本部

令嬢のワガママにつきあえ!

ニイノ ゴウ

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2015/10/15 18:58

掲示板

オープニング

●ワガママ
「いいこと、この私に能力者の活動を視察させなさい! それが今回の依頼」
「……はあ」
 H.O.P.E受付に対し、無い胸を張って高らかに言い放ったのはウェーブがかった茶髪の幼い少女。
 彼女の名は貴宮茜。某巨大企業グループの御令嬢だ。
「し、しかしですね。そんな理由で貴重な能力者を動かすわけには……」
 彼女の対応をしながら、事務員は頭を悩ませていた。
 結局この子が言いたいのは『能力者に会いたい』それだけだ。こんなワガママを通すことはできない。
 やれやれ、世間知らずの御令嬢ってわけか。面倒だ。そんな心中のぼやきはおくびにも出さず、事務員は応対用のスマイルを顔に貼り付ける。
「申し訳ありませんが、能力者の数は限られています。しっかりした理由もないのに、むやみやたらに動かすわけにはいかないのです」
「……理由ならあるわ」
 事務員は驚いた。彼女の目に、先ほどとは全く違う真剣な光が宿っていたからだ。
「私は貴宮茜。私は将来、グループを率いていく立場にある。その為には多くのことを身に付ける必要があるわ。今は経済を学び、社会の仕組みを覚えている」
 すっげー自信。彼女に聞こえない程度の小声で事務員はそう呟いた。
「でもね、そんな私も能力者についてはあまり知らないの」
 なぜだろう。
 事務員の目には、先ほどまで高慢だった彼女が、急に小さな小さな存在に見えた。
「これってとても怖いことじゃない? 将来社会を動かす人間が、その社会の中で重要な役割を担う能力者のことをまともに理解できていないなんて」
「で、ですが能力者についての情報はたくさんあるじゃないですか。ニュースにも毎日出てるし、特集も組まれている」
「そうね。確かに能力者の認知度は高いし、かなり身近な存在にもなってきているわ。でも私たち実際には何も知らないのよ、能力者のこと。英雄のことだって、ライブスのことだってそう。原理を知ったところで結局は何も変わらない。所詮本の知識よ。――みんな分かった気になっているだけ。本物を見ないことには何も始まらない」
 徐々に事務員は彼女の話に真剣に耳を傾けるようになった。
「不運なことにね、私は英雄にまだ会ったことがないの。まだ私は十一歳だけど、時代情勢を考慮すればむしろ遅すぎる。能力者という新しい要素が増えた今、それを知らないということはトップに立つ人間としては大きな大きなディスアドバンテージなのよ。致命的と言ってもいい」
 ……この子は本当に十一歳だろうか。
 次第次第に彼女の雰囲気に呑まれていくのは自覚できたが、事務員にそれを止める手立てはなかった。
「時代は変わった。社会を理解する上で、もはや能力者の存在を無視することはできない。そして」
 そこまで言って、茜は人差し指を高く掲げた。事務員の目線もそれを追う。
「私は今ここにいる。この依頼を通す為にね。その成否を握るのは――そう、貴方よ」
 ビシ、と茜は事務員を指さした。指された事務員はドギマギしながら答える。
「じ、事情はわかりましたが、しかし上が何と言うか……」
「くどい!」
 茜は一喝した。
「何を恐れるの! この依頼はもはや日本の将来を左右すると言っても過言ではないわ! H.O.P.E.上層部の判断? そんな些事に構う暇があると思って!? 私には能力者の姿を間近で見る義務がある!」
「そ、そうでした! 申し訳ございません!」
 いつの間にか敬語になっていた。
「そういえば貴方、名前は何というの」
「田中と申します!」
「よし、いいわね田中。名目は視察に伴う要人警護。人数はそうね、4人から8人でどうかしら。視察ルートとかはそちらにお任せするわ。できればヴィランとか従魔とか愚神とかと戦ってるところが見たいな。きっとテレビよりも格好い――じゃない、今後の参考になるでしょうね」
「もし突っぱねられたらどうしましょう? 私も減給されるかも」
「貴方も臆病ね。じゃあ、もしものときは――」
 そこで茜は初めて、優しい微笑みを事務員に向けた。
「そのときは私が全ての責任を負うわ。うちのグループに来たっていい。だから遠慮なくぶつかってきなさい」
「はい! 必ずこの依頼、通してみせます!」


 H.O.P.E本部を後にした茜は不敵な笑みを浮かべた。
「あー、ちょろい」

●茶番?
「おい、本当にこれでいいのか?」
「まあ多少ずさんだが、仕方ないだろう」
 街角に佇む男二人と――フォフォフォと笑うセミタン星人が一匹。
「段取りを確認するぞ。今回の茜お嬢様の視察は能力者について知るためのものだ。だがお嬢様の近くで本物の戦闘が起きるのは危険すぎる」
「だから着ぐるみってわけか」
「そうだ。特製着ぐるみで従魔のフリをした俺たち三人が、視察中のお嬢様たちに『偶然』襲いかかる。警護してる能力者たちに適度にやっつけられたら退散。ミッションコンプリート」
「でも危険なんじゃないか? 下手すりゃ死ぬかも」
「能力者にも話が行ってるから、向こうもちゃんと手加減してくれるだろうさ」
「なるほど」
 うんうん、とうなずく男二人と――やっぱりセミタン星人。
「しかしお前暑くないのか? いい加減着ぐるみ脱げよ」
 ふるふると首を横に振るセミタン星人。

 彼が着ぐるみでないことは、まだ誰も知らない。

解説

●目的
 令嬢のワガママに付き合って、能力者の格好いい姿や責任の重さを伝える。
 怪我人を出さないことも成功条件。

●事前の打ち合わせ内容
 茜とともに適当に街を見て回ったのち、あらかじめ決められた地点にて着ぐるみ×3と戦闘。
 ※中身は人間なので、本気の攻撃は行わないでください。

●場所
 とある町の小さな通り。
 車二台がなんとか擦れ違える程度の道幅。
 茜の側近達の根回しにより、一般人などが立ち入らないようそれとなく封鎖されている。
 時間帯は日中。

●登場人物
・貴宮茜
 某巨大企業グループの御令嬢。ワガママ盛りの十一歳。頭はキレるのだが、その悪用法も知っているのが困り物。
 「能力者の格好いいところを間近で見たい」というだけの理由でHOPE本部に赴き大演説をぶちかます。

・茜の側近×2
 茜を満足させる為に一芝居を打つ。一般人なので従魔に対しては勝てない。
 本来この作戦は二人だけで行う予定だったが、ふらりと現れた従魔を追加人員と勘違いして打ち合わせしている。

●敵情報
 某特撮番組の宇宙怪人のような姿をしたミーレス級従魔。戦闘力はあまり高くない。
 着ぐるみのフリをすることで側近たちの目を欺いている。
 混乱に乗じて茜をさらうのが目的。茜たちが到着するまでは側近たちと共に大人しく待機している。
 ガードが堅いなどの理由で茜をさらえなかった場合、攻撃目標は側近の男×2に移る。

※見た目だけでは着ぐるみを着た側近の男と区別がつかない。

・ハサミ振り回し
 両腕のハサミを振り回す。けっこう危ない。
・怪光線
 目から直線状に怪しいビームを放つ。バッドステータス『洗脳』を付与。

リプレイ

●出発!
 某日。
「すごい! 本物、本物の能力者だわ! ああ、夢みたい……!」
 ある街中にて、興奮した少女の甲高い叫び声が響き渡っていた。
 その珍しい光景に通りすがりの人々の目は何事かと向けられる。そこには八人のエージェントに囲まれた貴宮茜の姿があった。
「私知ってるわよ! あなた、能力者にして陸上選手の……!」
 目を輝かせながら茜が一人の能力者を指さす。
「初めまして、ファレギニア・カレル(aa0115)と申します。以後、お見知りおきを……」
「きゃー!」
 『テレビの中の人』、チェコスロヴァキア出身のスターが目の前にいる。まさかの対面に茜は大興奮だった。
「と、とんでもないお嬢様だな……」
 その呟きに反応して、茜がばっと振り向く。
「黒髪のあなたは女性……ううん、男性かしら? でもとにかくかわいい!」
「かわいいって言うな!」
 茜が食いついたのは中性的な容姿の倉内 瑠璃(aa0110)。本人は嫌がっているようだが令嬢のお気には召したようだ。
 その隣の女性も、見た目のインパクトでは全く負けていない。
「カリスト(aa0769)と申します。よろしくお願いします」
「わぁ……!」
 透き通るような白金の髪、宝石のような翡翠色の瞳。にこやかに微笑むカリストを前に茜がフリーズした。
「キレイ…………あなたは天使なの?」
 呆然と見とれていた茜を、不意に誰かが後ろからむぎゅりと抱きしめた。
「わっ! だ、誰?」
「ふふ、虎牙 紅代(aa0216)や。よろしくな」
 一瞬びくりと硬直していた茜だが、親しみやすいその笑顔に安心したのかだんだんと力を抜いて彼女に身を預けてゆく。

「それにしても、能力者って言っても色々なタイプの人がいるのね。派手な人ばかりかと思ってたわ」
 紅代に抱きしめられながら、茜はある二人を見渡す。
「晴海 嘉久也(aa0780)です。よろしくね」
 年下の茜相手にも礼儀正しく挨拶をする嘉久也に、茜は先ほどとは違って静かにうなずいた。言外ににじみ出る何か――戦場を潜り抜けた者の凄みを感じ取ったのだろうか。
「空木 玻璃(aa1085)です。よろしくね、茜」
 次の女性も同様だ。空木玻璃。ふんわりとした優しく柔らかな雰囲気の彼女に茜は無邪気な笑顔を見せていたが、やはりどこか影のようなものを感じていた。
 能力者。愚神と戦う存在。
 表面上は平静を装っていても、暗い過去を持つ者は少なくない。その一端を茜は違和感として捉えたが、それがどういうことなのかまではまだわかっていないようだった。
 そして茜は残りの二人に恐る恐る声をかける。
「…………あなたは、煙草を吸っているけれど。もしかして私と同い年だったり……?」
「しねぇよ」
 ぶっきらぼうに答えるのは旧 式(aa0545)。三白眼に鋭い歯並び、そしてかなりの低身長。茜も平均よりは低い方だが、それより更に下だ。能力者の中では異彩を放つ風貌である。
 そして。
(ど、どうしてこの人はこんなにやさぐれているのかしら?)
「…………壬生屋 紗夜(aa1508)です。よろしくお願いします」
 丁寧ながら気の抜けた声で自己紹介をした紗夜に茜は困惑していた。
 だが茜には理由がわからないだろう。彼女がやさぐれているのはこの後に待ち構える『茶番』のせいなのだ。
「うう、まともに剣も振れない任務なんてあんまりです……」
 はあ、と紗夜の口から落胆の溜息が漏れた。

「ま、まあこれで全員揃ったんだし!」
 一通り自己紹介を聞き終わり、再び茜がヒートアップする。
「しゅっぱーつ!!」

●案外暇……?
「……頭ではわかっていたけれど」
 視察開始から一時間後。
「愚神って珍しいのね」
 やや退屈気味の茜に式が答えた。
「能力者っても事件が起きなきゃ呑気に街中ぶらつく程度だぜ。ま、お嬢ちゃんが視察に来たせいで事件が起こることもあるかもだがなあ」
「?」
 意地悪そうな式の口調に、茜が無邪気にクエスチョンマークを浮かべる。
「ああそうだ。嬢ちゃんも分かってると思うが愚神とか従魔、ヴィランが現れたら命がけだからな?」
「そうなの?」
 そりゃそうだろうと言わんばかりに皆が首肯する。が、茜はイマイチ実感がわかないようだ。
「俺たちはリンクもしてるから簡単には死なない。でも嬢ちゃんはそうはいかねーんだから、俺の側を離れるなよ?」
「……うん、わかった。やっぱり能力者って頼もしいのね!」

 そうこうしているうちに嘉久也がエージェントたちに目くばせをした。視察中も油断なく周囲に目を光らせていたのだが、ここに至って初めての行動だった。
「そういえば茜さん、もしよろしければサインでも……」
「えっいいの!? 欲しい!!」
 気を利かせたファレギニアにより餌を目の前にぶら下げられた茜が気を引かれている間、密かに嘉久也は茜の側近たちに連絡を取る。
「すみません、最後に打ち合わせを。ええ、戦闘開始時に一度間合いを取ってもらえませんか」
「そそ、あと戦闘時に一対一を作りたいんやけど、バラけてもらえへんかな?」
 横からひそひそ声で紅代も口を出す。
 もうすぐ打ち合わせの地点だ。従魔のフリをした側近たちがそこで待っている。

●本物の恐怖
 一行はやがてある通りに入っていった。道幅のそこまで広くない、やや寂れた通りだ。
「……? なんかここだけ人通りが少なくない?」
 茜が微妙に違和感を覚えた、その瞬間だった。
「フォッフォッフォッ!」
「きゃあっ!?」
 不意をつかれた茜が跳び上がり、悲鳴を上げる。突然物陰から奇声を上げながら不審すぎる宇宙怪人が三体現れたのだ。
 即座にエージェントたちが一斉に共鳴する。辺り一面にまばゆい光が迸り、能力者たちの姿が変化した。
「うわぁ……!!」
 テレビの中の光景が今、眼前に広がっている。怪人に襲われていることも忘れ、茜の興奮は最高潮に達した。
 エージェントたちが陣形を作る。式、玻璃、瑠璃の三名がまず茜の周りを固めた。
「わぁ、キレイ! 共鳴すると本当に姿が変わるのね……って瑠璃、あなたやっぱり女の子じゃない!」
 見た目どころか体つきまで女性化した瑠璃に対し茜が驚愕の声を上げる。
「いや、俺は共鳴すると女性化するんだよ!」
「…………そんな能力者いるの?」
「共鳴の形は能力者の形だけあるのよ。別にラピス……ごほん、俺だけがおかしいわけじゃない!」
 まったく呑気な奴、とラピス、否、瑠璃がぼやいた。茶番とはいえ襲撃されているのに、茜ときたら興奮するばかりだ。

 ファレギニア、嘉久也の二名がそれぞれ従魔のフリをした側近へと向かう。
「ちょっと痛いでしょうけど我慢してください」
 小声でつぶやきながらファレギニアがパンチを繰り出す。彼は陸上選手なので脚を大切にしている。それがこういう些細な場面にも現れていた。
「……ん?」
 嘉久也がわずかに眉をひそめた。初めは間合いを取る手はずだった。しかし今、一体だけ動きの変なものがいた。
 なにか違和感を覚える。何かがおかしい。

「さて、皆のフォローがんばるで!」
 張り切る紅代に、宜しく、とカリストがアイコンタクトを送った。
「そこです、危なーい!」
 カリストが臨場感を高めようと合いの手を入れる……のだが、あまりの演技の大根っぷりに皆の動きが一瞬凍りついた。
 続いてカリストは事前に用意していたオモチャの矢を放った。だが先端に吸盤のついたそれは狙いを過ち、あろうことか嘉久也の頭に命中する。
「……っくく」
 耐え切れなかったのか、小さく押し殺した笑いが聞こえた。紗夜だ。……ちなみに彼女はどうにもやる気が起きず、後ろに下がっていた。
 頭に矢のついたままの嘉久也が、苦笑いしながら矢を外そうとした瞬間だった。
 一匹の怪人が、目からビームを照射した。
「!?」
 驚愕する一同。それもそうだ、人間にそんなことができるはずがない。
 では目の前のこれは――?
「くっ!」
 警戒していた嘉久也は身を引いて怪光線をかわしたが、その代わりに後ろにいた紅代に光線が命中してしまう。
 不穏な沈黙があたりを支配した。
「……え? み、みんなどうしちゃったの?」
 異様な雰囲気に気づき、茜が不安げに呟いたときだ。
 ゆらりと紅代が振り向いた。その眼に光はない。
「――――ッ!!」
 紅代が地を蹴り、茜へと突進した。ドレッドノートの特長である高い物理攻撃力が味方に牙を剥いた瞬間だった。
 振り下ろされたツヴァイハンダーを、咄嗟に割り込んだ式が盾で受け止める。大音響と共に火花が散り、大剣と盾がせめぎ合う。
「ぐ……ッ!」
「え? え?」
 気さくな姉のような紅代の豹変に、茜はまだ事態についてゆけていない。わななく少女を守るは更に小さな体の式。
「一体どういうことなの!?」
 事態はそれで収まらなかった。その混乱に乗じて、すでに一匹のセミタン星人が茜に接近していた。
 ラピスが銀の魔弾で威嚇射撃を行うが、それを強引に突破してセミタン星人は茜へと突っ込み、ハサミで茜を抱えようとする。
「気を付けろ! こいつなにかおかしいぞ!」
「……まさか、本物の従魔?」
 誰かがそうつぶやいたときだった。
 突如、従魔が横っ飛びに吹っ飛んだ。紗夜がオーガドライブを発動、凄まじい勢いで斬り込んできたのだ。
「ああ、ようやく剣を振るえる……じゃなかった。みなさん! 奴を倒しましょう!」
 緊迫した場面にも関わらず、妙にその表情は生き生きしていた。

●ありのままの現実を
「紅代さんごめんなさい! 後でいいっこなし、ですよっ!」
 カリストに手足を矢で射られ、ようやく紅代が我に返る。
「あれ? うち、今何して……」
「恐らく洗脳されていたんだと思います」
 ケアレイで紅代の傷を癒しながら、冷静に玻璃が答える。
「全く、死ぬかと思ったぜ」
 大剣を身を挺して防ぎ続けた式が息をついた。
「そんな……なんで……」
 緩みかけた空気に、ぽつりと声が漏れた。
 茜だ。
「――お芝居じゃなかったの?」
「初めから知ってたのかっ!?」
 ラピスがぎょっとして聞き返す。
「ううん、わかったのはさっき。だって視察中に偶然従魔と遭遇するなんて出来すぎだし、皆の反応も襲撃を初めから予想できているみたいだった。カリストも大根芝居だし……。きっと私のために側近の誰かが気を遣ってくれたんだと思って」
 でも、と茜は震える。
「まさか本物が出てくるなんて、思わなくて。皆を危険に晒すなんて、思わ、なくて、」
「茜。これが能力者。――これが守るってことなんだよ」
 今にも泣きそうな茜を、玻璃の静かな声が制した。
 全力で大剣を防ぎ続けた式。茜のために、そして紅代自身のために矢を放ったカリスト。
 あちら側には、セミタン星人のハサミを俊敏にかわし、一陣の疾風のように攻撃して注意を引き付けるファレギニア。
 洗脳された側近を組み伏せる嘉久也。
 剣鬼の如く大剣を振るい、薙ぎ払い、斬って斬って斬り続ける紗夜。
 確かに能力者は派手で格好いい存在かも知れない。だが、当然それだけではないのだ。
「お嬢様を想う人たちの気持ちを踏みにじろうだなんて……お仕置きだよ、怪獣さんっ!」
 本気の顔つきになったカリストが最後に強烈な一矢を放ち、セミタン星人はついに力尽きた。

●ごめんなさい
「みなさん本当にお疲れ様でした。けが人が出なくてよかったですねっ」
「ええ。お蔭様で剣を振るえて私も満足でした」
 戦闘が終わった後、カリストと紗夜がにこやかに会話していた。……にこやかな理由が全く噛み合ってないのだが、とにかく和やかな雰囲気だった。
「しかし……『アレ』は長引きそうですね」
 カリストが苦笑いしながら現場の一角を見やる。

「ほら、そろそろ泣き止もう?」
 ひっくひっくと泣き続ける茜を紅代たちがあやしていた。
「ね、どう思った? カッコ良かった、それとも怖かった?」
 玻璃がゆっくりと茜の頭を撫でる。
 今回の茜のワガママで、側近は下手すると命を失っていた。自らの軽はずみな言動を茜は激しく反省していた。
「良く覚えておいて。――失ってから後悔しても遅いの。上に立つ立場なら尚更」
「能力者は死と隣り合わせなんです。今後はもう、こんなことはしないでくださいね」
 次いでファレギニアが優しく、しかし毅然と伝える。
「脅すわけじゃねーが、自分が狙われたってことは肝に銘じておけよ。そんで軽々にこんな依頼もぶち上げんねえ。……そんなことしなくてもお嬢ちゃんがピンチになったらちゃんと助けに来てやるからよ」
 式はぶっきらぼうにそう言うだけだ。
 それでもまだ泣き止まない茜のおでこに、玻璃がデコピンをした。
「い、いたっ!?」
「お仕置き。玻璃は優しいから、デコピンで許してあげる。もうこんな騙すようなやり方はダメだよ?」
 そう言って玻璃はポケットから何かを取り出した。チョコレートだ。
「じゃ、そろそろ帰ろうか?」
「……うん!」
 その一言に、ほっぺたに涙の跡を残しながらも、ようやく茜は笑ってくれたのだった。
 夕日が優しく彼らを照らし出していた。




●余談
「……それで終わってくれればいいけどよ」
 一人納得しきっていない者がいた。式だ。

 従魔が人を襲う。それはいい。だがあいつは「攫おうと」しているように見えた。
 そんなまどろっこしいことを、従魔が自発的にするだろうか。
 心当たりがないか側近に話を聞いてみたが、このような事態は今回が初めてらしい。
「………………」
 より高位の存在が後ろにいて、今回の従魔を操っていた可能性は十分にある。気を抜かない方がよさそうだ。


『……鋭い人もいるもんだね。やっぱりセミタン星人はわざとらしかったかなあ』
 遠く離れた屋根の上で、黒い人影が茜たちをじっと眺めていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • クラインの魔女
    倉内 瑠璃aa0110
    人間|18才|?|攻撃
  • アステレオンレスキュー
    ファレギニア・カレルaa0115
    人間|28才|男性|攻撃
  • ヘルズ調理教官
    虎牙 紅代aa0216
    機械|20才|女性|攻撃
  • 堕落せし者
    旧 式aa0545
    人間|24才|男性|防御
  • 慈しみ深き奉職者
    カリストaa0769
    人間|16才|女性|命中
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • エージェント
    空木 玻璃aa1085
    人間|15才|女性|防御
  • ヘイジーキラー
    壬生屋 紗夜aa1508
    人間|17才|女性|命中
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