本部

求む! 冒険者達!

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/12/20 09:30

掲示板

オープニング

●冒険者達!
 宝の地図。
 それ自体が都市伝説のようなその地図がH.O.P.E.へと持ち込まれた。
 本来ならば宝探しなどH.O.P.E.の仕事ではない。
 いくらそれが最近従魔の活動が活発な南太平洋エリアに近い無人島だからと言ってH.O.P.E.の仕事は本来ならば引き留めることで護衛を出す事ではない。
 だが、宝の地図はロマンである。
 そしてロマンは時に人を狂わせる。
 そうして、H.O.P.E.の依頼掲示板に宝探しの依頼が張り出されることになった。
『求む! 冒険者達!』
 
●宝の地図
「これが、その宝の地図……のカラーコピーだ」
 そう言って依頼主である青年、オ・バカが参加したエージェント達に地図のコピーを配る。
 オが持つ本物の地図はとても古く、年代だけで言えば間違いなく本物であるという。

  ~~~~~~~地図~~~~~~~~~~

       | ̄ ̄ ̄| | ̄ ̄ ̄|
      入口 1 | | A |
       |___| |___|
        ||
 | ̄ ̄ ̄| | ̄ ̄ ̄|
 | 5 | | 2 |
 |___| |___|
        ||
       | ̄ ̄ ̄| | ̄ ̄ ̄| | ̄ ̄ ̄|
       | 3 |=| 4 |=| 6 |
       |___| |___| |___|

             | ̄ ̄ ̄|  
             | B |  
             |___|

 (=は通路||は階段)
  部屋1を一層として部屋2の二層、部屋3の三層と地下に伸びている。
  ~~~~~~~地図~~~~~~~~~~

 地図は非常に簡素で各部屋に数個シンボルが記されているだけだった。

 部屋1には四角いマス目と何かを吹き出す竜のマーク。
 部屋2には丸太と振り子のマーク
 部屋3には三角の上に乗った棒のマーク
 部屋4には丸と下り坂のマーク
 部屋5には蓋の開いた宝箱と波のマーク
 部屋6には蓋の開いた宝箱
 部屋Aには鍵のマーク
 部屋Bには赤いぺケ印

●ダンジョンアタック
 人の手の入っていない茂みをかき分けて島を登りダンジョンのある洞窟にたどり着く。
 入り口は自然の洞窟のようだったが少し進むと明らかに人の手によるものである古い石の扉が現れる。
「いざ、迷宮に立ち向かわん!」
 そう叫んで一生懸命に扉を押し開けようと全力で力をかけるオを押しのけてエージェント達は扉を横にスライドさせて開く。
 真っ暗な最初の部屋を懐中電灯の明りが照らす。
 外は普通の岩だったにもかかわらず、中は綺麗に加工された石壁だった。
 閉じられていたせいかそれ程風化は進んでおらず比較的綺麗な状態で中は保たれている。
 部屋の床は5x5のマス目に区切られていて、そこには四種類の紋様が刻まれている。
 紋様は「大剣」「錫杖」「聖杯」「硬貨」。
 そして同じ模様が東西南北の壁にも記されている。
 南側、入ってきた壁には「大剣」の模様。
 東側の壁には「錫杖」
 西側の壁には「硬貨」
 そして北側には奥に続く扉と壁に「聖杯」の模様。
 さらに扉には文字が刻まれている。
「奥へ行かんとする者よ、南よりは入り、東より周れ」
 その言葉をオが読み上げていく。
「だが、進むことのみが真実への道とは限らぬ。戻る事により鍵へと至ることもある。だが、一度決めた道は帰れぬ心せよ」
 オが読み上げたその文字以外に何か目立つ物は見えない。
 唯一気になるのは西側中央の大剣にだけ小さな鍵のマークが描かれている事だろうか。
 だが、不気味なのは地図に描かれた竜の頭がどこにもない事である。
 警戒するエージェント達を気にすることなくオが部屋の出口へ向かい真っ直ぐに進む。
 最初の大剣のマスから硬貨のマスへそして中央の聖杯を越えて硬貨のマスに移ったところで天井から竜の頭が現れた。
 そして竜の口から水流が勢いよくオへ向けて噴射される。
 水流に押し戻されてオが入口まで戻って来る。
「海水のようですね」
 別段、怪我もなくびしょびしょで入口に転がったオがしょっぱそうに顔をしかめてそう言った。
「これは謎を解かなければ奥へと進めないようです」
 壊れた懐中電灯を持ち替えながらオは真剣な表情でそう言った。


 ~~~~~~床の模様~~~~~~
   A  B  C  D  E
  ――――――出口――――――
1|聖杯|硬貨|大剣|硬貨|錫杖|
  ――――――――――――――
2|錫杖|聖杯|硬貨|大剣|聖杯|
  ――――――――――――――
3|大剣|錫杖|聖杯|錫杖|大剣|
  ――――――――――――――
4|聖杯|聖杯|硬貨|聖杯|硬貨|
  ――――――――――――――
5|硬貨|錫杖|大剣|錫杖|大剣|
  ――――――入口――――――
 A-3の大剣だけ剣身に鍵のマークが加えられている。
 
 ~~~~~~~~~~~~~~~~

解説

●目標
・ダンジョンを探索する。

●各部屋の仕掛け(PL情報)
・部屋2:幅30cm長さ12mの入り口から出口への一本橋です。
     部屋は12m×12mですが橋以外の部分に床は見えず、底の見えない深い穴です。
     一本橋には丸太型の錘の付いた振り子が四つ、橋を横切るように行き来しています。
     振り子の間隔は入り口から2m・2m・4m・2m・2mで出口となります。
     入り口は南、出口は北ですが、部屋の西側の壁中央に扉が見えます。

・部屋3:15m×15mの部屋で北西と南東の角を結ぶ対角線を軸に床がシーソーのように動きます。
     バランスをとらないと床が傾いて滑り落ちます。床にはつまずきそうな凹みが並んでいます。
     床の下は部屋2と同様に底が見えないほど深い穴です。
     入り口は南、出口は北です。

・部屋4:幅3m長さ50mの下り坂です。入ると丸い大岩が転がって追いかけてきます。
     西側の壁に岩を避けられる窪みが五メートル間隔に九個開いていますが、ちょうど真ん中の窪みだけ深くなっています。
     東側の壁には窪みはついていません。

・部屋5:部屋の一番奥に宝箱が有ります。

・部屋6:部屋の一番奥に宝箱が有ります。

 PL情報:落下先は海と繋がった地底湖です。
     泳いで外に出れば島にすぐ戻れますが落ちた穴は塞がれるのでそこからは戻れません。
     落下によるダメージは考えなくて構いません。

●依頼人の青年
・名前:オ・バカ
・名前通り何も考えていません。放っておけばすぐに仕掛けにハマります。
・能力者ではなく一般人です。

●照明
・ダンジョン内部は暗いので照明が必須です。
 照明はオ・バカが一人一本ずつは準備していますが、仕掛けにハマるたびに一個壊れます。
 オ・バカと能力者、英雄の全員に一本ずつです。
 入り口で壊した一本はこの数に含まれません。

リプレイ

●部屋1
「水がざぱーってなったよ……たのしそう!」
 竜の口の仕掛けに押し戻されたオを見て歓声を上げて駆け出したピピ・ストレッロ(aa0778hero002)を
「……はいはい、わざと引っかかろうとしない。色々仕掛けがありそうだし気を付けよ?」
 皆月 若葉(aa0778)がそう言って引き留める。
「はーい! バカも気をつけようね」
 元気よく皆月に返事をしてピピはびしょ濡れのオに声をかける。
「ピピ……何かアレだから名前で呼ぼっか」
 無邪気なピピの言葉に苦笑した皆月の向こう側では入り口からダンジョンを覗き込むユズリハ ルナリィス(aa0224hero002)が
「先輩、宝の地図ですよ。ワクワクしますね」
 そう言って地図を広げている。
「仕掛けも本格的だし、本物っぽいよな」
 その隣で部屋の中を照らす月影 飛翔(aa0224)の声もどこか弾んで聞こえ、
「現実にダンジョンがあるとは素晴らしい! 一体どのような技術で作られたものか興味があるのぅ」
 カグヤ・アトラクア(aa0535)は目を輝かせてダンジョンの素材や仕組みを確認するように色々と触れて回っている。
 そのカグヤの後ろでは眠そうに見える目をダンジョンに向けてクー・ナンナ(aa0535hero001)が
「……あぁ、うん。最終的にダンジョンが崩壊して、皆で脱出するラストシーンが思い浮かぶんだけど……気のせいだよね?」
 不吉な未来を予見していた。
「機械的な仕掛けのようですね」
 罠師のスキルで部屋の中を確認した九字原 昂(aa0919)の言葉に
「なるほど、益々興味深いのう」
 カグヤが嬉しそうに声を上げる。
「地図のマスはこれら図形、竜はあの仕掛けのことか」
 ユズリハが広げた地図のマークを横から確認してそう言った月影に
「壁の文字がヒントなのですよね」
 ユズリハが確認するように声をかける。
「何故部屋の謎を解くヒントをわざわざ書いてあるのです?」
 その言葉にアトリア(aa0032hero002)が不思議そうに首を傾げる。
「……真意はわからないが解いて欲しいからそう書いてあるんだろう?」
 真壁 久朗(aa0032)のその応えにも理解できないというように顔をしかめたアトリアに
「この世界ではダンジョンは攻略する為に作られるのですわ」
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)がそう説明する。
「ダンジョンを攻略して友情や絆を深めたりするのです」
 この世界に来てから得た新しい芸術の知識でそう説明するヴァルトラウテの言葉に
「心身を鍛えるために入るような場所もあるしな」
 赤城 龍哉(aa0090)が言葉を加える。
 ダンジョンの入り口では無策にまた中に入ろうとしたオが皆月とピピに引き戻されている姿が見える。
「……普通に進むってバカですか」
 何も考えて無さそうなオの様子に呆れたように呟くユズリハの言葉に苦笑して月影は壁のヒントを思い返す。
「東より周れとあるから……」
 こぼれ出たその言葉に
「大剣、錫杖、聖杯、硬貨の順か?」
 赤城が応え
「けど、鍵って何でしょうね?」
 九字原が次の一文に首を傾げる。
「西側の中央の大剣にだけ鍵のマークが書き加えられておる」
 部屋を調べていたカグヤがそう声をかけて地面に紋様の配置を書いて西側の大剣に鍵のマークを加える。
「この並びだと、こう行くのが正解だろうな」
 描かれた図に月影がまず出口へのルートを示す。
「だけど、オもカグヤもこっちに進んだよ」
 図を覗き込んだピピが真っ直ぐに進むルートを指さして見せる。
「バカはここで仕掛けにかかった。つまりここまでのルートは合っていたってことだ。これを踏まえ『戻ることで鍵に』を考えると」
 途中までのルートを示した月影に
「あ、南西北東の順ですね。このルートで鍵のマークに行けます」
 ユズリハが鍵へのルートを示して見せる。
「後は、一度決めた道は帰れぬ心せよ。っていう言葉ですね」
 壁に記されていた最後の一文を九字原が口にする。
「普通に解釈すれば来た道は戻れないと言う事だろうな」
 だが、鍵のマークから出口に繋がるルートは存在しない。 

 一人で鍵のマークの大剣にたどり着き壁に隠されていた鍵を手に入れた月影が振り返る。
 もう一度確認してみるがやはりどう見ても出口へつながるルートは見いだせない。
 意を決して踏み出した月影を予想通り竜の口の水流が入口へと押し流す。
『うー、びしょ濡れです……』
 共鳴したままのユズリハの意識に
「仕方ないとはいえな」
 月影もどこかやるせなさそうにそう返した。

●部屋2
「地下迷宮への挑戦、ねぇ」
 最初の部屋から続いていた階段を下りながら赤城がそう口にする。
「卓戯が終わったばかりでこれとは、何の因果かと疑いますわね」
 隣を歩くヴァルトラウテの言葉に「そうだよな」と応えて赤城は手元の地図を照らす。
「一応この赤いペケ印が最終目標だよな。多分だが」
 最下層と思われるその部屋まではまだ幾つか仕掛けが有りそうだった。
「わざわざ手の込んだ仕掛けまで作るとは、どこの冒険映画なんだか……」
 そう言って赤城は有名な冒険映画の主人公を思い出す。
「何でしたっけ、タイトル」
 赤城の声に前を歩く九字原が応える。
「確か……」
 そう言ってオが告げたタイトルに会話の花が咲く。
「ボ、ボウケンだかロマンだか、そんな物の為にこのような場所まで……?」
 よく分からない会話の内容にアトリアがぼやくように呟く。
「まあ……仕事だ。見識を広めるのにもいいだろう?」
 そう応えた真壁に
「このような薄汚れた場所でそのような効果を得られるのかわかりませんが……仕方ありませんね」
 と言いつつアトリアは何かないかと興味深げに壁の彫像を覗き込んでいたりする。
「何ですか?」
 じっと見つめていた真壁の視線に気づいてつっけんどんにそう言ったアトリアに
「いや、何も」
 そう応えて真壁は視線を前に向ける。
 丁度階段が終わり突き当りの扉が明かりの中に姿を現す。
「罠は無いようですね」
 会話を打ち切ってスキルで罠を確認した九字原が扉を開き部屋の中が見える。
 その部屋には床が無く反対側の出口まで狭い一本橋が続き、その橋を横切るように四つの振り子が往復していた。
「道は有るのです、進みましょう!」
 部屋の中をゆっくり観察する間もなくオが足を踏み入れる。
「オさん! ダメですよ!」
 咄嗟に伸ばした皆月の手をすり抜けて部屋に入ったオはお約束のように振り子にぶつかる。
「俺、後を追います!」
 闇の底に向けて投げ出されたオを追いかけて皆月がピピと共鳴して飛び出して行く。
「……あの人、致命的にこういったことに向いてないですね。学習能力がないんでしょうか」
 オの行動に理解が追いついて行かず呆然とユズリハが零す。
「まあ、仕掛けを見極めるための役と思えば……」
 そう言った月影も呆れたように穴の底を見つめている。
「でもフォローする方が大変です」
 ため息交じりにそう呟いてユズリハは通信機を取り出す。
『オさん無事ですか!?』
 すぐに通信機から皆月の声が聞こえ
『……よかった』
 オの無事が確認される。
「……あの男よほど命が惜しくないのでしょうか」
 安堵の息と一緒にそう言葉を吐き出したアトリアに何気なく真壁が返した
「探索がしたくてここにいるんだろう? 好きにさせとくのがいいだろうな」
 という言葉に
「あの様子ではいつか大怪我をします!」
 アトリアが少し怒ったように声を上げる。
 それに対してどう応えるべきか迷う真壁に代わって九字原が
「とりあえずオさんからはなるべく目を離さないようにして……」
 そう言いかけて悩むように言葉を切る。
「……手も離さない方が良いかもしれませんね」
 悩んだ末に出て来たのはそんな言葉だったが、そこに関しては誰にも異存は無かった。
「で、バカはそれでよいとして、ここはどうするのじゃ?」
 カグヤの言葉に一行は視線を上げる。
「振り子の原理は理解しておる。止めてしまえば障害を排除する事も出来るが」
 そう言って天井部分の支点に明かりを向けたカグヤに
「ラストシーンが現実になりそうだよね」
 クーがそう言って逃げ道を確認するように振り返り
「導力と天井の厚みが不明じゃからな、崩壊の危険もある」
 何故か楽しそうな声でカグヤが言葉を続ける。
「無難にタイミングを計って進みましょう」
 しばしの沈黙の後、そう提案したのは九字原だった。

「ただいま! 下はすっごい大きな地底湖だったよ!」
 戻って来たピピが両手を大きく広げて楽しそうに地底湖の大きさを報告して
「アレはアレで素晴らしい場所だった!」
 オもピピと一緒に満足げに頷いている。
 話すことに夢中なオを確認して皆月は下の報告と方針の確認を済ます。
「何かに集中すると何も見えなくなるんだよね」
 ピピと二人で盛り上がっているオに苦笑して皆月が声をかける。
「二人とも行くよ」
 そうして皆月がオに付きっきりでタイミングを取り振り子をかいくぐって一行は道の半分まで来たころで足を止める。
「どうやって行くんでしょうね、あの扉」
 西側の壁を照らした明かりの中に扉が見える。
「振り子に掴まれば届きそうだが……」
 赤城の言う通り振り子以外に近づけそうな道は見えない。
「扉を壊してみましょうか。そこに飛び移れば足場が無くとも良いでしょう」
 そう言って何気なく空中に足を出したアトリアが不思議そうに首を傾げる。
 そのまま足元を確認するように何度か動かして踏み出したアトリアは空中に立っているように見えた。

●部屋5
 アトリアが見つけた透明な道は扉まで繋がっていて、扉の先には宝箱の置かれた小さな部屋が有った。
「剣にワイヤーを結んでみました。一度これで様子を見てみましよう」
 自分で発見した隠し部屋にワクワクするように積極的に動くアトリアの後ろから部屋を覗き込んで
「オさんを置いて来て正解でしたね」
 九字原がそう言って道の上に残っているオ達を振り返る。
「罠があるんだな」
 確認する真壁の言葉に九字原が頷く。
「箱に触れると正面の床が開く仕掛けになっています」
 罠師のスキルで確認した九字原の言葉に
「解除は?」
 真壁がそう尋ねる。
「無理みたいですが、正面に立ちさえしなければ問題はなさそうです」
 九字原の言葉に従って一人中に入ったアトリアが宝箱を背後から持ち上げると正面の床がパカリと開く。
「あの男ならば間違いなく落ちてますね」
 そう言いながらアトリアは穴を迂回して透明な道を渡り仲間の待つ場所まで戻る。
 小さいながら宝箱らしい宝箱に全員が期待の目を向けていた。
 ゆっくりとアトリアがその箱を開く。
 だが、中に入っていたのは僅かな古い貨幣だけであった。
「これだけ、ですか……」
 輝く金も宝石も見当たらない箱の中身に皆一様に落胆の表情を見せたが、唯一カグヤだけは空の宝箱を手に取り興味深げに観察していた。

●部屋3
 振り子の部屋の次は床にボコボコと凹みがある部屋だった。
「オ、ダメだよ!」
 ピピが声をかけた時には遅かった。
 まだ何も確認していない部屋にオが足を踏み入れる。
 オの背に伸ばした皆月の手が空を掴む。
 急激にシーソーのように沈んだ床にオがバランスを崩して膝をついたのだ。
 床下に消えるオの襟首に針が掛かる。
 それは赤城が放った凄竹のつりざおの針だった。
 だが、狭い通路では竿を立てることが出来ず勢いよくリールから糸が出て行く。
 その糸を赤城は腕に巻き付けて止める。
 赤城の腕に絡みついた糸が食い込み赤い筋を刻む。
 腕の痛みに歯を食いしばり足を踏ん張ると赤城は気合の声と共に一気にオを引き上げる。
 まるで一本釣りのように釣り上げたオを受け止めて赤城が尻餅をつく。
 驚いたように目を丸くしているオの表情に苦笑して赤城が
「……あんた、ある意味凄いな。良く何も考えずに飛び込んで行けるもんだ」
 呆れ半分関心半分と言った様子でそう口にする。
「よく言われる。私の真似は誰にもできないと」
 返って来たオの言葉に苦笑しながら赤城は腕に喰い込んだ糸を解く。
「褒めてませんわね」
 呆れたように共鳴を解いたヴァルトラウテが言って皆月が慌てて血の滲んだ赤城の腕にケアレイをかける。
 対角にとられた軸を中心に上下していた部屋の床が動きを止める。
「……シーソーか……」
 その床から真壁はアトリアに視線を移す。
「何ですか。その物言いたげな目は」
 オの襟首に引っ掛かった針を取っていたアトリアが真壁の視線に気づき表情を見る間にきつくする。
「いや、お前が乗ったら」
 真壁が最後まで言う前にその額にアトリアが銃口を突きつける。
「それ以上言ったら撃ちます」
 溢れ出るアトリアの怒気に全員が触れてはいけない話題であると即座に理解して
「オさんは、ここはどうしたらいいと思います?」
 皆月がオが地雷を踏む前に声をかける。
 何か言いかかっていたオがその言葉に考え込むように口を閉じる。
「傾く前に渡り切れば問題はないのではないか?」
 どうやっての部分の抜けたオの答えに皆思わず苦笑する。
「バランスを取りながら渡るしかなさそうですね」
 九字原の言葉に
「足をつけずに渡る方法も有るが、それが無難じゃろうな」
 カグヤも同意する。
「最悪、傾いてもこの凹みに掴まれば落ちずに済みそうだしな」
 赤城が床の凹みに手をかけて握り具合を確認する。
「フットガードもかけておけば多少揺れても何とかなるじゃろう」
 カグヤの言葉で取りあえずの方針が決まった。
 まず九字原が渡り、続いて赤城とヴァルトラウテが渡ってオが渡る番になる。
 入り口側で真壁と月影が、出口側では九字原と赤城が床を支えて、皆月が誘導することで万全の態勢でオを渡すと後は問題は起こらなかった。

●部屋4
 シーソーの部屋を抜けた先の部屋は下り通路のような作りになっていた。
「罠は……無いようです」
 スキルにも特に反応は見られず警戒するようにゆっくりと九字原が部屋に足を踏み入れる。
 続いて全員が部屋に入るが何かが起きる気配は無い。
「地図から見ると、赤いペケ印の部屋に繋がるのはここだよな」
 坂を下りながら赤城は周囲を照らしてみるがそれらしき物も見当たらない。
「隠し扉があってもおかしくはなさそうですわね」
 所々西側の壁に穿たれた窪みの中をヴァルトラウテが覗くが特に何も見当たらない。
「何か音がしたよ」
 最後尾を歩いていたクーがそう言って背後に明かりを向ける。
 ゴロゴロという不吉な音と共に明かりの中に転がって来る大岩が姿を現した。
「そこから動かないで!」
 覗き込んでいたオを押し込んで窪みに退避した皆月のすぐ側を大岩が転がり落ちていく。
 窪みに入らなかった者達は見えていた突き当りの部屋に転がり込むように逃げ込む。
 大岩はその部屋の直前で横に逸れると壁の溝に納まる。
「これは面白いのう」
 カグヤの明かりに照らされた大岩は回収されるように天井に登っていく。
「次が来るよ!」
 皆月の声に視線を向けると上の方に次の岩が落ちてくるのが見える。
「岩は複数あるようじゃのう」
 まだ回収途中の岩を確認してカグヤも皆月とオと一緒に部屋へ入る。
「ここがゴール?」
 出口のない部屋を見回してピピが首を傾げる。
「いや……もう1つ部屋があるはず……前の部屋に何かあるのか?」
 皆月がピピにそう応えて入り口を振り返る。
 この部屋には宝箱が一つあるだけで他には罠すら存在していない。
「鍵をまだ使っていないからな」
 月影の言う通りこの部屋の宝箱も鍵はかかっていなかった。
「赤いぺケ印が本命だろうな」
 オが開けた宝箱の中を横から覗き込んで赤城がため息交じりにそう口にする。
 宝箱の中身はさっきの箱よりもさらに少ない。
「わらわとしては箱の中身よりも箱自体の方が興味があるがのう」
 落胆しているオの手からカグヤが空になった宝箱を取り上げる。
「わらわは技術者じゃからのう、内部構造やギミックの方に興味が尽きぬ」
 そう言ってカグヤは箱を幻想蝶にしまって部屋の外へ出る。
「こういうお約束の状態だと、窪みを全部埋めてみるとか。真ん中の深い窪みは岩をはめ込むのか、それとも複数人が入るのか」
 部屋の外に目を向けて月影が思案するように口にする。
「だが、窪みに岩は嵌りそうにはなかったぜ」
 赤城の言う通り窪みに岩は入りそうになかった。
「何で、避ける場所などつけたのでしょうか?」
 アトリアが坂道を振り返って首を傾げる。
「解いて欲しいから、だろう」
 前にも言った言葉を繰り返して真壁も考え込むように口を噤む。
「窪みの奥に何かあるかもしれないですよね」
 ユズリハの言う通り窪みに何か意味は有ると考えられる。
「もう一度、調べてみよう」
 月影の言葉に皆揃って前の部屋に戻るが、定期的に落ちてくる岩が調査の邪魔をする。
「壊すか?」
 何個目かの岩をやり過ごした後、赤城がそう言って拳を握る。
「あまり勧めはせんのう。壊した岩に次が詰まれば道を塞いでしまうかもしれぬ」
 壁の機構を調べていたカグヤの言葉に
「だが、確かに邪魔だな」
 そう言って月影がユズリハと共鳴する。
「壊さずに受け止めればいいだろう」
 落ちてきた岩を月影が受け止める。
「……力押しだよな」
 ふとそう口にした月影に
『そうですね、でもこれも一つの攻略法ですよ』
 ユズリハがそう返す。
「確かに壊さねば詰まることも無いのう」
 納得するようにカグヤも頷く。
 だが、そうしていくら調べてみても窪みの周りでは何も見つからない。
「この辺りに部屋があるはずなのですが」
 何度も調べた真ん中の窪みをアトリアがもう一度覗き込む。
「……すこし灯りをつけてみるか」
 昔見た何かを思い出して真壁がロウソクを取り出して火をつける。
 風の流れを探すようにゆっくりとロウソクを動かすと中央の窪み付近で火が微かに揺れる。
「やっぱりこの辺りに……」
 九字原が辺りを見回す。
 火の動きは東側の壁に近づくと大きくなる。
「それ、鍵穴ではないですの?」
 窪みの反対側の壁に開いた小さな穴にヴァルトラウテが気付く。
 その鍵穴に手に入れた鍵がピタリと収まる。
 全員の歓声が上がる寸前、息を飲んだ僅かな静寂に何かが割れるピシリという嫌な音が響く。
 歓喜から一転、慌てて天井に向けた明かりに無数のヒビが映る。
「さっきまでなかったよな?」
 赤城の言葉通りさっきまではそんなヒビはどこにも見えなかった。
 そして今もそのヒビは広がっている。
「……岩の循環機構が詰まったのかもしれんのう」
 天井を見上げたままカグヤがそう呟く。
「どうしますか?」
 九字原が鍵の刺さった壁と天井を見比べて迷うように口にする。
「脱出しよう!」
 即座に判断を下したのは皆月だった。
「だな。依頼人の安全が第一だよな」
 赤城もそれに同意する。
「それでよいですわね」
 ヴァルトラウテに問いかけられてオは迷うように鍵に目を向けたが、すぐに鍵を抜き取ると
「まだ死にたくはありません!」
 そう言って脱出に同意する。
「道を開ける。窪みに退避してくれ」
 岩を押さえていた月影が声をかける。
 窪みに全員が退避したのを確認して岩を離すと次々と岩が転がりだしてきた。
 その岩をやり過ごして駆け出した背後で壁の回収機構に収まらなかった岩がぶつかり合いダンジョン全体を揺らす。
『言った通りになったね』
 パラパラと天井から落ちる石片の中を走りながら言ったクーの言葉にカグヤは
「お約束、というやつじゃろうな」
 走りながらそう応える。
「シーソーの部屋から外に出るよ!」
 オを連れて先頭を走る皆月が声をかけて部屋に飛び込み、勢いよく床を踏む。
 跳ね上がるように大きく傾いた床を抜けて全員が地底湖へと脱出した。

●浜辺
「ふふ、楽しかったね♪」
 砂浜に泳ぎ着いてピピが皆月とオに笑顔を見せる。
「本来ならかなり危険なんだろうが、共鳴状態だとアトラクションと変わらないよなぁ」
 濡れた顔を拭って月影は泳いできた方に目を向ける。
「でも、楽しかったですよ? またこういった事やりたいです」
 びしょ濡れにはなったがそれなりに楽しめたのかユズリハも笑顔で月影に応える。
「すべて調べきれなんだのは惜しいが、それなりの収穫もあったしのう」
 カグヤはそう言うと持ち出してきた宝箱を取り出す。
 中身はオが回収して空っぽだがこの箱もカグヤにとっては充分な価値のある物である。
「それにしても、ここを作った奴は何をしたかったんだろうな」
 ダンジョンの有った高台に目を向けて赤城が首を傾げる。
「少なくとも能力者に挑戦される事は想定していなかったと思いますわ」
 濡れた服に顔をしかめながらヴァルトラウテが応える。
「何にしろこれで全て分からなくなりますね」
 そう言った九字原に
「目的は分らぬが、創った者は分かるかもしれぬぞ」
 カグヤがそう言って宝箱の裏側に刻まれたマークを見せる。
「ダンジョンメーカー?」
 つるはしとスコップを組み合わせたマークの下の文字をアトリアが読み上げる。
「これがダンジョンの制作者じゃろうな」
 カグヤはそう言うと楽しそうに笑って見せた。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • エージェント
    ユズリハ ルナリィスaa0224hero002
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