は語った。
「危険な任務になるだろう。心して掛かってくれたまえ」
 職員はエージェント達に向かって敬礼した。


【テレビ局内模式図(ノンスケール)】
 アイウエオカキクケコサシス
  ゾンビ    ゾンビ
     正面玄関
A□□□□鬼□□□鬼□□□□
B□□□□□階□□□□□□□
C×■■■×■■■×■■■×
D□■■■□■■■□■■■□
E□■■■□■■■□■■■□
F□□□□鬼□□□鬼□□□□
G□■■■□■■■□■■■□
H□■■■□■■■□■■■□
I×■■■□■■■□■■■□
J階×□□□□朱□□□□□□
K◎■■■□■■■□■■■□
L×■■■□■■■鬼■■■□
M×■■■□■■■□■■■□
N◎階××鬼×××鬼鬼鬼警×
 ゾンビ   ゾンビ  裏口

■:スタジオ □:廊下 階:階段 ◎:エレベータ 裏:バックヤード
警:警備員室 ×:防火扉、瓦礫による封鎖地点
朱:朱天王 鬼:百鬼夜行メンバー(複数名)
模式図外側(ゾンビ除く)が外壁

解説

●成功条件
一階奥のスタジオを守る朱天王及び百鬼夜行と交戦しつつ隙を突き、芽衣沙対応チームをスタジオ内に送り届けること。そして同チームが交戦中、スタジオ外敵勢力を引きつけておくこと。

●現場状況
・一階の中央奥のスタジオ(15×20スクエア)が占領された。正面、正面向かって右、奥の三方向に入り口があり、正面側は朱天王が守り、奥側は大量の瓦礫で塞がれている。
・エレベータは電源が落とされ使用不能。
・二階制圧と同時に朱天王は二階に通じていた防火シャッターを落とし、瓦礫で封鎖。
・正面入り口、裏口共にすべての入り口がシャッターで覆われ、通路は防火扉と瓦礫で封鎖されている。バックヤードは狭い通路状。
・スタジオの壁、床、天井は防音設備のため特に頑丈であり、時間的に当シナリオでは破壊不可。
・正面入口、裏口を含む周辺には二十体あまりの死体ゾンビが徘徊中(武器所持無し)。
・現場にはヘリコプターにて移動。

●破壊可能箇所
・正面玄関(シャッターごと)
・裏口(シャッターごと) 
・建物外壁(支柱以外) 
・建物床・天井(スタジオ部分除く) 
・防火シャッター&瓦礫の封鎖箇所すべて

●破壊方法
・建物外壁・防火シャッター&瓦礫は1スクエア以上の攻撃能力のある火器で破壊可能。
・正面玄関・裏口(ガラス+シャッター)、床・天井(床材・天井材)は使用素材を破壊できそうな武器で破壊可能。
・破壊箇所はすべて「人ひとり分程度(1m×1.5m)」の穴が開いた判定になる。

●PL情報
・『百鬼夜行』は以前接触したAグループ(隆司+配下11名)、未出Bグループ(櫂+配下16名)。AGWは各グループ、サブマシンガン3丁+小銃多数を所持。リーダー2名は特徴的な鬼の面を左肩につけ、常に移動している。
・朱天王は防御力の高い大盾を持ち正面扉の防衛に専念。リーダー(隆司、櫂)または芽衣沙が重傷を受けるまでは基本的に動かない。

リプレイ


 夜の7時過ぎ、テレビ局前。
 普段ならば日の暮れたこの時間帯でも多くの人が行き交う大通りに面しているが、いまはゆらゆらと漂うように歩く影がいくつか、それ以外の人通りはない。
「実働部隊の朱天王、洗脳の芽衣沙、か」
 二階の窓から眼下を見下ろしながら、沖 一真(aa3591)は呟いた。
 一階部分にはシャッターが下ろされ暗いが、大通りの街灯はあかるく灯る。
(どうしたの、一真?)
 共鳴した月夜(aa3591hero001)が呼びかける。
「いや、頂点にいるのは誰だろう……と思ってな」
 四国で頻発しているゾンビ事件の、今回は大物が出てきたと思って間違いない。
 しかし、それで終わりだろうか?
 もしここで、ここにいる二人の大物を運良く撃破したとして、それで四国の混乱は完全に治まるのだろうか? この事件の根はどこにある?
 一真は、まだ表に出てきていない、なにごとかに思いを馳せていた。

『さて、鬼が出るか蛇が出るかだな』
 少ない抑揚で溜息をつくように言い残し、伊集院 翼(aa3674hero001) は葉月 桜(aa3674)と共鳴した。
 桜色の前髪に紺のメッシュがひとすじ入り、背中には紫の蝶を思わせる輝く翅が出現する。
「よし、みんながんばっていこう!」
 桜は拳を打ち鳴らし、行き交う不吉な影が遠のいた隙を狙って、元気いっぱいに窓から飛び降りた。
 狙いは正面玄関。シャッターで覆われたガラスの自動扉に、大剣を思い切り叩きつける。
 大きな音がしてシャッターが引き裂かれ、ガラスは粉々に砕け散る。
 隙間からロビーの明かりが入ってきて、その向こうに黒いヘルメットの人影が動いている。
 エージェント達は次々に共鳴し、藤林 栞(aa4548)の用意した鉤縄を伝って地面に降り立つ。

「御屋形様、ゾンビは俺らに任せろ……。護衛はきっちりとさせてもらう」
 ヘンリー・クラウン(aa0636)は割れたガラス片を踏みしめて一歩前に出る。
 金色の髪に漆黒の瞳、それに相棒とリンクしたことによってチーターの耳と尻尾が生えているが、耳はカーディガンのフードに仕舞ってある。
(なんで、ヘンリーまで俺を御屋形様呼びなんだ……)
  一真は、彼を勝手に御屋形様と呼ぶ人数が増えたことに戸惑うが、意識して目の前の敵に集中を振り向ける。
(久しぶりの戦闘だ。どこまで皆を誘導できるかが鍵だな)
 片薙 蓮司(aa0636hero002)はヘンリーにそう呼びかけた。
 敵がこちらに銃を向ける前に素早く短機関銃の群れをあたりに召喚し、広いロビーに一斉掃射する。
 既に死体と成り果てたものたちに、躊躇は必要ない。
 白い特攻服の人影へ向けて銃弾の雨が降り注ぎ、無残に打ち抜かれたメンバーたちはロビーの絨毯の上にに倒れ伏す。銃撃音が鳴り止んだあと、まだ立っているものはいなかった。
 召喚した武器は役目を終えると、煙のように掻き消える。

「第一関門は突破……ってことでいいのかな」
 立つもののいなくなったロビーを見回しながら、ヘンリーは問いを発する。
「まあ、ここからだな」
 白い狩衣姿の一真も、じゃりっとガラスを踏みながらロビーへと足を踏み入れる。
 白い壁には実弾の銃痕が残り、絨毯の上には大小の血痕が乾いてこびりついていた。
「……ここにいた人で、生き残った人はいないのでしょうか……」 
 大門寺 杏奈(aa4314)は、痛みを堪えるように言う。
 地方局とはいえゴールデンタイム、しかもローカルニュースの放映中とあっては相当な人々が往き交っていたのだろうが、その人たちの姿は、いまはここにない。
(突然殺された上にゾンビにされるなんて……眠ることさえも許されないのですね)
 せめて安らかな眠りを、とレミ=ウィンズ(aa4314hero002)は祈りを捧げた。



 同じ頃、鬼灯 佐千子(aa2526)と志賀谷 京子(aa0150)はテレビ局の裏口が見える雑居ビルの二階に陣取っていた。鋼野 明斗(aa0553)とドロシー ジャスティス(aa0553hero001)も一緒だ。
 佐千子は窓際にカチューシャを展開し、シャッターの下りた裏口が駐車場の明かりに照らされるのを眺めている。この建物の住人は既に避難済みで、佐千子達の他に人けはない。
 この場所に来たときは多少見え隠れしていたゾンビ達も、カチューシャを設置した途端に物陰に隠れてしまった。武器から身を隠す程度の知能は残っているということだろうか。
「……内部に生存者なし、ね」
(肯定だ。……人質を救出済みなのは僥倖だな)
 佐千子の言葉に共鳴したリタ(aa2526hero001)が応える。
 救うべき生存者がいなければ、火器も遠慮なく使えるというもの。
 使い込んで、グレードアップしてある愛用のランチャーをひと撫でした。
「正面玄関、突入しました!」
 京子が別働隊からの連絡を受け取って、佐千子に告げる。
「じゃあ、まずは挨拶代わりに」
 轟音を立てて16連のロケット砲が次々に飛び出し、裏口のシャッターが紙のように千切れ飛ぶ。
 扉を覆っていたはずのガラスも、特撮で使う飴細工のように儚く美しく砕け散った。
 荒々しい『挨拶』を、京子も息を詰めて見守っている。
「……中のゾンビ、出てこないわね」
「みすみすロケット砲の餌食になりには来ない、ということでしょうか。用心深いですね」
 連射の終わったカチューシャはその場でパージされる。
 代わりに佐千子が幻想蝶から取り出したのは、もう一度カチューシャ。こちらもさきほどの愛用品ほどではないが、それなりにグレードアップした一品だ。
「見取り図通りなら、あの柱と柱の間辺りが問題のスタジオの裏手に当たるはずよ」
 支柱を避けて狙いをつけ、図面通りの場所を狙う。
 建物外壁をロケット砲が破壊し、更にその奥へと攻撃を捻じ込む。
 ひととおりの砲撃が終わったあと、瓦礫と粉塵の向こうには、やや歪んだ扉が見え隠れしていた。
 増えた瓦礫に阻まれた上、扉が歪んでいるため出入り可能かは不明だが、内部の敵からすれば、ここから侵入される可能性もある。上手く陽動されてくれればいいのだが。
「んー、裏口の奥にある防火シャッター、上手く穴が開かなかったみたいね。もう一回、いっておきましょう」
 そう言って佐千子が幻想蝶から取り出したのは、みたびのカチューシャ。
 京子もここは佐千子に任せたほうがいいと、装備中のカチューシャを背中側にそっと押しやった。



「防火シャッターということは……やはり、非常扉は出口側に開くんですね」
 栞は三つある廊下を塞いでいる防火シャッターのうち、向かって左側をてきぱきと調べ始めた。
 防火シャッターという性質上、逃げ遅れた人のための小さめの非常扉がついており、それには施錠機能はついていない。そのため上から瓦礫で塞いだのだろうが、非常扉は脱出経路である正面玄関側に開くよう出来ているので、時間さえかければシャベルやテコでもなんとか通路を確保できそうだ。
「ぶ厚い鉄板がないなら、ボクの出番だよね!」
 桜は防火シャッターの開口部めがけて大剣を振りぬく。剣の威力で瓦礫が吹き飛び、防火シャッター自体も歪んだ。
 粉塵の舞う中、忍装束で鼻と口を覆いつつ、栞は英雄の藤林みほ(aa4548hero001)と共鳴した機動力でせっせと砕かれた瓦礫の撤去に勤しむ。
 栞もみほも忍びとしてこういった力仕事には慣れているので、驚くほど手際がいい。 

「……ん。道を開いてくれたみんなに、感謝感謝。次はワタシが囮。のりこめー……」
 ギール・ガングリフ(aa0425hero001)と共鳴したエミル・ハイドレンジア(aa0425)が平坦な口調で言う。
 頭の両脇からはくねった角が生え、背中にはぬいぐるみ型のライブスラスターを背負っている。
 少女が非常扉をくぐると、背中のぬいぐるみの口がカッと開いた。そこからライヴスの噴射が始まり、強力な推進力を生み出す。
「先行くワタシを攻撃すれば、後ろに居るみんなには、背中を見せる事に、なるよねっていう……」
 それだけ言うとエミルは、小振りな礼装剣を抜き、すさまじい速さで走り出した。
 長い髪をなびかせ、ジェットブーツを駆使して銃で攻撃する敵の頭上をひらりと飛ぶ。
「さようなら、さようなら、また会う日まで、ららら」
 速過ぎる的に当てることの出来ないヘルメット集団を挑発するように、茫洋と歌う。

 直近にいる敵は三体。エミルを狙撃するものもいるが、背中合わせに立ち、こちらへの警戒も捨ててはいない。
「この機会を、逃すべきではないわ!」
 杏奈は輝く盾を掲げ、ジャンヌの翼を広げて進む。それは味方を包み込む加護の翼。
「防御の面では……そして御屋形様をお守りする意思では、私だって負けやしませんよ!!」
 三木 弥生(aa4687)もがっしゃがっしゃと骸骨鎧を鳴らしつつ、銃弾を盾で受け突進する。『いや、俺が痛てえって…』とぼやく三木 龍澤山 禅昌(aa4687hero001) の声は完全無視だ。
 抜き放った守護刀が一番近くの敵の利き腕を小銃ごと切り落とす。続けざまに栞の漆黒の暗殺刀がひらめき、音もなく残った胴体を袈裟斬りにした。
「藤林殿……っ」
 振り返ってにこりと微笑む先輩家臣の鮮やかな手並みに、思わず感嘆の声を上げる。
 いつか追いつきたいと必死に追うが、まだその背中が近づく気配もない。

「おっと、御屋形様はまだ温存しといてくれよ。このあとに大物が控えてるんだからさ」
 スキルを発動しようとした一真を、ヘンリーが片手を上げて制す。
 今回のヘンリーはチームとして『御屋形様』のサポートに徹するつもりのようだ。
 ポケットの中で握り締めていた魔導銃を抜き、残っていた敵に向けて放つ。
 狙うのは武器を持つ手、そして喉。
「ボクだっているよ!」
 桜は【一気呵成】により残った敵を斬り、倒れたところを更に追撃する。
 目の前の敵が倒れれば、その奥にいる特攻服の集団がこちらへと向かってくる気配がする。
 一真は援軍の足止めをすべく、ライヴスの炎を放った。
「ブレームフレア!」
 

「そろそろ、こちらも突入しようかしら」
 佐千子はしばらく経っても敵が応戦に出てこないのを見て、三つめのカチューシャと阿修羅をパージし、二挺拳銃とレイジ・マトリクスを展開した。
(敵の数は多いですが、屍人を使う相手などに後れを取るわけにはいきません)
 アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は、京子と共鳴しながらも静かに憤っていた。
「うん、メイサ対応チームのみんなを無事にスタジオに送り届けなきゃね。陽動だけど、まだまだ、派手に行くよ!」
 京子は自身を奮い立たせるよう、力を込めて言った。

(これ以上、派手に行くのか……)
 明斗はドロシーと共に、カチューシャ爆撃を部屋の隅から眺めていた。
 テレビ局の裏口はもはや、どこか遠い国の戦場のような様相を呈している。
 佐千子と京子の二人が窓から飛び降りて行ったあとも、粉塵で曇った眼鏡を丁寧に拭き取りゆったりと過ごす。
「ま、ロリの方は別働隊に任せて、俺達はもうひとりをガールハントすれば……で、今度は何をしている?」
 綺麗になった眼鏡を掛けなおして相棒を見ると、いまだキラキラした瞳で沢山の色紙を抱えていた。
『テレビ局! 芸能人! サイン!』
 スケッチブックにはそう書かれている。
「……あんな戦場みたいな光景を前にしても、まだそんなこと言ってるのか。しかもローカル局で?」
 明斗は冷たく溜息をつくが、ドロシーはあくまでキラキラした瞳でスケッチブックを掲げ持つ。
 地方局でもアナウンサーくらいならいるだろうが、どちらにしろ避難済みだ。
「まあ、負けない様にな」
 ポン、と頭に手を置くと、ドロシーは胸を張ってスケッチブックのページをめくる。
 そこには、こう書かれていた。
『正義は勝つ!』



「裏口組、突入したそうだ」
 廊下の角を曲がったとき、一真は通信機でその報を受けた。
 これで、足止めした勢力はあちらに任せて大丈夫だ。
 廊下の中ほどに、スタジオの扉がある。
 その前に、大盾を持って佇む和装の女がひとり。背中には、大きな薙刀を背負っている。
(あれが……朱天王か。百鬼夜行を操るもの……)
 女の側には、誰もいなかった。しかも、一真たちが近づいても、攻撃してくるそぶりもない。
 だが、その気配だけで充分に異様だった。
 この世ならざる場所への道が足元にぱっくりと口を開いているかのような異質な空気感に、総毛立つ。
 知らず、手には汗が滲んでいた。
 ぐっと拳を握り、呼吸を整える。
「朱天王、貴女を腕の立つ武人と見込んで、折り入ってお願いがあります――」
「おや」
 最大限の反撃を警戒しつつ切り出した言葉に、返って来たのは思いのほか柔和な響きだ。
 しかしその内容は、一真の血を凍らせるのに充分だった。
「お前の顔は、見たことがある。二度ほど、俺の配下とまみえただろう?」
 一真は四国のゾンビ事件に関して、いくつが依頼を受けている。
 しかしそのうち二件だけが、ゾンビが統率された行動を取るという類似性のあるものだった。
 この女は、そのことを知っている……!
「しかもそのうち一度は、『仲間にしてほしい』と言った。違いないな?」
 じいっと、深淵に続くような目に見つめられながら、一真はめまぐるしく記憶の糸を遡る。
 おそらく、百鬼夜行と接触したときのことだ。
 彼らは正体不明の不良グループとされていて、潜入操作をするために――『仲間にしてほしい』と、確かに口にした。しかしあれは、調査のため。その場限りの、軽い虚言のはずだった。
(言質をとられている……?! どうする、嘘だと否定するか、憶えていないととぼけるか)
 こいつは大物だ。下手な嘘にはしっぺ返しが来る。かといって正直にそうだと答えるのも危険だ。
 一真の直感が、そう告げていた。

「待てよ! そいつは嘘つきだ! 仲間には出来ねえ!」
 ぴんと張りつめた空気を裂くように、聞き覚えのある声がした。
「隆司か。俺はいま、本気だったかどうかではなく、言ったかどうかを問題にしているのだよ。既に弟たちをやられている。強い奴を引き入れたい」
 朱天王はやや不満げに、しかし親しげに、突然の闖入者と会話を始める。
「隆司……」
 掠れた声で、一真はその名を呼んだ。ヘルメットで顔は見えないが、声に聞き覚えがある。左肩に装着している独特な四本角の鬼の面にも、見覚えがある。確かに一真がかつて遭遇し、取り逃がした男だ。
 こいつと、戦いに来たはずだった。しかし裏腹に、窮地を救われたような気分だ。
「やろうぜ、この前の決着をつけよう――”俺と戦え!”」
 気力を振り絞るようにして一真は【支配者の言葉】を発する。
 黒ヘルメットの中で、ふっと笑った気配がした。
「妙な技なんか使かわなくったって、お前は俺が潰す。サシの決闘だ!」
 煮えたぎるような殺気をぶつけてくるが、朱天王の威圧感とは違う人間臭い直情ぶりが、どこか好ましくさえ感じる。
「それはいい。もしこちらが勝てば、言葉通り俺の仲間になれ。負ければ、見合うだけの願いを叶えよう」
 朱天王は決闘に対価を要求した。隆司はこれに激しく抗議していたが、もとより一真には負ける気などない。あとには退けない闘いだ。
 女は赤い唇を歪め、仄暗く笑む。
「では、約束だぞ? ――『オヤカタサマ』?」

「私は大門寺杏奈よ! 朱天王、あなたと戦いたくて来たわ」
 輝く盾を持つ杏奈が朱天王の前に進み出る。
「ほう、あえて俺と? なんという蛮勇だろう」
 背の高い女はわずかに口角を上げ、さも面白いものを見るように杏奈を見下ろす。

「私はこの盾を使う。あなたの得物は何かしら?」
「俺の本来の獲物は背中にある薙刀だ。しかしいまは先約がある。ここの守りを外れるわけにはいかない」
 朱天王は重たげな盾を持ったまま、一歩たりとも動こうとはしない。
「あなたが戦わないと言うなら、私からいかせてもらうけどね!」
 杏奈は「ジャンヌ」の翼を広げる。【守るべき誓い】を発動させて相手の注意を引きつけつつ、盾のエネルギーをチャージする。
「お前は、死を恐れないのか」
 女はまるで自分が動けば死が訪れると告げるような、重みのある声で問う。
 それに気圧されることなく、杏奈は言い放った。
「どんな状況でも諦めないだけ。私は守るべき人達を守るために、負けるつもりはない!!」


 
「突入には警戒が必要よね」
 佐千子はそう言うと、無造作に建物の中にフラッシュバンを投げ込んだ。
 死角で閃光が輝き、内部の気配を慎重に探ってから、京子と共に足を踏み入れる。
 ロケット砲で破壊されつくした裏口は、通路と言うよりは薄暗い廃墟のようだ。
 破壊によって上積みされた瓦礫を踏み越えつつ、敵に占拠されたスタジオへと向かう。
 コンクリートの剥き出しになったバックヤードは、無人だった。
 そもそも瓦礫に覆われていて、まともに歩ける状態ではない。佐千子が吹き飛ばした外壁も加わって、スタジオ裏側の扉への道は、完全に断たれていた。

 なんの気配も感じないまま内部に続く角を曲がろうとして、二人は突然の弾幕に晒される。
 複数の射手からの銃弾が、二人の立っていた瓦礫を吹き飛ばし、壁を削る。
「……くっ、完全に気配を消すとは……!」
「そういえば、死人って呼吸するのかしら?」
 生きて動く人間ならば必ず立てる、微かな音。
 京子はゾンビと戦うのは二度目だが、前回は居場所が知れた戦闘だったため、気にしてはいなかった。加えて言うと、内部にいた敵は、皆黒いバイザーつきのヘルメットを被っている。
 閃光は、突入を知らせる合図にしかならなかったかもしれない。
「敵の数が多い上に、こっちの位置が知れていると不利ね。反対側から回り込む? それとも一旦外に出て、壁ごとぶちのめす?」
 隣の建物からの狙撃時に、敵の数を削れなかったのは痛かった。
 体勢の建て直しを提案する佐千子に、京子はかぶりを振る。
「いえ、事態は一刻を争うはず。多少の被弾は覚悟するわ。スタジオの入り口はすぐそこ。なんとか突破口だけでも開ければ」
 京子の覚悟に、佐千子も【青春のグローブ】を掲げてみせる。
「なら、今度は私が援護する」

 ほんの少しでも射線に踏み込めば、一斉射撃が待っている。
 しかし、汗と涙を吸い込んだグローブは、意外にも射撃に高い防護効果を発揮する。
 佐千子はダメージを恐れることなく、出来うる限りの銃弾をグローブで受けきった。
 どこからともなく聞こえる「バックホーム!」の声に、グローブが銃弾を投げ返す。
 敵が怯み、生じた一瞬の隙を狙って、京子が廊下の中央に躍り出る。
 装着するのは、フリーガーファウストG3。【トリオ】も使用し、立てつづけに三連射する。
 狭い室内の廊下では、敵に逃げ場はなかった。ロケット弾の火力が、通路の一帯を黒コゲにした。

「出る幕なしですかね、これは」
 遅れてやってきた明斗が、さして悪びれもせずに感想を漏らす。
 味方の行動を妨げないよう後方を守っていたのだが、そういうことはあえて口にしない主義らしい。
 廊下に転がるのは、火力の余波も含めて灼かれた4体。焦げた体でなお、のたうつように動いている。
「スタジオ右側廊下、制圧完了。朱天王は正面組が足止めしている」
 二階の別働隊誘導組に佐千子が連絡を入れる傍ら、京子と明斗は灼かれても動きを止めないゾンビ達に手数を掛けて攻撃を加え、撃破していた。ばらばらになるまで安心できないことは、先の依頼で経験済みだ。

「……だそうだ。行くか」
 ツラナミ(aa1426)は気だるげに煙草をもみ消した。
 図面で確認し、佐千子達の制圧した廊下の真上で共鳴した御童 紗希(aa0339)、及び芽衣沙対応チームと共に待機していたが、ようやく突入できる段階に入ったようだ。
「俺達が先に行く。突入経路を確保できたら合図するから、速やかにスタジオに入ってくれ」
 紗希は可憐な乙女の姿だが、共鳴中は英雄のカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)の性格が強く出る。ただし、紗希自身にも荒々しい部分があることは否めない。
 予定通り、扉の両脇にあたる床を二箇所立てつづけに破壊する。
 ツラナミがヴァンピールを、紗希がパイルバンカーを使用し、二階床と一階天井に一気に穴を穿つ。
「ワタシも、援護するよー」
 通信機から、エミルの幼い声が響く。
「いまワタシは、瓦礫の隙間に、身を潜めているところ。カラダが小さいから、そんなことも出来るんだ……。途中ちょっと撃たれたけど、へーき……」
 場所は正面玄関近くの、突破していない防火扉のあたりらしい。
「ワタシの戦闘力では、敵がいっぱいいたら、心もとないからね。隠れておいて、隙を突くつもり……」
(――隠れて、隙を突く?)
 一階へと降下する紗希の心に、小さな棘のように何かが引っかかった。
 ツラナミは【鷹の目】で大きさのあるクマタカを生成し、視界を英雄の38(aa1426hero001)に任せて階下へと飛び立たせる。
 一階の廊下は火器により焦げているのが見えるが、クマタカは妨げられることもなく一直線に飛翔する。
 扉の鍵を破壊して速やかに別働隊を誘導するため、ツラナミも飛び降りた。

 そのとき、突入予定のスタジオの向かいの扉が、勢いよく両側に開く。
 内側には、特攻服のメンバーが6体ほど並んでいる。
 うち2体は、サブマシンガンを構えていた。
 一斉掃射の銃弾が、容赦なく降り注ぐ。
「奇襲だ!」
 なぜ敵が潜むことを考えなかったのかと心の中で舌打ちをしながら、紗希はパイルバンカーの杭を射出する。低い位置を狙い、転倒によって射撃を逸らす目論見だ。4本は撃ち落され、3本は逸れ、1本がかろうじて敵に届いた。
「くそ! 目視がなくとも操れるのか?! 誰がどこで操ってんだよ!」
 紗希は以前の経験から統率されたゾンビには統率者がいるものと踏んでいたが、その方法が見えてこない。
 明斗は初撃を禁軍装甲で受け、手足に被弾しつつもライヴスミラーを展開させる。
 降り注ぐ銃弾を前にミラーの効果は瞬く間に消失するが、それでもその間が味方に反撃の余裕を与えた。
 ツラナミは【女郎蜘蛛】で相手の動きを縛り、身を低くして足元を薙ぎ払う。
 京子がファストショットでマシンガン持ちの頭を撃ちぬく。正確にバイザーの中央狙い、一撃で動きを止める。
 佐千子についてはレイジ・マトリクスの強力な障壁が攻撃を防いだ。無傷とまではいかないが、二丁拳銃を構え、【トリオ】を使って優先して武器を狙う。

 手加減する余裕はなかった。ツラナミは流れるように刀を操り、手首を切り落とし、足を切り落とし、首を落とした。明斗もオーロラを纏う刀を振るい、胴を裂き、腕を刎ね落とす。
 紗希はパイルバンカーを緊急パージし、屠剣に持ち換えて手当たり次第にぶった切る。
 二丁拳銃が火を噴き、至近距離のライフルが手足の関節を砕いた。

「族が軍隊に早変わりか。おっそろしいねぇ……」
 ひととおり片がつき、詰めていた息を吐き出すようにツラナミは溜息をついた。
 いつか潜入操作に入ったときの百鬼夜行は、ただの暴走族に見えた。
 しかし銃器を持った彼らは、よく訓練された兵士のようでもある。
 敵の立て篭もるスタジオの扉に縛導策を巻きつけ、爆発させて鍵を破壊する。
「さっさといって、手早く片付けてきてくれ」
 【ターゲットドロウ】を発動させ、芽衣沙対応チームを呼び素早くスタジオに突入させる。
 それ以上のことは、まだ考える余裕がなかった。 



 ジャンヌの翼から放たれる光とパラディオンシールドの光が混ざり合い、盾が輝きを増す。表面では電気が弾けるような、パチパチという音が微かに起きる。
 力を蓄えた盾を、杏奈は渾身の力で叩きつけた。
(重い……ッ!)
 朱天王の持つ盾は、信じ難い重厚さで杏奈の攻撃を受けきる。
 彼女自身は、小揺るぎもしなかった。

「なかなかいい攻撃だ、大門寺。お前も俺の仲間にならないか?」
 楽しそうな響きすら持つその言葉に、杏奈は苛立つ。
「天地がひっくり返っても、そんなことはありえないわ!」
「では、天地が逆さになればどうだ――?」
 強い視線と、地の底から響くような声に、ぞくりと背筋が冷える。
「お前の勇気に敬意を表して、こちらも力を見せよう。櫂、おいで」
 忽然と、一人の男が傍に立っていた。一真が決闘を申し込んだ隆司という男よりやや背が高く、左肩に四本角の鬼の面をつけている。
「私は、貴女自身と戦いに来た……!」
「ふむ、俺自身とはなんであろう?」
 憤る杏奈に、朱天王は謎掛けのような言葉を返す。
「人はひとりにて存在するに非ず。あまたの人の力によって成り、またあまたの人に力を及ぼす。なれば、俺が心血を注いで育てた弟分も、俺だと言えるのではないかね?」
「詭弁を……ッ!」
 櫂と呼ばれた男は、既にサブマシンガンの狙いを杏奈に定めている。
(ライヴスリッパー!)
 スキルを発動させるが、何かに弾かれたように失敗した。
 決して勝てない相手とも思わないが、一人で対応するのも危険だ。
「それと、あちらから妹の初舞台を邪魔する賊が入ったようだ。櫂、もう少し誰か向かわせよう」
 助けを求めようとしたそのとき、櫂と呼ばれた男の後ろに、何人もの特攻服の男が現われれる。
「隙だらけだぜ、挑戦者」
 気が逸れた瞬間を逃さず、サブマシンガンの銃弾が杏奈の足元を狙って炸裂する。
 転倒した杏奈を、銃口が見下ろしていた。男が怒気を込めて言う。
「お嬢に挑戦したけりゃ、まず俺達を倒せよ」
 銃声を最後に、杏奈の意識は暗転した。


「通すわけ、ねえだろうが……ッ!」
 拳を固め、ヘンリーが前に出た。
 仲間をやられた怒りで、体が震える。
 一真は敵のリーダーの一人を引き受けている。ここでもう一人のリーダーを引き受けるのは、自分だと思っていた。
 朱天王の意図は分からない。あえて自分たちの前を通そうとするのは、注意を引く為なのか、陽動か、それとも問題にすらしていないのか。
(いま俺に出来る、最大の攻撃を……!)
 仲間を巻き込まない位置まで前に出て、周囲に短機関銃を召喚する。
「その攻撃は、もう見た。強力ではあるが、いささか単調だな」
 一斉に射撃しようとしたまさにそのとき、朱天王のつまらなそうな声がした。
 白い特攻服の男たちは、素早く廊下の角の向こうへと身を隠す。
 誰もいない壁と床を、銃弾の雨が叩いた。
「……な……っ……」
(読まれた?!)
 攻撃を読まれたことにも驚いたが、「見た」という言葉をどう受け止めればいいのか、混乱する。

「ここは私が通しませんっ!」
 がっしゃがっしゃと鎧を鳴らして、弥生が前に出てくる。
「私は盾、敵の攻撃を防いで皆様を……御屋形様を絶対死守致します!!」
 守護刀を前にかざして啖呵を切るが、骨の鎧がカタカタと細かく揺れている。
「ボクだって! 最後まで戦い抜く!」
 桜も大剣を構えて弥生に並んだ。

 そのとき爆音がして、中央に進み出ていた櫂が弾かれたように後ろを振り返る。
「伏兵か。やるじゃないか」
 朱天王も鋭く反応する。
 弥生が後ろを振り返ると、栞の姿が消えていた。
「ふ、藤林殿……?!」
「エミルもいるよ。いないと思った? 小賢しいからね……」
 桜のスマホに、エミルからの着信がある。
 それで廊下を曲がった向こうで、栞とエミルが奇襲を掛けたのだと知る。

 突入の援護に出遅れたエミルは、引き続き瓦礫の隙間に隠れて隙を窺っていたのだった。
 そこにこちらにはノーマークで退避してくる、ちょうどいい標的が出現した。
 愛用の斧【クロ】には隠れている間にライヴスをチャージ済みだ。高速で移動し敵に忍び寄り、思い切り振り下ろす。ドーン! である。
 栞も隙を見て打ち込んでおいたカスガイを伝って移動し、死角から敵の首元を掻き切った。

「私は三木家23代目頭首三木弥生…剣の道を窮めると共に、死者を御守りする「禅昌寺」の巫女! 私が見届けます故、どうぞ安らかにお眠り下さいませ……御免!!」
 弥生は守護刀をきつく構え、櫂に向かって突進する。
『脳筋のくせに、一丁前に言うようになったじゃねぇか……』
 鎧の中で、禅昌が哄笑する。
 手ごたえは確かにあった。だが弥生の頭の上から、櫂が冷たく告げる。
「浅えんだよ、ちびすけ」
 至近距離からサブマシンガンが炸裂する。
 それは骨の鎧を砕き、弥生の腹部を抉った。
「かは……っ……」

(弥生……!)
 後輩が倒れるのを見ても、一真は動くことが出来なかった。
 隆司は決闘に当たって朱天王にサブマシンガンを預けた。
 代わりに木刀として持っていた仕込み刀を抜き、真剣で斬りかかってくる。
(こいつ……! 以前の喧嘩の動きとは、明らかに違う……!)
 以前戦ったときも、強い奴だとは思った。
 だがいまは、無駄な動きを廃し、的確に急所を突いてくる。
 レインメーカーで応戦する一真も何度か攻撃をまともに食らい、体力を削られている。
「戦闘のプロにでも手ほどきを受けたか? 自衛隊員とか?」
「お前には、関係ない!」
 軽く反応を見るが、にべもない。
 徳島の駐屯地の事件では、自衛隊員も何人か行方不明になっている。
 あれも朱天王の仕業だとしたら……思ったより遥かに、敵戦力は力をつけているのかもしれない。
(何とかして……隙を作って反撃しなければ……)
 負けるのかもしれないと、思ったそのとき。
 朱天王の守る扉が小さく開き、女の足元で爆発が起こる。
 びくり、と隆司の肩が震え、一瞬だけ切っ先が鈍った。
「『九天応元雷声普化天尊! 』」
 高位の雷神の名を唱え、スキル【サンダーランス】を放つ。
 雷の槍は、一直線に隆司を貫くかに見えた。
「来たれ、黒雷(くろいかずち)」
 朱天王の声と共に光を引き裂く闇のような雷電が走り、サンダーランスに当たって軌道を逸らす。
「おっと、つい手を出してしまったな。これでは無効試合になってしまう」
「邪魔すんなよ! いまのは避けられた!」
 とぼけたような朱天王と、噛みつくように抗議する隆司の声。
(いまのは朱天王の技……雷系のスキルか……?)
 情報の取りこぼしが無いよう、一真は注意力をフル回転させていた。

「まあそう怒るな。どのみち潮時だ」
 朱天王は軽く合図をするように、手を挙げる。
「希望を名乗る者たちよ。お前達に人の心があるなら、武器を下ろした者達を見逃してやってくれ」
 高らかな声が、建物中に響く。
「大勢殺しておいて、人の心を語るな……!」
 ヘンリーが立ちはだかり、朱天王を睨みすえる。
「お前達が手出ししない限り、こちらも攻撃しない。ことは終わった」
 前からも後ろからも、無数の足音が近づいてくる。
 地響きのようなそれは、負傷した特攻服のメンバーを抱えたゾンビ達の立てる音だった。
 銃痕を残し血を流すゾンビ達が、蜂の巣のように撃ち抜かれた、あるいは大きく斬られた特攻服のメンバー達を、背負い、抱え、肩を貸して歩いてくる。
 それは化け物たちの行進、文字通り百鬼夜行を思わせた。
 エージェント達も満身創痍で、とてもこの数を相手にすることは出来ない。
 なすすべもなく立ち尽くすうちに、朱天王の足元に一人、また一人と消えてゆく。

「次に会ったら、ぜってー殺す!」
 隆司も仲間に肩を貸し、捨て台詞を残して消えていった。

 最後に残った朱天王は、傷を負い英雄のレミに抱かれる杏奈に視線を落とす。
「目覚めたら伝えてくれ。次に挑戦するなら、先約のないときにしてくれとな」
 レミは言葉もなく、小さく頷く。
「それから『オヤカタサマ』? 名は聞き損ねたな。またいずれ会おう」
「あぁ、大将にもよろしく言っておいてくれ」
 一真の鎌掛けには応えず、女は大盾を背負って地の底へと消える。


 あとから分かったことだが、テレビ局の地下倉庫の更に下には通路が掘られており、それは取り壊し途中のビルの敷地内へと続いていた。取り壊し工事は資金繰りの面からここ一ヶ月ほど中断されており、その間は無人だったという。
 朱天王、芽衣沙、そして二人に従う生者とも死者ともつかないものたちは、ふたたびいずこかへと姿を消した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
  • エージェント
    ツラナミaa1426
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591

重体一覧

  • 暗闇引き裂く閃光・
    大門寺 杏奈aa4314

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • 戦うパティシエ
    ヘンリー・クラウンaa0636
    機械|22才|男性|攻撃
  • ベストキッチンスタッフ
    片薙 蓮司aa0636hero002
    英雄|25才|男性|カオ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    伊集院 翼aa3674hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • サバイバルの達人
    藤林 栞aa4548
    人間|16才|女性|回避
  • エージェント
    藤林みほaa4548hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 護りの巫女
    三木 弥生aa4687
    人間|16才|女性|生命
  • 守護骸骨
    三木 龍澤山 禅昌aa4687hero001
    英雄|58才|男性|シャド
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