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クリスマス関連シナリオ

【聖夜】灼熱のクリスマス

弐号

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/01/28 10:13

掲示板

オープニング

●炎の魔人
 聖なる夜に雪が降る。
 ここは人の賑わう観光地のスキー場。先日の大雪のおかげで予定よりも早くオープンで来たスキー場はこのクリスマスと言う時期もあり、カップルや家族連れでそれなりの賑わいを見せていた。
 恋人たちが愛を語り合い、親が子に滑り方を教えともに滑る。それは幸せの集まる光景だ。
 スキー場もイルミネーションや飾りなどで精いっぱい幸せなクリスマスを演出していた。

 ――そこに現れたのは炎の従魔。その数3。
 燃え盛る炎に身を包み、荒れ狂う炎の魔人。
 幸せなクリスマスは灼熱の炎に包まれた。

●緊急手配
「スキー場に炎の従魔だと!?」
 その一報を受け取ったのはH.O.P.E.のベテラン事件担当官奥山 俊夫(az0048)だった。
「位置は――コースの3分の1付近……いかんな」
 その案件に即座に担当の許諾をしながら、同時に自身のパソコンに手を伸ばし操作する。
「まだ出現して5分も経っていないか。発見が早かったのは幸いだな」
 人の多い場所で現れた従魔や愚神は緊急性も高いが同時に発見も早い。迅速な対応をしなければ被害が出る為、厄介な存在であることに間違いはないが、今回の場合は猶更だ。
「時間との勝負だな」
 時計を見て、ごくりと喉を鳴らす。
 従魔による直接の被害、それも当然懸念される事態だ。しかし、今回はそれ以上に警戒しなけれならない問題がある。
 ――雪崩だ。
 まだ雪も定着しきっていないこの時期、山の中腹に大きな熱量を持った従魔が長時間居座れば、当然雪の地盤が緩み大きな雪崩の起こる可能性がある。
 一刻も早く対処しなければとんでもない事になる……。
 それを自覚し奥山の眉間に深く皺が刻まれる。
「ワープゲートを使うか? いや、この距離ならむしろ……」
 思い立ち即座に受話器を手に取り、内線をH.O.P.E.の車両等の管理を行っている部署に回す。
「奥山だ。すまんがヘリを一台確保しておいてくれ。細かい指示は追って出す」
 受話器の向こうの相手が了承するのを聞き遂げ、奥山は受話器を置き、即座に対応できそうなエージェントの選別に移った。

解説

・目的
スキー場に現れた炎の従魔を速やかに排除せよ

・敵
デクリオ級従魔「ジャーマ」 ×3 ※PC情報
 炎で全身を覆われた人型従魔。身長は2m強。地面に足を着けておらず、常に数cm浮いている。
 炎の塊と言うよりは、人型の芯がありそれが常に炎を噴き出しているという風である。
 図体の割りに動きは割と素早い。
使用スキル ※PL情報
炎球:炎の弾を飛ばし、爆発させる。射程15範囲3。
炎拳:命中と同時に炎を噴出させ相手を吹き飛ばす。
炎身:炎由来の攻撃のダメージが1d6減少、冷気や氷由来の攻撃のダメージが1d6上昇する
   また、冷気や氷由来の攻撃のBSは無効化し、代わりに1d6の追加ダメージを受ける。

・状況
 時刻は夕方5時頃。季節柄薄暗いが、スキー場なのでライトアップはしっかりしている。
 敵の位置は頂上から少し降りた斜面、スキーコース全体の3分の1程の地点である。
 従魔は3体とも固まって行動しており、現在は斜面を少しずつ下っている。
 敵の遠距離攻撃を警戒し、ヘリは500mより近づくことはしない。
 敵の上方で降りるか、それとも下方で降りるか、あるいは500m上空から降下するかはエージェントの指示に従う。
 スキー場の施設内部までの避難は比較的進んではいるが、万全ではない。
 また、交通渋滞の関係で山を下りる事が出来ているのはほんの一部である。

リプレイ

●雪原降下
 ゲレンデの真っ白な雪を背景に真っ赤な三つの炎見える。
「スキー場に炎系の相手なんて危険です! 可能な限り早く片付けないといけませんね」
 その姿を確認すると同時に慌てて飛び出そうとした天野 雛(aa4776)に
「意気込むのはいいけど、本格的な実戦の依頼は初めてなんだから慎重にね」
 と落ち着けるように声をかけてイーグレット(aa4776hero001)は敵の姿を確認する。
「……炎を纏ってるって聞いて来たのにね、Alice」
 ハッキリと見え始めた炎の形にアリス(aa1651)が隣りに立つAlice(aa1651hero001)に声をかける。
「人型なら違うね、アリス」
 髪の色と瞳の色がそれぞれ赤と黒で逆な事を除けば二人の姿は鏡で映したかのようにそっくりである。
「残念だね」
 静かで淡々としているがそれでも微かに落胆の気配を感じられる声でアリスが話す。
「とても残念」
 もう一方のAliceの声はさらに冷たく一切の感情が感じられない。
 そのアリス達とは反対にテトラ(aa4344hero001)は炎を纏うジャーマの姿を感情も露に睨み付けていた。
「杏子、こいつらは絶対に倒せ」
 いつになく敵意をむき出しにするテトラに杏子(aa4344)は炎を纏う従魔から視線を戻す。
「どうしたんだい? いつにも増して殺気立って」
 普段は無表情で感情を顔に出さないテトラの顔に今は明らかな敵意が浮かんでいる。
「……何でか知らないが、炎を纏った奴を見ると腹が立つ」
 理解できないその感情にすら苛立つようにテトラは吐き捨てるように言葉を口にする
 そのテトラの横顔をじっと見つめて杏子は
「そうなのか。まあ、どのみち逃がす気は無いよ」
 そう言ってジャーマへと視線を戻す。
 ヘリがゲレンデの上に入り速度と高度を落とす。
 パイロットが降下可能の合図を出すと同時に雛がキャビンのドアを引き開けた。
「そ、それでは一足お先に失礼しますぅぅぅ!」
 言葉と一緒に雛がヘリから飛び出して行く。
「トラ、あの人、一人で行っちゃったね」
 キャビンの隅に隠れるように座っていた獅子ヶ谷 七海(aa1568)が黄色い猫のぬいぐるみに話しかける声を聞きながらイーグレットが慌てて雛の後を追ってヘリから飛び出す。
「確かにこれが一番手っ取り早いけどねぇぇぇっ!」
 無茶をした雛と本格的な実戦任務が初めての雛の緊張を見抜けなかった自分に腹を立てるように声を上げてイーグレットが空中で雛に追いつき共鳴する。
 雪面に激突する寸前で共鳴した雛が体を丸めて転がるように着地する。
『落ち着いて雛、大丈夫よ』
 回転の勢いのままに飛び起きた雛にイーグレットがゆっくりと声をかける。
『まず装備の確認、それから移動よ』
 静かだがハッキリしたイーグレットの言葉に雛が頷く。
 イーグレットとの誓約『装備品の手入れを欠かさないこと』により何度も繰り返して身に付いた動きが自然と雛の心を落ち着かせる。
『では、行きましょう』
 雛が落ち着いたのを見計らってイーグレットが声をかける。
「はい」
 そう応えて雛はアサルトユニットの力場を展開して雪面に浮き上がる。

 五々六(aa1568hero001)は無事に着地出来たらしい雛から目を離してゲレンデ全体を見渡す。
 現場に居合わせたという、狒村 緋十郎(aa3678)と雛の他に誰もいないはずのゲレンデに人影が有った。
 コース脇の茂みでヘリに手を振る姿を確認して五々六は一度ジャーマへと目を向けるとめんどくさそうに息を吐き出して七海へ「おい」と声をかける。
 五々六に呼ばれた七海がビクリと体を震わせてぬいぐるみから顔を上げる。
 どこか怯えたようなおどおどとした七海の表情を一瞥して五々六はそれ以上何も言わずに七海から目を離すと。
「従魔はおまえらに任すぜ」
 他のメンバーにそう告げてヘリの外へと無造作に飛び出す。
 急に飛び出した五々六を慌てて七海が追い駆ける。
 勢いのまま飛び出した七海が落下の浮遊感に声にならない悲鳴を上げて顔を強張らせる。
 ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて固まった七海を空中で乱暴に掴まえると五々六は七海と共鳴する。
 共鳴により七海と同じ体に宿った五々六が空中でサーフボード007を現す。
 大きなボードで風を受けて減速すると五々六は落下の勢いのままに波に乗るようにゲレンデを滑走する。
 五々六と同じようにゲレンデに取り残された人に気付いたアリス(aa4688)も葵(aa4688hero001)と共鳴して五々六に続いてヘリを降りる。
「僕らも行きましょうか」
 ジャーマに最も近づいた位置で茨稀(aa4720)がファルク(aa4720hero001)に声をかける。
 これ以上はジャーマから攻撃を受ける可能性が有るためヘリが近づくことは出来ない。
「そうだな、行くか」
 静かで冷たい茨稀の声とは逆にファルクの声はどこか華やかで明るい。
 全く逆のように見えてその言葉の奥に同じ壁が見える二人が共鳴し一つになる。
 怪しげに光る金色の瞳とその身に纏う黒豹のような雰囲気そのままに茨稀は静かにヘリから雪原へと降りる。
 体のばねを使い音を殺して降り立った茨稀は獲物を狙う豹のようにその気配を景色へと溶け込ませ、視界にジャーマを捉えたまま確実に敵を破壊する瞬間を待つように息を殺して潜伏する。

『まさかこんな所で従魔に出くわすとはな……!』
 アサルトユニットで斜面を駆け上がるレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)に公私共にパートナーである緋十郎が声をかける。
「わたし達の初クリスマス、邪魔した罪は重いわ。その命で罪を償いなさい……!」
 一緒になって初めてのクリスマスを邪魔されたのがよほど気に入らなかったのかレミアの声には珍しく苛立ちが混じっている。
 突然、レミアが速度を落とす。
 その目の前に雪を蹴立てて五々六がボードを止める。
「なによ?」
 無遠慮な五々六の視線にレミアが静かに冷徹な声で応える。
 何か考えるように僅かに沈黙して五々六は
「敵は任せるぜ」
 そう言って横に動いて道を譲る。
「どういうつもりよ?」
 レミアの静かな問いかけに
「人命救助だよ」
 言葉に似合わない酷薄な笑みを浮かべて五々六が答える。
 その言葉にレミアは唇の端を少しだけ笑うように持ち上げる。
「そう、では救助は任せるわ」
 五々六の言葉を面白がるようにそう言うとレミアはアサルトユニットを再び起動する。
「だけど、サボるつもりなら急いだほうがいいわよ」
 横を通過しながら囁いたレミアの言葉に五々六は
「急がねぇと、甘酒飲んでる時間が無くなりそうだな」
 どこか愉快げに凶悪な笑顔を浮かべて斜面を滑り出す。

 ヘリはジャーマの上を越えてゲレンデの頂上に到着していた。
「クリスマスに迷惑な従魔共だな」
 見下ろした視線の先に見えるジャーマの炎とスキー場の施設の明かりを視界に収めて日暮仙寿(aa4519)がどこか冷めた声で口にする。
「一般の人達もまだ避難完了してないみたい。なるべく早く片付けないと」
 対する不知火あけび(aa4519hero001)の声は明るく温かい。
 脇に立つあけびの横顔を横目に収めて
「明かりがあるとはいえ日が落ちたら面倒だしな」
 仙寿はそう口にする。
 冬の太陽の最期の欠片があけびの横顔を明るく照らしている。
 仙寿の視線に気付いたように顔を向けたあけびから慌てて視線を逸らして仙寿はジャーマの炎へと目を向ける。
「早く片付けてしまおう」
 あけびに視線を向けないまま仙寿は声をかける。
「そうだね」
 応えたあけびの温かな声と共に二人が共鳴する。
 その背に大翼の幻影が浮かび長い銀髪が風になびき最後の残照を受けて輝く。
「では、行くか」
 二人別々ならば未だ至れぬ静かで穏やかな気配を湛えて、共鳴した仙寿が雪原に踏み出す。

「炎……暑いのは、苦手かな」
 仙寿たちと同じように頂上に降り立った大門寺 杏奈(aa4314)が熱気にあぶられた空気が作る陽炎のような揺らめきを見つめて独り言のように呟く。
「大丈夫ですわよ。デクリオ級なら気に留めるほど強力ではありませんので」
 その言葉に含まれる微かな不安を払うように横に立つレミ=ウィンズ(aa4314hero002)が声をかける。
「ただ、一般の方がまだ残っていらっしゃるゆえ早めに仕留める必要がありますわね」
 その目はジャーマよりも下、スキー場施設に灯る明かりへと向いている。
「わかった。今日は遠距離攻撃を試してみたい」
 そう言った杏奈に優しく微笑んで頷くと
「いいですわよ。わたくしは弓も経験しておりますので、意識しなくても私の記憶を使って自然に撃てるはずですわ」
 レミはそう言って杏奈と共鳴する。
 杏奈の美しい銀髪がさらに伸び陽光に煌めく新雪の輝きを湛えて風に広がる。
 その手に光弓「サルンガ」が現れる。
 従魔を打ち倒すべき強い怒りと決意が共鳴した二人の内側に湧き上がる。
「ありがと。命中には自信あるからちゃんと当たると思う」
 炎を噴き上げる三つの影に視線を向けて杏奈は弓に矢を番える。

 二人に続いて晴海 嘉久也(aa0780)もヘリから降り立つ。
「今回はグロリア社が色々と新装備を出したばかりなので、色々と慣れる事も兼ねての実戦になりそうですね」
 実際、幾つかの装備は実戦で使うのは今回が初めてである。
「油断せずに行きましょう」
 横に立つエスティア ヘレスティス(aa0780hero001)の言葉に
「そうですね、スキー場とはいえ雪山ですし油断はせずに行きましょう」
 そう応えて嘉久也はエスティアと共鳴する。
 嘉久也の髪が燃え盛る炎のような真紅へと変わりその瞳も鋭い眼光を宿す紅蓮へと変わる。
「では、行くか」
 新装備の一つであるアサルトブーツの履き心地を確認するように足を動かしてから嘉久也は力場を展開して体を雪面の上に浮かび上がらせる。
「とりあえずは考えすぎずに行って殴るとするか」
 エスティアとの会話を思い出してそう呟くと嘉久也は魔導銃50AEをその手に現し、斜面を滑走し始める。

「……さて、“あいつ”じゃないならオーダー通りにやるだけかな」
 先に降りた仙寿と嘉久也の背中を見送ってアリスは誰にともなくそう言葉を口にする。
 二人のアリスは一人になりその髪も瞳も共に炎の様な、血の様な紅へと変わっている。
 慌てる様子も無く静かに踏み出してアリスは極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』を開く。
 開かれたページからアリスの紅い姿と同じ真紅の劫火が吹き上がる。
「奇遇だね、私も炎が一番得意だよ」
 戦う意思を漲らせ炎を噴き上げるジャーマにそう言ってアリスは劫火を解き放つ。

●スノーサーフィン
「男がガタガタとうるせぇよ」
 コース脇の茂みで足を折って動けなくなっていた男を手早く手当てしながら五々六は斜面の上の方から聞こえて来た戦闘音に顔を上げる。
 従魔程度とはいえ戦えばそれなりに破壊衝動は満たせるだろう。
 あえて、というほどの執着も無いとはいえやはり戦闘音を聞けば少し惜しいような気分にもなる。
『トラ、五々六はこの人を壊しちゃうかもしれないね』
 大げさに悲鳴を上げる男の声に七海がトラに話かける。
「大げさなんだよ」
 めんどくさそうにそう口にして添え木を当てた足を軽く叩くと男が一際大きな悲鳴を上げる。
 この程度の怪我など珍しくないだろうにと思いながら溜まった苛立ちを吐き出すように五々六は大きく息を吐く。
「ったく、ガキの体だと不便で仕方ねぇな」
 七海の身長は127cm、対して男の身長は180cmは有る。
 担いでいくにも引きずって行くにもこの姿では面倒だった。
 少しだけ考えるように目を伏せて五々六はヴァルキュリアを現す。
「まぁ、使えるか」
 目の前に現れた大剣に男が逃げ出すように後退る。
「死にたくなければこれにつかまれ」
 五々六の言葉と剣呑な視線に慌てて男が大剣の鍔にしがみつくように掴まる。
『絶対この人殺されると思ったよね、トラ』
 同じ体に有りながら別々に感じる七海に意識に
「何もしないなら黙ってろ」
 そう言って五々六は大剣の柄を掴んで雪面を蹴って滑り出す。
 滑らかな斜面にボードが気持ちよく滑走する。
「良い斜面じゃねぇか」
 頬を撫でる心地よい風に五々六が機嫌よさげに笑みを浮かべる。
「テール・マニュアル……からのフロントサイド360!」
 飛び上がり空中で剣の柄を離すと五々六はぐるりと360度回転して剣の柄を空中でつかみ直して着地する。
 それで気分がさらに乗ったのか、さっきまでのめんどくさげな雰囲気は吹き飛んで楽しげな笑顔を浮かべている。
「カットバック・ダブルバックフリップ! Whooo!」
 ご機嫌な声を上げる五々六の後ろでは
『この人泡ふいてるね』
 七海の言う通り必死に振り落されないように剣にしがみついて男が目を回していた。

●雪上戦闘
 燃え盛る劫火の魔法を受けて平然と立つジャーマの姿に
「……? ……ああ……まぁそうだよね、効きづらいのは道理」
 一人納得するように頷きアリスは
「じゃあ、こっちはどうかな」
 そう言ってアルスマギカの魔法を劫火から水流へと切り替える。
 アリスへと狙いを定めた三体のジャーマへと上から滑走して来た嘉久也が魔導銃を撃ち込む。
 銃弾を躱すように一度大きく広がり三体のジャーマが嘉久也を目標と定めて動き出す。
 そのジャーマの背後へと下から登って来た雛が追いつく。
『雛、周りの炎ではなく人型を狙うのよ』
 イーグレットの言葉に雛の銃口が迷うように揺れる。
「スコープ覗いてる暇が無いよ……」
 お互いに高速で移動している機動戦ではスコープを覗いている余裕は無い。
『大丈夫、雛なら出来るよ』
 イーグレットが雛を励ますように声をかける。
『大事なのは信じる事よ』
 嘉久也を追っていた三体のうち一体が背後の雛に気付き振り返る。
『敵をよく見て』
 ジャーマが放った炎球が直前まで雛がいた場所を通過する。
 爆発の音を背に聞きながら雛は視線をジャーマの体の芯に据える。
「私と」
『あたしなら』
 迷うように揺れていた銃口が止まる。
「『当たる!』」
 まるですべてが噛み合うように自然と指がトリガーを引いていた。
 弾丸がジャーマの体を貫く。
 その間に魔法の準備を終えたアリスの水流が嘉久也を追うジャーマに放たれる。
 背後から襲い掛かった水流がジャーマの炎とぶつかり相殺するように消失する。
「もう少しかな」
 アルスマギカの水流が凍り、冷気へと切り替わる。
 水流を受けてアリスへと向き直ったジャーマの背後からフロストウルフが襲い掛かる。
「ふふ、狼は吸血鬼の眷属よ、このわたしに相応しい魔術だわ」
 フロストウルフの冷気がジャーマの炎を喰いちぎる様子に満足げに微笑んで黒翼の様なライヴスの奔流を背に浮かべたレミアが冷魔「フロストウルフ」を召喚して解き放つ。
「さぁ霜の狼よ……あの不埒な炎の魔人を喰い破りなさい……!」
 向かい来る霜狼を迎え撃つようにジャーマが腕を振るうがその腕をかいくぐり霜狼はジャーマの胴へと喰らいつく。
 霜狼の冷気とアリスが放った冷気の魔法がジャーマの炎を弱らせ人型の芯を露わにする。
 その瞬間を茨稀は待っていた。
 狙いすまして放たれた短槍《白鷺》が光を纏いジャーマの芯を貫く。
 予期せぬ場所からの攻撃にジャーマが狼狽するように動きを止める。
 その隙を逃さず飛び出した茨稀の中槍《烏羽》の刃が闇を纏い更なる一撃を加える。
 冷気を振り払い再び怒るようにジャーマの炎が燃え上がる。
 咄嗟に槍を引き戻して茨稀が拳を防ぐが、拳から吹き出した炎が防御ごと茨稀の体を吹き飛ばす。
 大きく弾かれた茨稀が雪に足をとられて姿勢を崩す。
 茨稀へと追撃の炎球を放つかに見えたジャーマが突然、何かに呼ばれたかのように向きを変える。
 その視線の先に月弓「アルテミス」を構えた仙寿の姿がある。
 放たれた矢と炎球が空中ですれ違い、迫る炎球を仙寿が体を反らすようにして避ける。
 熱気が頬を炙り流れた白銀の髪の先を焦がす。
「さすがに熱いな……それにこの攻撃、何度も使わせるわけにはいかない」
 炎球が背後で爆発する音を聞きながら仙寿は倒れる力に逆らわず回転して体を起こす。
『そうだね。敵への攻撃は勿論だけど、ちょっと妨害もしたいかな』
 あけびの言葉を聞きながら仙寿は膝立ちの姿勢で腰の剣の柄に手を添える。
「ああ、心得ている」
 一言応えて仙寿が弾かれるように前に出る。
 矢を避けたせいで体勢が崩れていたジャーマの反応が遅れる。
 EMスカバードの電界で加速された守護刀「小烏丸」が閃くようにジャーマの体を吹き抜ける。
 よろめくように下ったジャーマに追撃を放つことなく仙寿が下がる。
 残されたジャーマの両脇を雛と嘉久也が駆け抜ける。
 その後を追いかける二体のジャーマともう一体が並ぶのを見計らって反転した雛がAK-13の弾丸をフルオートでばら撒く。
 銃弾に押されるようにジャーマの動きが止まる。
 上空のヘリで杏子はその瞬間を待っていた。
 水をたっぷりと染み込ませたハイパークールタオルを手に杏子が宙に身を躍らせる。
 隙間なく並んだ無数の刃がジャーマの周りに現れる。
 光を受けてキラキラと輝く刃が嵐のようにジャーマの炎を切り刻む。
 そして、刃の嵐が治まると同時に三体のジャーマの中央に杏子が降り立つ。
 パァンパァンパァンと小気味よい音を立てて濡れたタオルがジャーマの体を叩き、タオルの冷気が炎の熱を奪う。
「ふむ……あれが芯ね。そこを狙わないと攻撃も効かなそう」
 杏子を囲む三体のジャーマをトゥーヴォワールグラスの広がった視界に収めて杏奈が光弓「サルンガ」を構える。
 時間をかけてライブスを注ぎ込んだ矢は光の様なエネルギーを纏っている。
「力を貸してジャンヌ」
 杏奈の言葉に応えるようにその背に銀白色に輝く翼が広がる。
 翼から溢れた光を集めたようにライブスブローの力が矢の先端に更なる輝きを与える。
 まるで太陽のようなその輝きを湛えた矢を杏奈はジャーマへと向ける。
 押し包むような三体の従魔の腕をかいくぐり杏子がその囲みから逃れる。
「誇り高き陽光よ、悪しき炎を振りかざす者に断罪の光を!」
 放たれた矢がジャーマの芯を直撃する。
 爆発するように広がった真昼の様な光が三体のジャーマを巻き込んで広がる。
「敵は全員速やかに排除……1体も生きて帰さないわよ」
 光の中の三つの影を見つめたまま杏奈は次の矢を弓へと番える。 

●安堵と恐怖
 突然輝いた太陽のような光に建物の中で不安げにゲレンデを見つめていた人達がざわめくように立ちあがる。
「いちいち、騒ぐんじゃねぇよ」
 収まりつつある輝きにチラリと目を向けて五々六は温かな甘酒をすする。
 慌てる様子も無くむしろくつろいだ様子で甘酒を飲む五々六の姿にざわめきが小さくなる。
 無論、まるでマフィアのボスの様な五々六の姿と威圧感に圧倒されたという部分も無い訳では無い。
「すぐ終わるだろうよ」
 我先に逃げ出そうとしていた人達を一喝して混乱を収めた五々六に異を唱える者は誰もいなかった。
「甘酒が呑みたかっただけなのにね」
 周囲の視線から逃げるように五々六の影に隠れた七海がトラに話かける。
 五々六にどういった意図が有ったにせよ混乱を収めて温かな飲み物を振舞わせる事でここに避難している人達を落ち着かせたのは事実だった。

●決着
 収まった光の中から三体のジャーマが姿を現す。
 その炎は燃え尽きるかのように小さくなっている。
「これで終わりか?」
 誰もがそう思った瞬間。
 燃え尽きるかに見えたジャーマの炎が再び激しく燃え上がる。
 油断が有った訳では無い。
 だが一瞬だけ反応が遅れる。
 飛び出したジャーマの拳が杏子の体を捉える。
 吹き出す炎に吹き飛ばされながら咄嗟に発動させたロストモーメントが壁となりジャーマの追撃を阻む。
 足を止めたジャーマに嘉久也がグランブレード「NAGATO」を振るうが、ジャーマは大剣の刃に怯む事無く前に出てNAGATOを鍔元で受ける。
 嘉久也が剣を引くよりも先にジャーマが至近距離から叩き付けるように炎球を放つ。
 展開したスターライトシャワーの星型のフィールドにより直撃は免れたが、至近で爆発した衝撃に嘉久也の動きが止まる。

 杏子へとジャーマが跳びかかったのと同時に他の二体もそれぞれ飛び出していた。
 放たれた炎球を紙一重で茨稀が回避する。
 だが、そのせいで乱れた姿勢の隙を狙ったようにジャーマが踏み込んでくる。
 防ぐ余裕もないまま叩き付けられた拳に大きく茨稀が吹き飛ばされる。
 追撃の構えを見せたジャーマに横合いから霜狼が襲い掛かる。
 ジャーマが放とうとした炎球と霜狼がぶつかり炎と冷気が打ち消し合うように消失する。
「凍気や氷が有効そうには見えるけれど……わたし達なら、直接斬った方が早そうね」
 霜狼を追うようにジャーマへと接近したレミアが魔剣《闇夜の血華》を現す。
 レミアの殺気に呼応して黒い瘴気を纏った血色の巨刃が空を切る。
 一気に後退して距離を開けることでレミアの巨刃を躱したジャーマがその離れた場所で拳を振るう。
 届くはずのないその距離を拳から吹き出した炎が埋める。
 追撃の足を止めてレミアが《闇夜の血華》を盾のように起こして炎を受ける。
 
 最後の一体は仙寿へと襲い掛かっていた。
 最初の炎球は難なく交わすことが出来たが、一気に間合いを詰めたジャーマが間断なく繰り出す拳に仙寿も反撃の糸口を掴めずにいた。
 全ての拳を躱してはいるがジャーマの熱気で溶けた足元の雪が僅かにだが仙寿の動きを遅らせている。
 その中でも仙寿は冷静にジャーマの動き見極めていた。
「少しじっとしていてもらおうか」
 攻撃と攻撃のわずかな合間、その瞬間に仙寿の右手が動く。
 腰に行くかに見えたその手の動きにつられるようにジャーマが反応する。
 だが、仙寿は刀を抜かずにジャーマとの距離を開ける。
 実際、今の間合いでは抜刀もままならず一撃を加える事など出来はしなかった。
 代わりに銃弾の雨がジャーマへと降り注ぐ。
 AK-13の銃撃を避けるように下ったジャーマを雛が追う。
 ジャーマと同様に地面から浮き上がったアサルトユニットならば足場の状態を無視することが出来る。
 追われるジャーマへと仙寿の縫止の針が刺さる。
「その攻撃は見切らせてもらった」
 炎球を放つべく膨れ上がったジャーマのライヴスが乱され霧散する。
 反撃を潰されたジャーマが為す術もなく雛の銃撃に誘導される。

「あまり、調子に乗るなよ」
 続いて打ちつけられた拳を剣で受け流してレミアがジャーマに声をかける。
 静かなレミアの声に気圧されるようにジャーマが大きく下がる。
 それを追うようにレミアがアサルトユニットで加速して追いすがる。
 急加速で衝突するかに見えた瞬間、レミアはアサルトユニットを歩行モードへと切り替え地面へと足をつける。
 雪面につけた足を軸に突進の勢いを回転力に変えてレミアが《闇夜の血華》をジャーマへと叩き付ける。
 刃を覆う黒い瘴気が斬撃と同時にジャーマの体に広がり衝撃を受けたかのように体を震わせてジャーマの動きが止まる。
 その瞬間を逃さず茨稀の《烏羽》がジャーマの体を貫く。
 槍が纏う闇はまるでレミアの背の黒翼に呼応するかのように大きくなっていて、その闇がジャーマのライヴスを毒のようにかき乱す。
 よろめいたジャーマを貫いたままの《烏羽》を手放して茨稀が如来荒神の柄へと手を添える。
 茨稀の体が揺らめくように二つに分かれ二本の斬撃がジャーマの炎を切り裂く。
 分身した茨稀の攻撃に狼狽するジャーマの目の前で茨稀とレミアが入れ替わり、レミアの巨刃が左、右、中央と疾風怒濤の三連撃でジャーマを襲う。
 茨稀とレミアの連携から逃れるようにジャーマが逃げるように全力で後退する。
 
 足を止められた嘉久也に追撃を放つべく振り上げたジャーマの拳に戦鎖「黒龍」が絡みつく。
 一瞬だけ引き合うように力をかけて杏子は戦鎖を手放す。
 急激に手応えを失いよろめいたジャーマの懐、熱気が感じられるほどの距離まで杏子が一気に肉薄する。
 拳を振るうにも近すぎる間合いにジャーマが逃げるように下るが杏子はピタリと張り付いてハイパークールタオルをジャーマの胴へと巻き付ける。
 炎の熱気を奪い取る冷気にジャーマがもがくように身をよじる。
「待たせた」
 聞こえた声に杏子がタオルを放して離れる。
 冷気を振り払ったジャーマの目の前にNAGATOを大上段に構えた嘉久也の姿が有った。
 振り下ろされる重い一撃にジャーマがよろめくように膝を突き纏う炎が咳き込むように乱れる。
 そのジャーマの周りを仄かな輝きを放つライヴスの蝶が舞う。
「ロウソクの炎は燃え尽きる前に一瞬輝きを増すそうだね」
 静かなアリスの言葉と共に舞い踊る蝶の数は増えていく。
「寒いのは嫌いなんだ、早めに済まそう」
 幻影の蝶がジャーマのライヴスを奪う。
 ジャーマの炎が悲鳴を上げるように大きく揺らめく。
 雛の銃撃に誘導されたジャーマと茨稀とレミアの連携に追い込まれたジャーマが膝をつくジャーマと並ぶ。
 その瞬間を逃さず杏奈の二本目の矢が飛来する。
 再び広がった光の爆発がジャーマの炎を吹き散らす。
 だが、それでもジャーマの炎は燃え尽きていなかった。
 くすぶるような小さな炎が芯の周りで火種のように赤い輝きを放っている。
「これで最後だね」
 杏子の言葉と共に無数の刃が現れる。
 その刃の嵐がジャーマの最後の炎を吹き散らし、炎の消えた人型の芯を粉々に切り刻む。
 燃え尽きた灰が風にさらわれるようにジャーマの姿が崩れる。
「今度こそ終わった、の?」
 銃を構えたまま雛がそう呟く。
「終わりね」
 ゆっくりと周囲を見渡してレミアが愛剣を戻し共鳴を解く。
「終わりだ」
 茨稀も静かにそう口にすると刀を鞘に納めファルクと分かれる。
「皆無事で何よりです!」
 同じように刀を収めた仙寿と共鳴を解いたあけびが笑顔を見せる。
「消えてなくなったんだな」
 さっきまでジャーマのいた場所を見つめてテトラが呟く。
「これで良いのかい?」
 杏子の言葉にテトラは何も応えずにじっとその場所を見つめ続ける。
「ふ、麓まで行ってきます!」
 戦闘が終わったことをようやく飲み込んだように雛が声を上げるとそのままアサルトユニットでコースを滑走していく。
「忙しい人ですわね」
 すぐに見えなくなった雛の背中にレミが通信機を手に苦笑する。
 連絡はすでに済ませてある。
「早く帰りましょう」
「寒いのは嫌いなの」
 赤と黒のアリスが順に口を開く。
「下で温かな飲み物と食事を準備していただいているそうですわ」
 そう言ったレミの言葉に
「いいですね、早く行きましょう」
 エスティアが嬉しそうに応える。
「クリスマスにスキー場を走るサムライ……映画化決定だね!」
 嬉しそうにそう言いながらあけびは迎えに降りて来たヘリへと駆け寄る。
「勝手にやってろ」
 呆れたようにため息をついて仙寿もその後に続く。
「さぁ、家に帰ってクリスマスの続きよ。わたし、ケーキが食べたいわ」
 歯痒いような若者達の姿を面白そうに見つめてレミアは緋十郎に声をかける。
「あぁ、任せてくれ、ばっちり用意してあるぞ……!」
 胸を張る緋十郎の声を聞きながらレミアはクリスマスベルロッドを振り歩き出す。

担当:明

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568

重体一覧

参加者

  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • Be the Hope
    杏子aa4344
    人間|64才|女性|生命
  • トラペゾヘドロン
    テトラaa4344hero001
    英雄|10才|?|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • クールビューティ
    アリスaa4688
    人間|18才|女性|攻撃
  • 運命の輪が重なって
    aa4688hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • ひとひらの想い
    茨稀aa4720
    機械|17才|男性|回避
  • 一つの漂着点を見た者
    ファルクaa4720hero001
    英雄|27才|男性|シャド
  • エージェント
    天野 雛aa4776
    機械|16才|女性|命中
  • エージェント
    イーグレットaa4776hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
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