本部

忘年会ですよ!

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2017/01/03 19:22

掲示板

オープニング

●忘年会ですよ!
 暮れも押し迫ってきた時期、会社などでは忘年会が執り行われる。HOPE支部でも、行事として設定されているし、予算もあるのだ。しかし。
「何しろ人数も多いですし、任務で日程が合わなかったり、土壇場で出席できなくなることも珍しくないところですので。全員が一堂に会して、というのは難しいんですよ」
 と、スタッフは説明した。
「そこで、ローテーション式というか、小さなグループで日にちをずらしてやることになっているんですよ。知り合い同士で参加してもいいし、いい機会だから初対面の人ばかりで集まって親睦を深めたりできるから、おかげさまでご好評いただいております」
 確かにHOPEという組織は一般の企業に比べると特殊で、下手をするとまったく顔を合わせないエージェント同士というのもありえるのだ。自己紹介程度でもあれば、もし任務で一緒になったときにもスムーズに行動しやすくなる。そういう意味でも有意義な催しとなっているのだろう。
 もちろん、日頃の疲れやストレスを飲んで騒いで吹き飛ばすこともできるのだし。
「会場は最大十二人まで入れる平屋の建物なんですが、実は隣に建っている居酒屋さんの所有物件で、夏はツーリングやバックパッカーのために格安で解放している家だそうです。自炊できる台所もあるので、あとで掃除するのであればそこも使っていいそうですよ。あ、もちろん忘年会コースで、おつまみとドリンク類も出ますけどね」
 料理は割と定番の、さしみ、スキヤキ、シーザーサラダ、唐揚げ、デザートにミルフィーユというコースだそうだ。ドリンクは飲み放題でメニューはビールやチューハイなどのアルコールとソフトドリンクだが、ウォッカやウィスキーのような度数が高いものはないらしい。
「時間は二時間程度でお願いします。お店からでるお料理などのお皿は置いていってもいいそうですが、それ以外に料理を作ったりして出たゴミや持ち込みの食器は持ち帰ってください。車で来た人、未成年の飲酒はもちろん厳禁ですよ! それでは、楽しい忘年会を!」

解説

 忘年会をします。居酒屋さんの別棟のような建物なので、他のお客さんに気兼ねせずに飲めます。夏の間はツーリング客などの宿泊施設として使用されている平屋家屋なので、台所が使えます。あとで掃除する分には、そこで自分達で料理してもいいそうです。
 忘年会コースで、飲み物はビール・チューハイなどのアルコール類、ソフトドリンクがでます。度数の高いお酒はありません。料理はさしみ、スキヤキ、シーザーサラダ、唐揚げ、デザートにミルフィーユというコースです。時間は二時間程度、お店からでるお料理などのお皿は置いていってもいいそうですが、それ以外に料理を作ったりして出たゴミや持ち込みの食器は持ち帰ってください。車で来た人や未成年の飲酒はもちろん厳禁です。

リプレイ

●HOPE忘年会
「ニック、忘年会だってさ! せっかくだから行ってみようよ!」
 HOPEスタッフから話を聞いて、大宮 朝霞(aa0476)は早くも気持ちが盛り上がっていた。
「ボーネンカイ? 朝霞、それはなんだ?」
「えぇ~と、年末にする飲み会のことだよ! みんなでお酒飲んだり食事したりして、今年一年お疲れ様ー! ってするんだよ」
「なるほど。それならば行かない理由もないな」
 ニクノイーサ(aa0476hero001)は異世界から来た英雄なので、日本の年中行事である忘年会は初体験だ。
 参加希望を出しておいたら、スタッフ経由で当日はプレゼント交換をするという連絡が来たので、二人もそれぞれ用意しておく。朝霞は毛糸の手袋、ニクノイーサはプレミアムなビール500ml缶一パック。
 そんなこんなで当日がやってきて、会場へ向かう。居酒屋さんの別棟ということだが、イメージよりも広くてシンプルな建物だった。
「こんばんはー! 私は大宮朝霞。こっちは私の英雄のニクノイーサです。今晩はよろしくお願いしますね!」
「よろしく頼む」
 初対面の人もいたので、簡単な自己紹介と挨拶が交わされる。まずは乾杯のために飲み物選びからだ。
「ニック! これが飲み放題のメニューだよ」
「ノミホーダイ? なんだそれは?」
「あれ、知らなかったっけ? えっと……ここに書いてある飲み物は、いくらでも飲んでいいんだよ!」
「なんだと!? いくらでもか!?」
「いくらでもだよ!」
「そうか。それは豪勢だな。では、俺はエール酒を頼む」
「エール酒はメニューに書いてないでしょ! ビールでいいわよね。すみません、ビール二つで!」
 エールはビールの上面発酵で作られるビールの一種らしいが、日本の居酒屋ではさすがに扱っていない。
「一年お疲れ様でしたー!」
「かんぱーいっ!」
 かしゃんかしゃんとグラスが触れ合う音が景気よく響く。
「食べ盛りの子も多いですし追加何か作りましょうか。リクエストは火鍋と鶏の水炊きですね」
 リーフ・モールド(aa0054hero001)が、荷物を開ける。すぐ食べられるように鶏がらスープと下拵えした具を持参してきたのだ。水炊きは地鶏ブツ切りを柔らかく煮込み、火鍋共々後は現地で火の通りやすい野菜や茸投入するだけ。〆に水炊きは雑炊、火鍋はラーメンを用意してきた。本場中国四川省の火鍋は、毛穴という毛穴からいろいろとにじみ出そうなくらいの辛さを誇るのだが、相当マイルドに調整し、辛くない白湯スープも用意してきている。
「あっ! 多々良さん、はじめまして! そちらは多々良さんの英雄さんですか? 追加でお料理を作るなら、何かお手伝いしましょうか?」
 リーフの様子を見た朝霞が、多々良 灯(aa0054)と彼女に話しかける。
「あ……初めまして。多々良灯です。こっちは英雄のリーフです……」
 灯はクールな表情で応対したが、実は内心で挙動不審になっていたりする。「他の皆さんと交流できるいい機会ですよ。参加してみましょう!」と、リーフに流されるまま参加した灯であった。
「やめておけ、朝霞。足手まといになるだけだ」
「きーっ! そんなことないもん!」
「具を鍋の中に入れていくだけですから簡単ですよ」
 朝霞がコスプレイヤーとして有名なので、話してみたいと思っていたリーフである。
「それかポン酢や器の用意でも」
「あ、じゃあお手伝いさせてください!」
 と言うわけで、備え付けの台所で二人は鍋の準備にかかる。
「ところで私もちょっと興味あるのですよ、コスプレ」
「ほんとですか!?」
 趣味の分野での共通項もあり、鍋の用意と同時にどんどん会話も進んでいった。
 一方その間も、席の方では盛り上がっていた。
 月夜(aa3591hero001)が家で作って持ってきた料理を、テーブルの空いたスペースに並べる。つまみ用に月夜が作った出し巻き卵、煮卵(玉手箱の中に盛り沢山)、茶碗蒸し、巾着卵、卵とトマトときゅうりの中華炒め 、ホワイトアスパラのポーチドエッグのせ 、ジャーマンポテトのオムレツという、見事な卵推しだった。
「卵ばっかだな……」
「だって美味しいし……」
 コレステロール云々という説もある世の中だが、彼らは日夜心身を酷使するエージェント。むしろ栄養価の高い卵をたくさん食べることはきっとメリットに違いない。たぶん。
「余ったら責任持って一真が食べます」
「え」
 咄嗟の無茶ぶりに反応が遅れた沖 一真(aa3591)であった。
「いい匂い~!」
 すでに相当食べているのに、匂坂 紙姫(aa3593hero001)はまったく満腹の様子も見せずに卵料理の数々に目を輝かせはしゃぐ。
「皆さんと店の人に迷惑になるから」
 キース=ロロッカ(aa3593)が窘め、紙姫の取り皿にいくつか料理を載せて渡してやる。紙姫は歓声を上げ、ぱくぱく食べ始めた。
「天真爛漫なのはいいですが、大丈夫かなこの子……」
「飲み物の追加は?」
 そんなキースに、桜小路 國光(aa4046)がメニューを持ってきて差し出す。
「ありがとう。あ、ボクホットコーヒーで……え、ないの? じゃあ烏龍茶でいいです。紙姫は?」
「アップルジュース!」
「だそうです」
「了解」
 他の人からも追加の飲み物の注文を聞いて、國光は店の人にオーダーを通す。さらに取り皿を配ったり、食べ終わった皿を片付けたり、端から見ると気を利かせ過ぎで落ち着きのない感じだ。
「……まるで『ホームパーティの主賓の奥様』みたいなのです」
 メテオバイザー(aa4046hero001)が呆れたように言う。
「いつも思うけど、誰からそんな言葉を教わるの? 君は」
 メテオバイザーは皆と仲良く食べているが、世話ばかり焼いてる國光に少しご機嫌斜めだ。
 そんな賑やかな席の一画で、孤独にグルメをしている一人の男がいた。

水炊きの湯気で曇る眼鏡(伊達)
古強者のご主人が営む隠れ家的な店
あったかいいい店じゃないか
刺身と日本酒だけでも時間まで寛げそうだ

 バルトロメイ(aa1695hero001)である。

唐揚げとは戦いだ
調味料のせいで焦げ付きやすい衣
焦って高温で揚げては失敗するし
かと言って時間をかけすぎては固くなる
この店のは絶妙だ
うまい なんだこの不思議な甘さは
塩麹だ
ヤンチャな中に大人の遊び心がある

 唐揚げはお店のメニューだが、リーフがソースを作ってきて味の変化を楽しめるようになっている。定番のレモン、チリソース、ねぎ塩だれ、甘酢&ピクルスたっぷりタルタルソースと幅広い。灯はマヨネーズが駄目なのでタルタルソースだけは避けているが、食べ盛りなのでもりもり食べている。他の参加者達にもちょっと付けソースは大好評だ。
 バルトロメイは頷き、リーフと朝霞が運んできた水炊きに挑むことにした。

水炊きが頃合いだ
唐揚げと水炊きで鶏が被ってしまった
固くて青臭い春菊は懐かしい味だ
たまらない

 一緒に店の方からスキヤキも運ばれてセットされているが、一人お椀一杯分くらいのちょうどいい量なので水炊きと一緒に食べても支障は無さそうだった。
「ほら! そういったことは気がついた人がすればいいのです!」
 とうとう見かねたメテオバイザーが、そう言って席に強引に座らせ取り皿に取ったスキヤキきを差し出す。見事山盛りだ。
「もう少し見栄え良く盛れないの?」
 國光は呆れたように取り皿を見たが、大人しく箸を取って食べ始める。
「これを食べるまで席を離れちゃダメですよ?」
 微笑ましいやりとりを横目で見つつ、バルトロメイは水炊きを堪能した。次はスキヤキの番である。
「飲み放題だから、どんどん飲まないと損よね!」
 とハイペースで飲み続ける朝霞。ニクノイーサは料理を物珍しそうにしながら食べる。
「朝霞、コレはなんだ?」
「らにぃ? それはスキヤキらよぉ。とってもおいしいわよぉ~」
「ふむ、たしかに」
 スキヤキ初体験の者もいた。バルトロメイは、静かに肉を口に入れて咀嚼する。

スキヤキだ
飯はまだか
スキヤキと言ったら白い飯だろうが

 しかし、この店ではスキヤキのしめはうどんなのだ。あらかた具材がなくなったところで、おもむろに投入される。

京風か味がしっかりしてる
うどんをおかずにご飯を食うなんて不思議な感じだ

 美味しいものは美味しい。
 うどんを食べてしばらくして、シーザーサラダが運ばれてきた。

シーザーサラダだ
スキヤキと卵が被ってしまった
どう使えばいいんだろうなこの和食コースに対して
シーザーサラダって味がぼやけてて好かねえんだよな

 とモノローグを流しつつも取り皿にサラダを盛りつけて、口へ運ぶ。味が濃かったり脂っこい料理が続いた後なので、サラダは正直嬉しいところだ。

お! このドライトマトイケる
クルトンもガーリック風味で塩味が効いてる
これだけ味がしっかりしてればおかずとして立ち上がって来るぞ
温泉卵も正解だ
月夜は卵大好きだもんな

 と、一心不乱に温泉卵のところを食べている月夜に視線を移す。案の定、とても美味しそうに食べていた。

紳士たるもの少女の笑顔は最高の調味料だ

 だがバルトロメイは、もう一つあることに気がついた。
「おいしいっ! おいしいよ キース君このお料理!」
「分かりました。分かりましたからそんな頬一杯にしないの。仮にも女の子なんだからもう少しお淑やかに……ダメですか」
 キースもサラダを食べてはいるが、トマトを巧妙に避けていた。もったいない。

どうしたキース、トマト食ってねえじゃねえか
好き嫌いすると筋肉つかねえぞ
おぅ よそってやろう

「あ、ちょっとバルト、ボクトマト嫌いですから皿の上にトマトばっか寄せないで下さい。だからやめてって、もう」
 抗議は聞かなかったことにした。
 さて、舌と胃がさっぱりしたところで、火鍋の降臨である。

火鍋か
これは辛いぞ
あとから辛味が来る感じだ
ティアはやめときなさい
辛い辛いぞ
胃が焼けそうだ

 そうは言っても、辛くないスープがあるおかげで、辛さも楽しめるようになっている。
「大丈夫だとは思いますけどおのこしは許しませんよ」
 制作者リーフも笑顔でそう言うので、バルトロメイは遠慮無くすべての具を堪能した。水炊きの雑炊も美味しかったが、火鍋のしめのラーメンもなかなかだった。
 そろそろ朝霞の方は酔いが回ってきていて、へろへろしながらリーフと何やら語らっていた。リーフは酒豪のようで、ソーダで割っているとはいえ梅酒や杏露酒などを水のように飲んでけろっとしている。
 少しお腹が落ち着いた辺りで、メテオバイザーがお弁当箱のような物を取りだした。蓋を取ると、キッシュが入っている。
「出す為の皿を持ってきてないんですか?」
「取り皿の追加くらいお店に頼めば貰えるのです」
 どや顔のメテオバイザーは、早速お店スタッフに取り皿の追加を頼みにいった。使い終わった皿やグラスをついでに下げるのも忘れない。
 月夜の卵づくしもだが、キッシュも大変美味しかった。味付けが家庭的なのがまた、心がほっこり満たされる。この店の料理も楽しめるが、お店と家庭料理の味わいは異なる魅力があるものだ。
 差し入れも多かったが、わいわい騒いでいるとそれだけでカロリーが消費されるのだろうか。またお腹が落ち着いてくる。そこを狙い澄ましたかのように、最後のデザートメニューが運ばれてきた。ミルフィーユだ。パイ生地と生クリームを交互にサンドしたケーキで、さくさくした歯ごたえと生クリームの甘さ、そしてイチゴの酸味が絶妙なハーモニーを奏でる人気のケーキである。

ミルフィーユってミルフィーユカツじゃないのか
ティアにこんな蛋白質無い物食わせられるか
……まあいい今日はパーティだ
明日カロリー消費させよう
苺をやるぞ
ビタミンたっぷりだぞ

 バルトロメイは、そっ……とセレティア(aa1695)のミルフィーユの上に苺を載せた。セレティアはメテオバイザー達とわいわい盛り上がっていたが、その動作でバルトロメイを振り返る。
「なにモノローグで語ってるんですか? 会話しましょうよ」
 孤独なグルメが、相方には完全にダダ漏れしていたようである。

●いろいろありました
「今年の思い出はなんと言ってもみんなで行ったいくつもの依頼ですね。京都行ったり、珍しい島に行ったりもそうですけど、強大な敵にみんなと戦って、とどめを刺したり……。あの時のサクラコは本当に格好良かったですよ」
 成人している者はアルコールも回り、未成年ものりでテンションが上がる。話題は一年間の思い出などに移っていった。
「あたしはおいしいものを一杯食べた!」
「……ちょっと恥ずかしいんですけど、ねえ?」
 キースと紙姫の話題を皮切りに、各々思い出を語り始める。
「なんだかんだ言って突っ走ってここまで着ちゃったからなぁ……来年はゆっくりしたい…むしろ、ゆっくりさせて……単位苦しい……」
 次第に小声になる國光。兼業のエージェントは大変である。
「戦うだけじゃない思い出もたくさんできましたね。温泉とか……猫とか……お菓子とか……」
 メテオバイザーは、目を細めて遠くを見るような顔つきになる。
「誓約してしばらく、私がずっと幻想蝶から見ているのも知らずに、アイドルグループの雑誌を部屋でこっそり読んだりしてましたね」
 月夜はなぜか一真の暴露大会に突入した。
 おうふという顔つきになった一真も、負けてはいない。
「誓約してしばらく、幻想蝶から出てこなかったが、家の菓子をこっそり盗み食いしてたよなー」
「あれは盗み食いじゃないし! 一真のお母様にもちゃんと許可貰って食べてたんだからね!」
「え、そうなの?」
 ちょっとした秘密も明らかになったようだ。
「人質を取って逃走するヴィランとカーチェイスしたこともあったけ?」
「……あれは、すごくハラハラした。今はもう慣れたけど」
 ハードな任務もたくさんある。HOPEエージェントだからしかたがないが、思い出としてしみじみ語れるようになったということは、幸せなことでもあるだろう。
「毎日良いものを見れて幸せですよ……」
 傾けるグラスに隠れて、リーフは面々を観察している。正確には、目を合わせて語らう殿方達を。酒では酔わないが、名状しがたい何かが彼女の中でいつも以上に研ぎ澄まされている。
 灯は満腹の満足感で半ばとろんとなっていたが、留守番している英雄が出がけに愛犬共々「ぎゃるる」という顔になっていたのを思いだして、お土産に唐揚げを買って帰ろうと考えていた。
「幼馴染と色々やったなあ……」
 思わず遠い目になる。一緒にエージェントをしている幼馴染み達とは、共に任務行動することも多い。
「癒しの白いもふもふと出会った。これは運命」
 もふ愛は、常に胸の中に滾っている。
「そうら! プレゼント交換ら! 宴もたけなわでプレゼント交換ら!」
 かなりぐでんぐでんの朝霞が、突如立ち上がった。
「おいおい朝霞、飲み過ぎだぞ。大丈夫か?」
 すかさずニクノイーサが、彼女を支えて座らせる。
「あ、でもプレゼント交換いいですね。そろそろやりましょうか」
 セレティアが言って、持参したプレゼントに番号を振り、くじ引きで決めることになった。
「なにこれ? なにこれ? やったー!」
 朝霞がさっそく当たった包みを開けて、歓声を上げる。
 シンプルデザイン大きなポケットが使いやすい、来年の手帳と手帳カバーだ。手描きの絵入りメッセージカードつきで、『来年もよろしくお願いします』と記されていた。セレティアからのプレゼントだ。
 セレティアはそんな朝霞の反応を見て嬉しそうにしていたが、自分のもらったものについてはどうしようかなと思っていた。ニクノイーサが持ってきたビールが当たったのだが、未成年なのである。まあこういう斜め上からのハプニングもプレゼント交換の醍醐味だし、何とかなるものだ。
 そしてそのバルトロメイは何も言わず、自分に当たったリーフのトートバッグにビールを詰めた。ユニセックスなアースカラーでA4サイズの、男性が持っても違和感のないシンプルな一品だ。くじの不思議な巡り合わせで、早速重宝することになった。
「これは何に使えばいいんだ?」
 御御籤筒を引き当てたニクノイーサは朝霞に尋ねたが、既にできあがっている彼女からは明確な答えが得られない。
「ええと、今日の運勢を占うのに使うもので……」
 プレゼント主の一真が、訊かれるまま丁寧に使い方のレクチャーをすることになった。一真が当たったプレゼントは、キース持参の天秤を象ったバッジだった。相手を指さして「異議あり!!」とか遊べそうな凝ったデザインだ。
 ニクノイーサは早速筒を上下に振っておみくじを出して見る。一真もどこにバッジを付けたらいいか、服のあちこちで試してみた。
 紙姫は、バルトロメイが持ってきた重い鉄のフライパンをもらった。重い。しかし使い込む程味が出て百年使えるほどよい品物だ。高温調理でいつもの肉もパンケーキもワンランク上の美味しさに。なかなか自分では買えないので、お得感もある。
 でも彼女がしばらくこれを使うことはないだろうなぁ、と思っているのはキースだ。でもその場合も、自分が例えばホットケーキでも作ってあげれば、彼女は喜ぶだろう。それはそれで楽しそうだとも考える。ちなみに彼がもらったのは國光が持ってきた高級筆記具だった。これもまた、自分ではそうそう買えない一品。キースは学生なので、学校でも使える。
「誰にあたっても大丈夫なのって難しいよ」
 と國光は苦笑していたが、実にナイスチョイスと言えよう。
「あら、これは……?」
 リーフは、当たった物を見て首をかしげていた。それもそのはず、店に備え付けのナプキンにボールペンで何か印のようなものが書かれたものが当たったのだ。
「あ、それは私のです」
 プレゼントに当たった紙姫持参のふわふわ耳当てを早速装着したメテオバイザーが、気づいてリーフのそばへ寄る。そして、彼女の名前を確認すると手提げから小さな包みを取り出した。
「改めて、どうぞ」
 リーフは礼を言って受け取り、包みを開けて目を見開いた。
「まあ」
 イニシャルが刺繍されたハンカチだった。さらにアルファベットの周りにアラベスク模様が着いているという凝ったデザインだ。なんと、メテオが昔時間を見つけては作っていたものだそうで、ちゃんと二十六文字分あるのだという。
「当たった人のイニシャルを出すのです」
 というわけで、ハンカチ二十六枚ちゃんと持ってきたそうだ。
「ありがとうございます」
 とてもおしゃれで嬉しい一品に、リーフは改めて感謝を延べた。
「むむ」
 一方、國光は包みを開けて出てきたものとじっと見つめ合っていた。灯が用意した鶏のきぐるみ着用マルチーズぬいぐるみだ。めっさかわいらしい。もっふもふだ。実はもふもふ布教の一環だったりするのだが、もちろんそんなことを國光は知らない。
 持って帰って部屋に飾るか、と考える。鶏の着ぐるみを着ているから、干支の縁起物でもあるし。御利益があったら嬉しい。あとやっぱりかわいいし。
 國光がぬいぐるみを大事そうにしまう様子を、灯は満足げに眺めている。彼がもらったのは月夜が持ってきた折紙だ。色とりどりでとても美しい。折って何かを作るもよし、飾って楽しむもよし。綺麗な色というのは、人の目も心も和ませる。
「ありがとうございます」
 贈り主の月夜を探し当てて、灯はきちんとお礼を言った。月夜も嬉しい気持ちでそれに答え、自分に当たったプレゼントを大切に胸に抱えた。
 けっこう時間が経ったように感じていたが、まだ終了時刻まで少しある。月夜は自分のプレゼントを見せようと、一真を探した。当たったのは朝霞の手袋で、恐らく性別年齢問わず使えるように考慮したのだろう、色合いもシンプルで使いやすく暖かい品物だ。
「あ」
 一真が宴の席を離れ、隣の台所の方に入っていく。かなり室内は暑くなっていたから、多少温度の低いそちらへ移動しようとしたのだろう。月夜もそっとそのあとを追った。
 彼女に気づいて振り返った一真に、早速手袋を嵌めて披露する。一真のバッジも見せてもらって、お互いいいものが当たったと喜び合って――。
 ふと、会話が途切れた。
 同時に、思い出が蘇る。
 夏祭りの際、一真と月夜は互いの気持ちを伝えあった。小声で。耳元で。
 来年はもっと距離を縮めたいと思う月夜だが、奥手な上に、一真はその気持ちに気づいているのかいまいち分からない。
 来年こそは……。
「来年は……」
 どきりとする。心の中の呟きと、一真の声が重なって。
「来年も一緒に頑張ろう」
 だが続いた言葉に、月夜は苦笑するしかなかった。告白だとしたら、何とも押しが弱い。
 でも、これが彼という人だ。
 溜息をついて、彼女は微笑む。
「また長い一年になりそうだね」
 楽しそうに。

●また来年
 喧噪を外れた者達は、他にもいた。
「随分、騒がしくなりましたね」
 メテオバイザーが、周りを見ながら言う。
「本当にな……」
 同じく周囲に視線を巡らせ、國光が答える。
「他の能力者への愛想も良くなりましたよね」
「うるさい……でも、悪くないかもな」
 ちょっと静かな一画で、二人だけの思い出話に浸る。一年ももうすぐ終わる。こういう時間を共有するのも悪くはない。
 今日は楽しかった。料理もよかったし、集まったメンバーとも盛り上がった。思いがけないプレゼントももらったし。
 しかし、楽しい時間も終わるものなのだ。やがて店のスタッフが終了を告げに来て、一同は名残を惜しみながらも帰り支度を始めた。
「今日はありがとうございました」
「また機会があったら!」
「よいお年を!」
「お気を付けて」
「また来年!」
 口々に挨拶を交わし、ある者達はそこで解散、途中まで帰り道が一緒の者達はわいわい話ながら帰途につく。
「あー楽しかった。こうして色んな人と縁を結ぶということが嬉しいですね、紙姫?」
「そうだねキースお兄ちゃん!」
 元気よく答えた紙姫は、いつもの彼女だった。少なくともキースはそう思った。
 でも。
「どうしたんですか急に……行きますよ」
 並んで歩く間隔が、いつもよりほんの少し近くなった気がした。
 手がかかるけど愛らしい妹。そんな風に思っている。
 来年も一緒に。
 そんな風に、思った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
    人間|18才|男性|攻撃
  • 腐り神
    リーフ・モールドaa0054hero001
    英雄|23才|女性|ブレ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
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