本部

まだ間に合う?

gene

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/12/23 22:12

掲示板

オープニング

●にくきゅう
「猫カフェ タマらんど特製年賀はがき?」
「そう! 猫たちの肉球に墨をつけて、足跡をペタっとした可愛いやつよ!」
 ドヤ顔でタマ子は、猫の足跡をペタンとつけた年賀はがきをフィリップの顔の前に突き出し、見せた。
 フィリップはその年賀はがきに貼られた値札シールを読み上げる。
「一枚、二百円……」
「ぼったくりだな」となにやら小さな機械を組み立てていた九条が言った。
「そもそも、2017年は酉年だし、そもそも、猫年はない」
「猫の肉球の魅力がわからないなんて、みーちゃんの目はフシ穴ね!」
「みーちゃんと呼ぶな」
「それで、今回は年賀はがきの売り子でも探しに来たの?」
 そう聞いたフィリップにタマ子は全力否定した。
「違うわ! 制作のお手伝いをしてほしいのよ!」
「え!? バカ売れで品薄ってこと!?」
 フィリップの驚きもまたタマ子は全力否定する。
「違うわ! まだ作ってないのよ!」
 九条は深いため息をついた。
「……話にならんな」
 九条のため息になど気付かなかったように、タマ子はフィリップに猫なで声で言った。
「だから、お手伝いしてもらえないかしら?」
 タマ子はお得意の営業スマイルを浮かべた。

 フィリップはタマ子の願いを叶えるべく、H.O.P.E.のエントランスホールでメガホンを持ってあなた達に呼びかけた。
「バイト急募! 猫に嫌われる覚悟で猫の肉球を愛してやまない諸君募集!!」
 タマ子もフィリップの隣でメガホンを持って言った。
「協力してくれた人には、バイト代(寸志)プラス、肉球年賀はがきを二枚プレゼント!」

解説

●目標
・肉球年賀はがき作成のお手伝い
(PL情報:真の目的は猫を愛でる&大切な人への年賀状作成です)

●場所と時間
場所 猫カフェ タマらんど
時間 日中

●詳細
・嫌がる猫達を捕まえて、肉球に墨をつけて、年賀状にペタンと足跡をつけましょう。
・作業終了後は、大切な人に年賀状を書くことができます。(一人二枚まで)
・OPには出てきませんが、ヴィクターと沙羅がお手伝いに来ています。

リプレイ

●猫たちの癒し空間へようこそ!
「また猫、か……カール、オマエも相当だな……」
 呆れた眼差しを向けたレイ(aa0632)に、カール シェーンハイド(aa0632hero001)はどこか自慢げである。
「無条件でにゃんこに触れられる絶好のチャーンス!」
 テンションの高いカールに、レイは諦めのため息を零す。
「……まぁ、カールの猫の扱いは折り紙付だから、な」
 カールはいつもよりも歩調を早めて猫カフェ タマらんどを目指す。
 猫カフェ タマらんどの前、「俺もう猫カフェに住みたい」そう呟いたのは会津 灯影(aa0273)だ。
「年賀状かぁ。今時一枚一枚作るって珍しいね」
 静寂(aa0273hero002)の言葉に、猫カフェの扉を開きながら灯影は「たしかに」と頷いた。
「そういえば灯影君猫好きなんだっけ」
「猫って気儘で可愛くて癒されるだろー」
「何だっけ? タンバリンで躍り狂ったとか。俺も見たいから今度やってね!」
「それ楓に聞いたの? もうそれは忘れるべきだから……!」

 猫たちを見渡して、「なんで、猫の肉球年賀はがき作り……」とぼやいたのは千桜 姫癒(aa4767)だ。
「困ってる人は助けてあげたいし、猫可愛いし?」
 一匹の猫を日向 和輝(aa4767hero001)がひょいっと腕に抱える。
「ひめちゃんも猫嫌いじゃないでしょ?」
「ひめちゃんって呼ぶな」と、姫癒は眉間に皺を寄せ、それからちらりと和輝の腕の中の黒猫を見る。
「まぁ……確かに猫は可愛い。黒猫、良いな……」
  黒猫の頭を撫でてやる。
「写真、撮っておこう」と、和輝はカメラを構えた。
「きっこさん見て見て! 可愛い猫がいっぱいだよ!」
 猫たちがいる部屋に入り、嬉しそうな声をあげたのはアキト(aa4759hero001)だ。
「本当ね。ああ、あの子なんてぬいぐるみみたい!」
 そう猫たちにうっとりしてから、美咲 喜久子(aa4759)ははっとその表情を引き締めた。
「ここは外なのだから、しっかりしなくちゃ!……いや、しっかりするぞ。ね」
  ブツブツと小声で一人つぶやき、喜久子は背筋を正した。
「肉球はんこの年賀状、ですか……嫌がる猫には悪いとは思いが……魅力的、かもしれません」
「お! 珍しくやる気じゃん、茨稀」と、ファルク(aa4720hero001)が茨稀(aa4720)のやる気に口角を上げる。
「そういや猫好きだったよな……たしか」
「ファルクは……猫、お好きですか?」
「嫌い、じゃない……かもな」
 相棒とはいえど、お互いまだまだ知らないことばかりである。
 Noah(aa4701)は猫たちとそこに集まってきたエージェントたちの和やかな姿を見ていた。
「平和な依頼ですね……」
 相棒の理(aa4701hero001)は幻想蝶の中である。

「ねこなー」
  猫たちを見渡してほわんっと微笑んだのは天海 雨月(aa1738)だ。
「年賀状作りじゃぞ、わかっておるのか雨月っ!」
 巳瑚姫(aa1738hero001)は雨月にはっぱをかける。
「猫の肉球スタンプか……」
 炉威(aa0996)は膝の上に乗せた猫の肉球をぷにぷに触る。
「悪くはないね」
「ところで炉威様、年賀状とはなんですの?」
 エレナ(aa0996hero002)が可愛らしく小首を傾げて聞く。
「そうさね……挨拶状だよ。生死の確認とかね。近況報告というよりも、慣習ってヤツだろうけど、何が面白いのやら……」
 自分にはそうしたものを出す相手が居ないのは幸いだと、炉威は思う。
「炉威様は勿論わたくしに出して下さるのでしょう?」
 エレナは期待してにこりと微笑む。
「どうしてそうなるのかね」
「あら、だってこの依頼は大切な方に年賀状を出せるのでしょう? 炉威様はわたくしに、わたくしは炉威様に。が、自然の流れですわ」
「ああ、そうか。俺達も年賀状を出せるんだったな……エレナの望み通りお前さんに出すとするかね」
 一枚はエレナに、もう一枚は家で待っているもう一人の英雄にでも出すかと、炉威は膝の上の猫を撫でた。
「みんな、元気にしてましたか?」
  紫 征四郎(aa0076)は馴染みのある猫たちを見渡す。その征四郎の隣には、その目をキラッキラッに輝かせたユエリャン・李(aa0076hero002)がいた。
「ここは天国のような場所であるな……!」
 木霊・C・リュカ(aa0068)は足元にすり寄ってきた猫を撫でた。
「何だか久しぶりだねぇ」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)のもとにはオリややんちゃ三匹が集まる
「皆、元気そうで、よかった」

●肉球ぷにぷに
「みんな、揃ってるわね〜!」
 エージェントたちが集まっている部屋に沙羅が入ってきた。
「白紙の年賀はがきを持ってきたから、どんどん押してちょうだい!」
 そう言ったタマ子も沙羅も手ぶらだ。二人の後ろから部屋に入ってきたヴィクターが年賀はがきと墨汁などを抱えてきた。
 テーブルに道具を置いたヴィクターは、横から飛んできたリュカと数匹の猫によりよろめいた。
「さあ、仕事だヴィクター君っ!」
「……リュカも来てたのか。共鳴していないのに、よく俺のことがわかったな」
「それは、もちろん、友情の深さによるものだよ〜」
 ……そういうものか? と、ヴィクターは感心しかけたが、それはすぐに訂正された。
「というのは嘘で、オリヴィエが教えてくれたから!」
「なるほど……」と、ヴィクターがオリヴィエを見ると、オリヴィエがぐっと親指を立てて頷いたので、それはきっと「あとは任せた」の意と捉え、ヴィクターも頷きを返した。
「さっそくだけど、大人にゃんこと子にゃんこを一匹ずつお願い!」
「それならここに」と、にゃんこホイホイよろしくヴィクターの足元にはすでに数匹の猫が集まっていた。
「そういえば、墨でつけるってことは、色は黒しかないの? お兄さんはいろいろな色があったほうがいいと思うんだけど」
 リュカの言葉に、沙羅がインクセットを持ち上げて見せた。
「そう言うと思って、いろいろな色のインクを用意しておいたわよ!」
「さすが、沙羅ちゃん!」と、リュカは沙羅に拍手を送るが、買ってきたのも持ってきたのはヴィクターであることは薄々気づいている。
「じゃ、ヴィクター君、大人にゃんこの足跡をひとつ押して」
 ヴィクターは言われるままに肉球はんこをむぎゅっと押した。
「んで、お兄さんが子にゃんこの足跡を……」
 手探りでぺたりと子猫の足跡をつけ、はがきには大小ふたつの足跡がついた。
「なるほど……かわいいな」
 子猫がみ〜と鳴くと、リュカは子猫に謝った。
「ごめんよ。子猫ちゃん……新入りさんかな? ちょっとだけお兄さん達につきあってね」
 オリヴィエはリュカや他の人たちが作業に入ったのを見て、改めてオリに視線を合わせた。
「毛艶もいいし、風邪とかひいてないな」
 オリヴィエが伸ばした手に、オリは自ら頭を擦り付けて甘えた。

「先ずは猫を捕まえないとね!」と、喜久子は気合いを入れる。
「アキちゃんはどうやって猫を捕まえる? 私は猫じゃらしとか良いと思うんだけれど」
「猫じゃらし! 良いね。楽しそう~♪」
 喜久子はタマ子に声をかけた。
「猫じゃらしってありますか……じゃなくて、猫じゃらしはあるか?」
「あるわよ」と、タマ子は棚のなかから新しい猫じゃらしを出して二人に渡した。
「ねぇ、見て見て! この子凄い食いつき良いよー!」
 さっそく猫じゃらしで猫の気をひくアキト。
「アキちゃんの方が猫じゃらしでじゃらして貰ってるみたいに見えるわね」
 猫と遊ぶアキトの姿に、喜久子は微笑んだ。
 和輝は持ち込んだぬいぐるみをぴこぴこと動かして猫の気を引く。
「こんなにぬいぐるみ用意してどうするんだよ」
 複数のぬいぐるみにぐるり囲まれた姫癒は若干うんざりしたような表情で和輝へ視線を向ける。
「なんで猫じゃらしとかじゃないんだ?」
 そんなことを言っていた姫癒の背中に、なにかがピトッとくっついた。
 なんだ? と、後ろを振り向くと、一匹の猫が姫癒の背中にくっついていた。
「……どうした?」
 そう声をかけると、その猫はびっくりしたような顔をして、慌てて逃げていった。逃げていった先には、大量のぬいぐるみによって巣のような、山のようなものができていた。猫はその中へせっせと入り込む。
「……なんだったんだ?」
「ひーちゃんはぬいぐるみ好きだから、ぬいぐるみに囲まれていた君のこともぬいぐるみだと勘違いしたのかもしれないね」
 そう教えてくれたのは灯影だった。
 灯影はひーちゃんの巣に近づくと、「ひーちゃん、出ておいで」と、パペットをぴょこぴょこ動かした。
 ひーちゃんはそっと顔を覗かせて、見知った灯影とパペットの姿にテンションを上げてぬいぐるみの巣から再び出てきてパペットにしがみついた。

「ごめんな〜。すぐ終わるからな〜」
 カールは猫に優しく話しかけながら、猫の爪を切る。猫が嫌がって爪を出しても深い傷を負わないように、そして肉球をきれいにつけるための配慮だ。
「はがきといろんな色のインクももらってきたぞ」
 レイが年賀はがきとインクを持ってきた。
「こっちも、爪、切り終わったよ」
 カールは猫を安心させるために、足が浮かないよう気をつけながら優しく抱っこし、まずは墨汁に肉球をつけて年賀はがきにぺたりとつけた。
「うわーん! 肉球可愛い!! 肉球だけでも可愛いッ!!!」
 カールのテンションが急上昇したことに猫は驚き、ジタバタと暴れた。
「ごめんごめん。つい、興奮しちゃった。もうちょっと、つき合ってね」
「良いコだな……すぐ終わる。大人しくしていれば、な」
 レイも優しく猫に話しかけ、カールが噛まれたりしないように猫の口元をそっと保定した。
「嗚呼、こうして炉威様と猫を愛でるなんて、何だか素敵ですわ」
 エレナは炉威にすこしもたれるようにして、炉威の膝の上で寝始めた猫を見つめる。
「何が素敵やら……大人しい猫だ、肉球スタンプさせて貰うかね」
 猫を抱き上げると、猫はまだうとうとと炉威の腕に身をまかせる。
 炉威は猫の距離感が好きだった。人も、動物も、深く関わってもいいことなどないと炉威は考えていた。
「炉威様、わたくしという者が傍に居ますのに、何を考えていらっしゃいますの?」
「何でもないさね。それより、どうだ、肉球スタンプは上手くいったかね?」
『イト』というネームプレートのついた真っ白な猫と一緒に年賀はがきを作り始めたエレナは「もちろんですわ」と微笑む。
「この肉球の可愛らしいこと……わたくしには及びませんけれど」

 巳瑚姫は周囲のエージェントたちとは違いのんびり構えている相棒を急かす。
「雨月、わかっておるな? 年賀状づくりだぞ?」
「わかってる。わかってる」
 言葉と行動がかみ合わない雨月に、巳瑚姫は眉間に皺を寄せる。
「年賀状、年賀状」と口では繰り返しながら、『めたぼ』とネームプレートがついた猫のもこもこしたお腹が気になり、雨月はもみもみとお腹を揉む。
 揉み方が雑だったためか、めたぼはすこし怒ってかしかしと雨月の手を噛む。
「にゃー、にゃにゃー!」
 雨月もその手をじゃれるように動かすと、めたぼは噛むのが楽しくなり、さらにかしかしと噛む。
「お。茨稀の方は順調そうだな」
 黙々と作業を進める茨稀の表情はいつもよりも柔らかい。
「しかし……茨稀にも好きなモノがあるとは……」
 不躾に自分を見てくるファルクに茨稀はにこりと笑って「どう言う意味、でしょう?」と聞くも、その目は笑っていない。
 そんな茨稀に味方してか、ファルクが抱き上げようとした猫は全力拒絶して、フェルクの胸を蹴って腕の中から逃げ出した。
 その後も、噛み傷や引掻き傷が増えていくばかりで、ファルクに協力的な猫がいない。
「ファルク、猫にはすっかりフラれましたね……」
「……何でだろうな」
 ひゅ〜と冷たい風がふきつけた……ような気がファルクにはした。
「やっぱり猫だからこそ、その人の本質を見極めるのでは?」
「俺の本質? そんなのオトコマエってヤツだろう?」
 ファルクの本気の真顔に、茨稀はイタイものを見るような眼差しになる。
「救いの余地無し、ですね……」

●ぷにぷにぷにぷに
 征四郎はやんちゃ三匹のうちの一匹であるブッチーの背後にそっと近寄る。
「失礼します! ブッチー、お覚悟なのです!」
 そうブッチーの背に飛びつこうとしたが、俊敏なブッチーは瞬時に避け、その身を低くする。
「さすがですね……」
 じりじりと征四郎が近づくと、ブッチーはさらに身を低くしてふりふりとお尻を振る。
 ていっとブッチーに向かう征四郎と征四郎に飛びかかるブッチーの一騎打ち……ブッチーは征四郎の頭を飛び越え、その背中を踏み台にして床に着地する。
「く……やはり、一筋縄ではいきませんね!」
 征四郎がブッチー捕獲のために頑張っていた頃、ユエリャンは猫に髪を引っ張られても、髪を噛み噛みされても文句を言わずにされるがままになっていた。完全に猫奴隷である。
「ユエ、髪がすごいことになってるぞ……」
 オリヴィエの言葉にユエリャンは懐かしそうな眼差しをする。
「小さい頃のオリヴィエは負けないくらい可愛かったぞ。兄弟の中でも一番甘えん坊で、よく玩具を取られて泣いていたな……それが今やこんなに立派になって!」
  遠い眼差しをするユエリャンになんと答えていいのかわからず、オリヴィエはオリと一緒にユエリャンからちょっと距離を置いた。
 やっとブッチーを捕まえた征四郎は、リュカと子猫に遊ばれているヴィクターに声をかけた。
「ヴィクター、ちょっとお手伝い大丈夫です?」
「……どうした?」と、子猫の足跡が顔についたままヴィクターは征四郎の元へ来る。
「はがきを持っていてもらえますか?」
 ヴィクターがはがきを持ち、征四郎はブッチーを抱っこして肉球をつけた。
「可愛いです! でも、ブッチーがつまらなそうなのです……」
 はっ! と、征四郎はひらめく。
「はがきを下に並べて、上を走って貰ったらどうでしょうか!」
「それ、面白そうね」と沙羅がはがきを床に並べる。
「ユエリャンも遊んでないで手伝ってください!」
 征四郎の言葉を受けて、ユエリャンはブッチーの後ろ足にインクをつける。
「うう、すまない……嫌がる気持ちはわかる、わかるのだぞ! 我輩だって君に無理やりしたくはないが……しかし、わかってくれ。君のファンが待っているのだ!」
 ユエリャンは泣きながら作業をする。

 ニャーニャー鳴く猫に、Noahは困っていた。
 おもちゃで何匹かの猫を釣り、肉球はんこはすでに何枚か押してある。それまでの猫は作業が終わると早々に逃げて行ったのに、今目の前にいる猫の会話が激しい。
「なんて言ってんのかな……」
「……そんなの、考えてもわからないだろ……」と、幻想蝶の中からNoahを見守る理は呟いた。
 しかし、Noahは諦めずに「にゃー?」と返事をしてみた。すると、猫のニャーニャー! と、鳴く声が激しくなる。
「にゃーにゃー……にゃ?」
 ニャーニャー!
「……にゃっ!」
 Noahが猫用おやつを取り出すと、猫はせっせと食べはじめた。そして、「おいしい?」と聞いたNoahにごちそうさまというようにその頬にぺたりと肉球を押し付けて去っていった。
 そんなNoahと猫のやり取りに、理も思わず微笑んだ。
「その猫はひめちゃんのこと気に入ったみたいだな」
 和輝は猫を撫でる姫癒を微笑ましく見つめる。
「無理やり肉球を押しつけるのも可哀想だから、歩かせたいんだけど……」
「じゃ、俺たちもはがきを床におくか」
 床に数枚のはがきを置き、姫癒は猫に話しかける。
「ほら、ペタンってして」
 他の猫が寄ってくると、大きい肉球と小さい肉球をランダムに押したり、色の違うインクを使ってみたり、波状や縁や丸く押してみたりと二人は工夫して年賀はがきを作成した。
「ヴィクター君、店名入れるハンコとかあるかな? それ押せば宣伝にもなると思うんだけど」
「あるわよ!」と、答えたのは「宣伝」という言葉を聞きつけたタマ子である。
「はい。よろしくね」と渡されたそれは店名の前後が猫のシルエットで囲まれた可愛らしいタイプのものだった。
「リュカは首尾はどうですか?」
 征四郎がリュカのところに様子を見に来た。
「今、お店の名前を入れてるところだよ」
「はんこ、可愛いのです!」
 その頃、オリヴィエは「……5枚につき、大麦若葉の猫草(少々お高め)一枚の出来高制で、どうだ」とオリと交渉していた。
 交渉の末、オリの主張により年賀はがき3枚作成につき、猫草一枚の契約となった。
「どの辺に押せばいいんだ?」
 オリヴィエが静寂に聞きに行くと、「俺はこんな感じにしたよ」と、静寂がはがきを見せてくれた。
 オリとオリヴィエは一緒にそのはがきを見て、顔を見合わせるとお互いのやる気を確認するかのように頷いた。
 
「あ、遂に猫ちゃん確保ね」
 アキトが猫じゃらしで仲良くなった猫を一匹連れてきた。
 喜久子はその猫を受け取り、肉球に触ってみる。
 ぷにぷにぷにぷに……。
「ああ、肉球……可愛いー!」
 思わず叫び、写メを連写する喜久子。
「スタンプしよっか」と、アキトのほうが冷静に作成の準備を進める。
 静寂は灯影の持っているパペットに小首を傾げた。
「そのパペット昨日作ってたやつでしょ? なんで狐?」
「元々猫にするつもりだったんだけど楓が」
 ひーちゃんと遊びながら灯影は苦笑する。
「あー、なるほど……狐さんらしい」
 静寂は大人しい猫を一匹捕まえ、すでに年賀はがきを製作している。
 灯影もひーちゃんの肉球に墨汁をつけて、はがきにペタリと足跡をつける。パペットに気を取られているひーちゃんは大人しい。
「はううっ……かわいい」
「これ、ノルマとかあるのかな?」
 十数枚作ったところで静寂は作業に飽きてきていた。
「できるだけいっぱい……と、てきとーなことを言っていたぞ」
  近くで作業していたヴィクターが言った。
「いっぱい……か……」
 ひーちゃんの可愛さと肉球にきゅんきゅんしている灯影のスペースに静寂は自分のところにあった年賀はがきをすこしずつ足した。
「ん? なんか枚数増えてない? まぁ、いいけど……たとえ嫌がられて猫パンチされても、むしろご褒美だし……!」
「これが天国にゃん」と、灯影の頬は緩みっぱなしである。
 灯影はペンで足跡に目と口と髭を描いて猫の顔にする。
 そこに、リュカが灯影のはがきを覗きに来た。
「灯影ちゃんは何だか可愛いの作りそうだよねぇ、みーせーて!」
「ヒカゲ、うまくできましたか?」と、征四郎も一緒だ。
「二人とも、もう終わったの?」
  灯影が二人に目を向けた瞬間、ぺたりと、ひーちゃんが灯影の頬に肉球はんこをくっつけた。

「結構、苦戦してる? 頑張って!」
 はがき作成を急かす予定が、いつの間にか巳瑚姫は雨月とめたぼのゆるゆるな戦いを観戦していた。
 しかし、体力のないめたぼはそう長くは戦えない。めたぼは遊び疲れると、雨月の腕のなかで大人しくなった。
 雨月はめたぼの肉球に墨をつけて、ぺたんと年賀はがきに足跡をくっつけた。
「めたぼ、あったかいな〜」
 一枚だけはがきを作ると雨月はめたぼを抱きしめたまま、コロリとその場に横になった。
「雨月!? 寝るな!!」
「ん〜……あけましておめでとう……」
「肉球をつけるのだ!!」
「ん〜……」
 ぷにぷに。
「ぷにぷにするのではないぞ!」
 ぷにぷに。
「……」
 結局は巳瑚姫が手近な猫を捕まえて、年賀はがきの作成をはじめた。
「薄々こうなることはわかっておった……」
 しかし、何故わらわがこの様な事を……解せぬ…… とは思いつつも、真面目に作業を進めてしまう巳瑚姫だった。
「カール、どうだ?」
 猫たちにお礼のおやつをあげていたレイがカールに聞いた。
「うん! なかなかいい感じにできたと思うよ!」
 カールは肉球ハンコの周りに模様を描き、おしゃれなデザインの年賀はがきに仕上げた。

●「猫」とは「幸せ」と同義である。
 年賀はがきの製作を終えて、リュカは猫たちにおやつをあげていた。猫たちの足は作業終了後にヴィクターと沙羅と一緒にしっかりと洗った。
 オリヴィエは今まさに最後の一枚にオリの肉球を押したところである。
 そして、猫と戯れて緩みっぱなしのユエリャンの頬にふにぃっとオリの肉球を押し付けた。
「?」と、小首を傾げたユエリャンの頬にはくっきりとオリの肉球はんこがついている。
「……似合う、ぞ」とオリヴィエとオリは頷いた。
 炉威は自分の隣にいながら、何もない天井を見つめる猫を見てくすりと笑った。
「こいつ等は何を考えてるのかねぇ……時折遠くを見ている様はまるで哲学者だね」
「炉威様、どこを見ていらっしゃいますの?」
「猫だよ。遠くを見るところは俺と似てるかもね」
 レイはカールの手伝いが終わると、壁にもたれて猫たちを見ていた。自分から積極的に猫に触りにいくことはないが、猫たちはそういう人間が好きだ。レイの周りにも、自分の時間を守りたい猫が寄ってきていた。
 そうしたまったりとした猫、猫じゃらしに全力で飛びかかる猫、さっきまで人に甘えていたのに急によそよそしくなる猫……そうした猫をレイは観察し、鼻歌を歌う。途中、これは結構いい曲になるかもしれないと、手近にあった紙に楽譜を書き記していく。
「ちょ、レイ……それ年賀はがきだよ」
 そうカールに言われるまで、その紙がなんであるのか気づかないほどに没頭していた。
「あ……」
 やばいと思った時にはもう遅い。三枚の年賀はがきが音符で埋め尽くされていた。
「……まぁ、いいよ。俺はもう年賀状書いたし、それはもらっていこう」
「……悪い」
「いいんだ」
 カールの年賀状はレイ宛だった。
《A HAPPY NEW YEAR! 今年もレイとレイの音楽と共に……》と書かれた文字は、デザイン力高く記されている。
 レイの相棒でもあり、レイの曲のファンでもあるカールにとっては、年賀はがきが彼の曲で埋め尽くされることは幸せなことでもあった。
 そんなレイの年賀はがきを覗き込み、炉威は「さすがだな……」と感心した。近くにいたアキトも「猫のことをよく表したいい曲だね」と楽譜を読んで言った。

「そろそろお兄さんも年賀状を書こうかな」
 遊びたがってにゃーにゃー鳴く子猫に「少し待っててね」と伝え、リュカは筆をとる。
「まずは、せーちゃんのお家に……」
 リュカは征四郎家と灯影家、それぞれの家にいる英雄たちの名前も宛名に入れて、年賀状をしたためる。
《来年もいっぱい飲んであーそぼっ》
 オリヴィエもリュカの文面の隣に一文つけ添える。
《酒は程々に、来年も、よろしくお願いする》
 そして、オリヴィエが作成した年賀はがきに、ヴィクターと沙羅の名前を書き、暇つぶしにリュカの頭に子猫を積んでいるヴィクターに渡した。
「はいっ! ヴィクター君に沙羅ちゃん! 来年もよろしくねっ!」
「……ああ。こちらこそ、よろしく……」
 珍しく、ヴィクターの頬がわかりやすく緩んだ。
「ブッチー、さっきはすみませんでしたよ」
 征四郎がブッチーにそう謝ってその頭を撫でようとすると、「気にするな」とでも言うように、たしっと、ブッチーが征四郎の膝にその前足をおいた。
「許してくれるのですか?」
 ブッチーは征四郎の肩に乗ると、たしたしと征四郎の頭を撫でる。
「ブッチー……」
 征四郎は感動する。しかし、その感動を超えて……
「……重いです」
「ブッチーは結構大きいものね」
 沙羅がブッチーを抱っこして、肩から下ろしてくれる。
「ブッチー、あとで遊びましょう!」
 そうブッチーに約束して、征四郎も年賀状を書き始めた。
 一枚はリュカ家へ。そして、もう一枚をヴィクターの家へ
《今年も一年、よろしくおねがいします!》
 
 巳瑚姫が四枚の年賀状を雨月に渡した。
「年賀状は、わらわは送らぬでな。わらわの分も雨月にやろう」
「ありがとう……一枚は実家宛と、あとは誰に送るかな……大切な人、かー」
 大切な人というものが今ひとつすぐには思いつかない雨月とは違い、Noahにはすぐに思いつく人が三人いた。
 しかし、もらえる年賀状はがきは一人二枚、さてどうしたものかと考えていると、沙羅が年賀はがきを一枚くれた。
「二枚じゃ足りないんでしょ?」
「……ありがとう」
 あまり表情に変化のないNoahのかすかな笑顔に、沙羅も笑顔を返した。
 猫に囲まれつつ、茨稀は年賀状の文面を考えていた。今は亡き両親へ、伝えたいことはたくさんある。
 届くことは決してない年賀状ではあったけれど、一番自分の思いを届けたいのは確かにその二人だった。
《明けましておめでとう御座います。 きっと……壊してみせます。 大切な僕のあなた達を奪った、今のこの世界、を……》
 新しい年が訪れるたびにすこしずつ薄れてしまうような気がする記憶のなかの二人の姿。その姿が鮮明なものではなくなっても、茨稀の二人への愛情も無念も変わらずにその形を残すのだ。
「……」
 年賀状をしたため、決意を新たにした思いでふと隣を見ると、ファルクが寂しそうに猫たちを見ている。
「……まだ、猫たちと仲良くなれてないのか?」
「猫に嫌われるとか心外だぜ……まさか……これがツンデレ……っ!?」
「……この後にデレが待っていると思えるあたり、幸せだな」
「そうならもういいんだぜ? もうツンは十分に味わったから、デレてくれてもいいんだぜ?」
「……本当に、幸せだな」
 茨稀は呆れた眼差しを向けつつも、ふっと笑った。
「別に書く相手いないけど……」と、姫癒は年賀はがきを前に唸る。
「親には?」
 そう和輝が聞く。
「最近、連絡全然してないんだから、年賀状くらい送ってみたらどうだ? 可愛いし、記念に持ってっても良いと思うけどな」
 姫癒はペンを手に取り、まずは相棒である和輝に年賀状を書く。
《明けましておめでとう いつも感謝してる、これからもよろしく》
 和輝は姫癒に。
《Happy New Year! 新しい年がもっと良い年になるように、これからもよろしくな 姫癒の幸せをいつでも願ってる》
 姫癒は最後に父親に年賀状を書いた。
《謹賀新年 俺は元気にやってるから心配しないで 無理しないで、身体に気を付けて》
 離れて暮らす父親を思い、どうか、幸せでありますようにと願う。

 静寂は猫たちと一緒に床に寝転んでいた。
「温かいお茶飲みたいなー」
 聞こえよがしに言って灯影に視線を向け、静寂はすこし驚いた。
「灯影君、すっごい足跡まみれだね」
 灯影の顔にも服にも肉球の跡が複数ついていた。
「羨ましいだろー!」
「え? どうしてそういう発想になるわけ?」
 こちらも横になって休んでいたカールの傍に、暖を求めて猫が集まっていた。
「……幸せだぁ〜」
 猫たちにぴっとりと体を寄せられ、カールは至福の時を堪能する。
「やっぱ、ウチにもねk」
「却下」と言うレイの言葉はやけに俊敏だ。
「アキちゃんは誰に年賀状書くの?」
 喜久子がそう聞くと、アキトはん〜と顔をしかめた。
「今回俺は遠慮しとくことにする」
「誰にも書かないの?」
「うん。でも、せっかく作ったはがきは貰って帰りたいな♪」
「そうね」と喜久子は頷いた。
 猫待ちに疲れてファルクは眠ってしまっていたが、ふんわりとした感触に目を覚ますと、ファルクに身を寄せて数匹の猫たちが眠っていた。
「……可愛い……な、おい」
 そうファルクが優しい気持ちで猫たちを見つめた直後、ファルクが目を覚ましたことに気がついた猫たちは異常な素早さで、あっという間にファルクの周りからいなくなった。
「……ツンデレ」
 ファルクは目頭を指で押さえた。
「みなさーん、お茶、どうぞ〜」
 灯影はエージェントたちに淹れたてのお茶を配って歩く。
「静寂さん、おっきろー」と静寂に声をかけると、ひーちゃんが任せておけという顔で、てしてしと静寂の額に猫パンチを食らわした。
「……おはよー」
「ご要望のお茶、入ったよ。静寂さんは誰に年賀状書くの?」
「うーん……」
「俺はばあちゃんとー」
「狐さんにはあげないの? きっと拗ねちゃうよ」
「一緒に住んでるのにあげるのか? たしかに、あげなきゃあげないで何か言われそうではあるけど」
「俺は出す相手もいないし、灯影君にあげるよ」
「え、いいのか? じゃあ……」と、灯影はリュカ家と征四郎家と、それから二人の相棒へ年賀状を書く。
「来年もよろしくっと!」
 それからまだパペットで遊んでいるひーちゃんの頭を撫でた。
「タマ子さん! 灯影君が当日も売り子したいってー」
 静寂の突然の発言に、灯影はぶんぶんっと慌てて首を横に振る。
「!? いや言ってないから!」
 タマ子の耳には自分にとって都合のいい話しか入っていない。
「助かるわ〜♪ それじゃ、さっそく今からお願いね♪」
 がっしりとタマ子に腕を掴まれた灯影が一息つけるのは、もうすこし後のようだ。

 猫も人も、それぞれの年末を迎え、そして新しい年を迎える。
 どうか、真新しい一年が、幸せな一年となりますように……。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • マイペース
    静寂aa0273hero002
    英雄|26才|男性|シャド
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • 白く染まる世界の中に
    エレナaa0996hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
  • 綿菓子系男子
    天海 雨月aa1738
    人間|23才|男性|生命
  • 能面と舞う
    巳瑚姫aa1738hero001
    英雄|23才|女性|ソフィ
  • エージェント
    Noahaa4701
    機械|13才|?|攻撃
  • エージェント
    aa4701hero001
    英雄|18才|?|カオ
  • ひとひらの想い
    茨稀aa4720
    機械|17才|男性|回避
  • 一つの漂着点を見た者
    ファルクaa4720hero001
    英雄|27才|男性|シャド
  • エージェント
    美咲 喜久子aa4759
    人間|22才|女性|生命
  • エージェント
    アキトaa4759hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • ひとひらの想い
    千桜 姫癒aa4767
    人間|17才|男性|生命
  • 薫風ゆらめく花の色
    日向 和輝aa4767hero001
    英雄|22才|男性|バト
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