本部
ものすっごく怒られる勇気
掲示板
-
【相談】砂漠のキャラバンを救え
最終発言2016/12/26 01:45:07 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/12/24 07:02:02
オープニング
●巻き込まれたキャラバン
「この分なら半日で村に着くな」
座り込んだラクダに寄りかかり、砂漠を眺めてつぶやく。普通に見れば2日どころか永遠にさまよいそうな景色だが、砂漠を渡るキャラバン率いるこの男からはそう見えるらしい。
「あと少しだ。重かっただろう」
ラクダの背を優しくたたく。彼らが村に運ぶのは主に塩である。海から遠い、砂漠近郊の村々にとって塩は貴重な存在だ。従って塩鉱(岩塩採掘場)から塩を運んでくるキャラバンの一行は村の生命線と言っても過言ではない。
「よし、出発だ」
男の言葉に一行が立ち上がる。だが。
「ここだな。オーパーツがあるのは」
見知らぬ男が2人やって来た。砂漠ではありえないほどの軽装、これ見よがしにちらつかせる武器、 なによりその荒んだ目。
(盗賊共の目―)
キャラバンの敵は砂漠だけではない。キャラバンの荷物を狙う盗賊たちもまた頭の痛い存在だった。ただの盗賊なら追い払える。だが、これは違う。ヴィランだ。
「行くぞ」
男は一行を急がせた。関わるのはまずい。
「オーパーツ? そんなもの」
一行の1人がつぶやく。男はしっと鋭く言った。オーパーツの話など聞いたことがないが、そんなことは今、どうでもよかった。
「待てよ」
1台のトラックが止まる。中から同じ目をした男達が9人出てきてキャラバンを囲んだ。
「手伝ってくれよ」
(悪い。ネフェ)
息子を思い浮かべながら胸のうちでつぶやく。
(帰り、遅れる)
●それじゃ間に合わない
「おはよう。コーデ」
「おはようございます」
袴姿の女性が朝食に降りてきた。年の頃は25,6。中性的な顔立ちをしている。彼女は世界中をまわっている呉服商だ。コーデの父親とは商売仲間で今はここに泊まっている。
「こっちには慣れた?」
「うん。学校楽しいよ。友達もできたしね」
2人はテーブルについた。
「キャラバン着かないですね」
今度はコーデの父親に話しかける。話題はコーデが期待していた通り塩を運ぶキャラバンの一行の話だった。
「ああ、これで5日だ。あのキャラバンは確実に決まった日付に着くのが売りだったんだが」
コーデの父親が答える。
「警察から捜索隊は出さないんですか?」
「もう何日かしなければ警察 は動かんだろう。キャラバンの到着が何日も遅れることは珍しいことじゃない。何せ相手は砂漠だ。あのキャラバンが別格なだけだ」
「そうですか……」
呉服商は何度もそのキャラバンに同行している。彼女の会社の着物が砂漠でどれだけ通用するかテストしているのだ。
「ご馳走様」
コーデは咳をしながら席を立った。大急ぎで行くところがあるのだ。
●ものすっごく怒られる勇気
「ってわけで、捜索隊は当分来ない」
コーデはカルにそう言い終わると少し咳をする。風邪をひいているのだ。
「能天気すぎる!」
カルは鋭く言った。
「絶対何かあったんだ。でなきゃあのキャラバンが来ないなんてあるもんか。盗賊だって砂嵐だって凌いでちゃんと日付通りに来るんだ。なんで皆わかんないんだよ。なあ、やっぱり警察かHOPEに話して」
「話聞いてなかったのか? 皆父さんと同じことを言うに決まってる。大人がそうと決めたら子供が何言ったって動かないよ。落ち着けって」
ネフェはカルとコーデの親友だ。カルの気持もわかるが、ここは冷静にならなきゃいけない。
「じゃあ、ネフェにそう言うのか? 大人がこう言ってるから捜索隊は出ない。まあ仕方ないよなって。ネフェが父ちゃん帰ってこなくて、不安 かくして明るく振舞いすぎて完全に空回ってるの知ってるだろ。ふざけすぎて階段から転げ落ちるわ、ガキ大将にやたら喧嘩ふっかけるわ、宿題忘れるわ……最後のはいつものことだけどさ。でも」
「カル」
コーデはカルの言葉を遮った。深呼吸してカルの目を真っ直ぐ見る。頭が痛い。熱が出てきたのかもしれない。それでも。
「ものすっごく怒られる勇気、ある?」
●嘘から出た誠
「すぐにエージェントたちに依頼かけて」
「信じるんですか? 今の通報」
HOPE職員は信じられないものでも見るように上司を見た。
「あんなあからさまに変なガス吸い込んだあの声を? いたずらとしか思えません。もっときちんと確認してから」
「キャラバンが砂漠でヴィランズに襲われている。そのヴィランズに恨みがあって連絡した。理屈は通っている」
「キャラバンの現在地特定できません」
別の職員が言う。
「なにしろロクに電波も届かないような場所で。捜索には案内人が必要です」
「そのキャラバンですが」
また別の職員が言う。
「確かに到着が遅れています。今までそんなことは1回もなかったそうです」
「でもそれだけじゃ」
「充 分だ。いたずらならそいつを捕まえて賠償金なり何なり払わせればいい。後は私が始末書を出すだけだ。安心しろ。私は始末書の名手だ。すごく見事に書く」
あながち冗談でもないので誰も笑わなかった。
「わかりました。依頼をかけます」
●巻き込まれた呉服商
その時、呉服商はコーデのお母さんから地域に伝わる刺繍を習っていた。スマートフォンが鳴る。
「すみません」
断って電話に出た。
「HOPEの者です」
呉服商は少し緊張した。うちの社員になにかあったのだろうか。
「はい。はい……え?」
なにかあったのは、これからありそうなのはこっちだった。
「そちらから塩鉱のルート、ご存じですよね」
解説
●目的
・キャラバン一行の捜索(村から塩鉱までの道筋をたどる)
・ヴィランズの拘束
●敵情報(PL情報)
・ヴィランズ『青い血』
構成員11名。内2名がヴィランでリーダー。本来の活動拠点はロンドン。
オーパーツを手に入れ、巨大なヴィランズの後ろ盾を得ようとしている。砂漠のとある地点にオーパーツがあるとの情報(デマ)を得て現地入り。たまたま出くわしたキャラバンを拘束し、オーパーツの採掘をさせている。
ヴィラン
・ザイ
20代後半男性。体格がいい。武器はテルプシコラとリボルバー。見かけ以上に動きはすばやい。
・カムラ
10代後半男性。ぱっと見は優男。武器は清姫の薙刀とフルンティング。ケアレイ・ケアレインが使える。
*その他のメンバーは銃所持。
●敵位置
・村から徒歩で半日ほどの砂漠。近くにオアシスがある。背の低い植物が生えているのみで身を隠すような場所はない。
●登場人物
・塩を運ぶキャラバン一行
昔ながらのやり方で近隣の村々に塩を運ぶ。仕事は冬場に行い、夏はそれぞれの村で仕事をする。リーダーはネフェ(後述)の父親。トラックを用いるキャラバンより正確に荷物を運ぶ為、重宝されている。
現在、ヴィランズの計画に巻き込まれ強制労働中。
・呉服商
商用でコーデ(後述)の家に滞在中。件のキャラバンに何度も同行したことがあり、村と塩鉱(岩塩採掘場)の道を知っているため、コーデの計画に組み入れられ、エージェントたちを同行することになる。見た目も話し方も中性的だが女性。キャラバン一行の身を案じている。
・ネフェ
塩を運ぶキャラバン一行のリーダーの息子。不安を隠す為、明るく振舞っているが……。普段は元気ないたずらっ子。
・カル/コーデ
ネフェの親友。キャラバン一行が事件に巻き込まれていると踏み、HOPEに嘘の情報を流す。計画はコーデが立てたが、コーデは風邪をひいているため、実行したのはカル。全てはネフェのため。
リプレイ
●出立前
「何事もなかったが一番だけど、こういう勘は当たるものかもしれないね」
水、食料、テント。用意したものを確認しながら行雲 天音(aa2311)が言う。今回の依頼場所は砂漠。事前準備必須だ。疑問の残る通報だったようだが「行かずに後悔するより、行って空振りでしたって笑う方が良いよ」である。その言葉に蒼(aa2311hero001)が静かに頷く。やる気は充分。やる気が充分と言えば風魔 布都(aa4582hero001)だ。
「さあ行きますよ! 初仕事ですよ初仕事! 気合い入れてぶっ飛ばしていっぱい稼ぎましょうね宗介くん!」
対して出雲 宗介(aa4582)は「ん……頑張る……」
ここまでとはいかないまでもフレイミィ・アリオス(aa4690)フレイミィと亜(aa4690hero001)もテンションにやや落差。
「どうやらおかしな通報だったみたいだけれど……可能性があるなら、放っておく訳にはいかないわね」
「まぁねーそうは言うけどねー……暑いですよ?」
亜の返事にフレイミィはふっと笑みを浮かべた。
「駄目よあーちゃん、狙撃手たるもの過酷な環境に身を置いても冷静に任務を遂行できるようでなければいけないのよ」
「うんうん、で、本音は?」
「……場所、見てなかったの。砂漠とか完全に見逃していたわ」
「OK、じゃあ仕方ないですねー。過酷な環境と遮蔽や身を隠す場所の少ないフィールドでの訓練と、思いましょう。やってらんないもんね!」
キャラバンを助ける気持ちは本物だが、なにせ砂漠。若干ヤケクソ気味である。それでも準備はきっちり。
「キャラバンの人達は救助しても体力落ちていそうね。MM水筒に入れられるだけの水と、糖分も補給できるようフルーツ盛り合わせも幻想蝶に入れていきましょう」
「身を隠す場所があるかわからないし、砂みたいな色のローブと言うかボロ布とか借りられると良いですね」
「朝霞、砂漠での作戦行動になる。準備はしっかりしておけよ」
「そうね」
ニクノイーサ(aa0476hero001)が言う。きっちり準備しているのは大宮 朝霞(aa0476)とニクノイーサも同じ。 必要な物は既に纏めてある。後は服。
「ニック、砂漠ってやっぱり暑いのかなぁ」
服選びの手を止めて首を傾げる朝霞。正解は「暑くて寒い」それをよく知っているアルバティン・アルハヴィ(aa4773)は重ね着できるような服を用意。ほとんどの肌を隠すゆったりした服と腰に光るアラビア刀。まさに砂漠の民。
「砂漠にヴィランか。どこにでも現れる奴らだな」
「前にも来たことのある場所ですよね? 巨人岩の」
「久方ぶりだな。今回は人命に危険が迫っている可能性がある。気を引き締めていくぞ」
アルバティン程砂漠慣れしていないが真壁 久朗(aa0032)とセラフィナ(aa0032hero001)は仕事でここを訪れたことがある。今回の一番乗りは彼ら―ではなく案内役の呉服商。
「真壁さんとセラフィナさんだな? HOPEから聞いている。よろしく」
言葉や姿もそうだが、声も中性的で女性と言われていなかったら判断に迷うところだ。それは久朗の昔の知り合いを連想させたが「よろしく頼む」と挨拶だけにとどめた。
「よろしくお願いします」
セラフィナも挨拶を返す。そういえば名前を聞いていないと思い、久朗が口を開きかげたが、先に呉服商が「そう言えば」と言った。
「コーデたちに聞いた。彼らの旅に同行したんだって? よろしくと言っていたよ。直接言いたがっていんだけど、学校でね」
「懐かしい。お知り合いなんですか?」
セラフィナが言う。3人の少年たちとエージェントたちの旅。どこまでも広がる砂漠にはしゃぎすぎて転んだのもいい思い出だ(多分)
「今、コーデの家に滞在しているんだ」
「真壁さんたちだ」
朝霞とニクノイーサがやって来る。
「やあ、今日はよろしく」
「案内の呉服商さんですね。わざわざすみません。ご協力をお願いします」
「彼らには恩があるからね。このくらいは当然だよ。本当に遅れるなんてことのないキャラバンじゃないから却って心配でね。彼らを知っているならみんなそう思うはずなんだけど」
「余程皆から信頼されているキャラバンなんだな」
「塩は村々の生命線。信頼してなきゃ塩運びなんて任せられないよ」
「そのキャラバンについて聞きたい。どんな編成なのか。例えば移動手段、人数」
「それは道々話そう。その方が早い。ああ、来た来た」
呉服商は手を振った。その先には。
「こんにちは!」
「今日はよろしく」
今回旅を共にするエージェントたちが次々と姿を現す。
「全員揃いましたね! 出発は早い方がいいですよね行きましょう!!」
ハイテンションな布都の言葉に一同砂漠へと踏み出した。
「おーい!」
声がした。振り向くと少年が手を振っている。
「学校抜けてきたな。ネフェ」
呉服商が苦笑する。
「ネフェ?」
アルバティンの疑問に呉服商が答える。
「息子だよ。キャラバンのリーダーの」
「おーい!」
ネフェが大きく手を振った。
「よろしくお願いします!!」
エージェントたちは手を挙げて合図すると砂漠の中へと再び進み始めた。
●キャラバンはどこだ
「暑いよりも熱いね、砂ばかりで」
天音の言う通り、照りつける太陽よりも熱を孕んだ砂の方が熱い。うかつに触れれば火傷しかねない。
「何もないというか、砂しか無いのが砂漠ですから」
蒼は冷静に答えた。
「砂漠ってのは平坦で……案外簡単に見つけやすいんじゃないですかね? 向こうも、こっちも」
「確かに……慎重になって悪い事はないわね」
亜が辺りに気を配りつつ言うとフレイミィが汗をぬぐいながら答える。
「キャラバンのことだけど」
呉服商はラクダに揺られながら口火を切った。出発時、久朗から聞かれたことに答えるつもりだ。
「リーダー1名、副リーダーが2名。これが固定だ。後はその時々で前後するが、概ね30名。移動手段はラクダ。時間には非常に正確。村々から重宝されている。車より遅いが事故がない。盗賊さえ退ける」
「大したものだ」
アルバティンが感心する。
「盗賊すら退けるとなると通報に信ぴょう性が出くるな」
ニクノイーサが言う。
「食料は?」
久朗が問う。
「万一のことを考えて多めに持っている。が、塩鉱にはすでに到着し、出発もしている。何かあったとすれば復路だ。あまり残っているとは言い難いな」
「フルーツ持ってきてよかった」
フレイミィと亜が頷き合う。
「なにか見えましたか? 宗介くん」
布都の問いに宗介は双眼鏡を目に宛てたまま静かに首を振る。何も見えないのは皆も同じだ。砂漠慣れしているアルバティンを先頭に呉服商を囲むようにして双眼鏡で周囲を確認しているがまたなにも見つからない。
「何日も砂漠から出てこないという事はオアシスなどどこかの地点を拠点として留まっている可能性がある」
「オアシスしかないだろうな。砂漠で水を切らすのは命を切らすのと一緒だ。何をする・させるにしろオアシスが拠点になる」
久朗の言葉にアルバティンが同意する。
「塩鉱までのルートにオアシスは?」
蒼の問うと呉服商はうなずいた。
「もちろんある。片道4箇所だ。もうすぐ1つ目に到着する」
「わっ」
セラフィナが声を上げる。
「どうした?」
「服の中に砂が入りました」
久朗の言葉に服をぱたぱたさせるセラフィナ。
「風強いですね。宗介くん、砂が目に入らないように気をつけて下さい!」
布都が宗介を気遣う。
「痛った!」
不意に朝霞が声を上げた。背中をニックに叩かれたのだ。
「何!?」
「サソリだ」
ニクノイーサが地面を指す。蠢くそれに朝霞は顔を引きつらせた。アルバティンがすぐにサソリを刀で真っ二つにした。
「気付かなかった」
「砂漠はサソリが多い。気をつけろ」
日が高くなる事に気温はますます高くなる。
「ラクダを休ませたほうがいいな」
アルバティンが言う。
「こんな砂の真ん中で休みたくないけど、仕方ないわね」
フレイミィが言う。
「いや、オアシスまでもうすぐのはず」
呉服商が言う。
「あ、あった! 宗介くん! 水浴びできますよ!」
布都が叫ぶ。
「誰もいない」
宗介そちらを双眼鏡で覗いて言う。
「ええ。人影はありません」
蒼も双眼鏡を覗きながら言う。
「拠点はここじゃなかったか」
久朗が言う。
「取り敢えず休もう。次のオアシスはどのくらい?」
天音が呉服商に尋ねる。
「少し遠い。数時間はかかる」
「それならしっかり休まないとまずい。特にラクダは」
アルバティンの言葉に従い、一同はしっかり休憩を取ると再び出発した。
オアシスを出て何時間たったのか。セラフィナが小さく声を上げた。
「どうした?」
久朗が言う。
「大きなトラックがありますね……!」
一行が止まり、そちらへと双眼鏡を向けた。確かにかすかだが、箱らしきものが見える。
「確かにあれはトラックね。それに人も見える」
共鳴したフレイミィと亜がアルコンDC7のスコープを覗いて頷いた。
「もう少し近づけられないかな」
天音が言う。
「慎重に進めば問題ないでしょう。例えヴィランズに見つかっても、砂漠の観光で通せます」
蒼の言う通りルバティンは砂漠の民そのものだし、朝霞はイメージプロジェクター現地の人間のように見える。テントやラクダもあるし、問題ないだろう。
「なんにせよ、もっと近づかなきゃ何もわからないです!」
布都が言う。一行はラクダを降りてゆっくり進む。
「大丈夫ですか」
披露のためか言葉少なになっていく呉服商を朝霞が気遣う。
「大丈夫だ。ありがとう」
呉服商はにっこり笑うが、その顔には疲労の影が見え隠れし始めている。
「この辺で」
宗介がぼそりと言う。
「そうですね。ここならよく見えます。ここで偵察しましょう。隠れられるような場所がないから、地面に這うしかないかな?」
「大丈夫か? 暑いんじゃないか?」
朝霞が言うとニクノイーサが地面を触った。
「厚い布を引くといい」
ラクダを座らせながらアルバティンがアドバイスする。
「こんな所にだけど。なにか掘ってる?」
サンドエフェクトを纏った天音が双眼鏡をのぞいて言う。
「本当だ。キャラバンか確認していただけますか」
朝霞が呉服商に双眼鏡を渡した。呉服商は双眼鏡を覗くなり、低い声で言った。
「間違いない。塩運びのキャラバンだ。人数は32人。何かを掘らされているのがキャラバンだ。中心にいるのがリーダー、ネフェの父親。その他は知らない顔だ」
呉服商は朝霞に双眼鏡を返した。平静を装っているが、その手は怒りでかすかに震えている。セラフィナが黙って呉服商の肩を叩いた。
「どうだ朝霞、ターゲットのヴィランズか?」
ニクノイーサの問いに朝霞が頷いた。
「間違いなさそうね。偉そうにしているのがきっとボスだよね」
「キャラバンの人たちを使っているのでは?」
「何を掘っているのかはわからないが、そのようだな。本来は手下にやらせようとしたのだろうが」
天音の言葉に久朗が同意する。
「当たりましたね。カン」
蒼の言葉に天音が苦笑する。
「キャラバンの保護が第一だけどいざ、逃げられても困るわよね」
「動くのは日が暮れてからね」
フレイミィの言葉にセラフィナがうなずいた。
「そうですね。今は気づかれないようにできるだけ情報を集めましょう」
「それから作戦を練る。だね!」
布都が言う。
一同は炎天下の中、偵察を続ける。
「砂っぽい、早く終わらせたい」
天音のぼやきが風に溶けた。
●作戦開始
暗闇の中、光が2度瞬いた。既に敵地へと侵入しているアルバティンからの合図だ。”見張りを残しヴィランズ就寝した”の。
「いよいよ初仕事ですよ!! 宗介くん」
「……共鳴するよ」
布都と宗介とが共鳴する。
「隠密作戦だ。今回は派手に変身ポーズをするわけにはいかないな? 朝霞」
「ぐぬぬ……。仕方ないわね。ニック、変身(共鳴)よ」
敵に気付かれないよう静かに共鳴、『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』(自称)に変身。天音と蒼、久朗とセラフィナも共鳴。
「行くぞ」
久朗が皆にフットガードを付与する。続いて朝霞がライトアイを皆に付与。
「行ってらっしゃい。背後は任せて」
その場に留まるフレイミィが言う。こちらは既に共鳴済みだ。
「武運を」
呉服商の言葉を背にエージェントたちが音もなく走り出す。
見張りの1人が突如崩れ落ちる。久朗の一撃によって。それに気付いた別の見張りが銃を構えるがフレイミィに次々と照明を狙撃されあっという間にパニック。
そして。
「がっ」「ぐあッ」「ぎゃあ」
天音のトリオで手や銃を狙撃される。
「おい! どうした!」
「何の騒ぎ」
テントから何名か飛び出す。
「!」
「があっ」
宗介に背後から襲われ、次々倒れこむ。
「キャラバンたちを野営外に連れ出した。そちらへ向かう」
久朗から借りた通信機を通じ朝霞へアルバティンから連絡が入った。
「了解」
朝霞がセーフティガスを発動させようとした。その背後へと刃が振るわれる。血しぶきが飛んだ―ヴィランの。
「まったく……砂漠くんだりで暇なことさせるんじゃないよ。お陰で刀が血糊でべったりだよ。ヴィランズの体液とかきったないよねえ」
宗介の刃によって。だが。
「ケアレイ」
ヴィランの放った治癒魔法によって傷が塞がる。
「助かった。カムラ」
「ビラ。キャラバンがいない。鼠が紛れ込んでいたらしい。監視を手下どもに任せたのは失敗だった」
カムラが言う。ぱっと見は優男だが、その目はひどく冷たい。手には清姫の薙刀。
「てめえら起きろ! 火を放て! キャラバンは遠くに行っていないはずだ。焚き火を探せ」
すぐにあちこちから火の手が上がった。キャラバンへとカムラが向かおうとする。
「行かせると思うか」
フラメアと清姫の薙刀がぶつかる。
「邪魔だ。どけ」
久朗のフラメアを跳ね上げた。わずかに空いた久朗の脇へ薙刀を一閃。久朗は手首を返し石突で薙刀を押さえ込む。いつの間に着たのかその間隙を縫ってアルバティがズルフィカール片手にカムラへと飛び込んだ。カムラは薙刀を離し、フルンティングを抜いてアルバティンを退ける。再びキャラバンへ向かおうとしたが久朗に阻まれた。
「行かせると思うか、と言ったはずだ」
その間に、手下達が灯りを片手に次々とキャラバンへと向かう。朝霞はセーフティーガスで手下達を阻みたいが、ビラの攻撃で手一杯だ。ビラの動きは早い。
「急げ!」
だが、その場から動けないのはビラも同じ。手下を怒鳴るしかない。
「そうはさせないから」
天音はトラックの影に隠れるとスナイパーライフルに武器を変更。キャラバンへと走るヴィランズたちを狙い撃つ。フレイミィも武器や灯、足を狙ってヴィランズを阻む。数名が慌ててテントや荷物の影に隠れるが。
「ぐあッ」「がっ」「ぎゃあ」
背後から宗介が一撃を食らわせ、縛っていく。
「行かせないって言ってるよね」
「くっ」
ビラの刃が朝霞の手を捉えた。血が滴る。だが、退いたのはビラの方だった。フレイミィがビラの肩を撃つ。
「ケアレイ」
アルバティンが朝霞の傷を塞ぐ。
「ありがとう」
ビラはテントの陰へ走るが、宗介がビラの前に回り、ジェネミストライクで翻弄。
「邪魔だ」
ビラの刃を宗介は回避。その間に天音の弾丸がテントをなぎ倒す。フレイミィがビラの足を撃ち抜いた。続いて朝霞のセーフティガスがリーダー2名を除くヴィランズを昏倒させる。
「後はお前だけだ」
カムラと斬り結びながら久朗が言う。
「真壁さん!」
銃声が響く。ビラのリボルバーだ。久朗はこれを躱す。朝霞の声がなければ危なかった。天音がリボルバーを撃ち落し、フレイミィがカムラの肩を撃つ。
「ケアレイン」
カムラが仲間を回復。ビラとカムラが同時に地を蹴る。ビラはアルバティン、カムラは久朗へ。
「動きを止めるな。狙撃手が2人いる!」
「わかってる!」
ビラが叫んだ。
「後ろガラ空き」
ビラの背後から毒刃を帯びた宗介の刃が襲いかかる。ビラは身を捻って刃を弾く。その間に苦戦気味だったアルバティンが体勢を立て直した。身をひねったことで一瞬止まったビラにフレイミィが弾丸を撃つ。
「止まるな!」
カムラは石突で清姫の薙刀を飛ばし、フレイミィの弾丸を弾く。
「悪運強いわね」
フレイミィが顔をしかめた。だが、それでカムラに隙ができた。天音が弾丸を撃ち込む。
「ケアレイ」
傷を回復させ久朗と再びまみえる。キリがない。アルバティンと宗介もビラ相手に苦戦中だ。宗介が撹乱し、アルバティンがその隙をついて攻撃するのだが、ビラの動きが早いため、膠着状況だ。ビラの方も決定的な攻撃を入れられないでいる。
(こう接近されたら援護が)
フレイミィと天音が眉をしかめる。だが。
(なんか暗い?)
フレイミィが気づく。見れば朝霞がテントを倒して火を消している皆目の前の戦いに目一杯で気付かない。
(よし)
フレイミィは次々とテントへと弾丸を打ち込む。なぎ倒されたテントが火の上に倒れこんだのを朝霞が踏んで消していく。朝霞とフレイミィの思惑に気づいた天音も消火を始め、急速に辺りが暗くなる。カムラがようやくそれ気づいた時にはもう遅い。
「起きろ!」
手下に怒鳴る。
「無駄です。全員縛りましたから」
朝霞が言いながら最後の火を消した。暗闇の中、カムラの武器が天音の弾丸で弾き飛ばされる。別の武器を出す間もなく久朗の石突がカムラの鳩尾に入った。朝霞の一撃も決まり、カムラは昏倒した。
「悪運尽きたわね」
フレイミィの弾丸がビラの刃を砕いた。アルバティンと宗介が地を蹴る。
「がっ」
戦いは終わった。
「大丈夫ですかね」
キャラバンの1人の肩をリーダーが叩く。
「大丈夫さ」
「でも相手は」
「塩鉱からのキャラバンの方ですか? HOPEです。助けにきました」
朝霞が手を振りながら走ってきた。
「ほら、な」
リーダーはにっかと笑った。
●お帰りなさい!
「お疲れ様」
ヴィランズたちをトラックの荷台に放り込み終えた頃、フレイミィと亜、呉服商が合流する。
「夜が明けるな」
アルバティンは空を見上げた。
「早く帰りたい」
天音がぼやく。
「キャラバンの状態次第だな」
ヴィランズを見張りつつ久朗が言う。
「俺達は大丈夫だ」
朝霞、ニクノイーサと共にキャラバンが到着する。
「疲労はしているが、この距離なら耐えられる。皆を家族の下に早く返したい」
「この辺片付けたら出発しましょう!」
布都の言葉に宗介がうなずく。
「災難でしたね。ま、また何かあれば御用命を? 」
フレイミィと亜がキャラバンに水と果物を配る。一行は口々に礼を言うと瑞々しい果物を口に運んだ。
「あなたも」
呉服商にも渡す。呉服商は礼を言って果実を受け取った。
「やあ君か。道案内」
リーダーは呉服商に気づいて笑顔になる。そういう顔はネフェそっくりだ。
「久しぶり。無事でなによりだ」
「あ、そうそう」
リーダーが上着を脱いだ。下にはベージュ色の着物。
「砂漠でもいけるよこれ」
「そうか」
少し目を潤ませて呉服商は笑った。
朝焼けの中少年が走る。
「ネフェさ」
村外れの所でHOPEにヴィランズを引き渡す為、トラックで一足早く村外れに到着したセラフィナに声をかけられるが止まらず叫ぶ。
「転ばなかった?」
同乗していた天音が首を傾げる。
「も、もう転びませんからね!」
セラフィナが叫ぶ。
「それから! ありがとう」
ネフェは叫びながら走り去っていく。
「転んだんですか?」
蒼の疑問にトラックを運転をした久朗が頷いた。
「クロさん!」
少年は走る。視線の先にはごま粒ぐらいの何か。少年は叫んだ。
「父ちゃん!」
「ネフェ!」
微かに聞こえた声へ少年が叫ぶ。
「父ちゃん!」
ごま粒ぐらいの何かは次第にラクダに乗った人影になっていく。キャラバンのリーダー、いや、ネフェの父親だ。
「父ちゃんお帰り」
ネフェは父親へ飛び込んだ。
「ただいま、ネフェ」
父親は半月ぶりに息子を抱きしめた。
「これおいしいですよ! これも!」
「……積み上げすぎ」
布都に閉口しつつ、料理を口に運ぶ宗介。その横でアルバティンが好物を黙々と食べている。
只今、村をあげての祝賀パーティ中。主役は勿論、キャラバンとエージェントたち。皆、料理に舌鼓を打ち、談笑している。エージェントたちは村中から礼を言われた。
そんな中。
「カル。行こう」
コーデに言われてカルが立ち上がる。
「声マシになったな」
「喉飴もらった。『あの、体調崩されているようなので良かったら!』ってセラフィナさんが」
「へえ。お前隠すの巧いのに」
「びっくりした」
2人は外に出た。行き先はHOPE。偽情報を流したのだ。どんな結果でも謝りに行くと決めている。
「どこ行くの?」
フレイミィと亜に見つかって2人は答えた。
「ものすっごく怒られに行くんだ」
「ありがとう。ごめんなさいって言いに」
フレイミィと亜は顔を見合わせた。
「今回の通報……いえ、行ってらっしゃい」
『うん、ありがとう』
2人は予想通りものすっごく怒られたが、何故か数日後に表彰状を貰った。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|