本部

Deus ex Machina

影絵 企我

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 4~9人
英雄
9人 / 0~9人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/01/15 15:53

掲示板

オープニング

――Deus ex Machina. 器械仕掛けの神。元は収拾の付かない脚本を強引に終結させるために用いられた、大団円強制発生装置。作劇における奥の手である。だが皮肉にも、機械が生まれた今の世において、デウスエクスマキナは機械仕掛けの神という、一つの強烈な概念として再び現れた。アレは、広義にはこれには含まれないであろう。機械仕掛けだろうが何だろうが、アレは愚神だからである。しかし彼を信じる者にとっては、この世に大団円をもたらしてくれる神としか見えなかったに違いない――(M.S.のメモより)

●機械への神化
――過去――
「……今まさに、新世界秩序を実現する時が来ました。旧き神が与えた人類への頸木、死と争いを捨て去り、全て一致団結して神に対峙する時が来たのです」
 一段高いところに立った青年が、白装束に身を包む人々に囲まれながら朗々と言い放つ。彼は両腕を広げ、アジトの天井を仰ぐ。
「お見せしましょう。我々が持つ新たなる可能性を」
 その瞬間、青年の肉体は弾け飛び散り、中から血にまみれた一体の操り人形が現れた。バイザーに浮かぶ緑色の眼。それを以て、それは唖然として自らの事を見上げる人々に向かって言い放つ。
「私がマキナ。旧き世界の秩序を滅ぼし、新たなる世界の礎となるべき者。皆は幸いです。もうじき、愚神も、従魔も、ヴィランズも、能力者も無能力者も、全ての括りが無意味となる。全ては世界を織り成す一つの歯車となり、この世に完全なる秩序をもたらすのです。そう、私も、皆さんも、マキナという一個となる」
 機械の身体へと転生した――無論実際には愚神マキナが乗っ取っていた青年の個体を捨て去っただけなのだが――青年を見上げ、人々は歓喜の声を上げる。無数の危機に襲われ、不安の中気息奄々で暮らす彼らにとって、マキナがまさに新たな秩序をもたらす存在なのだ。
「皆で一個の機械となるのです。機械は間違いを犯さない。完全です。美しい秩序をもたらしてくれる。一秒ごとにどこかで殺戮の起こる世界は終わりを告げます――」

――現在――
「――そう。ですから、無数の個など必要ない。共に参りましょう……」
 マキナ自身も、何かに憑りつかれたかのように呟く。彼をぐるりと取り囲む、拳銃を握りしめた五人の精鋭。志願の下、未だ理論の確立していない、身体50%以上の機械化を目指したフェーズβへと臨んだ者達の末路だ。皆全てフリークスとなり、ただ動き続ける死体となって立っている。さらにそれをぐるりと取り囲む四十人の機械のものども。必ずや旧き『希望』が絶望を与えにやってくる。七つ首の竜のように。その七つ首の獣を滅ぼすことで、自分は真の希望となるのだ。希望となって何をする? もちろん旧き神の楔を破壊し今ある世界を破壊するのだ。それがマキナに与えられた、愚神としての召命であるからだ。
「はあああっ!」
 聞こえてきた。旧き希望の猛りが。従僕は密集陣形を組み、盾を構えてのしのしと光差すドームの入り口に向かって行進を始める。それと同時にドームの中へと転げ落とされてくる、右腕を破壊された信者達。その後から現れる、紺の軍服に身を包んだ長身の剣士。その外套に縫いこまれた、澪標水丸紋。澪河青藍だ。
「行くぞ!」
 跳び上がった青藍は従僕の群れに突っ込み、一気に一人の右腕を切り落とした。侵入者へと迫っていく従僕。一人が右腕から伸びた鋼鉄の鉤爪を振り下ろすと、青藍は別の個体の右腕を掴んで引っ張り、盾代わりにしてその一撃を受け止める。返す刃で今しがた攻撃してきた個体の右腕を切って捨てた。そのままの勢いで目の前の一体に突っ込んで当身、よろめいたところでその右腕に刀を突き刺す。
「……やはり、忌々しい希望だ」
 マキナはぽつりと呟くと、銃を構えて引き金を引く。青藍へ向かって一直線に飛んでくる弾丸。彼女は真っ直ぐに刀を振り下ろして銃弾を叩き割った。
「私の方こそ、あんたみたいのは忌々しいと思ってますよ! だから、ここであんたには消えてもらう!」
 刀の切っ先を向け、ありったけの力で顔を歪めて叫ぶと、一気に身を翻して近づく二体の従僕を一息に蹴り飛ばした。従魔が態勢を整えられずにいるうちに、新たなエージェント達が続々と乗り込んでくる。
「さあ、行きましょう!」

 人心を誑かす愚神、マキナとの決戦が始まった。

解説

メイン:マキナを討伐する

登場敵
ケントゥリオ級愚神『マキナ』
歯車が組み合わさった操り人形の形をした愚神。マキナ教団を組織し、宗教的行為により構成員の射幸心を煽る事で彼らの持つライヴスを活性化、そのライヴスを吸収する事で勢力を増した。ここで止めを刺せ。

ステータス
物攻A 物防S 生命A 命中B その他E
スキル
左腕:八面の盾
盾が目にも止まらぬ速さで飛び交い、魔法攻撃を完全に防御する。
右腕:六臂の魔弾
狙った敵を果てまで追い詰める弾丸。通常カバーリング不能。
顔:開幕の宣告
従僕のライヴスを刺激して1Rステータスをデクリオ級にする。
吊り糸
従魔を意のままに操るライヴスの波動。破壊すると従僕は1R行動不能になる。
コア:終劇の雷光
二か所以上部位破壊されたラウンドの最後に使用。地を這う雷で全体(敵味方判別可能)に30の固定ダメージを与え、その後コアが露出する。コア露出時は物防がE相当に下がる。

デクリオ級従魔『フリークスβ』×5
フリークスから接収した技術を用いてさらに改造が進められた信者の成れの果て。改造は全身に及んでおり、倒した時点で機能が停止するため彼らを救う事は不可能。
ステータス
物攻B、命中A、その他C-D
スキル
C.A.Rシステム
三人へ同時遠隔攻撃。銃を奪い取る事で無効化できる。
CQC
一人へ近接攻撃。

ミーレス級従魔『マキナの従僕』×30
右腕を殴ればとりあえず倒せるし救える。わらわら迫ってくる。戦力にはなってない。
『彼らを蹴散らす』行動を誰も取らない場合、全員の移動力は-3される。

Tips
マキナの部位破壊について
顔、腕、関節、吊り糸を破壊可能。対応するスキルを封じる。ただし2ターン後のクリンナップフェーズには修復する。

フィールド
地下、半径20スクエアほどのドーム状の空間。とりあえず自由に動き回れる。

澪河青藍(ブレ45/30)
未指示状態では従僕を『蹴散らす』。他の局面に当たらせることも出来る。

リプレイ

●火蓋を切る
「時よ止まれ。汝はいかにも美しい」
『(メフィストフェレスなんか来ないでしょ?)』
「ふふ、わらわに都合のいい終局へ至らせる為の意気込みじゃ」

 青藍の後を追い、一番乗りで飛び込んで来たのはカグヤ・アトラクア(aa0535)。蜘蛛柄の鎧を歪に輝かせながら宙に舞い、素早くマキナの眼前に陣取る。
『(再生怪人はちょっと弱いって約束だよねー)』
「派手にゆかせてもらうかのう!」
 クー・ナンナ(aa0535hero001)が呟くなり、カグヤはいきなり黒い翼を広げる。カチューシャだ。目の前の従僕を捻じ伏せながら振り返った青藍は、一気に青くなる。
「カグヤさん、ちょっ、それ……うわっ!」
 飛び出すロケット弾。慌ててその場に伏せた彼女の上を通り越し、マキナとその脇を固めるフリークスに向かって殺到した。ドームの分厚い壁を揺らす爆音が響き、赤橙色の光が彼らを包み込む。目を白黒させていた青藍だったが、さらにもう一人翼を広げたヤツを見つけて再びばっと身を伏せた。
「(今回はトイレどこなんて聞いても仕方ないでありますね)」
『(いくでがんすぅ)』
 美空(aa4136)とひばり(aa4136hero001)も、今回は真面目に戦う構え。カグヤの隣で迷わずカチューシャ第二陣をぶっ放した。
『(さ、行きましょうか)』
「畳みかけます!」
 四聖獣の力を纏い、麒麟の魂を身に宿す巫女、零月 蕾菜(aa0058)は、十三月 風架(aa0058hero001)の言葉に合わせて杖を振るう。杖の先が薄く輝き、霊魂を模したライヴスが舞い、乱れ飛ぶロケット弾を包み込みながらドームの中心へと突っ込んでいく。ノイズにも似た呻き声が弾ける煙の彼方から響いた。
「ひぇぇ……」
 足元でするか細い声。蕾菜が見れば、尻餅ついたような姿勢のままで青藍はマキナが煙を燻らせる様子を見つめていた。蕾菜は溜め息をつくと、杖を青藍の鼻先に突き付ける。
「いいですか。私達の消耗を避けようとしたのかもしれませんが、あなたに消耗されたら元も子もないんです。それは分かってくださいね」
「……はい」
 青藍はしゅんとして頷くしかなかった。

「(……随分と張り切っていたのに、あの子……)」
『(やめてやれ。……さて、我々のすべきことはわかっているか。必要とあらば説明する)』
「(要らないわ。味方が展開するまで従魔を足止めしろって事でしょう? そして取り巻きを排除したら、本命に集中砲火)」
『(肯定だ。分かっているならいい)』
「はいはい。それじゃあ――」
 鬼灯 佐千子(aa2526)とリタ(aa2526hero001)がやり取りを交わしている間に、爆炎が霊界の風に吹き散らされ、再びマキナの姿が露わになる。光差すドームの天井から降りる、そのライヴスの糸も。壁を背にして構えた深紅の髪のサイボーグはガンセイバーを構え、その糸に向かって狙いを定める。
「始めるわよ」
 刹那、一条の刃が空を切り裂き飛んでいく。マキナは盾を構えてその刃を受けようとするも、刃はその頭上を高く越え、ライヴスの糸を一本すっぱりと切り裂いた。マキナと従僕の繋がりが薄れ、従僕は震えてその足を僅かに止める。

「この件はここで終わりにしたいね」
『(ダンスも同じ相手とばかり踊っていては飽きてしまうのです)』

「こっちを見るんだ! マキナ!」
 従僕の隙間を縫って、ローブを纏いストラを棚引かせた青年が駆け抜ける。そのままマキナに向かっていく桜小路 國光(aa4046)は、双剣を抜き放ってマキナに向かって挑戦的に刃を振るう。その度にライヴスが舞い、マキナはその赤い瞳を國光へと向ける。
「桜小路國光……汝を私は知っている。幾度と無く、我らの前に立ち塞がった者がいると記憶している者がいました。即ち貴方は神の敵。一切の慈悲なく、私は汝を討ち果たしましょう」
 マキナはマスケットを構えて引き金を引く。至近距離で放たれた弾丸は身を躱す間もなく國光に叩き込まれる。紙一重、ポリュデウケスの腹でそれをどうにか受け止めたメテオバイザー(aa4046hero001)は、刃を返して切っ先を向けた。
『望むところなのです』

「あいつじゃなければ」
『興味はないな』

 アリス(aa1651) とAlice(aa1651hero001)。触れ合う二人は陽炎のように朧げに交ざり合い、一つとなった。彼女達は護符の挟まった一冊の物々しい魔導書を取り出し、小さな手のひらをマキナへと向ける。
「燃えて」
 刹那、燃え盛る火の玉が飛んでいく。マキナは左手の盾を構えるが、炎はその盾をすり抜け、マキナから伸びる一本の糸を焼き切った。従僕の動きはさらに鈍る。

『(行くか。機械に管理されるなんざ、まっぴらごめんだ)』
「幸福を市民の義務にでもされたら、堪らないからね」
 九字原 昂(aa0919)はソニックベルジを構え、フリークスに向かって突っ込んだ。反応したフリークスが、拳銃を構えて昴に向かって撃ちかける。昴は頭を庇うようにしながら、さらに間合いを詰めていく。
『(まだだ。もう少し粘れ)』
 ベルフ(aa0919hero001)のアドバイスが脳裏に響いた。

「機械が人間を支配する……? 許されん。私は貴様らを抹殺する!」
『(さあ見せてもらうぞ。いかにして戦うかを……)』

 炎のオーラを纏い、紅の髪を振り乱した黛 香月(aa0790)が突っ込む。清姫(aa0790hero002)の冷徹さも合わせて、彼女は今や愚神を攻め滅ぼす殺戮機械そのものだ。大太刀を肩に担ぎ、一体のフリークスに向かって一気に斬りかかる。気付いたフリークスは、両腕を突き出しその一撃をどうにか受け止めた。怒りと憎しみに満ちたその一閃は、フリークスをそのまま圧し斬りそうな勢いだが、フリークスは全身の力でそれを凌ぐ。

『(それ、今だ)』

 ベルフの言葉に合わせ、昴はフリークスの脇腹目掛けてその手を走らせる。香月に押されるフリークスはその動きを見られない。すんなりと脇をすり抜けた昴の手には、フリークスの拳銃が握りしめられていた。
「……まずは、一つですね」
 拳銃は宙に放られ、ソニックベルジにすっぱりと切り裂かれた。

「おうおう。派手にやっとるわ。……自分、達は後方支援で、いこか」
『(びびっとるんか。……ま、うちもアレはキモくてしゃーないな)』
 仲間達の戦いを眺めながら、小野寺 晴久(aa4768)と芦屋 璃凛(aa4768hero001)は群がる従僕と対峙する。新米の彼らにとっては、それも大仕事だった。

●命の在処
「四肢を、脊柱を機械に置き換えながら、それでも貴方は旧き希望と共にある。何故……」
 マキナは哀れみを込めて呟き、マスケットを佐千子へと向ける。しかし、そんな言葉に心が揺らぐことも無く、佐千子はガトリングに取り付けた盾で弾丸を身じろぎさえせずに受け切った。鎮座するマキナを深紅の瞳で一瞥した彼女は、冷静に照準をフリークスへ向ける。
「何故。……私は“私”。戦う理由なんて、それだけで十分よ」
 引き金を目一杯絞る。回る銃身、爆ぜるマズルフラッシュ。マキナを守るように固まる三体のフリークスに向かって次々弾丸を撃ち込んでいく。自らの心どころか、命さえも失った操り人形。そうなるつもりは毛頭ない。

「機械が人間を支配するなど有り得ん! 所詮機械は作り物。人間の手の内にあり、逆らえば人間の手で破壊されるが必定!」
 香月は武器を小銃に持ち替え、目の前のフリークスに向かって撃ち込む。自らの生を歪められた怨念をも込めて。“それ”はその勢いを止め切れず、思わずその姿勢を崩した。その苛烈な一撃を見つめながら、カグヤは悩ましげに肩を竦める。
「ふむ……わらわとしてはちと物申したいが、その勢いに免じて黙っておくとするかのう」
『(やめときなやめときなー。ろくなことないもん)』
「とまれ、奴らは止めてやらんとな」
 カグヤは幻想蝶に手を当て、細長い玻璃の針を次々に作り出す。それらはまるで蜘蛛が蠢くような怪しい音を立てながら、香月を狙う一体のフリークスへ狙いを定める。
「死は死へと帰るのじゃ」
 次々と玻璃に責められるフリークスは、金切り声のようなノイズを上げる。頭も抱え、その場に足を止めてしまった。そこへ昴がするりと近寄る。
「止めです!」
 魔法の刃で鋭くフリークスの喉元を掻っ切る。オイルと鮮血を同時に噴き出したそれは、呻きながら、静かにその場へ崩れ落ちた。手応えを確かめるように拳を何度も握り直し、昴はベルフに語りかける。
「(やりました)」
『(ああ。その調子だ)』

「憎しみに心囚われる者は哀れです。だが救いましょう。我らが……」
マキナは香月を見下ろし、周囲の従僕に向かって語り掛ける。途端、目をぎらつかせた従僕どもは共鳴したかの如く吼え始め、全身をさらに禍々しく刺々しい姿へと変え、フリークスに大太刀で斬りかかろうとする香月に向かっていこうとする。
『(来ておるぞ、香月)』
「く……!」

「させない」

 國光はマキナの腕を蹴って跳び上がる。フリークスはそんな國光に狙いを定めたが、透明な盾を広げた美空が飛び出し追撃から庇う。そのままマキナから伸びる最後の糸は断たれ、香月に迫った従魔はびくりと跳ねてその動きを止める。ふわりと宙を舞い、國光は柔らかく床へ降り立った。
『(上手く行ったのです)』
「(ああ、まだまだここからだ)」

「おう兄ちゃん! こいつは助かったわ!」
 晴久は動きを止めた従僕に向かって魔導の一撃を放って右腕を破壊、倒れ込んだ信者に駆け寄りせっせこ義肢を取り外しにかかる。
『(そこまでする必要あるんかいな)』
「(ある。いきなり起きて動き出してみぃ、最悪やろ)」

『(よし今だ、香月よ)』
「全員下がれ! まとめて私が片づける!」
 香月は高く跳び上がると、寄り集まって立つフリークスの頭上に大量の刃を呼び出す。フリークスは銃を構えて次々香月に弾丸を撃ち込むが、彼女はそんなもの意にも介さず、大太刀をぶんと振り薙いだ。
「終わりだ!」
 刃の嵐が降り注ぐ。今までの猛攻で消耗しきっていたフリークス軍団は、激しい一撃に堪えきれず、次々に装備を刃で引き剥された。オイルと血が溢れ、フリークスはただの肉と鉄の塊になっていく。
「……!?」
 最後まで攻撃を凌いだ、一際背の高い個体も、やがてノイズまみれの悲鳴を上げて、その場にどさりと崩れ落ちた。後には、人であった事しかわからないようなガラクタと肉塊だけが残っていた。地面に降り立った香月は、大太刀の切っ先をマキナの顔面へ向ける。
「これでフリークスは殲滅……今度は貴様だ、マキナ」
『神の名を借りれば何でもできると思い上がっておるようだな。身の程を弁えよ。その愚かさを地獄の底で後悔するがよい!』
 マキナは動じるでもなく、その言葉をただただ受け止める。憐憫に満ちた邪悪な機械の眼を輝かせ、左手の拳を固める。
「神の名を借りれば何でもできると思う……そんな事はありません。何でもせねばならないために、神となるのです。最後の審判に至るべく、全てを救済するために……」

●歯車の輪舞
「全てを纏めて統率する。それでもし世界が平和になったとして、その先は一体何が待っているっていうんだ?」
 國光は関節を掠るように双剣を躍らせ、マキナに向かって挑むように尋ねる。マキナは銃を握りしめ、天を仰いで唸る。
「終わる時を待つのです。世界は有限。すぐそこに果ては迫っている。その最期は平穏無事に迎えられなければならない。故に私は旧き神の支配を打ち砕き、この世の終わりの先触れとなってこの世に平穏をもたらすのです」
 淡々と応えたマキナは、マスケットを國光の眼前へと突き付けた。深紅の目が、僅かにぎらつく。
「そのためには、旧き神が撒き散らした争いの種が根付く心など、肉体など不要!」
 國光は咄嗟に銃の上へと跳び上がり、銃口を押さえつける。しかし銀の弾丸は飛び、國光の背中にぶち当たった。
『(サクラコ!)』
「……問題ないよ、この程度なら。それに――」

『(さあ、一気に片づけてしまおう)』
「はい。そうしましょう」
 蕾菜の杖の先から奔る不浄の風。吹き寄せる幽霊は暴れる従僕どもの右腕に絡みつき、従魔を責めたてる。堪らず従魔は煙となってふわりと飛び出すが、するすると追いすがられてそのまま飲み込まれてしまった。従魔の支配から解き放たれた信者達は、そのままふらりとよろめきその場に崩れ落ちた。それを見届け、國光は口端に僅かな笑みを浮かべる。

「従僕の方は終わったみたいだ」

『(取り巻きの排除は完了した。一気呵成に攻めるぞ)』
「ええ……!」
 腕の傷に霊符を当てつつ、佐千子はガトリングをマキナの左腕へと向けた。同時に青藍と蕾菜が攻め寄せる。青藍は右腕の関節に向かって刃を振るい、蕾菜はそれを飛び越えマキナの懐へと潜り込む。マキナのコア近くに向かって杖を突き付け、静かに尋ねる。
「この距離、盾で防げますか?」
「……」
 マキナは答えず、左腕の盾は光を放つ。しかしその瞬間、佐千子の放った弾丸がマキナの関節へ嵐のように襲い掛かった。弾丸はライヴスの糸をずたずたに千切り、歯車を弾けさせ、そのまま左腕を千切り落とした。銃身から立ち昇る煙の隙から、佐千子の鋭い眼光が光る。
「これで万に一つも防げないわね」
「哀れな……」
 呟いた瞬間、蕾菜の放った禍々しい闇がマキナの胸に直撃する。その鎧に僅かな罅が入り、マキナはぐらりと仰け反った。態勢を整えようとしたところをついて、アリス達が正面に陣取る。
「あなたはここで終わり」
 魔導書に挟んだ護符を外し、アリスはマキナの顔面に向かって燃え盛る蒼炎を叩き込む。激しい熱を伴って炸裂した火炎は、マキナのバイザーを叩き割った。基盤やカメラ、配線が剥き出しになったおぞましい状態となり、灼けたスピーカーからざらざらと声を発する。
「審判、審判、審判! 審判の時はすぐそこに、終劇の時はすぐそこに来ている! なぜそれが分からない! 全ての終わりが近づく時に、個と個の垣根に価値などありはしない! 神に赦されるべき絶対の安寧こそが必要なのだ! それが分からぬ汝等は邪魔だ!」
 マキナの装甲が震え、全身から稲光が走る。全てに幕を下ろす裁きの雷が、エージェント達に向かって放たれようとする。それを見た美空は、盾を持ち直して一気に駆け出した。桃色の髪が、ふわりと靡く。
「みんな、美空の後ろに下がるであります!」
「消えていただきます」
 マキナの全身から雷光が放たれる。それはドームの床を砕きながら、エージェントへ向かって襲い掛かった――

●審判の下る時
 放たれた雷光を至近距離で受けた美空は、装いのあちこちを焦がしながら、もんどり打って床を転がっていく。盾も手を離れ、力なく鉄の床を滑った。晴久は慌てて美空の元へと駆け寄る。
「美空さん、大丈夫か」
「た、立って……動くくらいは出来るンゴ……」
 何とか上体を起こした美空は、目の前に立つ、ボロボロの機械神を見上げる。それは銃を握りしめ、全身に電気を走らせながらうなだれていた。
「ならもう戦えんやんか」
「大丈夫、であります。とどめは、皆がさしてくれるであります」
 その胸のコアが、排熱のために露出する。そこに向かって真っ先に襲い掛かったのはカグヤだった。

「そなたは、物ではないとかつて言ったな。それでは機械にも神にもなれぬよ」
『(こいつはいたいぞー)』
 激しく火花を散らすチェーンソーを手に取り、うっすらと感傷を込めたカグヤはマキナに向かって突っ込んでいく。美空の盾からわざと外れたカグヤは、雷撃をもろに浴びていたが、それでもその足取りは確かだ。
「それでも、ならねばならない……私は、我らは、神に……!」
「雷程度で止まらぬ歯車を味わうといい」
 コアに向かって叩き込まれるチェーンソーの一撃。深紅の結晶が激しく削られ、マキナは銃を取り落としそうになりながら呻く。
「……待ってたよ」
「滅びるのはそっち」
 ジェットブーツの噴射でふわりと降り立ち、アリスは再びマキナに炎を放つ。コアを取り巻くパーツが、熱でみるみると歪んでいった。
「ぐ、ぬぅ……希望、希望は……」
「あんたは確かにこいつらの希望だったかもしれない。……でも、私は拒絶する。それだけの事よ」
 佐千子は照準をマキナのコアへと合わせ、引き金を引く。弾丸が次々にコアへ突き刺さり、マキナはついに耐えかねその場に崩れる。それでもマスケットを握りしめ、アリスに向かって銀の弾丸を撃ち込む。しかし、そこへ青藍が目にも止まらぬ速さで割り込み、弾丸を紙一重で受け切った。
「させません!」

「消えろ。貴様らのような存在は、消えなければならない!」
 香月は叫び、大太刀を構えてマキナのコアに斬りかかる。その刃は鈍い光を放ち、コアと鎧を結ぶ歯車を一枚断ち切った。マキナは呻き、割れかかったコアを右手で押さえる。しかし、そのために懐へ潜り込んでいた昴の姿に気付かない。

『(人の形をとる以上、逃れ得ない死角は必ず在る)』
「それが、ここです!」

 抱え込もうとしていた右腕の関節に、昴のソニックベルジが食い込む。めりめりと音を立て、関節は砕かれ脆くも右腕は落ちる。完全な無防備となったマキナに、蕾菜はさらに追い打ちを掛ける。無数に蒼色の蝶が舞い、鱗粉のように輝くライヴスがマキナを苦悶のうちに縛り付けていく。
「……救いが、救いがなくては……全てが、終わりを告げる前に……! なのに、何故お前達はそれを拒む……?」

『決まっています。人間は弱い……一人では生きていけません。でも一人一人が、意志を持って生きているのです。それを蔑ろにする救いなんて、認めるわけにはいかないのです!』
 メテオが國光の口を借りて叫ぶ。國光は黙り込んだまま、双剣を固く握り直した。ライヴスが刃に宿り、うっすらと光を放つ。マキナはただ、それを眺める外に無かった。

 一直線に、コアに向かって駆け抜ける。身を躍らせて放った鋭い横薙ぎが、コアをさっと叩き割った。



「……終わる。……この……、すぐに。……が、私は……今、終わる。救済も為せずに……」
 鎧が砕け散り、首だけとなったマキナは、ぼんやりと光差す天井を見つめたまま、ぽつりと呟く。ひしゃげたスピーカーからは、掠れた言葉しか出て来ない。それを見下ろし、普段の曰くありげな笑みも潜めてカグヤは呟く。
「行動と結果がどうあれ、人を救わんと願うその意志は愛おしい。そなたの心はわらわが受け継ごう。わらわもまた人類の救済を望む者。愚神として、機械を統べる者として、共に歩む仲間として迎えたかったのは本心なのじゃよ……」
 返す言葉はない。既にマキナは壊れ、後には顔を形作っていたパーツだけが残されていた。それを一瞥し、カグヤはぽつりと付け足す。
「まあ、既に堕ちていた以上は許されぬことじゃろうがな」
 そっと屈みこみ、カグヤはパーツを為していた一枚の歯車を手に取る。

 天井から差し込む光を受け、歯車は儚げな光を放っていた。

●神は死んだ
『サチコ、残った信者達が暴走する可能性がある。それに、このドロップゾーンを狙った他の愚神勢力やヴィランズの横槍が考えられるな』
「――全く。戦いは終わったのに、手間をかけさせてくれるわね」
『我々には余力がある。外で見張っている方がいいだろう』
「そうね」
 中央に集められていく信者の様子を一通り眺め、佐千子とリタは素早く動き出す。それを追いかけ、ふらふらと美空がついて行こうとする。
「せんぱいー、美空も行くであります……」
「いや、無理でしょ……大人しく回復に専念してなさい」
「むにに……」
『あきらメロン、美空さん』

「くふふ! データは取れたし、ますます実験がはかどるのぅ!」
 カグヤは晴れ晴れと、からっとした声で快哉を上げる。感傷に浸る時間は終わり。狂気のマッドサイエンティストに立ち止まっている時間などありはしないのだ。一刻も早く人類救済の理論を完成させなければならない。
「いつかわらわの技術によって、全ての生きとし生けるものを救わなければのう! ここにいる者、皆じゃ!」
 カグヤはドームに響くくらい大きな声で話し続ける。そんな相方の姿に、思わずクーは呆れて溜め息をつく。その視線の先には、目をぎらつかせる香月の姿があった。
『カグヤ……わざとやってるでしょ……』
「んー? 何の話じゃ?」
 カグヤはそう言ってすっとぼける。本心は常に深淵に置き、見せもすれば隠しもする。蜘蛛のように。
「(黛香月よ。おぬしも救ってやれればいいんじゃがのう……)」

「あの女……気に入らんな」
 機械がどうのこうのにどうしても敏感な香月は、道化に振る舞うカグヤを見据えて低く唸る。喧嘩を吹っ掛けるつもりも無いが。その横で、清姫は雷撃を受けてなお執念深く襲い掛かったカグヤの姿を思い起こしながら、満足げに呟いた。
『よいではないか、皆々、素晴らしき戦いぶりであった。まだまだ学ぶべきことは多くあるようだな』
「……ああ。まだまだ戦いは終わらんからな」
 清姫の言葉に応じつつ、香月は煙草に火を点ける。いつかは無事生きられる人間へと戻る。こんな、機械の身体などまっぴらごめん。彼女は改めて、戦い続ける決意を固めるのだった。

「……はい、ええ、ええ。なので、一応増援の方をお願いします……」
 昴は本部への連絡を終え、通信機をしまう。任務完了と、呆けた信者達の回収を依頼していたのだ。ベルフは彼の横で紫煙を燻らせ、天井を見上げる。
『大分、戦い方が身についてきたな』
「ありがとう。……まだまだ強くなるよ」
『よしよし。じゃあ、今夜は何かいいもん作ってくれ』
「……はは。わかったよ」

「そうだ。もうすぐ夜になるんですね……私も何か作らないと」
『うーん……遠慮しようかなぁ……』
 昴達のやり取りを横で聞き、蕾菜もまた思い出したかのように呟く。風架は困ったように肩を竦め、唇を噛んで首を振る。
「どうしてです風架さん? 大きな仕事も終わりましたし、腕によりをかけて作ろうかと思ったのですが……」
『え。……余計遠慮したいかなぁ……もんじゃ焼きとかならまだいいけど……そうです。とりあえず信者の人達の様子を見に行きましょうか……』
「え、え……何だかはぐらかされたような気が……」
 風架は何度も頷き、ふらりと信者の方へと歩いていく。蕾菜はその後を慌てて追いかけるしかなかった。

「アリス。あいつへの手がかりはなかったね」
『そんなものよ。でも戦いを続ければ、きっとあいつに巡り合うわ』
「そうね。その時には、きっと……」
 鏡合わせ、赤と黒のアリスは、共に並び立ち想いを馳せる。記憶の中に燃える暗い炎。その果てに待つ『あいつ』に決着をつけるために。

「いやあ、全く全く。アイツこんなけったいなもんとたたかっとったんか? おおこわ」
 一仕事終えたおっさん晴久、疲れたように溜め息をつく。その様子を横で一瞥する璃凛は呆れたように溜め息をついた。
『結局最後の方は戦っとらんかったくせになぁ』
 晴久は肩をびくりと震わせ、目を泳がせながら慌てて取り繕う。
「うぐ。で、でもあのチビをサポートするっちゅう役目が降ってきたしな、それで……」
『まあでも、途中で逃げ出すと思っとったし、それよりはましやったわ』
「はっ。そこまであほんだらやないで。子供らにも示しがつかんやろ。ははははは」
 渇いた笑い、晴久はつかつかと歩き出す。その先には、呆けたような顔でうずくまる信者達の姿がいた。その眼は、一様に死んでいる。
「おい、あんたがた」
「……神は死んだ。神は死んだ……」
 呼びかけてみても、まるで晴久が其処にはいないかのように呟き続ける。溜め息をつくと、それでも晴久は静かに続けた。
「恨むんなら恨んでくれてええんです。自分は、おとんもかっこええ、って子供らに思ってほしいからやっただけなんで。……ただ、ただですよ。考える機会ですから、どうするか、考えて欲しいですな」
「……」
 ぼんやりと信者達は晴久を見上げる。その眼には、未だ何をも映せていなかった。

「桜小路さん、桜小路さん?」
「……」
『澪河さんが呼んでいるのですよ。何を考えているのですか、サクラコ』
 國光はドームの壁にもたれ掛かり、しばし沈思黙考していた。青藍がやってきても、メテオが呼んでも、気付かずにいた。青藍は目を瞬かせ、やや強めに再び呼びかける。
「サクラコさん?」
「へ? ああ、澪河さんか。どうしたんです」
「い、いえ……何だか考え込んでいるようですから」
『どうしたのですか?』
 青藍とメテオが次々顔を覗き込む。國光は少し肩を竦め、柔らかい笑みを浮かべて答えた。
「……ああ。最初に愚神として出会った、あの研究者の事を思い出しててね」
「あの人、ですか……」
「あの研究者は、結局運がなかっただけなんだ。友達のために、技術を求めただけなのに。その友達という人も、今どこで、何をしているのか……色々考えちゃってさ」
 愚神ドラキュラ。やたらとそれが友人に拘ったのは、憑りついた研究者が宿していた友情に感化されていたのかもしれない。國光は天井を仰ぎ、小さく頷くのだった。
「オレがどうこうしたいって気はないけど……『誰かの為に』って気持ちは、少しわかる気がするんだ」



 かくして、ドラキュラ事件に端を発した『マキナ教団事件』は幕を下ろした。後の調査で、警察の一部までも信者として加わり、フリークスの遺体の回収などに加担した事件であることが発覚した。信者達は精神病棟にひとまず入れられ、ケアは今なお続いている。しかし、ケアが完了したところで、奪われた右腕はもう帰ってこない。救いを求めた結果、一生救いの得られぬ烙印を受けて彼らは生きていかなければならない。

 だが、日々命を懸けるリンカー達も結局は同じことだ。彼らもまた。彼らを押し潰そうとする運命に抗い、戦い続けなければならないのである……私も、きっと。
(M.S.のメモより)

 The Order of Machina 完

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 反抗する音色
    清姫aa0790hero002
    英雄|24才|女性|カオ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 反抗する音色
    ひばりaa4136hero001
    英雄|10才|女性|バト
  • 己に拠って立つ
    小野寺 晴久aa4768
    機械|34才|男性|防御
  • 天儀の英雄
    芦屋 璃凛aa4768hero001
    英雄|23才|女性|ソフィ
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