本部
【初夢】希望の華、お江戸に咲く
みんなの思い出もっと見る
掲示板
-
【相談卓】狼屋
最終発言2017/01/07 22:48:51 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/01/06 22:45:06
オープニング
この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。
●壱の組・望富(ほうぷ)
ここは尾江戸(おえど)。かつての首都・江戸によく似たワンダーランド。皆様の初夢の舞台でございます。
今ほど、私の頭上には金ダライが落ちて参りました。どうしてだかこの世界では、外国語や現代語を使用したものに罰が下るのです。
他にも、現代にしかない持ち物を使おうとしてもタライやら桶やらが落ちてくるようです。どうして現代にしかないものがここにあるかって? そりゃあ夢だから、としか申しようがございません。
さてこの世界には、HOPEと非常に似た組織が存在致します。その名も『望富』。
申し遅れました。私は望富の職員をしている川端と申します。所謂オペレーターで――痛たっ。ああ、皆さんの場合は、言葉を口に出さなければ罰はないのでご安心を。
「皆様には、このところ尾江戸で目撃されている『妖怪』を退治して頂きます」
目撃者たちが挙げたのは、一つ目小僧や一反木綿などの名。妖怪としては王道も王道。しかし。
「奴らは昼であろうと現れる。そして、見た者の生気を奪っていく。ま、従魔(じゅうま)で間違いないでしょう。おそらく裏には愚神(ぐしん)がいるものかと」
愚神や従魔について十分な知識が広まっていないため、一般の方々は奴らを妖怪の一種と思っているようです。私たち望富は、おかしな力を持った妖怪退治屋というところでしょうか。
「今回の任務は町の見回り。愚神に警戒されないよう、一般人を装って下さいな。奴らと出くわしたら速やかな討伐をお願いします」
歴史に明るくない方でも大丈夫。口調や時代考証に関しては割と寛大でございます。あとはいつも通りに正義の味方をやって下されれば、きっと万事解決ですとも。
●弐の組・若旦那の異変
「若旦那ぁ! 若旦那ぁ? もう何ですかい、返事もよこさねェで。ちょいと入りますよ」
初夢屋の若旦那こと丞司(ジョージ)は床に伏せっていた。英雄の剣斗(ケント)は首を捻った。彼らも望豊に所属していたが、呉服屋の後継ぎと奉公人としての修行に専念するため、活動を一時休止している。
「もう5日も部屋におこもりになって。あの日、出かける前までは元気だったでしょう?」
「うん……」
ろくに食べていないとは聞いていたが、睡眠の方も足りないと見える。
「旦那に言われてるんですよォ。うちの大事な跡取りに体ァ壊されちゃたまんねェ、原因があるなら聞いて来い、と」
「うん……」
不審に顔を曇らせていた剣斗はますます顔をしかめる。
「……はは、面白い。ひょっとこみたいだァ」
「若旦那のせいでしょう!」
かすかに目を細めて、力なく丞司は言った。
「私はね剣斗、お前を一番の友と思っているんだ。だから、お前だけには話したい。しかし」
「しかし?」
「……聞いても笑わないかい?」
剣斗はため息をついた。
「たりめぇだ、このヒョーロクダマ! さっさと言ってみやがれィ!」
思わず素に戻って剣斗は言う。丞司は重そうに口角を上げた。安堵を示したつもりなのだろう。本当に弱弱しい。
「きっと恋の病って奴なんだ……」
5日前、丞司は西町での用事を言いつけられた。その帰り『十五屋』という団子屋で茶を注文していると、とても愛らしい娘が入ってきたのだという。しかし純情な彼は見とれるばかりで声をかけられない。
「情けねェ。恋文なんて貰いなれてるだろう、この色男」
「そんなこと……いや、私のことは今は関係ないだろう?」
丞司の気持ちに気づく由もなく娘は先に店を去ろうとするが、立ち上がる際に手ぬぐいを落としたのだという。
「もし、こちらを落とされましたよ」
「あら……これはご丁寧に……」
娘は丞司の顔をじっと見つめ、やがて言った。
「貴方様が持っていてくださいませんか?」
「え、そんな訳には……」
困った丞司が言うと、手ぬぐいに挟まれていたらしい何かが落ちた。拾ってみるとそれは短冊。有名な和歌が書かれていた。「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ」。和歌の解釈は省略するが、状況から考えると「今はお別れしますが、また逢いたいです」という意思表示なのだろう。丞司が顔を上げると、娘はすでにいなくなっていた。
「きっとあの人は何かの際に僕を見かけて……お、思いを寄せてくれていたのだ。それでこの恋文を渡すためにあんな芝居を……」
丞司は同じ内容を友人たちの前でも語った。
「と言う訳でなァ、お前さんたちにはその娘を探してほしいんだ」
「誰にも言わないでおくれよ。信用して話したんだから」
「まぁ、うちの若旦那の軟弱っぷりが世に広まったら大変だしなぁ」
若旦那は言い返せず、親友を睨む。
「礼は弾む。分け前減らしたくなかったら、せいぜいこの場にいる少数精鋭だけで『和歌の君』を探してくれィ」
●まとめ~尾江戸歩きの手引き~
※今回の尾江戸は『【卓戯】我らお江戸の影の華』とよく似た、別の世界です。前作の出来事や人間関係などはリセットされますのでご注意ください。
【基本】
・皆様は『望富』の一員です。弐の組の方々も所属者です。望富は裏稼業とし、本業を設定しても構いません。
・共鳴前、および共鳴時の姿は和服に変更されます。
・髪や目、肌の色や名前によって悪目立ちすることはありません。
・共鳴を一般人に見られてもペナルティはありません。
・武器の見た目を世界観に合うように変えても構いません(西洋刀や斧→日本刀など)。変えなくても誰かが疑問を感じることはありません。
【タライ】
・『外来語』や『現代風の言葉(若者言葉や略語など)』を使うと、タライや桶などが落ちてきますのでご注意ください。(痛いですが、生命力は減りません)
・文明の利器の使用は禁止しませんが、タライが落ちます。
・皆様の『名前』、『AGW』、『スキル』については外来語や外国製品の使用にペナルティはありません。気になる方は当て字で漢字を決めると良いかもしれません。(例:ジョージ→丞司)
・時代考証について過剰にこだわる必要はありません。最低限『時代劇や教科書などで見る江戸』のイメージを守ってくだされば、みなさんの頭頂部は安全に保たれるでしょう。
解説
【目標】以下の2つから選択。
・壱の組
見回り。『妖怪』の討伐。
・弐の組
若旦那の想い人を探す。
【尾江戸】
東:食べ物屋や食堂が多め。また長屋の密集地帯『野良猫横丁』もある。
西:芝居小屋がある。貸本屋や呉服屋、浮世絵などを扱う店が多い芸術エリア。若旦那が娘と出会った『十五屋』もある。
北:寂れている。人気のない不気味な辻や廃墟が多い。にぎやかなのは寺子屋だけ。怪しい飯屋『狼屋』は望豊の隠れ家の一つ。
南:大きな通りが多く、蕎麦などの屋台も多く立ち並ぶ。『南大橋』の付近は大道芸や地方からの行商人などで賑わう。
※町の中央辺りに火の見やぐらあり。望富の隠れ家は所属者の家や店の奥などにあり、尾江戸中に点在する。
――――――以下PL情報――――――
【望豊】
川端(かわばた)
『【卓戯】我らお江戸の影の華』に登場した語り手。テーブルトークRPG『お江戸タライ回し』の作者であり、尾江戸の生みの親。ただし『望富』の川端には、メタ知識も特殊な権限もない。OPでエージェントたちが集まったのは東町にある彼の長屋。
呉(くれ)&眞(まこと)
『狼屋』を営む兄妹。実は能力者と英雄。店の名物は『やけに精のつく鍋・山鯨』と『妙薬・熊の肝』。つまり回復スポット。なお、眞は体調不良で休みを取っている。
【敵】
弐の組も遭遇の危険性あり。また今回の戦闘はロールプレイを最重要視する。カッコイイ演出や決め台詞は大いに歓迎。
愚神×1
ボス。従魔を束ねる存在と考えられる。詳細不明だが、それぞれが与えられた仕事をきちんとこなせば見つかる。
従魔×?
ザコ。数匹ずついることが予想される。
一つ目小僧:いたずらっ子。弱点は……。
一反木綿:長い布。巻き付いて首などを絞めて来る。
河童:水場にいる。必殺技は水鉄砲。
人魂:ふわふわ漂っている。ぶつかると熱い。特に数が多い。
リプレイ
――此度ご覧に入れまするのは、妖魔とタライと恋の舞。調子っ外れのてんてこ舞い。
●始
「恋の病、かわいらしいわねー♪ 叶うかどうかは別だけどお手伝いしましょうか」
七津(aa0057hero002)は九十九 サヤ(aa0057)に耳打ちした。
「ええ。あんなに娘さんを思っているなら、頑張って見つけないと」
「その手ぬぐいと短冊を見せてもらえるかしら?」
受け取った七津は首を捻る。
(何か香りが残ってればと思ったけれど……あまりそういうことに興味のない子なのかしら?)
シド (aa0651hero001)も短冊を眺めてみたが特に発見はなかった。
「娘さんの特徴をお尋ねしたいのですが」
サヤは尋ねる。似顔絵を描くのは七津だ。涼しい眼元とおちょぼ口。浮世絵のような日本髪の美人が完成した。この尾江戸にいる多くの女性に当てはまる特徴。特定の一人を探すのには苦労しそうだ。
「そう! この眼を見てくらっと来ない男はいないよォ!」
丞司だけは絵の出来を手放しで褒め称えていたが。落語家の柳谷 紀伊(キース=ロロッカ(aa3593))は和扇で顔を隠し思案していたが、徐にそれを閉じた。
「すみません、この後出番がありまして。一席終えたらすぐに戻りますので」
彼が妹の匂坂 紙姫(aa3593hero001)と共に退出すると、加賀谷 ゆら(aa0651)も立ち上がる。羽織に袴の若党姿は決まっているが、腰のものはシドに取り上げられていた。
「若旦那の想い人、かあ。見つけてあげたいねー」
「だな。伏せるほどの恋煩いだ。よほど入れ込んでいるな」
ゆらが目を見開く。
「どうした?」
「シドの口から恋煩いとか聞くなんて……」
「煩い。そういう細かいことはいいんだ。とにかく、探すぞ」
●南
「ともあれ片端から叩けばよいのでござろう、忍びの得手とする処でござるよ」
「こーちゃん、それ忍びじゃないと思う……いや、やっぱりなんでもないわ」
望富所属の忍者である小鉄(aa0213)、彼の英雄の稲穂(aa0213hero001)は早速いつもの漫才を繰り広げていた。
「お前が噂の忍者か」
菓子問屋の若旦那・日暮仙寿(aa4519)が言う。
「おや、拙者意外と有名人でござろうか?」
「いつも元気な忍びだって評判ですよ!」
仙寿の護衛を務める不知火あけび(aa4519hero001)が言った。まず忍は噂になってはいけないと思うのだが。
「私たちも頑張ろうね、仙寿!」
(……何で俺嬉しいんだ?)
戸惑う仙寿は、無理矢理他の思考に頭を持っていく。
「小鉄が忍者、あけびが侍を目指す忍者で、その上、武士を目指す巫女まで? カオスすぎるだろ……痛っ」
彼が見遣ったのは三木 弥生(aa4687)だ。
「かおすとは? ……あ痛っ」
「よりにもよって、今カタカナ語を使うな」
三木 龍澤山 禅昌(aa4687hero001)が言った。弥生は夢の中でも変わらず巫女服の上に武者鎧の恰好だ。違うのは願望を大いに反映した、その体系。背は高く、胸も鎧を押し出す程だ。
御剣(ミツルギ サヤ(aa4381hero001))は牡丹色の着物に、花の通し柄が入った藤色の帯を締めた粋な女。
「あたしらは見ての通り、棒手振りの夫婦さ。天秤棒かついで魚を売り歩いてる」
傍らに商売道具を置いた一(ニノマエ(aa4381))が頷く。
「町を回るついでに噂話も仕入れてンだ。今日は西町に行くかイ。得意先の配達があるから東町や他んとこにも顔出すと思うが」
狼屋もそのひとつ。呉が仕入れているのは主に噂の方だが。
「妖怪は澱んだとこに集まると思います故……寂れているからこそ北に向かいます!」
弥生が言う。妖怪を討伐するのが侍の本質だと勘違いしているのだ。
「私たちは東に」
とある館にて好事家と暮らす謎の女性・霙(aa3139)が静かに言う。『野良猫横丁』の住人に聞き込みを行うつもりだ。相棒の墨色(aa3139hero001)は日向に丸まって寝ている。
「では拙者たちは南に」
長屋を発った小鉄と稲穂は南町の主立った通りを闊歩する。
「人を襲う妖怪とあらば、人の多いところを狙うのが道理というものでござる」
「ほんとかしら……まぁ当てもないし取り敢えず探しましょ」
小鉄の共を務めるのは氷の狼だ。
「頑張るでござるよ、ぽち」
「え、名前ぽちなのそのわんちゃん!?」
南大橋に差し掛かった時、高い悲鳴が聞こえた。
「世を騒がす妖よ、拙者が成敗するでござる!」
「いよっ小鉄っつぁん、待ってましたぁ!」
大声で言い欄干に立つと、周りの者たちが一斉にはやし立てる。
「いざ尋常に……勝負」
氷狼が川へと突っ込む。思惑通り、川の中にいた河童たちを足止めすることに成功した。河童たちが悲鳴を上げながら鉄砲水を放つが、こちらは自由の身。的当ての要領で苦無を叩き込むのみだ。
「さぁ、お次は何が出る? 世を騒がす妖よ、拙者が成敗するでござる!」
●北東
物見櫓に昇り『鷹の目』を併用して町を見渡す霙。肉眼の視界に変事を見て取って屋根伝いに駆ける。白虎と黒猫、二又の尻尾が躍る。
(……華麗じゃない一反木綿は、成敗)
「一反木綿に華麗なのと華麗じゃないのがいるの?」
(……ちょっと特殊……なのが……居たような……)
どうやら墨色の元の世界の話らしい。
「……相手もこちらに気づいたみたい」
鞘から大太刀を抜くと、小さな雷が刀身を纏う。いないいないばあをするように体を広げ、白い布が霙に覆いかぶさる。
「はぁっ!」
一刀両断。相手はひらりひらりと地面へと落ちていく。どうやらもうただの布のようだ。しかし運悪く下を歩いていた赤ら顔の禿親父の顔面に着地してしまった。
「なんでぇ!」
親父が共鳴を解いた霙と墨色に怒鳴った。
「こら! 誰の許可取ってうちの屋根に上ってやがる!」
墨色が尻尾をてろんと垂らす。しかし降りる気は毛頭ない様子。だってお天道様が心地よいんだもの――とでも言いたげだ。
「べ、別に怒ってる訳じゃねぇ。その、落ちて怪我するんじゃねぇぞ」
(怒っていたと思うけれど)
霙は言葉にはせず、白い耳をぴくぴくと動かし微笑んでおいた。ここは野良猫横丁。貧しい長屋町にも関わらず多くの猫が暮らすのは、住人たちが猫好きばかりだからだ。
「美味いな、これ。うちが菓子問屋じゃなきゃ店に置きたい位だ」
「最近妖怪が出るっていうから、若旦那は中々外に出してもらえなくて……何かご存知の方いませんか?」
おだてられた甘味屋の店主は、客たちから聞いた噂を次々話してくれた。
「旦那も奴らに会ったら、恋人連れてとっとと逃げなよ」
店主は何の疑いもなく言った。
「年も近いし護衛より恋人にした方が良かったかな?」
「お前が恋人? 大変そうだな……」
「えっ、何で?」
仙寿はあけびの口に落雁を押し込むと、赤い顔を明後日の方向へ。
「……俺が甘やかすからお前が太る」
ゆらたちも野良猫横丁で聞き込みを始めたが、空振りが続いていた。
「……なあ、ゆら。娘が愚神だったとか……そんなオチはないだろうな……」
「んー? シド、そんなこと考えてたのー?」
「その和歌の短冊で、若旦那の精気を奪ってるってことも考えられねえかなあって思ってたんだが」
ゆらは初夢屋での彼の行動を思い出した。
「短冊は異常なかったみたいね」
「ああ……まあ、これはあくまでも俺の考えだ。今は娘探しに集中するぞ」
「そゆことも念頭にってことだね! 了解よー!」
●西
力仕事のため共鳴した一夫妻は西にいた。
(妖怪退治もかねて、たまには芝居でも見に行こうかねェ)
「さっそく寄り道かィ。歌舞伎役者の浮世絵に見とれてんじゃねェぞ。このすっとこどっこい!」
(アレ、あんたがそんなこと言うなんて珍しいねェ。何か降るよ)
どこか満足げな響きを持つ憎まれ口は、一にだけ聞こえていた。
「俺ぁ、こっちの芝居がいいね」
「ほーう。客の集まりそうな娯楽演目だねェ。じゃ、ちょいと見てみよう」
舞台袖近くの席に陣取り、有事に備える。
(上演中は仮に妖怪が紛れ込んでいたとしても、おいそれと手出しできないねェ)
「演者が妖怪ってオチもあらぁな」
(そしたら、気の早い桜の舞ってんであたしらも紛れ込んじまおうか)
夫婦の読みは、ある意味で外れた。芝居が無事に終わったかに思われたそのときに、小屋の中に無数の人魂が現れたのだ。
「お立ちの皆様ァお待ちなすって。主役の出番が終わっちゃいねぇ!」
演じるはお調子者。芝居に興奮した挙句、無許可で舞台に上がってしまうような飛び切りの奴だ。対の鉄扇による演武はやや武骨だが隙がなく、動きに合わせ舞う桜色の光が優美だ。客たちから不満が出ることは無かった。
(この鉄扇には桜が宿ってるからね。魚氷に上ると申します、気の早い桜舞い散る春の風……)
「そりゃどうだか知らんが、気づかれねぇように始末しようぜ」
冷や汗ものの状況を度胸で乗り切ろうとする彼になんとも無責任な声がかかった。
「よっ、名無しの千両役者!」
小噺を一つ終え、仕事場から出て来たのは和傘を差したキースだ。
「それにしても、崇徳院とは……」
「すとくいん?」
「落語の一つで、まさに若旦那の依頼の通りです。古典落語の名作ですよ」
「じゃあ、その通りに動けば解決だねっ!」
無邪気な笑顔で紙姫が言う。
「髪と髭が無くなるので却下です。それに『事実は物語より奇なり』です」
「夢物語の話だしねっ」
「止めなさい」
彼らが向かったのは丞司が娘と出会った茶屋。娘の容姿や特徴などを、彼以外の視点から聞き取ろうという魂胆だ。看板娘に尋ねてみると文字通り絵に描いたような美人らしい。
「娘さんと若旦那さんの会話は聞いてませんか?」
「会話も何も、手拭い拾ってやっただけの仲さ」
「え?」
紙姫は目を丸くする。
「そうだ、あんたら若旦那に手紙を届けてくれないかい? 初夢屋の者に応援してもらっているのはむしろあたしの方なのさ」
兄妹は顔を見合わせた。
●北
「ところで七津さん、あれはテレ……いたっ」
サヤがうずくまった。『テレビ』は当然、罰の対象だ。
「この町並み……これはあの世界なのよね、ということは……白馬に乗った将軍様や温泉に入ってるくノ一が!」
タライをもう一つ。「いない」ということを察したらしく、七津は少し落ち込んだ。
「どこかの娘さんとぶつかったときに手ぬぐいを取違えてしまって」
「この子の大事な手ぬぐいだから見つけてあげたいのよ、協力してくれない?」
「ほぉ、どんな女だい?」
「ありがとー♪」
似顔絵を差し出すが「美人だ」という感想くらいしか得るものがない。今度はサヤの肩が段々と下がっていく。
「サヤちゃん、依頼に真面目なのはいいけど楽しめるものは楽しみまないと、ほらお団子でも食べながら行きましょ」
答える前に七津が団子を買ってくる。強引だが、優しさを感じる行動にサヤは微笑む。
「……はい、じゃあお団子いただきます」
「喪の共、出合え、出合えー!!」
「おいし……え、今のは?」
彼女らが声の方向へ向かうと鷹の目を使用中の弥生に出くわした。
「これはどうも! ご両人もお仕事中でございますか?」
「私たちはプライベート……痛ったぁい」
弥生もまた絵の女については知らなかった。彼女から従魔にもついて聞いたサヤはこれから合流する仲間たちにも注意を促すと約束した。
弥生と別れ、再び調査を開始した彼女らが得た情報は「狼屋の妹の不調」だった。
●南東
子供たちに出会った仙寿とあけびは、日暮屋自慢の饅頭を振舞って話を聞く。
「面白い噂はないかな? お化けが出たとか!」
「妙な出来事とかでも良い、何かあれば教えてくれ」
「おいら聞いたぜ、一つ目小僧の噂!」
おばけときいて小さな娘が泣きだす。
「大丈夫さ、奴らァ目が弱点だ。釘でも打ってやりゃあいい」
「勇敢なのァ結構だが、そういうのは本職に任せるモンさ」
現れたのは棒手振りを再開した一だった。
「本職って、インチキ望富に?」
「おいおい、ひでぇ言われようじゃねぇかい」
存外、現実のHOPEにもそんな時代があったのかもしれないが。
「だって母ちゃんが言ってたぜ」
「知ってる? 望富には本物のサムライや忍者がいるんだよ」
あけびが言うと子供たちの眼の色が変わった。勿論、良い意味で。
「ちったぁイメージアップになったかね……あ」
(あたしも痛いだろう、馬鹿)
タライがぶつかった後頭部をさすりながら一が言う。
「そう言やァ西町で紀伊の旦那に会ったぜ。なぜか用向きはひた隠しだったがねェ。俺たちァこっち方面の得意先ィ回ったら今度は北に行くとしよう」
彼はどこか懐かし気に街並みを見回すと片手を上げて去って行く。食堂が立ち並ぶ通りは『彼らの記憶』とほぼ一致していたが、たった一店舗だけが見知らぬ看板を掲げていたという。
その食堂で腹ごしらえしていたゆらとシドには急展開が待っていた。
「若旦那様に文を送ったのは確かにあたしだよ」
言い放ったのは店の一人娘。その細い体が傾ぐ。
「大丈夫、大したことないよ」
「あなたも体調不良? もう、二人して同じように恋煩いなんて……。わかった。も一度あなたの想いのこもった恋文を認めて。私が届けてあげる!」
「恋のキューピッドだな」
シドの頭にタライが命中した。
「ケケッ」
店の外から不安を煽る笑い声、そして悲鳴。戸を開けると頭巾をかぶった子供が飛びついてきた。その顔には1つの大きな目。
「で、出た!」
共鳴した彼女は子供を振り払い『サンダーランス』で串刺しにする。今しがた食べたのが天ぷら――串に刺さっていた――からではないと思うが。
「ちょこまかと小賢しい……」
無数の人魂がどこからともなく湧き出て、囲まれる。町人たちが不安げにざわめく。
「お侍さん、助太刀します!」
そこに現れたのは身の丈を越える大太刀を担いだ霙だ。
「さぁさぁお立会い! お客さまは安全なところまでお下がりください♪」
見世物のような口上で町人たちを下がらせながら、小僧と共に現れた人魂を薙ぎ払っていく。まるで舞を踊るようだ。愛想を振りまいているのは、無駄に怖がらせるよりも良いと思ったから。そしてこっそりと怪しい人物を探すためだ。
「罪無き人々を襲い糧を得る悪しき者達よ! その所業、お天道様が許してもこのサムライガールが痛っ!?」
「学習しろよ」
さらに騒ぎを聞きつけた仙寿とあけびが別方向から現れ、町人たちの前に出る。共鳴し、彼らを守るように翼を広げると巻物を取り出す。
「氷の秘術を見せてやろう……ああいや、忍術だったか?」
(違うから! 仙寿の意地悪!)
氷の手裏剣を次々飛ばすと、人魂の炎と相打ちになって消えた。
「妖怪妖魔のお困り事は、我ら望豊にお任せあれ!」
霙の合図でゆらと仙寿もお辞儀をする。顔を上げるなりどっと押し寄せた町人たちの話は、手分けして聞くことにした。
●狼
『山鯨』とは猪の隠語だ。江戸時代には表向き肉食が禁じられていたが、この狼屋のようにこっそり食べられる飯屋もあったらしい。
「むむ、この鍋おいしいでござるな!」
「あら、ほんとね」
稲穂と共に和気あいあいと鍋をつつく小鉄。覆面は外していない。どう食べているかは謎としか言いようがない。
「おらよ、お代わりだ嬢ちゃん」
「う……頂きます」
寺の教え通り肉や魚を排した結果、米と漬物のみを並べる羽目になったらしい弥生だが、めげずに向かいに座った一に報告する。
「北の方は平和そのものですね。皆さんの集めた情報と比較してみると目撃例もいささか控えめでしょうか?」
妖怪に出会えなかったことはやはり不満だったが。
「妖怪じゃなくて従魔だからな。霊力を奪うためにはむしろ繁盛した町に行くんじゃねぇか」
「あ……!」
落ち込む弥生に茶を注ぎつつ稲穂は言う。
「行く先々で望富の仲間に会ったって話も気になるわ。どうして皆、用事を隠したのかしら?」
仙寿たちは土産の桜餅を呉に渡し眞の容態を聞いていた。
「眞の周りで変な事は無かったか? 愚神が出てるんだ、何かされてる可能性もある」
「見舞いに来る奴はいるが出てこねぇんだよ」
心配になった女子たちが呉を連れて部屋へと向かう。すると。
「てめぇ、寝てねぇと体に障るだろうが!」
げっそりした様子の眞は筆を執っていた。
「お手紙? こんなに沢山……」
部屋中に散らばる紙片に稲穂が目を丸くする。
「これは……こ、恋文!」
弥生が頬を染めた。
●櫓
「西町の茶屋のお安ちゃんに東の食堂のお鶴ちゃん、そして狼屋の眞ちゃんが原因不明の体調不良」
七津が整理するように言った。
「お安さんとお鶴さんは『奉公人』に手紙を託したという話だけれど、剣斗さんとは背格好が違いすぎます。むしろ」
サヤは言葉を詰まらせる。
「『和歌の君』こそ『奉公人』の正体に思えるわ」
シドの悪い予感が真実味を増してきた。
「この後は、皆で推論でも交わしつつ南を回ろうと思っていましたが」
キースが苦々しく言った。望富に連絡するべきだろう。
「皆さん、狼屋に集まっている頃でしょうか」
1人だけなら偶然で片づけられた。しかし3人ともが従魔を追っているはずの彼らと出くわしていた。異常だ。
「大変だ! 初夢屋に妖怪が出たぞォ!」
聞こえた声に彼らは頷き合う。
「報告は後ですね。行きましょう」
店の付近では奉公人や道行く者たちが従魔に襲われていた。
「この『望富』のエンブレムが目に入らぬか!」
共鳴したサヤは片肌を晒して言い放つ。
(ちょっとっ、格好良く決めたいんだからタライも空気読んで!)
長い長い布に追われて地面に倒れ込む剣斗。
「くっ!」
矢が一反木綿を貫く。飛んできた方向に視線が集まる。
「巷に恐ろしい妖いるとは申しますが、真に怖いとは我々人間ではないかと常々思います。皆様も心に手を当てて考えてみなさいよ。怖いものを想像した時、浮かぶのは女房か亭主の顔でしょう?」
一瞬ぽかんとした野次馬たちにこらえきれぬ笑いが広まっていく。紀伊はにこりと笑った。
「妖の恐怖は取り除きましょう。心の臓の恐怖を取りたければ西の噺小屋までお越しください」
恐怖は混乱を呼び、笑顔は勇気を呼ぶ。後は邪悪の根源を断つのみ。数は多いがそう時間はかからないだろう。
「邪魔だ!」
反対側から駆けてきた一つ目小僧の顔面を斬り払い、ゆらは廊下を進む。小僧が持っていた紙束が散らばったが、構っている暇はない。大刀を一振りして一反木綿に巻き付かれていた丞司を救出すると彼は叫んだ。
「一つ目小僧に恋文を奪われた!」
●戦
カラスが鳴く。橙の空は背の高い柳と薄汚い壁に挟まれて、窮屈そうだ。逢魔が時。その言葉に相応しい光景が北町に広がっている。
「さぁさぁお立会い……」
霙は口上を口ずさむ。唄うように、今度は町人ではなく妖怪達を魅せるかのように。
「我が魂 折れる事など 多分無い 御屋形様から 授かったから」
(字余りだな)
座右の銘にケチをつけられ弥生は憤る。
(待て。来たぞ)
華やかな着物をまとった美女が、眞の部屋の窓を覗き込む。と。
「小賢しい真似はやめて出てきなよ」
女の着物の袖から巻物が飛び出す。草むらに隠れていた弥生は『避来矢』の助けを借りてそれを避けた。
「眞は愚神に見舞われてたのか。そりゃ病みつく訳だぜ」
桜舞う。いや、舞うのは桜の加護を受けた舞扇たち。一の『レプリケイショット』だ。
「粋な男ね。あんたからの恋文も欲しいわ」
「あげたら最後、霊力を搾り取られちまうってか」
「そう。まどろっこしい術だけど、お陰で危険なくこれだけの力を得られたよォ」
愚神は笑った。巻物は8本。ちょうど蛸のように蠢いて女を守る。
「『恋』とやらも楽しめたしね」
「何ィ?」
「食事ついでの道楽さ。恋文ってなぁ滑稽で面白いねェ」
蛸の足が霙、弥生、仙寿の『縫止』に捕らわれる。
「何だィ、あんたら馬に蹴られて死んじまうよ?」
「笑止!」
毒を帯びた苦無が女の片腕を針千本にする。
(何が恋よ!)
「貴様が行っているのは一方的な搾取でござる!」
「良い夢を見せてやった代償さ。能力者、だっけ。若旦那と狼屋の娘は良い餌だったね。啜っても啜っても力が尽きなくて」
力を強めた愚神は、眞の元には自ら『友人』となって出向くことにした。彼女の手紙が家に多く残っていたのはそのせいだ。一方、丞司の恋文は一つ目小僧が少しずつ盗み出していたらしい。
「あの子は死んだかい」
ふと切なげな表情を浮かべた女が、駆け付けた紀伊、ゆら、サヤを見る。
「男の純情、弄んでんじゃねえ!」
ゆらの内のシドが叫び、斬りかかる。女は侮蔑の笑みを浮かべ、次々迫る攻撃を避けてはいなす。
「忍法・影分身の術!」
(最早忍者を隠す気が無いよな?)
仙寿の『ジェミニストライク』。そして小鉄の疾風怒濤。
「手数の多さは、忍びの十八番でござる」
もはや話を聞く必要もない。ついに2人の霙の内の1人が、美女の顔を切り裂いた。剥がれ落ちた顔の下には一つ目。その異相は従魔たちの生みの親としては相応しく思われた。
「くらえ、妖怪っ!」
弥生が再度縫い止めを放って隙を作り、反撃してきた巻物に自ら巻かれる形でつば競り合いを行う。放射状に延びて8人を襲う巻物。彼らは皆、正面から受け止めた。――次の瞬間、愚神の胸に矢が突き刺さる。
「何!? 一人足りない筈」
紀伊はもう一度矢を放つ。彼が抑えるべき巻物は氷狼ぽちによって地面に固定されていた。
「ふざけた真似を……」
「目を狙え!」
仙寿が言った。一つ目小僧の弱点は彼女にも共通かもしれない。紀伊の矢が正確に目を射抜く。女は醜い声を上げて倒れ、そして消えた。
「どうかしたかィ?」
一は愚神の倒れた位置を見つめる紀伊に問うた。
「若旦那が素顔を見ることがなくて幸いだったかなと思いまして。彼女の眼を特に気に入っていたようですから」
愚神だったという時点で綺麗な思い出とはならないだろうが、それにしても刺激が強すぎるか。
「そうかもしれねェな」
二人は苦笑し合った。少し離れた位置で、サヤが大きく息を吸い込むのが見えた。
「これにて一件落着!」
●納め口上
真白の月が照らす夜。白虎と黒猫、屋根の上。月を肴に嗜むは、猫舌喜ぶぬるいお茶。半纏まとう仔猫は猫背。座布団の上、丸くなる。
「霙さん、墨色さん、本当にそこでいいんですか?」
「ええ、ここが良いのです」
「気が向いたら降りてらっしゃいよ~。サヤちゃん、ワタシたちもお食事にしましょ」
優しき少女は相棒の明るい声に呼ばれ宴へ。
「えっ!! ま、マグロ食べても回復しないのですか! 傷が治っているような気がしてたのですが……だ、誰ですかそのような嘘を語ったのは」
「……お前、本当に脳筋馬鹿だな……っつーか前も言っただろ。覚えとけよ……」
ため息吐いた彼が元凶。鮪むしゃむしゃ三むしゃむしゃ。
「なにやってやがる眞。出てこねぇか」
「む、無理!」
「お構いなく。お酒持っていきますね?」
恋する乙女は板場に籠り、兄は慣れない給仕の仕事。たまらず手伝う世話焼き娘。
「こーちゃん、もう一杯どう?」
「かたじけない。ところで三木殿、以前ヌエ退治に参加した言うのはまことでござろうか。詳しく聞きたいでござるよ」
忍ばぬ忍と人斬らぬ武士。食っては語り、呑んでは語り。猛き語りに若旦那、笑んで諸手(もろて)を打ち鳴らす。
「若旦那さん、今度はいい相手が見つかるといいね」
「あの頼りない若旦那じゃあ、すぐに尻に敷かれそうだがな」
二振り刀は友案じ、末の幸せ願うのみ。
「仙寿、その……私太らないよう頑張るから」
こちらは菓子屋の若旦那。恋の花咲く、紫色の。
「……じゃあ夫婦になるか」
「話が飛躍したね!?」
知ってか知らずか花言葉、『唯一の恋』は成るか成らぬか。
「元から同居してるし問題ねぇだろ」
「大有りだよ! ロマンスが足りな……痛っ!?」
たらい受けとめ、赤らむ額。撫でる手優しく、微笑み甘く。
「なんか追加ァあるかい?」
店主が撫でるは強(こわ)い髭、女がなぞるはお品書き。
「妙薬も良いけど、クスリと笑えるネタがいいね」
無愛想旦那がにやりと笑う。急かす妹、立つ噺家。
「レディからのリクエストだよ! 痛!」
「では、此度の事の顛末を面白おかしく」
右に左に身を振って。前も後ろも抱腹絶倒。
「……そんなこんなで八面六臂の活躍だった『望富』だが、風の便りじゃ金使いが荒く懐は常に火の車って言うじゃないか?」
「へえ。『富を望む』という字を書きたくなるようなお寒い話じゃないか。しかしまた何でそんな素寒貧なのさ?」
「そりゃおめえ、言うじゃねえか。『江戸っ子は宵越しの銭を持たねえ』ってよ」
三つ指立てて一礼を。拍手喝采、鳴りやまず。
『望みに富んだ』この尾江戸、夜空彩る花火のごとく、照らす希望の華たちに、またいつの日か、あはむとぞ思ふ。