本部

ゴーゴー! 山狩り!?

和倉眞吹

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/11/28 20:29

掲示板

オープニング

 この日、エージェント達は貸し切りのマイクロバスに揺られていた。
 彼らは、HOPE某支部内で希望者を募っての、『日帰り紅葉狩りツアー(そのまんま、命名某女性オペレーター)』に参加中であり、目的地である山はもうすぐそこだった。
 天気は快晴。正にシーズン真っ盛りの紅葉狩りには、打って付けの日和である。

 ところが、山に付属の駐車場に着いた途端、雲行きが怪しくなった。
 実際の天候ではなく、事態の雲行きである。
 一足先にバスを降りて、程なく戻って来た女性オペレーターは、若干青い顔をして視線を思い切り逸らしながら言った。
「……えー、皆さん。誠に申し訳ございません。休みを取っての紅葉狩りツアーですが、急遽、山狩りの任務に変更と相成りました」
 山狩り? とは何ぞ、と車内にいた全員が眉根を寄せる。
「実は、紅葉狩りを予定していた山ですが、熊の目撃情報が出て、現在立ち入り禁止になっているようです」
 にしても、地元のハンターがやっつけるのが筋では?
「……誠に尤もなご指摘ですが、その……地元のハンティング団体の皆様が発見次第、麻酔銃を撃ち込んだようなのですが、効果がなかったらしくて……」
 それで?
「止むなく撃ち殺そうと実弾で攻撃したらしいのですが、それも効かず……逆に襲い掛かられて、命辛々逃げて来た次第だという事です」
 ちなみに、ハンティング団体の使用する銃は、言わずもがな、ごく普通の銃だ。が、それは通常、熊に限らず生き物全て、大抵は殺傷できる代物である。
 それが効かない、となると、いよいよ本格的に愚神か従魔の関与を疑わざるを得ない。
「で、熊は何匹ですか?」
 一人のエージェントが手を挙げて訊ねる。授業中に生徒が、「先生しつもーん」というあの風情だ。
「詳しいことは、団体の関係者にした聞き取り調査を纏めた資料がありますので、そちらを参照下さい」
 ……何?
「……え、ちょっと待って下さい。資料があるって事は、それって今判明したんじゃないんじゃ」
 すると、オペレーターは大慌てで両手をブンブンと左右に振った。序でに首も横に揺れる。
「いえっ、私も知ったのは今さっきです! ただ……地元の警察には数日前から届け出があったみたいなんですけど、この近辺にはHOPEの支部もないし、幸い……と言って良いかは何とも判断し兼ねますが、今のところ山に近付かなければ人的被害が出てないようなので……」
 ――ので、つまり警察がHOPEへの連絡を怠ったと。
「……そのようですね」
 オペレーターとエージェント達は、期せずして同時に溜息を吐く。
 はーっ、という何とも表現し難いハーモニーが、バスの車内に満ちた。

解説

▼目的
・熊やその他に憑依した従魔を討伐する。
・戦闘で出た被害の後始末。
例えば、倒れた木が登山道を塞いでしまったら、それを撤去する、等。
・その後、予定通り紅葉狩りを楽しむ。

【以下、聞き取り調書より】
▼敵
従魔。イマーゴからミーレス級(地元ハンターでは判断不能との事)。
・熊×1…体長五メートル程と平均よりかなり大きくなっている。人の気配を察知すると襲い掛かってくる。
・猪×1…まだ姿が変化していないらしい事から、イマーゴ級。でも、ライヴスを欲してやはり人を見ると突進してくる。
突進による破壊力は、通常の猪+αくらい。体当たりをまともに食らうとただでは済まないのは確か。
・ツグミ×?…群にそのまま従魔が憑依しているらしく、数が多いのが難点だが、こちらも恐らくイマーゴ級。攻撃方法は至って単純、上空からの急降下。主な武器は嘴。刺さると恐らく痛いでは済まない。尚、正確な数は把握できていない。(「確認? 出来る訳ないでしょう! 死ねって言うんですか!」By.ハンティング団体メンバー)

▼山、及び目撃位置情報
標高800メートルくらい。
登山コースが三つあるが、大体が、標高差600メートル程、片道2・5キロコースの登山道脇の森の中で目撃された様子。
他コースは標高差700メートル・片道3キロコースと、山周辺遊歩道の一周30分コース。
最初の目撃が六日程前。
【以上、聞き取り調書より】

▼その他(PL情報)
取り敢えず、PC自身の安全を最優先に考えて下さい。
依代ごと叩っ斬るのが一番安全且つ簡単な解決法ですが、依代となっている熊達ごと倒してしまうか、それともどうにかして従魔を追い出すかは、現場の判断にお任せします。
追い出す場合、依代を行動不能にすれば勝機はあるでしょう。
ただ、最初の目撃から日数が経ってしまっている事を考えると、従魔を追い出したとしても依代本体は既に死んでいる可能性が高いと思われます。

リプレイ

●事態急転!?
 ニウェウス・アーラ(aa1428)は、今日の紅葉狩りツアーに乗っかった親睦会を、とても楽しみにしていた。紅葉狩り自体も初めてだし、と前夜は興奮で寝付かれないという、遠足前夜の小学生かとツッコまれそうな有様だった。――だというのに、現実は無情なものだ。
「折角の、紅葉狩り……」
 女性オペレーターの説明が終わるや否や、半泣きになったニウェウスは、静かに怒りのオーラを発しながら俯いて呟く。
「……親睦会を邪魔する従魔は、私達に蹴られて消えちゃうといいよ……」
 うふふふふ、と低く笑い声が漏れ、最早泣いているのか笑っているのか怒っているのか分からぬ体に、オペレーターは、自身が従魔に憑かれた者の如く逃げ腰だ。
「まま、オペレーターさんはどんまい?」
 疑問形で言ってオペレーターの肩を軽く叩いた戀(aa1428hero002)が、「ますたぁも、気を落とさないで」と主に声を掛ける。
「ぱぱっと片付けてしまえば、時間は十分に取れる筈よぉ」
 相棒に言われたニウェウスは、「むむ」と唇を引き結んだ後、「うん、頑張るっ」と頷いた。
 その脇で、予定変更でござるか? と呟いた小鉄(aa0213)は、山狩りと言う単語から、村での日々を思い出していた。
「ともあれ、それっぽいのを倒せば良いのでござるな!」
 グッと拳を握って宣言する小鉄を、『それっぽいのって』とジト目で見たのは、彼のパートナー・稲穂(aa0213hero001)だ。
『まあ、ちゃっちゃっと片付けたいのは同感だけど……従魔を倒してね、従魔を』
 紅葉狩りで来た筈なんだけど、とニウェウス同様、残念に思っていた彼女は、相棒の何ともアバウトな発言に釘を刺すのを忘れない。
 一方、予定変更が分かる前から、銃を握っているリタ(aa2526hero001)に、鬼灯 佐千子(aa2526)は溜息混じりに諭している。
「はあ……知っているかしら……紅葉狩りに銃は必要ないのよ?」
 しかしリタは、さも初めから目的は“それ”だったと言わんばかりだ。
『何を言ってる。今から行うのは山狩りだ。気を引き締めろ』
 そう彼女が口に乗せたのを機に、他のメンバーも立ち上がってバスを降りた。

●準備は上々
 付近の警察署やホームセンターで必要な物を入手した後、エージェント達は三手に分かれて山に入った。
「組合長の計らいに水を差すとは……許し難い相手です」
 ブツブツと独りごちる灰堂 焦一郎(aa0212)は、お怒りモードで、借りて来た無線の通話確認と周波数調整を行っている。ライヴス通信機でも良かったが、所持している者とそうでない者がいたからだ。
 そんな彼の横で、相棒のストレイド(aa0212hero001)は、《気が紛れて良い。景色など退屈で敵わぬ》などと零している。親睦会にはほぼほぼ興味がなかったのだ。
 早くも戀と共鳴したニウェウスは、地図でルートと周辺の地形を確認しつつ、準備運動と称して剣の素振りに勤しんでいる。
 その傍で、灰堂の言う所の『組合長』こと火乃元 篝(aa0437)は、「のやま~をかけめぐ~り~」などと調子っ外れに歌を口ずさみ、相棒のディオ=カマル(aa0437hero001)に、『ちょっ!? もうちょっと音程合わせなさいな!!』と場違いな説教を食らっていた。
 一方、虫の習性や分布から動物の索敵にチャレンジしたい胡 佩芳(aa4503)は、担当となった山周辺遊歩道コースの端にしゃがみ込んでいる。
「こういう山にはよくいるスジボソヤマキチョウが少ないわね。ツグミの群に食べられたんじゃ……?」
 ツグミ殺しに内心やる気を燃やしていた佩芳は、どこか楽しげに自身の相棒・悪魔蠕虫(クモ/ムカデ)(aa4503hero001)を見上げる。悪魔蠕虫は、いつも通り、面のような無表情で佩芳を見つめ返した。

●捜索開始!
「ふあぁ……」
 片道2・5キロコースに足を踏み入れた繰耶 一(aa2162)は、歩きながら大きく伸びをした。
「ま、植物狩るよりかは幾分にも楽しそうではあるか」
 紅葉狩りなんてすぐに飽きそう、と思っていたが、退屈しのぎにはなりそうだ。
 煤原 燃衣(aa2271)から囮用にと渡された、木製のソリ付きカカシや鈴、反射板等は、ひとまず幻想蝶に仕舞う。そんな一の横を歩いていたヴラド・アルハーティ(aa2162hero002)は、『んふふ、狩りなんてひっさしぶりね~!』などと言いつつ、ウキウキしていた。
『楽しみじゃない、クルヤ~♪』
 同意を求めるヴラドに、一は不敵な微笑を返す。
「そうだね。あちらが暴れるからには、狩りの限りを尽くすよ」
『そして“喰らう”わよ……ッ!!』
 一と、従魔肉に飢えているらしいヴラドの思考は、若干ズレていた。
 そして、この甲班には、やる気(食い気?)に燃えるペアがもう一組あった。
「……思いがけずの狩り、か……腕が鳴りますねッ」
 実際には指を鳴らしているのは、普段は穏やかな煤原である。元々の田舎育ちに加え、最近はパートナーのネイ=カースド(aa2271hero001)に鍛えられている所為か、狩りにハマっているようだ。
 害獣スプレー、細縄、太いロープを申請するなど、急な予定変更にも関わらず、準備も万全だ。
『ああ……熊の従魔など絶対に捨ておけん』
 同意したネイに、日頃の正義感も顔を出し、煤原は頷く。
「えぇ、人の味を覚えたら」
 益々被害が広がる、と続けようとした煤原の言葉など、ネイは既に聞いていなかった。
『必ず熊鍋にしてやる……ッ!』
 食欲魔神ムキだしなネイのやる気に、やや引き気味になりながらも、煤原は「そ、それは兎も角」と一つ咳払いする。
「熊も猪も、どの道駆除対象です……この際、狩り尽くしましょうッ!」
 大半が食欲でやる気を燃やす中、犬養 菜摘(aa4561)とトゥパシカウック(aa4561hero002)は、冷静に遊歩道脇を観察している。
 菜摘は、元々は猟師である。トゥパシカウックも、生前はアイヌの出で、イヨマンテと呼ばれる熊送りの儀式を風習にしていた猟師だ。
 木々や下草、藪の倒れ具合から動物の痕跡を探すことは、猟師である二人にはお手の物である。山に目を向けた彼女達は、獣道を探すことに腐心している。
 早くも何かを見つけたのか、菜摘が慎重に登山道を外れた。
「菜摘?」
 トゥパシカウックが、菜摘の踏み入った林に続く。他のメンバーも用心しながらその後を追った。
「ここは、イノシシのヌタ場ね。泥を引きずった痕があるわ」
 彼女が示したのは、やや開けた場所だ。広い間隔で木が植わっている真ん中に、土を均したような痕跡がある。
「じゃあ、この辺に落とし穴を掘ればいいかな」
 煤原が、幻想蝶からホイールアックスとシャベルを引っ張り出す。
「いいえ。もう少し調べて行動ルートを割り出したら、通り道にくくり罠を仕掛けます」
 菜摘は、先刻オペレーターに購入して来て貰った材料とトラップツールを取り出し、相棒と共に周辺を調べ始めた。
 一は、彼女達とは別に探索しようと、ヴラドと共鳴した。ライヴスゴーグルで従魔の足取りを調べられればと思ったのだが、従魔が余りに低級なそれの所為か、追跡は不可能なようだ。
 こうなると、本業の猟師が同じ班にいるのは頼もしい。
 彼らは更に二手に分かれ、猟師達に指導を仰ぎながら、索敵作業に入った。

●遭遇するのは?
 片道3キロコース担当――乙班でも探索が開始されていた。
 が、元々遊びに来て巻き込まれただけ、という感覚のビシュタ・ベリー(aa4516)は、ただ同じ班の仲間について、やる気なさげに歩いている。加えて山も素人だ。
「お、この木の実、食べれるやつじゃないの? 拾っとこ」
 とのんびり宣う様は、獣を見つける気がそもそもあるのかどうかも怪しい。
 食べれる、などと聞いた為か、道の側面を重点的に見ていた小鉄は、「ぼたん鍋とか美味そうでござるな」と呟いた。
『止めはしないけど、鍋も何も無いんじゃないかしら』
 稲穂の冷ややかなツッコみに、「む、それは残念でござる」と肩を竦める。
「まあ、頼めば地元の人とかが貸してくれるんじゃない?」
 ホームセンターもあったしね、と付け加えながら、既にリタと共鳴した佐千子は、スナイパーゴーグルを通して上空からの攻撃を警戒している。資料によれば、ツグミは数が把握できていないらしいのだ。
 ノイズキャンセラーも発動して、足音にも注意を払い、オートマッピングシートを小まめにチェックしている。
 そんな中、索敵の目を増やす為、ビシュタと敢えて共鳴していないウルサリ(aa4516hero001)が、突如『あーっ!』と声を上げた。
 何事かと佐千子、小鉄と稲穂が思わず身構える。が。
『あそこの土掘り返してえ』
 と続いた台詞に、全員が脱力を覚えた。ビシュタだけが同調して、「クマの食べ物でも埋まってるのかな? 一応確認を……」などと言い出す始末だ。
 熊の精霊であるウルサリの勘は、あながち外れるとは思えない。その為、彼女のやりたい衝動、行きたい方向に任せた方が熊に関しては推測し易いのは確かだが、しかし。
『そこの谷降りて、河みてきていいだろ?』
「クマはあっちかも知れない……」
 と、二人は一見噛み合わない会話を交わしていて、効率が良いのか悪いのか、という状況だ。
 ところが、ウルサリが降りたいと言った谷の方を見たビシュタは、無言でウルサリの襟首を掴んだ。
『何だよ、てめ……』
 文句を言い掛けたウルサリを、ビシュタが「シッ!」と鋭く遮る。それまでまるでやる気が感じられなかった彼女の変わりように、他のメンバーもそちらへ視線を向けた。
 渓流に現れたのは、正しく熊だった。
 河の中に四つん這いになるその姿は、調書の通り、平均よりも極端にでかい。立ち上がったら、ちょっとしたビルくらいはありそうだ。ライヴス通信機を持っていない者もある為、と渡された普通の通信機で連絡を入れながら、小鉄が素早く稲穂と共鳴する。
 同じく連絡を取るつもりでいた佐千子は、小鉄が通信機に手を当てるのを見て、改めて身構える。
 ビシュタもウルサリと共鳴し、その姿を変じた。

●ツグミ襲来
 同時刻、山周辺遊歩道コースを担当する丙班の篝は、探索と言うよりは呑気に遊歩道を歩いていた。
 任務に切り替わった事もまるで気にせず、予定通り、ニウェウスの歓迎会を兼ねた紅葉狩りに浸っている風情だ。
 ニコニコ散歩を楽しむ顔をしながら、内心で「但し従魔は殺ーす」なんてことを考えているのを知るのは、彼女と共鳴しているディオだけである。
 ともあれ、空からの遮蔽がない遊歩道でそんなことをしていては、格好の的というか囮であるというのに、本人は全く気付いていない。
 主に通信手と上空索敵担当の灰堂も既に共鳴し、スナイパーゴーグルを掛けて空を見上げ、手にはRPG-07Lを携えている。
 前衛担当のニウェウスは、時折籠手を剣の峰で叩いたり、ライヴスを軽く放出しては敵を誘引していた。とにかく早く片付けたい。
 調書に拠れば、最初の目撃は6日前のことだと言うから、依代はとっくに死んでいる確率が高い訳だ。
「なら、真っ二つにしてもいいわよね?」
 依代さんには悪いけど、ええ、これも親睦会の為よ? うふふ……などと、笑っている姿だけを見れば可愛らしいが、口にしていることと言ったら外見に似合わず物騒極まりない。
 3人について歩く佩芳は、やはり空を見上げながら歩いている内に、今度はミツバチを発見したらしい。
「8の字ダンスで太陽と花畑と蜂の巣の位置を仲間に教えてる。蜂の巣は東北東に10分ほど行った辺りにあると思う。クマも多分そこに……?」
 誰に言うともなしに小さく呟いていると、それが聞こえたようなタイミングで灰堂の持つ通信機が着信を告げた。
〈こちら、乙班の小鉄でござる〉
〈こちら、甲班。聞こえてます〉
 答えたのは煤原だ。それを受けて、灰堂も口を開く。
「こちら、丙班です。聞こえてます、どうしました」
〈熊を発見して、尾行中でござる。できれば気付かれない内に応援を頼みたいのでござるが〉
 手は空いているか、と含みを持たせた口調に、灰堂が「分かりました」と言い掛けた。同時に、煤原が声を上げる。
〈あ、済みません! 今、猪を発見して……片付け次第向かいますから!〉
 必要なことだけ言って、甲班からの通信は途切れた。
 仕方ない、自分達だけでも、と思った灰堂の視界には、飛来するツグミの群が一杯に広がる。
「……申し訳ありません。こっちも今から取り込み中になりそうです。片付け次第向かいます」
 灰堂が通信を切ると同時に、それまで共鳴していなかった佩芳と悪魔蠕虫が共鳴した。

●猪追跡
 通信を終えた煤原は、索敵の為に登っていた木から飛び降りた。その肩には、木の葉、松脂を塗り付け裏にフリース布を縫い、保温マント化したサンドエフェクトを羽織っている。
『何かいたの?』
 道中、狭い歩幅で歩きつつ、木に香水を付けた布を巻き付けていたヴラドが、煤原の傍に駆け寄る。
 他班でも従魔が出たらしいのは分かったので、敢えて花火を打ち上げる必要はなさそうだ、と一は脳内で独りごちた。
 通信状態にしていた通信機で会話を聞いていたのだろう、菜摘とトゥパシカウックも足早に煤原の元へ集まった。
「猪です。この先にいるのを見ました」
「折角の罠が無駄になってしまいましたね」
 後で回収しておかないと、と菜摘が肩を竦める。特に、トゥパシカウックが仕掛けていたアマッポは、毒矢なので危険だ。
 それはそうと、と菜摘は内心で溜息を吐く。以前の依頼から必要性を感じ、世界中の罠の勉強を始めていた経緯から、不謹慎ながらもちょっとがっかりしていた。フォーリントラップとか、アロートラップも試してみたかったのに。
 持ち込んだ伏竹弓はともかく、その辺で張り切って調達した材料や、凄竹はこれで無用の長物だ。
『でも、誘引して使えるかも知れないし、一概に無駄とは言えないんじゃないかしら?』
 ヴラドが言えば、煤原も頷く。
「それに、ここからはまだお互いに見えません。丁度延長線上ですから、ルートは外れていないでしょう。引き続き案内をお願いします」
 菜摘は余計なことは口にせず首肯し、トゥパシカウックと共鳴する。標的が視認できたからには、この上余計に罠を仕掛ける必要はもうない。
 煤原も、ネイと共鳴を果たし、既に共鳴状態だったヴラド(と一)と共に、菜摘の後に続いた。

●丙班対ツグミ
 飛来するツグミの群に、灰堂の持つRPG-07Lが火を噴く。但し、この武器は三発までが限界だ。
 あっという間に弾数を消費した灰堂は、武器を持ち替える。その隙を突いて、RPGの攻撃を逃れたツグミの群が灰堂に狙いを定める。
(今よ!)
「おう!」
 必然、鳥達の高度が下がった所で、ディオが叫ぶのに合わせ、篝は跳躍した。手にした剣を上から下へ叩き付ければ、攻撃がヒットしたツグミ達は、翼をもがれて地へ落ちる。
 彼女が着地すると同時に、難を逃れたツグミは再び上昇に転じた。刹那、佩芳の操るシエンビエスが、うねりながら群の中へ突っ込み、まるでムカデがそうするように蠢きながら、ツグミ達を切り裂いて行く。
 佩芳の攻撃と、灰堂の狙撃に追いやられたツグミ達の退路を断つように、篝も回り込んで剣を振るう。
 追い込まれたツグミ達が、上空一箇所に集まり、右往左往し始めた。
「皆、目を瞑って下さい!」
 瞬間、灰堂が叫び、フラッシュバンを放つ。皆が目を庇いながら、効果範囲から離れる。フラッシュバンをまともに喰らったツグミ達は方向を見失い、あるものは木に追突し、あるものは地に落ちる。
 仲間が敵を足止めする間、攻撃の機を伺っていたニウェウスは、悠然と歩を進め、止めとばかりにウェポンズレインを発動する。スウ、とその細やかな腕が水平に振られると、文字通り降り出したアスカロンの雨に打たれ、ツグミ従魔は全滅した。
 暫く空を伺い、追撃がないのを確認した上で、灰堂が休む間もなく地図をチェックする。
「急ぎましょう。3キロコースへの最短は……」
「多分、こっち!」
 同じく最初に地図をチェックしてあったニウェウスが、山への入り口へ先導する。全員がその後を追って、乙班の救援に向かった。

●只今尾行中
 熊に遭遇してしまった乙班は、ジリジリしながら救援を待っていた。
 暫く河で獲物を漁っていたように見えた熊は、やがて三人がいる方とは反対側の岸へ上がり、森の中へノソノソと入って行く。
 土手から河岸へ飛び降りた3人は、音を立てないように気を付けながら、河を飛び越えた。先を行く熊の数メートル後ろを、所々の木に隠れつつ、歩く。
 熊に近い姿に変じたウルサリは、早く飛び掛かりたくてウズウズしているらしい。
『なー、もう良いだろ? やっちまおうぜ』
 声量を落として仲間に囁く様は、まるで喧嘩っ早いチンピラだ。しかし、そんなウルサリを、小鉄と佐千子が根気よく諭す。
「いや、短慮は禁物でござる」
「私も同意見。応援を待った方が良いわ」
 レベルが低そう、とは言え何しろビル級の大きさの上に従魔憑きだ。ただの熊より強いぐらいでしょ、と思ったら、痛い目を見るのは恐らくこちらの方だろう。
(あたしも2人の言う通りにした方が良いと思う……)
 内側からビシュタにまで窘められて、ウルサリはムッツリと唇を尖らせた。ウルサリの脳内には、熊と1対1で組み合うイメージしかない。
 だが、表面上はとにかく2人(と内側の1人と合わせて計3人)の意見に従った。
 ややあって、熊が何を思ったか、不意に自身の後ろを振り返る。
 3人は慌ててそれぞれ木の陰へ身を潜める。しかし、熊の視界から死角になるように、と思いつつ、森の内側から前方を伺った小鉄と、熊の視線がガッチリとかち合ってしまった。そのタイミングで、通信機が着信を告げる。
〈こちら丙班です〉
 通信機から聞こえたのは、灰堂の声だ。
〈ついさっき、ツグミの討伐完了しました。今、乙班の方へ向かっています。どの辺りですか?〉
「えっと」
 口を切った途端、熊がこちらに向かって地を蹴るのが見える。ヒッ、と悲鳴が出そうになるのを堪えた小鉄の声は、やや引っ繰り返った。
「3キロコースを1キロ程登った所に渓谷があるでござる! そこの河を渡った向かい側の森の中――」
 どうにか河まで出るでござるよ! と口早に言い捨てて、小鉄はそれを聞いていた仲間と共に回れ右をした。

●甲班対猪
 一方、猪を発見した甲班は、菜摘を先頭に猪の背後に迫っていた。
(菜摘。今、熊の足跡を見つけたわよ。熊の習性から考えると、ルート移動が変だけど……)
 トゥパシカウックがふと脳内で囁くが、菜摘は口には出さずに返す。
(うん……中身が従魔だからじゃない? どっち道、熊は3キロコースに出てるって話だし、今は猪に集中しましょ)
 それもそうね、とトゥパシカウックが頷くのを脳裏で感じながら、菜摘は確認するように小さく呟く。
「泥を擦り付けた木がここ……獣道から外れてこちら……ライヴスを集める習性を、普通のエサに置き換えるとどうなるかしら……」
 後ろを付いて歩く2人は、口出しせずに菜摘を見守っている。
『ここ、滑り易いわよ、煤原ちゃん。気を付けて』
「ええ。ありがとうございます」
 煤原も周囲の足跡等に気を配り、時折また木に登っては、双眼鏡で猪の姿を確認していた。
「もう少し先です。ルートは間違ってませんが……向こうも進んでるので」
 足下に注意しつつ煤原が木から飛び降りた時、通信状態にしてあった通信機から悲鳴に似た声が聞こえた。
〈――どうにか河まで出るでござるよぉおおおお!!〉
「どっ、どうしたんですか!?」
 煤原は咄嗟に通話口に声を掛ける。口調からすると恐らく小鉄だ。
〈どうも何も! いや、大丈夫! ちょっと! 熊さんと! 目が合っちゃった、だけ、でござる!!〉
 走る合間に相手の攻撃を躱しながら、器用にも会話をしているらしい。それに合わせるように、遠い場所から地響きが聞こえる。
「……こっちもあんまりのんびりしてられないですね」
 早く応援に行かないと、と呟く。すると、ヴラドが何もない空間に掌を捧げた。
『ならもう、向こうから来て貰いましょうか』
 ふふっと不敵に笑った彼は、手にしていた幻想蝶からオネイロスハルバードを引き抜く。
『囮と誘因役は引き受けるわ。その間に罠を仕掛けるなら仕掛けて頂戴』
「分かりました。犬養さん」
 煤原に目配せされて、頷いた菜摘は、まだ持っていたくくり罠の材料を幻想蝶から取り出す。ちなみに、一般の猟師がくくり罠を作るのには、通常7分程掛かるのだが――
「3分……いえ、1分半で仕上げます。それまで持たせて下さいますか」
『お安いご用よ』
 婉然と微笑んだヴラドは、ハルバードを振りかぶった。
『さあBanshee……この一帯の小動物達に子守歌を歌ってあげなさい』
 ヒュ、と振り下ろせば、年端もいかぬ少女の声がさざ波のように周囲に広がる。
“泣き女は嘆くよ 弱き者の死を 強き者の糧となる世の理を”
 耳で聞こうとすると、その歌詞の言語は不可解だったが、意味は直接脳で感じることができる。いずれにせよ、標的にとっては死を予言する不吉な歌だ。
『いい子ね……出ていらっしゃい』
 最早隠れて追尾することは捨て、ヴラドは大胆に大股で前へ進む。ほんの数歩、行くか行かないかの内に、茂みがガサガサッと不穏な音を立てた。
 さっと視線を走らせて、木の幹を背にすると、程なく猪がその鼻面を見せ、顔全体を現す。ヴラドと視線が合うや、普通の猪宜しく突進して来た。正しく、猪突猛進だ。
 ヴラドは、ギリギリまで猪を引き付け、衝突寸前に真横へ飛ぶ。猪は急に止まれず、鼻面から木の幹に激突した。普通の猪ならその衝撃で脳震盪でも起こしただろうが、従魔憑きのそれはすぐに幹から離れ、ヴラドに照準を合わせ直す。
 しかし、何度か同じように激突を繰り返す内に、猪の動きが鈍り始めた。
「ヴラドさん! 準備完了です!!」
 直後、煤原の声が茂みの向こうから呼ばわる。
『了解よ!』
 答えたヴラドは、猪を引き連れ、元来た道を引き返した。
 茂みを抜け、右手に折れたヴラドに遅れること一拍の後に現れた猪は、視界の真正面にいた煤原に狙いを変更したらしい。そのまま真っ直ぐに向かってくる猪を、ブレイブオーブを活性化させた煤原は跳躍で避け、手にした斧を振り下ろす。
 攻撃は僅かの差で逸れたが、猪の相手は煤原とヴラドだけではない。そのまま直進した先には、ギリースーツでカムフラージュし、茂みに潜んだプロの猟師――菜摘がいる。
 伏竹弓を引き絞った菜摘は、その進路、前足を狙って矢を放つ。それを避けようと蹈鞴を踏んで、どうにか進行方向の変更を図った猪の前足が、くくり罠の輪の中央を踏み抜いた。
「ギィイ!!」
 悲鳴を上げた猪が、罠から逃れようともがいた所へ、煤原の一気呵成が炸裂した。
「割れて砕けて消え失せろ……ッ《貫通連弾》ッ!」
 転倒した猪の脳天へ、斧が直撃し、猪は倒れたまま動かなくなった。
 菜摘と、ギガントアームを装着したヴラドが駆け寄って、倒れた猪を見下ろす。
(是が非でも血抜きだけはしておけ、いいか)
「……ネーさん……食べたいんだね」
 脳内で念を押されて、煤原は、溜息と共に肩を落とした。
 が、言われるまま、猪の喉だけ掻き斬ると、すぐ様オートマッピングシートで3キロコースのライヴスの痕をチェックする。
『最短距離は……こっちね』
 覗き込んだヴラドが言い、煤原も頷く。
「急ぎましょうッ!」

●乙班対熊
「うぉおおおおお!!」
 元の河原――開けた場所へ出るなり、ウルサリは雄叫びを上げて熊に突進した。本気で真正面から戦う気か、と小鉄と佐千子は奇しくも同時に思って暫し唖然とする。
 だが、共鳴した所で、身長が2メートルもないウルサリが、五メートルはあろうかという熊と組み合うのがそもそも難しい。後足で立ち上がった熊は、ウルサリを退けようと前足を振るった。
「うわ!」
 ギリギリの所で避けたウルサリは、河の中に着地する。
「こっちでござる!」
 透かさず小鉄は苦無を投げつつ前へ出て、熊の注意を引く。
 自分の方へ飛んできた苦無を、まるで蚊か蠅でも払うように、熊は再度前足を振った。弾かれた苦無が、金属音を立てて川辺の岩に当たる。直後、四つん這いになった熊は、小鉄へ向けて地を蹴った。
 その攻撃を受け止めたのは、熊と小鉄の間へ躍り出た佐千子のレアメタルシールドだ。
「チィ!」
 小鉄がストレートブロウで相手を退かせた所で、丙班の面々が先に駆け付けた。しかし、彼らはまだ渓谷までは遠い。
「焦一郎! 狙撃、いけそう?」
 ニウェウスに問われた灰堂は、オプティカルサイトを利用してLSR-M110を構える。
「距離が少しありますが……やれます」
「じゃあ、頼んだ!」
 篝が言い置くや、再び駆け出す。狙撃の為に足を止めたままの灰堂を残して、ニウェウスと佩芳も篝に続く。
「おい! 聞こえるか!?」
 篝が通信機を通して言うと、小鉄が顔を上げる。土手の際まで応援が来ているのを認識したのか、3人の動きが攻勢に転じた。
 篝が土手を蹴って跳躍し、熊の背に飛び付く。
「グオゥ!?」
 唐突に背に乗られた所為か、瞬時熊が混乱した。篝は、振り落とされるまま熊から飛び降り、河原に足を着ける。
 すぐ様ウルサリが熊の体勢を崩しに足を狙う。仰向けに転がった熊は、後足を闇雲に振り回してウルサリを振り払うと、四つん這いに戻った。
 直後、乾いた音が響いた。灰堂の狙撃が熊の首筋を捕らえ、熊は体勢を崩す。
 透かさず、熊の正面にいた佐千子が、射手の矜持を発動し、フリーガーファウストG3の引き金を絞る。呻りと共に佐千子を睨み据えた熊の目の前から、放ったライヴスのロケット弾が消失した。
「!?」
 テレポートショットを使った攻撃は、熊の頭部をまともに捕らえる。いくら従魔憑きでも、低級な上に、依代本体の頭部をやられてはひとたまりもなかったらしい。
 森の方から甲班が駆け付ける頃には、地に伏し動かなくなった熊を、暫し油断無く身構えた仲間達が囲んでいた。

●戦の後
 全てが終わった後、エージェント達は当初予定通り紅葉狩り――と思いきや、速攻でジビエ祭りに突入しそうになっていた。
 何しろ、これだけ食べられそうな肉があるのだ。
 小鉄はほんのりぼたん鍋に思いを馳せ、ネイは熊鍋に食欲を燃やし、ヴラドに至っては『何でも良いから従魔肉っっ』と涎を垂らさんばかりだった。
 しかし、それにまずストップを掛けたのは、オペレーターだ。
「紅葉狩りの予定が狂った挙げ句にこんなことをお願いするのは非常に申し訳ないのですが……戦闘の後片付けもお願いできませんか?」
 その代わり、調理器具や鍋などはその間に用意させて頂きますのでっ、と平身低頭頼まれた。元々、後片付けも込みだったということを思い出したエージェント達は嫌とは言えず、食事前にもう一働きとばかりに、山の中で状態を修復する作業に勤しんでいる。

 後片付けも、結局それぞれに担当した箇所を行う事になって、最初と同じ班に分かれていた。
 駆けずり回ってその辺を破壊したのは、エージェント達よりも従魔の方が比重が多い。甲班が担当した場所では、猪があちこちの木に激突したので、戦闘後は見るも無惨な様相を呈している。
『にしても、登山道の方からは外れてるのに、明らかに戦闘以外で出たゴミもあるような気がするわねぇ』
 ヴラドが言えば、一も頷く。
「山や森には落とし物も多い。善かれ悪しかれ……ね」
 煤原とネイも、同意するような表情で視線を投げた。
 菜摘はまだ共鳴したままで罠師を発動し、自分達が仕掛けた罠の撤去作業に当たっていた。
 倒木は一つくらい残っていても、登山道にさえかぶっていなければさして不都合はなかろうが、アマッポなどは一つでも残っていたら大変だ。
 粗方倒れた木を、取り敢えず各々幻想蝶に仕舞った面々は、罠の撤去を手伝うべく、菜摘の元へ足を向けた。

 一方、乙班も、熊との対戦後の片付けに精を出していた。
 小鉄は、倒れた木などを運び易いよう短く切断する作業に勤しんでいる。
 それだけではない。被弾した岩場はどうにもならないが、投げた苦無の回収もしなくてはならなかった。
 だが、不幸中の幸いか、登山道が戦場になる事は避けられた為、ざっと見ても今後の登山運営に支障はあるまい。
「……で、この熊どうするの?」
 ビシュタが指さした先には、詳しい状態を語るにはちょっと悲惨な有様になった熊が、河に頭部を突っ込んで寝そべっている。先程、応援に駆け付けてきた甲班のネイが、『熊鍋、熊鍋』と呟きながら、どこか嬉々として血抜きして行ったものだ。
「血も抜けたようでござるし、幻想蝶に仕舞えば持っていけるでござろう」
 と言うか、持って行かないと後が怖そうでござるし、と続いた小鉄の言葉に、その場にいた全員がコクコクと頷いた。

 遊歩道の脇には、モリモリとツグミの死体が詰め込まれた袋が数個、ゴロゴロと積まれている。袋は、片付けを始める直前に、近くのホームセンターで購入して来たものだ。
 この付近には倒木はないが、木にも若干ツグミが激突した痕がある。しかし、抉れてしまった木を元に戻すことは流石にできないので、そこは山の管理人にHOPEから連絡しておいて貰うことにした。
 簡単に道の確認も終わった丙班では、灰堂が篝とニウェウスの間を歩き回っている。
「篝様、お怪我はありませんか?」
「ん? 全然平気だぞ」
「ニウェウスさんは?」
「私も……大丈夫。有り難う、焦一郎」
 ニコリと笑って礼を言われ、灰堂は若干戸惑った末に軽く会釈した。こういう時、どう人と接したら良いか、彼には未だによく分からないことがあるらしい。
 それをストレイドが、無表情に眺めている。もっとも、彼の場合、外見からしてそもそもロボットのようなので、表情が読み辛いのだが。
 その傍で、既に座り込んだ佩芳は、「猪とかの経路の割り出しもやってみたかったなぁー」などと呟いている。
「絶対タカサゴキララマダニとか落ちてたと思うのに……ねぇ?」
 横に立った悪魔蠕虫をチラリと見上げるが、彼女はストレイドとは違う意味で無表情に、ただ相棒を見つめていた。

●そして、最後のお楽しみ!
「ふむ! 些か乱入があったが、無事紅葉狩りの続きといこうではないか!」
 料理も豪勢に、ニウェウスの歓迎なのだ! と言った篝が腰に手を当てる。その周囲では、確かにジビエ祭りの準備とばかりに、他のエージェント達が先刻とは別の意味で駆け回っていた。
『……って言うか、ジビエと紅葉狩りが同義語になっちゃってる感じよねぇ』
 ディオは、火に掛けた大鍋を見張りつつ、独りごちる。
 急拵えのジビエ祭りの会場となった駐車場には、地元のハンティング団体から借りて来た調理器具がズラリと並べられている。
 道具を貸し出してくれた団体のメンバーも相伴に預かることとなり、今は準備を手伝ってくれていた。
 即席の調理場となったイベントテントの下では、一とヴラドが仲良く並んで下拵えに勤しんでいる。二人が手際良く鳥の羽を毟り、皮を剥ぎ、肉を切り分けていく。
 切り分けられた肉は、稲穂が引き取って、テントの下にあるコンロの上に掛けた、中型の鍋に放り込んだ。
 鍋の中には、やはり付近のスーパーマーケットで調達した野菜類が一緒に、グツグツと煮えている。
 野菜類を刻んでいるのは、ニウェウスと戀だ。
「美味そうでござるな」
 小鉄が鍋を覗き込んで言うと、稲穂が『おうどんとか入れても美味しそうよね』と答えた。
 細かい作業が苦手な佐千子とリタは、調理以外で何か手伝うことがないかとウロウロした挙げ句、佐千子の方は一とヴラドに付いて、鳥の肉の切り分けに加わる。
 リタは、少し離れた場所で行われていた、猪と熊の解体作業を手伝いに行った。
 大型の獣を捌く主導的役割をしたのは、ハンティング団体のメンバーだ。そこに、煤原、ネイ、菜摘とトゥパシカウック、灰堂も加わっていた。
 特に菜摘とトゥパシカウックの2人が、女性ながら、さっさと熊や猪を解体していくのには、ハンティング団体の面々から感嘆の声が漏れていた。
 やがて解体がほぼ完了し、大鍋に投じられると、食欲的な発言をしていた者達は、急にそわそわし始める。
 何しろ、ご希望の熊鍋とぼたん鍋だ。
「運動も出来たでござるし、良い旅行になったでござるな!」
 配られたぼたん鍋の中身を口に運びながら、小鉄はご満悦だった。
『ほんっと前向きよねぇ、こーちゃんってば……』
 それを呆れたような横目で眺めた稲穂は、はあ、と溜息を吐く。
『半ば任務だったじゃないの』
 テントの下に設えられた椅子の一つに腰掛けた稲穂の手にも、今は鳥汁の入った器がある。中身を一口含めば、その“半ば任務”で疲れた身体に、じんわりと優しい温かみが広がった。
 ふと上げた線の先には、赤くなり始めた空をバックにした紅葉がある。
『……ま、紅葉も綺麗だし、良しとしましょうか』
 苦笑に近い微笑を浮かべた稲穂は、誰にともなく小さく呟いた。
 その横で、同じようにテントの下に腰掛けた灰堂は、ニウェウスに熊鍋の中身が注がれた器を差し出す。
「当初の予定とは大分異なりましたが……ニウェウスさんにはお楽しみ頂けたでしょうか?」
 恐る恐ると言った様子で訊ねる灰堂から、器を受け取ったニウェウスは、中身を啜りながら、「ん……」と首肯する。
「何だかんだで楽しかったよ。有り難う……」
 美味しいね、と笑い掛けると、灰堂もどこかぎこちなく、本当にごく微かに唇の端を吊り上げた。
 笑顔が明らかに引き攣ってるなぁ、と思ったその感想を、焼き肉ブースから取って来た肉をやはりテント下で頬張りながら、ビシュタは賢明にも口には出さなかった。

 一方、大鍋の傍で、立ったまま熊汁を一口啜ったネイは、一瞬目を見開き、それからガツガツと無言で中身を掻き込んで行く。
 ウルサリも右へ倣えで同じように熊汁を掻き込んでいる。共食いになるのはどうやら気にならないらしい。
「熊肉も猪肉も、煮込んだ方が癖が気にならなくて美味いね」
 同様に、猪汁を口に含んだ一は、誰にともなく言いながら、静かに咀嚼していく。
 そこからやや離れた所から、『はぁ~い、煤原ちゃん♪ あーん』という声が聞こえた。一が振り向くと、その視線の先では、焼き肉ブースで取った肉を、ヴラドが煤原の口元へ持って行って食べさせようとしている。
『イーッパイ食べてちょーだい♪』
 焼けた肉を口の前に待機された煤原の方は、しどろもどろだ。
「い、いえ、あの、食べますが、その……」
『んん、なぁに?』
「じ、自分で食べられますからッ……」
『あらっ、いーのよぉ、遠慮しなくってぇ♪』
 ホラ、あ~ん、と続くそれを止めてくれそうな者は、この場にはいなかった。
 すぐ傍にいた佩芳は、自分の世界に籠もって焼き肉に舌鼓を打ち、彼女の相棒は、肉に手を出すでもなくどこかへ腰掛けるでもなくその場に佇んでいる。
 一も、煤原を困らせているのは自身の相棒でありながら、無関係を装うように猪汁を味わうのに精を出した。

 すっかり夕闇の帳が降りた駐車場に、『残ったお肉は、幻想蝶でお持ち帰りよ~~♪』と後片付けの音頭を取るヴラドの声が響いたのは、数時間後のことだった。
 祭りの後始末をするエージェント達の中で、「ポイ捨て厳禁。ゴミは持ち帰る!」と小さく呟きながら、手にしたダストスポットにゴミその他を放り込んでいたのが佐千子だったというのは、また別の話である。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
    機械|27才|男性|命中
  • 不射の射
    ストレイドaa0212hero001
    英雄|32才|?|ジャ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
    人間|19才|女性|攻撃
  • エージェント
    ディオ=カマルaa0437hero001
    英雄|24才|男性|ドレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • 花弁の様な『剣』
    aa1428hero002
    英雄|22才|女性|カオ
  • 魔の単眼を穿つ者
    繰耶 一aa2162
    人間|24才|女性|回避
  • 朝焼けヒーローズ
    ヴラド・アルハーティaa2162hero002
    英雄|40才|男性|ブレ
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • エージェント
    胡 佩芳aa4503
    人間|20才|女性|生命
  • エージェント
    悪魔蠕虫(クモ/ムカデ)aa4503hero001
    英雄|18才|女性|カオ
  • エージェント
    ビシュタ・ベリーaa4516
    人間|21才|女性|回避
  • エージェント
    ウルサリaa4516hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • エージェント
    犬養 菜摘aa4561
    人間|22才|女性|命中
  • エージェント
    トゥパシカウックaa4561hero002
    英雄|16才|女性|シャド
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