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【初夢】あるいはもう一つの世界
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もう一つの世界
最終発言2017/01/04 01:42:45 -
質問卓
最終発言2017/01/04 15:49:40 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/01/07 15:25:19
オープニング
この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。
●
心臓の音がうるさかった。
ドクドクと、ばくばくと、激しく胸を叩いている。身体を生かすための臓器である筈なのに、このまま胸を突き破ってしまうのではと思う程。いっそ、ここで死ねたら楽だろう。そうすれば逃げ回る必要はない。けれど、それをするには、あまりにも人の声がうるさい。
「何処に生きやがった化け物がっ!」
「こっちを探せ!」
「絶対逃がすんじゃねえ!」
「武器から手を離すなよ」
「見つけたら取り囲んで徹底的に殺すんだ!」
化け物じゃない。何度訴えた事だろう。同じ人間だ。その訴えを、何度叩き潰された事だろう。「英雄」と呼ばれる存在がこの世界に辿り着いてから、彼らと共鳴出来る人間、「リンカー」達はこう呼ばれた。
化け物。
災厄。
悪魔。
禍。
滅ぼすべき、異端の者。
体に張り付く宝石が存在を主張する。何度捨てても必ず戻り、決して壊れる事のない石。英雄の住処、幻想蝶。この中に住まう英雄と共鳴すれば、常人では手に入らない異質の力が手に入る。
人より速く走る事も。
人より高く跳ぶ事も。
きっとここから逃げ出す事も。
人を、殺す事さえも。
「いたぞ、こっちだ!」
人間達の声に追われ、リンカーは走る。走る。走る。心臓の痛みは限界をとうに超えている。足がいつまで逃亡劇に付き合ってくれるか分からない。
それでも、走る。走る。逃げる。駆ける。逃げる。生きる。憎まれ、追われ続けて。それでも、
逃げ続けた先に、希望なんて、存在しないと知りながら。
解説
●状況
・このシナリオは「夢の中の話」になります
・夢の中でPCは人間達に追われ路地裏を逃げ回っています
・どれだけ走っても路地裏を抜け出す事は出来ません
・夢を見ている間は夢だと気付く事は出来ません
・人間達はリンカーを恐れ鉄パイプや銃や松明を手にPCを追い掛け回しています
・何か騒ぎを起こせば人間が集まり、たくさんの武器でPCを攻撃するでしょう
・PCは幻想蝶を身につけており、幻想蝶から英雄を召喚、共鳴する事が出来ます
・幻想蝶を捨てる事は出来ませんし、英雄との契約を解除する事も出来ません
・共鳴した後の能力は「現実」と同じです
・リンカーではないと言い張る事は可能ですが、人間達がそれを聞いてくれるとは限りません
・夢の中で何を思い、どう行動したとしても、全て夢の中の出来事です
●その他
・「現実」の設定(性格・人間関係等)を夢の中に反映しない/夢独自の設定を作りたい場合はプレイングにご記入下さい(特に記入がない場合は「現実」の基礎設定等を参考にさせて頂きます)
・装備品、スキル、携帯品についてはそのまま反映させて頂きます
・目が覚めた後の事は記入頂いても構いませんし、記入されなくても構いません
・夢の出来事は覚えていても構いませんし、忘れてしまっても構いません
・NG描写がある場合は必ず記入をお願いします
・他PCと連携する場合はある程度打ち合わせして頂けるとありがたいです(内容に齟齬がある場合は反映出来ない事があります)
・能力者と英雄の台詞は「」『』などで区別して頂けるとありがたいです
・英雄不参加の場合英雄は描写されません。ご了承願います
・英雄の変更忘れ、プレイングの出し忘れにご注意下さい
・あまりにも過激な内容は描写出来ない場合がありますのでご了承願います
リプレイ
●走り
罵声。悲鳴。怒号。嫌悪。憎悪。拒否。呪詛。殺意。
只中にあって邦衛 八宏(aa0046)は、いつも側にいるはずの喧しい相棒がいない事に気が付いた。右胸に張り付いた幻想蝶は彼の物とは違う、群青。英雄がいないのでは共鳴したくとも叶いはしない。せめて他の能力者達への襲撃の手を減らすため、八宏はわざと音を立てて駆け出した。追っ手の進路を障害物で塞ぎつつ、自分の方へと誘い込む。
(……化け物、バケモノ……?
……そうで、あれば……いえ、そうなら、
僕は……)
●立ち止まり
「あきらめたくない……でも……追われるのは、疲れた……」
『なら、どっちを選択する?』
突き付けるアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)の声に木陰 黎夜(aa0061)は俯いた。追ってくる人間達を隠れてなんとかやり過ごしているが、小柄な黎夜の肉体は既に悲鳴を上げている。
「走りたくない……」
『なら、俺に主導権を渡して休めばいい』
「身体は、疲れたまま、だから、あんまり意味は、ないと思う……」
『つぅの気持ちの問題だ』
「それでも……いい……。まだ、見つかった時、マシだと、思う……」
『マシも何もあるか』
「いたぞ、こっちだ!」
矢じりのごとく飛ぶ声に黎夜は再び駆け出した。内からそれを眺めながらアーテルは過去に思いを馳せた。二人の出会いは数年前。死にかけていた黎夜はアーテルと出会い、誓約を結び、それによって生かされた。
しかし生かした先にあった道は人間からの迫害で、アーテルはその事に罪悪感を抱いていた。
生かしたからには守らなければ。
守る事が贖罪だ。
望みは黎夜を守る事。
そのただ一つの為ならば手を汚す事も厭いはしない。それさえも黎夜を傷付けると言うのなら、共鳴して黎夜の意識を眠らせたままにしてでも守る。
しかし、黎夜は
●思い
化け物、災厄。バケモノ。サイヤク。
呼ばれるその名に佐倉 樹(aa0340)はいっそ小さく笑みを漏らした。
あぁ間違いない。
私たちは化け物で“災厄”だ。
吊り上がる口の端をはっきりと自覚しながら、樹は淡々と逃げ続け、同時に思考を巡らせていた。
箱庭の彼らは無事だろうか?
樹にとって気に掛かるのはそれだけだ。
『ヒトが段々増えテ来タね』
シルミルテ(aa0340hero001)の声に樹は一息に跳躍し、通路よりやや高所にある塀の上へと飛び乗った。その拍子に「いたぞ!」と人の声が上がったけれど、慌てず騒がず銀の魔弾を一人一人へ撃ち放つ。
「撃ってきやがった!」
「捕らえろ、殺せ!」
「殺せ殺せ殺せ」
「化け物が! 災厄がっ!」
更に増えゆく人間達に今度は重圧空間を展開し、ここは一旦逃げへと走る。樹を追う人の群れは徐々に膨れ上がっていく。
●嘆き
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。ぼくが、いるから」
謝罪をひたすら述べながらカスカ(aa0657hero002)は涙を零していた。血のように赤い瞳から、眼球さえ溶かしそうな熱い涙を落とし続ける。
「なんでぼくはここにいるんだろう、檻の中にいるべきなのに。ぼくはだれもたすけられないのに」
英雄と呼ばれる存在、自分がそれである事をカスカは何処かで理解していた。しかしそれ以前に化け物だ。カスカはそう思っていた。
だからきっと追われているし、
だからきっと人に迷惑をかけるし、
だからきっと、自分は死ぬべき。
分かっている。理解している。諦めきっている。逃げるつもりなんて無い。逃げるつもりなんて無いのに、
「逃げよう、カスカ!」
御代 つくし(aa0657)に手を引かれ、カスカはまた涙を零した。逃げるつもりなんて無い。なのにつくしが選ばせてくれない。
このひとはぼくなんかの能力者でかわいそうだ
ぼくがいなければ
ぼくがいなければ
このひとは追われずに済むのに
暖かい日だまりの中で暮らしていけるのに
そう思うのに、抵抗も出来ずに、ただつくしに手を引かれて逃げ回る事しか出来ない。
●手を伸ばし
ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)と共鳴し、無月(aa1531)は壁を蹴って高所へと飛び乗った。闇を湛える無月の瞳に、武器を手に自分達を追う人々の姿が映り込む。しかし彼らには手を出さない。固く心に誓っていた。
力なき人達が力ある私達を恐れる気持ちは解る。
だが、私達がいなくなれば誰が彼らを護ると言うのだ。
だからこそ私達は敵ではなく、友である事を証明する。
命を賭する覚悟がなければ彼らと解り合う事は出来ない。
そう思うから。
「私は貴方達の敵ではない。共に生きる仲間なのだ。お願いだ、私の話を聞いてくれないか」
無月は必死に声を上げたが、凛とした彼女の声は暴徒の怒号に掻き消され、護るべき人の群れが無月を目指し迫ってくる。
と、一人の少年が、何かに躓きでもしたのだろう、転倒し石畳の路地の上に転がった。暴徒は気付かず少年を踏み潰そうとする――無月は急ぎ共鳴を解き、ジェネッサと共に少年の盾となるべく暴徒の只中に身を投じた。暴徒は二人の行動に思考を巡らす事もなく、その背に、肩に、武器を暴力を降らせ始める。
「耐えるんだジェネッサ……!」
「大丈夫、手を出すほどボクは子供じゃないよ」
暴徒の恐ろしい所は周りが見えず、意図せず他人に危害を加える事。故に無月とジェネッサは少年を抱えたままただ耐えた。一切の抵抗はせず、うつ伏せに倒れたまま甘んじて痛みを受け続ける。
彼らの手が止むその時まで。
●涙し
もしも世界が優しくなかったのなら
海神 藍(aa2518)は絶望していた。醜いものを与えるだけの、汚いものを見せるだけの、そんな救いのない世界に。
憧憬は穢され、家族を喪い、世界を憎み続け、それでも憧憬を忘れられなかった男と、
ひとりだけ異なる黒い鱗と迫害され、それでも故郷を守る為戦った人魚の少女。
■■と変わらず願ったのは、ささやかな平穏だった。
「ここまでだね……」
「……希望を持ったことが間違いだったのでしょうか」
禮(aa2518hero001)の落とした呟きに、藍は苦く暗く哂った。何が間違いかは分からない。けれど間違いがあったなら、自分達の存在が間違いだと言うのなら、
「ささやかな願いすら叶わない、か……同族ながら反吐が出る。……終わりにしよう」
禮と共鳴した藍は細くなった指を頭上に伸ばし、長い黒髪を飾っていた小さな冠を投げ捨てた。瞳の青紫に涙を浮かべトリアイナを出現させ、殺意と共に攻め寄せる民衆へと向き直る。
私たちの日常を脅かす敵を全て破壊する。
その為に、
「お前達が禮を、私の“妹”を、私の最後の家族を奪うというなら……お前達は私の、敵だ」
その為に、愚かなる神に身を窶す事になったとしても
●笑い
『おい、サクラ。誓約して後悔してるか?』
ジャック・ブギーマン(aa3355hero001)の問い掛けに桃井 咲良(aa3355)は首を傾げた。怒号と罵声は猫の耳に次から次へと入り込む。しかし咲良は常のごとくあっけらかんと言葉を返す。
「? 何で? 後悔するような事なんてあったっけ? 外の世界って、こういう物なんでしょ?」
『……キヒヒ♪ あー、その通りだったなぁ?』
咲良は閉鎖された病室の中で生まれ育ち、倫理道徳の価値観を学ばないまま成長した。
外の世界で受けたものは暴力と罵倒だけ。
その後英雄と出会い誓約を交わした咲良にとって、世界は罵声と暴力に満ちたもの。
ジャックは咲良の歪んだ認識をきちんと理解していたが、改める気は一切なかった。
寧ろ自分好みである。
そう思っている。
『あー、そろそろウザってぇ、かな!』
最初こそ逃げ回る事を選んだが、流石に途中で鬱陶しさが芽生え始めた。潜伏を使用し死角に潜み、不運な獲物の急所を切り裂く。生死を問わない攻撃は人間達の悲鳴を呼び、しかし咲良はその光景に躊躇も罪悪も抱かない。
「んー、何でそんなに怖がってるのかな? 僕達、君達と同じ事してるだけだよ?」
『キヒヒ♪ 卵が先か鶏が先か、なんざどうでもいいだろ? ぴーぴー囀ってたお望み通りの結末じゃねぇか♪』
恐怖を煽りながら、
路地裏を駆け回り、ジャックは愉し気に歯を見せた。元殺人鬼であるためそもそも攻撃に迷いはない。人を集め、ネビロスの操糸に装備を替え殺一警百を目的に獲物を一匹バラバラに。
その後も散発的に襲撃・逃走を繰り返して、咲良も笑う。楽し気に笑う。楽しい、嬉しい、面白おかしい!
「にゃはははは! 全力動き回れるのって、凄く楽しいよ! ジャックちゃん!
あ、この光景ってジャックちゃんと会った時の事思い出すね、懐かしいなー」
嬉々とする咲良同様にジャックもまた愉しんでいた。駆ける先に知った顔を発見し、いよいよ口元を吊り上げる。
『キヒヒ♪ 派手にヤッてんじゃねぇか、オレも混ぜろよ♪』
便乗してスキルを多用し、気の向くままに暴れ、暴れ、
『神なんざ殺すほど嫌いだけど、目には目をってのは好きだぜ? だったら、殺意には殺意を、だろ? キヒヒヒヒ♪
キヒヒ♪ 怖いか? 悍ましいか? 安心しろよ、すぐに何も解らなくなる位、殺して解して並べて揃えて晒してやんよ』
暴れ。
●踊り
(……待てよ、どうして逃げる必要がある?)
(家畜同然に屠られるだけの奴らから。己の実力も弁えず、ちょっかいをかけてくる馬鹿から。何で逃げる必要があるんだ?)
(可笑しいだろう)
(逃げるのは……あいつらじゃないのか?)
ヨハン・リントヴルム(aa1933)は思った。人間を騙し、唆し、時には殺して生きてきた犯罪者にとって、
自分を追いかけてくる人間たちは、果たして自分と同等に価値のある存在に映るだろうか。
自分と縁もゆかりもない、しかも自分を……まして愛する妻と娘までもを、殺そうと襲ってくる者たちを、思いやることができるだろうか。
(……慈悲なんて、くれてやる必要はない)
ヨハンは躊躇いなく共鳴すると、影を負う青年の容貌をグラマラスな美女へと変えた。『魔法狂女』ヨハンナ。フリーガーファウストG3をたおやかな肩の上に乗せ、自分を害する人間達の街へロケット砲を差し向ける。
「ふ、ふふふ……そうよ燃やしなさい! あたしが魔女よ! 屠ってあげるわ、畜生ども!」
そして着弾したライヴスの弾は人間達の街を焼いた。近付いてくる獲物の身体はチェーンソーで薙いで削ぎ、向かってくる者共はガトリング砲で風穴を開け、
「豚が二足で歩くな!」
「まあ、無様。よくお似合いよ」
「物の道理を知らない馬鹿には、真っ赤に焼けた鉄靴を履かせ、死ぬまで踊ってもらいましょう」
視界に見知った顔を見つけ、ヨハンナは攻撃範囲をわずかにズラした。愉し気に暴れる彼女らのためにするべき事はあまりない。これがせめてもの協力だ。
ヨハンナは妖艶にゆるりと目元を緩ませた。その足元には犠牲獣が呻きながら転がっている。本気を出せばすぐに命を奪うことも出来るだろうが、
それじゃつまらない。
●抱き
「恨み言くらい、言われても良かったんだぞ……」
目の前に座るアーテルの言葉に黎夜は首を横に振った。アーテルは苦境に黎夜を生かしたと罪悪感を抱いているが、黎夜はアーテルを恨んでなどいなかった。
アーテルと出会う前から、親の虐待や同級生からの虐めが常に黎夜と共にあった。単に理由が変わっただけ。迫害される境遇に黎夜は疑問を抱いていない。
むしろ
「おいしいご飯があるって知ったのは、あなたのおかげ、だから……。
あの時おとうさんたちと同じになってたら、きっと知らなかったから……」
告げられた感謝の言葉に、しかしアーテルは顔を歪めた。
感謝なんてされたくない。
『英雄』なんて厭わしい。
黎夜と過ごす中で生まれた、慈しみの感情の扱い方が分からない。
それでも
「本当に……いいのか」
アーテルの問い掛けに黎夜は確かに頷いた。おとうさんやおにいちゃんと同じ――死んだものになりたくはない。
けれど人を殺すような事もしたくはない。
そして、
それ以上に
「共鳴するぞ。AGWは共鳴状態でないと扱えないから」
アーテルの言葉に再度頷き、黎夜は再び共鳴した。意識が暖かい波に飲まれる。心が柔らかに溶けていく。
黎夜はアーテルに真意の全てを伝えなかった。能力者が消えれば英雄も消える。だから黎夜は死を望むと。
言えば、その事実にさえ、アーテルが苦しむかもしれないから。
黎夜の姿を借りたアーテルは右目を紅に染め上げた。邪英化目的のリンクバースト。その先に何があるかは知ってるけれど、
黎夜を誰にも渡したくない、その一念だけだった。それが歪んだ慈しみだと分かっていても、
『眠ってろ。深く。ちゃんと、
殺すから』
●願い
「う、うわっ、化け物!」
銃弾を全身に受けながら、一切の傷を負わぬまま藍はそこに立っていた。 青紫の瞳を眇め、人間達を逃さぬために重圧空間を辺りに敷く。
「害するものよ、害されよ。その意味を知れ、ブルームフレア!」
咲き誇る炎で焼き払い、ゴーストウィンドで不浄を撒き……己の作った地獄に立ち、躊躇など見せる事なく、
「中世の魔女狩りを彷彿させるな……本当に魔女だとしたら君たちも無事ではすまないというのに、そんなことも考えない」
「た、たすけ」
「……何を言っても聞かなかったくせに、なぜ君の言うことは聞いてもらえると?」
腹部を槍で貫かれ、許しを請おうとした喉は永久に声を失った。しかし、それは他の人間を激昂させる事でもあった。人を越える力があろうと、多勢に無勢。いずれ限界は訪れる。
「そう……か。はは、ライヴスが足りないや……禮。私を喰らってくれ」
『……それは何を意味するか、解ってるんですね?』
「……もう帰る日常なんて……存在しないんだろう?」
『兄さん……』
禮は藍を完全に取り込み、黒い人魚に……邪英化した果ての、ウェパルとでも言うべき化け物に成り果てた。笑いながら、泣きながら、禮は祈るように呪う。
『……最期の歌を、歌いましょう』
『私を喰らって、わたしはかつての……海の魔物の再現を』
『赤黒い海を、ここに。えいえんを、あなたに』
笑いながら、泣きながら、歌いながら、壊してしまえ。
目に映るせかいを、すべて。
でも
『もう一度生まれ変われるなら、もっと優しい世界が良いな……』
殺しきれない願いさえ、赤黒い海の底へと沈む。
●想い
人の数は増えていく。
逃げても逃げても。
退けても退けても。
逃げ場など、何処にも存在しないと言わんばかりに。
それでも、樹の瞳に揺らぎはなかった。再度重圧空間を展開し、いっそ愉快そうに二色の虹彩の輝きを増す。
「それじゃあ、今度はこっちが」
『追イかけル番だヨ』
シルミルテと声を重ね、自由を削がれた人の群れへ樹はサンダーランスを放った。鼻につく異質の臭いを嗅ぎながら、樹の瞳の奥に映る物はただ一つ。
あの箱庭へ戻れないなら
箱庭に手をかけるであろう存在の数を徹底的に減らしてやればいい
大丈夫
命も想いも託す形で預けてある
帰してもらうつもりは毛頭ないが
信念は、常に彼らと共にある
だから大丈夫
この身体の命散ろうとも
私の魂は“ソコ”に“在る”
だから
『マズは目の前ノ事ヲ』
「成し遂げないとね」
そして樹は手を空へと高く掲げた。
あぁ、口の端が吊り上がる。
●暮れ
「……彼らが、恐ろしいのですか」
八宏は目の前の人間達を睨み付け、問い掛けた。固く握られる拳は、是。逃げ道は無いと覚悟を決めて、上着を脱ぎ捨て、幻想蝶の張り付いた胸元を追っ手達の視界に晒す。
「……化け物は、ここにいます。目の前に……あなた方を……
……あなた方を、骨を、血を、皮を、腑を……下さい、もう、我慢が……嫌です」
そして八宏は飛び掛かり、最も手近にいた人間の首に歯を立てた。人間を押し倒し、首筋に齧り付き、皮膚を暴き、顔を血で汚しながら、殴りつけられるのも気にも留めず生きた人間の肉を貪る。
仲間を助け出そうとする人間に滅多打ちにされても構わない。化け物と謗られながら殺されても構わない。受け入れる。受け入れよう。
もう、人であり続ける事に拘るのは疲れたのだと、
自分に言い聞かせながら。
●羽ばたき
「それで、君はどうする? 抗う? 逃げる? それとも――僕を捨てる、という方法もあるけれど」
くす、と漏れたルー(aa4210hero001)の笑みにフィアナ(aa4210)もまた笑みを返した。世間を知らぬ品のいい令嬢の微笑みに、けれど何処か揺るぎない芯の強さを滲ませながら。
「成程その“二択”なら私は逃げるわ。でも、ただ逃げるとは言っていない」
共鳴し、“普通の人間なら扱えない”バアル・ゼブブの戦旗を大きく翻し、フィアナは人間達に笑みを向けた。選択肢を決める前に、もう一度だけ問い掛ける。
「もし私があなた達の敵ではないと言ったら、あなた達は信じてくれる?」
ガチャリと向けられる銃口は否。それはフィアナも分かっていた。きっと彼らは何を言っても信じない。
だからこそ
「そう……それじゃあ、鬼ごっこ、ね?」
にっこりと悪戯っ子の笑みを浮かべ、フィアナは戦旗ごと跳躍した。白金色の刻まれた黒旗を高く掲げ上げ、挑発を込めて魅力的なウインクをさえ飛ばしてみせる。自分以外の能力者から敵意を可能な限り逸らすために。
「もし捕まえられたならあなた達の勝ち。その時は好きにすればいい。――絶対に捕まってあげないけれど」
人々が何と思おうと、フィアナが人間達を嫌う事などあり得ない。
自分達の様な存在がいる以上牙剥く者もいるだろうし、もしかしたらそれ以外だって――
なら自分の成す事は一つ、そういった存在から人々を守る。
人々から非難を受け、逃げ、その先で牙剥く異能者へこそ武器を向け、絶望する能力者がいれば迷わずこの手を差し伸べる。
“兄”との約束を果たすなら、それ位やってのけなくては――
当然の様に英雄を捨てる、という選択肢を切り捨てる、そんなフィアナの様を見て、それこそ当然だとルーは静かに微笑んだ。
でなくてはわざわざこの雛を拾ったりしない。
只、人へ向ける感情は『不遜』かつ『つまらない』。
雛というものは兎角自らと違う存在を厭うもの。彼らの敵意もそこから湧いたものだろう。
想像通りの反応しか出来ない雛など焼き落としても構わないが、フィアナがそれを望まないことも十分に理解している。
だから彼女の意志に沿う。
同時に、フィアナがどこまで孤独に耐えきれるものかも――
『だからといって彼らは感謝なんてしないと思うけれど?』
「感謝してほしくてやっているんじゃないもの。全部私のエゴよ」
『終わりの見えない闇の中をただ一羽で飛ぶというのかい』
「ひとりじゃないわ、兄さんもいる! それに、未来の事なんてまだ分からないわよ」
にっと笑うフィアナが胸に大事に抱くのは、“兄”との約束。ルーとの誓約。そして希望。だから飛ぶ。この力を余す事なく使い、光の旗を大きく掲げ、
何処までも。
●駆け抜け
「あの人達、なんで襲ってくるのかしら?」
アリソン・ブラックフォード(aa4347)のマイペースな疑問符に、ホワイト・ジョーカー(aa4347hero001)はシルクハットの内側にて首を傾げた。しかしネジの外れた思考から答えが出てくるはずもなく。
『他に楽しみがないんじゃないかい?』
「ふんふん、じゃあ、もっと楽しいことして、気分転換しましょう」
『それじゃあボクにまかせてよ』
アリソンは奇術師のごとくクレヨンを十二種出現させると、ジョーカーの言に従い壁にクレヨンを走らせた。埃を被ったレンガの上に黄色の文字が舞い踊る。
Humpty Dumpty sat on a wall,
Humpty Dumpty had a great fall.
All the king’s horses and all the king’s men
Couldn’t put Humpty together again.
【なぞなぞの答えをどうぞ】
矢印を引っ張った先にことりとスマホを一つ置き、アリソンはパタパタ駆け出した。人間達は足を止め、しかしスマホを取る事もなく再び奇術師の少女を追う。
「簡単すぎない?」
『ベタ過ぎてお気に召さなかったらしいね』
今度は袋小路に到着し、スマートフォンに声を吹き込み動物パペットの中に入れた。そしてアリソンは走り出し、パペットは奇術師の代わりに唄う。
Monster’s favorite is 2.
Mouse of bag and fish of bag.
A monster has no names.
なぞなぞのご褒美にと、アリソンは眠り猫のぬいぐるみを細い腕に抱え込んだが、追っ手はやはり速度を緩めず武器を手に手に追い掛ける。
「PEACE(平和の象徴)は伝わったかしら?」
『学が無い愚民は嫌いだよ』
ならばとアリソンはくるり振り向き、眠り猫のぬいぐるみをマイク代わりに構えてみせた。もっと多くの人間達に見つかったって構わない。擬音や擬態語の多い独特のリズム、「HEROがオトモダチ」がキーフレーズ、アリソン作:異界から来たお客――STRANGE FRIENDをアイドルらしく全力で歌う。
「――死ね!」
「あっ! もー、最後まで聞きなさいよー!」
『チップも無しとかまさに愚民だね』
ジョーカーの苦言と共にアリソンはちょっとむくれながら、追われて逃げる。逃げる。逃げる。けれど悲壮は似合わない。
クレヨンを走らせ、喜劇と駆け抜け、人を傷付けず、可能な限り息を殺して、やりたいことをやりとげるだけ!
「ねぇ、ジョーカー君、どこまで逃げようか?」
『君がいるとこならどこへでも』
そうだね、と二人笑って、奇術師達は駆けていく。贈られる拍手は敵意。
それでもちっとも構いはしない。
●共に
とにかく逃げなきゃ! その一念でつくしは走り回っていた。話しても分かってもらえそうにないし、けれどカスカと手を離すつもりもない。
共鳴すれば話は容易いかもしれないが、つくしはその選択肢を早々に捨て去った。それはなんだか違う気がする。誰かが戦ってるところも見たくない。
何を言われても、どう思われても、自分は誰かを護るために剣を握ったんだから。
そんな思いで、離れそうになる手を必死で握り、そしてカスカに必死で叫ぶ。
「逃げるのは悪いことじゃないし! んっと、敵前逃亡……じゃなくて、逃げるが勝ち! みたいな!
私がカスカと一緒に歩きたいって思ったんだよ! 誰が何を言おうと私が決めたことなんだからねっ!」
だから、大丈夫だよって、赤い瞳に、にっと笑って。何か当たって痛くても我慢。ひたすら捕まらないように逃げ回る。この手を掴んで走り続ける。
もしかしたら、希望は無いかもしれない。
でも、希望がある可能性を諦めたくない。
この手も決して離さない。
●誓い
無月とジェネッサは鎖で牢に繋がれていた。暴行を受け、うつ伏せに取り押さえられ後ろ手に縛られて、嘲りを受けながら連行されて二人は今ここにいる。
「……ジェネッサ、貴女はこの世界の人達は好きか?」
「……好きさ、大好きだよ。キミはどうなんだい?」
「大好きだ……私は地位も名誉もいらない、彼らが幸せに暮らす姿を見る事、それが私の幸せなんだ」
「奇遇だね、ボクもさ」
「だが、彼らが健やかに過ごすにはリンカーの力が必要だ。それを彼らに伝える事が私の最後の使命。……すまない、貴女まで巻き込んでしまって……」
「ハハッ、気にしちゃダメだよ。それはボクの願いでもあるんだからね……、頑張ろう、最後まで」
X状に繋がれながら、二人は最後を待っていた。その耳に、足音が聞こえ、そして扉が開かれる。
「助けに来ました! あの、さっきは、助けてくれて……」
見覚えのあるその顔に、無月は静かに目を伏せた。護るべきものがある。
だから私は刃を握る。
●出会い
見知らぬ誰かに抱えられ、八宏は目を瞬かせた。人間を襲う八宏の前に割って入って八宏を抱え込んだのは、見知った仔猫とはまた違う、憲兵のような姿の「化け猫」。
「戦って下さい、八宏様。私は、人間さまの味方ですから」
名の一つも告げぬまま、険しくも優しい声色で化け猫は語り掛けてきた。「違う」と否定を呟く八宏を、しかし化け猫は否定する。
「貴方はあの方々を殺せない。殺さねば正気を保てないのに、それを良しとしない。御自分の中の怪異を必死で押さえ込もうと、そうなさっているではありませんか」
八宏に首を噛まれた相手がゆっくりと起き上がる様を、化け猫は高所から指差した。そして八宏に手を伸ばした。刀を手にして化け猫は。
「貴方には、人を、友を守ろうとする意志がある。私の愛する人間さまたちが皆そうするように」
全てを見ていたにも関わらず、それでも僕を人と呼ぶのか。八宏は瞳を緩く細め、差し出される手に指を伸ばす。
○そして朝が訪れる
八宏が瞼を持ち上げると、枕元に片膝をつく化け猫の姿があった。新しい自分と人との縁を繋ぐ者。そう気付いた八宏に化け猫は視線をかち合わせる。
「菊千代、と申します。そのようにお呼び下さい、八宏様」
そして化け猫、菊千代(aa0046hero002)は、仕えるべき主に己が手を再び差し出した。
○
目を覚ましたつくしはすぐにカスカの元へと走った。何か怖い夢を見たようにカスカは震えて泣いていた。つくしはほっとし、カスカに近付き、その手を握って笑顔を見せる。
「おはよう」
「……」
「怖い夢でも見たの?」
伝わってくる温かさにカスカはほっと目を緩め、思い出せないけれどと付け足しながら頷いた。
あんな世界にしないために、もっと頑張らなきゃいけない。夢を思い返しながらつくしは胸に刻み込む。
もう一人の英雄にもおはようと言いに行こう。カスカと一緒に。そうしたら、あれは夢だったんだって実感できるから。
○
アリソンは目を拭って首を傾げた。拭いても拭いても涙が出てくる。ジョーカーが首を傾げて聞いてくる。
「どうしたの?」
「……さあ、どうしてかしら」
○
「? 何か今日は機嫌いいね、ジャックちゃん」
咲良の声にジャックはにっと視線を向けた。どうやら咲良は忘れたらしい。それは少々残念だが、
「久しぶりに愉しい夢が見れたからなぁ、キヒヒヒ♪」
「そっか、良かったね」
○
夢の内容を思い返しヨハンは両目を右手で覆った。目が覚めても後味の悪さはなく、むしろいい夢を見た、スッキリした、という感情の方が強い。
(……まあ、クズだからね。僕は)
○
目覚めた無月が行った事は己が刃の確認だった。夢とは言えいい勉強になった。自分達の力は他者から見れば怖いもの。その事を強く肝に銘じ、これからも人々を守る為に戦おう。
改めて誓う。
キンと高く刃が鳴る。
○
化け物、災厄。
その言葉は樹の中に夢ごとしっかり残っていた。
今だって自分は、能力者という人の常から外れている化け物である。
心の在り方のほうがアレな自覚はあるけれども。
今の社会環境がとても恵まれているのはわかっている。
だから驕ることなかれ。
自分は心身共に化け物である。
常にそのことを忘れずに生きている。
ずっと
「とりあえず、続きを見るために二度寝しようかな」
なんだか久しぶりに随分とヒトから罵られた気がする。
シルミルテは起きてそう思った。
いや、確かに自分は“災厄”で間違ってはいないけれども
化け物だから退治するだなんて
「ナンセンスだナぁ」
喰いあったらその先はただの共倒れじゃないか。
存在の歪みを思えば
愚神達と英雄達はヒトと共にあるかないかの紙一重なのだろう。
まぁ、自分は常に半身と共に在るだけだ。
そう思いながらシルミルテはがさごそと着替えを終え、「そろソろカナ」と二度寝を決めていそうな相棒を起こしにいく。
「お姉ちゃーん。樹起こシテ来ルかラ、ご飯ノ支度お願ーイ」
三人一緒にご飯を食べて
有ったかもしれない未来を想いながら
またいつもの日常へ
○
目覚めると身体が冷えていた。
嫌なものを見た。
怖いものを見た。
不安に駆られ、慌てて走る。
その先に「 」が座っている。
「おはよう」と聞こえてくる声に、「良かった」と思わず呟く。
夢で良かったとほっとする。
まだ、共に歩んでいける、優しい日々が続いてくれる。
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結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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