本部

【卓戯】連動シナリオ

【卓戯】急げデブリーフィング

影絵 企我

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/12/03 15:17

掲示板

オープニング

●終わってしまった世界の話
 君達が行くのは、収縮を始めた卓上戦戯ドロップゾーン。最早主は無く、消える瞬間を待つだけだ。その世界の姿は哀愁を感じさせる。バラバラになった世界が繋がり合い、歪に美しい情景を見せている。右を見ればサイバーシティ、左を見れば地平線の彼方まで広がる草原。橙色に染まる空が、いかにも斜陽のドロップゾーンをこれでもかと表している。
 君達はこの世界を探査し、この世界に未だライヴスストーンが残っていないかを確かめていた。しかし既に消滅を始めた世界に、そうそうライヴスストーンが残っている筈もなく。
 やがて、君達は人っ子一人いないサイバーシティに足を踏み入れた。中央にそびえるのは巨大なビル。君達はまるで導かれるかのようにそのビルへと足を踏み入れる。あるいはその中に、何か心を動かされるような何かがあるのかもしれないと思ったから。しかし、やはり建物の中は空っぽ、幽霊さえも居はしない。元はと言えば愚神が野望のために作り上げた世界。それでもやはり、一つの世界が終わりを迎え、こうして消えていくとなっては、一抹の寂しさじみた感情も湧き上がるというものだ。せいせいした、というエージェントもいるかもしれないが。

「皆さん、お疲れ様でした。その地点の探索を以て、そのエリアの探索は終了です」
 オペレーターから連絡が入ってくる。君達の内の誰かが、ライヴスストーンの反応は殆ど無かった旨を伝える。それを聞いたオペレーターは、声に落胆の色を帯びさせる。
「……やはり何も残っておりませんでしたか。申し訳ありません。お手を煩わせてしまって。では皆さん、帰還を――」

 その時、急にけたたましいサイレンがビルの中に鳴り響く。

「デブリーフィングを行います。集合場所は……です。遅刻した場合は世界と共に滅びてもらいます」

 エリアに残っていたルールの残滓だろうか。スピーカーから急に突拍子もない命令が飛び出してきた。周囲を見渡すと、ビルの内装が徐々に光に包まれていくのが見える。エリアの消滅が始まったのだ。それにしても世界と共に滅びてもらう、とは物騒な話である。
「た、大変です! 皆さん、至急そのエリアから脱出してください! ドロップゾーンの収縮が始まりました!」
 もう知っている。集合場所はどうでもいい。とりあえず脱出しなければ!

 辺りを見渡した君達の目に飛び込んで来たのは、一台のワープ装置。君達がよく使っているものと同じ型に見える。しかしダメだ。どう見ても挙動がおかしい。修理すれば使えるかもしれないが、そんな技術自分にはあっただろうか?
 外に飛び出した君達が目の当たりにしたのは、二頭の騎竜。何で竜がいるんだ。そもそも火を噴いていかにも危なそうな雰囲気だ。竜に乗って火傷するなんて、シャレになってない。
 さらに君達が見つけたのは、主を失った車やバイク。何故か馬もいる。まあワープ装置やドラゴンに比べればマシだろう。だが爆発するかもしれない! 馬ももしかしたら爆発するかもしれないのだ!

 そう、君達は気付いた。己の身のみを頼って走るか、信じて他に身を預けるか。その選択が迫られている時が来たのだと。

 戦いは確かに終わりを告げた。しかしそのドタバタは、まだ終わってはいなかったのである。

解説

メイン:収縮するドロップゾーンから脱出する
サブ1:一番にHOPE本部に辿りつく
サブ2:宝箱から霊石を回収する
サブ3:泉の女神様から何かもらう
サブ4:崩れた塔の天辺から消えゆく世界を見下ろす

任務まとめ
エリアルールが歪み、SF的な世界観とファンタジー的な世界観が入り混じる不思議な世界になっている。君達はゾーンの最終調査に回っていたが、ドロップゾーンの収縮が著しく、これに巻き込まれる前に撤収する事となった。しかしそのエリアからは微弱なライヴスの反応もある。

移動手段(単純使用時の脱出時間)
・ワープ装置(0分)
 エージェント活動を円滑に行う際によく使うあれに似ている。しかしこの装置は故障状態にあり、安全性は保障できない。爆発する。
 無傷生還10%、近道も何もない。

・騎竜(40分)
 SFな街なのになぜかいるドラゴン。単なる移動装置扱いだが、若干狂暴化の気が見られる。爆発するかも。
 無傷生還30%、近道自由。 

・車(60分)
 一般的な乗り物。これもまたドロップゾーンの機能が失われたために無事な運用はあまり期待できない。
 無傷生還50%、近道は難しい。

・騎馬(80分)
 SFな街なのにry。これも単なる移動装置。竜や車に比べれば遅いが、運用は難しくない。
 無傷生還70%、近道は可能。

・徒歩or走行(120分)
 普通に歩くし走る。頼れるのは己のみ。
 無傷生還90%、近道は簡単。

ルート
1、SF街
 荒廃した近未来都市。移動手段を選ぼう。
2、峡谷
 曲がりくねっている。徒歩や騎馬で通れる洞窟には宝箱あり。
3、森林
 小川が流れる深い森。森の奥深くの泉には女神様が。
4、崩壊都市
 核で滅んだ廃墟。それでもなお残る塔が哀愁を感じさせる。
5、HOPE内
 廊下を走ると怒られる。

Tips
『近道をする』→成功率減、時間短縮。
『点検する』→成功率増、時間遅延。
150分でこのゾーンは消滅する。
寄り道には2、30分かかる。

リプレイ

●この世界を出よう
「あいたっ! あっつい!」
 木霊・C・リュカ(aa0068)は目の前に立つ銀色の竜に炎を吐きかけられ、顔やら何やら煤けさせてからからと笑う。今のところ主導権はリュカが握ったままだ。
「ふぁんたすてぃっく! これだよ! これこそファンタジーだよリンドウ!」
『(と、言いながら黒焦げになっているわけですが……)』
 凛道(aa0068hero002)は呆れたように溜め息をつく。竜と仲良くなるまでは自分がやる、とリュカは言って聞かないのだ。
「多少焦げても爆発してもめげないんだから! お兄さんの夢のために!」
『(……まぁ、ここでしか叶えられないと言えばそうなんでしょうけど)』
「大丈夫……お兄さんは君と友達になりたいんだよ。ね?」
 今度は竜の金おろしのような舌で顔をべろべろと舐められながら、それでもリュカはめげずに交流を続けようとする。凛道は主人の行動に半信半疑だ。
『(本当にこれで上手く行くのですか……?)』

『おい、暴れたらどうなるか、てめぇ分かってんだろうなぁ……?』
 一方わかりやすいのがまいだ(aa0122)と獅子道 黎焔(aa0122hero001)のコンビであった。いきなり鞍の上に飛び乗るなり、うなじ(?)辺りを思い切り踏みつけにし、低い声で早速脅しにかかる。かと思えば、
「だめだめ、れいえん! どらごんさん、のせてね! おねがい!」
 急に可愛らしい声でおねがいされる。喋っているのはどっちも小さな鬼のような女の子。竜にとってはワケがわからない。というかコワイ。逆らってはいけない。竜はとりあえずそれだけ理解した。身を縮め、渋々と翼を大きく広げる。
『さあ、行くぞ。真っ直ぐ、出口に向かって真っ直ぐだ!』
 竜は一つ鋭く吼え、一気に空へと飛び出した。


『リュカちゃん……何やってんだよ……』
 荒れた道路に出て、ガルー・A・A(aa0076hero001)は背後を振り返る。そこに居残ったリュカは、未だにドラゴンにごりごりやられていた。それでも随分と楽しそうだ。理解出来んとばかりに首を振っていると、紫 征四郎(aa0076)が声を張り上げる。
「ガルー! この車はまだうごきそうなのです!」
『お? じゃあそいつに乗るとするか』
 征四郎が見つけたのはいかにも古臭いビートル。SFも何もあったものではない。ガルーは外観を一通り眺めてから、いきなりボンネットを開けて中を覗き込む。
「ほ、ほんとうにのってだいじょうぶでしょうか、これ……」
『やって見なきゃわかんねぇだろ。行けるとこまで行ってみようぜ。爆発した時はその時だ』
 とは言うものの、ガルーの点検は念入りだった。小柄な征四郎に下側を見るように頼んでみたり、時間をかけて点検していく。
『ちゃんと回復させてやるんだから、頑張れよ……』

「なんやねん! 『危険のない簡単なお仕事』とちゃうんかい! あーもう、貧乏くじやないかぁっ!」
『つべこべ言ってないで走れスカタン! ただでさえ我らは足が速くないのだぞ!』
 その横をわたわた走っていくのが狒頭 岩磨(aa4312) と何 不謂(aa4312hero001)であった。ガルー達がせっせこ車の点検を進めていくのをちらりと横目に、岩磨は叫ぶ。
「おい! 車や車! 俺らも使おやないか!」
『バカ言うな! どれもこれもおかしい挙動の車ばかりではないか!』
「ぬぬぬ……ほんならそこの馬や!」
 すげなく一刀両断された岩磨、今度はぽつりと佇む重輓馬を指差す。不謂は呆れたようにその馬を見たが、一トンを優に超えるその逞しい風体を見た瞬間にビビっと来た。
『馬……馬! 猿は馬の守り神だ! 恩恵があるかもしれん、飛び乗れ!』
「お、おう」
 言われるがまま、岩磨は馬の上に飛び乗る。190cmの巨躯も、同じく巨躯の馬にはしっくりきた。腹を蹴ってやると、そのまま馬は力強く駆け出す。
「おお! こりゃ中々ええやないか! 進め進め!」

「徒歩の方が安全だろうが……一刻も争うからな。とはいえ、大きなリスクを選ぶわけにもいくまい」
 消えゆく世界を見渡し、飛岡 豪(aa4056)は冷静に呟く。一方のガイ・フィールグッド(aa4056hero001)は気楽に胸を張った。
『なら馬だな! 乗馬体験で暴れ馬を乗りこなしたオレの出番だぜェッ!』
「……そんな事もあったな」
『行くぜゴウ! 気合いだ! 根性だ! 燃えるぜファイヤー!』
 今日も今日とて熱いガイを見て、豪は肩を竦めて苦笑する。
「……今回ばかりは燃えると困るがな」
 二人はがっちりと手を取り合って共鳴する。本日はガイが主体、特撮ヒーローじみた真っ赤なスーツに身を包んだヒーローへと変わる。
『空に煌く一つ星、希望の使者、スカーレット・テザー参上!』
 瞬間、傍に有った車が大爆発を起こす。何事も派手が一番だ。何事もなかったようにさらりと薔薇を捨てると、テザーは目の前にいかにも荒々しい馬を見つける。その鞍には眩しい流れ星の模様が。それをみてピンときたテザーは、一気に駆け出し飛び乗った。
『さぁ駆けろ、スピードスターごぉぉうっ!』
 瞬間、目を剥いて嘶いた馬は一気に駆けだす。突然のことに、テザーは馬に跨る事もままならず、手綱だけを掴んで尻尾や鬣と同じくぶらぶらと流される。しかしそこはヒーロー、余裕だけは失わない。
『おっとと、こいつはオルフェーヴルもびっくりの暴れ馬だ!』

「ガイの奴……あれでずっと行くつもりなのだろうか」
 必死に食らいついているテザーを見送りながら、狒村 緋十郎(aa3678)は心配げに呟く。とはいえ他人の心配ばかりもしていられない。
「おい、レミア。まだ気に入った馬は見つからないのか……!」
『焦りなどしないわ。王者は余裕を失わないものよ。その従僕も』
「あ、ああ……」
 レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は、焦る夫兼従僕をほうって目の前に並べた馬を見比べている。緋十郎は待つしかなかった。
『へえ。この馬、私が乗るのに相応しい面構えをしているわね』
 やがて彼女は一頭の馬の前で足を止める。世紀末の覇王も悠々と載せられそうな、誇りに満ちた漆黒の馬。レミアは頷くと、早速その馬に飛び乗った。
『さあ緋十郎。さっさと行くわよ』
「うむ。気に入った馬が見つかったようで良かった……」
 恵体の黒馬は緋十郎が乗っても動じない。緋十郎は腕の中にレミアを収めるようにして手綱を取り、馬の腹を蹴った。
「行くぞ、名も知らぬ馬よ。女王の帰還だ!」


『白花様、どうかこの度はわたくしにお任せくださいませ』
「そう……それじゃあ、アナタの思う通りに、存分にお動きなさい。プルミエ クルール」
 プルミエ クルール(aa1660hero001) はCERISIER 白花(aa1660)に向かって静々と傅く。白花もまた優雅にプルミエへ命じた。
『かしこまりましたわ! 白花様!』
 言いながら、プルミエは感じる。頭の隅に微かに残る、記憶の欠片と、この世界が何処か符合しているような感覚を。そして今の彼女は白花様の完璧なる従者。
『(この感覚も、利用してみせましょう)』
 彼女はマフラーを手に取ると、するりと首に巻く。白。それは支配を許された者の色だ。
『白花様。わたくし共は徒歩で参りますわ』
「なぜ?」
『この世界で己以外の存在に身を委ねるのは須らく危険であるからにございます。時間はかかってしまいますが、徒歩で行くのが最も安全でございますわ』
「プルミエがそう言うのなら、私はそれを信じます。往きましょう」
『はい!』



「うむむむ……これは中々難しい仕組みなのであります」
 皆が一様に街を離れていく中、美空(aa4136)だけは建物の中に居残ってワープ装置とにらめっこを続けていた。ドラゴンも、車も、馬も利用する事ままならず、さらには小柄な彼女には歩いて帰るのも大変の一言。そのため美空は建物の中の倉庫を漁り、掻き集めたジャンク品でワープ装置の修理を始めたのである。
「でもやってやるのであります。このバクトリングにかけて!」
ワープ装置の知識は以前趣味で仕入れた。時間さえかければ何とかなるはず。きっと。

●HOPEのヒーロー達
「なんや暗いなぁ、ここ」
『仕方なかろう。ここから霊石の気配を感じるのだ。行くぞ』
「しゃーないなぁ……」
 酒やら何やら使って作った即席の松明を掲げて、岩磨と不謂は渓谷の中に口を開けた洞窟を進んでいた。岩磨は余計な仕事など御免というところだったが、英雄に半ば引っ張られるようにして仕方なく洞窟を進んでいた。歩いているうちに、どこからかさらさらと水の流れる音が聞こえてくる。その方を松明で照らしてみると、岩肌を伝って流れる清水があった。
『ふむ……地下に流れる滝か。これは中々』
 不謂は顎鬚を撫でながらふと笑みをこぼすが、岩磨は全く風情など感じていなかった。そんな事よりも、滝つぼ近くにちらりと見えるモノの方がよっぽど大事だった。
「おおっ! あのフォルム! 間違いない、宝箱や!」
 岩磨はひょいと身軽に馬の上から飛び降りると、ズボンの裾が濡れるのも構わず滝へと向かい、宝箱を自慢の剛力で取り出してくる。相変わらず現金な彼の姿に、馬の上に跨ったまま不謂は溜め息をつく。
『やれやれ。何も変わらんな』
「どれどれ……ほー、そこそこ入っとるやないか」
 中には、霊石が両手に掬いきれない程度に入っていた。これを全て持ち帰って報告すればよしというわけだが、光る宝石の山を前にしては、昔の悪い癖が疼いてしまう。一つ二つ、ポケットに隠してもバレないのではないか。口うるさい不謂の視界の丁度影になっている事を確かめた岩磨は、小さめな石を一つ二つ取って、ポケットに――

『いけないな、そんな事では!』

 しかし洞窟内に木霊するその声が岩磨の手を止めてしまった。見れば、鼻息荒い馬に跨った一人の紅いヒーローが、腕を組んで岩磨の事を見下ろしていた。
『その石はこれからも悪と戦うためには欠かせないもの。一つとして許可も無く私物化してはいけないぞ。希望の使者として、それを見逃すわけにはいかないな』
「なんや、また暑苦しいのかキザったらしいのかわからん奴がきおったな」
 馬の上からびしりと指差され、岩磨は渋々と霊石を全て収めるべき場所に収める。それを見届け、テザーはうんうんと頷く。
『そうだ。それでこそヒーローだ』
「俺ぁヒーローってガラじゃないんやけどな……」
『いいや。HOPEのエージェントになった以上、お前も間違いなくヒーローさ。誰かにとってはな』
「あー、はいはい……」
 面倒臭そうに頭を掻きつつ、岩磨はテザーを見上げる。深紅のスーツに身を包むその姿は、彼が小さな頃にちらりと見たヒーローモノの登場人物にそっくりだ。昔なら、自信に溢れて希望に輝いている彼の事を馬鹿らしく思っただろう。だが今は違った。
「全く。不謂といい、兄さんといい、ほんま口うるさい奴らばっかりやけど、一緒に仕事するんも悪くないと思えてくるから、不思議なもんやな」
『仲間とはそういうものだ。共に戦っているうちに、共に影響されていく』
「そいつは困ったな。俺は飲む打つ買う、ついでに煙草が大好きと来たもんや。大丈夫か」
『ふっ。どうという事もないさ。エージェントなんて皆一癖二癖あって当たり前だ。緋十郎君を思えばわかる事じゃないか』
「ああ、狒村の旦那なぁ……」
 一目には少女としか見えない女に支配され悦ぶ漢を脳裏に浮かべ、岩磨は肩を竦めるしかなかった。



「……! いかん。鼻が……」
『どうかしたの、緋十郎』
「誰かが俺の噂をしているかもしれん」
『噂……? さっきから良い匂いだと思って、鼻息荒くしているだけでしょう』
「む!?」
『懸想を爆発させる前に、先ずは帰るわよ。そしたら思う存分楽しませてあげるわ』
「くっ……意地でも帰らねば……!」
『……ふふ。やっぱり白馬にしなくて正解ね。こんな“黒馬の変態猿”じゃ、白馬なんて乗りこなせないもの』

●女神さまに望んだもの
『忌々しい清浄な霊力……わたしが触れたら穢してしまいそうね』
 星を散らしたように輝く泉を前に、レミアはぽつりと呟く。
「事前の報告では、ここに何者かの気配があるんだったな」
『そうよ。緋十郎、とりあえず泉に触れたりしてみなさい』
 緋十郎は頷くと、泉へ一歩踏み出し、そっと屈んでその水に触れた。緋十郎の霊力に反応し、泉はうっすら光り出す。やがてトーガに身を包んだはっとするような美しさを持つ女神が現れ、水面の上を歩み寄ってくる。その神秘的な光景に、緋十郎は戸惑う。
「おおっ……?」
『あの……この斧を落としたのは貴方ですか?』
 女神は薄目を開き、手斧を緋十郎に差し出す。レミアは不遜な表情のまま首を振った。
『いいえ。わたし達は今ここに来たところよ。そんなもの落とさないわ』
 レミアの真っ直ぐな目を見た女神は、やがて微笑み、そっとその斧を差し出す。
『貴方達は正直なのですね。その正直さを頼りとして、この斧を託します。きっと誰かが落として困っていると思うのです』
「……お前はどうするんだ。このままここに残るつもりなのか?」
『そもそも、なぜ私はここにいるのでしょう? 私は、もっと広い湖で一振りの剣を守っていたはずですが……』
 目を閉じ、困ったように呟く彼女。それを見てレミアは確信した。彼女もまた外の世界から来た者なのだと。彼女は一歩踏み出し、儚げに佇む彼女の顔を見上げた。
『泉の乙女、ヴィヴィアン。それがあなたの名前でしょう』
『……何故ご存じで』
『女王としての嗜みよ。ヴィヴィアン、わたし達と共に来なさい。こんなところで消えてしまう意味は無いわ』
『貴方達と、共に……』
「一度こうして相見えたんだ。見殺しでは俺達も寝覚めが悪い。共にここを出ないか」
 緋十郎は首に提げた幻想蝶をそっと差し出す。しばらくそれを見つめていた乙女は、柔和に微笑み頷いた。
『……よくわかりませんが、承知しました。これが定めと言うのなら、私はそれに従います』

●Wir Fliegen
「おおー! すごい! すごいよ!」
 目を輝かせてまいだは眼下の景色を見渡す。夕闇濃くなる中、少女はライトアイを使って消えゆく儚い美しさを目に焼き付ける。竜は怒られたり喜ばれたりを続けてすっかり疲れたのか、呆れたように欠伸して飛び続ける。その途の彼方に、崩れかかった一つの塔が見える。目を見張ったまいだは、竜の首筋をぺちぺちと叩く。
「ねえねえ! あそこ! おりて!」
「……」
 竜は溜め息代わりに小さな炎を吐き、ゆっくりと速度と高度を下げていく。近づいてみると、その塔は竜が楽々降り立てるくらいには巨大だった。
「ありがとね、どらごんさん!」
 着地した途端、まいだは竜を飛び降りる。そのまま、柵の朽ちた塔の縁まで駆けていく。そこには、地平線の彼方までも広がる、広大な世界が広がっていた。二人は一度共鳴を解き、並んで世界を見渡した。
「うわー! ひろいね! ここまでひろいなんておもわなかった!」
『そうだな……』
 まいだの言葉に応えながら、黎焔もまた世界を見渡す。
『(ったく。何だか懐かしい気分になりやがる)』
 自分の居た世界も、このような世界ではなかったか。そう思うと、ほんの少しだけ、この世界に居残りたい気持ちに駆られる。しかしそんな事は出来ない。黎焔は肩を竦め、隣の少女を見つめる。この少女を守るのが、自分の務めなのだ。
『まいだ。さっさと行くぞ。こんなところにいつまでだって居られねぇ』
「はーい!」

 まいだ達が竜に乗って出口へと急いでいる頃、崩壊都市の中では車と竜が並走していた。竜は凛道の指揮を受けて雄大に空を駆け、車はガルーの運転で荒れた道を軽やかに走り抜けていた。
「おーい! せーちゃん大丈夫ー!? ガルーちゃんの運転平気ー!?」
「へいき? 平気なんですかね、これ!」
『なぁに言ってやがんだ、りんりんが張り合ってドラゴン飛ばしまくるのが悪いんだぜ!』
『ガルー・A・A。その呼び方は些か不服です。そして申し訳ありませんが、僕は貴方に後れを取りたくありません』
 凛道は車の方を見ようとするリュカに逆らってふいと顔を背ける。その姿を見上げて、片手でハンドルを切りながらガルーは窓の外へ身を乗り出した。
『何だよー。冷たいねえ全く! じゃああの塔のところまで競争しようぜ。お前達もあの塔のてっぺん行くつもりなんだろ!』
「(が、ガルー! 何言って……うわっ!)」
 啖呵を切ったガルーは、いきなりアクセルを踏んで加速する。瓦礫だらけの道路を、塔に向かってびゅんびゅんと飛ばしていく。車の全速前進には敵わず、リュカ達の乗る竜は次第に引き離されていく――のだが。
「(ガルー! ガルー! ボンネットから煙が!)」
『げっ!』
 ガルーは慌ててドアを蹴り開けると、そのまま砂利の中に飛び出す。乗り手を失った車は全速で進んでいき、そのまま建物にぶつかり爆炎の中に消えてしまった。


『はっ! ご覧ください白花様! わたくしの判断は間違っておりませんでしたわ! あんな危ない車になんて、一秒たりと乗っているわけにはいきませんもの!』
 視界の向こうで爆発したガルー達の車を指差し、プルミエは顔を輝かせる。白花様の役に立てた、という満ち足りた表情を見て、白花も破顔して頷く。
「そのようね。それにしても、あの塔はとても高い……初めてこの目で見たエッフェル塔よりも、ずっと高いわね……」
『ならば登ってみましょう、白花様! あの天辺から見下ろす景色は、格別に違いありませんわ!』
「そうね。行きましょうか」
 プルミエは頷くと、ペンキが剥げて地の黒が丸見えとなった緑色の道を揚揚と歩くのだった。


『全く、何をしているのですか、貴方は』
『ま、まさか最後の最後で爆発されるとは思わなかったぜ……』
 結局竜に相乗りして、リュカ組と征四郎組は塔の上にやってきた。征四郎達はいったん共鳴を解き、二人で目の前に広がる世界を見渡す。
「こうしてみると、ドロップゾーンはひろいですね」
 征四郎は白い輝きに包まれ消えていく地平線の彼方を見つめ、嘆息する。ガルーは煙草に火を点けながら、彼女に寄り添い肩を竦めた。
『ここでみんな戦ってきたかと思うと、色々と感じるところはあるわな』
「こうして世界は消えていく……現実までもこんな事に、なんてこともあるかもしれないね」
隣に立ったリュカは、凛道の力を借りて自然と機械が渾然一体になった、消えゆく崩壊世界を見渡してぽつりと呟く。いつも明るい彼にしては、珍しくシリアスな言葉だ。
『世界を壊すのは従魔や愚神だけではありませんからね』
『む……』
 呟く凛道をちらりと見遣り、自分もまた世界を見渡す。無くなっていく世界。自分や凛道が居た世界も、このようなものだったのだろうか。しかし、ガルーはすぐに思索をやめ、とっくりと煙草の息を吐き出す。
『いけねぇな。煙草が不味くなる』


「――この竜、連れて行けないかな」
『無理でしょう。この竜は所謂オブジェクトなのですから……』
「リュカはすごいですね。竜がすっかりフレンドリーになってるじゃないですか!」
「苦労したんだよ。本当に……」
 リュカや征四郎達が竜に乗って塔を離れたちょうどその頃に、白花とプルミエは塔の屋上に辿りついた。塔の上に立った瞬間、プルミエは感じる。喩えようもない達成感だ。それと同時に、木枯らしのように冷たい哀愁も胸に溢れてくる。プルミエは肩を竦め、街を見渡した。不規則に崩れた瓦礫がよく見える。その荒廃具合もまた、彼女の心を揺さぶった。
『(さようなら。どことなく懐かしい世界……)』
 そんな彼女を横目に眺めていた白花は、懐から桜の花びらを一片取り出し、プルミエに差し出す。
「名残惜しいようですねプルミエ クルール。特別にこの桜の花びら、使う事を許します」
『……ありがとうございます! 白花様! やはりプルミエは完璧に幸せですわ!』
 プルミエはそっと桜の花びらをその手に受け取り、手のひらからそっと零す。それから取り出したカメラで眼下に広がる景色を写真に収めた。
『これで名残惜しむようなことはありません。行きましょう、白花様!』
「ええ」
 白花の手を取り、プルミエは共鳴を遂げる。そのまま景色から背を向けると、一気に塔から飛び降りた。

――その頃――

「これできっと大丈夫なのであります!」
 殆ど光に包まれ消えかけた建物の中で、美空は力強く頷いた。目の前には、応急補修の施されたワープ装置。100分以上かけて、コツコツと修理したのだ。そのせいで、消滅がすぐそこまで迫ってきているが……
「さあ、このままワープするでありますよ!」
 美空は一気にワープ装置の中へ飛び込む。その行き先は――

●そして新たなる戦いへ

――ブリーフィングルーム――

「あー。ようやく辿り着いたわ。……ってオオッ!? 何やこのミイラ!」
 ブリーフィングルームに辿り着いた岩磨組と豪組が目にしたのは、包帯でぐるぐる巻きになってしまった美空の姿だった。傍にはまいだと征四郎がいて、必死に包帯を外そうとしている。
「はにゃー。やっぱりほどけないのでありますー!」
「もう! いったいなにしたの? こんなにぐるぐる!」
 結び目に四苦八苦しながら、まいだは顔の包帯を外しながら美空に尋ねる。美空は目を瞬かせながら、自分にもわからないといった調子で声を上ずらせる。
「ワープ装置は完璧に修理をしたはずなのでありますがー……。ワープして出てきたら何だかこんなことになっていたであります……でも、一番乗りだったから、わが生涯に一片のくいなしであります」
「リュカもリュカですけど、あなたもずいぶんなことしますね」
 幼女三人がひしめき合っててんやわんやしている様を見かねて、不謂はいそいそと近寄っていく。
『それでは余計結び目が固くなるばかりだぞ。我に見せてみなさい』
「おいおい。変態みたいやで」
「変態だと? 確かに俺は変態だ……!」
 そこへ真の漢が現れる。真の漢は早速レミアに膝を入れられた。
『いきなり何を言い出してるのよ』
「くっ……その容赦の無さ、最高だ……!」
「相変わらずだな。お前」
 豪がそんなやり取りを見て笑みをこぼしていると、不意に緋十郎の幻想蝶が輝き、ふわりと儚げな姿のヴィヴィアンが現れる。
『……すみません。この桜の花びらを落としたのはどなたでしょうか?』
『これはわたくしが白花様から頂いた桜の花びら……! なぜ……』
『わかりません。わかるのは何故か持っていたという事だけです』
「……って、いったい誰だい。このお姉さんは?」
 プルミエに花びらを差し出した女神の顔をしげしげと見つめ、リュカは首を傾げる。隣でガルーはわざとらしく驚いてみせる。
『まさか、緋十郎の三人目の愛じ、じゃなくて英雄……』
「違う。色々違う! 世界と共に消えてしまうのを見送るのは心苦しいからな……誰かの英雄となってもらうために連れてきたんだ」
『英雄……なるほど。貴方達も定められた運命のために闘う者なのですね』
 ヴィヴィアンがぽつりと呟くと、一同はふと顔を見合わせる。やがてガイが声を張り上げた。
『運命のために、か、運命と、かは分かんねえけど。だな! 俺達は魂燃やして戦うんだ!』
「ああ。今シベリアが不穏になっている。俺達の戦いは続くな……!」
 と、緋十郎。凛道も軽く拳を固める。
『ええ。征きますとも。我がマスターと共に』

 卓上戦戯はどうにか終わった。だが、絶対零度の戦いは、今まさに熾烈を極めようとしているのであった……

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 止水の申し子
    まいだaa0122
    機械|6才|女性|防御
  • まいださんの保護者の方
    獅子道 黎焔aa0122hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 龍の算命士
    CERISIER 白花aa1660
    人間|47才|女性|回避

  • プルミエ クルールaa1660hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 正義を語る背中
    ガイ・フィールグッドaa4056hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御



  • The Caver
    狒頭 岩磨aa4312
    獣人|32才|男性|防御
  • 猛獣ハンター
    何 不謂aa4312hero001
    英雄|20才|男性|バト
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