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れっつ、しゅーてぃんぐ
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従魔掃討作戦
最終発言2017/01/18 09:27:46 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/01/16 20:40:16
オープニング
●廃工場の解体現場
地方都市郊外にある古い工業地区。
かつては多くの工場が日夜稼働していた一帯も、時代の流れについて行けず、今では廃工場がその大部分を占めていた。
「おい、またあの虫が出てるぞ」
「またかよ。昨日もさんざん駆除したのに……」
解体が決まったとある廃工場で、作業員達が迷惑そうな表情を浮かべる。
作業員達の前に広がるのは、工場内に取り残された備品や機械類、そして並んだ収納棚だ。
だが、彼らが問題にしているのはその周囲をワサワサとうごめいている黒い虫達。
「おーい! 若ぇやつ集めて虫の駆除にかかってくれ!」
「ういーっす、わかったっス!」
現場監督らしき初老の男から指示を受け、若手の作業員が周囲の人間と一緒になって虫を駆除しはじめる。各々が持参した殺虫剤をふりまいたり、手にしたハンマーやスチール棒を振り回すと、途端に虫達が算を乱して逃げていった。
「まったく、どこから湧いて出てくるんだか」
困り顔で初老の男がため息をつく。
廃工場を解体するために、屋内の備品や機械類は外へ運び出して廃棄しなければならない。その作業へ取りかかった矢先にどこからともなく現れ始めたのが、体長十センチほどの甲虫だ。
最初の頃こそ無視していたものの、二日目、三日目と日を追うごとにその数が増えていった。さすがに作業の邪魔になりだしたため、作業開始前に虫を駆除することにしたのだが……。
「なんか、昨日よりも増えてないか?」
「だよなあ。日に日に増えてる気がするよなあ」
駆除の甲斐もなく、どうやら虫の数は増え続けているようだった。
今では駆除作業に追われて、午前中の仕事が滞っているありさまだ。
「冗談じゃねえぞ、まったく……」
足もとをゴソゴソと通りすぎようとした虫を、初老の男が忌々しそうに蹴り飛ばす。
虫は壁に叩きつけられて、ポトリと床へ落ちるとその場であがくように足を動かしていたが、やがてピクリともしなくなった。
「しかし……、見たことのねえ虫だな」
動きを止めた虫を一瞥した後、初老の男はスケジュールの遅れをどう取り戻そうかと、頭の中で考えを巡らせはじめた。
●依頼の説明
エージェント達を前にして、ショートカットの若いオペレーターは資料に目を通しながら口を開いた。
「N市の工業団地にある廃工場を解体していた業者が、H.O.P.E.に助けを求めてきました。甲虫型の従魔が多数発生しているようです。従魔自体は非常に弱い個体で、一般人にも追い払うことが可能なほどだそうですが、問題はその数です」
資料をめくり、オペレーターが説明を続ける。
「未確認ではありますが、依頼人からの聞き取り調査の結果、予想個体数はおよそ五千。日に日に増えているらしく、依頼受領から二日経過していますので、さらに数は増えているものと予測されます」
その数を聞いて、エージェント達の口から何とも言えないうめき声が漏れる。
「当初は従魔と気づかず、通常の虫と同じように駆除していたそうです。しかし翌日になると死骸が消えていたとの証言から、おそらくは擬死(死んだふり)反応の一種だったのではないかと思われます」
作業員達は駆除に成功したと思っていても、実際には何のダメージも与えられていなかったのだろう。ライヴスを媒介しない方法では従魔の駆除は不可能である。
その間、着実に従魔は数を増やしていたのだ。
「次にこちらをご覧ください」
エージェント達に現場の見取り図が配られる。
建築時点のものだが、建物の間取りが明記され、移動経路や各部屋の広さが一目瞭然となっていた。
「幸い現場は廃工場ですし、依頼主は機械類や備品の搬出を諦めたそうなので建物に対する配慮は不要です。もともと解体予定のため、極端な話、工場自体がガレキの山と化しても問題ないとのことです」
切れ長の目をエージェント達に向けて、オペレーターの女性が釘を刺す。
「ただし、増殖ペースが異常に早いことから、討ちもらしがあった場合は周囲へ被害が拡大する恐れがあります。いきなり工場を爆破するなどの強引な手法は避け、近隣の工場へ逃げられないよう、内部からの駆除をお願いします」
建物への被害は考慮しなくて良いが、だからといって工場もろともというわけにはいかないらしい。
ライヴスの伴わない衝撃では従魔を排除することが出来ないのだ。生き残った従魔が周辺に拡散したのでは事態を悪化させるだけである。
「一体一体の従魔は貧弱なため、今回の戦闘で必要になるのは攻撃力よりもむしろいかに複数の従魔をまとめて攻撃できるかという点です。剣や銃のような単体攻撃武器よりも、火炎、冷気、爆発のような範囲に影響のある攻撃方法が有効でしょう」
範囲攻撃手段を持たないエージェントには、本部から物品の貸与も可能らしい。一例としてオペレーターは投網の利用を口にする。
「投網自体には何の攻撃力もありませんが、投網でかき集めた従魔を剣などでまとめて斬れば、範囲攻撃がなくとも一度に多数を駆除できるでしょう。一般人が入手可能な物品であれば、本部から貸し出しをすることも可能です」
あとはあなた方の工夫次第ですよ。と宿題を突きつける女教師のような口調でオペレーターは締めくくった。
解説
●目標
従魔の殲滅
●制限時間
三日間
●従魔
黒い色をした甲虫型。
体長十センチほどの小型従魔。
個体の戦闘能力は低いが、集団で行動する習性あり。
動きは鈍いが、羽を広げて飛ぶ事が可能。
数は少なくとも五千体以上。(かなり数を増やしている可能性あり)
●場所
工業団地の廃工場。部屋の合計数は全部で十五。
周囲には道路を挟んで他の工場が建っている。
■一階
※括弧の中は部屋の広さ
・正面ロビー(八メートル×六メートル)
・事務室(八メートル×八メートル)
・作業場A(二十メートル×二十メートル)
・作業場B(三十メートル×十メートル)
・作業場C(三十メートル×二十メートル)
・資材置き場(十六メートル×十メートル)
・男子トイレ(六メートル×四メートル)
・女子トイレ(六メートル×四メートル)
■二階
・食堂(二十メートル×二十メートル)
・休憩室(十四メートル×十メートル)
・男子更衣室(四メートル×四メートル)
・女子更衣室(四メートル×四メートル)
・工場長室(六メートル×四メートル)
・応接間(六メートル×四メートル)
・会議室(十メートル×十メートル)
●探索
・戦闘は各部屋単位で発生する。
・戦闘には乱戦ルールが適用され、各部屋は部屋全体が乱戦エリアとして扱われる。
・各部屋に潜んでいる従魔の数は部屋の用途や大きさと関係なし。(ダイスの目次第)
・プレイヤーは探索する部屋を最大で十ヶ所まで指定できる。(九ヶ所以下のように部屋数を絞って指定するのはOK)
・部屋を探索するプレイヤーが一人しかいない場合は、単独での戦闘となる。
・全ての部屋を探索する必要がある。(誰も探索していない『手付かずの部屋』が残らないようにすること)
●物品の貸し出し
投網など、一般人が入手可能な物を本部から借り受け可能。
●プレイングへの記述
自分が探索する部屋を記述すること。(探索の順番は関係無い)
記述が無い場合は探索場所がランダムに割り振られる。
リプレイ
●正面ロビー
「しかし廃工場で虫退治とはな」
赤城 龍哉(aa0090)がボロボロになったロビーを見渡して言った。
見渡す限りの虫、虫、虫。壁という壁、床という床を埋め尽くした黒い甲虫型の従魔が蠢いている。
「あらあら、これは……。狙いをつけなくても、網をふるえば自然と捕まえられそうですね」
胡 佩芳(aa4503)が試しに手持ちの『すごいむしとりあみ』を一振りすると、狙いを定めるまでもなく複数の従魔が網におさまる。網の持つ微弱なライヴスにすら耐えられず、囚われた従魔たちはあっという間に息絶えた。
「本当に貧弱な従魔なんだな」
それを見ていたクワベナ・バニ(aa4818)があきれるようにつぶやく横で、Гарсия-К-Вампир(aa4706)ことガルシアが淡々とナイフを従魔へ向かって突き刺している。
「擬死習性のある虫ですか……ロシアでは寒い冬を乗り越えるための休眠で仮死状態になる種類は多々いますね……まぁどちらにしろ家庭害虫です。駆除いたします」
「害虫駆除のバイトは、したことなかったかな……。ハッ、いい機会だ!」
ガルシアに遅れてなるものかと、天宮城 颯太(aa4794)が幻想蝶から取り出した武器を手に従魔の群れへ突撃していく。
「ひとまずはここを制圧した後、分担して駆除していこっか。さーって、撃つぞー」
行雲 天音(aa2311)が幻想蝶から取りだした『ショットガンM3』の銃口を従魔の群れに向けた。
「じゃあ、俺もショットガンを……って、あれ?」
「どうした?」
何やら困惑の表情を見せる龍哉へ、クワベナが問いかける。
「おかしいな、持ってきたと思ったんだが……。まぁ無いものは仕方ねぇよな!」
あっさり気持ちを切り替えると、龍哉はクワベナと共に銃弾とナイフの飛び交う戦いの最中へ身を投じていった。
●作業場A
「お掃除と露払いはメイドの役目。速やかに、かつスマートに片付けてみせましょう」
ロビーの従魔を一掃した後、いち早く作業場Aへたどり着いたガルシアを待ち受けていたのは作業場を埋め尽くす黒い虫の群れ。
ためらうそぶりも見せず、白銀の髪を揺らしながら部屋の中央へ突入したメイドはその手に『白冥』を携えて、『ウェポンズレイン』を発動させる。
「一体たりとて逃しません」
開かれた白冥により彼女の頭上へ無数のナイフが顕現した。冷気を帯びたそれは宙へふわりと浮いていたが、次の瞬間、周囲の従魔へ向けまばゆい光の雨となって降り注ぐ。
飛んでいた従魔は床に叩き落とされ、また別の従魔は物陰へ隠れようとしたところを貫かれる。
膨大な量の弾幕がおさまった時、そこに残されていたのは身体を貫かれ、床一面に積み重なる虫の無残な姿だった。
●男子トイレ
「特に行先を決めてないなら一緒にどうだ?」
ロビーの従魔を一掃した後、龍哉はクワベナへ声をかけて行動を共にする。
たどり着いた男子トイレで龍哉達を待ち構えていたのは、通風口や窓に群がる多数の黒い虫。ざっと見ただけでも百体は優に超えているだろうが、ロビーにいた従魔の数と比べれば幾分少なく感じてしまう。
「ちょいと面倒だが、纏まって寄って来るならやってみる意味はあるか」
龍哉は一計を案じ、自分のライヴスをエサに従魔をおびき寄せる。目論見通り床を埋め尽くすまでに増えた虫を投網でかき集めると、幻想蝶から『イグニス』を取りだした。
「前に出るなよ、巻き込まれるぜ」
ライヴスをまとった火炎が、身動きできなくなった虫の群れへ放たれる。
逃げることも出来ず、投網の中で蠢いていた従魔がまたたく間に黒焦げの山と化す。
「そういやモヒカンの愚神やら従魔は何か叫びながらやってたな」
龍哉の言葉にクワベナが何とも言えない表情を浮かべる。
叫びたいなら止めはしないが、とクワベナに言われた龍哉は慌ててそれを否定する。
「いや、真似なんぞしねぇが」
●女子トイレ
「一応、外で試したから上手くいくとは思うんだけど」
「何やってんだ?」
ゴムホースを蛇口へ取り付ける天音に、クワベナが虫を蹴散らしながら訊ねる。同時に、先ほど天音が何やら現場監督へ交渉していたことを思い出す。
「そういや、さっき何か頼んでたな」
「一時的に水道の栓を空けてもらったのよ。蛇口のあるところでしか使えないのが残念だけど……。とりあえずやってみてからね」
首を傾げながらも着実に従魔を退治する龍哉とクワベナをよそに、天音は準備を進めていく。
「これでよし! 龍哉! クワベナ! ちょっと退いて!」
天音の合図で二人が後退する。それを確認した天音は、ホース片手に蛇口の栓を開きトイレ中を水浸しにした。
「これで一網打尽よ!」
宣誓するかのごとく声を張り上げて、天音が幻想蝶から取りだした『蛇弓・ユルルングル』を引き絞る。
「あー、そういうことか」
クワベナが納得という表情を見せた。
天音の手から放たれた矢は、雷光をまとって水浸しの床へと突き刺さる。その瞬間、床や壁にいた従魔達がビクリと身体を跳ね上げて動かなくなった。
「へぇ、効くもんだな」
龍哉が感心したようにその光景を眺める。
「でも」とクワベナが天井を指さして言った。
「全部ってわけにはいかないみたいだな」
天井には感電を免れた従魔がびっしりと張りついている。相当な数の虫を仕留めたものの、まだまだ大量に残っているようだ。
やれやれといった表情で、再び従魔の殲滅に足を踏み出そうとした三人を呼び止める声がする。
「残り物の処分はお任せください」
後ろから聞こえてきたその声と同時に、トイレのど真ん中へガルシアの投げる『デスソニック』が放り込まれた。
●食堂
天音は女子トイレ同様に水を撒いて半数近い従魔を感電させると、残った虫達をショットガンで手当たり次第に撃ちまくる。
「トリガー? はっぴぃ?」
一撃放つごとに十体以上の従魔を仕留め、次から次へと黒い骸を量産していた。
その反対側では颯太が床に何本もの剣を突き刺し、次から次へと流れるような動きで逃げ惑う虫を斬り落としている。その姿は軽やかな舞いで見る者を魅了する、熟練の演者を思わせた。
無心に従魔を撃破し続ける天音達とは対照的に、佩芳は虫の習性を計算に入れてクレバーな狩りをしている。
「この手の虫は、危険を察知すると多分この辺に……。あ、居ました居ました」
天音と颯太の攻撃から身を隠した従魔。それを見つけ出し、あぶり出し、確実に網で殲滅していく。
「これで全部片付いたと思いますよ」
虫が隠れそうな場所を余さず確認し、佩芳は食堂内の従魔を完全に排除したと判断する。
「じゃあさっさと次の部屋へいくぞ」
そう促す颯太へ、天音がドアを開け放した状態で固定しながら言う。
「閉めてたら、まだ見てない? ってなるでしょ。虫が残っていればわかるし」
●事務室
教会の鐘を思わせる大音量が廃工場に響きわたる。ガルシアの投擲したデスソニックが事務室内の従魔を蹂躙した。
「女子更衣室は一発で片がついたのですが……」
無念をにじませてつぶやくガルシアの横から、龍哉とクワベナが残る従魔に向けて突入する。
「飛び道具メインだと得意分野とは行かないが、まぁ何とかやってみるか」
龍哉がイグニスの火炎で虫を片っ端から焼き尽くしていく。
その横ではクワベナが身体を回転させながら、華麗な足技で従魔を次々と斬り裂いていった。
●作業場B
「資材置き場で時間を食いすぎたな」
龍哉は天音と共に資材置き場の駆除をすませると、その足で作業場Bへと移動してガルシアと合流した。
「柱や基礎を壊さないようにっと」
縦が長いこの部屋には入口から突き当たりの壁までを遮る物が何も無い。
これ幸いとばかりに天音がとっておきの『フリーガーファウストG3』を持ち出してトリガーを引く。ライヴスを変換した弾が、肩に担いだ多連装ロケット砲から連続して打ち出された。
部屋の中央へ着弾したライヴスが周囲一体を巻き込んで爆発を起こす。建物全体が嫌な音を立ててきしみ、すさまじい爆風による圧力が部屋中を駆け巡る。
「うわぁ、効き目抜群ね」
舞い上がる埃が晴れた後に広がった光景。それは従魔どころか、取り残されていた機械設備すら跡形も無いという惨状だった。
●工場長室
「ソファーみたいな物がある場所は、虫にとっても居心地が良いと思うんですよね。寒さもしのげますし、隠れる場所にもなりますから」
応接間と休憩室の掃討を終えた佩芳は、同行するクワベナと颯太に虫の研究者として、そしてゴキブリ英雄の意見を踏まえた上でそう解説する。
「まあ、広い場所は他のメンバーに任せて、俺たちは小部屋をしっかりと掃討していこうぜ。男子更衣室はもう終わったんだろ?」
クワベナがとなりを歩く颯太に問いかける。
「ああ。休憩室へ行く前に終わらせてきたぞ。時間はかかったけどな」
「そりゃあ、一体ずつ斬ってるからだ」
クワベナの指摘にも颯太はどこ吹く風だ。
「5000匹いるのなら5000回剣を振るえばいい。俺は戦い方を知らない素人だから、今は誰よりも、剣を振らなけりゃいけないんだ」
自分自身へ言い聞かせるように淡々と言葉を返し、颯太は『ベルラーベンハルバード』を手にすると工場長室へ先頭切って突入していく。
颯太を追って工場長室へ入った二人が目にしたのは、床や壁はおろか窓ガラスまでびっしりと虫で埋まった嫌な風景だった。
「これは骨が折れそうだな……。佩芳は何かとっておきの切り札とか無いのか?」
従魔の多さに面食らったクワベナが佩芳に訊ねる。
「一回きりですけど……、XPボンバーがありますよ」
「それで上等。おーい、颯太! 出来るだけ虫を中央に誘導しろ! 佩芳がまとめて吹っ飛ばすから!」
声には出さず視線だけで了解の意を表すと、颯太は天井や壁に張りついた虫を払い落とし、部屋の真ん中へ追い立てる。
その反対側ではクワベナが『ホイール・オブ・ブレード』の滑走力を利用して、壁ぎわから従魔を蹴散らしていた。自然と残りの従魔は部屋の中央側へと逃げていく。
部屋の真ん中へ過剰な密度で虫の塊が出来たその瞬間、佩芳が切り札のXPボンバーを投げつける。黒い小山へぶつかったXPボンバーはその性能を存分に発揮し、部屋の中にいた大半の従魔を吹き飛ばすことに成功する。
「ケホッ。思ったよりすごい爆風でしたね」
本来このように狭い部屋で使うべき物ではないだろう。爆発の瞬間に部屋の入口へ退避していなければ、三人もダメージを受けていたかもしれない。
「だが残りはもう少ない。さっさと片付けるぞ!」
クワベナのかけ声で三人は再び部屋へ突入し、従魔の殲滅に取りかかった。
●会議室
颯太とクワベナが足を踏み入れると、会議机の周辺に集まっていた虫達がいきなり襲いかかって来た。
「なんだあ? ここの虫はずいぶん好戦的だな」
クワベナが軽快なステップで従魔の奇襲を避ける。
「追いかける必要が無いなら、むしろ都合が良い」
颯太は幻想蝶からありったけの武器を取り出し周囲に突き立てると、そのうちの一本を手にして押し寄せる虫の大群を薙ぎ払う。
クワベナは一時として同じ場所に留まらない。回避と攻撃が一体となった独特の動きで次々と虫を蹴り落としていく。
両手をつき、コンパスの針が回るように蹴りを見舞ったかと思うと、突っ込んで来る従魔を側宙で避ける。
クルクルと回転を基本とした動きでクワベナが部屋の中を飛び回ると、その都度足のブレードが複数の従魔を斬り裂いていった。足を振り抜くその軌跡は、黒い虫の群れに白い傷跡の如く刻まれていく。
それはまるで研ぎ澄まされた刃で作られた凶悪な風車を思わせた。
一方の颯太は蹴りや体当たり、そして獲物の腹を使って部屋の隅に従魔を押し込めることで、駆除の効率化を図る。
「四角い部屋を四角く掃く、掃除の基本!」
従魔の集団へ剣を投げつけると、壁に刺さったその剣を足場にして天井近くまで跳躍し、飛んでいる虫や高所へ張りついたままの虫を斬り払う。
一瞬たりともその動きを止めることなく、流麗な所作で冷静に敵を刈り取り続けた颯太だが、それも永遠に続くわけではない。やがて体力の限界が訪れ、その足が止まってしまった。
「はぁ……はぁ……体力が……限界を……迎えてからが……本番……ふぅ……」
息を整え、目を閉じて精神を集中させる。それはほんの刹那。意を決した颯太はまぶたを上げると、群がってくる虫を『怒涛乱舞』のスキルで迎え撃った。
たちどころに五体の従魔が颯太の剣閃に屈する。
「さあ、第二ラウンドの開始だ!」
再び颯太の剣が舞い始めた。
●作業場C
「これはまた……、多いな」
廃工場の中で最も面積の大きい作業場C。
突入早々に炸裂したのはガルシアのウェポンズレイン。それでも倒しきれない程の従魔が溢れる部屋を見て、龍哉はフリーガーファウストG3を肩に担ぐ。
「ま、こりゃ確かに斬ったり殴ったりじゃキリがねぇな」
先ほど天音が作業場Bで放ったロケット弾の衝撃に廃工場は耐えてみせた。
「もう一度くらい耐えきれるだろ」
龍哉は自身のライヴスを注ぎ込み、全弾頭を部屋の中央に密集した従魔目がけて解き放つ。光の筋にも似たライヴスが着弾すると同時に、虫の群れが吹き飛ぶ。
従魔の色で真っ黒に染まっていた床は、着弾点を中心にしてコンクリートがむき出しになっていた。
「それでもまだあんなに残ってるのかよ」
あきれる程の数にうんざりとした表情を見せたのはほんの一瞬。龍哉はすぐに武器をイグニスへ持ち替えると、一足先に部屋の中へ駆け込んでいった天音とガルシアの後を追いかけ、残敵の掃討に取りかかった。
●殲滅の完了
エージェントの働きにより、廃工場に巣くっていた従魔は二日目を待たずして駆除される。
「おかげで何とか工期が守れそうだ」
ホッと胸をなでおろす現場監督だったが、結局作業開始までにはもう一日を要した。
従魔殲滅後、廃工場の中を掃除させろと譲らないメイドに押し切られ、作業再開を渋々延ばすことになったからだ。
「今から壊すのに、掃除も何もねえだろうに……」
ボヤく現場監督をよそに、掃除へ精を出すガルシアと討ちもらしが無いか確認して回る颯太。
「家に住み着く虫の種類によっては家のゴミや埃を食べる為に来ています。おそらく取り憑いた後も虫としての習性で集まったのでしょう……廃工場と言えどちゃんと掃除し整理整頓すればこのような事態にはならないのです」
そう言って、取り壊し直前の廃工場を掃除して回るメイド姿が印象的だったと、現場作業員達は口をそろえて証言した。
《撃破数ランキング》
1位 3396体 Гарсия-К-Вампир
2位 2728体 赤城 龍哉
3位 2659体 行雲 天音
4位 1239体 胡 佩芳
5位 1135体 クワベナ・バニ
6位 1069体 天宮城 颯太
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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